説明

回転打撃工具

【課題】
部品点数を削減して低コスト化を実現したドライバドリルとして使用可能な回転打撃工具を提供する。
【解決手段】
スピンドル3と、ハンマ5と、ハンマ5によって回転力及び打撃力の与えられるアンビル7と、ハンマ5をアンビル7側に付勢するハンマ付勢スプリングと、モータ1とスピンドル3の間に所定以上の負荷トルクが作動するとモータ1からスピンドル3へのトルク伝達を不可能にするクラッチ12と、クラッチ12の作動開始トルクを調整するためのトルク調整スプリングを有する回転打撃工具において、ハンマ付勢スプリングとトルク調整スプリングを1つの共通のスプリング4で実現した。スプリング4の前方にハンマ5が位置し、後方にクラッチ12が位置し、ハンマ5がカム機構によって打撃を開始するために必要なスピンドル3のトルクが、クラッチ12が動作するスピンドル3のトルクより大きくなるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転打撃工具に関し、特に改良したクラッチ機構を有する回転打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライバドリルとしても使用可能な電動工具が、例えば特許文献1において知られている。特許文献1では電動工具をドライバドリルとして使用するために、遊星歯車機構を用いたクラッチを設けている。一方、インパクトドライバ等の回転打撃工具において、クラッチ機構を追加した製品が販売されている。このクラッチ機能を有する回転打撃工具においては、クラッチが作動する際には打撃機構が作動しないようにすることが重要である。このような従来例の構成を図5〜7を用いて説明する。
【0003】
図5は、従来のドライバドリルとしても使用可能な回転打撃工具の主要部を示す断面図である。ここで、上下及び前後方向は、図中で示した方向を指すものとして説明する。モータ101の回転力は、遊星歯車機構102を経てスピンドル103に伝達される。スピンドル103とハンマ105は、カムボール106とV字型カム溝で構成されたカム機構により連結され、ハンマ105はハンマ付勢スプリング104により常に前方に付勢される。アンビル107とハンマ105は、ハンマ凸部105aとアンビル凸部107aで回転方向に噛み合う。スピンドル103とハンマ105の間には弾性体のストッパ108が設置される。ハンマ105の後退を制限するリング109は、内側リング109aと外側リング109bにより構成され、これらは切替ノブ110により保持され、切替ノブ110と共に軸方向に移動可能である。内側リング109aと外側リング109bの間にはボール111が配置され、内側リング109aはハンマ105と共に周方向に回転可能である。
【0004】
クラッチ112は、リングギヤ113、フランジ114、トルク調整スプリング115、ナット116を含んで構成される。フランジ114の後端はリングギヤ113に接しており、リングギヤ113とフランジ114にはそれぞれ台形の凸部が形成される。フランジ114はワッシャ123を介して、トルク調整スプリング115により回転軸方向で後方(モータ1側)に付勢される。トルク調整スプリング115はナット116により保持される。ナット116の内周側にはねじ部が形成され、ケース118の外周側に形成されたねじ部と螺合する。ナット116の円周側4箇所においてダイヤル117の内周側に形成された軸方向に延びるリブと当接し、作業者がダイヤル117を回転させることによりナット116は軸方向の前方又は後方に移動し、トルク調整スプリング115の圧縮高さを調整する。
【0005】
