説明

固体潤滑剤としての亜フッ素化カーボンの使用

本発明は、固体潤滑剤としての亜フッ素化カーボンの使用に関する。上記亜フッ素化カーボンは、固体潤滑剤として、粉末形態で、(CF)構造を有するフッ素化カーボン領域、及び非フッ素化グラファイトカーボン領域を同時に含有する。本発明は、固体潤滑剤の分野で使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体潤滑剤としての亜フッ素化カーボンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトカーボンは、固体潤滑剤であることが知られている。
【0003】
しかし、グラファイトカーボンは、多湿環境中でのみ固体潤滑剤として使用することができ、周囲空気、すなわち約55%の相対湿度を有する空気中では固体潤滑剤として使用することができない。
【0004】
したがって、(CF型のグラファイトフッ素化物を固体潤滑剤として使用することが提唱されている。
【0005】
これらのグラファイトフッ素化物は、様々な環境、すなわち多湿空気、乾燥空気、乾燥アルゴン、及び最大550℃の温度において使用することができる。これらのフッ素化物は、低い磨耗率をもたらしつつ、真空空間下で、すなわち10−8トール〜10−9トールの超高真空下で使用することもできる。
【0006】
これらのグラファイトフッ素化物は、様々な方法により得ることができる。第1の方法は、420℃〜550℃の温度でのグラファイトの直接フッ素化方法である。このような方法は、非特許文献1に記載されている。そのようにして高温で、特に550℃で得られるグラファイトフッ素化物は、カーボン層がspカーボン原子間に形成される共有結合により互いに結合した、いす型又は舟型を有するヘキサゴナル環(hexagonal rings)の無限ネットワークから成る(CF)構造に対応する。各カーボン原子は、共有結合によりフッ素原子とも結合している。
【0007】
直接フッ素化による別の合成方法は、非特許文献2に記載されている。この方法により、式(CF)を有するグラファイトフッ素化物が得られる。
【0008】
カーボン−フッ素包接錯体であるグラファイトフッ素化物も既知である。これらのグラファイトフッ素化物は、周囲温度での様々なカーボンフッ素化方法により得られている。周囲温度では、フッ素を単独で使用しても、フッ素はグラファイトと反応しない。これらの方法の幾つかでは、グラファイトを、金属フッ素化物、例えばLiF、SbF、WF、CuF、AgF又はIFの存在下又は非存在下でF+HFガス混合物と反応させ、その後Fガス中、100℃〜600℃の温度で後熱処理する。
【0009】
亜フッ素化カーボンのファミリーも既知である。
【0010】
亜フッ素化カーボンと称されるこのカーボンファミリーの主要な特質は、(CF)構造を有するフッ素化カーボン領域と密に混合された非フッ素化グラファイトカーボン領域の存在である。
【0011】
好ましくは、非フッ素化グラファイトカーボン領域は、ナノ領域である。
【0012】
本発明との関連では、ナノ領域は、少なくとも1つの寸法が1ナノメートル〜1ミクロン(両端を含む)、好ましくは1ナノメートル〜300ナノメートル(両端を含む)である領域を意味する。
【0013】
これらは、本発明において固体潤滑剤として使用される亜フッ素化カーボンである。
【0014】
実際に、これらの亜フッ素化カーボンは、25℃で、及び周囲空気、すなわち約55%の相対湿度を有する空気中で、及び下で説明するように100サイクル、すなわち試料上における摩擦ボールの100回の往復(return trips)の後でさえも、0.1未満の優れた摩擦係数を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】W. Rudorff et al., Z. Anorg. Allgem. Chem., 253, 281 (1947)
【非特許文献2】Y. Kita et al., in J. Am. Chem. Soc., 101, 3832 (1979)
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明は、粉末形態の、(CF)構造を有するフッ素化カーボン領域と併せて、好ましくは1ナノメートル〜1ミクロン、より好ましくは1ナノメートル〜300ナノメートルの少なくとも1つの寸法を有する純粋なグラファイトカーボン、すなわち非フッ素化グラファイトカーボンの領域を含む亜フッ素化カーボンの固体潤滑剤としての使用を提唱する。
