回転電機の軸封装置
【課題】機内圧力を高くすることによってシールリングのケーシングが変位しても機内に冷却媒体を封止する回転電機の軸封装置を提供する。
【解決手段】一実施形態の軸封装置10は、機内側シールリング11と、機外側シールリング12と、ケーシング13と、センタスプリング14とを備える。機内側シールリング11は、シャフト2に第1のクリアランスC1を有して装着され、内向リム111を外周部に有する。機外側シールリング12は、シャフト2に第2のクリアランスC2を有して装着され、外向リム121を外周部に有する。ケーシング13は、内向リム111及び外向リム121の外周を囲う。ケーシング13は、少なくとも機外側シールリング11と線接触する。ギャップGから第1のクリアランスC1及び第2のクリアランスC2を通して機内側及び機外側へシール油Lを流出させる。
【解決手段】一実施形態の軸封装置10は、機内側シールリング11と、機外側シールリング12と、ケーシング13と、センタスプリング14とを備える。機内側シールリング11は、シャフト2に第1のクリアランスC1を有して装着され、内向リム111を外周部に有する。機外側シールリング12は、シャフト2に第2のクリアランスC2を有して装着され、外向リム121を外周部に有する。ケーシング13は、内向リム111及び外向リム121の外周を囲う。ケーシング13は、少なくとも機外側シールリング11と線接触する。ギャップGから第1のクリアランスC1及び第2のクリアランスC2を通して機内側及び機外側へシール油Lを流出させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、冷却媒体として気体を用いる回転電機の軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、エネルギー変換効率をよくするために、機内の回転子や固定子などを冷却する。このとき、冷却媒体として水素ガスを使用している。冷却媒体を機内に封じ込めておくために、回転子のシャフトとフレームとの間に軸封装置が設置される。軸封装置は、シャフトに対して隙間を空けて装着され、隙間にシール油を供給するための軸方向ギャップが形成されたシールリングと、このシールリングを覆うシールケーシングと、を備えている。
【0003】
シールリングは、シャフトの軸方向に沿う動きをシールケーシングによって拘束されている。シール油は、シールケーシングとシールリングとの間に機内側のガスの圧力よりも高い圧力で供給され、シールリングのギャップを通過して、シールリングとシャフトとの隙間へ流出する。隙間へ供給されたシール油がシャフトの外周面に沿って回転電機の機内側及び機外側へそれぞれ流出することによって、冷却媒体の水素ガスは、機内に封入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−301575号公報
【特許文献2】特開2006−345697号公報
【特許文献3】特開2006−345696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転電機による環境負荷を低減するためにエネルギー変換効率を高めることが求められている。冷却媒体として水素を用いる回転電機の場合、エネルギー変換効率を高めるために、水素冷却機を大容量にすること、あるいは、損失を低減することが考えられる。このとき損失を低減する方法の一つとして、回転電機の機内のガス圧を高くすることが挙げられる。しかし、ガス圧を高くするには、フレームの耐圧強度を確保するなど、構造上におけるさまざまな検討が必要になる。
【0006】
機内の圧力を高くすると、回転子を覆っているフレームが内圧を受けてわずかながらに膨らむことが予想される。このときシールケーシングが機外側へ変位し、シールリングとシャフトとの隙間が変化すると、シール油の流れが変わり密閉性が低下するかもしれない。シールケーシングが変位しないようにフレームやシールケーシングの剛性を高めるには、部材そのものの厚みを大きくするか構造的に改善する必要がある。しかし、いずれの場合もフレーム及びシールケーシングが嵩張る結果となる。
【0007】
また、シールリング及びシールケーシングは、回転電機を運転している間に取り替えることができないので、部品点数を増やしたり複雑な構造を採用したりすることはなるべく避けたい。
【0008】
そこで、本発明は、機内圧力を高くすることによってシールリングのケーシングが変位しても機内に冷却媒体を封止する回転電機の軸封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態の軸封装置は、回転電機のシャフトとフレームとの間に装備され機内に冷却媒体を封入する軸封措置であって、機内側シールリングと、機外側シールリングと、ケーシングと、センタスプリングとを備える。機内側シールリングは、シャフトの外周面の全周にわたって第1のクリアランスを有して装着され、機内側へ突出する内向リムを外周部に有する。機外側シールリングは、シャフトの外周面の全周にわたって第2のクリアランスを有し機内側シールリングに対してギャップを空けて機外寄りに装着され、機外側へ突出する外向リムを外周部に有する。ケーシングは、フレームに支持され内向リム及び外向リムの外周を囲いシール油が供給される。センタスプリングは、機内側シールリング及び機外側シールリングに外周側から当接し、ギャップを広げるとともに機内側シールリング及び機外側シールリングをシャフトに向かって締め付ける方向に作用する。そして、ケーシングは、シャフトの軸心を中心とする円に沿って機内側シールリング及び機外側シールリングの少なくとも一方と線接触することによって、シール油を封止するとともに、機内側シールリング及び機外側シールリングは、ギャップから第1のクリアランス及び第2のクリアランスを通して機内側及び機外側へシール油を流出させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態の軸封装置が装着された回転電機の端部を示す断面図。
【図2】図1に示した軸封装置の断面図。
【図3】図2に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【図4】第2の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図5】図4に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【図6】第3の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図7】第4の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図8】図7に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【図9】第5の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図10】図9に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【図11】第6の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図12】図11に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の実施形態の軸封装置10は、図1から図3を参照して説明する。軸封装置10は、図1に示すように、回転電機1の回転子のシャフト2と回転子の外周に配置される固定子を収納するフレーム3との間に装備される。回転電機1は、回転子及び固定子のコイルを冷却するために、機内に冷却媒体Gとして水素ガスを循環させている。軸封装置10は、冷却媒体Gを機内に封入するために設けられており、シャフト2を支持する軸受4よりも機内側に取り付けられている。この明細書中において、シャフト2の軸心を基準とし、軸心に近い側を「内周」、軸心から遠い側を「外周」、シャフト2に沿って中央寄りを「機内側」、シャフト2の端部寄りを「機外側」と呼ぶ。
【0012】
軸封装置10は、図2に示すように、機内側シールリング11と、機外側シールリング12と、ケーシング13と、センタスプリング14とを備える。機内側シールリング11は、シャフト2の外周面の全周にわたって一定の第1のクリアランスC1を空けて装着されており、機内側へ突出する内向リム111を外周部に備えている。機外側シールリング12は、シャフト2の外周面の全周にわたって一定の第2のクリアランスC2を空けて装着されており、機外側へ突出する外向リム121を外周部に備えている。機外側シールリング12は、機内側シールリング11に対してギャップSを空けて機外側に装着される。機内側シールリング11及び機外側シールリング12は、それぞれ半周ずつに分割して形成されている。
【0013】
ケーシング13は、隔壁130によってフレーム3に支持されており、内向リム111及び外向リム121の外周を囲っている。ケーシング13の内部には、シール油Lが供給される。このケーシング13は、機内側リップ131と機外側リップ132とを備えている。機内側リップ131は、内向リム111を回り込み、内向リム111とシャフト2との間に延びている。機外側リップ132は、外向リム121を回り込み、外向リム121とシャフト2との間に延びている。
【0014】
センタスプリング14は、互いに隣り合う機内側シールリング11及び機外側シールリング12の外周部の角に形成されたテーパ面112,122によって構成される溝に装着されている。センタスプリング14は、機内側シールリング11のテーパ面112及び機外側シールリング12のテーパ面122にそれぞれ当接することによって、ギャップSを押し広げるとともに機内側シールリング11及び機外側シールリング12をシャフト2に向って締め付けるように作用する。
【0015】
