説明

回転式歯牙結紮カバーを備えている歯列矯正ブラケット

【課題】本発明は自己結紮式の歯列矯正ブラケットの設計を提示するものである。
【解決手段】自己結紮式歯列矯正ブラケットは、一実施形態によると、歯の表面に装着するための搭載基部と、搭載基部に形成されて歯列矯正用の弧状ワイヤを受容する寸法に設定された弧状ワイヤ用スロットと、弧状ワイヤ用スロットへの接近を許容する開位置と弧状ワイヤ用スロットを覆う閉位置との間で選択的に回転可能な回転式結紮カバーと、回転式結紮カバーを閉位置に保持するための1個以上のロック機能部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件開示は自己ロック式の歯列矯正ブラケットまたは歯牙結紮具を備えていない歯列矯正ブラケットに関するものである。特に、本件開示は自己結紮式の歯列矯正ブラケットであって、複数のブラケットの各々が回転式の結紮カバーを有しており、この結紮カバーの中に弧状ワイヤを保持するようにしたブラケットに関連している。
【背景技術】
【0002】
歯列矯正治療は、一般に、歯並びの悪さを矯正するための、または、歯と歯周解剖学的構造との関係の不整を矯正するための歯科的作用を含んでいる。このような不揃いや不整は不正咬合を含むが、その酷さの程度は多様である。例えば、1度級の不正咬合は、過度に歯が詰まって生えていたり、または、過度な歯隙離開(2本の隣合う歯の間の隙間)があったりするといったような歯隙不整を含む。2度級の不正咬合は、上前歯が下前歯の上に唇のように被さる被蓋咬合状態を含む。これに比べて、3度級の不正咬合は、下前歯が舌の側に近づいている受け口の症状を含む。上述のような不正咬合とそれ以外によく見られる不正咬合の治療としては、通例、歯を正しい歯列整合に整復する固定装置または機械的支持具を取付ける方法がある。
【0003】
固定装置としては、一般に、歯の唇側面または下側面に取付ける構成の歯列矯正ブラケットや、歯の周囲に固着された金属バンドに取付ける構成の歯列矯正ブラケットなどが挙げられる。ブラケットには、通例、可撓性に富んで尚且つ弾性も有する弧状ワイヤを内側に嵌め込む弧状ワイヤ用スロットが設けられている。通常、ブラケットは各々が歯の表面に接着されて、ブラケットの弧状ワイヤ用スロットが弧状ワイヤと係合状態になる配向に設定されている。ブラケットの配向を行うのに多様な技術が利用される。例えば、エッジワイズ装置は複数の固定装置を備えており、固定装置の各々の歯に対する配向と接合は、弧状ワイヤ用スロットが歯根の長軸線に直交するように設定される。これに代わる例として、直線状ワイヤ装置が複数の固定装置を備えており、固定装置の各々の歯に対する配向と接合は、弧状ワイヤ用スロットが咬合面(上下の歯が咬みあう複数の面から成る平面)に直交するように設定される。
【0004】
弧状ワイヤは、通例、断面形状が矩形または円形である湾曲した金属ワイヤで、ブラケットと係合する前に事前に屈曲または捻転させられる。弧状ワイヤがブラケットに及ぼす形状記憶力または形状回復力は、所望の整合状態に歯を移動させるように作用する。歯列矯正治療の期間全体に亘り、歯科矯正医は弧状ワイヤの形状を周期的に調節し(弾性バンドなどのような他の取付部材の形状も同様に調節し)、正しい歯列整合を達成する。
【0005】
現在使用されている大半のブラケットは蝶結び形状部を組込んでおり、これらが上下方向に歯肉咬合配向で突出するとともに、歯牙結紮具すなわち結紮モジュールを使用して弧状ワイヤ用スロットの内側に弧状ワイヤを保持することを必要とする。これら結紮具すなわち結紮モジュールは、通例、ドーナッツ型の弾性リングまたはワイヤであり、これらリングまたはワイヤが蝶結び形状部の周囲に張巡らされ、または、蝶結び形状部の周囲に巻きつけられる。
【0006】
このような結紮具または結紮モジュールを使用することで多数の固有の利点が生じ、そのような利点のうちのいくつかをここに言及する。小型の結紮具または結紮モジュールは弧状ワイヤの取付けにかなりの時間を必要とする。歯科矯正医は、通例、歯列矯正治療中に弧状ワイヤを何度も調節することになるため、結紮具または結紮モジュールも何度も取外しては元の場所に戻すことを繰返すことになる場合が多い。結紮具または結紮モジュールは食べかすが詰まる領域が増えるせいで、衛生面でまた別な問題となる。更に、結紮具または結紮モジュールは、咀嚼またはそれ以外の食事活動のせいで動いてしまうと、完全に脱落状態となって弧状ワイヤを弧状ワイヤ用スロットから離脱させてしまう恐れがある。
【0007】
結紮具または結紮モジュールはまた、ブラケットに及ぼされる力に関して上記とはまた別な制約を与える。例えば、歯に付与されて、ブラケットを歯の唇側面に接合させている唇側方向の力すなわち外向きの力は、結紮具または結紮モジュールの唇側方向の力に限定される。この同じ歯について、舌側方向に付与される力はそのようには強制されていない(というのも、この力は結紮具または結紮モジュールに付与されるのではなく、ブラケット構造体に加えられるからである)。
【0008】
従来のブラケットシステムは、一般に、ブラケットの蝶結び形状部の周囲に巻きつけられるエラストマーまたはワイヤの歯牙結紮具を利用して弧状ワイヤ用スロットの中に弧状ワイヤを保持する能動結紮術に依存していた。弧状ワイヤを最も堅固に保持うる2つの領域はブラケットの正中端および遠位端であり、ここの部位で、エラストマー結紮具またはワイヤ結紮具は弧状ワイヤと接触し、弧状ワイヤを縛っている。このように縛りつけることで、歯列矯正中の歯の移動中に摩擦を生じ、その結果として、治療中に一線に並ばせて徐々に移すための歯の移動に必要な力を増大させている。
【0009】
