説明

回転電機

【目的】 本発明は、回転子表面電流による磁極部制動巻線の過熱を抑制することにより、異常時における信頼性を向上しうることを目的とする。
【構成】 磁極部表面の磁極部楔11の厚さを円筒形回転子1の界磁コイル部2のコイル部楔7の厚さよりも薄くし、回転子表面電流を抑制する磁極部制動巻線10を磁極部表面方向へ厚くし、かつこの磁極部制動巻線10の内部に円筒形回転子1の軸方向に抜ける冷却ダクト12を形成すると共に、この冷却ダクト12からスロットの開口部側に抜ける複数の排出孔13を形成し、これら各排出孔13とスロットの開口部とが連通するように磁極部楔11に複数の連通孔14を形成し、かつ回転子1の両端中央部を磁極部制動巻線10の冷却ダクト12の両端に個別に連通させる複数の吸気ダクト16を設け、回転子1の回転により、磁極部制動巻線10の内部を冷却する回転電機。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば、タービン発電機のように磁極部を有する円筒形回転子を備えた回転電機に係わり、特に磁極部の制動巻線の過熱を抑制した回転電機に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、例えばタービン発電機等の回転電機においては、単機容量が著しく増大しており、その要因として、回転電機の小型化と共に、界磁コイルの冷却方式の進歩が上げられている。ここで、特に冷却方式の進歩は顕著であり、界磁コイルを冷却ガスで冷やすことにより、定常平衡状態における界磁コイルの発熱を抑えて安全性を向上させている。
【0003】ところで、この種の回転電機は、故障やシステムの事故時に、異常電流が回転子本体に流れることがある。このときの異常電流は、回転電機に極度な温度上昇を局部的に引き起こすので、定常平衡状態では十分満足できる冷却方式でも事故時の極度な温度上昇には、十分でない場合も起こり、最悪の事態を引き起こす可能性がある。
【0004】例えば、回転電機の端子やシステムで線間短絡・線地短絡が起こった場合や負荷が不平衡となったり、高調波を含む負荷がある場合、回転電機の固定子に回転子と同期しない逆相電流・高調波電流が流れる。この逆相電流・高調波電流による磁束は回転子の表面を循環する大電流を誘起する。従って、この誘起された回転子表面電流により、回転子表面が過熱し、回転電機は危険な状態に陥る。
【0005】一方、このような回転子表面電流を抑制する手段として、種々の制動巻線が採用されている。最も進んだ制動巻線としては、界磁コイルと楔の間ばかりではなく、磁極部にもスロットを形成して制動巻線を挿入する方式が用いられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような方式で制動巻線を挿入した回転電機においては、界磁コイル部のように冷却ガスの通路が磁極部にないために、異常時に誘起される回転子表面電流により制動巻線自身が過熱するという問題がある。このような制動巻線の過熱は、回転電機を危険な状態へ陥れるために、回転電機の小型化や単機容量の増大化を図る上で大きな制約となっている。
【0007】本発明は、上記実情を考慮してなされたもので、回転子表面電流による磁極部制動巻線の過熱を抑制することにより、異常時における信頼性を向上しうる回転電機を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1に対応する発明は、軸方向に沿って形成された複数のスロットに界磁コイルを挿入して楔により固定してなる界磁コイル部と、この界磁コイル部間に軸方向に沿って形成され、且つ前記界磁コイル部の楔部のスロット形状と同じ楔部形状を有する複数のスロットに回転子表面電流を抑制する制動巻線を挿入して楔により固定してなる磁極部とを有する円筒形回転子を備えた回転電機において、前記磁極部の楔の厚さを前記界磁コイル部の楔の厚さよりも薄くし、前記磁極部の楔を薄くした分だけ前記制動巻線の厚み寸法を大にした回転電機である。
【0009】請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する回転電機において、前記制動巻線の内部に前記円筒形回転子の軸方向に冷却ガスを通過させる冷却ダクトを形成すると共に、この冷却ダクトから前記スロットの開口部側に抜ける複数の排出孔を穿設し、これら各排出孔と前記開口部とが連通するように前記磁極部の楔に複数の連通孔を穿設し、かつ前記回転子の両端中央部を前記制動巻線の前記冷却ダクトの両端に個別に連通させる複数の吸気ダクトを設け、前記回転子の回転により、前記制動巻線の内部に冷却ガスを通過させて当該制動巻線を冷却する回転電機である。
