説明

回転紡糸電極

ポリマー溶液又はポリマー溶融物を静電紡糸することによりナノファイバを製造する装置によって紡糸を行う細長い形状の回転紡糸電極。回転紡糸電極は、ポリマー溶液又はポリマー溶融物の容器から電界内にポリマー溶液を搬送する役割を果たし、保持手段1に配置されコード又はワイヤ4から形成された紡糸部材41、42、43、44、45、46が間に取り付けられた一対の端面部材2、3を備える。紡糸部材41、42、43、44、45、46が、回転紡糸電極の回転軸線11に対して傾斜して位置付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細長形状の回転紡糸電極に関するものである。この回転紡糸電極は、ポリマー・マトリクスの溶液又は溶融物を静電紡糸することによりナノファイバを製造する装置により紡糸を行うために、ポリマー・マトリクスの溶液又は溶融物を容器から電界内に搬送する役割を果たす。この回転紡糸電極は、保持手段上に配置され、紡糸コード又は紡糸ワイヤが間に取り付けられた一対の端面部材を備える。
【背景技術】
【0002】
回転可能に取り付けられた細長い形状の紡糸電極を備え、静電紡糸によりポリマー溶液からナノファイバを製造する今日までに知られている装置が、例えばWO2005/024101A1号に開示されている。この装置は、シリンダ形状の紡糸電極を備える。この電極は、その主軸線を中心として回転し、その表面の下方領域がポリマー溶液に浸漬される。ポリマー溶液は、シリンダの表面により、紡糸電極と集電極との間の電界内に搬送され、そこでナノファイバが製造される。製造されたナノファイバは、集電極の方向に搬送され、集電極の前で基板材料上に堆積する。この装置は、ポリマー溶液からナノファイバを製造することが十分に可能であるが、基板材料上に付着されたナノファイバの層が、紡糸電極の全長にわたって均一には広がらない。
【0003】
独国特許第10136255B4号は、上下に位置決めされた2つのガイド・シリンダの周囲を囲む一対の連続ベルト上に取り付けられた平行ワイヤ・システムによりそれぞれが形成される少なくとも2つの紡糸電極機構を備え、下方ガイド・シリンダがポリマー溶液又はポリマー溶融物中に延在する、ポリマー溶液又はポリマー溶融物からファイバを製造するための装置を開示している。これらの2つの紡糸電極機構の間に、布帛が対電極として送られ、紡糸電極機構により、布帛の表面及び裏面の両方に同時にコーティングが行われる。
【0004】
紡糸電極は、導電性循環ベルトにより形成された対電極と共に、高電圧源に接続される。ポリマー溶液又はポリマー溶融物が、ワイヤによって紡糸電極と対電極との間の電界内に搬送され、そこでポリマー溶液又はポリマー溶融物からファイバが形成される。これらのファイバは、対電極の方向に搬送され、対電極上に位置決めされた布帛に着く。ポリマー溶液又はポリマー溶融物は、非常に速く経時変化するため、電界内にポリマー溶液又はポリマー溶融物が長期間にわたり滞留することは不利である。また、電界内にポリマー溶液又はポリマー溶融物が長期間にわたり滞留することにより、紡糸プロセスの際にポリマー溶液又はポリマー溶融物の特性が変化し、これにより、製造されるファイバのパラメータ、特に直径が変化する。別の欠点は、一対のエンドレス・ベルト上への紡糸電極のワイヤの取付けである。これらのベルトは、導電性である場合には、紡糸電極と対電極との間に生成される電界に対して非常に悪影響を与え、非導電性である場合には、滑り接触により高電圧が1〜3本のワイヤよりもむしろ紡糸電極のワイヤに供給され、それにより、紡糸装置が無駄に複雑なものとなる。
【0005】
WO2008/028428号は、ポリマー溶液を静電紡糸することによりナノファイバを製造する装置用の回転紡糸電極であって、ワイヤにより形成された紡糸部材が間に取り付けられた一対の端面部材を備える細長い形状のものを開示している。これらの紡糸部材は、回転紡糸電極の周囲に均一に、この電極の回転軸線に平行に配置される。端面部材は、非導電性材料から作製され、紡糸部材は全て導電的に相互接続される。
【0006】
回転紡糸電極の回転軸線に平行に取り付けられた紡糸部材により、電界内における紡糸にとって良好な条件が確保されるが、ポリマーの溶液又は溶融物からこれらの紡糸部材が出る際に、紡糸部材の全長部分が一瞬のうちに溶液面上に出現するため、特に電極の長さが0.5mを越えると、ポリマー溶液又はポリマー溶融物は、ポリマー溶液又はポリマー溶融物の表面張力により飛び散る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/024101号
【特許文献2】独国特許第10136255号明細書