以上の構成による回転打撃の動作について説明する。被締め付け部材からねじを介して受ける反力によりスピンドル103、ハンマ105間が相対的にねじられたとき、ハンマ105はカム機構、即ちV字形に切られたV字形カム溝の作用でハンマ付勢スプリング104を縮めながら後退を始める。ハンマ105が後退を始めてからアンビル凸部107aの高さを乗り越えると、アンビル107との噛み合いが解け、ハンマ105はハンマ付勢スプリング104により加速されながら回転・前進する。また、ハンマ105、アンビル107はそれぞれ、回転平面上の2ヶ所に対称的に配置されたハンマ凸部105a、アンビル凸部107aを持ち、ハンマ凸部105aとアンビル凸部107aは回転方向にかみ合う位置にある。この凸部同士のかみ合いにより回転打撃力が伝えられる。以上の構成により、回転打撃の動作は次のように進行する。スピンドル103の回転力はカム機構を経てハンマ105に伝わり、一緒に回転しはじめる。半回転しないうちにハンマ105、アンビル107の凸部同志がかみ合う。先端工具側から受ける反力が弱い場合はそのまま一緒に回転するが、反力が強くなるとスピンドル103、ハンマ105は相対的にねじられることになり、ハンマ105はハンマ付勢スプリング104を縮めながら後退を始める。ついには凸部の高さを乗り越えかみ合いが解ける。ハンマ105は、スピンドル103の回転力に加え、ハンマ付勢スプリング104に貯えられた弾性エネルギーによって回転方向に加速され、かつ前進を始める。ハンマ105が加速されるうちに、再び凸部同士が嵌合することになるが、このとき強力な回転打撃力がアンビル107に加えられ、被締付け部材に伝わる。そして再びハンマ105は後退を始める。ストッパ108は弾性体で出来ており、ハンマ105がスピンドル103に直接接触し破壊することが無いようになっている。
【0006】
切替ノブ110を前方(アンビル107側)に移動させることで、図6に示すようにリング109がハンマ105側に移動する。図6は、ハンマ105の動作を制限し、ドリルとして使用する際の状態を示したものである。先端工具側から強い反力を受けた場合、ハンマ105はカム機構によりモータ101側に移動しようとするが、リング109により移動が制限されるためハンマ105による打撃が行われない。リングギヤ113は、フランジ114の凸部により回転方向に規制されるが、モータ101とスピンドル103の伝達トルクが一定以上になると、トルク調整スプリング115がフランジ114をリングギヤ113側に付勢する力より、フランジ114の凸部がリングギヤ113の凸部を乗り越えようとする力が上回るため、フランジ114がトルク調整スプリング115側に移動し、凸部のかみ合いがはずれ、リングギヤ113が回転する。これによりモータ101とスピンドル103はトルク伝達が不可能な状態、つまりクラッチが作動した状態になる。
【0007】
このときダイヤル117を回すことで、トルク調整スプリング115の高さが変化するため、クラッチ112の伝達トルクが調整可能である。また、図6に示すように、ダイヤル117をさらに回してナット116をワッシャ123に接触するまで締め込むことで、フランジ114の軸方向移動を規制し、リングギヤ113を完全に回転不可能としてクラッチが作動しないようにすることができ、回転打撃工具をドリルとして使用可能である。
【0008】
さらに、図7のように切替ノブ110を回転させて後方(モータ1側)に移動させ、ハンマ105の打撃停止状態を解除し、同時にダイヤル117を回転させフランジ114の軸方向移動を規制しクラッチ112の作動を停止させることで、ハンマ105が打撃可能となり、本機を回転打撃工具として使用することが可能である。
【0009】
【特許文献1】特開2005−205569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図5〜7を用いて説明した従来の回転打撃工具は、1つの工具で打撃工具に加えて、クラッチ付きのドライバドリルとしても使用できるため、使い勝手が良い工具を実現できる。しかしながら、ハンマ付勢とクラッチのトルク調整のために計2本のスプリングが必要なため、部品点数が多くなり、製造コストが高くなり、工具本体が大きくなってしまう。また、2つのダイヤルが必要となるため部品点数が増加する。そのため、本体をより小型化したい、より低コストで実現したいというのが、製造者の要望であった。
