説明

固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法、固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法及びそれらの方法に用いる固体表面反応に由来する化学発光の検出装置

【課題】高温条件下の固体の表面から発せられる光の中から前記固体表面において進行する化学反応に由来する化学発光を検出することを可能とする化学発光の有無の検出方法を提供すること。
【解決手段】高温条件下において固体表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光の有無を検出することを特徴とする、固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法、固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法並びにそれらの方法に用いる固体表面反応に由来する化学発光の検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から種々の触媒が知られており、例えば、特開2007−217265号公報(特許文献1)においては、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めている酸化物微結晶粒子からなる触媒が開示されている。しかしながら、高温条件下において特開2007−217265号公報に記載のような触媒等の固体の表面上で進行する化学反応がどのような反応であり、その反応によりどのような化学物質種(活性種や反応中間体)が生成されているか等を測定する方法はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−217265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高温条件下の固体の表面から発せられる光の中から化学反応に由来する化学発光を検出することが可能な化学発光の有無の検出方法、前記化学発光の発光スペクトルに基づいて高温条件下における固体表面反応に由来する化学物質種(活性種や反応中間体等)を同定することを可能とする固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法、並びに、これらの方法に好適に用いることが可能な固体表面反応に由来する化学発光の検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高温条件下において固体表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とを分光することにより、高温条件下の固体の表面上において進行する化学反応に由来する化学発光を検出することが可能となり、これにより前記固体表面反応において生成される化学物質種(活性種や反応中間体等)を同定することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法は、高温条件下において固体表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光の有無を検出することを特徴とする方法である。
【0007】
また、本発明の固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法は、高温条件下において固体表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光を検出して、前記化学発光の発光スペクトルに基づいて前記固体表面上での前記化学反応により生じる化学物質種を同定することを特徴とする方法である。
【0008】
さらに、本発明の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置は、化学反応に寄与する固体試料を収容するための固体試料用容器と、前記固体試料用容器の内部を加熱するための加熱手段と、前記固体試料の表面から発せられる光を熱輻射に由来する発光と前記固体試料の表面上での化学反応に由来する化学発光とに分光するための分光手段と、前記分光手段により分光された前記化学発光を受光して検出する受光検出手段とを備え、且つ、前記固体試料用容器の内部において高温条件下で前記固体試料の表面上で化学反応を進行せしめ、前記固体試料の表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光の有無を検出するためのものである。
【0009】
また、上記本発明の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置においては、前記分光手段に前記固体試料用容器から発せられる熱が伝達されることを防止するための冷却手段を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温条件下の固体の表面から発せられる光の中から化学反応に由来する化学発光を検出することが可能な化学発光の有無の検出方法、前記化学発光のデータに基づいて高温条件下における固体表面反応により生じる化学物質種(活性種や反応中間体等)を同定することを可能とする固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法、並びに、これらの方法に好適に用いることが可能な固体表面反応に由来する化学発光の検出装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【図2】熱輻射に由来する発光スペクトルのピーク波長と固体試料の温度との関係を示すグラフである。