【0017】
好ましくは、亜フッ素化カーボンの総モル数と比較したグラファイトカーボンのモル百分率は5%以上であるが厳密に100%未満である。
【0018】
また好ましくは、亜フッ素化カーボンは、300℃〜500℃(両端を含む)の温度でカーボンマトリクスをフッ素化することにより得られる。
【0019】
好ましくは、このカーボンマトリクスはグラファイト構造を有する。
【0020】
本発明の第1の好ましい実施の形態では、グラファイト構造を有するカーボンマトリクスは、グラファイトカーボンのナノファイバー及び/又はナノチューブ及び/又はナノコーン及び/又はナノディスク及び/又はナノ粒子から成る。
【0021】
より好ましくは、本発明のこの第1の好ましい実施の形態では、カーボンマトリクスはグラファイトカーボンナノファイバーから成り、上記マトリクスは370℃〜500℃(両端を含む)の温度での直接フッ素化によりフッ素化される。
【0022】
さらにより好ましくは、本発明のこの第1の好ましい実施の形態では、カーボンマトリクスは、グラファイトカーボンナノファイバーから成り、400℃〜425℃(両端を含む)の温度での直接フッ素化によりフッ素化される。
【0023】
本発明の第2の好ましい実施の形態では、カーボンマトリクスは、グラファイト構造を有するカーボン及び/又はコークス及び/又は石油ピッチから成る。
【0024】
添付の図面を参照して以下の説明目的の記載を読むことにより、本発明がより十分に理解され、その他の利点及び特質がより明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】試験した様々なフッ素化カーボン及び亜フッ素化カーボンの摩擦係数を測定するための摩擦試験に使用した装置を概略的に示す図である。
【図2】摩擦サイクル数に応じた本発明の亜フッ素化カーボンの摩擦係数の変動を示す図である。
【図3】60摩擦サイクル後の、様々な本発明の亜フッ素化カーボンの摩擦係数を示す図である。
【図4】100摩擦サイクル後の、様々な本発明の亜フッ素化カーボンの摩擦係数を示す図である。
【図5】摩擦サイクル数に応じた式CF1.1を有する従来技術のグラファイトフッ素化物の摩擦係数の変動を示す図である。
【図6】4摩擦サイクル後及び60摩擦サイクル後の、F中において100℃、200℃、400℃、500℃の温度で後熱処理を行った及び後熱処理を行わない様々なグラファイトフッ素化物の摩擦係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明において使用される亜フッ素化カーボンは、様々なカーボンマトリクスから得られる。
【0027】
亜フッ素化カーボンは、その粒が平均して1ミクロンより大きい粉末から成り得る、又はグラファイトカーボンのナノ材料、すなわちナノファイバー及び/若しくはナノチューブ及び/若しくはナノディスク及び/若しくはナノコーン及び/若しくはナノ粒子から成り得るグラファイトカーボンマトリクスから得ることができる。
【0028】
特許出願国際公開第97/41061号は、その粒が平均して1ミクロンより大きいグラファイトカーボン粉末から成るカーボンマトリクスから亜フッ素化カーボンを得る方法を特に記載している。
【0029】
国際公開第97/41061号に記載の方法によると、第1の工程では、グラファイト又はモザイク組織を有するグラファイト化可能なカーボンから成るカーボンマトリクスを、15℃〜80℃の温度でフッ素化物MF(ここでMはI、Cl、Br、Re、W、Mo、Nb、Ta、B、Ti、P、As、Sb、S、Se、Te、Pt、Ir及びOsから選択される元素であり、nは元素Mの原子価である(n≦7))の存在下でHF+Fガス混合物と反応させる。第2の工程では、第1の工程の終了時に得られる化合物を20℃〜400℃の温度で1時間〜20時間フッ素と反応させる。
【0030】
この合成方法についてのさらなる詳細は、特許出願国際公開第97/41061号で与えられている。
【0031】
本発明の亜フッ素化カーボンは、グラファイトカーボンナノ材料の直接フッ素化により得ることもできる。本発明との関連では、ナノ材料は、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノディスク、ナノコーン、ナノ粒子又はそれらの混合物を意味する。