【0011】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的はドライバドリルとして使用可能な回転打撃工具の小型化を達成することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、部品点数を削減して低コスト化を実現した、ドライバドリルとして使用可能な回転打撃工具を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、ハンマの打撃を停止させるモードと、クラッチの作動を停止させるモードを1つの操作手段で切り替え可能として、使い勝手の良い回転打撃工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次の通りである。
【0015】
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータによって回転されるスピンドルと、スピンドルに設けられたカム機構の作用によって回転しながらスピンドルの軸方向に移動するハンマと、ハンマによって回転力及び打撃力の与えられるアンビルと、ハンマをアンビル側に付勢するハンマ付勢スプリングと、モータとスピンドルの間に所定以上の負荷トルクが作動するとモータからスピンドルへのトルク伝達を不可能にするクラッチと、クラッチの作動開始トルクを調整するためのトルク調整スプリングを有する回転打撃工具において、ハンマ付勢スプリングとトルク調整スプリングを1つの共通スプリングで実現した。共通スプリングの前方にはハンマが位置し、後方にはクラッチが位置するように配置される。そして、ハンマがカム機構によって打撃を開始するために必要なスピンドルのトルクが、クラッチが動作するスピンドルのトルクより大きくなるように設定した。
【0016】
本発明の他の特徴によれば、クラッチは、リングギヤを有する遊星歯車機構と、リングギヤに形成された凸部と、凸部に係合し共通スプリングによってモータ側に付勢されるボール及びニードルを含んで構成され、クラッチの作動を停止させるクラッチ停止手段を設けた。また、ハンマの作動を停止させる打撃停止手段を有し、クラッチ停止手段と打撃停止手段の動作のON/OFFを制御は、共通の操作手段で実現した。共通の操作手段は、例えば、回転軸と同軸に回転するダイヤル式の操作手段で実現でき、この操作手段によって、ハンマによる打撃トルク量の調整と、クラッチの動作トルク量の調整をも行うと良い。
【0017】
本発明のさらに他の特徴によれば、クラッチ停止手段は、リングギヤに形成された凹部と、凹部に挿入可能で軸方向に移動可能なピンを含み、ピンによってリングギヤの回転を制限することによりクラッチの作動を停止させるように構成した。ピンは、リングギヤの軸方向に複数箇所設けられ、バネによってリングギヤの凹部から離脱する方向に付勢される。打撃停止手段は、アンビルに形成され、先端工具を保持する出力軸部と分割して形成され、出力軸部と同期回転しながら軸方向に移動可能な羽部と、羽部を移動させてハンマを後退させるフランジと、を含んで構成される。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、通常ハンマ付勢スプリングとして使用されるスプリングを、トルク調整スプリングを兼ねるように構成したため、部品点数を削減できるだけでなく本体を小型化することが可能となる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、共通スプリングの前方にハンマが位置し、後方にクラッチが位置するように配置されるので、1つの共通スプリングでハンマ付勢スプリングとトルク調整スプリングを兼ねる構成を実現できる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、ハンマがカム機構によって打撃を開始するために必要なスピンドルのトルクが、クラッチが作動するスピンドルのトルクより大きくなるように設定したので、クラッチの作動が停止されていない場合は、ハンマの打撃より先にクラッチが作動するため、ハンマの打撃を停止させるための部品を省略することができ、本体を小型にすることが可能となる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、クラッチは、リングギヤを有する遊星歯車機構と、リングギヤに形成された凸部と、凸部に係合し共通スプリングによってモータ側に付勢されるボール及びニードルを含んで構成されるので、遊星歯車機構を利用して簡単な構成でクラッチ機構を実現できる。