【図3】励起状態及び基底状態のエネルギー差と、発光波長との関係を示すグラフである。
【図4】触媒中のCeに結合したbidentate型Carbonate種を模式的に示す模式図である。
【図5】実施例1〜2で用いたセリア粒子の表面から発せられた化学発光の発光強度と、ガス供給時間との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1〜2で用いたセリア粒子の表面からCOを供給している間に発せられた化学発光のスペクトルの波長と発光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法、固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法、並びに、固体表面反応に由来する化学発光の検出装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
先ず、本発明の固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法や固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法に好適に用いることが可能な、本発明の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置の好適な一実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。図1に示す化学発光の検出装置1は、基本的には、固体試料用容器10と、加熱手段11と、分光手段12と、受光検出手段13と、冷却手段14とを備える。また、本実施形態においては、固体試料用容器10の内部に試料セル20が配置され、その試料セル20上に固体試料21が配置されている。また、図1中、矢印Aは流通するガスの進行する方向を概念的に示すものである。
【0015】
固体試料用容器10は、内部に固体試料21を配置することが可能で、且つ、その固体試料21の表面上で固体表面反応を起こさせて、その反応に伴って発せられる光を外部に伝達することが可能な設計であればよく、用いる固体試料21の種類等に応じてその設計を適宜変更することができ、その大きさ、材質、形状等が特に制限されるものではない。本実施形態においては、固体試料21を配置するための凹部を有する形状の容器10を用いている。
【0016】
また、このような固体試料用容器10においては、固体試料21の表面から発せられる光をその容器10の外部に伝達することが可能なように、容器10の少なくとも一部に光の透過を可能とする透明部10aが形成されていることが好ましい。このような透明部10aを形成するための材料としては特に制限されないが、容器10の内部において高温条件下の化学反応を行うことから耐熱性の高い材料からなることが好ましく、石英からなるものがより好ましい。本実施形態においては、固体試料21の表面から発せられる光を容器10の外部において受信することが可能なように、容器10内の凹部の天井部に石英ガラスからなる窓が透明部10aとして形成されている。
【0017】
また、固体試料用容器10において透明部10a以外の部分を形成する材料も特に制限されないが、容器10の内部において高温条件下の固体試料21の表面上において化学反応を行うことから耐熱性が高く且つ目的とする固体表面反応に由来する反応物質に対して反応を示さない材料を用いることが好ましく、固体表面反応に用いる反応物質の種類等に応じて適宜その材料を選択すればよい。例えば、固体試料21がセリア粒子からなる触媒であり、かかる触媒を用いてCOとOとを反応させる場合にはステンレス製容器を用いることが好ましい。なお、本実施形態において容器10は、透明部10a以外がステンレスにより形成されている。
【0018】
また、本実施形態の固体試料用容器10は、固体試料21の表面上で固体表面反応を起こさせるためのガスを供給するためのガス供給口10bと、反応後のガスを排出するためのガス排出口10cとを有している。このようなガス供給口10b及びガス排出口10cを備えるものを用いることにより、その容器10の内部に反応ガスを効率よく供給することが可能となり、固体試料21の表面上で効率よく化学反応を生じさせることが可能となる。そのため、このような化学発光の検出装置1においては、固体試料用容器としてガス供給口10b及びガス排出口10cを備えるものを用いることが好ましい。なお、本実施形態においては、ガス供給口10bにガス流量計及びガスポンプ(いずれも図示せず)が接続されており、供給するガスの種類や流量を制御できるようになっている。また、ガスの流量は温度条件や固体試料の種類や量等によって適宜変更すればよく、通常、数十mL/分〜数百ml/分の範囲にしてもよい。
【0019】
さらに、固体試料用容器10内に配置される試料セル20の材質としては特に制限されないが、容器10の内部において高温条件下の固体試料21の表面上において固体表面反応を行うことから耐熱性が高く且つ固体表面反応に由来する反応物質に対して反応を示さない材料であることが好ましく、固体表面反応に用いる反応物質の種類等に応じて適宜その材料を選択することができる。また、このような材料としては、固体試料用容器10における前記透明部以外の部分を形成する材料と同様のものを好適に用いることができる。なお、本実施形態においては、試料セル20はステンレスにより形成されている。
【0020】
