説明

固体電解コンデンサおよびその製造方法

【課題】大容量の固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】固体電解コンデンサは、陽極体11と、陽極体の表面に設けられた誘電体被膜13と、誘電体被膜上に設けられた固体電解質層14と、を備え、誘電体被膜は、金属酸化物からなる第1誘電体被膜13aと、リン酸二水素カリウムからなる第2誘電体被膜13bとを有する。該コンデンサの製造方法は、化成工程とリン酸二水素カリウムを含有する溶液への浸漬工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサの製造方法であって、特に、大容量の固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンデンサの小型化と大容量化を図るべく、様々なコンデンサが開発されている。なかでも、小型化に適したコンデンサとして、固体電解コンデンサが広く知られている。固体電解コンデンサは、陽極体と、陽極体上に設けられた誘電体被膜と、誘電体被膜上に設けられた固体電解質層を備えており、小型でありながら大容量であるという優れた性能を有している。
【0003】
固体電解質層を構成する電解質としては、マンガン酸化物や導電性高分子などが広く用いられており、陽極体の材料としては、タンタル、ニオブ、アルミニウムまたはチタンなどの弁作用金属が広く用いられている。陽極体の材料を弁作用金属とすることにより、化成処理によって陽極体の表面に金属酸化物からなる誘電体被膜を均一に形成することができる。
【0004】
上述の固体電解コンデンサにおいては、さらなる性能の向上が進められている。たとえば、特許文献1および2には、小型で大容量の固体電解コンデンサとして、チタン酸バリウム(BaTiO3)からなる誘電体被膜を備える固体電解コンデンサが開示されている。チタン酸バリウムは、上述の金属酸化物の10倍以上の誘電率を有しているため、これを誘電体被膜とすることによって固体電解コンデンサのさらなる大容量化が可能であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−254108号公報
【特許文献2】特開平9−17686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような高い誘電率を有するBaTiO3を安定的に形成することは難しい傾向にあるため、作製される固体電解コンデンサの性能がばらつき、歩留まりが低下するという問題がある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、大容量の固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、陽極体と、陽極体の表面に設けられた誘電体被膜と、誘電体被膜上に設けられた固体電解質層と、を備え、誘電体被膜は、金属酸化物からなる第1誘電体被膜と、リン酸二水素カリウムからなる第2誘電体被膜とを有する、固体電解コンデンサである。
【0009】
上記固体電解コンデンサにおいて、第1誘電体被膜は、前記陽極体を構成する弁作用金属の金属酸化物であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、陽極体の表面に誘電体被膜を形成する工程と、誘電体被膜上に固体電解質層を形成する工程と、を備え、誘電体被膜を形成する工程は、金属酸化物からなる第1誘電体被膜を形成する工程と、リン酸二水素カリウムからなる第2誘電体被膜を形成する工程と、をこの順に含む、固体電解コンデンサの製造方法である。
【0011】
上記固体電解コンデンサの製造方法において、第1誘電体被膜を形成する工程は、陽極体を化成処理する工程を含み、第2誘電体被膜を形成する工程は、陽極体をリン酸二水素カリウムを含有する溶液中に浸漬する工程を含むことが好ましい。
【0012】
上記固体電解コンデンサの製造方法において、第2誘電体被膜を形成する工程は、前記溶液中に浸漬された陽極体を溶液から引上げた後、陽極体を加熱する工程をさらに含むことが好ましい。
【0013】
上記固体電解コンデンサの製造方法において、固体電解質層を形成する工程は、誘電体被膜上に導電性のプレコート層を形成する工程を含み、プレコート層を形成する工程は、非水系溶媒を用いて前記プレコート層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大容量の固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の固体電解コンデンサの一例を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の固体電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】図1の固体電解コンデンサの製造工程を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図3を参照しながら、本発明に係る固体電解コンデンサおよびその製造方法の実施の形態を説明する。以下の実施の形態は一例であり、本発明の範囲内で種々の実施の形態での実施が可能である。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0017】
