説明

固体ロケットモータ推進薬の成形方法

【課題】充填率を高めることができるとともにリリーフブーツを不要または最小にすることができる固体ロケットモータ推進薬の成形方法を提供する。
【解決手段】モータケース1を、ケース軸心aを中心に回転させながら、軟化してスラリー状となった熱可塑性推進薬3を注型管2から押し出し、注型管2をモータケース1に対して相対移動させて、モータケース1の内側に、環状の熱可塑性推進薬の層を半径方向に段階的に形成する。各段の形成において、固化した熱可塑性推進薬の層の内側に次段階の熱可塑性推進薬を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ロケットモータ推進薬の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体ロケットモータは、その推力源として固体推進薬を用い、その燃焼反応によって発生する高温・高圧のガスを排出することによって推力を発生するように構成したものである。従来より、内孔(中空部)を有する内面燃焼型の固体推進薬を成形する方法の一つに、推進薬をモータケースに直接注型する「直てん式」がある。
【0003】
従来、直てん式によって固体推進薬を成形するに際しては、図1に示すように、モータケース20内に、形成しようとする内孔の形状に対応した羽根部等を有する中子21をセットし、モータケース20の上方に配置したホッパー24からスラリー状の熱硬化性の推進薬22をモータケース20内に供給し、モータケース20と中子21とで形成される空間に推進薬22を流し込んで熱硬化させ、その後室温に戻し、硬化後の推進薬22から中子を引き抜くことで、固体ロケットモータ推進薬に成形するようにしていた。
【0004】
また図1に示す固体ロケットモータにおいて、モータケース20内の両端部に推進薬22の両端部の周縁部と接着するリリーフブーツ23が設けられている。このリリーフブーツ23は、熱硬化した推進薬22を室温に戻す際に、熱収縮する推進薬22とともに移動して、熱収縮により生じる熱応力を緩和するようになっている。
【0005】
なお、固体ロケットモータ推進薬の成形方法に関する先行技術文献としては、例えば下記特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2809032号
【特許文献2】特許第3138987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の固体ロケットモータ推進薬の成形方法では、固体推進薬を室温に戻す過程で熱収縮が生じる。この熱収縮において、推進薬の外側部分によって内側部分が引っ張られる力が作用するため、固体推進薬の内孔の表面や、固体推進薬の端部に応力・歪が発生する。このような応力・歪が固体推進薬の強度範囲を超えると固体推進薬の内孔の表面に亀裂が発生する。固体推進薬においては、推進薬充填率が高いほど内孔表面の熱歪が大きくなるため亀裂が発生しやすく、また、応力集中が起きやすい内孔形状ほど亀裂が発生しやすい。このため、推進薬充填率が高くかつ応力集中の大きな内孔形状をもつ固体推進薬を成形することが難しいという問題がある。また、リリーフブーツがある分、推進薬の充填率が制限されるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、充填率を高めることができるとともにリリーフブーツを不要または最小にすることができる固体ロケットモータ推進薬の成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するため、本発明の固体ロケットモータ推進薬の成形方法は、モータケースを、ケース軸心を中心に回転させながら、軟化してスラリー状となった熱可塑性推進薬を注型管から押し出し、注型管をモータケースに対して相対移動させて、モータケースの内側に、環状の熱可塑性推進薬の層を半径方向に段階的に形成し、各段の形成において、固化した熱可塑性推進薬の層の内側に次段階の熱可塑性推進薬を形成する、ことを特徴とする。
【0010】
上記の本発明によれば、推進薬を複数段に分けて注型することで、内孔に生じる熱応力・歪を大幅に低減できる。これは、推進薬の注型を複数段に分けることで、内孔歪が、固体推進薬充填率を低くしたとき、あるいは小型のモータケース内に固体推進薬を成形したときと同等になるからである。したがって、本発明によれば、推進薬の充填率を高めることできる。また、歪が大幅に低減するので、リリーフブーツを不要または最小にすることができる。
