説明

固体ロケットモータ推進薬の成形方法

【課題】充填率を高めることができるとともにリリーフブーツを不要または最小にすることができる固体ロケットモータ推進薬の成形方法を提供する。
【解決手段】円筒外周面5aを有し熱可塑性推進薬からなる内側ブロック5を作製する。モータケース7内に熱可塑性推進薬を注型して、円筒内周面6aを有し内側ブロック5を挿入可能な中空円筒型の外側ブロック6を製作する。熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された加熱リング10Aを、円筒外周面5aと円筒内周面6aとの間を軸方向に移動させて円筒外周面5aと円筒内周面6aを溶融させた後、固化させることで、内側ブロック5と外側ブロック6とを接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ロケットモータ推進薬の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体ロケットモータは、その推力源として固体推進薬を用い、その燃焼反応によって発生する高温・高圧のガスを排出することによって推力を発生するように構成したものである。従来より、内孔(中空部)を有する内面燃焼型の固体推進薬を成形する方法の一つに、推進薬をモータケースに直接注型する「直てん式」がある。
【0003】
従来、直てん式によって固体推進薬を成形するに際しては、図1に示すように、モータケース20内に、形成しようとする内孔の形状に対応した羽根部等を有する中子21をセットし、モータケース20の上方に配置した図示しないホッパーからスラリー状の熱硬化性の推進薬22をモータケース20内に供給し、モータケース20と中子21とで形成される空間に推進薬22を流し込んで熱硬化させ、その後室温に戻し、硬化後の推進薬22から中子を引き抜くことで、固体ロケットモータ推進薬に成形するようにしていた。
【0004】
また図1に示す固体ロケットモータにおいて、モータケース20内の両端部に推進薬22の両端部の周縁部と接着するリリーフブーツ23が設けられている。このリリーフブーツ23は、熱硬化した推進薬22を室温に戻す際に、熱収縮する推進薬22とともに移動して、熱収縮により生じる熱応力を緩和するようになっている。
【0005】
なお、固体ロケットモータ推進薬の成形方法に関する先行技術文献としては、例えば下記特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2809032号
【特許文献2】特許第3138987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の固体ロケットモータ推進薬の成形方法では、固体推進薬を室温に戻す過程で熱収縮が生じる。この熱収縮において、推進薬の外側部分によって内側部分が引っ張られる力が作用するため、固体推進薬の内孔の表面や、固体推進薬の端部に応力・歪が発生する。このような応力・歪が固体推進薬の強度範囲を超えると固体推進薬の内孔の表面に亀裂が発生する。固体推進薬においては、推進薬充填率が高いほど内孔表面の熱歪が大きくなるため亀裂が発生しやすく、また、応力集中が起きやすい内孔形状ほど亀裂が発生しやすい。このため、推進薬充填率が高くかつ応力集中の大きな内孔形状をもつ固体推進薬を成形することが難しいという問題がある。また、リリーフブーツがある分、推進薬の充填率が制限されるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、充填率を高めることができるとともにリリーフブーツを不要または最小にすることができる固体ロケットモータ推進薬の成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するため、本発明の固体ロケットモータ推進薬の成形方法は、以下の工程を備えることを特徴とする。
(a)円筒外周面を有し熱可塑性推進薬からなる内側ブロックを作製する工程。
(b)モータケース内に熱可塑性推進薬を注型して、円筒内周面を有し前記内側ブロックを挿入可能な中空円筒型の外側ブロックを製作する工程。
(c)内側ブロックを外側ブロックの中空部に挿入した状態で、前記円筒外周面と前記円筒内周面を溶融させた後固化させ、又は前記円筒外周面と前記円筒内周面との間にスラリー状の熱可塑性推進薬を充填した後固化させることで、内側ブロックと外側ブロックとを接合する工程。
【0010】
上記の本発明によれば、推進薬を内側ブロックと外側ブロックに分けて別々に成形してから両者を接合するので、内孔に生じる熱応力・歪を大幅に低減できる。これは、推進薬の成形をブロックごとに行うことで、内孔歪が、固体推進薬充填率を低くしたとき、あるいは小型のモータケース内に固体推進薬を成形したときと同等になるからである。したがって、本発明によれば、推進薬の充填率を高めることできる。
また、歪が大幅に低減するので、リリーフブーツを不要または最小にすることができる。