(固体電解コンデンサ)
まず、図1を用いて、本発明の固体電解コンデンサについて説明する。ここでは、焼結体からなる陽極体を有する固体電解コンデンサについて説明する。
【0018】
図1は、本発明の固体電解コンデンサの一例を概略的に示す断面図である。図1において、固体電解コンデンサは、陽極リード12が立設された陽極体11の表面に、誘電体被膜13、固体電解質層14、およびカーボン層15および銀ペイント層16が順次形成されたコンデンサ素子10を備える。また、陽極リード12の陽極体11から露出する一端は、陽極端子17と電気的に接続されており、銀ペイント層16は、接着層18によって陰極端子19と電気的に接続されている。そして、コンデンサ素子10、陽極端子17の陽極リード12と接続する一端側、および陰極端子19の接着層18と接続する一端側は、外装樹脂20によって封止されている。以下、各部について詳細に説明する。
【0019】
陽極体11は弁金属粒子の焼結体であり、陽極リード12の一端が埋設されている。陽極リード12の他端は陽極体11から露出しており、全体として、陽極リード12は陽極体11に立設された状態となっている。弁金属としては、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)などがある。また、陽極リード12の材料は、金属であれば特に限定されないが、弁金属を好適に用いることができる。
【0020】
誘電体被膜13は、第1誘電体被膜13aと第2誘電体被膜13bとからなり、陽極体11上に、第1誘電体被膜13a、第2誘電体被膜13bの順に形成されている。第1誘電体被膜13aは、陽極体11を構成する金属の金属酸化物からなり、陽極体11の表面全体を被覆している。具体的には、陽極体11がTa、Nb、Alのそれぞれからなる場合、第1誘電体被膜13aはそれぞれ、酸化タンタル(Ta25)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化アルミニウム(Al23)からなる。
【0021】
第2誘電体被膜13bは、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)からなり、第1誘電体被膜13aを被覆している。第2誘電体被膜13bは、第1誘電体被膜13aの表面全体を被覆する必要はなく、第1誘電体被膜13aの表面の少なくとも一部を被覆していればよい。たとえば、第1誘電体被膜13a上に点在するように形成されていもよく、第1誘電体被膜13aの表面を不均一に被覆していてもよい。固体電解コンデンサにKH2PO4からなる第2誘電体被膜13bが存在することは、たとえば、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX;Scanning Electron Microscopy−Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)を用いて、カリウム(K)の存在位置、リン(P)の存在位置などを測定することにより確認することができる。
【0022】
固体電解質層14は、誘電体被膜13上に形成されており、二酸化マンガン、TCNQ錯塩(7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン)、導電性高分子などから構成される。導電性高分子としては、公知の導電性高分子を用いることができ、具体的には、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、ならびにポリフランおよびその誘導体に導電性が付与されたものを用いることができる。
【0023】
カーボン層15は、導電性を有していればよく、たとえば、グラファイトを用いることができる。また、銀ペイント層16は、銀粒子で構成することができる。陽極端子17および陰極端子19は、導電性を有していればよく、たとえば、銅などの金属を用いることができる。接着層18は、導電性と接着性を有していればよく、たとえば銀をフィラーとして含む銀接着剤を用いることができる。外装樹脂20の材料は特に限定されず、たとえばエポキシ樹脂などの公知の樹脂を用いることができる。
【0024】
上記固体電解コンデンサによれば、第2誘電体被膜13bを構成するKH2PO4は強誘電体であって、上記の金属酸化物よりも誘電率が高いため、誘電体被膜13は、従来の金属酸化物のみからなる誘電体被膜と比較して、高い静電容量を有することができる。したがって、結果的に、固体電解コンデンサを大容量化することができる。
【0025】