これと比較して、歯を整復するために使われる力が歯を支持している歯周組織および顔面筋肉系に打ち勝つことのないようにするべきであるとの原理に依存した、受動的自己結紮(いわゆる、摩擦を利用しない)ブラケットシステム、または、従来の結紮具または結紮モジュールを必要としないブラケットシステムが開発されている。代わりに、加えられる力は細胞活動を刺激するのに丁度十分な大きさの水準まで極小化されねばならず、従って、歯周組織への血液供給を不必要に妨げることなく歯の移動を刺激するのに丁度十分な大きさの水準まで極小化されなければならない。
【0010】
幾つかの自己ロック式または自己結紮式(結紮具を備えていない)歯列矯正ブラケットが設計されている。しかしながら、これらの大半は設計が複雑であり、ひどく高額につく機械加工処理を必要とする機能を組込むか、または、通の別個の部品が設けられることになり、延いては、そのようなブラケットの不全形態の数も増大する。これら以外の設計は、不良品質、不良設計、利用できる機能が欠けていること、使用するのが困難、または、それ以外の理由から市場から排除されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、自己結紮能力を組込んでいるとともに、目下入手可能なブラケットとは異なる様式を提案している歯列矯正ブラケットが必要である。
【0012】
本発明の上記目的、特徴、および、利点と、それ以外の目的、特徴、および、利点は、添付の図面と関連づけて読めば、本発明の後段の詳細な説明を思量することでより一層容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による自己結紮式歯列矯正ブラケットを例示した等尺図である。
【図2】本発明の一実施形態による自己結紮歯列矯正ブラケットがブラケット基部、回転式結紮カバー、および、保持ピンを備えているのを例示した展開等尺図である。
【図3】自己結紮式歯列矯正ブラケットが弧状ワイヤと係合しているのを具体的に例示した正面図である。
【図4】本発明の一実施形態による自己結紮式歯列矯正ブラケットの回転式結紮カバーが閉位置にあるのを例示した断面図である。
【図5A】本発明の多様な実施形態によるブラケット基部に取付けられた回転式結紮カバーが閉位置にあるのを例示した断面図である。
【図5B】本発明の多様な実施形態によるブラケット基部に取付けられた回転式結紮カバーが一部開位置にあるのを例示した断面図である。
【図6】本発明の一実施形態による回転式結紮カバーを備えている自己結紮式歯列矯正ブラケットが一部開位置にあるのを例示した頂面図である。
【図7】本発明の一実施形態による回転式結紮カバーを備えている自己結紮式歯列矯正ブラケットが開位置にあって、ブラケット基部の内側の弧状ワイヤ用スロットを露出しているのを例示した頂面図である。
【図8】本発明の代替の実施形態による回転式結紮カバーを例示した頂面図である。
【図9】本発明のまた別な代替の実施形態による回転式結紮カバーを例示した頂面図である。
【図10】本発明の代替の実施形態による回転式結紮カバーを備えている自己結紮式歯列矯正ブラケットが閉位置にあるのを例示した断面図である。
【図11】本発明のまた別な代替の実施形態による回転式結紮カバーを備えている自己結紮式歯列矯正ブラケットが閉位置にあるのを例示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明をより完全に理解するのを補佐するために、添付の図面は本発明の具体的な実施形態を例示している。しかしながら、図面は本発明の範囲を制限するものではない。図面を通して同一参照番号は類似する構成要素を指している。
【0015】
後段の詳細な説明では、本発明を十分に理解できるようにするために多数の特定の詳細が明示される。しかしながら、そのような特定の詳細を提示されなくても本発明を実施することができること、また、本発明は図示された実施形態に限定されないこと、更にまた、本発明は多様な代替の実施形態で実施することができることを当業者なら理解するだろう。それ以外の実施形態においては、周知の方法、周知の処置、周知の構成部材、および、周知のシステムは詳細には説明していない。
【0016】
本発明を理解するのに有用な態様で実施される多数の別個の工程として、多様な動作を説明してゆく。しかしながら、説明の順序は、上述の動作が必ず提示されたどおりの順番で実施されること、または、順序に依存して実施されることを意味するものと解釈されるべきではない。
【0017】
ここで幾つかの図面を参照すると、図1は本発明の一実施形態による自己結紮式歯列矯正ブラケット100の等尺図を例示している。自己結紮式歯列矯正ブラケットは、歯の面に取付けるための搭載基部105と、搭載基部105の上に形成されて歯列矯正弧状ワイヤ(図示せず)を受容するのに適した寸法に設定された弧状ワイヤ用スロット110と、弧状ワイヤ用スロット110の内側に歯列矯正弧状ワイヤを維持するための回転式結紮カバー115(閉位置に例示されている)とを備えている。後段により詳細に論じることになるが、回転式結紮カバー115は、一実施形態においては、プレート(図示のような)を備えており、このプレートは、偏心様式に位置決めされた維持ピン120などのような軸部材を中心として回転することができ、すなわち、ブラケット100の一方側に設置されるとともに旋回軸線の配向を弧状ワイヤ用スロット110に直交させ尚且つ歯の表面とそこに接合された搭載基部105に実質的に垂直になるよう設定した旋回点を中心として回転することができる。回転式結紮カバー115は、それを閉位置に維持することにより弧状ワイヤ用スロット110の内側に歯列矯正弧状ワイヤを保持するための、1個以上の共平面弾性維持機能部(すなわち、ロック機構)125を備えているのが好ましい。