【0022】
請求項5記載の発明によれば、クラッチの作動を停止させるクラッチ停止手段を設けたので、クラッチの作動を停止させることによって、共通スプリングによって付勢されるハンマを作動させることができる。つまり、ハンマがカム機構によって打撃を開始するために必要なスピンドルのトルクが、クラッチが動作するスピンドルのトルクより大きくなる状態下においては、クラッチ停止機構はハンマ作動スイッチとして機能することができる。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、ハンマの作動を停止させる打撃停止手段を設けたので、通常のドリルとしての使用が可能になる。また、ハンマの作動を停止させることによって、クラッチの作動する設定トルクを所定の範囲内において任意に設定することができる。
【0024】
請求項7記載の発明によれば、クラッチ停止手段と打撃停止手段の動作のON/OFFを制御する、共通の操作手段を設けたので、これらの動作を1つの操作手段で操作できるので使い勝手が良い。
【0025】
請求項8記載の発明によれば、共通の操作手段は、さらにハンマによる打撃トルクの調整と、クラッチの動作トルクの調整をも行うので、回転打撃工具のアンビルの外周側に設けられる操作手段1つで済み、工具をコンパクトに実現できる。
【0026】
請求項9記載の発明によれば、クラッチ停止手段は、リングギヤに形成された凹部と、凹部に挿入可能で軸方向に移動可能なピンを含み、ピンによってリングギヤの回転を制限することによりクラッチの作動を停止させるので、遊星歯車機構に簡単な構成を追加するだけでクラッチ停止手段が実現でき、しかも小型の部品を追加するだけですむので回転打撃工具をコンパクトにすることができる。
【0027】
請求項10記載の発明によれば、ピンは、リングギヤの軸方向に複数箇所設けられ、バネによってリングギヤの凹部から離脱する方向に付勢されるので、リングギヤの前方側に配置される共通の操作手段によって押圧することができ、またバネによってリングギヤの凹部から離脱させる事ができるので、簡単な構成でクラッチ停止手段が実現できる。
【0028】
請求項11記載の発明によれば、打撃停止手段は、先端工具を保持する出力軸部と分割して形成され出力軸部と同期回転しながら軸方向に移動可能な羽部と、羽部を移動させてハンマを後退させるフランジを含んで構成されるので、確実にハンマによる打撃を防止することでき、信頼性の高い回転打撃工具を実現できる。
【0029】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の機能を有する部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、上下前後の方向は図1に示す方向であるとして説明する。
【0031】
図1は、本発明の回転打撃工具の一実施形態を示す構造断面図である。アンビル7は羽部7aと出力軸部7bから構成され、羽部7aは出力軸部7bに対して軸方向に移動可能に接続される。出力軸部7bの前側の端部には、先端工具を装着するための軸方向断面が六角形の先端工具保持部7cが形成される。ケース18の外周側にはねじ部が形成され、ナット16の内周側に形成されたねじ部と螺合する。フランジ14は、前方がナット16によって支持され、後方が羽部7aと接触するよう配置される。ナット16とケース18の外周にダイヤル17が設けられ、ダイヤル17は周方向に回転可能な状態でハウジング19に固定される。ナット16は、円周方向に延びるようにダイヤル17の内周側に形成されたリブ17aにより周方向に固定される。
【0032】
クラッチ12は、リングギヤ13と、リングギヤの前端面の円周方向4箇所に形成された凹凸部13aと、凹凸部13aに係合するボール22と、ボール22の前端側に取り付けられる円環状のニードル24と、ワッシャ23を介してニードル24を軸方向後方に付勢するスプリング4により構成される。スプリング4は、ハンマ5を軸方向前方に付勢する役割を兼用し、いわばクラッチ用とハンマ用の共通のスプリングとして機能する。本実施形態では、ハンマ5がアンビル7の羽部7aを乗り越えるために必要なトルクが、リングギヤ13が凹凸部13aとボール22のかみ合いが外れ回転するために必要なトルクより大きくなるように、各部が構成される。