【特許文献3】国際公開第2008/028428号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、紡糸にとって良好な条件を維持すること、及びポリマーの溶液又は溶融物から紡糸部材を出す際の飛散りを解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、本発明による回転紡糸電極によって解決された。本発明の原理は、紡糸コード又は紡糸ワイヤが回転紡糸電極の回転軸線に対して傾斜した位置におかれることにある。この傾斜位置により、紡糸コード又は紡糸ワイヤは、ポリマー・マトリクスの溶液又は溶融物から徐々に出るため、紡糸電極の長さが1mを越える場合でも飛散りが生じない。
【0010】
紡糸の際の最適な条件を実現するためには、紡糸コード又は紡糸ワイヤの端部が、回転軸線から同一距離で、両方の端面部材に取り付けられると有利である。
【0011】
紡糸コード又は紡糸ワイヤに対する電圧の容易な供給を実現するためには、端面部材が導電性材料から作製されると有利である。この解決策においては、電圧が、ポリマー・マトリクスの溶液又は溶融物中に供給され、端面部材が導電性であり、それらの一部がポリマー・マトリクスの溶液又は溶融物中に依然として位置することにより、紡糸コード又は紡糸ワイヤの全てが、電圧下におかれることが、十分条件となる。
【0012】
特に回転紡糸電極の長さが1mを越える場合には、全ての紡糸コード又は紡糸ワイヤが完全に張った状態にあることが重要となる。これは、伸張手段により達成される。
【0013】
請求項4による具体例においては、回転紡糸電極の紡糸コード又は紡糸ワイヤは、1つの連続するコード又は1つの連続するワイヤから形成され、少なくとも1つの端面部材が、回転紡糸電極の回転軸線の方向に調節可能であり、伸張手段に結合される。
【0014】
伸張手段は、端面部材同士の間に固定されたストッパ、及びこのストッパと調節可能な端面部材との間に配置された圧縮ばね(pressure spring)から形成される。
【0015】
有利な一具体例においては、ストッパは、端面部材と同じ形状及びサイズを有し、紡糸コード又は紡糸ワイヤが固定された調節可能な端面部材へ紡糸コード又は紡糸ワイヤを通すための開口を備える。
【0016】
請求項7に記載された具体例においては、紡糸コード又は紡糸ワイヤは、端面部材に別個に取り付けられ、少なくとも1つの個別の伸張手段が、紡糸コード又は紡糸ワイヤのそれぞれに割り当てられる。
【0017】
同時に、個別の伸張手段が、対応する端面部材と紡糸コード又は紡糸ワイヤの端部に固定された端部部材との間に配置された圧縮ばねから形成されることが有利である。
【0018】
本発明による回転紡糸電極が、同封の図面に概略的に図示される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】回転紡糸電極の軸測投影図。
【図2】伸張手段を有する、1つのコード又はワイヤから形成された伸張部材を備える実施例を示す図。
【図3】独立した伸張部材及び中核的な伸張手段を備える実施例を示す図。
【図4】独立した伸張部材及び個別の独立伸張手段を備える実施例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
回転紡糸電極は、保持手段(carry means)1を備える。この保持手段1は、この実施例においてはシャフトから形成され、回転紡糸電極の回転軸線でもある自体の長手方向軸線11に対して垂直な端面部材(end face)2、3が取り付けられる。保持手段1は、例えばチューブ又は他の適切な物体から形成されてもよい。図1による実施例では、端面部材2、3は共に、同一の直径からなり、それらの外周部に沿って溝21、22、23、24、25、26;31、32、33、34、35、36が均一に形成さる。これらの溝には、コード又はワイヤ4が取り付けられる。端面部材2、3間に張られたコード又はワイヤ4の領域が、紡糸部材41、42、43、44、45、46を形成する。端面部材3が、端面部材2に対して回転されることにより、紡糸部材41、42、43、44、45、46は、紡糸電極の回転軸線11に対して斜めになる。紡糸部材41、42、43、44、45、46の端部は、回転軸線から同一距離で両端面部材2、3に取り付けられる。端面部材2、3は、導電性材料から作製される。図1及び図2による実施例では、紡糸部材41、42、43、44、45、46は、1つの連続するコード又はワイヤ4から形成される。図1によれば、コード又はワイヤ4は、固定された端面部材2、3に固定される。
【0021】
図2によれば、一方の端面部材2は固定され、第2の端面部材3は、軸線方向に調節できるようにして担持部材1に取り付けられる。端面部材2、3間の保持手段1に、ストッパ5が固定されて取り付けられる。ストッパ5と調節可能な端面部材3との間に、圧縮ばね6が取り付けられる。この実施例においては、ストッパ5は、端面部材3と同一の形状及びサイズであり、紡糸部材41、42、43、44、45、46を形成するコード又はワイヤ4を通すための開口又は溝を備える。
【0022】