加熱手段11は、固体試料用容器10の内部を加熱することが可能なものであればよく、特に制限されず、固体試料21の表面上で固体表面反応が生じる温度以上(好ましくは150℃以上)に加熱することが可能な公知の加熱手段(例えばヒータ等)を適宜用いることができる。
【0021】
分光手段12は、固体試料21の表面から発せられる光を熱輻射に由来する発光と固体試料21の表面上での化学反応に由来する化学発光Lとに分光できるものであればよく、特に制限されず、熱輻射と化学発光とを分光することが可能な光学フィルタを適宜用いることができる。ここで、図2に、ウィーンの変位則により求められる熱輻射に由来する発光スペクトルのピーク波長と固体試料の温度との関係を示すグラフを示す。このような図2に示すグラフから、固体試料の温度が400℃の場合には熱輻射に由来する発光スペクトルのピーク波長は4300nmであることが分かり、固体試料の温度が400℃以下の領域においては4300nm以下にピークを有する熱輻射に由来する発光は観測されないことが分かる。また、固体試料の温度が6000℃以下であれば700nm未満にピークを有する熱輻射に由来する発光スペクトルは観測されないことも分かる。そして、このような試料温度と熱輻射のスペクトルの関係から、固体試料の温度が6000℃以下の条件においては700nm以上の波長を有する光をカットすることで熱輻射に由来する発光を十分にカットすることができることが分かる。そのため、固体試料の温度が6000℃以下の条件においては、固体試料から発せられる光から熱輻射に由来する光と化学反応に由来する光とを分光する際に、少なくとも700nm以上の波長を有する光をカットすることが可能な光学フィルタを用いることが有効であることが分かる。そのため、検出する目的となる発光種の化学発光の波長の範囲にもよるが、十分に熱輻射による発光をカットするという観点からは、少なくとも700nm以上(より好ましくは600nm以上、更に好ましくは550nm以上)の波長を有する光をカットすることが可能な光学フィルタを用いることが好ましい。このような光学フィルタとしては、例えば、IRカットフィルタ等が挙げられる。また、このような分光手段12は、固体試料20の表面から発せられる光が固体試料用容器10の透明部10aを介して照射される位置に配置すればよい。本実施形態においては、670nm以上の波長の光をカットすることが可能なIRカットフィルタ(タナカ技研製の商品名「F918−K01−6T IRCF」を用いている。
【0022】
受光検出手段13としては、目的とする化学発光を受信して検出することが可能なものであればよく、特に制限されないが、波長が700nm未満の領域にある光(より好ましくは波長が300〜700nmの領域の光)を受光して検出できるものであることが好ましい。このような受光検出手段としては、例えば、光電子増倍管や半導体光検知素子等を用いることができる。また、このような受光検出手段としては、東北電子産業株式会社製のCLA-FS1に用いられている受光検出手段や、高感度CCDカメラ、ICCDカメラ等を挙げることができる。なお、このような受光検出手段は、分光手段12により分光された化学発光が照射される位置(化学発光を受信できる位置)に配置すればよい。なお、本実施形態においては、受光検出手段13として東北電子産業株式会社製のCLA-FS1に用いられている受光検出手段と同様のものを用いている。
【0023】
また、本実施形態においては、受光検出手段13は、図示を省略した計数手段に接続されている。このような計数手段としては、特に制限されず、公知の計数手段を適宜用いることができ、例えば、光パルス弁別器、アナログ計数器や画像処理ソフトを用いることができる。また、このような計数手段は、図示を省略した出力手段(例えば、ディスプレー、プリンター)に接続され、計数手段から入力されたデータに基づいて発光スペクトルのグラフ等を出力することが可能となっている。すなわち、本実施形態においては、受光検出手段13が受光した際の信号が計数手段に送られると、その信号は計数手段により全発光強度や発光強度分布等のデータに変換され、そのデータに基づいて出力手段により発光スペクトルのグラフ等が出力されるように構成されている。なお、このような出力手段としては特に制限されず、公知の出力手段を適宜用いることができる。
【0024】
冷却手段14は、固体試料用容器10から発せられる熱を冷却して分光手段12に熱が伝達されることを防止するために用いられるものである。このような冷却手段14により、分光手段12や受光検出手段13が熱により劣化することを防止することが可能となるため、長期に亘り、より効率よく化学発光の測定をすることが可能となる。また、このような冷却手段14としては、分光手段12や受光検出手段13への熱の伝達を防止できるものであればよく、特に制限されないが、例えば、分光手段12を送風により冷却することが可能な装置や、分光手段12の表面に冷却水を接触させることが可能で且つその冷却水を循環させることで分光手段12に熱が伝達されることを防止することが可能な装置等を適宜採用することができる。
【0025】
また、固体試料21としては特に制限されず、その固体試料の表面上において化学反応を進行させることが可能なものであればよい。このような固体試料21としては、その表面上で化学反応を起こさせることが可能な各種触媒を用いることができる。このような触媒としては、酸化性ガスと還元性ガスとを交互に接触させることにより化学反応を生じせしめることが可能な触媒等(セリア粒子からなる触媒や貴金属が担持された触媒等)が挙げられる。
【0026】