【0032】
グラファイトカーボンナノ材料から亜フッ素化カーボンを得る方法は、特許出願国際公開第2007/126436号に記載されている。
【0033】
国際公開第2007/126436号に記載の方法によると、1気圧〜0.1気圧の圧力下、375℃〜480℃(両端を含む)の温度で、カーボンの質量及びフッ素流量に応じて所定の時間グラファイトカーボンナノ材料をフッ素元素のガス源に曝露する。
【0034】
そうして得られるナノ材料は、フッ素19のNMRにより測定される、1より高い場合のあるF/C原子比を有する。
【0035】
したがって、本発明において使用される亜フッ素化カーボンは、1より高い全F/C原子比を有し得る。
【0036】
実際には、本発明において固体潤滑剤として使用される亜フッ素化カーボンを特徴づけるものは、該亜フッ素化カーボンがフッ素化カーボン領域と密に混合された非フッ素化グラファイトカーボン領域を含むという事実である。実際には、純粋なグラファイトカーボン領域又はフッ素化カーボン領域の周辺に、フッ素含有量がより高い区域が存在する。
【0037】
既に述べたように、本発明の亜フッ素化カーボンを、300℃より高い、好ましくは300℃〜500℃(両端を含む)の温度でのフッ素分子による直接フッ素化によりグラファイトカーボンナノファイバーから合成することができる。
【0038】
フッ素化カーボン領域と密に混合された非フッ素化グラファイトカーボン領域を維持するために、及びフッ素分子の非常に高い反応性のために、製造条件の厳密な制御が必要である。この制御は、反応温度若しくは反応時間を限定することにより、又はフッ素分子を窒素若しくはアルゴンで希釈することにより、又は好適なガス流量の適用により達成することができる。条件が設定されると、得られる亜フッ素化カーボンの総フッ素化率は、重量増加(1原子のフッ素の取り込み(accommodation)により、カーボン1モル当たり19gの重量増加がもたらされる)を制御することにより制御される。
【0039】
特にグラファイトカーボンナノファイバーをフッ素化することにより本発明の亜フッ素化カーボンを製造する別の方法は、フッ素分子ではなくフッ素化剤を利用することである。このフッ素化剤は、多数の酸化状態を有し得る元素、例えばテルビウム(Tb3+イオン及びTb4+イオンの形態で存在する)のフッ素化物である。
【0040】
このフッ素化剤の熱分解(例えばTbFに関しては200℃〜450℃での)によりTbF及びフッ素原子又はフッ素分子が生成され、その後該フッ素は標的温度(300℃<T<500℃)でカーボン材料と反応することができ、フッ素化剤の分解温度とカーボンの分解温度とは異なり得る。この場合、反応するフッ素の量は、フッ素化剤の量により制御される。過剰のフッ素化剤が適用される。例えば、F/C比1を得るためには、TbFのモル数は、カーボン1モル当たり1.5である。この方法についてのさらなる詳細は、「フッ素化剤としてTbFを使用するポリ(p−フェニレン)のフッ素化」("Fluorination of poly(p-phenylene) using TbF4 as fluorinating agent"), W. Zhang et al., Journal of Fluorine Chemistry, 128 (2007) 1402-1409で与えられている。
【0041】
本発明の亜フッ素化カーボンは、初期にはグラファイト構造を有しないが、グラファイト化可能なカーボン材料から成るカーボンナノ材料から得ることもできる。このような亜フッ素化カーボンを合成する方法は、特許出願国際公開第2007/126436号に記載されている。
【0042】
したがって、本発明の亜フッ素化カーボンを、様々な初期カーボンから、すなわちグラファイト構造を有する又はグラファイト化可能であるカーボン、コークス、石油ピッチ、カーボンのナノチューブ、ナノファイバー、ナノディスク、ナノコーン、ナノ粒子から調製することができる。
【0043】
本発明において使用される亜フッ素化カーボンの化学組成、すなわちCFにおけるフッ素の原子比「x」を、2つの方法により(重量増加により、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の較正用試料と比較したフッ素19のNMRにより)測定することができる。