【0018】
図1に例示されているように、回転式結紮カバー115の1個以上の共平面弾性維持機能部125には複数の弾性部が設けられており、これら弾性部は、同一平面上で偏向を行うことができるように形成されているとともに、この共平面偏向の後で回転式結紮カバー115の1個以上の突出面をこれらに対応する1個以上の窪み130に嵌着固定するのに好適なように形成されている。ここでは、弾性維持機能部125は内向きに偏向して維持ピン120の軸線に向かうことで回転式結紮カバー115の1個以上の突出面(または、ロックタブ)とこれらと対応して互いに組になる1個以上の窪み130との間にロック式固定可能な係合を達成するように設計されている。このような構成では、弾性維持機能部125は回転式結紮カバー115と同一平面を設ける方向に偏向して組になる窪み130と嵌合する。その結果、弧状スロット110の内側に保持されている弧状ワイヤが移動したせいで生じる恐れがあるような、回転式結紮カバー115に垂直に及ぼされるような力(すなわち、唇側から舌側に向かう方向の力)が、弧状ワイヤ用スロット110の内側に弧状ワイヤを維持することに影響を与える可能性は無くなる。従って、自己結紮式歯列矯正ブラケット100は他のブラケット設計に比べて弧状ワイヤをより堅固に維持する。
【0019】
図1にも例示されているように、自己結紮式歯列矯正ブラケット100には、回転式結紮カバー115の外側面機能部145などのような1個以上の歯列矯正具機能部が設けられている。外側面機能部145は突出した隆起部(図示のような)でもよいし、窪んだ溝(図示せず)でもよいし、円形陥凹領域であってもよいし、または、ブラケット100をより容易に使用することができるようにする多数の好適な形状および構成のうちのいずれであってもよい。例えば、探針またはスケーラーなどのような歯列矯正具は外側面機能部145と併用することで回転式結紮カバー115を回転自在に開閉して、弧状ワイヤ用スロット110の露出と被覆をそれぞれ行うことができる。同様に、プライヤーまたはそれ以外の歯列矯正具が外側面機能部145と(大抵は、ブラケット100の一方側と一緒に)併用されることで、回転式結紮カバー115を閉じることができる。更に、外側面機能部145は単独で、または、維持ピン120およびブラケット100のそれ以外の可視面と協働してブラケット100に中央線を設けるのが好ましいが、このような中央線は患者の歯にブラケット100を設置する際に歯科矯正医を補佐するのに役立つ。
【0020】
自己結紮式歯列矯正ブラケット100には、丸味付けした端縁部と弧状ワイヤ用の面取り加工したスロット端部150が設けられて、歯列矯正用装着具を着用している患者の快適感を向上させるようにするのが好ましい。図示のように、また、本件実施形態の大半について詳述されることになるが、回転式結紮カバー115、維持ピン120の外部円錐台ヘッド形状部、および、搭載基部105の反対側に位置するブラケット100の外側面の輪郭を画定することができる上記以外の各種機能部は平滑かつ丸味付けされた形状を呈して、患者の快適感を向上させるとともに、ブラケット100の全体的側部断面形状を最小限にする、すなわち、搭載基部105の接合面から外方向に突出するブラケット100の寸法を最小限にするのが好ましい。1個以上の窪み130の外側面と、それら外側面相互の間に位置して外側面に隣接している端縁部160とは回転式結紮カバー115の外側面と共平面関係にあって同一平面上に位置し、特に、1個以上の弾性維持機能部125の外側面と、それら外側面相互の間に位置して外側面に隣接している外側面、すなわち、隣り合う外側面と共平面関係にあって同一平面上に位置しているのが好ましい。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態による自己結紮式歯列矯正ブラケット200がブラケット基部205、回転式結紮カバー210、および、維持ピン215を備えている展開等尺図を例示している。図示のように、回転式結紮カバー210は維持ピン215を利用してブラケット基部205に回転自在に固定することができるが、維持ピン215は、回転式カバー210に設けられた穴220に挿通されるとともに、これと対応して、弧状ワイヤ用スロット235の一方側に形成された蝶結び形状部230に設けられた穴225でジャーナル軸受式に支持されている。ブラケット基部205の外側面240は、歯への搭載面245とは反対側に位置し、この外側面240上で、ブラケット基部205に固定された回転式結紮カバー210が回動することができるが、外側面240は蝶結び形状部230の外側対向面領域の実質的に全面を包含しているのが好ましく、また、回転式結紮カバー210の回転軸線250が外側面240を通って延びている。これと対向している、弧状ワイヤ用スロット235の反対側に位置している蝶結び形状部260の共平面部255は回転式結紮カバー210の底面を受容し、回転式結紮カバー210が、閉位置にくると弧状ワイヤ用スロット235の実質的に全長を被覆するよう図っている。
【0022】
更に詳細に説明すると、外側面240は互いに同心円状の陥凹部265、270を組入れて、ブラケット200の非対称性が原因で回転式結紮カバー210が回転するのを制約するのが好ましい。例えば、ブラケットの外側面から歯への搭載面245の方向を見た場合(すなわち、正面から見た場合)に全体的形状が偏菱形すなわち平行四辺形であるブラケット200については、回転式結紮カバー210はその中心線、すなわち、貫通孔220(図示のような)および外側面機能部275によって画定される中心線について対称的である必要はない。このような非対称的な回転式結紮カバー210については、円形陥凹部265を、ロックタブ280をこれと組になる切通し部または窪み285と協働的に嵌合させることと組合わせて利用することで、回転軸線250を中心として回転式結紮カバー210を時計方向に回転させると回転式結紮カバー210を閉位置に着かせることができるようになるが、これは、ブラケット200の外側面から歯への取付面245の方向を見た場合の視覚説明の通りである。一連の視覚説明で例示されるが、回転式結紮カバー210は、その底面に突出コブを組入れており、この突出コブが相互に同心円形状の陥凹部265、270の内部の経路を辿る。