【0011】
また、上記の固体ロケットモータ推進薬の成形方法において、複数段に分けてモータケースに注型された前記熱可塑性推進薬が固化した後、この熱可塑性推進薬に、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された中子を押し込んで所定の内孔形状を成形する。
【0012】
このように熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された中子を固化した推進薬に押し込むと、推進薬が溶融して軟化するため、中子の形状に対応した形状の内孔が形成される。したがって、所望形状の内孔を形成することができる。
【0013】
また、上記の固体ロケットモータ推進薬の成形方法において、前記モータケースは、内径が軸方向に一定の平行部と、該平行部の両端から内径が縮小する一端部及び他端部とから構成されるものであり、一端部又は他端部に熱可塑性推進薬を注型するときは、平行部から一端部又は他端部に向かう方向に、注型管をモータケースに対して相対移動させながら、熱可塑性推進薬を積み重ねる。
【0014】
このように平行部から前端部又は後端部に向かう方向に、注型管をモータケースに対して相対移動させながら、熱可塑性推進薬を積み重ねることにより、モータケースの前端部又は後端部に推進薬を層状に注型することができる。
【0015】
また、上記の固体ロケットモータ推進薬の成形方法において、前記注型管は出口部が角度調節可能に構成され、熱可塑性推進薬を注ぐ位置に応じて出口部の角度を調節する。
【0016】
このように注型管の出口部の角度を調節できるようにしておくことで、先端側又は後端側の推進薬の形状が狭い場合、あるいは注型管を挿入するモータケースの開口部が小さい場合でも、充填位置に応じて出口部の角度を調節することにより、推進薬を充填することができる。
【0017】
また、上記の固体ロケットモータ推進薬の成形方法において、前記注型管は、先端に延長管を取付け可能に構成され、熱可塑性推進薬を注ぐ位置に応じて長さを調節する。
【0018】
このように注型管の出口部に延長管を接続可能にしておくことで、先端側又は後端側の推進薬の形状が狭い場合、あるいは注型管を挿入するモータケースの開口部が小さい場合でも、充填位置に応じて出口部に延長管を接続して長さを調節することにより、推進薬を充填することができる。
【0019】
また、上記の固体ロケットモータ推進薬の成形方法において、二段目以降の熱可塑性推進薬を形成するときに、加熱手段により、固化した熱可塑性推進薬の表層部を局部的に加熱して溶融させ、溶融した部分にスラリー状の熱可塑性推進薬を重ねて付着させる。
【0020】
このように一度固化した推進薬の表層部を局部的に溶融させ、溶融した部分にスラリー状の推進薬を重ねて付着させるので、層間の接合力を高めることができる。
【0021】
また、上記の固体ロケットモータ推進薬の成形方法において、冷却手段により、注型管から押し出されたスラリー状の熱可塑性推進薬を冷却して固化させる。
【0022】
このように注型管から押し出された推進薬を強制的に冷却し、すばやく固化させることにより、モータケースの回転速度を速くしても推進薬が流れ落ちない。したがって、モータケースの回転速度を速くして、処理速度を高めることができる。
【0023】
また、上記の固体ロケットモータ推進薬の成形方法において、二段目以降の熱可塑性推進薬の形成において、一部の段又は各段の熱可塑性推進薬を、その前段階で形成された熱可塑性推進薬とは燃速の異なるものとする。
【0024】
このような方法で注型すると、モータケース内に充填された推進薬は半径方向に燃速が異なるため、推力が途中で異なる固体ロケットモータを製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の固体ロケットモータ推進薬の成形方法によれば、充填率を高めることができるとともにリリーフブーツを不要または最小にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の固体ロケットモータ推進薬の成形方法を説明する図である。
【図2】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態を説明する第1の図である。
【図3】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態を説明する第2の図である。