【0044】
過フッ素化揮発性アルキル(CF、C等)の形成のために高フッ素化温度、すなわち465℃より高い温度を除き、2つの方法の間には良好な一致が得られる。
【0045】
この理由から、以下の実施例においては、表示するフッ素含有量は定量的フッ素−19 NMRにより測定されるフッ素含有量であり、F/C比はそのように算出したフッ素含有量により算出される。しかしこの方法は、F/C比が低い、すなわち0.04より低い場合には、不正確になる。これが、以下の表1において0.06より低いF/C比を近似値として表示する理由である。
【0046】
本発明において使用される亜フッ素化カーボンを、X線回折、FTIR分光法及びラマン分光法、高分解能固体NMR(19F及び13C)並びに電子常磁性共鳴(EPR)により特徴付けた。
【0047】
非フッ素化カーボンのモル単位での百分率を、13C NMRスペクトルのデコンボリューションにより測定した。非フッ素化カーボンのシグナルは、純粋なグラファイトに関しては120ppm/TMSで観察される。グラファイトカーボンの百分率は、ピーク面積の比SCgraphitic/(SCgraphitic+SC−F+SC−−F+SC−C)を測定することにより得られる。
【0048】
この式において、SCgraphiticはグラファイトカーボンのシグナルの面積であり、SC−Fは共有C−F結合により結合したカーボンのシグナルの面積であり、SC−−Fは半共有(semi-covalent)C−F結合により結合したカーボン(フッ素原子と弱く相互作用しているカーボンsp)のシグナルの面積であり、SC−Cはダイヤモンド型カーボンのシグナルの面積である。
【0049】
しかし、90%より高い純粋なグラファイトカーボンの含有量に関しては、この方法に固有の許容誤差(error margins)により、測定は不正確になる。この理由から、以下の実施例においては、非フッ素化グラファイトカーボンの含有量が90%より高い場合には、約90%とだけ表示する。
【0050】
しかし、本発明の亜フッ素化カーボンは、フッ素化されているため、厳密に100%未満のグラファイトカーボンを常に含有する。
【0051】
より正確には、本発明において使用される亜フッ素化カーボンは、少なくとも5%であるが100%未満のグラファイトカーボンを含有する。
【0052】
本発明のより十分な理解のために、その複数の実施形態及び実施をここに記載する。
【0053】
これらの実施例は純粋に例示目的で提示され、いかなる場合でも本発明を限定するものと考えてはならない。
【実施例】
【0054】
実施例1:フッ素分子での直接フッ素化方法によるグラファイトカーボンナノファイバーから成るマトリクスからの亜フッ素化カーボンの合成
カーボンマトリクスを約20gの質量に秤量する。
【0055】
カーボンマトリクスを低真空下で2時間、事前に脱気する。それをその後4リットルの容量を有する円筒型ニッケル反応器中に導入する。200℃の温度で2時間、Nでの洗浄(Flushing)を実施し、その後温度を5℃/分の温度勾配で所望のフッ素化温度まで増大させる。所望の温度に到達したら、フッ素分子流(約2g/時間)を周囲圧力で約16時間の期間(所望のフッ素含有量に応じて変化する)適用する。
【0056】
得られた亜フッ素化カーボンをその後周囲温度まで冷却し、その化学組成、すなわち亜フッ素化カーボン中のフッ素の原子百分率を、上述したフッ素−19 NMR方法により測定する。
【0057】
得られた生成物中の非フッ素化グラファイトカーボンの百分率を、これらの生成物の13C NMRスペクトルのデコンボリューションにより、上述したように算出した。
【0058】
本実施例において得られた試料に関して測定したフッ素との反応温度、フッ素化時間、F/C原子比、及びグラファイトカーボンの百分率を、以下の表1に示す。
【0059】
表1では、本実施例において調製した試料を「CNF」と表示し、その後にフッ素との反応温度を表示する。より正確には、本実施例において得られた試料を「CNF−370」〜「CNF−480」と表示する。
【0060】
実施例2:1ミクロンより大きいグラファイトカーボン粒子から成るカーボンマトリクスの、フッ素分子での直接フッ素化による亜フッ素化カーボンの合成
30μmの平均粒径を有するグラファイトカーボン粉末を約20gの質量に秤量する。
【0061】