【0033】
遊星歯車機構2の上下2箇所に設けられるピン20は、遊星歯車機構2のケースに設けられた凹部に挿脱可能なように軸方向に移動可能に設置され、ピン20の軸方向中央付近には径が太くなったフランジ部20aが形成される。ピン20のフランジ部20aより後方には同軸に小径バネ21が配置され、小径バネ21によってピン20は前方に付勢される。リングギヤ13の外周部の2箇所には凹部13bがあり、ピン20は遊星歯車機構2のケースに設けられた凹部とリングギヤ13の凹部13bによって形成される穴内に移動可能である。ダイヤル17の内周側には、軸方向後方に突出する凸部17bが形成され、ダイヤル17を回転させて凸部17bがピン20に当接する位置に来ると、ピン20を後方に押圧し、ピン20が小径バネ21の押圧力に抗して後方に移動してリングギヤ13の凹部13bに係合し、これによりリングギヤ13の回転が阻止される。リングギヤ13が回転しないということは、クラッチ12が作動しないことを意味し、ピン20がクラッチ停止手段の主要部品となる。
【0034】
一方、ダイヤル17を回転させることで、ダイヤル17の内周側に形成されたリブ17aがナット16を回転させ、ケース18に形成されたねじ山の作用によりナット16が軸方向に移動する。前端がナット16にて支持されるフランジ14はナット16と共に軸方向に移動し、アンビル7の羽部7aを軸方向に移動させる。羽部7aは後方(モータ1側)に移動すると共にハンマ5を、弾性体から成るストッパ8に突当たるまで後方に移動させる。このようにハンマ5を後退させることによって打撃停止モードを実現できる。
【0035】
ダイヤル17の凸部17bは、ナット16が最も前進した位置と、最も後退した位置で、凸部17bが、ピン20を後方(モータ1側)に移動させるように設置される。本実施形態では、ピン20は円周方向に180度隔てた2箇所に設けられる。図4は、ダイヤル17の形状を示す斜視図であり、(1)は図2のA−A部付近からダイヤル17を見た背面図であり、(2)は図4(1)のB−B部の断面図である。ダイヤル17は、中心にケース18を貫通させる貫通穴17cが形成され、貫通穴よりも外周である内周壁には軸方向に延びるリブ17aが円周方向に90度隔てた4箇所に形成される。ダイヤル17の後端付近の内側には、軸方向後方に180度離れた2箇所で後方に突出する凸部17bが形成される。この凸部17bがピン20を軸方向後方に押すことによって、ピン20がリングギヤ13の凹部13bに挿入される。ダイヤル17の後端付近の外周側には、ハウジング19と係合するための溝部17dが形成される。
【0036】
次に、図1〜3を用いて本実施形態による打撃機構とクラッチ機構の動作を説明する。図1は、打撃機構を動作させ、クラッチを停止する場合の状態を示すものである。図1に示すように、ナット16が最も前方に位置する場合には、ピン20が後方に移動しているため、ピン20によりリングギヤ13の回転が規制され、クラッチは作動しない。また、図1の状態では羽部7aは前方に位置しており、ハンマ5の後退移動は制限されないため、アンビル7が先端工具から所定トルク以上の反力を受けると、スピンドル3、ハンマ5は相対的にねじられることになり、ハンマ5はハンマ付勢スプリング4を縮めながら後退を始める。その後、ハンマ5がアンビル7の羽部7aを乗り越え、これらのかみ合いが解ける。ハンマ5は、スピンドル3の回転力に加え、スプリング4に貯えられた弾性エネルギーによって回転方向に加速され、かつ前進を始める。ハンマ5が加速されるうちに、再び凸部同士が嵌合することになるが、このとき強力な回転打撃力がアンビル7の羽部7aに伝達される。羽部7aと出力部7bは回転方向に固定されるため、打撃力が先端工具に伝達される。
【0037】