また、第1誘電体被膜13aと第2誘電体被膜13bとの各厚みを調整することにより、従来の金属酸化物のみからなる誘電体被膜を有する固体電解コンデンサと比較して、さらなる小型化が可能となる。なお、第1誘電体被膜13aの厚みは、化成電圧、化成処理時間、化成処理液の濃度により調整することができ、第2誘電体被膜13bの厚みは、KH2PO4溶液中のKH2PO4の濃度、浸漬時間により調整される。
【0026】
さらに、KH2PO4は、BaTiO3よりも安定的に高い誘電率を有することができるため、BaTiO3を強誘電体として含む誘電体被膜を備える固体電解コンデンサと比較して、静電容量のばらつきを抑制することができる。
【0027】
また、第2誘電体被膜13bを構成するKH2PO4は、分子中に酸素原子(O)を有するため、第1誘電体被膜13aの欠損部を修復することができる。したがって、結果的に、固体電解コンデンサの自己修復性を高めることができる。
【0028】
(固体電解コンデンサの製造方法)
次に、図1〜図3を用いて、上記固体電解コンデンサの製造方法の一例について説明する。図2は、図1の固体電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートであり、図3は、図1の固体電解コンデンサの製造工程を概略的に示す断面図である。
【0029】
まず、図2および図3(A)に示すように、陽極リードが立設された陽極体11を形成する(ステップS1)。図2の陽極体11は、たとえば、以下のように形成することができる。
【0030】
すなわち、まず、弁作用金属の粉末を準備する。次に、棒状体の陽極リード12の一端側が上記粉末に埋め込まれた状態となるように、当該粉末を所望の形状、たとえば直方体形状に成形する。次に、成形された成形体を焼結して、多孔質構造の焼結体からなる陽極体11を形成する。
【0031】
弁作用金属としては、タンタル、ニオブ、アルミニウムおよびチタンなどを用いることができる。固体電解コンデンサの漏れ電流をより小さくすることができる点で、タンタルを用いることがより好ましい。また、陽極リード12の材料は特に限定されないが、陽極体11と同一の金属を用いることが製造工程上好ましい。また、陽極リード12の表面を形成する材料が、陽極体11と同一の金属であってもよい。
【0032】
次に、図2、図3(B)および図3(C)に示すように、陽極体11の表面に、第1誘電体被膜13aおよび第2誘電体被膜13bをこの順に形成することにより、誘電体被膜13を形成する(ステップS2およびS3)。たとえば、以下のように形成することができる。
【0033】
すなわち、まず、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸水溶液、硝酸水溶液などの化成処理液に陽極体11を浸漬し、該陽極体11に電圧を印加する(ステップS2)。これにより、陽極体11の表面部分を構成する弁作用金属が酸化物へと変化して、陽極体11を構成する金属の酸化物からなる第1誘電体被膜13aが形成される。
【0034】
次に、第1誘電体被膜13aが形成された陽極体11を化成処理液から引き上げた後、KH2PO4を含有する溶液(以下、「KH2PO4溶液」ともいう。)中に浸漬する。なお、KH2PO4溶液に浸漬するまえに、化成処理液から引上げた陽極体11を純水などを用いて洗浄した後乾燥する処理を行ってもよい。そして、陽極体11をKH2PO4溶液から引上げて陽極体11に付着したKH2PO4溶液のうちの溶媒を蒸発させることにより、第1誘電体被膜13a上に、KH2PO4からなる第2誘電体被膜13bが形成される(ステップS3)。
【0035】
KH2PO4溶液のKH2PO4の濃度は、0.1mol/l以上1.7mol/l以下であることが好ましい。KH2PO4の濃度を1.7mol/l以下とすることにより、溶液中にKH2PO4を均一に溶解させることができるため、結果的に、均質な第2誘電体被膜13bを形成することができる。なお、第2誘電体被膜13bの膜厚は、KH2PO4溶液のKH2PO4の濃度、浸漬時間により調整することができる。また、KH2PO4溶液の溶媒としては、水を用いることができる。
【0036】
また、本工程において、KH2PO4溶液から引上げた陽極体11を加熱処理してもよい。加熱処理することにより、KH2PO4の結晶性を高めることができる。また、加熱処理することにより、溶媒の蒸発を促進させることができる。上記加熱処理は、陽極体11を100℃以上260℃以下で加熱することが好ましい。これにより、KH2PO4の結晶性を効率的に高めることができる。KH2PO4の結晶性が高まることにより、第2誘電体被膜13bの強度を高めることができる。したがって、たとえば、第2誘電体被膜13bの剥離などを抑制することができる。また、KH2PO4の結晶性が高まることにより、第2誘電体被膜13bの誘電率をさらに向上させることができ、もって、誘電体被膜13の性能を向上させることができる。したがって、結果的に、固体電解コンデンサの静電容量をさらに増大させることができる。
【0037】