このカーボンマトリクスを実施例1におけるものと同様に処理及び分析する。
【0062】
フッ素化温度、F/C原子比、及び得られた試料中に存在する非フッ素化グラファイトカーボンのモル百分率を、表1に示す。
【0063】
表1では、本実施例において得られた試料を「グラファイト」と表示し、その後に使用したフッ素化温度を表示する。
【0064】
実施例3:フッ素化剤によるグラファイトカーボンナノファイバーからの亜フッ素化カーボンの合成
グラファイトカーボンナノファイバーから成るカーボンマトリクスを、約60mgの塊に秤量する。その後それを、ニッケルボートを使用して、第2のニッケルボート中の1.175gのTbFと同時に、0.7リットルの容量を有する円筒型ニッケル反応器中に導入する。TbFを含有するボートを二区域式炉(two-zone furnace)の区域1に配置し、カーボンマトリクスを含有するボートを炉の所望のフッ素化温度に相当する温度域に配置する。その後低真空(10−2atm)を反応器に適用する。炉の温度を500℃に設定して、TbFからTbFへの分解、並びにカーボンマトリクスとその後16時間反応する(300℃〜500℃(両端を含む)で加熱される)フッ素原子及び/又はフッ素分子の遊離を促進する。温度設定点に到達させるために、5℃/分の温度勾配を適用する。
【0065】
得られた亜フッ素化カーボンを、実施例1におけるものと同様に、その後周囲温度まで冷却し、分析する。
【0066】
表1は、フッ素化温度、フッ素化時間、並びにこの方法により得られた試料におけるF/C原子比、及び非フッ素化グラファイトカーボンのモル百分率を示す。
【0067】
表1では、本実施例において得られた試料を「CNF−C」と表示し、その後にフッ素化温度を表示する。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例4:実施例1〜実施例3において得られた亜フッ素化カーボンの物理的及び化学的な特徴付け
実施例1〜実施例3において得られた亜フッ素化カーボンを、X線回折、FTIR分光法及びラマン分光法、高分解能固体NMR(19F及び13C)並びに電子常磁性共鳴(EPR)により特徴づけた。
【0070】
19F NMRにより、本発明において使用される亜フッ素化カーボン中のC−F結合が共有結合であることが示される。13C NMRにより、グラファイトカーボンC sp(したがってフッ素化されていない)、フッ素と強く結合(共有結合)したカーボンC sp、フッ素とより弱く結合したカーボンC sp、及びダイヤモンドカーボンC spの存在が示される。
【0071】
実施例5:表1においてCNF−435と表示した試料に関する摩擦試験
図1に概略的に示した平面摩擦計上の交互に動く(alternating)球体を使用して摩擦学的パラメータを測定した。
【0072】
図1に示したように、この摩擦計は、図1において1と表示した100C6鋼製平面(計測値10×2mm)、及び図1において2と表示したボール(直径10mmであり、これも100C6鋼製である)を含む。力センサー(図1には示していない)が、コンピュータからの実験をモニタリングする役割を果たすデータ取得システムに接続されている。
【0073】
潤滑剤膜(ここでは表1でCNF−435と表示した試料)を沈着させる方法を、バニシ加工(burnishing)と呼ぶ。
【0074】
この方法では、試験対象の試料を平面上に粉末形態で散布し、別の平面を使用して粉砕し、その後余剰物を除去する。使用した平面をまず研磨紙(1000μm及び400μm)を使用して研磨して、潤滑剤膜の良好な接着を確保する。表面不均一性は100nm(ピーク・トゥ・ピーク)と評価される。
【0075】
その後平面をエタノール及びアセトン浴中で超音波に曝露して、不純物及び研磨材粒子を除去する。
【0076】
CNF−435と表示した試料をその後平面上に沈着させ、それにより図1において3と表示した潤滑剤膜を形成する。
【0077】
試験は、図1において2と表示した鋼のボール上に図1において4と表示した垂直力Fnを適用すること、及びその上に図1において5と表示した交互の運動を与え、接線分力Ftを測定することである。
【0078】
適用した垂直力に対する試験で測定した接線分力の比を算出することにより、巨視的摩擦係数μが得られる。
【0079】
μ=Ft/Fn