ケーシング13は、シャフト2の軸心を中心とする円に沿って、機内側シールリング11及び機外側シールリング12の少なくとも一方と線接触する。本実施形態においてケーシング13は、図2に示すように、機内側シールリング11及び機外側シールリング12のいずれとも線接触している。機内側シールリング11とケーシング13とが線接触するために、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、機内側へ膨らんだ曲面に形成されており、ケーシング13の内壁13Aに線接触する。また、機外側シールリング12とケーシング13とが線接触するために、ケーシング13の機外側リップ132の先端面132Aは、機内側へ膨らんだ曲面に形成されており、機外側シールリング12の機外に向いた側面123に線接触する。
【0016】
また、この実施形態の軸封装置10は、図2に示すように機外側スプリング15をさらに備えている。機外側スプリング15は、機外側シールリング12の外向リム121の外周の角に形成されたテーパ面124およびケーシング13の内壁13Bに当接するように装着されている。機外側スプリング15は、機外側シールリング12を機内側に付勢するとともにシャフト2の外周面に向けて付勢する。
【0017】
以上のように構成された軸封装置10は、内向リム111の端面111Aとケーシング13の内壁13A、機外側リップ132の先端面132Aと機外側シールリング12の側面123のそれぞれにおいて、線接触しているので、ケーシング13内に供給されたシール油Lを封止する。また、機内側シールリング11及び機外側シールリング12は、ギャップSからそれぞれ第1のクリアランスC1及び第2のクリアランスC2へ、シール油Lを流通させる。
【0018】
冷却媒体Gである水素ガスの冷却能力を高めるために機内圧力を高める、すなわち水素ガスの密度を高めると、フレーム3が変形したりケーシング13を支持する隔壁130がダイヤフラムのように機外側へ変形したりする。これによって、ケーシング13は、図3に示すようにケーシング13の外周側を支点に機外側へロールするように変位することが予想される。
【0019】
第1の実施形態の軸封装置10において、内向リム111の端面111Aおよび機外側リップ132の先端面132Aがどちらも機内側に膨らんだ曲面に形成されているので、フレーム3やケーシング13が変位した場合であっても、機内側シールリング11及び機外側シールリング12がケーシング13に伴って捻れることなく、機内側シールリング11とケーシング13、および機外側シールリング12とケーシング13がそれぞれ線接触した状態を維持する。
【0020】
そして、シール油Lの供給圧力と、センタスプリング14及び機外側スプリング15の締付力が均衡することによって、ギャップS、第1のクリアランスC1及び第2のクリアランスC2は、機内圧力を上げる前と同じ状態に維持される。つまり、冷却媒体Gの圧力を高めても、軸封装置10は、冷却媒体Gを機内に密封する。
【0021】
図2に示す状態から図3に示す状態へケーシング13が捻れるように変位する場合、機内側リップ131の先端面131Aは、機内側シールリング11の機内に面した側面113に接近する。そこで、機内側リップ131の先端面131Aは、この変形量を考慮して、機内側シールリング11の側面113から離れた状態に形成する。
【0022】
また、回転電機1の機内は、冷却媒体Gの圧力が作用しているので、機内側シールリング11は、機外側へ圧力を受ける。このとき、第1の実施形態の軸封装置10の場合、機外側スプリング15を備えている。したがって、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、機外側スプリング15によってケーシング13の内壁13Aに押し当てられ、線接触した状態が維持される。さらに機外側スプリング15は、機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bが機外側へ開くことを防止している。
【0023】
なお、軸封装置10の機外側は、大気圧であるので、ギャップSから第1のクリアランスC1または第2のクリアランスC2へと流れるシール油Lの圧力が維持されれば、機外側シールリング12とケーシング13との間は、完璧に封止されている必要はない。機外側シールリング12とケーシング13との間は、線接触させる代わりに、柔軟性を有したパッキンやガスケットなどを装着してもよい。
【0024】
機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aおよびケーシング13の機外側リップ132の先端面132Aは、曲率が一定な曲面に形成するか、機内の圧力変化に伴うフレーム3および隔壁130の変形を加味した曲率が変化する曲面に形成するかは、回転電機1の仕様や運転条件に応じて適宜選択される。つまり、回転電機1が定格運転中である間、軸封装置10の機内側シールリング11および機外側シールリング12が理想的な位置に納まるように、軸封装置10の各部の寸法が決定される。
【0025】
第2から第6の実施形態の軸封装置10は、それぞれ図面を参照して以下に説明する。各実施形態の軸封装置10において、第1の実施形態の軸封装置10と同じ機能を有する構成は、図中に同じ符号を付してその説明を省略する。また、軸封装置10の周囲の回転電機1の構成は、第1の実施形態に記載した内容および図1を参酌する。
【0026】
第2の実施形態の軸封装置10は、図4および図5を参照して説明する。図4および図5に示す軸封装置10において、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、ケーシング13の内壁13Aの内壁に接触しない平坦に形成されている。ケーシング13の機内側リップ131の先端面131Aが機外側へ膨らむ曲面に形成されており、機内側シールリング11の機内側の側面113に線接触している。また、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aが機外側へ膨らんだ曲面に形成されており、ケーシング13の内壁13Bに線接触している。ケーシング13の機外側リップ132の先端面132Aは、平坦に形成され、内圧がかかってケーシング13が変位した場合でも機外側シールリング12の側面123に接触しない。この他の構成は、第1の実施形態の軸封装置10と同じである。
【0027】
この軸封装置10は、機内側リップ131の先端面131Aおよび機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aがいずれも機外側へ膨らんだ曲面に形成されている。したがって、冷却効率を高めるために機内の圧力を高めることによってケーシング13が図4に示す状態から図5に示すように変位した場合でも、ケーシング13に伴って機内側シールリング11および機外側シールリング12が捻れない。機内側シールリング11とケーシング13、機外側シールリング12とケーシング13がそれぞれ線接触した状態が維持される。また、シール油Lの供給圧力とセンタスプリング14および機外側スプリング15の締付力が均衡することによって、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2は、機内圧力を上げる前と同じ状態に維持される。
【0028】
第2の実施形態にでは、図4および図5に示すように機内圧力を高くする前後のいずれでも機外側リップ132の先端面132Aは、機外側シールリング12の側面123から離れている状態であり、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aは、ケーシング13の内壁13Bに線接触した状態である。機内圧力を高くする前では、機外側リップ132の先端面132Aを機外側シールリング12の側面123に当接した状態に、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aをケーシング13の内壁13Bから離した状態にしておき、機内圧力を高くした後は、機外側リップ132の先端面132Aを機外側シールリング12の側面123から離れた状態に、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aをケーシング13の内壁13Bに線接触した状態に、それぞれなるように構成されていてもよい。
【0029】
また、第2の実施形態では、図4および図5に示すように機内圧力を高くする前後のいずれにおいても機内側リップ131の先端面131Aは、機内側シールリング11の側面113に当接した状態に、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、ケーシング13の内壁13Aから離れている状態である。機内圧力を高くする前では、機内側リップ131の先端面131Aを機内側シールリング11の側面113から離れた状態に、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aをケーシング13の内壁13Aに当接した状態にしておき、機内圧力を高くした後は、機内側リップ131の先端面131Aを機内側シールリング11の側面113に線接触した状態に、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aをケーシング13の内壁13Aに線接触した状態に、それぞれなるように構成されていてもよい。
【0030】
第3の実施形態の軸封装置10は、図6を参照して説明する。図6に示す軸封装置10において機内側シールリング11と機外側シールリング12は、第1の実施形態の機内側シールリング11および機外側シールリング12と同じ構成である。そして、この軸封装置10は、機内側シールリング11の側面113に接触する第1の弾性部材133を機内側リップ131の先端部に有し、機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bに接触する第2の弾性部材134を機外側リップ132の外周面132Bに有している点が、第1の実施形態と異なっている。
【0031】