また、熱可塑性推進薬を、内側ブロックと外側ブロックとを接合するための接合剤として用いているので、両者をしっかりと接合することができる。
【0011】
また、固体ロケットモータ推進薬の成形方法の他の特徴は、前記(c)の工程において、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された加熱リングを、前記円筒内周面と前記円筒外周面との間を軸方向に移動させて前記円筒外周面と前記円筒内周面を溶融させた後、固化させることである。
【0012】
内側ブロックと外側ブロックの間に形成される隙間が十分に小さい場合、上記のように加熱リングを軸方向に移動させることで、円筒内周面と円筒外周面の間の全体に接合面を容易に形成できる。
【0013】
また、固体ロケットモータ推進薬の成形方法の他の特徴は、前記(c)の工程において、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された加熱リングから前記円筒外周面と前記円筒内周面との間にスラリー状の熱可塑性推進薬を押し出すとともに、前記加熱リングを前記円筒内周面と前記円筒外周面との間を軸方向に移動させることで、前記円筒外周面と前記円筒内周面との間にスラリー状の熱可塑性推進薬を充填することである。
【0014】
内側ブロックと外側ブロックの間に形成される隙間が広い場合、上記のように加熱リングからスラリー状の熱可塑性推進薬を押し出すとともに加熱リングを軸方向に移動させることで、円筒内周面と円筒外周面の間の全体に接合面を容易に形成できる。
【0015】
また、固体ロケットモータ推進薬の成形方法の他の特徴は、前記(c)の工程において、前記加熱リングの内部に前記熱可塑性推進薬の融点よりも高い温度に加熱した液体を流すことで、加熱リングを加熱することである。
【0016】
このように加熱リングに加熱した液体を流すことで、加熱リングを容易に加熱することができる。
【0017】
また、固体ロケットモータ推進薬の成形方法の他の特徴は、前記液体を加熱リングに供給するための供給管と、前記液体を加熱リングから排出するための排出管とが、前記加熱リングの軸方向の一端部側に接続されており、前記(c)の工程において、前記供給管と前記排出管を軸方向に引き抜くことで、前記加熱リングを軸方向に移動させることである。
【0018】
このように供給管と排出管を軸方向に引き抜くことで加熱リングを軸方向に移動させるので、加熱リングを軸方向に容易に移動させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の固体ロケットモータ推進薬の成形方法によれば、充填率を高めることができるとともにリリーフブーツを不要または最小にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の固体ロケットモータ推進薬の成形方法を説明する図である。
【図2】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態において、内側ブロックの製作について説明する図である。
【図3】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態において、外側ブロックの製作について説明する図である。
【図4】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態において、内側ブロックと外側ブロックの接合について説明する図である。
【図5】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態において使用する加熱リングの構成を示す図である。
【図6】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第2実施形態を説明する図である。
【図7】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第2実施形態において使用する加熱リングの断面構造を示す図である。
【図8】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第3実施形態を説明する図である。
【図9】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第4実施形態を説明する図である。
【図10】本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第5実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0022】
本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態の概要は、熱可塑性推進薬からなる内側ブロックと外側ブロックを別々に製作し、両者を加熱リングを用いて接合するというものである。以下、第1実施形態について、図2〜図5を参照して具体的に説明する。
【0023】
