説明

回転電機用ロータ

【課題】インナーマグネット型の回転電機において、簡単な構成により強度を確保してブリッジ部を細くすることを可能とする。
【解決手段】設置された状態で回転軸4に沿う方向の両端部において回転軸4に沿う方向に突出した突起部31を有する永久磁石3と、永久磁石3が貫通可能な貫通孔を有する複数の電磁鋼板11を、貫通孔の位置を合わせて積層し、永久磁石3が設置される設置孔13が構成されたロータコア1と、突起部31が係合する係合孔23を有して、ロータコア1の軸方向端部1tにそれぞれ備えられ、設置孔13に配置された永久磁石3が軸方向端部1tから突出する突起部31を係合孔23に係合させて、永久磁石3を固定するエンドプレート2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、様々な機器の動力源として広く利用されている。一般的な永久磁石交流回転電機は、コイルを有するステータと永久磁石を有するロータとを備えて構成される。特開2003−259577号公報(特許文献1)には、ロータに永久磁石を配置するための中空部が形成されたインナーマグネット型同期モータ(IPMSM)のロータ組立体が開示されている。ロータ組立体は、回転軸の周囲に複数枚の円形の電磁鋼板をはめ込んで積層し、その両端を平板状のエンドリングにより挟んで固定して構成される。各電磁鋼板の外周側には、一辺が円形の電磁鋼板の弦に相当するように長方形状の孔が形成されている。
【0003】
このような電磁鋼板が積層されることによって、ロータ組立体の外周側に中空部が形成される。中空部には永久磁石が配置される。ロータ組立体の外周と中空部との間はブリッジ部となる。永久磁石は、ロータ組立体(ロータと同義)の外周近くに配置される方が磁束を有効に利用することができて効率がよい。また、ブリッジ部では磁束が漏れやすく、モータの性能を上げるためには、ブリッジ部をできる限り細くすることが好ましい。しかし、ブリッジ部が細いと、ロータが回転する際に永久磁石に作用する遠心力により、ブリッジ部の付け根の耐久性が損なわれる可能性がある。特許文献1では、ロータの両端にそれぞれ備えられるエンドリングを皿バネとして、両端から電磁鋼板を押さえつけるようにしている。これにより、積層された電磁鋼板同士の摩擦力を高め、ブリッジ部に掛かる応力を低減させている(特許文献1:第1〜6段落、第15〜16段落、図1等)。
【0004】
しかし、特許文献1の構成では、エンドリングを皿バネとしてロータの両端から電磁鋼板を押さえつける構造が必要となるので、部品点数や使用材料が増加し、製造コストが増加する可能性がある。また、構造の複雑化によりロータの重量が増加すると回転電機の効率を低下させる可能性がある。また、電磁鋼板の摩擦力だけでは、永久磁石をロータの外周に近づけ、ブリッジ部を細くするには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−259577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑み、インナーマグネット型の回転電機において、簡単な構成により強度を確保してブリッジ部を細くすることを可能とする技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機用ロータの特徴構成は、
設置された状態で回転軸に沿う方向の両端部において当該回転軸に沿う方向に突出した突起部を有する永久磁石と、
前記永久磁石が貫通可能な貫通孔を有する複数の電磁鋼板を、前記貫通孔の位置を合わせて積層し、前記永久磁石が設置される設置孔が構成されたロータコアと、
前記永久磁石の前記突起部が係合する係合孔を有して、前記電磁鋼板の積層方向両端に位置する前記ロータコアの軸方向端部にそれぞれ備えられ、前記設置孔に配置された前記永久磁石が前記軸方向端部から突出する前記突起部を前記係合孔に係合させて、前記永久磁石を固定するエンドプレートと、を備える点にある。
【0008】
ロータが回転すると、遠心力が発生し、設置孔に配置された永久磁石にも遠心力が作用する。しかし、本特徴構成によれば、永久磁石に作用する遠心力は、永久磁石が設置される設置孔の外周側の壁面には作用しない。即ち、永久磁石は、その突起部がエンドプレートに係合して固定されているため、遠心力はエンドプレートの係合孔に作用する。従って、ロータコアの外周と設置孔との間のいわゆるブリッジ部にも大きな遠心力が作用することはない。その結果、ロータコア(電磁鋼板)においてブリッジ部の幅を狭くすることができる。そのため、ブリッジ部での漏れ磁束を低減させることができるので、回転電機の効率も向上する。
【0009】
ここで、前記突起部が、前記永久磁石が前記ロータコアに設置された状態で前記回転軸側に設けられ、前記エンドプレートが前記ロータコアに設置された状態で前記回転軸側に設けられた前記係合孔に係合されると好適である。上述したように、ロータが回転すると、遠心力が発生し、設置孔に配置された永久磁石に遠心力が作用する。係合孔23Aがエンドプレートの外周側に設けられると、遠心力による破断を防止するために、エンドプレートを厚くしたり、剛性の高い材料で形成したりする必要が生じる。これに対し、永久磁石に作用する遠心力を受け止める係合孔が回転中心側に設けられると、遠心力が作用する点からエンドプレートの外周端部までの距離が長くなる。その結果、遠心力による破断強度が高くなり、エンドプレートを厚くしたり、剛性の高い材料で形成したりする必要がなくなる。