【0023】
図2に例示されている実施形態においては、回転式結紮カバー210を時計方向に回転させて、最終的に、ロックタブ280が蝶結び形状部260に形成されてロックタブと協働的に組になる窪み285と嵌合し、更にまた、突出コブ(図示せず)が円形陥凹部265の端部(または、円形陥凹部の端部を越えた直ぐ先)に達するまで回転を続けることにより、回転式結紮カバー210が弧状ワイヤ用スロット235を被覆するように閉じた状態にされる。回転式結紮カバー210は反時計方向に回転させることにより開いて、弧状ワイヤ用スロット235を露出させることができるが、これにより、突出コブがまず先に円形陥凹部265の内側を移動してから円形陥凹部270の内側を移動し、最終的には弧状ワイヤ用スロット235を完全に露出させる。
【0024】
次に、図3は自己結紮式歯列矯正ブラケット300が弧状ワイヤ310と係合している具体的な正面図を例示している。ブラケット300は、ブラケットシステムの典型例の一部として歯の唇側(正面側)の面に取付けられる。これに代わる例として、ブラケット300は、ブラケットシステムの下側すなわち「隠れている側」の一部として歯の表面の舌側(裏側)に取付けられる。更に説明すると、ブラケット300の正面側の側部断面形状は特定の歯の面上で使用するのに好適な設計にされる。例えば、ブラケット300は、上中切歯、下中切歯、側切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯などのような特定の歯に接合するのに適した特定の偏菱形すなわち平行四辺形の側部断面形状を呈するように設計されるとよい。
【0025】
弧状ワイヤ310が歯の咬合面(切歯端点または切端点)に平行に近親側−遠心側配向で延びるように、弧状ワイヤ310は自己結紮式ブラケット300の内側に維持される。ブラケット300を利用してこれ以外の配向を採用することもできる。しかしながら、このような配向は、歯冠角および歯冠傾斜が工作によりブラケット300に取り込まれた直線状ワイヤ装着具(すなわち、ロス装着具)に特有であるが、これにより、直線状の弧状ワイヤすなわち個々の歯の切端点に平行な弧状ワイヤ(歯が正しい歯列矯正学的整合状態にある場合)を使用することができるようになる。歯冠角とは、一般に、歯肉咬合に対する近親側−遠心側配向のことであり、弧状ワイヤ用スロットの近親側−遠心側配向(または、スロット傾斜角)の影響を受ける。歯冠傾斜は、一般に、歯肉咬合に対する唇側−舌側配向のことであり、近親側−遠心側軸(または、弧状ワイヤ軸線)に沿った弧状ワイヤ用スロットの回転配向(すなわち、スロットのトルク)の影響を受ける。
【0026】
図3に例示されているブラケット300は工作加工されたスロット傾斜角320が設けられており、この角度はブラケット300の中心線325と弧状ワイヤ310に平行である近親側−遠心側線に直交する線との間で片寄せされた角度である。歯列矯正の実技では、ブラケット300の中心線325が歯の臨床歯冠の歯肉咬合軸線(すなわち、長軸線)と整列状態になるようにブラケット300が歯の面に接合されるとよい。
【0027】
直線状ワイヤ装着具は、通例、個別に工作加工された複数のブラケットの各々に特定の1本の歯ごとの所望の歯冠傾斜(スロットのトルク)と歯冠角が設けられているが、これ以外の技術であって、異なる配向を必要とするものを採用してもよい。例えば、標準的なエッジワイズ装着具は、通例、複数のブラケットを備えており、ブラケットは側部断面形状が矩形で、その配向は、ブラケットの中心線が臨床歯冠の歯肉咬合軸線(すなわち、長軸線)に沿って整列状態になるとともに弧状ワイヤ用スロットに直交するように設定されている。通例、標準的なエッジワイズ装着具のブラケットには弧状ワイヤ用スロットが設けられており、これらスロットは歯の切端点に平行ではない(歯が正しい歯列矯正学的整合状態にある場合)。平行ではない代わりに、弧状ワイヤは角度付けされ、屈曲され、更に、捻転されて、歯の所望位置を規定するようにしてもよい。
【0028】
歯列矯正治療で広く実施されているように、ブラケットは処方に従って特定患者用に製造される。ブラケットは、特定の患者ごとに個々の歯ごとに適切なスロットのトルクとスロット傾斜角を設けるように工作加工されるとよい。例えば、特殊工作加工されたブラケットは、正中から上左大臼歯に向かって遠位方向に順に上左中切歯、上左側切歯、上左犬歯など(個々の歯を示すのにパルマーの表記法を採用)ごとに製作することができる。通例、ブラケットは各々が、必要に応じて、特定のスロットトルクおよび特定のスロット傾斜角は元より、それ以外の各種機能を組入れている。例えば、上左犬歯のブラケットには、多分、9度のスロット傾斜角320が設けられ、更に、歯列矯正装着具の弾性部材またはそれ以外の機能部と併用するのに適したボール鉤330を備えている。
【0029】