以上のように構成されている軸封装置10は、機内側シールリング11の内向リム111の曲面に形成された端面111Aがケーシング13の内壁13Aに線接触しており、機外側スプリング15が機内側シールリング11および機外側シールリング12を機内側へ付勢している。機内圧力を上げた場合にケーシング13が第1の実施形態や第2の実施形態のように変位すると、第1の弾性部材133は、機内側シールリング11の側面113に押し当てられて偏平し、第2の弾性部材134は、機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bに押し当てられて偏平する。
【0032】
ケーシング13が変位しても、機内側シールリング11および機外側シールリング12は、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2を機内圧力が高くなる前と同様に維持する。また、機内圧力を高くしたことに応じてシール油Lの供給圧力が高くなった場合、第1の弾性部材133および第2の弾性部材134は、機内圧力を高くする前に比べて強く機内側シールリング11および機外側シールリング12のそれぞれに押し当てられる。機内側シールリング11とケーシング13、機外側シールリング12とケーシング13の間の密閉性も強くなる。
【0033】
第1の弾性部材133および第2の弾性部材134としてネオプレーンゴムやウレタンゴム、シリコーンゴムなどが採用される。ケーシング13が変位することによって第1の弾性部材133や第2の弾性部材134が偏平する量は、ごくわずかであるので、求められる弾力性や密閉性を満足すれば、弾性部材の変わりにガスケットやパッキンなどを採用してもよい。
【0034】
シール油Lの供給圧力は、機内圧力よりも高く設定される。したがって、機内圧力を高くする場合、ケーシング13内部のシール油Lの圧力とケーシング13の機外側の大気圧との差圧も大きくなる。このような場合、第2の弾性部材134のシール機能を補助するために、大気圧側にバックアップリングを第2の弾性部材134とともに装着する。
【0035】
第4の実施形態の軸封装置10は、図7および図8を参照して説明する。図7および図8に示す軸封装置10において、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、曲面に形成されてケーシング13の内壁13Aに線接触している。また、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aも、曲面に形成されてケーシング13の内壁13Bに線接触している。そして、ケーシング13の機内側リップ131の先端面131Aおよび機外側リップ132の先端面132Aは、機内側シールリング11の側面113および機外側シールリング12の側面123から離れた状態である。
【0036】
この軸封装置10は、図7および図8に示すように、さらに機内側スプリング16を備えている。機内側スプリング16は、機内側シールリング11の外周部に形成された溝114に装着され、機内側シールリング11をシャフト2の外周面に向けて付勢する。第4の実施形態の軸封装置10において、ケーシング13の機内側リップ131の先端面131Aおよび機外側リップ132の先端面132Aは、それぞれ機内側シールリング11の側面113および機外側シールリング12の側面123に対して離れている。
【0037】
機内に面した機内側シールリング11には冷却媒体Gの圧力が掛かる。機内側リップ131が機内側シールリング11の側面113から離れていると、内向リム111の内周面111Bに冷却媒体Gの圧力を受けて、機内側シールリング11は、シャフト2の外周面から離れる方向、つまり第1のクリアランスC1を広げる方向へ付勢される。
【0038】
このとき第4の実施形態の軸封装置10は、機内側スプリング16を備えているので、機内圧力を高くしても機内側シールリング11を機内圧力を高くする前と同じ大きさに第1のクリアランスC1を維持する。また、機内側スプリング16は、ケーシング13の内壁13Aに接触しないので、機内側シールリング11の内向リム111の曲面に形成された端面111Aをケーシング13の内壁13Aから引き離す方向へ作用しない。
【0039】
このように構成された軸封装置10において、シール油Lの供給圧力と、センタスプリング14、機外側スプリング15および機内側スプリング16の締付力とがバランスすることによって、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2は、機内圧力が高くなる前と同じ状態に維持される。
【0040】
第5の実施形態の軸封装置10は、図9および図10を参照して説明する。図9に示す軸封装置10において、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、曲面に形成されてケーシング13の内壁13Aに接している。機内側リップ131の先端面131Aおよび機外側リップ132の先端面132Aは、どちらも曲面に形成されている。機内側リップ131の先端面131Aは、機内側シールリング11の側面113に線接触し、機外側リップ132の先端面132Aは、機外側シールリング12の側面123に線接触している。
【0041】
ケーシング13は、図9及び図10に示すようにシャフト2の軸心に沿う方向へ機内側リップ131の先端面131Aをケーシング13に対して変位させる内側スライド機構17を備えている。内側スライド機構17は、機内側リップ131が形成された摺動リング171と、この摺動リング171をケーシング13に保持する連結具172と、摺動リング171を機内側シールリング11の側面113に向けて押し出すバネ173とを備える。内側スライド機構17は、摺動リング171がケーシング13に対してスライドする部分において密閉性を維持するように設計されている。
【0042】
回転電機を分解したときにフレーム3とともに分割されるケーシング13の内周に摺動リング171が保持されるように、連結具172は、ケーシング13の周方向に沿って数箇所に配置されていればよい。バネ173は、摺動リング171を機内側シールリング11に向けて均等な力で押すように構成される。したがって、数箇所に分けて配置されていてもよいし、ケーシング13が分割されている大きさに合わせて一続きの円弧に形成されていてもよい。または、バネ173は、摺動リング171と連結具172との間に装着されてもよい。
【0043】
この第5の実施形態において、ケーシング13は、機外側シールリング12よりも機外側かつケーシング13よりも外周の位置P1を支点に支持されている。したがって、機内側の圧力が高くなると、ケーシング13は、図10に示すように位置P1を支点に変位し、全体的にシャフト2に少し接近しつつ、機内側リップ131が機外側リップ132よりもシャフト2に近づくように傾く。
【0044】
図10に示すようにケーシング13が機内圧力によって変位したことによって機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aがケーシング13の内壁13Aから離れても、第5の実施形態の軸封装置は、内側スライド機構17を備えているので、機内側リップ131の先端面131Aを機内側シールリング11の側面113に接触させた状態が維持される。
【0045】
図10に示すように機内圧力を高くした場合でも、機内側シールリング11とケーシング13、機外側シールリング12とケーシング13の間からシール油Lが流れ出ない。したがって、シール油Lの供給圧力と、センタスプリング14及び機外側スプリング15の締付力と、機内圧力とがバランスするので、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2は、図9に示した機内圧力が高くなる前と同じ状態に維持される。シール油LがギャップSから第1のクリアランスC1または第2のクリアランスC2を通って機内側及び機外側へ流れることによって、軸封装置10は、冷却媒体Gを機内に封止する。
【0046】
第6の実施形態の軸封装置10は、図11および図12を参照して説明する。図11に示す軸封装置10において、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、曲面に形成されてケーシング13の内壁13Aに線接触している。機内側リップ131の先端面131Aは、機内側シールリング11の側面113から離れている。機外側リップ132の先端面132Aは、曲面に形成されて機外側シールリング12の側面123に線接触している。また、外向リム121の内周面121Bから機外側リップ132の外周面132Bまでの距離は、内向リム111の内周面111Bから機内側リップ131の外周面131Bまでの距離よりも大きく形成されている。
【0047】
この実施形態の軸封装置10は、図11及び図12に示すようにシャフト2の軸心に沿う方向へ機外側リップ132の先端面132Aをケーシング13に対して変位させる外側スライド機構18を備えている。外側スライド機構18は、機外側リップ132が形成された摺動リング181と、この摺動リング181をケーシング13に保持する連結具182と、摺動リング181を機外側シールリング12の側面123に向けて押し出すバネ183とを備えている。外側スライド機構18は、第5の実施形態における内側スライド機構17と同様に、摺動リング181がケーシング13に対してスライドする部分において密閉性を維持するように設計されている。
【0048】
回転電機を分解したときにフレーム3とともに分割されるケーシング13の内周に摺動リング181が保持されるように、連結具182は、ケーシング13の周方向に沿って数箇所に配置されていればよい。バネ183は、摺動リング181を機外側シールリング12に向けて均等な力で押すように構成される。したがって、数箇所に分けて配置されていてもよいし、ケーシング13が分割される大きさに合わせて一続きの円弧に形成されていてもよい。または、バネ183は、摺動リング181と連結具182との間に装着されてもよい。