図3及び図4による実施例では、紡糸部材41、42、43、44、45、46は、別個のコード又はワイヤ4から形成される。図3では、図2による実施例と同様に、一方の端面部材2が固定され、第2の端面部材3が、軸線方向に調節可能に担持部材1に取り付けられる。端面部材2、3間の保持手段1に、ストッパ5が固定された状態で取り付けられる。ストッパ5と調節可能な端面部材3との間に、圧縮ばね6が取り付けられる。この実施例においては、ストッパ5は、端面部材3と同一の形状及びサイズを有し、紡糸部材41、42、43、44、45、46を形成するコード又はワイヤ4を通すための開口又は溝を備える。図示しない一実施例においては、ストッパ5の直径が、端面部材3の直径よりも小さい。この実施例においては、全ての個別の紡糸部材41、42、43、44、45、46が、調節可能な一方の端面部材3及び圧縮ばね6により引っ張られる。これにより、各紡糸部材41、42、43、44、45、46が全く同一の長さであることが非常に必要となる。
【0023】
この問題は、図4による構成によって解消される。図4では、圧縮ばね6と、紡糸部材41、42、43、44、45、46の端部に固定された端部部材7とから形成される個別の伸張手段が、個別の紡糸部材41、42、43、44、45、46のそれぞれに割り当てられる。
【0024】
回転紡糸電極の長さを変更する必要がある場合には、保持手段1上の端面部材2、3を、簡単に調節できる。例えば、保持部材1が、一定間隔の固定開口を備えてもよい。この場合には、ユーザは、加工される材料の幅に応じて端面部材2、3の距離を調節することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー溶液又はポリマー溶融物を静電紡糸することによりナノファイバを製造する装置によって紡糸を行うために、ポリマー溶液又はポリマー溶融物の容器から電界内にポリマー溶液を搬送するための細長い形状の回転紡糸電極であって、該回転紡糸電極が保持手段(1)上に配置された一対の端面部材(2、3)を備え、コード又はワイヤ(4)から形成された紡糸部材(41、42、43、44、45、46)が前記一対の端面部材(2、3)の間に取り付けられた回転紡糸電極において、前記紡糸部材(41、42、43、44、45、46)が、前記回転紡糸電極の回転軸線(11)に対して傾斜して位置付けられることを特徴とする、回転紡糸電極。
【請求項2】
前記紡糸部材(41、42、43、44、45、46)の端部が、前記回転軸線(11)から同一距離で、前記端面部材(2、3)の両方に取り付けられることを特徴とする、請求項1に記載された回転紡糸電極。
【請求項3】
前記端面部材(2、3)は導電性材料から作製されることを特徴とする、請求項2に記載された回転紡糸電極。
【請求項4】
前記紡糸部材(41、42、43、44、45、46)は、1つの連続するコード又は1つの連続するワイヤ(4)から形成され、少なくとも1つの端面部材(3)が、前記回転紡糸電極の回転軸線(11)の方向に調節可能になっており、伸張手段に結合されていることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された回転紡糸電極。
【請求項5】
前記伸張手段は、前記端面部材(2、3)同士の間に固定されたストッパ(5)、及び前記ストッパ(5)と前記調節可能な端面部材(3)との間に配置された圧縮ばね(6)から形成されることを特徴とする、請求項4に記載された回転紡糸電極。
【請求項6】
前記ストッパ(5)は、端面部材(2、3)と同じ形状及びサイズを有し、前記紡糸部材(41、42、43、44、45、46)が固定された前記調節可能な端面部材(3)へ前記紡糸部材(41、42、43、44、45、46)を通すための開口を備えることを特徴とする、請求項5に記載された回転紡糸電極。
【請求項7】
前記紡糸部材(41、42、43、44、45、46)は、前記端面部材(2、3)に個別に取り付けられ、前記紡糸部材(41、42、43、44、45、46)のそれぞれに、少なくとも1つの個別の伸張手段が割り当てられることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された回転紡糸電極。
【請求項8】
前記個別の伸張手段は、各端面部材(3)と、前記紡糸部材(41、42、43、44、45、46)の端部に固定された端部部材(7)との間に配置された圧縮ばね(6)から形成されることを特徴とする、請求項7に記載された回転紡糸電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−501158(P2013−501158A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523196(P2012−523196)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国際出願番号】PCT/CZ2010/000086
【国際公開番号】WO2011/015161
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(507336444)エルマルコ、エス.アール.オー (17)
【Fターム(参考)】