図2は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態において、内側ブロック5の製作について説明する図である。
図2Aに示すように、底部が閉じた中空円筒型のケース3の内部に、形成しようとする内孔5bの形状に対応した形状を有する中子4を配置し、ケース3と中子4の間に形成された空間に、軟化してスラリー状となった熱可塑性推進薬2を流し込む。熱可塑性推進薬2が冷却して固化したら、推進薬から中子4を引き抜く。これにより、図2Bのように、円筒外周面5aを有し熱可塑性推進薬からなる内側ブロック5が製作される。
【0024】
従来の推進薬の形成方法では、熱硬化性推進薬を用いていたが、本発明では、常温(例えば20℃)付近の使用温度では固体であるが、高温(例えば50〜60℃以上)に加熱すると融解する熱可塑性推進薬を用いる。固体ロケットモータの製造性・安全性の観点から、本発明に用いる熱可塑性推進薬の融点は100℃以下であるのが好ましい。
【0025】
このような熱可塑性推進薬として、たとえば、熱可塑性材料を含むバインダ、過塩素酸アンモニウム及びアルミニウムからなるものがある。この場合の組成比は、たとえば、バインダ16〜20wt%、過塩素酸アンモニウム66〜80%、アルミニウム0〜18%としてよい。
また、バインダは、例えば、ブタジエンエラストマ、液状ブタジエン、可塑剤及び流動付与剤からなる。この場合のバインダ中の組成比は、例えば、ブタジエンエラストマ20〜30wt%、液状ブタジエン0〜20wt%、可塑剤50〜75wt%、流動付与剤5wt%としてよい。
なお、本発明に使用可能な熱可塑性推進薬は、上述した組成のものに限られず、推進薬として適度な燃焼性・機械的特性を有しているその他の熱可塑性推進薬であってもよい。
【0026】
図3は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態において、外側ブロック6の製作について説明する図である。
図3に示すように、モータケース7内に熱可塑性推進薬を注型して、円筒内周面6aを有し内側ブロック5を挿入可能な中空円筒型の外側ブロック6を製作する。外側ブロック6の中空部を形成するために、熱可塑性推進薬の注型に際しては図示しない中子を用いる。冷却時の熱収縮を考慮し、この中子は、冷却固化後の内側ブロック5の外径よりも多少小さい外径を有するものを用いる。これにより、冷却固化後の外側ブロック6の内径が、内側ブロック5の外径よりも僅かに大きくなるように、外側ブロック6を製作する。
【0027】
内側ブロック5と外側ブロック6の製作の順序は、いずれが先でも、並行して製作してもよい。
【0028】
図4は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第1実施形態において、内側ブロック5と外側ブロック6の接合について説明する図である。
図4に示すように、内側ブロック5を外側ブロック6の中空部に挿入する。そしてこの状態で、円筒外周面5aと円筒内周面6aを溶融させた後固化させることで、内側ブロック5と外側ブロック6とを接合する。
【0029】
円筒外周面5aと円筒内周面6aを溶融させるために、本発明では加熱リング10Aを用いる。ここで、図5は、本発明の第1実施形態において使用する加熱リング10Aの構成を示す図である。図5Bは図5Aの5B−5B線断面図である。
図5に示す加熱リング10は、熱伝導性のよい材料(例えば銅、アルミニウムなど)からなり、熱可塑性推進薬の融点以上に加熱した加熱用液体(例えば湯)13を流すための環状の流路10aを内部に有している。加熱用液体13としては、たとえば、熱可塑性推進薬の融点以上の温度(例えば70℃〜100℃)に加熱された湯を用いることができる。
【0030】
加熱用液体13を加熱リング10に供給するための供給管11と、加熱用液体13を加熱リング10から排出するための排出管12とが、加熱リング10の軸方向の一端部側(図5Aで下側)に接続されている。供給管11と排出管12は、加熱リング10の軸心と平行に延びており、内部に加熱用液体13を流すための流路11a,12aを有している。供給管11と排出管12は、熱伝導率の低い材料(例えばFRPなどのプラスチック材)からなるのがよい。
以下、加熱リング10Aに供給管11と排出管12を接続したものを加熱装置9とよぶ。
【0031】
図5Bに示すように、加熱リング10Aの断面は、軸心方向の一端(この図で下端)側がゆるやかな丸みをもち、他端(この図で上端)側が先細りした「滴型」である。加熱リング10Aは、丸みのある側において供給管11と排出管12に接続している。
【0032】
内側ブロック5と外側ブロック6とを接合するには、図4Bに示すように、内側ブロック5と外側ブロック6の接合予定位置に合わせて、内側ブロック5と外側ブロック6の端面に加熱リング10Aを配置する。
【0033】
加熱リング10Aには供給管11と排出管12が接続されているので、供給管11と排出管12を挿入するための穴が形成されるように、内側ブロック5の外周面と外側ブロック6の内周面に、予め溝を形成しておき、図5Bに示すように供給管11と排出管12を内側ブロック5と外側ブロック6の間に挿入することで、加熱装置9を配置する。