【0049】
この第6の実施形態の軸封装置10において、ケーシング13は、センタスプリング14よりも機内側かつケーシング13よりも外周の位置P2を支点に支持されている。したがって、機内側の圧力が高くなると、ケーシング13は、図12に示すように位置P2を支点に変位し、全体的にシャフト2から少し離れつつ、機外側リップ132が機内側リップ131よりもシャフト2から離れるように傾く。
【0050】
このとき、機内側リップ131の先端面131Aが機内側シールリング11の側面113から離れているので、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、ケーシング13の内壁13Aに線接触した状態に維持される。また、機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bは、図12に示すようにケーシング13が機内圧力によって傾いた場合でも、機外側リップ132の外周面132Bに当接しない程度に十分に離れている。したがって、機外側シールリング12は、シャフト2に対して第2のクリアランスC2を一定に維持する。
【0051】
機内側シールリング11及び機外側シールリング12に対してケーシング13が傾いたことによって、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aがケーシング13の内壁13Aに対して線接触する位置から機外側リップ132の先端面132Aが機外側シールリング12の側面123に対して線接触する位置までの距離が短くなる。この軸封装置10は、外側スライド機構18を備えているので、機外側リップ132の先端面132Aは、機外側シールリング12の側面123に線接触した状態に維持される。
【0052】
機内圧力を高くした場合でも、図12に示すように機内側シールリング11とケーシングの間、機外側シールリング12とケーシング13の間からシール油Lが流出しない。したがって、シール油Lの供給圧力と、センタスプリング14及び機外側スプリング15の締付力と、回転電機の機内圧力とがバランスするので、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2は、図11に示す機内圧力が高くなる前と同じ状態に維持される。そして、シール油LがギャップSから第1のクリアランスC1または第2のクリアランスC2を通ってきな側及び機外側へ流れることによって、軸封装置10は、冷却媒体Gを機内に封止する。
【0053】
以上のように、第1から第6の実施形態の軸封装置10によれば、回転子や固定子のコイルを冷却する能力を高めるために回転電機の機内圧力を高くした場合でも、機内側シールリング11及び機外側シールリング12は、機内圧力を高くする前と同じ状態に維持される。シール油Lの循環経路となるギャップSと第1のクリアランスC1及び第2のクリアランスC2が機内圧力を高くする前と後とで変化することなく一定に保たれるので、軸封装置10は、機内圧力を高くしても機内圧力が低いときと同様に冷却媒体を機内に封止する。この軸封装置10を採用する回転電機は、定格運転中の機内圧力を高めて回転子や固定子のコイルを効率よく冷却することで、発電効率が向上し、環境負荷を減らすことができる。
【0054】
上述の第1から第6の実施形態の各軸封装置10のそれぞれの構成は、構造上の矛盾を生じない限り、適宜組み換えて構成させてもよい。例えば、第3の実施形態の軸封装置10の第1の弾性部材133および第2の弾性部材134を第1および第4の実施形態の軸封装置10のそれぞれ同じ部位、または、第2の実施形態の軸封装置10の機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aとケーシング13の内壁13Aの間および機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bとケーシングの機外側リップ132の外周面132Bの間に、それぞれ採用してもよい。
【0055】
また、第1から第6の実施形態の軸封装置10は、いずれもケーシング13の内壁13A,13Bが平坦に形成されているのに対して、ケーシング13が機内圧力の変化に応じて変位する場合に機内側シールリング11の内向リム111の曲面に形成された端面111Aおよび機外側シールリング12の外向リム121の曲面に形成された端面121Aにそれぞれ線接触する形状であれば、それぞれの端面111A,121Aよりも曲率半径が大きい緩やかな凹曲面に形成されていてもよい。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1…回転電機、2…シャフト、3…フレーム、10…軸封装置、11…機内側シールリング、111…内向リム、111A…端面、111B…内周面、113…側面、114…溝、12…機外側シールリング、121…外向リム、121A…端面、121B…内周面、123…側面、13…ケーシング、13A…(機内側の)内壁、13B…(機外側の)内壁、131…機内側リップ、131A…先端面、131B…外周面、132…機外側リップ、132A…先端面、132B…外周面、133…第1の弾性部材、14…センタスプリング、15…機外側スプリング、16…機内側スプリング、17…内側スライド機構、18…外側スライド機構、G…冷却媒体、C1…第1のクリアランス、C2…第2のクリアランス、S…ギャップ、L…シール油、P1…機外側シールリングよりも機外側かつケーシングよりも外周の位置、P2…センタスプリングよりも機内側かつケーシングよりも外周の位置。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、冷却媒体として気体を用いる回転電機の軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、エネルギー変換効率をよくするために、機内の回転子や固定子などを冷却する。このとき、冷却媒体として水素ガスを使用している。冷却媒体を機内に封じ込めておくために、回転子のシャフトとフレームとの間に軸封装置が設置される。軸封装置は、シャフトに対して隙間を空けて装着され、隙間にシール油を供給するための軸方向ギャップが形成されたシールリングと、このシールリングを覆うシールケーシングと、を備えている。
【0003】
シールリングは、シャフトの軸方向に沿う動きをシールケーシングによって拘束されている。シール油は、シールケーシングとシールリングとの間に機内側のガスの圧力よりも高い圧力で供給され、シールリングのギャップを通過して、シールリングとシャフトとの隙間へ流出する。隙間へ供給されたシール油がシャフトの外周面に沿って回転電機の機内側及び機外側へそれぞれ流出することによって、冷却媒体の水素ガスは、機内に封入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−301575号公報
【特許文献2】特開2006−345697号公報
【特許文献3】特開2006−345696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転電機による環境負荷を低減するためにエネルギー変換効率を高めることが求められている。冷却媒体として水素を用いる回転電機の場合、エネルギー変換効率を高めるために、水素冷却機を大容量にすること、あるいは、損失を低減することが考えられる。このとき損失を低減する方法の一つとして、回転電機の機内のガス圧を高くすることが挙げられる。しかし、ガス圧を高くするには、フレームの耐圧強度を確保するなど、構造上におけるさまざまな検討が必要になる。
【0006】
機内の圧力を高くすると、回転子を覆っているフレームが内圧を受けてわずかながらに膨らむことが予想される。このときシールケーシングが機外側へ変位し、シールリングとシャフトとの隙間が変化すると、シール油の流れが変わり密閉性が低下するかもしれない。シールケーシングが変位しないようにフレームやシールケーシングの剛性を高めるには、部材そのものの厚みを大きくするか構造的に改善する必要がある。しかし、いずれの場合もフレーム及びシールケーシングが嵩張る結果となる。
【0007】
また、シールリング及びシールケーシングは、回転電機を運転している間に取り替えることができないので、部品点数を増やしたり複雑な構造を採用したりすることはなるべく避けたい。
【0008】
そこで、本発明は、機内圧力を高くすることによってシールリングのケーシングが変位しても機内に冷却媒体を封止する回転電機の軸封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態の軸封装置は、回転電機のシャフトとフレームとの間に装備され機内に冷却媒体を封入する軸封措置であって、機内側シールリングと、機外側シールリングと、ケーシングと、センタスプリングとを備える。機内側シールリングは、シャフトの外周面の全周にわたって第1のクリアランスを有して装着され、機内側へ突出する内向リムを外周部に有する。機外側シールリングは、シャフトの外周面の全周にわたって第2のクリアランスを有し機内側シールリングに対してギャップを空けて機外寄りに装着され、機外側へ突出する外向リムを外周部に有する。ケーシングは、フレームに支持され内向リム及び外向リムの外周を囲いシール油が供給される。センタスプリングは、機内側シールリング及び機外側シールリングに外周側から当接し、ギャップを広げるとともに機内側シールリング及び機外側シールリングをシャフトに向かって締め付ける方向に作用する。そして、ケーシングは、シャフトの軸心を中心とする円に沿って機内側シールリング及び機外側シールリングの少なくとも一方と線接触することによって、シール油を封止するとともに、機内側シールリング及び機外側シールリングは、ギャップから第1のクリアランス及び第2のクリアランスを通して機内側及び機外側へシール油を流出させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態の軸封装置が装着された回転電機の端部を示す断面図。