【図4】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態を説明する第3の図である。
【図5】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の効果を説明する図である。
【図6】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態の変形例を説明する図である。
【図7】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第2実施形態を説明する図である。
【図8】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0028】
図2は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態を説明する図である。
本発明の固体ロケットモータ推進薬の成形方法では、モータケース1を、ケース軸心aを中心に回転させながら、軟化してスラリー状となった熱可塑性推進薬3を注型管2から押し出し、注型管2をモータケース1に対して相対移動させて、モータケース1の内側に、環状の熱可塑性推進薬の層を半径方向に段階的に形成する。また、各段の形成において、固化した熱可塑性推進薬の層の内側に次段階の熱可塑性推進薬を形成する。以下、具体的に説明する。
【0029】
図2において、モータケース1は、軸心aを水平方向に向けて図示しない回転駆動装置により軸心aを中心に回転させられる。またモータケース1は、内径が軸方向に一定の平行部1aと、平行部1aの両端から内径が縮小する一端部1b及び他端部1cとから構成されるものである。図示例のモータケース1の一端部1bと他端部1cにはともに開口部が形成されている。
【0030】
注型管2は、スラリー状の熱可塑性推進薬3を内部に流し、先端に設けられた出口部2bからスラリー状の熱可塑性推進薬3を押し出すようになっている。
注型管2は、モータケース1の一端部1b又は他端部1cの開口部を通してモータケース1の内部に挿入され、図示例では、モータケース1の一端部1bを通して注型管2がモータケース1に挿入されている。
【0031】
注型管2は、図示しない駆動装置によりモータケース1の軸方向に移動するように構成されている。これにより、注型管2とモータケース1は、軸方向に相対移動可能となっている。なお、図2の構成に代えて、モータケース1を軸方向に移動させることで、注型管2とモータケース1とを軸方向に相対移動させる構成としてもよい。
【0032】
本実施形態において、注型管2は、導入管2aと、出口部2bと、フレキシブル継手2cとを有する。出口部2bは、フレキシブル継手2cによって、角度調整可能に連結されている。
【0033】
従来の推進薬の形成方法では、熱硬化性推進薬を用いていたが、本発明では、常温(例えば20℃)付近の使用温度では固体であるが、高温(例えば50〜60℃以上)に加熱すると融解する熱可塑性推進薬を用いる。固体ロケットモータの製造性・安全性の観点から、本発明に用いる熱可塑性推進薬の融点は100℃以下であるのが好ましい。
【0034】
このような熱可塑性推進薬として、たとえば、熱可塑性材料を含むバインダ、過塩素酸アンモニウム及びアルミニウムからなるものがある。この場合の組成比は、たとえば、バインダ16〜20wt%、過塩素酸アンモニウム66〜80%、アルミニウム0〜18%としてよい。
また、バインダは、例えば、ブタジエンエラストマ、液状ブタジエン、可塑剤及び流動付与剤からなる。この場合のバインダ中の組成比は、例えば、ブタジエンエラストマ20〜30wt%、液状ブタジエン0〜20wt%、可塑剤50〜75wt%、流動付与剤5wt%としてよい。
なお、本発明に使用可能な熱可塑性推進薬は、上述した組成のものに限られず、推進薬として適度な燃焼性・機械的特性を有しているその他の熱可塑性推進薬であってもよい。
【0035】
本発明の方法により推進薬を成形するには、以下のようにする。
図2(A)に示すように、モータケース1を、軸心aを中心に回転させる。熱可塑性推進薬を加熱し軟化させてスラリー状にし、出口部2bを下に向けた注型管2から、回転しているモータケース1の内面に向けて、スラリー状の熱可塑性推進薬3を下方に押し出す。これと併行して、注型管2を軸方向に移動させると、熱可塑性推進薬がモータケース1の内面に螺旋状に付着していき、環状の熱可塑性推進薬の層が形成される。ここで、図2中の符号“4A”は、一段目の熱可塑性推進薬を示している。