【0034】
そして、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱した加熱用液体13を加熱リング10に供給しながら、供給管11と排出管12を加熱リング10とは反対方向に引き抜き、図4Cに示すように、加熱装置9を軸方向に移動させていく。すると、内側ブロック5の外周面と外側ブロック6の内周面は、加熱リング10Aが軸方向に移動する過程で、加熱リング10Aと接触することで融解し、その後、温度低下によって固化する。したがって、加熱リング10Aを内側ブロック5と外側ブロック6の反対側の端面まで移動させることで、円筒外周面5aと円筒内周面6aの全体を接合することができる。
【0035】
上述した本発明の第1実施形態によれば、推進薬を内側ブロック5と外側ブロック6に分けて別々に成形してから両者を接合するので、内孔に生じる熱応力・歪を大幅に低減できる。これは、推進薬の成形をブロックごとに行うことで、内孔歪が、固体推進薬充填率を低くしたとき、あるいは小型のモータケース内に固体推進薬を成形したときと同等になるからである。したがって、本発明によれば、推進薬の充填率を高めることできる。
【0036】
歪が大幅に低減するので、リリーフブーツを不要または最小にすることができる。
熱可塑性推進薬を、内側ブロック5と外側ブロック6とを接合するための接合剤として用いているので、両者をしっかりと接合することができる。
【0037】
内側ブロック5と外側ブロック6の間に形成される隙間が十分に小さい場合、上記のように加熱リング10Aを軸方向に移動させることで、円筒内周面6aと円筒外周面5aの間の全体に接合面を容易に形成できる。
【0038】
加熱リング10Aに加熱した液体を流すことで、加熱リング10Aを容易に加熱することができる。
供給管11と排出管12を軸方向に引き抜くことで加熱リング10Aを軸方向に移動させるので、加熱リング10Aを軸方向に容易に移動させることができる。
【0039】
なお、図4の例では、加熱リング10Aが加熱装置9の上端に位置する状態で、加熱装置9を下方向に移動させたが、これとは逆に、加熱リング10Aが加熱装置9の下端に位置する状態で、加熱装置9を上方に移動させるようにしてもよい。これは、以下に説明する他の実施形態においても同様である。
【0040】
また、図4の例では、モータケース7の軸方向が鉛直に向いているが、モータケース7の軸方向を水平又は水平に対して傾斜した方向に向けてもよい。この場合、供給管11と排出管12を加熱リング10Aとは反対方向に引き抜いて加熱装置9を軸方向に移動させる。これは、以下に説明する他の実施形態においても同様である。
【0041】
図6は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第2実施形態を説明する図である。本発明の第2実施形態は、内側ブロック5と外側ブロック6の間に形成される隙間が広い場合に好適であり、図6Aに示す構成の加熱リング10Bを用いる。
【0042】
ここで、図7Aは、図6Aにおける7A−7A線断面図である。図7Aに示すように、加熱リング10Bは、第1実施形態における加熱リング10Aと同様に、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱した加熱用液体を流すための流路10aを内部に有している。
【0043】
また図6Aに示すように、加熱用液体13を加熱リング10Bに供給するための供給管11と、加熱用液体13を加熱リング10Bから排出するための排出管12とが、加熱リング10Bの軸方向の一端部側(図6Aで下側)に接続されている。供給管11と排出管12は、熱伝導率の低い材料(例えばFRPなどのプラスチック材)からなるのがよい。
【0044】
ここで、図7Bは、図6Aにおける7B−7B線断面図である。図7Bに示すように、加熱液体供給管11の内部には、スラリー状の熱可塑性推進薬を加熱リング10Bに供給するための推進薬供給管15が配置されている。推進薬供給管15の内部には、スラリー状の熱可塑性推進薬14を流すための流路16が形成されている。また加熱液体排出管12の内部にも、同様の推進薬供給管15が配置されている。この構成により、加熱リング10Bは、供給管11と排出管12が接続された側とは反対側からスラリー状の熱可塑性推進薬14を押し出すようになっている。
【0045】
第2実施形態において、内側ブロック5と外側ブロック6とを接合するには、図6Bに示すように、内側ブロック5と外側ブロック6の間に加熱リング10Bを配置する。そして、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱した加熱用液体13を加熱リング10Bに供給するとともに、加熱された加熱リング10Bから内側ブロック5と外側ブロック6との間にスラリー状の熱可塑性推進薬14を押し出しながら、供給管11と排出管12を加熱リング10とは反対方向に引き抜き、加熱リング10Bを軸方向(図6で下方向)に移動させていく。