更に図3を参照すると、ブラケット300の搭載基部315は、特定の歯の表面に適合する寸法に設定されているとよい。例えば、搭載基部315は、歯の表面の形状に一致するように、歯の切端点の位置では他所よりも幅を広くするとよい。ブラケット300は歯の表面に接合されてもよいし、または、その代わりとして、歯に取付けられているバンド集成体に接合されてもよい。ブラケット300の配向は、歯の表面の切端点に最も近接した位置(および、歯肉端点の反対側)にある弧状ワイヤ用スロットの側で蝶結び形状部に設置された軸線部材340を中心として回転式結紮カバー335が旋回するように設定される。しかしながら、ブラケットはそれと正反対の配向で、弧状ワイヤ用スロットの歯肉側の蝶結び形状部に設置された軸線部材340を中心として旋回するような配向に設定されるとよい。
【0030】
図3に例示されている特定のブラケット300については、回転式結紮カバー335はブラケット300の偏菱形すなわち平行四辺形の全体形状に倣っており、その中央線325に関して対称的ではない。突出コブまたは回転制止部材345が回転式結紮カバー335の底面に形成されており、回転式結紮カバー335は、軸線部材340を中心として旋回した際に、相互に同心円状の陥凹部350、355の内側の経路を辿るように設計されている。例えば、回転式結紮カバー335が図示の閉位置から反時計方向に回転させられると、回転制止部材345が滑動して第1円形陥凹部350に入って経路を辿り、回転式結紮カバーが更に回転するにつれて、回転制止部材は第2円形陥凹部355の内側の経路を自由に辿る。同様に、回転式結紮カバー335が時計方向(すなわち、閉位置方向)に回転させられると、回転制止部材345が第2円形陥凹部355の内側の経路を自由に辿ってから、第2の円形陥凹部350の内側の経路を辿り、最終的には、第1円形陥凹部350の端部を少しだけ越えた先まで移動する。
【0031】
回転式結紮カバー335が軸線部材340を中心として時計方向に回転すると、ロックタブ365が協働して組になる切通し部(または、窪み)370に嵌合するまで、弾性維持機能部(または、弾性維持機構)360が内向きに偏向して軸線部材340の方に向かう。図示の実施形態では、弾性維持機能部360は回転式結紮カバー335の内側の共平面フィンガーに似ているが、緩衝路375のおかげで、ロックタブ365に隣接している弾性維持機能部360の少なくとも一部が屈曲することができるようになる。
【0032】
分かるように、一実施形態では、相互に同心円状の陥凹部350、355とこれに付随する回転制止部材345の配向を逆にして、回転式結紮カバー335が時計方向に回転すると開き、反時計方向に回転すると閉じるようにしてもよい。同様に、或る実施形態ではロックタブ365およびこれらに対応する窪み370の位置を逆にして、それで尚且つ、意図した機能を果たすようにしてもよい。ブラケット300はその1個以上のロックタブ(ロックタブ365など)が回転式結紮カバー335と共平面関係に整合するとともに、回転式結紮カバーに設けられた切通し部と協働して組になる態様で嵌合する。換言すると、1個以上のロックタブはブラケット基部に形成され、また、ロックタブと協働して組になる切通し部が回転式結紮カバーに形成され、結紮カバーが閉位置にくると切通し部にロックタブが嵌合する。
【0033】
次に、図4は、本発明の一実施形態による自己結紮式歯列矯正ブラケット400の回転式結紮カバー405が閉位置にある断面図(図3の中心線325に沿って破断したような)を例示している。ブラケット400は搭載基部410、および、搭載基部に形成されてそこから離れる方向へ外向きに延びている1対の蝶結び形状部415、420を備えており、これら蝶結び形状部の間に弧状ワイヤ用スロット425を画定している。弧状ワイヤ用スロット425は歯列矯正用弧状ワイヤ430を受容するのに適した寸法に設定されており、回転式結紮カバー405は弧状ワイヤ用スロット425の内側に弧状ワイヤ430を堅固に維持する閉位置と弧状ワイヤ用スロット420に接近することができるようにする開位置との間で選択的に回転自在である。回転式結紮カバー405は、例えば蝶結び形状部420のうちの一方のような位置でブラケット400の一方側に設置された維持ピン435などのような軸線部材を中心として回転することができる。図示された維持ピン435は、回転式結紮カバー405の外側面を覆って延びている円錐台ヘッド形状部と、蝶結び形状部420の受け穴または陥凹領域にジャーナル軸受式に支持された、または、そこに固着自在に取付けられた下部とを組入れている。図示のように、維持ピン435は蝶結び形状部420に設けられた受け穴に挿入される、径が小さくなった部分と、回転式結紮カバー405が滑動自在に回動する際の回転中心となる、径が大きくなった部分とを寸法設定するとよい。径が小さくなった部分は、本発明の一実施形態によれば、回転式結紮カバー405をブラケットに対して維持するプレス嵌め動作を行えるようにし、維持ピン(または、ドエルピン)435の径が小さくなった部分は蝶結び形状部420に設けられた受け穴に強制的に圧入される。しかしながら、これ以外の構成が採用されてもよい。例えば、1つの同じ径にされた維持ピンを使用し、その場合は恐らく、精度固定具を併用して、回転式結紮カバーが維持ピンを中心として自由に回転することができるように確保するとよい。
【0034】
この1対の蝶結び形状部(参照番号415、420として例示されているような)は、一般に、弧状ワイヤ用スロット425に対して横断方向に延びて、一方の蝶結び形状部(すなわち、415)は弧状ワイヤ用スロット425から歯肉方向に延び、他方の蝶結び形状部(すなわち、420)は弧状ワイヤ用スロット425から咬合方向に延びている。蝶結び形状部415、420は、蝶結び形状部を要件としている標準的なエラストマー結紮具またはそれ以外の取付具を使用するのが望ましい応用例において、歯列矯正医に更なる有用性と柔軟性を供与する。標準的なエラストマー結紮具を使用することで、弧状ワイヤとエラストマー結紮具との間に摩擦を生じる。弧状ワイヤ430との間の摩擦、すなわち、弧状ワイヤとの能動的係合により、ブラケット400に接合される歯の表面440に更に力を付与することができるようになる。例えば、弧状ワイヤ430との能動係合を利用して、近親側−遠心側軸線(または、弧状ワイヤの軸線)に沿って歯を移動させることができる(隣接し合う歯と歯の間の空隙を増減する結果となる)。弧状ワイヤ430との能動係合を利用して、付与される力を増大させて歯冠角(スロット傾斜角の影響を受ける)と歯冠傾斜(スロットトルクの影響を受ける)を変動させることもできる。