【0036】
モータケース1の回転速度、注型管2からの熱可塑性推進薬の押出し量は、注型管2から押し出された熱可塑性推進薬が、モータケース1の回転に伴って移動してモータケース1による下からの支持がない位置に来たときでも、自重で流れ落ちない程度に熱可塑性推進薬が固化する時間が確保されるように、設定するのがよい。
【0037】
図2(A)のように、他端部1cに熱可塑性推進薬を注型するときは、平行部1aから他端部1cに向かう方向に、注型管2を移動させながら、熱可塑性推進薬を積み重ねる。こうすることで、平行部1aから開口部側に向かうに従って内径が縮小する他端部1cの内側に熱可塑性樹脂を確実に注型することができる。
【0038】
他端部1cへの一段目の熱可塑性推進薬の注型が終わったら、図2(B)に示すように、注型管2を軸方向に移動させて、注型管2からスラリー状の熱可塑性推進薬3を、回転するモータケース1の内面に向けて下方に押し出し、平行部1aへの一段目の熱可塑性推進薬の注型を実施する。
【0039】
平行部1aへの一段目の熱可塑性推進薬の注型が終わったら、図2(C)に示すように、平行部1aから一端部1bに向かう方向に、注型管2を移動させながら、熱可塑性推進薬を積み重ねる。こうすることで、平行部1a側から開口部側に向かうに従って内径が縮小する一端部1bの内側に熱可塑性樹脂を確実に注型することができる。
【0040】
一段目の熱可塑性推進薬4Aの注型後、モータケース1内に注型した推進薬の温度を一旦室温近くまで下げて固化させる。その後、図3に示すように、一段目の注型と同様の要領で二段目の熱可塑性推進薬4Bを注型する。二段目の熱可塑性推進薬4Bの注型において、固化した一段目の推進薬4Aの上にスラリー状の推進薬3が触れると、スラリー状の推進薬3によって一段目の推進薬4Aが加熱され、触れた部分だけが局部的に溶融し、その後、一段目と二段目が固化することで、両者が接合される。
【0041】
以降、同様の要領で、所定の充填率となるまで、熱可塑性推進薬の注型を段階的に繰り返す。なお、モータケース1が大きい場合で一端部1bへの注型が終わった時点で最初に注型をした他端部1cの推進薬が室温に戻り固化するようなときは、冷却時間を設けずに次の段階の注型を行ってよい。
【0042】
図3のように、充填位置に応じて出口部2bの角度を調節してもよい。このようにすると、一端部1b又は他端部1cの推進薬の形状が狭く、狭い場所に注型管2の出口部2bを位置させる必要がある場合には、注型管2の出口部2bの角度を浅くすることで、その部分への推進薬の注型が可能となる。
また、注型管2を挿入するためのモータケース1の開口部が小さく、注型管2の上下移動範囲が制限される場合には、平行部1a、一端部1b及び他端部1cの各位置に応じて、注型管2の出口部2bの角度を変えることで、各位置での推進薬の注型が可能となる。
【0043】
熱可塑性推進薬を所定の充填率で注型し、熱可塑性推進薬4が固化したら、図4に示すように、モータケース1を直立姿勢に保持し、熱可塑性推進薬4に、熱可塑性推進薬4の融点以上の温度に加熱された中子6を押し込んで所定の内孔形状を成形する。中子6は断面が例えば十字状や星型である。
【0044】
図4の構成例において、中子6は熱伝導性のよい金属(アルミニウム合金など)で形成され、中子6の内部には加熱用流体7を流すための流路6aが形成されている。加熱用流体7としては、たとえば、熱可塑性推進薬の融点以上の温度(例えば70℃〜100℃)に加熱された湯を用いることができる。なお、中子6を加熱させる構成として、中子6の内部に電気抵抗あるいは他の物理的現象により発熱する発熱体を組み込んだ構成を採用してもよい。
【0045】
図5(A)は推進薬充填率95%の丸穴内孔を持つ外径約1mのモータ断面図である。図5(B)は、図5(A)のような形状の推進薬をモータケース1に注型した場合の、注型段階数と内孔歪との関係(計算値)を示している。図5(B)において、従来の注型方法のように注型段階数が1の場合、内孔歪は約9.0%であるが、本発明のように複数段階に分けて注型を実施した場合、内孔歪が大幅に低減する。例えば、注型段階数が2、3の場合の内孔歪は、それぞれ約3.0%、1.8%である。
【0046】