【0010】
【作用】従って、請求項1に対応する発明は以上のような手段を講じたことにより、制動巻線を断面積を大にして回転子表面に近接させたので、回転子表面電流の流入量を増やしつつ、その電流密度を下げることにより過熱を抑制することができる。
【0011】また、請求項2に対応する発明は、回転子の回転により、冷却ガスが吸気ダクトから制動巻線内に形成された冷却ダクトを通過して排出孔及び通風孔を介し、回転子外部へ流れるので、制動巻線を直接冷却して磁極部の過熱を防ぎ、回転子の信頼性を向上させることができる。
【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明に係る回転電機に用いられる円筒形回転子の断面図である。
【0013】この円筒形回転子1は、冷却ガス雰囲気中に設けられ、その外周部には複数個の界磁コイル部2と、磁極部3とがそれぞれ設けられると共に、これら界磁コイル部2及び磁極部3の両端が保持環4で固定されている。
【0014】界磁コイル部2は、図2のように回転子1の外周に複数のコイル部スロット5が軸方向にそれぞれ形成されている。これら各コイル部スロット5は、コイル挿入スロット部5aとその開口部側にコイル挿入スロット部5aより幅広の楔挿入スロット部5bからなり、コイル挿入スロット部5aには界磁コイル6が巻装され、その外側にコイル制動巻線8を介挿して楔挿入スロット部5bにコイル部楔7を挿入して界磁コイル6を遠心力に対して固定している。
【0015】一方、磁極部3は、図3のように回転子1の外周の界磁コイル部2間にコイル部スロット5よりも浅い複数の磁極部スロット9が軸方向にそれぞれ形成されている。これら各磁極部スロット9は制動巻線挿入スロット部9aとその開口部側に幅広の楔挿入スロット部9bからなり、制動巻線挿入スロット部9aにはコイル部制動巻線8よりも厚い磁極部制動巻線10が挿入され、楔挿入スロット部9bにコイル部楔7よりも薄い磁極部楔11を挿入して磁極部制動巻線10を遠心力に対して固定している。
【0016】ここで、磁極部制動巻線10は、軸方向に溝を有する2枚の導体から構成され、これら2枚の導体を重ねて溝を対面させることにより軸方向に抜ける冷却ダクト12が形成され、また外側の導体にスロット開口部側に抜ける図4のような複数の排出孔13が冷却ダクト12に連通させてそれぞれ設けられている。また、磁極部楔11には、この磁極部制動巻線10の各排出孔13と回転子の外部とが連通するように複数の連通孔14がそれぞれ設けられている。
【0017】一方、保持環4の内径部分には図4に示すように絶縁体15が配設され、この絶縁体15に円筒形回転子1の両端中央部から磁極部制動巻線10の冷却ダクト12の両端に個別に連通する吸気ダクト16が形成されている。
【0018】次に、このように構成された円筒形回転子を備えた回転電機の作用について説明する。まず、円筒形回転子1が冷却ガス雰囲気中で回転すると、その遠心力によって、磁極部制動巻線10の冷却ダクト12から排出孔13及び連通孔14を介して冷却ガスが排出される。
【0019】この場合、冷却ダクト12は、冷却ガスの排出によりガス圧が下がるので、吸気ダクト16から冷却ガスが流れ込み、この冷却ガスは、周囲の磁極部制動巻線10及び磁極部楔11の熱を奪いながら回転子1の遠心力によって同様に排出孔13及び連通孔14を介して回転子外部へ排出される。従って、円筒形回転子1は、その回転により、冷却ガスを循環させて磁極部制動巻線10や磁極部楔11を直接に冷却することになる。
【0020】一方、界磁コイル部2は、界磁コイル6が冷却ガスで直接冷却されると共に、その冷却ガスがスロット内を通過しながらコイル部制動巻線8及びコイル部楔7の熱を奪い続けて排出されることによって冷却されている。
【0021】この状態で、逆相負荷が印加された場合や事故が発生した場合、回転子表面には、回転子表面電流が誘起される。この回転子表面電流は、主に軸方向に配置された制動巻線8,10と楔7,11とによって軸方向に流されるので、回転子表面を流れる循環電流が減少する。