次に、図1に記載の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置1を用いる、本発明の固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法として好適な方法について説明する。本発明の固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法は、高温条件下において固体表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光の有無を検出することを特徴とする方法である。
【0027】
このような固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法においては、先ず、高温条件下において固体試料21の表面上で化学反応を進行させ、固体試料21の表面から発せられる光を熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とに分光し、受光検出手段13で化学発光を受光することにより化学発光Lの有無を検出する。
【0028】
ここで、「高温条件」とは、150℃以上の温度条件にあることを意味する。また、このような高温条件としては150℃〜600℃(より好ましくは150℃〜500℃)であることが好ましい。このような温度条件が前記上限を超えると波長が700nm未満の範囲(低波長側)において熱輻射に由来するスペクトルが測定される可能性がある。このような温度条件は加熱手段11により固体試料21や容器10の内部を加熱することにより容易に達成することが可能である。
【0029】
また、前記高温条件下において固体試料21の表面上で化学反応を進行させるために、固体試料21に反応性のガスを接触させることが好ましい。これにより効率よく固体試料21の表面上で化学反応を進行させることが可能となる。このような反応性のガスを接触させる方法としては、容器10のガス供給口10bから反応性のガスを供給する方法を採用してもよい。なお、ここにいう「反応性のガス」は、目的とする化学反応を進行させることが可能なガスであればよく、例えば、酸化性ガス(O)と還元性ガス(CO)とを交互に供給して、これを反応性のガスとしてもよく、酸化性ガス(O)と炭化水素(HC)ガスとの混合ガスを反応性のガスとしてもよく、固体試料の種類や目的とする化学反応の種類等に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
また、前記高温条件下において化学反応を進行させた場合には、熱輻射による発光とともに前記化学反応に起因した化学発光Lが生じる。すなわち、前記高温条件下において固体試料21の表面から発せられる光には、化学発光Lとともに熱輻射による発光が含まれる。上記実施形態の検出装置1においては、分光手段12において熱輻射に由来する光を透過させずに化学発光Lのみを透過させることにより、熱輻射による発光と化学発光Lとを分光し、化学発光Lを受光検出手段13に照射させる。これによって化学発光Lの有無を検出することができる。
【0031】
次に、図1に記載の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置1を用いる本発明の固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法として好適な方法について説明する。本発明の固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法は、高温条件下の固体表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光を検出し、前記化学発光の発光スペクトルに基づいて前記固体表面上での前記化学反応により生じる化学物質種を同定することを特徴とする方法である。
【0032】
このような固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法においては、先ず、前述の本発明の固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法として好適な方法と同様の方法により、高温条件下の固体表面から発せられる光を熱輻射に由来する発光と化学発光とに分光して前記化学発光を検出する。そして、検出された化学発光の発光スペクトルのデータに基づいて前記固体表面上での前記化学反応により生じる化学物質種を同定する。
【0033】
ここで、山田正昭ら,“生物発光と化学発光 基礎と実験”,廣川書店,1990年発行,110頁の記載を引用して、一般的な化学反応における発光系と発光種(化学物質種)と発光波長の範囲やピーク波長との関係を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すような発光種の発光波長の範囲やそのピーク波長は、固体表面反応において固体試料21の表面状態と発光種との関係によってシフトする。このような固体試料21の表面と発光種との相互作用による発光種の発光波長のシフトは、発光種の励起状態のエネルギー準位と基底状態のエネルギー準位とが固体試料の表面状態に応じて変化することにより、すなわち両者のエネルギー差が変化することにより起こる。このようなエネルギー差と発光波長との関係を示すグラフを図3に示す。このように、固体試料21の表面と発光種との相互作用によって発光種の励起状態のエネルギー準位と基底状態のエネルギー準位とが変化するため、発光波長のピーク波長が現れる位置や発光波長の範囲は、固体試料21の種類等に応じて異なる位置に現れる。