上述した本発明の方法によれば、推進薬を複数段に分けて注型することで、内孔に生じる熱応力・歪を大幅に低減できる。これは、推進薬の注型を複数段に分けることで、内孔歪が、固体推進薬充填率を低くしたとき、あるいは小型のモータケース内に固体推進薬を成形したときと同等になるからである。
したがって、本発明によれば、推進薬の充填率を高めることできる。また、歪が大幅に低減するので、リリーフブーツを不要または最小にすることができる。
【0047】
また、注型管2の出口部2bの角度を調節できるようにしておくことで、一端部1b又は他端部1cの推進薬の形状が狭い場合、あるいは注型管2を挿入するモータケース1の開口部が小さい場合でも、充填位置に応じて出口部2bの角度を調節することにより、推進薬を充填することができる。
【0048】
また熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された中子6を固化した熱可塑性推進薬4に押し込むことで中子6の形状に対応した形状の内孔が形成されるので、所望形状の内孔を形成することができる。
【0049】
なお、上述した実施形態では、注型管2の出口部2bの角度を変更可能にする構成として、フレキシブル継手2cにより連結する構成を示したが、図6に示すように、注型管2の先端に延長管5を接続する構成を採用してもよい。このように注型管2の先端に延長管5を接続可能にしておくことで、一端部1b又は他端部1cの推進薬の形状が狭い場合、あるいは注型管2を挿入するモータケース1の開口部が小さい場合でも、充填位置に応じて延長管5を接続して長さを調節することにより、推進薬を充填することができる。延長管5の長さを複数種類用意しておいてもよい。
【0050】
図7は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第2実施形態を説明する図である。図7は、モータケース1の軸心に垂直な面における、モータケース1、推進薬4A、4B、注型管2等の断面図であり、モータケース1はこの図で時計回りに回転し、二段目の熱可塑性推進薬4Bを注型している最中の状態を示している。
【0051】
モータケース1を、ケース軸心を中心に回転させながら、軟化してスラリー状となった熱可塑性推進薬3を注型管2から押し出し、注型管2をモータケース1に対して相対移動させて、モータケース1の内側に、環状の熱可塑性推進薬の層を半径方向に段階的に形成し、各段の形成において、固化した熱可塑性推進薬の層の内側に次段階の熱可塑性推進薬を形成する点は、第1実施形態と同じである。
【0052】
第2実施形態では、二段目以降の熱可塑性推進薬の層を形成するときに、加熱手段9により、固化した熱可塑性推進薬の表層部を局部的に加熱して溶融させ、溶融した部分にスラリー状の熱可塑性推進薬3を重ねて付着させる。
【0053】
図7の構成例において、加熱手段9は、熱可塑性推進薬の融点以上(例えば70℃〜100℃)に加熱した湯を流すように構成された加熱管9Aである。加熱管9Aは、先端において固化した熱可塑性推進薬に接触し、その熱で融解した熱可塑性推進薬の上に注型管2から出たスラリー状の熱可塑性推進薬3が重なるように、注型管2に隣接した位置に設けられている。
【0054】
このように一度固化した推進薬の表層部を局部的に溶融させ、溶融した部分にスラリー状の熱可塑性推進薬3を重ねて付着させるので、層間の接合力を高めることができる。
なお、加熱手段9は、上述した加熱管9Aに代えて、発熱体を利用したものであってもよい。
【0055】
また、第2実施形態では、図7に示すように、冷却手段11により、注型管2から押し出されたスラリー状の熱可塑性推進薬3を冷却して固化させる。図7において、冷却手段11は、熱可塑性推進薬を固化させるのに適した温度(例えば20℃前後)の水を流すように構成された冷却管11Aである。冷却管11Aは、先端がスラリー状の熱可塑性推進薬に接触することで注型管2から出たスラリー状の熱可塑性推進薬3を冷却するように、注型管2に隣接した位置に設けられている。
【0056】
このように注型管2から押し出されたスラリー状の熱可塑性推進薬3を強制的に冷却し、すばやく固化させることにより、モータケース1の回転速度を速くしても推進薬が流れ落ちない。したがって、モータケース1の回転速度を速くして、処理速度を高めることができる。
【0057】
なお、第2実施形態において、第1実施形態と同様にフレキシブル継手または延長管により、注型管2の出口部又は先端の角度を変更可能に構成してよい。また、加熱管9A及び冷却管11Aにおいて、フレキシブル継手又は延長管により、充填位置に応じて先端の角度や長さを調整可能に構成してもよい。