【0046】
これにより、内側ブロック5と外側ブロック6との間の全体にスラリー状の熱可塑性推進薬14を充填する。内側ブロック5と外側ブロック6との間に充填された熱可塑性推進薬14の温度が低下し固化することで、内側ブロック5と外側ブロック6が接合される。
なお、内側ブロック5と外側ブロック6の間の軸方向端部(充填を開始する部分)に熱可塑性推進薬14を充填するときは、図6Bに示すように蓋部材17で端面を閉じておくことにより、熱可塑性推進薬14が端面から流出することを防止でき、効率的に充填できる。
【0047】
上述した第2実施形態によれば、内側ブロック5と外側ブロック6の間に形成される隙間が広い場合、上記のように加熱リング10Bからスラリー状の熱可塑性推進薬14を押し出すとともに加熱リング10Bを軸方向に移動させることで、円筒内周面6aと円筒外周面5aの間の全体に接合面を容易に形成できる。
【0048】
また、加熱リング10Bが内側ブロック5と外側ブロック6の間を軸方向に移動する過程において、内側ブロック5と外側ブロック6において加熱リング10Bが接触した部分は、その熱で融解し、その融解した部分に、加熱リング10Bから押し出されたスラリー状の熱可塑性推進薬が接触するので、これが固化することで、内側ブロック5と外側ブロック6をしっかりと接合することができる。
【0049】
第2実施形態のその他の効果として、第1実施形態と同様に、推進薬を内側ブロック5と外側ブロック6に分けて別々に成形してから両者を接合するので、内孔に生じる熱応力・歪を大幅に低減でき、推進薬の充填率を高めることでき、リリーフブーツを不要または最小にすることができる。
【0050】
図8は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第3実施形態を説明する図である。
本発明の第3実施形態は、内側ブロック5と外側ブロック6の間に形成される隙間が小さい場合に好適であり、図8Aに示す構成の加熱リング10Cを用いる。
【0051】
この加熱リング10Cは、内部にヒータ18が配置され、軸方向の一端(図8Aで下端)側でヒータ18に電力を供給するケーブル20が接続されている。また、加熱リング10Cの軸方向の一端側には、加熱リング10Cを軸方向に移動させるためのロッド21が接続されている。このロッド21は中空部を有し、中空部にケーブル20が通されている。
【0052】
また加熱リング10Cの内部の表面近傍には、加熱リング10Cの表面(図示例では内周面側と外周面側)の温度を検出する温度センサ19a,19bが配置されている。なお、図示しないが、温度センサ19a,19bの検出信号を伝送するための信号線はロッド21の内部に通されている。
【0053】
第3実施形態において、内側ブロック5と外側ブロック6とを接合するには、図8Bに示すように、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱した加熱リング10Cを、内側ブロック5と外側ブロック6の間を軸方向に移動させる。すなわち、ロッドを加熱リング10とは反対方向に引き抜くことで、加熱リング10Cを軸方向に移動させる。これにより、内側ブロック5の円筒外周面5aと外側ブロック6の円筒内周面6aを溶融させた後、固化させる。
この場合、温度センサ19a,19bにより、加熱リング10Cの表面温度を検出し、温度が上がり過ぎないように電流を制御することで、安全に接合を実施することができる。
【0054】
上述した第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、推進薬を内側ブロック5と外側ブロック6に分けて別々に成形してから両者を接合するので、内孔に生じる熱応力・歪を大幅に低減でき、推進薬の充填率を高めることができ、リリーフブーツを不要または最小にすることができる。
【0055】
図9は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第4実施形態を説明する図である。
第4実施形態では、3つ以上の熱可塑性推進薬からなるブロックを接合して、固体ロケットモータ推進薬を成形する。すなわち、内側ブロック5が半径方向に分割された複数の小ブロックからなる。
【0056】
図9では、内側ブロック5が2つの小ブロック5A,5Bからなるものとし、外側ブロック6とあわせて合計3つのブロックを接合して、固体ロケットモータ推進薬を成形する場合を説明する。
まず、2つの小ブロック5A,5Bと外側ブロック6を製作する。2つの小ブロック5A,5Bは、図2において説明した方法と同様に、成形する小ブロックの大きさに対応した円筒型のケースと中子を用いて熱可塑性推進薬を注型することで、製作できる。
【0057】
図9(A)〜(C)に示すように、外側ブロック6と小ブロック5Bを接合し、さらに小ブロック5A,5B同士を接合する。この接合は、上述した第1〜第3の実施形態における加熱リング10A〜10Cのいずれを用いて行ってもよい。なお、小ブロック5A,5B同士を接合して、一体の内側ブロック5を成形してから、この内側ブロック5と外側ブロック6を接合してもよい。