図2は、打撃機構を停止させ、クラッチを動作させる場合の状態を示すものである。図2に示すように、ダイヤル17を回転させ、凸部17bによる付勢がはずれることでピン20は小径バネ21の力により前方に移動する。これによりリングギヤ13の固定状態が解除され、回転可能となる。図2の状態では打撃機構は動作可能ではあるが、前述したように、ハンマ5が羽部7aを乗り越えるために必要なトルクは、リングギヤ13が凸部13aとボール22のかみ合いが外れ回転するために必要なトルクより大きくなるようにハンマ5の形状、カム機構の構成、配置、リングギヤ13の凹凸部13aの形状、ボール22の大きさ等を設定しているので、ハンマ5による打撃が開始されるより先にクラッチ12が動作する。従って、実質的には打撃機構を停止させることになり、クラッチ12が動作する。
【0038】
このクラッチ12が動作する状態において、ダイヤル17を回転させてナット16をさらに後方に移動させることで、スプリング4を圧縮し、クラッチ12の動作開始トルクを大きくなるように設定できる。この調整によって、先端工具による締付けトルクの調整が可能である。スプリング4はハンマ5の付勢スプリングと共用しているので、スプリング4を圧縮することによって、クラッチ12の動作トルクとハンマ5が羽部7aを乗り越えるためのトルクが、同じ割合で大きくなる為、ハンマ5による打撃は開始せずに常にクラッチ12が動作する。これにより、回転打撃工具をドライバとして使用可能になる。
【0039】
図3は、打撃機構及びクラッチを両方とも停止させる場合の状態を示すものである。図2の状態からさらにダイヤル17を回転させて、図3に示すようにハンマ5をストッパ8に突当てた状態する。この状態では、ハンマ5は羽部7aを乗り越えようとするが、ストッパ8により後方への移動が規制されるため、ハンマ5と羽部7aの嵌合ははずれることはなく、ハンマ5と羽部7aは一緒に回転する。これによりスピンドル3からの回転力が直接出力部7bに伝わる。さらにダイヤル17の凸部17bがピン20をモータ1側に移動させるため、リングギヤ13の回転が規制されるためクラッチ12も動作しなくなる。これにより、回転打撃工具は、打撃も行われず、クラッチも作動せず、ドリルとして使用することが可能になる。
【0040】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、ハンマ付勢スプリングとトルク調整スプリングを1つの共通スプリングで実現できたので、ドライバドリルとして使用可能な回転打撃工具の小型化を達成でき、部品点数の削減によって低コスト化が実現できた。
【0041】
また、ハンマの打撃を停止させる打撃停止手段と、クラッチの作動を停止させるクラッチ停止手段を1つの操作ダイヤルで実現したので、使い勝手の良い回転打撃工具が実現できた。
【0042】
以上、本発明を示す実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施の形態では、電気モータを利用した回転打撃工具について説明したが、本発明はエアモータを使用する回転打撃工具にも適用できる。また、クラッチ12の動作を制限するために、軸方向に移動するピン20を用いたが、ピン20だけに限られず、何らかの部材によってリングギヤ13の回転を制限したり解除したりできるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る回転打撃工具を示す部分断面図であり、打撃機構を動作させ、クラッチを停止する場合の状態を示す。
【図2】本発明の実施形態に係る回転打撃工具を示す部分断面図であり、打撃機構を停止させ、クラッチを動作させる場合の状態を示す。
【図3】本発明の実施形態に係る回転打撃工具を示す部分断面図であり、打撃機構及びクラッチの両方を停止させる場合の状態を示す。
【図4】図1のダイヤル17の単体形状を示す斜視図であり、(1)は図2のA−A部付近から見た背面図であり、(2)は図4(1)のB−B部の断面図である。
【図5】従来例の回転打撃工具を示す部分断面図であり、回転打撃工具をドライバとして使用する際の状態を示したものである。
【図6】従来例の回転打撃工具を示す部分断面図であり、回転打撃工具をドリルとして使用する際の状態を示したものである。
【図7】従来例の回転打撃工具を示す部分断面図であり、回転打撃工具として使用する際の状態を示したものである。
【符号の説明】
【0044】
1 モータ 2 遊星歯車機構 3 スピンドル 4 スプリング
5 ハンマ 5a ハンマ凸部 6 カムボール 7 アンビル