【0010】
また、前記突起部の断面形状及び前記係合孔の孔形状が、四角形であると好適である。遠心力によるねじれを抑制して、効果的に永久磁石を固定することができる。また、応力を四角形の面で受けることができ、応力集中を抑制して遠心力を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ロータの分解斜視図
【図2】ロータの軸方向断面図
【図3】電磁鋼板の永久磁石の貫通孔及びブリッジ部の拡大図
【図4】エンドプレートの係合孔の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る回転電機用ロータ(以下、適宜単に「ロータ」と称す。)の実施形態について説明する。図1の分解斜視図及び図2の軸方向断面図に示すように、ロータ10は、電磁鋼板11が積層されたロータコア1を中核として構成される。ロータコア1は、永久磁石3が貫通可能な貫通孔、及び回転軸4が貫通する貫通孔を有する複数の電磁鋼板11を、貫通孔の位置を合わせて積層することによって構成される。永久磁石3が貫通可能な貫通孔及び回転軸4が貫通する貫通孔の位置を合わせて電磁鋼板11が積層されたロータコア1には、永久磁石3が設置される設置孔13及び回転軸4が設置される軸孔14が形成される。
【0013】
永久磁石3は、ロータコア1に設置された状態で回転軸4に沿う方向の両端部において回転軸4に沿う方向に突出した突起部31を有し、断面形状が四角形(長方形)の平板状の磁石である。上述したように、永久磁石3が貫通可能な四角形(長方形)の貫通孔の位置を合わせて積層されたロータコア1には、永久磁石3が設置される設置孔13が形成される。永久磁石3が設置孔13に設置された状態で、ロータコア1の回転軸4に沿う軸方向端部1tからは永久磁石13の突起部31が突出する。
【0014】
ロータコア1の軸方向(電磁鋼板11の積層方向)の両端、即ち軸方向端部1tには、それぞれエンドプレート2が備えられる。エンドプレート2は、回転軸4が貫通する貫通孔24、及び永久磁石3の突起部31が係合する係合孔23を有して構成される。エンドプレート2は、設置孔13に配置された永久磁石3がロータコア1の軸方向端部1tから突出する部分、即ち突起部31を係合孔23に係合させて、永久磁石3を固定する。エンドプレート2は、非磁性体であることが望ましい。また、薄く、軽いほど、回転電機の損失を低減することができるので、比強度の高い材料であることが望ましい。例えば、エンドプレート2は、ステンレス鋼、Ti合金、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)、ジュラルミン等により形成されると好適である。
【0015】
ロータコア1には、上述したように、回転軸4が固定される軸孔14が形成される。軸孔14の内周面には、スプライン溝14aが形成される。一方、回転軸4の外周面には、軸孔14と係合するようにスプライン溝4aが形成される。回転軸4は、軸孔14に挿入され、互いのスプライン溝4a,14aを係合させて固定される。これにより、ロータコア1と回転軸4とは回転方向への変位を規制されて固定される。回転軸4は回転電機のハウジング(不図示)に回転自在に支持される。不図示のステータは、ロータ10の外周面と所定のギャップを有してロータ10の径方向外側に配置され、回転電機のハウジングに固定される。ステータには、コイルが巻き回され、このコイルへの通電によってステータによる回転磁界が発生する。この回転磁界により、永久磁石3が配置されたロータ10が回転する。
【0016】
尚、エンドプレート2の係合孔23に永久磁石3の突起部31が係合されることにより、電磁鋼板11は、両エンドプレート2の間において固定されるが、さらに回転軸4とエンドプレート2との間でも固定されると好適である。即ち、回転軸4の一方の端部の側にはエンドプレート2の貫通孔24よりも径の大きいフランジ部4fが形成され、回転軸4に沿ったエンドプレート2及び電磁鋼板11の一方の側への移動(抜け)を規制する。回転軸4の他方の側には、C字クリップを案内する案内溝4gが形成される。電磁鋼板11及びエンドプレート2を回転軸4に通した後、案内溝4gに係合させてC字クリップ40を回転軸4に挟持させることによって、回転軸4に沿ったエンドプレート2及び電磁鋼板11の他方の側への移動(抜け)が規制される。即ち、フランジ部4fとC字クリップとの間で電磁鋼板11が固定される。
【0017】