【0035】
これに比べて、自己結紮式ブラケット400が弧状ワイヤ430との受動係合に依存するようにしてもよい。受動係合を採用する場合、弧状ワイヤ430は弧状ワイヤ用スロットの内側に強制的に維持されることはない代わりに、弧状ワイヤ用スロット425の内側を移動することができるようにされる。このようなブラケットは受動的ブラケットシステムすなわち摩擦を利用しないブラケットシステムを備えており、従来の結紮具または結紮モジュールを必要としない。このようなシステムにおいて、弧状ワイヤ430は近親側−遠心側軸線に沿って弧状ワイヤ用スロット425の内側を自由に滑動する。
【0036】
前述のように、歯冠傾斜とは、一般に、歯の歯肉咬合に対する唇側−舌側配向のことであり、近心側−遠心側軸線に沿った弧状ワイヤ用スロット430の回転配向の影響を受ける。近心側−遠心側軸線に沿ったブラケット400の軸線方向図(すなわち、断面図)が図4に例示されている。ここでは、弧状ワイヤ用スロット425は僅かに角度付けして(すなわち、回転させられて)、その結果、弧状ワイヤ用スロット425の唇側−舌側断面側(回転式結紮カバー450に垂直な側)は歯の表面440に直交していない(すなわち、垂直ではない)。これは、スロットトルクを工作加工してブラケットに組入れた直線状ワイヤ装着具で採用されている弧状ワイヤ用スロットに特有の回転配向である。これに比べて、標準的なエッジワイズ装着具の弧状ワイヤスロットには、通例、歯の搭載面に直交する側がある。
【0037】
ここで図5A乃至図5Bを参照すると、本発明の多様な実施形態によるブラケット基部315(または、そこに設けられた蝶結び形状部500)に載置された回転式結紮カバー335が閉位置にあるとことと、部分的に開位置にあるところの断面図が例示されている。図5Aは、図3に示されている断面図を描いたものであり、回転式結紮カバー335が閉位置にあって、回転制止部材345が円形陥凹部350の端部をわずかに超えた先にあるのを例示している。回転式結紮カバー335とこれと組になる蝶結び形状部の面との間のわずかな隙間505は、回転式結紮カバー335を閉位置に維持するための付加的な維持量を供与するように作用する。例えば、回転制止部材345と蝶結び形状部500の外側面との間の摩擦力、および、回転式結紮カバー335を維持している軸線部材(図示せず)に関与している摩擦力は、回転式結紮カバー335に付随している、例えば、相互に共平面のロックタブなどのような上記以外のロック機能部を結紮カバー335の端縁面に沿って係合させることにより供与される維持力を超える付加的な維持力を供与する。
【0038】
もう1つ別な実施形態が図5Aの断面図に例示されているが、回転式結紮カバー335が閉位置に置かれ、回転制動部材345が結紮カバー335の下位表面に形成されるとともに円形陥凹部350の端部の外側または該端部を越えた先に設置されている。しかしながら、回転制止部材345は蝶結び形状部500の外側面の協働して組になる切通し部(図示せず)の内側に嵌合載置されることにより、回転式結紮カバー335を閉位置に維持することができる。
【0039】
図5Bは、回転式結紮カバー335が一部開位置にあって、回転制止部材345が円形陥凹部350の内側の経路を辿っている断面図を描いている。ここでは、回転式結紮カバー335は既に部分的開いており(反時計方向回転により)、回転制止部材345も既に円形陥凹部350の中に脱落状態にある。
【0040】
回転式結紮カバー335が更に開くにつれて(依然、反時計方向に回転を続けている)、回転制止部材345は、或る実施形態では、図6に例示されているように円形陥凹部350を外れる。また、或る実施形態により、複数のロックタブ365とそれぞれと協働して組になる複数の切通し部(すなわち、窪み)370との相対位置も図6に例示されている。回転式結紮カバー335が軸線部材340を中心として旋回しながら開くと、ロックタブ365はそれぞれの対応する窪み370から外れて、回転式結紮カバー335をより自由に回転させることができるようにする。
【0041】
図7は、図6に例示されているような一実施形態による自己結紮式の歯列矯正ブラケットの頂面図を例示しているが、図6とは異なる例外事項として、回転式結紮カバー335は開位置にあって、ブラケット基部315に形成されている弧状ワイヤ用スロット700を露出させている。ここでは、回転式結紮カバー335は既に反時計方向に回転してしまい、最終的に、弧状ワイヤ用スロット700が完全に露出状態になっている。このような回転動作工程により、回転制止部材345は円形陥凹部355の内側の経路を追従し終わっている。一実施形態においては、弧状ワイヤ用スロット700が完全に露出状態となると、回転制止部材345は円形陥凹部355(図示せず)の端部に沿って乗り上げ、回転式結紮カバー335の反時計方向回転を制止する。
【0042】