例えば、固体試料21がセリア粒子であり且つ発光種が励起カルボニルである場合には、セリア粒子の表面酸素原子にCOが吸着して形成されるbidentate型Carbonate種(図4参照)のC=Oは、表1に示したC=Oと同じ分子軌道をもつため、本来的には表1に示すような420〜530nmの発光スペクトルが確認されるはずである。しかしながら、セリア粒子の表面酸素原子に形成されたbidentate型Carbonate種は380〜420nmの範囲に発光スペクトルが確認される。このように、セリア粒子の表面酸素原子にCOが吸着して形成されるbidentate型Carbonate種において、表1に記載のC=O種と発光波長の範囲がシフトする理由は、セリア粒子上において形成されるbidentate型Carbonate種において、Cに単結合している2つの酸素原子が電子吸引性の基であるため、C=Oの分子軌道のうちCの寄与が大きいπ軌道及びπ軌道のエネルギー準位が引き上げられ、結果としてπ*軌道とn軌道(C=Oの分子軌道のうちOの寄与が大きい軌道)のエネルギー差が増え、発光スペクトルが低波長側にシフトするためであると推察される。また、その他の発光種について、エネルギー差が±20%である場合において、ピーク波長がシフトする範囲は表2に示す範囲となる。
【0036】
【表2】

【0037】
本発明においては、上述のように、固体表面における化学反応(固体表面反応)により生じる化学発光のスペクトルデータに基づいて化学物質種を同定するため、固体試料21の種類等に応じたシフト後の発光波長(ピーク波長や波長範囲)を基準として化学物質種を同定する必要がある。このような固体試料21の種類等に応じた発光種のシフト後の発光波長は、予め計算により求めたり、予め実験により求めることによって認識することができる。
【0038】
以上、本発明の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置の好適な一実施形態並びにその検出装置を用いた本発明の固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法及び固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法として好適な方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置においては、固体試料21を配置するために試料セル20を使用しているが、本発明の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置は、固体試料用容器と、前記加熱手段と、前記分光手段と、前記受光検出手段とを備えていればよく、その他の構成は特に制限されず、試料セル20を使用しなくてもよい(固体試料21を固体試料用容器10内に直接入れてもよい。)。また、上記実施形態の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置においては、固体試料用容器10の透明部が天井面に形成されていたが、本発明においては、かかる透明部の形成される位置は特に制限されず、固体試料21から発せられる光を観測することが可能となるような位置とすればよく、固体試料用容器の側面等に透明部を設けてもよい。さらに、上記実施形態の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置においては、ガス供給口及びガス排出口が設けてあったが、本発明においては、固体試料用容器として密封タイプの容器を用い、その内部に反応ガスを充填するようにしておいてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(合成例1:固体試料の調製)
内容積5cmの密閉型反応容器(管型オートクレーブ)に、0.03モル/Lの水酸化セリウム懸濁液4.4mLとヘキサン酸0.1mLを仕込み、200℃に設定した加熱炉に反応容器を入れて加熱した。昇温には1.5分を要し、20分間反応させた後、室温まで冷却し、得られた粉体を遠心分離して水、エタノールで洗浄した。このようにして得られたセリア粒子を固体試料とした。
【0041】
(実施例1)
図1に示す上記実施形態の化学発光の検出装置を用い且つ固体試料21として合成例1で得られたセリア粒子を用いて、化学発光の有無及び固体試料の表面上に生じた化学物質種の同定を行った。なお、固体試料用容器10としては透明部10aが石英製で透明部10a以外がステンレス製のものを用いた。また、試料セル20としてはステンレス製のものを用いた。加熱手段11としては市販のヒータ(日本電熱計器社製の商品名「スペースヒータ円盤型」)を用いた。更に、分光手段12としては670nm以上の波長の光をカットできるIRカットフィルタ(タナカ技研社製の商品名「F918−K01−6T IRCF」)を用いた。また、受光検出手段13としては、東北電子産業製の商品名「CLA−FS1」で用いている受光検出手段と同様のものを用いた。また、冷却手段14としては水冷式で分光手段を冷却する装置(冷却水を循環させて分光手段の表面に冷却水を接触させる装置)を用いた。
【0042】
また、固体試料の表面で化学反応を進行させるために、固体試料用容器10の内部を加熱手段11で加熱し、固体試料の温度を200℃とし、固体試料の温度を200℃に保持した後、ガス供給口10bからNを500mL/分の流量で60秒間供給し、次いで、COを500mL/分の流量で60秒間供給した後、再度Nを500mL/分の流量で60秒間供給し、その後、Oガスを500mL/分の流量で60秒間供給する試験を行った。そして、このような試験の間、固体試料の表面から発光される光の中から化学発光を検出した。得られた結果のうち、試験時間と化学発光の発光強度との関係を示すグラフを図5に示し、COを供給している間に検出された光の波長と発光強度(単位:cps)との関係を示すグラフを図6に示す。
