説明

固体を共存した水溶液への放射線照射による水溶液中の強酸化性金属イオンの処理回収方法

【課題】
6価クロムなどの無害化や回収の工程において、複雑な化学処理や大量の化学薬品を使用せずに、還元反応を促進し、低酸化状態のクロムを回収する。
【解決手段】
強酸化性金属イオンが溶存する水溶液に粉体ないしは塊状の固体を加えたものに、溶液を含む容器の外部からの放射線照射または放射線源を容器内に導入した内部からの放射線照射により、溶液中に誘起される還元反応を利用して、環境有害物質である強酸化性金属イオンを還元処理し有用材料として回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料を含む水溶液に放射線照射することにより誘起する還元反応を利用して、6価クロムなどの強酸化性金属イオンを処理あるいは回収する方法に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、固体が放射線エネルギーを吸収して化学反応エネルギーに有効に変換する触媒(ここでは、放射線触媒と呼ぶ)としての機能することにより、環境有害物質の6価クロムなどを高効率で無害化し、より低い酸化状態の固体酸化物あるいはイオンの有用材料として回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
6価クロムを塗布した金属表面は耐食性・防食性に優れているため、現在多くの工業製品の表面処理に幅広く使用されているが、酸化力が強く発ガン性を有する有害物質であり、高濃度6価クロム廃液およびメッキ水洗液などの低濃度6価クロムの廃水の処理が不可欠である。6価クロムの無害化にはpH 2.5以下で添加した亜硫酸ソーダにより3価クロムへ還元するのが主流である。
【0003】
さらに、3価クロムはアルカリを使用して、pH 6.5-7.5程度で水酸化物Cr(OH)3沈殿として回収し、主に3価クロムスラッジとして埋め立て処分されている。メッキ廃水をイオン交換樹脂に通して直接6価クロムを回収する方法もある。いずれにしても、無害化や回収の工程では、複雑な化学処理が大量の化学薬品を使用して行われているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
6価クロムなどの無害化や回収の工程において、複雑な化学処理や大量の化学薬品を使用せずに、還元反応を促進し、低酸化状態のクロムを回収することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、強酸化性金属イオンが溶存する水溶液に粉体ないしは塊状の固体を加えたものに、溶液を含む容器の外部からの放射線照射または放射線源を容器内に導入した内部からの放射線照射により、溶液中に誘起される還元反応を利用して、環境有害物質である強酸化性金属イオンを還元処理し有用材料として回収する方法である。
【0006】
上記粉体ないしは塊状の固体が酸化物である場合は、石英、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セシウム若しくは酸化クロム等、又はその混合物若しくは固溶体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明による放射線触媒還元処理法の装置例を図1示す。6価クロムなどを含む水溶液中に少量の固体材料を添加し、キャプセル状の放射線源から放出されるガンマ線で外部照射、または溶液中に導入した放射性同位元素からのアルファ線、ベータ線で内部照射して、放射線触媒反応により6価クロムの還元反応を促進させて、3価ないしは4価クロムを固体またはイオンの状態で回収する。
【0008】
本発明は、放射線のエネルギーを固体材料が吸収し化学反応エネルギーに変換して、6価クロムなどの還元反応を促進する方法であり、後処理を要する還元剤や酸、アルカリを使用することなく、6価クロムの還元と3価ないしは4価クロムの回収を簡便かつ安価に実現することが可能となる。さらに、固体はそれ自体が壊れず、再利用可能であり、形状の自由度があり、かつ水溶液は脱気、pHなどの条件を選ばず、反応系が簡単である、などの利点がある。
【0009】
利用する放射線は、使用済み核燃料の再処理で取り出される放射性物質やその際に発生する高レベル廃液のガラス固化体からのガンマ線や、放射性同位元素からのアルファ線、ベータ線も対象としており、一般には利用されていない放射性廃棄物の資源化が可能となる。
【0010】
本発明の処理対象である金属イオンは、4価セリウム、6価クロム、7価マンガン等があげられる。
【実施例】
【0011】
(実施例1)
本発明の一具体例について説明する。重クロム酸イオンCr2O72-を含む希硫酸水溶液に、TiO2、γ-Al2O3、ZrO2などをそれぞれ単独に添加した。それらの溶液にガンマ線を照射して、6価クロムが還元される収量を測定した結果、単位エネルギーあたりの水の放射線分解による還元量と比較して、固体による還元量はそれぞれ100倍(TiO2)、280倍(γ-Al2O3)、70倍(ZrO2)程度の増大が見られた(図2)。これらの固体は還元反応では消費されず、いわゆる触媒として機能している。
(実施例2)
実施例1と同じ固体と6価クロムを含み、環境条件あるいは工業廃水の条件(pH 3-7)の水溶液にガンマ線照射して、照射後に溶液中の6価クロム濃度および全クロム量を分析し、固体表面のクロムの状態を分析した結果、水溶液のみの場合は6価クロムがほとんど還元しないのに対して、固体を添加することで6価クロムが顕著に還元する(図3)ことを明らかにするとともに、溶液中の6価クロムを環境への排出基準0.05 ppm(環境基本法)または0.5 ppm(水質汚濁防止法)以下まで減じ(表1)、4価あるいは3価クロムの酸化物に還元し、固化することがわかった。
【0012】
【表1】