【図2】図1に示した軸封装置の断面図。
【図3】図2に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【図4】第2の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図5】図4に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【図6】第3の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図7】第4の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図8】図7に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【図9】第5の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図10】図9に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【図11】第6の実施形態の軸封装置を示す断面図。
【図12】図11に示した軸封装置に機内側から圧力がかかった状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の実施形態の軸封装置10は、図1から図3を参照して説明する。軸封装置10は、図1に示すように、回転電機1の回転子のシャフト2と回転子の外周に配置される固定子を収納するフレーム3との間に装備される。回転電機1は、回転子及び固定子のコイルを冷却するために、機内に冷却媒体Gとして水素ガスを循環させている。軸封装置10は、冷却媒体Gを機内に封入するために設けられており、シャフト2を支持する軸受4よりも機内側に取り付けられている。この明細書中において、シャフト2の軸心を基準とし、軸心に近い側を「内周」、軸心から遠い側を「外周」、シャフト2に沿って中央寄りを「機内側」、シャフト2の端部寄りを「機外側」と呼ぶ。
【0012】
軸封装置10は、図2に示すように、機内側シールリング11と、機外側シールリング12と、ケーシング13と、センタスプリング14とを備える。機内側シールリング11は、シャフト2の外周面の全周にわたって一定の第1のクリアランスC1を空けて装着されており、機内側へ突出する内向リム111を外周部に備えている。機外側シールリング12は、シャフト2の外周面の全周にわたって一定の第2のクリアランスC2を空けて装着されており、機外側へ突出する外向リム121を外周部に備えている。機外側シールリング12は、機内側シールリング11に対してギャップSを空けて機外側に装着される。機内側シールリング11及び機外側シールリング12は、それぞれ半周ずつに分割して形成されている。
【0013】
ケーシング13は、隔壁130によってフレーム3に支持されており、内向リム111及び外向リム121の外周を囲っている。ケーシング13の内部には、シール油Lが供給される。このケーシング13は、機内側リップ131と機外側リップ132とを備えている。機内側リップ131は、内向リム111を回り込み、内向リム111とシャフト2との間に延びている。機外側リップ132は、外向リム121を回り込み、外向リム121とシャフト2との間に延びている。
【0014】
センタスプリング14は、互いに隣り合う機内側シールリング11及び機外側シールリング12の外周部の角に形成されたテーパ面112,122によって構成される溝に装着されている。センタスプリング14は、機内側シールリング11のテーパ面112及び機外側シールリング12のテーパ面122にそれぞれ当接することによって、ギャップSを押し広げるとともに機内側シールリング11及び機外側シールリング12をシャフト2に向って締め付けるように作用する。
【0015】
ケーシング13は、シャフト2の軸心を中心とする円に沿って、機内側シールリング11及び機外側シールリング12の少なくとも一方と線接触する。本実施形態においてケーシング13は、図2に示すように、機内側シールリング11及び機外側シールリング12のいずれとも線接触している。機内側シールリング11とケーシング13とが線接触するために、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、機内側へ膨らんだ曲面に形成されており、ケーシング13の内壁13Aに線接触する。また、機外側シールリング12とケーシング13とが線接触するために、ケーシング13の機外側リップ132の先端面132Aは、機内側へ膨らんだ曲面に形成されており、機外側シールリング12の機外に向いた側面123に線接触する。
【0016】
また、この実施形態の軸封装置10は、図2に示すように機外側スプリング15をさらに備えている。機外側スプリング15は、機外側シールリング12の外向リム121の外周の角に形成されたテーパ面124およびケーシング13の内壁13Bに当接するように装着されている。機外側スプリング15は、機外側シールリング12を機内側に付勢するとともにシャフト2の外周面に向けて付勢する。
【0017】
以上のように構成された軸封装置10は、内向リム111の端面111Aとケーシング13の内壁13A、機外側リップ132の先端面132Aと機外側シールリング12の側面123のそれぞれにおいて、線接触しているので、ケーシング13内に供給されたシール油Lを封止する。また、機内側シールリング11及び機外側シールリング12は、ギャップSからそれぞれ第1のクリアランスC1及び第2のクリアランスC2へ、シール油Lを流通させる。
【0018】
冷却媒体Gである水素ガスの冷却能力を高めるために機内圧力を高める、すなわち水素ガスの密度を高めると、フレーム3が変形したりケーシング13を支持する隔壁130がダイヤフラムのように機外側へ変形したりする。これによって、ケーシング13は、図3に示すようにケーシング13の外周側を支点に機外側へロールするように変位することが予想される。
【0019】
第1の実施形態の軸封装置10において、内向リム111の端面111Aおよび機外側リップ132の先端面132Aがどちらも機内側に膨らんだ曲面に形成されているので、フレーム3やケーシング13が変位した場合であっても、機内側シールリング11及び機外側シールリング12がケーシング13に伴って捻れることなく、機内側シールリング11とケーシング13、および機外側シールリング12とケーシング13がそれぞれ線接触した状態を維持する。
【0020】
そして、シール油Lの供給圧力と、センタスプリング14及び機外側スプリング15の締付力が均衡することによって、ギャップS、第1のクリアランスC1及び第2のクリアランスC2は、機内圧力を上げる前と同じ状態に維持される。つまり、冷却媒体Gの圧力を高めても、軸封装置10は、冷却媒体Gを機内に密封する。
【0021】
図2に示す状態から図3に示す状態へケーシング13が捻れるように変位する場合、機内側リップ131の先端面131Aは、機内側シールリング11の機内に面した側面113に接近する。そこで、機内側リップ131の先端面131Aは、この変形量を考慮して、機内側シールリング11の側面113から離れた状態に形成する。
【0022】
また、回転電機1の機内は、冷却媒体Gの圧力が作用しているので、機内側シールリング11は、機外側へ圧力を受ける。このとき、第1の実施形態の軸封装置10の場合、機外側スプリング15を備えている。したがって、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、機外側スプリング15によってケーシング13の内壁13Aに押し当てられ、線接触した状態が維持される。さらに機外側スプリング15は、機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bが機外側へ開くことを防止している。
【0023】
なお、軸封装置10の機外側は、大気圧であるので、ギャップSから第1のクリアランスC1または第2のクリアランスC2へと流れるシール油Lの圧力が維持されれば、機外側シールリング12とケーシング13との間は、完璧に封止されている必要はない。機外側シールリング12とケーシング13との間は、線接触させる代わりに、柔軟性を有したパッキンやガスケットなどを装着してもよい。
【0024】
機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aおよびケーシング13の機外側リップ132の先端面132Aは、曲率が一定な曲面に形成するか、機内の圧力変化に伴うフレーム3および隔壁130の変形を加味した曲率が変化する曲面に形成するかは、回転電機1の仕様や運転条件に応じて適宜選択される。つまり、回転電機1が定格運転中である間、軸封装置10の機内側シールリング11および機外側シールリング12が理想的な位置に納まるように、軸封装置10の各部の寸法が決定される。
【0025】
第2から第6の実施形態の軸封装置10は、それぞれ図面を参照して以下に説明する。各実施形態の軸封装置10において、第1の実施形態の軸封装置10と同じ機能を有する構成は、図中に同じ符号を付してその説明を省略する。また、軸封装置10の周囲の回転電機1の構成は、第1の実施形態に記載した内容および図1を参酌する。
【0026】
第2の実施形態の軸封装置10は、図4および図5を参照して説明する。図4および図5に示す軸封装置10において、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、ケーシング13の内壁13Aの内壁に接触しない平坦に形成されている。ケーシング13の機内側リップ131の先端面131Aが機外側へ膨らむ曲面に形成されており、機内側シールリング11の機内側の側面113に線接触している。また、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aが機外側へ膨らんだ曲面に形成されており、ケーシング13の内壁13Bに線接触している。ケーシング13の機外側リップ132の先端面132Aは、平坦に形成され、内圧がかかってケーシング13が変位した場合でも機外側シールリング12の側面123に接触しない。この他の構成は、第1の実施形態の軸封装置10と同じである。