【0043】
(実施例2)
合成例1で得られたセリア粒子の代わりに市販のセリア粒子(日揮社製の商品名「PC100」)を固体試料21として用いた以外は、実施例1と同様にして、化学発光を検出した。得られた結果のうち、試験時間と化学発光の発光強度との関係を示すグラフを図5に示し、COを供給している間に検出された光の波長と発光強度との関係を示すグラフを図6に示す。
【0044】
図5及び図6に示す結果からも明らかなように、本発明(実施例1〜2)によれば、固体試料21から発せられる光のうち化学発光を分光して検出することが可能であることが確認された。すなわち、実施例1〜2においては、380〜420nmの波長の光が観測されているが、かかる波長の光が熱輻射であると仮定すると、図2からも明らかなように、その固体試料21の温度は7000℃付近の温度となっていることとなる。これは、上記実施例1〜2の実験条件とは全く異なるものである。そのため、実施例1及び実施例2で観測されている380〜420nmの波長の光は化学発光に由来するものであることが分かる。
【0045】
また、図6に示す結果からも明らかなように、実施例1においてはCOを供給している際に380〜420nmの化学発光のスペクトルが十分な強度で確認された。他方、実施例2においてはCOを供給している際に380〜420nmの化学発光のスペクトルは微弱なものであった。このようなセリアを固体試料21として用いた場合における380〜420nmの化学発光は、励起カルボニル種による発光である。そのため、実施例1で用いたセリア粒子においては、COの供給時に励起カルボニル種(bidentate型Carbonate種)が十分に生成されていることが確認され、他方、実施例2で用いたセリア粒子においては、COの供給時の励起カルボニル種の生成量が微少量であることが分かった。このような結果から、本発明によれば、触媒の設計等を考慮する際に有用なデータが得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明によれば、高温条件下の固体の表面から発せられる光の中から前記固体表面において進行する化学反応に由来する化学発光を検出することを可能とする化学発光の有無の検出方法、前記化学発光のデータに基づいて高温条件下における固体表面反応により生じる化学物質種(活性種や反応中間体等)を同定することを可能とする固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法、並びに、これらの方法に好適に用いることが可能な固体表面反応に由来する化学発光の検出装置を提供することが可能となる。このような本発明の化学発光の有無の検出方法は、触媒の表面上における化学反応により生成される活性種や中間体等を同定することを可能とする方法であるため、触媒上で生じる化学反応のプロセスの解析等をする際に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…固体表面反応に由来する化学発光の検出装置、10…固体試料用容器、10a…固体試料用容器の透明部、10b…固体試料用容器のガス供給口、10c…固体試料用容器のガス排出口、11…加熱手段、12…分光手段、13…受光検出手段、14…冷却手段、20…試料セル、21…固体試料、A…ガスの流通する方向、L…化学発光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温条件下において固体表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光の有無を検出することを特徴とする、固体表面反応に由来する化学発光の有無の検出方法。
【請求項2】
高温条件下において固体表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記固体表面上での化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光を検出して、前記化学発光の発光スペクトルに基づいて前記固体表面上での前記化学反応により生じる化学物質種を同定することを特徴とする、固体表面反応に由来する化学物質種の同定方法。
【請求項3】
化学反応に寄与する固体試料を収容するための固体試料用容器と、前記固体試料用容器の内部を加熱するための加熱手段と、前記固体試料の表面から発せられる光を熱輻射に由来する発光と前記固体試料の表面上での化学反応に由来する化学発光とに分光するための分光手段と、前記分光手段により分光された前記化学発光を受光して検出する受光検出手段とを備え、且つ、前記固体試料用容器の内部において高温条件下で前記固体試料の表面上で化学反応を進行せしめ、前記固体試料の表面から発せられる光から熱輻射に由来する発光と前記化学反応に由来する化学発光とを分光し、前記化学発光の有無を検出するためのものであることを特徴とする、固体表面反応に由来する化学発光の検出装置。
【請求項4】
前記分光手段に前記固体試料用容器から発せられる熱が伝達されることを防止するための冷却手段を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の固体表面反応に由来する化学発光の検出装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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