第2実施形態の方法のその他の工程については、第1実施形態と同じである。
【0058】
また、上述した第1及び第2の実施形態の変形例として、二段目以降の熱可塑性推進薬の形成において、一部の段又は各段の熱可塑性推進薬を、その前段階で形成された熱可塑性推進薬とは組成の異なるものとしてもよい。
例えば、各段で異なる燃速をもつ熱可塑性推進薬を注型すると、モータケース1内に充填された推進薬は半径方向に燃速が異なるため、図8に示すように、推力が途中で異なる固体ロケットモータを製造することができる。
また、後段の推進薬組成をアルミレスのような煙の少ない組成とすることにより、発射時の秘匿性を高めることも可能である。すなわち、発射時には煙の少ない組成の推進薬を燃焼させて発射地点の秘匿性を高め、発射後には煙の多い組成の推進薬により遠くまで飛ばすようにしてもよい。
【0059】
なお、上記において、本発明の実施形態及び実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0060】
1 モータケース
2 注型管
2a 導入管
2b 出口部
2c フレキシブル継手
3 スラリー状の熱可塑性推進薬
4 固体推進薬
4A 一段目の熱可塑性推進薬
4B 二段目の熱可塑性推進薬
5 延長管
6 中子
6a 流路
7 加熱用流体
9 加熱手段
9A 加熱管
11 冷却手段
11A 冷却管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータケースを、ケース軸心を中心に回転させながら、軟化してスラリー状となった熱可塑性推進薬を注型管から押し出し、注型管をモータケースに対して相対移動させて、モータケースの内側に、環状の熱可塑性推進薬の層を半径方向に段階的に形成し、
各段の形成において、固化した熱可塑性推進薬の層の内側に次段階の熱可塑性推進薬を形成する、ことを特徴とする固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項2】
複数段に分けてモータケースに注型された前記熱可塑性推進薬が固化した後、この熱可塑性推進薬に、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された中子を押し込んで所定の内孔形状を成形する、請求項1記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項3】
前記モータケースは、内径が軸方向に一定の平行部と、該平行部の両端から内径が縮小する一端部及び他端部とから構成されるものであり、
一端部又は他端部に熱可塑性推進薬を注型するときは、平行部から一端部又は他端部に向かう方向に、注型管をモータケースに対して相対移動させながら、熱可塑性推進薬を積み重ねる、請求項1又は2記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項4】
前記注型管は出口部が角度調節可能に構成され、熱可塑性推進薬を注ぐ位置に応じて出口部の角度を調節する、請求項3記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項5】
前記注型管は、先端に延長管を取付け可能に構成され、熱可塑性推進薬を注ぐ位置に応じて長さを調節する、請求項3記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項6】
二段目以降の熱可塑性推進薬を形成するときに、加熱手段により、固化した熱可塑性推進薬の表層部を局部的に加熱して溶融させ、溶融した部分にスラリー状の熱可塑性推進薬を重ねて付着させる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項7】
冷却手段により、注型管から押し出されたスラリー状の熱可塑性推進薬を冷却して固化させる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項8】
二段目以降の熱可塑性推進薬の形成において、一部の段又は各段の熱可塑性推進薬を、その前段階で形成された熱可塑性推進薬とは組成の異なるものとする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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