【0027】
この軸封装置10は、機内側リップ131の先端面131Aおよび機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aがいずれも機外側へ膨らんだ曲面に形成されている。したがって、冷却効率を高めるために機内の圧力を高めることによってケーシング13が図4に示す状態から図5に示すように変位した場合でも、ケーシング13に伴って機内側シールリング11および機外側シールリング12が捻れない。機内側シールリング11とケーシング13、機外側シールリング12とケーシング13がそれぞれ線接触した状態が維持される。また、シール油Lの供給圧力とセンタスプリング14および機外側スプリング15の締付力が均衡することによって、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2は、機内圧力を上げる前と同じ状態に維持される。
【0028】
第2の実施形態にでは、図4および図5に示すように機内圧力を高くする前後のいずれでも機外側リップ132の先端面132Aは、機外側シールリング12の側面123から離れている状態であり、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aは、ケーシング13の内壁13Bに線接触した状態である。機内圧力を高くする前では、機外側リップ132の先端面132Aを機外側シールリング12の側面123に当接した状態に、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aをケーシング13の内壁13Bから離した状態にしておき、機内圧力を高くした後は、機外側リップ132の先端面132Aを機外側シールリング12の側面123から離れた状態に、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aをケーシング13の内壁13Bに線接触した状態に、それぞれなるように構成されていてもよい。
【0029】
また、第2の実施形態では、図4および図5に示すように機内圧力を高くする前後のいずれにおいても機内側リップ131の先端面131Aは、機内側シールリング11の側面113に当接した状態に、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、ケーシング13の内壁13Aから離れている状態である。機内圧力を高くする前では、機内側リップ131の先端面131Aを機内側シールリング11の側面113から離れた状態に、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aをケーシング13の内壁13Aに当接した状態にしておき、機内圧力を高くした後は、機内側リップ131の先端面131Aを機内側シールリング11の側面113に線接触した状態に、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aをケーシング13の内壁13Aに線接触した状態に、それぞれなるように構成されていてもよい。
【0030】
第3の実施形態の軸封装置10は、図6を参照して説明する。図6に示す軸封装置10において機内側シールリング11と機外側シールリング12は、第1の実施形態の機内側シールリング11および機外側シールリング12と同じ構成である。そして、この軸封装置10は、機内側シールリング11の側面113に接触する第1の弾性部材133を機内側リップ131の先端部に有し、機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bに接触する第2の弾性部材134を機外側リップ132の外周面132Bに有している点が、第1の実施形態と異なっている。
【0031】
以上のように構成されている軸封装置10は、機内側シールリング11の内向リム111の曲面に形成された端面111Aがケーシング13の内壁13Aに線接触しており、機外側スプリング15が機内側シールリング11および機外側シールリング12を機内側へ付勢している。機内圧力を上げた場合にケーシング13が第1の実施形態や第2の実施形態のように変位すると、第1の弾性部材133は、機内側シールリング11の側面113に押し当てられて偏平し、第2の弾性部材134は、機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bに押し当てられて偏平する。
【0032】
ケーシング13が変位しても、機内側シールリング11および機外側シールリング12は、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2を機内圧力が高くなる前と同様に維持する。また、機内圧力を高くしたことに応じてシール油Lの供給圧力が高くなった場合、第1の弾性部材133および第2の弾性部材134は、機内圧力を高くする前に比べて強く機内側シールリング11および機外側シールリング12のそれぞれに押し当てられる。機内側シールリング11とケーシング13、機外側シールリング12とケーシング13の間の密閉性も強くなる。
【0033】
第1の弾性部材133および第2の弾性部材134としてネオプレーンゴムやウレタンゴム、シリコーンゴムなどが採用される。ケーシング13が変位することによって第1の弾性部材133や第2の弾性部材134が偏平する量は、ごくわずかであるので、求められる弾力性や密閉性を満足すれば、弾性部材の変わりにガスケットやパッキンなどを採用してもよい。
【0034】
シール油Lの供給圧力は、機内圧力よりも高く設定される。したがって、機内圧力を高くする場合、ケーシング13内部のシール油Lの圧力とケーシング13の機外側の大気圧との差圧も大きくなる。このような場合、第2の弾性部材134のシール機能を補助するために、大気圧側にバックアップリングを第2の弾性部材134とともに装着する。
【0035】
第4の実施形態の軸封装置10は、図7および図8を参照して説明する。図7および図8に示す軸封装置10において、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、曲面に形成されてケーシング13の内壁13Aに線接触している。また、機外側シールリング12の外向リム121の端面121Aも、曲面に形成されてケーシング13の内壁13Bに線接触している。そして、ケーシング13の機内側リップ131の先端面131Aおよび機外側リップ132の先端面132Aは、機内側シールリング11の側面113および機外側シールリング12の側面123から離れた状態である。
【0036】
この軸封装置10は、図7および図8に示すように、さらに機内側スプリング16を備えている。機内側スプリング16は、機内側シールリング11の外周部に形成された溝114に装着され、機内側シールリング11をシャフト2の外周面に向けて付勢する。第4の実施形態の軸封装置10において、ケーシング13の機内側リップ131の先端面131Aおよび機外側リップ132の先端面132Aは、それぞれ機内側シールリング11の側面113および機外側シールリング12の側面123に対して離れている。
【0037】
機内に面した機内側シールリング11には冷却媒体Gの圧力が掛かる。機内側リップ131が機内側シールリング11の側面113から離れていると、内向リム111の内周面111Bに冷却媒体Gの圧力を受けて、機内側シールリング11は、シャフト2の外周面から離れる方向、つまり第1のクリアランスC1を広げる方向へ付勢される。
【0038】
このとき第4の実施形態の軸封装置10は、機内側スプリング16を備えているので、機内圧力を高くしても機内側シールリング11を機内圧力を高くする前と同じ大きさに第1のクリアランスC1を維持する。また、機内側スプリング16は、ケーシング13の内壁13Aに接触しないので、機内側シールリング11の内向リム111の曲面に形成された端面111Aをケーシング13の内壁13Aから引き離す方向へ作用しない。
【0039】
このように構成された軸封装置10において、シール油Lの供給圧力と、センタスプリング14、機外側スプリング15および機内側スプリング16の締付力とがバランスすることによって、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2は、機内圧力が高くなる前と同じ状態に維持される。
【0040】
第5の実施形態の軸封装置10は、図9および図10を参照して説明する。図9に示す軸封装置10において、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、曲面に形成されてケーシング13の内壁13Aに接している。機内側リップ131の先端面131Aおよび機外側リップ132の先端面132Aは、どちらも曲面に形成されている。機内側リップ131の先端面131Aは、機内側シールリング11の側面113に線接触し、機外側リップ132の先端面132Aは、機外側シールリング12の側面123に線接触している。
【0041】
ケーシング13は、図9及び図10に示すようにシャフト2の軸心に沿う方向へ機内側リップ131の先端面131Aをケーシング13に対して変位させる内側スライド機構17を備えている。内側スライド機構17は、機内側リップ131が形成された摺動リング171と、この摺動リング171をケーシング13に保持する連結具172と、摺動リング171を機内側シールリング11の側面113に向けて押し出すバネ173とを備える。内側スライド機構17は、摺動リング171がケーシング13に対してスライドする部分において密閉性を維持するように設計されている。
【0042】