【0022】この場合、磁極部制動巻線10は、コイル部制動巻線8に比べ、2枚の導体を重ねて厚みを持たせているので、表面を流れる回転子表面電流をより多く取り込むと共に、その電流密度を低下させて過熱が抑えられる。また、この磁極部制動巻線10は、冷却ダクト12に回転子両端の吸気ダクト16から冷却ガスが供給されるので、その冷却効果が高められる。
【0023】上述したように、本実施例は、磁極部楔11を薄くして磁極部制動巻線10を厚くしたことにより、この磁極部制動巻線10を回転子表面に近接させ、回転子表面電流を多く取り込むと共に、磁極部制動巻線10内を流れる回転子表面電流の電流密度を低下させるようにしたので、回転子表面電流をより多く抑制し、かつ磁極部制動巻線10の過熱を抑えることができる。
【0024】また、厚くした磁極部制動巻線10に冷却ダクト12を設け、冷却ガスが冷却ダクト12内を通過して周囲にある磁極部制動巻線10や磁極部楔11の熱を奪いながら回転子外部に流れるようにしたので、回転子表面電流による磁極部3の過熱を防止することができる。さらに、本実施例では磁極部3の過熱を防止できることから、不平衡負荷に対する耐量や事故時の耐量を向上させることができる。
【0025】また、この磁極部3は、薄くした磁極部楔11によって磁極部制動巻線10を固定しても、この磁極部制動巻線10より回転子1の内径側に界磁巻線がないことから、磁極部制動巻線10の遠心力に対して磁極部楔11が十分な強度を有することができるので、運転時における信頼性を維持することができる。また、本実施例は、回転子1のスロット部の寸法を変えることなく実現できるので、回転子本体を取り替えずに、比較的簡易に実施することができる。なお、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、制動巻線をその断面積を大にして回転子表面に近接させた状態で設けるようにしたので、異常時に流入する回転子表面電流の電流密度を低下させ、かつこの制動巻線内に形成された冷却ダクトを通して吸気ダクトから取入れた冷却ガスを、周囲の熱を奪いながら通過させて回転子外部に流れるようにしたので、回転子表面電流による磁極部制動巻線の過熱を抑制することができ、異常時における信頼性を向上させることができる回転電機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る回転電機に用いられる円筒形回転子の断面図。
【図2】同実施例におけるコイル部スロットを示す図。
【図3】同実施例における磁極部スロットを示す図。
【図4】同実施例における冷却ガスの通路を示す図。
【符号の説明】
1…円筒形回転子、2…界磁コイル部、3…磁極部、7…コイル部楔、10…磁極部制動巻線、11…磁極部楔、12…冷却ダクト、13…排出孔、14…連通孔、15…絶縁体、16…吸気ダクト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸方向に沿って形成された複数のスロットに界磁コイルを挿入して楔により固定してなる界磁コイル部と、この界磁コイル部間に軸方向に沿って形成され、且つ前記界磁コイル部の楔部のスロット形状と同じ楔部形状を有する複数のスロットに回転子表面電流を抑制する制動巻線を挿入して楔により固定してなる磁極部とを有する円筒形回転子を備えた回転電機において、前記磁極部の楔の厚さを前記界磁コイル部の楔の厚さよりも薄くし、前記磁極部の楔を薄くした分だけ前記制動巻線の厚み寸法を大にしたことを特徴とする回転電機。
【請求項2】 請求項1に記載の回転電機において、前記制動巻線の内部に前記円筒形回転子の軸方向に冷却ガスを通過させる冷却ダクトを形成すると共に、この冷却ダクトから前記スロットの開口部側に抜ける複数の排出孔を穿設し、これら各排出孔と前記開口部とが連通するように前記磁極部の楔に複数の連通孔を穿設し、かつ前記回転子の両端中央部を前記制動巻線の前記冷却ダクトの両端に個別に連通させる複数の吸気ダクトを設け、前記回転子の回転により、前記制動巻線の内部に冷却ガスを通過させて当該制動巻線を冷却することを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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