本件に記載されている自己結紮式の歯列矯正ブラケットの複数の変形例も明らかであるのが分かる。例えば、図8は、本発明の代替の実施形態による回転式結紮カバー800の頂面図を例示している。回転式結紮カバー800は複数のロックタブ810の背後に切り通された緩衝領域805を組込み、同時に、弾性維持機能部815を残存させているが、この弾性維持機能部は、回転式結紮カバーと同一平面上の方向で尚且つ回転式結紮カバーが旋回する際の回転中心となる軸線部材820に向かって内向きに偏向する。例えば、回転式結紮カバー800が回転して閉位置に達すると、弾性維持機能部815が軸線部材815の旋回軸線に直交する方向に内向きに偏向し、ロックタブ810を、これらと協働して組になる、ブラケット基部に設けられた切通し部すなわち窪み(図示せず)に嵌合させることができるようにする。
【0043】
図9は、本発明のまた別な代替の実施形態による回転式結紮カバー900の頂面図を例示している。回転式結紮カバー900は1個以上のロックタブ905を組入れており、回転式結紮カバー900が回転して閉位置に達すると、ブラケット基部に設けられて、個々のロックタブと協働して組になる切り通し部すなわち窪み(図示せず)にロックタブが嵌合する。1個以上のロックタブ905は、図示のように回転式結紮カバー900と共平面関係で整列状態となり、ブラケット基部に設けられた切り通し部と協働して組になる態様で嵌合し、更に、回転式結紮カバーと同一平面上の方向に維持力を作用させることにより回転式結紮カバーを閉位置に維持することができるのが好ましい。
【0044】
図10は、本発明の代替の実施形態による自己結紮式の歯列矯正ブラケット1000の回転式結紮カバー1005が閉位置にある断面図(図4のブラケット中心線に沿って破断した)を例示している。図4に例示されているブラケットと同様に、ブラケット1000は、歯の表面1040にブラケット1000を取付けるための搭載基部1010と、搭載基部1010に形成された1対の蝶結び形状部1015、1020とを備えており、これら1対の蝶結び形状部は搭載基部から外向きに張出しているとともに、相互の間に弧状ワイヤ用スロット1025を画定している。回転式結紮カバー1005は蝶結び形状部1020のうちの一方に回転自在に固定され、弧状ワイヤ用スロット1025とその中に設置された弧状ワイヤ1030を覆って回転自在かつ堅固に閉鎖することができる。しかしながら、回転式結紮カバー1005は、蝶結び形状部1020に形成されているブッシュ1045に嵌合する維持ピン1035を利用して、回転自在に固定することができる。維持ピン1035は、ブッシュ1045の外側面と、ブッシュ1045から外方向に張出している回転式結紮カバー1005の外側面の一部とに重なることにより回転式結紮カバー1005を維持することができる円錐台ヘッド形状部またはこれに類似するヘッド構造部が設けられた固定部材であれば、どのようなものでもよい。一実施形態において、維持ピン1035には、ブッシュ1045の内側で維持ピン1035の緩衝嵌めと維持力を向上させるための1個以上の軸線方向隆起部1050と、ブッシュ1045の下でブラケット搭載基部1010に向けて延びている穴または陥凹部とが設けられている。
【0045】
図11は、本発明のまた別な代替の実施形態による自己結紮式の歯列矯正ブラケット1100の回転式結紮カバー1105が閉位置にある断面図(図4のブラケット中心線に沿って破断された)を例示している。図4に例示されているブラケットと同様に、ブラケット1100は、歯の表面1140にブラケット1100を取付けるための搭載基部1110と、搭載基部1110に形成されている1対の蝶結び形状部1115、1120とを備えており、これら1対の蝶結び形状部は搭載基部から外方向に張出しているとともに、相互の間に弧状ワイヤ用スロット1125を画定している。回転式結紮カバー1105は蝶結び形状部1120のうちの一方に回転自在に固定されており、弧状ワイヤ用スロット1125とそこに設置された弧状ワイヤ1130とを覆って回転自在かつ堅固に閉鎖することができる。しかしながら、回転式結紮カバー1105は鋲部材1135を中心として回転自在に固定されてもよく、この鋲部材は蝶結び形状部1120に形成されているとともに、回転式結紮カバー1105を維持するように鋳造されている(または、キノコ状に突出形成されている)。図11は、鋳造作業前の断面図を例示している。鋳造作業中、鋲部材1135を含む部材のうち幾つかがブラケット搭載基部1110に向けて内向きで尚且つ鋲部材1135から放射方向外向きに転置させられて、鋲部材1135に直ぐ隣接している回転式結紮カバー1005の外側面の環状部1145に重なる。鋳造作業を容易にするとともに回転式結紮カバー1105の環状部1145の重畳部の反復性と整合性を向上させるために、円錐状陥凹部1150のような陥凹部は鋲部材1135(図示のような)の外側対向面に形成されるとよい。同様に、上記以外の罫線または陥凹領域も必要に応じて設けられてもよいが、必要か否かは、ブラケット1100に適した特定の鋳造プロセスおよび特に選択された素材で決まる。
【0046】
本件記載の自己結紮式の歯列矯正ブラケットは、歯列矯正装着具における使用に適した広範な素材のうちのいずれかから構成されているとよい。このような素材は、通例、各種可塑材、セラミックス、ステンレス鋼、チタン、またはそれ以外の合金類から構成される。ブラケットは、耐蝕特性を有している生体適合性素材を含んでいるのが好ましく、また、ブラケットは、例示した各種構造体に成形されて、しかも、一般に使用されている歯列矯正用弧状ワイヤまたは歯列矯正装具のそれ以外の各種構成部材を維持するのに好適な強度特性を保つことができる素材を含んでいるのが好ましい。
【0047】