7a (アンビルの)羽部 7b (アンビルの)出力部
7a (アンビルの)先端工具保持部
8 ストッパ 12 クラッチ 13 リングギヤ
13a (リングギヤの)凹凸部 14 フランジ 16 ナット
17 ダイヤル 17a (ダイヤルの)リブ
17b (ダイヤルの)凸部 17c (ダイヤルの)貫通穴17c
17d (ダイヤルの)溝部 18 ケース 19 ハウジング
20 ピン 20a (ピンの)フランジ部 21 小径バネ
22 ボール 23 ワッシャ
101 モータ 102 遊星歯車機構 103 スピンドル
104 ハンマ付勢スプリング 105 ハンマ
105a ハンマ凸部 106 カムボール 107 アンビル
107a アンビル凸部 108 ストッパ 109 リング
110 切替ノブ 111 ボール 12 クラッチ
113 リングギヤ 114 フランジ
115 トルク調整スプリング 116 ナット 117 ダイヤル
118 ケース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、該モータによって回転されるスピンドルと、該スピンドルに設けられたカム機構の作用によって回転しながら前記スピンドルの軸方向に移動するハンマと、該ハンマによって回転力及び打撃力の与えられるアンビルと、前記ハンマを前記アンビル側に付勢するハンマ付勢スプリングと、前記モータと前記スピンドルの間に所定以上の負荷トルクが作動すると前記モータから前記スピンドルへのトルク伝達を不可能にするクラッチと、該クラッチの作動開始トルクを調整するためのトルク調整スプリングを有する回転打撃工具において、
前記ハンマ付勢スプリングと前記トルク調整スプリングを1つの共通スプリングで実現したことを特徴とする回転打撃工具。
【請求項2】
前記共通スプリングの前方に前記ハンマが位置し、後方に前記クラッチが位置するように配置されることを特徴とする請求項1の回転打撃工具。
【請求項3】
前記ハンマが前記カム機構によって打撃を開始するために必要なスピンドルのトルクが、前記クラッチが動作するスピンドルのトルクより大きくなるように設定したことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転打撃工具。
【請求項4】
前記クラッチは、リングギヤを有する遊星歯車機構と、前記リングギヤに形成された凸部と、該凸部に係合し前記共通スプリングによって前記モータ側に付勢されるボール及びニードルを含んで構成されることを特徴とする請求項3に記載の回転打撃工具。
【請求項5】
前記クラッチの作動を停止させるクラッチ停止手段を設けたことを特徴とする請求項4に記載の回転打撃工具。
【請求項6】
前記ハンマの作動を停止させる打撃停止手段を設けたことを特徴とする請求項5に記載の回転打撃工具。
【請求項7】
前記クラッチ停止手段と前記打撃停止手段の動作のON/OFFを制御する、共通の操作手段を設けたことを特徴とする請求項6に記載の回転打撃工具。
【請求項8】
前記共通の操作手段は、さらに前記ハンマによる打撃トルクの調整と、前記クラッチの動作トルクの調整を行うことを特徴とする請求項7に記載の回転打撃工具。
【請求項9】
前記クラッチ停止手段は、前記リングギヤに形成された凹部と、該凹部に挿入可能で軸方向に移動可能なピンを含み、該ピンによって前記リングギヤの回転を制限することにより前記クラッチの作動を停止させることを特徴とする請求項5に記載の回転打撃工具。
【請求項10】
前記ピンは、前記リングギヤの軸方向に複数箇所設けられ、バネによって前記リングギヤの凹部から離脱する方向に付勢されることを特徴とする請求項9に記載の回転打撃工具。
【請求項11】
前記打撃停止手段は、先端工具を保持する出力軸部と分割して形成され前記出力軸部と同期回転しながら軸方向に移動可能な羽部と、前記羽部を移動させて前記ハンマを後退させるフランジを含んで構成されることを特徴とする請求項6に記載の回転打撃工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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