試験時に、垂直荷重10N(約1kgの重量)を適用し、86μmの接触直径(ヘルツ理論)、及び0.65GPaの圧力を生じさせる。平面上のボールの運動の速度は一定であり、2mm/秒である。試験を、周囲空気(55%より高い相対湿度)中において25℃で行う。沈着とは無関係の、その固有の摩擦学的特性を測定するために、膜の異なる部分上で複数のプロットを作製する。研究は、0〜100の間で変動するサイクル数に応じた試験対象の材料の摩擦係数の変動を追跡することであった。サイクル数は、試料上におけるボールの往復の数である。これらの試験は周囲空気中で行った。
【0080】
図2は、表1においてCNF−435と表示した試料に関する摩擦係数の変動を示す。この亜フッ素化カーボンは、グラファイトカーボンナノファイバーを435℃でフッ素化することにより得られた。この変動は、〜0.04〜1.1(両端を含む)のフッ素化率に関するフッ素化カーボンナノファイバーの摩擦係数の変動を代表する。
【0081】
図2に示したように、本発明の亜フッ素化カーボンは、その摩擦係数が0.1未満であるため、優れた固体潤滑剤である。
【0082】
実施例6:実施例1において得られた生成物についての摩擦試験
実施例1において得られた他の生成物について、実施例5におけるものと同じ試験を行った。
【0083】
図3は、実施例1において得られた様々な亜フッ素化カーボンについての60回のサイクルに関する摩擦係数μの変動を示す。
【0084】
図3に示したように、60摩擦サイクルの後でさえも、本発明において使用される亜フッ素化カーボンの摩擦係数は0.1未満のままである。
【0085】
図4は、実施例1において得られた様々な亜フッ素化カーボンについての100回のサイクルに関する摩擦係数μの変動を示す。
【0086】
図4に示したように、100摩擦サイクルの後でさえも、亜フッ素化カーボンの摩擦係数は明らかに0.1未満のままである。
【0087】
比較のために、非フッ素化カーボンナノファイバーの摩擦係数の初期値は0.12である。
【0088】
比較例1:
高温で得られた従来技術のカーボンフッ素化物の摩擦学的挙動を、実施例3に記載したものと同じ方法で試験した。
【0089】
使用した従来技術のカーボンフッ素化物の組成は、CF1.1である。該フッ素化物を、6ミクロンの平均粒径を有するグラファイトカーボン、天然グラファイト(Carbone Lorraineにより供給されるUF)の、600℃で5時間の直接フッ素化により得た。このカーボンは、非フッ素化グラファイトカーボン領域を全く含有しないものであった。
【0090】
図5は、サイクル数に応じた従来技術のカーボンフッ素化物の摩擦係数の変動を示す。
【0091】
図5に示したように、最初の4サイクルに関しては摩擦係数は0.07であり、その後摩擦試験の間に徐々に増大する。60サイクルでは、摩擦係数は0.10の値に到達する。
【0092】
比較のために、60回のサイクルに関して、本発明において使用される亜フッ素化カーボンの摩擦係数は、0.08以下のままである。
【0093】
したがって、本発明の亜フッ素化カーボンは、純粋なグラファイトと比較して、また従来技術のカーボンフッ素化物と比較して例外的な耐久性のある潤滑特性を有する。
【0094】
しかし、摩擦学的性能が特に有利である、本発明において使用される亜フッ素化カーボンのフッ素化温度域、すなわち405℃〜420℃のフッ素化温度が存在する。
【0095】
実際には、これらの温度で得られた本発明において使用される亜フッ素化カーボンはより低いフッ素含有量を有するが、存在するフッ素原子は、0.1〜0.5のフッ素含有量を有するカーボンマトリクス中に組織化されている。
【0096】
比較例2
従来技術のグラファイトフッ素化物を、HF、F及びIFの混合物による天然マダガスカルグラファイトの周囲温度でのフッ素化により合成した。得られた生成物の化学組成は、CF0.73(IF0.02(HF)0.06である。その後、フッ素ガス中において100℃〜600℃(両端を含む)の温度で後熱処理を実施する。
【0097】
化合物をTFPTと表示する(FPTは後熱処理温度である)。
【0098】
実施例6に記載したように、得られた試料をその摩擦学的特性について試験した。
【0099】
4サイクル後及び100サイクル後のこれらの従来技術材料の摩擦係数を、図6に示す。
【0100】
4サイクル後の摩擦係数を図6において黒色の逆三角形により示し、100サイクル後の摩擦係数を図6において丸により示す。