【0013】
[発明の効果]
本発明は以下の特徴から、有利な効果を有する。
1)6価クロムの還元収量が非常に大きく、かつガンマ線は水溶液に対して高い透過能力を有しているため、高濃度6価クロム廃液をはじめとして、着色した固体あるいは溶液や、濁った溶液にも十分に適用可能である。
【0014】
2)還元に必要な固体材料は触媒であり、固体はそれ自体が壊れず、回収可能であり半永久的に使用可能であり、経済性に優れている。
3)6価クロム処理に化学薬品を使用しないため、3価ないしは4価クロムの回収に後処理を必要とせず、高純度の3価ないしは4価クロムの回収が容易である。3価クロムはイオンとして3価クロムメッキに使用可能であり、固体としてはその形状の違いにより耐火レンガ、研磨剤、顔料(Cr2O3)、抵抗発熱体、高温用電極(LaCrO3)などの用途が考えられる。また、4価クロムは二酸化クロムCrO2として回収可能であり、強磁性材料として非常に優れた特徴を有する。さらに、3価ないしは4価クロムの固体は放射線触媒反応の固体材料としても利用できる。このように、有害な6価クロムの無害化と有用材料への転換が同時に実現可能となる。
【0015】
4)利用する放射線は、使用済み核燃料の再処理で取り出される放射性物質やその際に発生する高レベル廃液のガラス固化体からのガンマ線や、放射性同位元素からのアルファ線、ベータ線も対象にしており、一般には利用されていない放射性廃棄物の資源化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による強酸化性金属イオンの還元処理工程を示す図である。
【図2】水溶液に添加した固体による強酸化性金属イオンの還元量を示す図である(水溶液の放射線分解による還元収量との相対値が示される)。
【図3】ガンマ線照射前後の水溶液(pH6−8)中のクロム濃度の分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強酸化性金属イオンが溶存する水溶液に粉体ないしは塊状の固体を加えたものに、溶液を含む容器の外部からの放射線照射または放射線源を容器内に導入した内部からの放射線照射により、溶液中に誘起される還元反応を利用して、環境有害物質である強酸化性金属イオンを還元処理し有用材料として回収することからなる、固体を共存した水溶液への放射線照射による水溶液中の強酸化性金属イオンの処理回収方法。
【請求項2】
前記強酸化性金属イオンが、6価クロムなどに代表される、水溶液中に高酸化状態で安定に溶存し酸化力の強いイオンであり、又は前記粉体ないしは塊状の固体から発生する放射線誘起の還元種の反応特性から、−2.0 V以上の標準酸化還元電位(V vs 標準水素発生電位)を有する金属イオンである請求項1記載の方法。
【請求項3】
粉体ないしは塊状の固体が、酸化物、金属ないしはそれらを含有する材料、または/及び前記強酸化性金属イオンが還元固化した酸化物である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
粉体ないしは塊状の固体の酸化物は、単独の酸化物、複数の酸化物の混合物、又は単独の酸化物若しくは複数の酸化物の固溶体である請求項3記載の方法。
【請求項5】
放射線が、放射線源、放射線発生装置、原子炉、燃料棒、高レベル廃液を含むガラス固化体から発生するガンマ線、エックス線、電子線や、水溶液中に導入した放射性同位元素からのアルファ線、ベータ線である請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
溶液中の還元反応を引き起こす還元種が、固体表面に生成する励起電子、固体から放出する二次電子、水溶液中で生成した水和電子などのラジカルなどである請求項2記載の方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−247485(P2006−247485A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65162(P2005−65162)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】