【0058】
本発明の第4実施形態によれば、上述した第1〜第3の実施形態と比べて、内側ブロック5を構成する各ブロックと外側ブロック6の厚さを薄くすることができるので、内孔に生じる熱応力・歪をより低減できる。
【0059】
図10は、本発明に係る固体ロケットモータ推進薬の成形方法の第5実施形態を説明する図である。
上述した第1〜第4の実施形態では、内孔を有する内側ブロック5を製作し、これを外側ブロック6と接合したが、本発明の第5実施形態では、内孔のない内側ブロック5を製作して、これを外側ブロック6と接合する。この接合は、上述した各実施形態と同様の方法で行ってよい。
【0060】
内側ブロック5と外側ブロック6を接合したら、この2つのブロックが接合した推進薬の端面から、熱可塑性推進薬の融点以上に加熱された中子23を軸方向に押し込み、所定の断面形状を有する内孔を形成する。中子23は断面が例えば十字状や星型である。
【0061】
図10の構成例において、中子23は熱伝導性のよい金属(アルミニウム、銅など)で形成され、中子23の内部には加熱用流体26を流すための流路23aが形成されている。加熱用流体26は、供給管24を介して中子に供給され、排出管25を介して排出される。
加熱用流体26としては、たとえば、熱可塑性推進薬の融点以上の温度(例えば70℃〜100℃)に加熱された湯を用いることができる。
なお、中子23を加熱させる構成として、中子23の内部に電気ヒータを組み込んだ構成を採用してもよい。
【0062】
なお、上記において、本発明の実施形態及び実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0063】
2 熱可塑性推進薬
3 ケース
4 中子
5 内側ブロック
5a 円筒外周面
5b 内孔
6 外側ブロック
6a 円筒内周面
7 モータケース
9 加熱装置
10A,10B,10C 加熱リング
10a 流路
11 供給管
11a 流路
12 排出管
12a 流路
13 加熱用流体
14 スラリー状の熱可塑性推進薬
15 推進薬供給管
16 流路
17 蓋部材
18 ヒータ
19a,19b 温度センサ
20 ケーブル
21 ロッド
23 中子
23a 流路
24 供給管
25 排出管
26 加熱用流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)円筒外周面を有し熱可塑性推進薬からなる内側ブロックを作製し、
(b)モータケース内に熱可塑性推進薬を注型して、円筒内周面を有し前記内側ブロックを挿入可能な中空円筒型の外側ブロックを製作し、
(c)内側ブロックを外側ブロックの中空部に挿入した状態で、前記円筒外周面と前記円筒内周面を溶融させた後固化させ、又は前記円筒外周面と前記円筒内周面との間にスラリー状の熱可塑性推進薬を充填した後固化させることで、内側ブロックと外側ブロックとを接合する、ことを特徴とする固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項2】
前記(c)の工程において、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された加熱リングを、前記円筒内周面と前記円筒外周面との間を軸方向に移動させて前記円筒外周面と前記円筒内周面を溶融させた後、固化させる、請求項1記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項3】
前記(c)の工程において、熱可塑性推進薬の融点以上の温度に加熱された加熱リングから前記円筒外周面と前記円筒内周面との間にスラリー状の熱可塑性推進薬を押し出すとともに、前記加熱リングを前記円筒内周面と前記円筒外周面との間を軸方向に移動させることで、前記円筒外周面と前記円筒内周面との間にスラリー状の熱可塑性推進薬を充填する、請求項1記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項4】
前記(c)の工程において、前記加熱リングの内部に前記熱可塑性推進薬の融点よりも高い温度に加熱した液体を流すことで、加熱リングを加熱する、請求項2又は3記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。
【請求項5】
前記液体を加熱リングに供給するための供給管と、前記液体を加熱リングから排出するための排出管とが、前記加熱リングの軸方向の一端部側に接続されており、
前記(c)の工程において、前記供給管と前記排出管を軸方向に引き抜くことで、前記加熱リングを軸方向に移動させる、請求項4記載の固体ロケットモータ推進薬の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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