ロータ10が回転すると、遠心力が発生し、設置孔13に配置された永久磁石3に遠心力が作用する。しかし、本構成では、永久磁石3に作用する遠心力は、永久磁石3から設置孔13の壁面には直接的に作用しない。永久磁石3は、その突起部31をエンドプレート2に係合させて固定されているため、遠心力はエンドプレート2の係合孔23の壁面に作用する。従って、図3に示すように、電磁鋼板11(ロータコア1)においてブリッジ部12の幅を狭くすることができる。ブリッジ部12に作用する応力が小さく、強度を確保する必要性が低いためである。ブリッジ部12の幅を狭くする分、漏れ磁束を減らすことができる。また、永久磁石3をロータ10の外周寄りに配置することができ、ステータと永久磁石3との距離を短くすることができる。即ち、永久磁石3の磁力を効率的に利用でき、回転電機の効率も向上する。
【0018】
尚、エンドプレート2の係合孔23は、回転軸4の側に設けられると好ましい。即ち、永久磁石3の突起部31は、永久磁石3がロータコア1に設置された状態で回転軸4の側に設けられ、エンドプレート2がロータコア1に設置された状態で回転軸4の側に設けられた係合孔23に当該突起部31が係合されると好適である。上述したように、ロータ10が回転すると、遠心力が発生し、設置孔13に配置された永久磁石3に遠心力が作用する。図4に破線で示すようなエンドプレート2の外周側に設けられた係合孔23Aでは、遠心力によるエンドプレート2の破断を防止するために、エンドプレート2を厚くしたり、剛性の高い材料で形成したりする必要が生じる。一方、永久磁石3に作用する遠心力を受け止める係合孔23を回転中心側に設けると、遠心力が作用する点からエンドプレート2の外周端部までの距離が長くなる。その結果、遠心力による破断強度が高くなり、エンドプレート2を厚くしたり、剛性の高い材料で形成したりする必要がなくなる。
【0019】
〔その他の実施形態〕
(1)上記実施形態においては、突起部31の断面形状が四角形である場合を例として説明した。確かに、突起部31の断面形状が四角形であると、遠心力によるねじれを抑制して、効果的に永久磁石を固定することができる。また、応力を四角形の面で受けることができ、応力集中を抑制して遠心力を分散させることができる。しかし、四角形以外の形状が排除される訳ではなく、突起部31は、例えば円形を含む楕円形や、半円を含む半楕円形などであってもよい。当然ながら、永久磁石3も断面形状が四角形の平板状に限定されることはなく、断面形状が楕円形などであってもよい。このような場合、楕円形の一部が突出し、断面形状が直線と曲線とで形成される突起部31が形成されてもよい。
【0020】
(2)上記実施形態においては、遠心力に対する応力の観点から最も好適な位置として、エンドプレート2の回転軸側に係合孔23を設ける場合を例示した。しかし、エンドプレート2の強度が確保できれば、必ずしも係合孔23を回転軸側に設けなくてもよい。例えば、永久磁石3の突起部31が中央部から突出するような場合には、係合孔23も径方向において中心から外周寄りに形成されてもよい。
【0021】
(3)上記実施形態にておいては、エンドプレート2がロータコア1の軸方向端部1tの全面を覆う場合を例示した。しかし、これに限定されることなく、ロータコア1の軸方向端部1tの一部を覆う形態であってもよい。
【0022】
以上説明したように、本発明によって、インナーマグネット型の回転電機において、簡単な構成により強度を確保してブリッジ部を細くすることが可能となる。
【符号の説明】
【0023】
1:ロータコア
1t:軸方向端部
2:エンドプレート
3:永久磁石
4:回転軸
10:ロータ
11:電磁鋼板
13:設置孔
23,23A:係合孔
31:突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置された状態で回転軸に沿う方向の両端部において当該回転軸に沿う方向に突出した突起部を有する永久磁石と、
前記永久磁石が貫通可能な貫通孔を有する複数の電磁鋼板を、前記貫通孔の位置を合わせて積層し、前記永久磁石が設置される設置孔が構成されたロータコアと、
前記永久磁石の前記突起部が係合する係合孔を有して、前記電磁鋼板の積層方向両端に位置する前記ロータコアの軸方向端部にそれぞれ備えられ、前記設置孔に配置された前記永久磁石が前記軸方向端部から突出する前記突起部を前記係合孔に係合させて、前記永久磁石を固定するエンドプレートと、を備える回転電機用ロータ。
【請求項2】
前記突起部は、前記永久磁石が前記ロータコアに設置された状態で前記回転軸側に設けられ、前記エンドプレートが前記ロータコアに設置された状態で前記回転軸側に設けられた前記係合孔に係合される請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項3】
前記突起部の断面形状及び前記係合孔の孔形状は、四角形である請求項1又は2に記載の回転電機用ロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−23804(P2012−23804A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157798(P2010−157798)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】