回転電機を分解したときにフレーム3とともに分割されるケーシング13の内周に摺動リング171が保持されるように、連結具172は、ケーシング13の周方向に沿って数箇所に配置されていればよい。バネ173は、摺動リング171を機内側シールリング11に向けて均等な力で押すように構成される。したがって、数箇所に分けて配置されていてもよいし、ケーシング13が分割されている大きさに合わせて一続きの円弧に形成されていてもよい。または、バネ173は、摺動リング171と連結具172との間に装着されてもよい。
【0043】
この第5の実施形態において、ケーシング13は、機外側シールリング12よりも機外側かつケーシング13よりも外周の位置P1を支点に支持されている。したがって、機内側の圧力が高くなると、ケーシング13は、図10に示すように位置P1を支点に変位し、全体的にシャフト2に少し接近しつつ、機内側リップ131が機外側リップ132よりもシャフト2に近づくように傾く。
【0044】
図10に示すようにケーシング13が機内圧力によって変位したことによって機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aがケーシング13の内壁13Aから離れても、第5の実施形態の軸封装置は、内側スライド機構17を備えているので、機内側リップ131の先端面131Aを機内側シールリング11の側面113に接触させた状態が維持される。
【0045】
図10に示すように機内圧力を高くした場合でも、機内側シールリング11とケーシング13、機外側シールリング12とケーシング13の間からシール油Lが流れ出ない。したがって、シール油Lの供給圧力と、センタスプリング14及び機外側スプリング15の締付力と、機内圧力とがバランスするので、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2は、図9に示した機内圧力が高くなる前と同じ状態に維持される。シール油LがギャップSから第1のクリアランスC1または第2のクリアランスC2を通って機内側及び機外側へ流れることによって、軸封装置10は、冷却媒体Gを機内に封止する。
【0046】
第6の実施形態の軸封装置10は、図11および図12を参照して説明する。図11に示す軸封装置10において、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、曲面に形成されてケーシング13の内壁13Aに線接触している。機内側リップ131の先端面131Aは、機内側シールリング11の側面113から離れている。機外側リップ132の先端面132Aは、曲面に形成されて機外側シールリング12の側面123に線接触している。また、外向リム121の内周面121Bから機外側リップ132の外周面132Bまでの距離は、内向リム111の内周面111Bから機内側リップ131の外周面131Bまでの距離よりも大きく形成されている。
【0047】
この実施形態の軸封装置10は、図11及び図12に示すようにシャフト2の軸心に沿う方向へ機外側リップ132の先端面132Aをケーシング13に対して変位させる外側スライド機構18を備えている。外側スライド機構18は、機外側リップ132が形成された摺動リング181と、この摺動リング181をケーシング13に保持する連結具182と、摺動リング181を機外側シールリング12の側面123に向けて押し出すバネ183とを備えている。外側スライド機構18は、第5の実施形態における内側スライド機構17と同様に、摺動リング181がケーシング13に対してスライドする部分において密閉性を維持するように設計されている。
【0048】
回転電機を分解したときにフレーム3とともに分割されるケーシング13の内周に摺動リング181が保持されるように、連結具182は、ケーシング13の周方向に沿って数箇所に配置されていればよい。バネ183は、摺動リング181を機外側シールリング12に向けて均等な力で押すように構成される。したがって、数箇所に分けて配置されていてもよいし、ケーシング13が分割される大きさに合わせて一続きの円弧に形成されていてもよい。または、バネ183は、摺動リング181と連結具182との間に装着されてもよい。
【0049】
この第6の実施形態の軸封装置10において、ケーシング13は、センタスプリング14よりも機内側かつケーシング13よりも外周の位置P2を支点に支持されている。したがって、機内側の圧力が高くなると、ケーシング13は、図12に示すように位置P2を支点に変位し、全体的にシャフト2から少し離れつつ、機外側リップ132が機内側リップ131よりもシャフト2から離れるように傾く。
【0050】
このとき、機内側リップ131の先端面131Aが機内側シールリング11の側面113から離れているので、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aは、ケーシング13の内壁13Aに線接触した状態に維持される。また、機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bは、図12に示すようにケーシング13が機内圧力によって傾いた場合でも、機外側リップ132の外周面132Bに当接しない程度に十分に離れている。したがって、機外側シールリング12は、シャフト2に対して第2のクリアランスC2を一定に維持する。
【0051】
機内側シールリング11及び機外側シールリング12に対してケーシング13が傾いたことによって、機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aがケーシング13の内壁13Aに対して線接触する位置から機外側リップ132の先端面132Aが機外側シールリング12の側面123に対して線接触する位置までの距離が短くなる。この軸封装置10は、外側スライド機構18を備えているので、機外側リップ132の先端面132Aは、機外側シールリング12の側面123に線接触した状態に維持される。
【0052】
機内圧力を高くした場合でも、図12に示すように機内側シールリング11とケーシングの間、機外側シールリング12とケーシング13の間からシール油Lが流出しない。したがって、シール油Lの供給圧力と、センタスプリング14及び機外側スプリング15の締付力と、回転電機の機内圧力とがバランスするので、ギャップSと第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2は、図11に示す機内圧力が高くなる前と同じ状態に維持される。そして、シール油LがギャップSから第1のクリアランスC1または第2のクリアランスC2を通ってきな側及び機外側へ流れることによって、軸封装置10は、冷却媒体Gを機内に封止する。
【0053】
以上のように、第1から第6の実施形態の軸封装置10によれば、回転子や固定子のコイルを冷却する能力を高めるために回転電機の機内圧力を高くした場合でも、機内側シールリング11及び機外側シールリング12は、機内圧力を高くする前と同じ状態に維持される。シール油Lの循環経路となるギャップSと第1のクリアランスC1及び第2のクリアランスC2が機内圧力を高くする前と後とで変化することなく一定に保たれるので、軸封装置10は、機内圧力を高くしても機内圧力が低いときと同様に冷却媒体を機内に封止する。この軸封装置10を採用する回転電機は、定格運転中の機内圧力を高めて回転子や固定子のコイルを効率よく冷却することで、発電効率が向上し、環境負荷を減らすことができる。
【0054】
上述の第1から第6の実施形態の各軸封装置10のそれぞれの構成は、構造上の矛盾を生じない限り、適宜組み換えて構成させてもよい。例えば、第3の実施形態の軸封装置10の第1の弾性部材133および第2の弾性部材134を第1および第4の実施形態の軸封装置10のそれぞれ同じ部位、または、第2の実施形態の軸封装置10の機内側シールリング11の内向リム111の端面111Aとケーシング13の内壁13Aの間および機外側シールリング12の外向リム121の内周面121Bとケーシングの機外側リップ132の外周面132Bの間に、それぞれ採用してもよい。
【0055】
また、第1から第6の実施形態の軸封装置10は、いずれもケーシング13の内壁13A,13Bが平坦に形成されているのに対して、ケーシング13が機内圧力の変化に応じて変位する場合に機内側シールリング11の内向リム111の曲面に形成された端面111Aおよび機外側シールリング12の外向リム121の曲面に形成された端面121Aにそれぞれ線接触する形状であれば、それぞれの端面111A,121Aよりも曲率半径が大きい緩やかな凹曲面に形成されていてもよい。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1…回転電機、2…シャフト、3…フレーム、10…軸封装置、11…機内側シールリング、111…内向リム、111A…端面、111B…内周面、113…側面、114…溝、12…機外側シールリング、121…外向リム、121A…端面、121B…内周面、123…側面、13…ケーシング、13A…(機内側の)内壁、13B…(機外側の)内壁、131…機内側リップ、131A…先端面、131B…外周面、132…機外側リップ、132A…先端面、132B…外周面、133…第1の弾性部材、14…センタスプリング、15…機外側スプリング、16…機内側スプリング、17…内側スライド機構、18…外側スライド機構、G…冷却媒体、C1…第1のクリアランス、C2…第2のクリアランス、S…ギャップ、L…シール油、P1…機外側シールリングよりも機外側かつケーシングよりも外周の位置、P2…センタスプリングよりも機内側かつケーシングよりも外周の位置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のシャフトとフレームとの間に装備されて機内に冷却媒体を封入する軸封装置であって、
前記シャフトの外周面の全周にわたって第1のクリアランスを有して装着され機内側へ突出する内向リムを外周部に有する機内側シールリングと、
前記シャフトの外周面の全周にわたって第2のクリアランスを有し前記機内側シールリングに対してギャップを空けて機外寄りに装着され機外側へ突出する外向リムを外周部に有する機外側シールリングと、
前記フレームに支持され前記内向リム及び前記外向リムの外周を囲いシール油が供給されるケーシングと、