ニッケルは、歯列矯正学上の接触皮膚炎に関与する最もありふれた金属である。近年の統計が暗示するところによると、恐らく、患者の10%がニッケル過敏である。それにも関わらず、ニッケル・チタンのようなニッケル含有合金およびステンレス鋼は、歯列矯正装着具で広く使用されている。ニッケル・チタン合金のニッケル含有量は50%を超えていることがあり、また潜在的に、アレルギー反応の発現を誘発するのに十分なニッケルを口腔環境内に放出する恐れがある。ステンレス鋼のニッケル含有量は遥かに低く、恐らく8%ぐらいであるが、ニッケルはステンレス鋼内の結晶格子に結合されているせいで、反応が出にくい。その結果、ステンレス鋼の歯列矯正用構成部材はニッケル過敏症を引起しにくい。
【0048】
しかしながら、特定患者のニッケル過敏度に関して確証が得られないままであるため、ニッケル過敏症を完全に回避するのに、ニッケルを含有していない歯列矯正ブラケットを供与するのが望ましい。よって、本件記載の自己結紮式の歯列矯正ブラケットは、ニッケルを含有しない素材から構成されているのが好ましい。一実施形態においては、ブラケットはニッケルを含有していないコバルト・クロミウム合金を含んでいる。
【0049】
本件記載の自己結紮式の歯列矯正ブラケットを製造するのに、幾つかの方法を利用することができる。例えば、ブラケットは鋳造されてもよいし、機械加工されてもよいし、射出成形されてもよい。各種可塑材の射出成形はセラミック射出成形(CIM)または金属射出成形(MIM)として採用されるとよいが、いずれにするかは選択される素材できまる。ブラケットは、成形回転式結紮カバーと連結された成形基部を備えており、成形基部はカバーをブラケットに支持固定させるように鋳造されてもよいし、或いは、ブラケットは、成形回転式結紮カバーに連結された成形基部を備えており、結紮カバーはブラケットにプレス嵌めされた別個の軸線部材を利用してブラケットに固定されているようにしてもよい。例えば、ブラケットは成形ブラケット本体部と成形回転式結紮カバーの集成体から構成されており、回転式結紮カバーは鋳造作業後にブラケット本体部の蝶結び形状部に保持されるとよく、ブラケット本体部から突出している鋲部材がキノコ状に突出形成され、または、鋳造されて、そこに圧接した状態で回転式結紮カバーを保持する。ボール鉤、または、それ以外の各種構成部材はブラケット集成体に溶接されてもよいし、または、ブラケット本体部の一部として形成されてもよい(すなわち、成形ブラケット本体部の一部として成形されてもよい)。
【0050】
本明細書前段までで使用されてきた用語および表現は、本件では、説明用語として使用されているのであって、制限するものとして使用されてはおらず、そのような用語および表現を使用するにあたり、図示して説明してきた各種特徴部分の均等物またはその一部を排除する意図は無く、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定および制限されるものと認識するべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己結紮式の歯列矯正ブラケットは、
a)歯の表面に装着するための搭載基部と、
b)前記搭載基部に形成されて歯列矯正用の弧状ワイヤを受容する寸法に設定された弧状ワイヤ用スロットと、
c)前記弧状ワイヤ用スロットへの接近を許容する開位置と弧状ワイヤ用スロットを覆う閉位置との間の回転面の間で選択的に回転可能である回転式結紮カバーであり、該回転式結紮カバー前記歯の表面に直交し、前記回転面を横切るように方向決めされた軸線を中心に回転可能であり、
d)回転式結紮カバーを閉位置に保持するために回転式結紮カバーに配置された1個以上のロックタブであって、前記1個以上のロックタブは回転式結紮カバーと前記回転面と共平面関係に整合されるとともに、前記回転式結紮カバーが前記閉位置にあるとき前記1個以上のロックタブは前記軸線から前記弧状ワイヤ用スロットを横切るように方向決めされており、
e)前記1個以上のロックタブは、前記軸線の方向の内向きに撓み、前記搭載基部内の押し下げによって係合可能な突出部を有するように形成された前記回転式結紮カバーの弾性維持機能部を有している、ブラケット。
【請求項2】
前記ブラケットは、1対の蝶結び形状部を更に備えており、前記1対の蝶結び形状部は前記搭載基部から張出しているとともに、蝶結び形状部相互の間に前記弧状ワイヤ用スロットを画定していることを特徴とする、請求項1に記載のブラケット。
【請求項3】
前記回転式結紮カバーが、前記回転式結紮カバーを前記搭載基部に回転可能に固定するために前記搭載基部の穴に挿入可能な維持ピンを有する軸線部材を中心に回転可能である、請求項2に記載のブラケット。
【請求項4】
前記搭載基部に形成されたブッシュをさらに有する、請求項3に記載のブラケット。
【請求項5】
前記軸線部材が、前記搭載基部に形成され、前記回転式結紮カバーを前記搭載基部の回転可能に取り付けるように鋳造された鋲部材を有する、請求項2に記載のブラケット。
【請求項6】
前記回転式結紮カバーの弾性維持機能部が、前記ロックタブを回転軸線の方向へ撓ませるために前記ロックタブの内側に設けられた緩衝路を有する、請求項1に記載のブラケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−48920(P2013−48920A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−244708(P2012−244708)
【出願日】平成24年11月6日(2012.11.6)
【分割の表示】特願2009−509651(P2009−509651)の分割
【原出願日】平成19年4月30日(2007.4.30)
【出願人】(508328833)ワールド クラス テクノロジー コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】