【0101】
図6では、本実施例で合成した従来技術のグラファイトフッ素化物の3サイクル後の摩擦係数を黒色の逆三角形により示し、100サイクル後の摩擦係数を丸により示す。
【0102】
図6において観察することができるように、3摩擦サイクル後、本実施例において得られた全てのグラファイトフッ素化物が、0.07〜0.09の区間に摩擦係数を有する。
【0103】
しかし、100サイクル後、これらのグラファイトフッ素化物の摩擦係数は顕著に増大する。200℃で及び300℃で後熱処理を行った試料のみがそれぞれ0.08及び0.07の安定な摩擦係数を保持するが、図3及び図4において観察することができるように、これは常に、本発明の亜フッ素化カーボンにより得られた摩擦係数よりも依然として高い。
【0104】
したがって、本発明において使用される亜フッ素化カーボンは、従来技術において固体潤滑剤として使用される全てのフッ素化カーボン、カーボンフッ素化物及びグラファイトと比較して非常に低い摩擦係数を有するだけでなく、真空下で、超高真空下で、乾燥空気若しくは多湿空気中で、又は液体若しくは粘稠性分散剤(例えば油)中で、固体潤滑剤として使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末形態の、(CF)構造を有するフッ素化カーボン領域、及び非フッ素化グラファイトカーボン領域を同時に含む亜フッ素化カーボンの固体潤滑剤としての使用。
【請求項2】
前記非フッ素化グラファイトカーボン領域が1ナノメートル〜1ミクロン(両端を含む)の少なくとも1つの寸法を有することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記非フッ素化グラファイトカーボン領域が1ナノメートル〜300ナノメートル(両端を含む)の少なくとも1つの寸法を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
亜フッ素化カーボンの総モル数と比較したグラファイトカーボンのモル百分率が5%以上であるが100%未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記亜フッ素化カーボンが300℃〜500℃(両端を含む)の温度でカーボンマトリクスをフッ素化することにより得られることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記カーボンマトリクスがグラファイト構造を有することを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
グラファイト構造を有する前記カーボンマトリクスが、グラファイトカーボンのナノファイバー及び/又はナノチューブ及び/又はナノコーン及び/又はナノディスク及び/又はナノ粒子から成ることを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記カーボンマトリクスがグラファイトカーボンナノファイバーから成ること、及び前記マトリクスが370℃〜500℃(両端を含む)の温度での直接フッ素化によりフッ素化されることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記マトリクスが、グラファイトカーボンナノファイバーから成り、400℃〜425℃(両端を含む)の温度での直接フッ素化によりフッ素化されることを特徴とする、請求項5〜8に記載の使用。
【請求項10】
前記カーボンマトリクスが、グラファイト構造を有するカーボン及び/又はコークス及び/又は石油ピッチから成ることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−522098(P2011−522098A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512163(P2011−512163)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000613
【国際公開番号】WO2009/156604
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(509201894)ユニヴェルシテ ブレズ パスカル−クレモン−フェラン ドゥジエム (4)
【Fターム(参考)】