前記機内側シールリング及び前記機外側シールリングに外周側から当接し前記ギャップを広げるとともに前記機内側シールリング及び前記機外側シールリングを前記シャフトに向かって締め付ける方向に作用するセンタスプリングと、
を備え、
前記ケーシングは、前記シャフトの軸心を中心とする円に沿って前記機内側シールリング及び前記機外側シールリングの少なくとも一方と線接触することによって、前記シール油を封止し、
前記機内側シールリング及び前記機外側シールリングは、前記ギャップから前記第1のクリアランス及び前記第2のクリアランスへ前記シール油を流通させる
ことを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記内向リムの端面は、前記ケーシングの内壁に線接触する曲面に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項3】
前記外向リムの端面は、前記ケーシングの内壁に線接触する曲面に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項4】
前記ケーシングは、前記外向リムと前記シャフトの外周面との間に延びた機外側リップを有し、この機外側リップの先端面は、前記機外側シールリングの機外に向いた側面に線接触する曲面に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項5】
前記ケーシングは、前記内向リムと前記シャフトの外周面との間に延びた機内側リップを有し、この機内側リップの先端面は、前記機内側シールリングの機内に向いた側面に線接触する曲面に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項6】
前記ケーシングは、前記内向リムと前記シャフトの外周面との間に延びて先端にグルーブが形成された機内側リップを有し、前記機内側シールリングの機内に向いた側面に接触する弾性部材を前記グルーブに装着される
ことを特徴とする請求項2に記載された軸封装置。
【請求項7】
前記ケーシングは、前記内向リムと前記シャフトの外周面との間に延びた機内側リップを有し、この機内側リップの先端面は、前記機内側シールリングの機内に向いた側面から離れている
ことを特徴とする請求項2に記載された軸封装置。
【請求項8】
前記機外側シールリングの前記外向リムの外周及び前記ケーシングの内壁に当接し前記機外側シールリングを機内及び前記シャフトの外周面に向けて付勢する機外側スプリング
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載された軸封装置。
【請求項9】
前記機外側スプリングの締付力は、前記センタスプリングの締付力よりも小さい
ことを特徴とする請求項8に記載された軸封装置。
【請求項10】
前記機内側シールリングの前記内向リムの外周部に形成された溝に装着され前記機内側シールリングを前記シャフトの外周面に向けて付勢する機内側スプリング
をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載された軸封装置。
【請求項11】
前記ケーシングは、前記機内側リップの前記先端面を前記機内側シールリングの側面に線接触させた状態を維持するために前記先端面を前記シャフトの軸心に沿う方向へ変位させる内側スライド機構を備える
ことを特徴とする請求項5に記載された軸封装置。
【請求項12】
前記ケーシングは、前記機外側リップの前記先端面を前記機外側シールリングの側面に線接触させた状態を維持するために前記先端面を前記シャフトの軸心に沿う方向へ変位させる外側スライド機構を備える
ことを特徴とする請求項4に記載された軸封装置。
【請求項13】
前記ケーシングは、前記機外側シールリングよりも機外側かつ前記ケーシングよりも外周の位置を支点に支持される
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項14】
前記ケーシングは、前記センタスプリングよりも機内側かつ前記ケーシングよりも外周の位置を支点に支持される
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項15】
前記外向リムの内周面から前記機外側リップの外周面までの距離は、前記内向リムの内周面から前記機内側リップの外周面までの距離よりも大きく形成される
ことを特徴とする請求項14に記載された軸封装置。
【請求項1】
回転電機のシャフトとフレームとの間に装備されて機内に冷却媒体を封入する軸封装置であって、
前記シャフトの外周面の全周にわたって第1のクリアランスを有して装着され機内側へ突出する内向リムを外周部に有する機内側シールリングと、
前記シャフトの外周面の全周にわたって第2のクリアランスを有し前記機内側シールリングに対してギャップを空けて機外寄りに装着され機外側へ突出する外向リムを外周部に有する機外側シールリングと、
前記フレームに支持され前記内向リム及び前記外向リムの外周を囲いシール油が供給されるケーシングと、
前記機内側シールリング及び前記機外側シールリングに外周側から当接し前記ギャップを広げるとともに前記機内側シールリング及び前記機外側シールリングを前記シャフトに向かって締め付ける方向に作用するセンタスプリングと、
を備え、
前記ケーシングは、前記シャフトの軸心を中心とする円に沿って前記機内側シールリング及び前記機外側シールリングの少なくとも一方と線接触することによって、前記シール油を封止し、
前記機内側シールリング及び前記機外側シールリングは、前記ギャップから前記第1のクリアランス及び前記第2のクリアランスへ前記シール油を流通させる
ことを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記内向リムの端面は、前記ケーシングの内壁に線接触する曲面に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項3】
前記外向リムの端面は、前記ケーシングの内壁に線接触する曲面に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項4】
前記ケーシングは、前記外向リムと前記シャフトの外周面との間に延びた機外側リップを有し、この機外側リップの先端面は、前記機外側シールリングの機外に向いた側面に線接触する曲面に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項5】
前記ケーシングは、前記内向リムと前記シャフトの外周面との間に延びた機内側リップを有し、この機内側リップの先端面は、前記機内側シールリングの機内に向いた側面に線接触する曲面に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項6】
前記ケーシングは、前記内向リムと前記シャフトの外周面との間に延びて先端にグルーブが形成された機内側リップを有し、前記機内側シールリングの機内に向いた側面に接触する弾性部材を前記グルーブに装着される
ことを特徴とする請求項2に記載された軸封装置。
【請求項7】
前記ケーシングは、前記内向リムと前記シャフトの外周面との間に延びた機内側リップを有し、この機内側リップの先端面は、前記機内側シールリングの機内に向いた側面から離れている
ことを特徴とする請求項2に記載された軸封装置。
【請求項8】
前記機外側シールリングの前記外向リムの外周及び前記ケーシングの内壁に当接し前記機外側シールリングを機内及び前記シャフトの外周面に向けて付勢する機外側スプリング
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載された軸封装置。
【請求項9】
前記機外側スプリングの締付力は、前記センタスプリングの締付力よりも小さい
ことを特徴とする請求項8に記載された軸封装置。
【請求項10】
前記機内側シールリングの前記内向リムの外周部に形成された溝に装着され前記機内側シールリングを前記シャフトの外周面に向けて付勢する機内側スプリング
をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載された軸封装置。
【請求項11】
前記ケーシングは、前記機内側リップの前記先端面を前記機内側シールリングの側面に線接触させた状態を維持するために前記先端面を前記シャフトの軸心に沿う方向へ変位させる内側スライド機構を備える
ことを特徴とする請求項5に記載された軸封装置。
【請求項12】
前記ケーシングは、前記機外側リップの前記先端面を前記機外側シールリングの側面に線接触させた状態を維持するために前記先端面を前記シャフトの軸心に沿う方向へ変位させる外側スライド機構を備える
ことを特徴とする請求項4に記載された軸封装置。
【請求項13】
前記ケーシングは、前記機外側シールリングよりも機外側かつ前記ケーシングよりも外周の位置を支点に支持される
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項14】
前記ケーシングは、前記センタスプリングよりも機内側かつ前記ケーシングよりも外周の位置を支点に支持される
ことを特徴とする請求項1に記載された軸封装置。
【請求項15】
前記外向リムの内周面から前記機外側リップの外周面までの距離は、前記内向リムの内周面から前記機内側リップの外周面までの距離よりも大きく形成される
ことを特徴とする請求項14に記載された軸封装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−110102(P2012−110102A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256101(P2010−256101)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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