次に、図2および図3(D)に示すように、誘電体被膜13上に固体電解質層14を形成する(ステップS4)。固体電解質層14は、二酸化マンガン、TCNQ錯塩、導電性高分子などであり、これらはたとえば、公知の方法で形成することができる。ここでは、導電性高分子からなる固体電解質層14を形成する方法の一例について説明する。
【0038】
すなわち、まず、誘電体被膜13が形成された陽極体11上に導電性のプレコート層(不図示)を形成する。プレコート層の形成は必須ではないが、誘電体被膜13上に導電性のプレコート層を形成することにより、誘電体被膜13上およびプレコート層上に、電解重合法によって導電性高分子からなる固体電解質層14を容易に形成することができる。導電性高分子からなる固体電解質層14は、電解重合法、化学重合法のいずれの方法によっても形成することができるが、電解重合法によって形成される固体電解質層14はその構造が緻密であり、また、均質であるため好ましい。
【0039】
上記プレコート層は、たとえば、化学重合法によって容易に形成することができる。なお、この場合、プレコート層は導電性高分子より構成されることになる。化学重合法によれば、高分子の前駆体(たとえば、前駆体モノマー)、ドーパント、酸化剤を含有する重合液に陽極体11を浸漬して引上げることによって、陽極体11の表面に導電性高分子を成長させることができる。なお、重合液は上記の全ての物質を含有する一液であってもよく、二液であってもよい。たとえば、前駆体を含有する第1重合液と、ドーパントおよび酸化剤を含有する第2重合液とからなる二液で化学重合を行なう場合には、陽極体11を各重合液に順に浸漬すればよい。
【0040】
次に、プレコート層上に導電性高分子からなる固体電解質層14を形成する。上述のように、プレコート層が存在することにより、誘電体被膜13上およびプレコート層上に、電解重合法を用いて、緻密で均質な固体電解質層14を容易に形成することができる。電解重合法によれば、高分子の前駆体およびドーパントを含有する電解重合液に陽極体11を浸漬し、プレコート層に電流を流すことによって、プレコート層上に導電性高分子からなる固体電解質層14を形成することができる。なお、本一例において、プレコート層を構成する導電性高分子、および固体電解質層14を構成する導電性高分子は、同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
上記高分子の前駆体としては、たとえば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、N−メチルピロール、N,N−ジメチルアニリン、N−アルキルアニリンなどを用いることができる。なかでも、ピロールを用いてポリピロールを形成することによって、より高い導電性を有する固体電解質層14および/またはプレコート層を形成することができる。
【0042】
また、ドーパントは、特に限定されず、たとえば、アルキルスルホン酸、芳香族スルホン酸、多環芳香族スルホン酸などのスルホン酸化合物、硝酸、硫酸などを用いることができる。また、酸化剤は、前駆体を重合させることができればよく、たとえば、硫酸、過酸化水素、鉄(III)、銅(II)、クロム(VI)、セリウム(IV)、マンガン(VII)、亜鉛(II)などを用いることができる。特に、これらの金属と塩を構成した芳香族スルホン酸金属塩は、酸化剤としての機能に加え、ドーパントとしての機能を有するため、好適に用いることができる。
【0043】
また、重合液および電解重合液の溶媒は特に限定されず、水、超純水などの水系溶媒、有機溶媒などの非水系溶媒などを用いることができる。特に、化学重合法によってプレコート層を形成する場合において、重合液の溶媒を非水系溶媒とすることによって第2誘電体被膜13bが重合液中に溶け出すことを抑制することができ、もって、化学重合法によるプレコート層の形成に起因する第2誘電体被膜13bの損傷の可能性を抑制することができる。非水系溶媒としては、上述のように、有機溶媒があり、好ましい有機溶媒としては、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールなどが挙げられる。なお、有機溶媒に有機溶媒の特性を変化させない程度に意図しない水が含まれていても問題ない。
【0044】
また、化学重合には、液相重合および気相重合があるが、プレコート層を形成する場合においては、気相重合を行なうことが好ましい。気相重合の場合、溶媒中に第2誘電体被膜13bが溶け出すことがないため、さらに、第2誘電体被膜13bの損傷の可能性を抑制することができる。
【0045】
次に、図2および図3(E)に示すように、固体電解質層14上にカーボン層15および銀ペイント層16からなる陰極引出層を形成する(ステップS5)。陰極引出層は、たとえば、以下のように形成することができる。
【0046】
すなわち、まず、固体電解質層14が形成された陽極体11を、カーボン粒子を分散させた分散液に浸漬し、その後乾燥処理する。これにより、固体電解質層14上にカーボン層15が形成される。次に、カーボン層15が形成された陽極体11を、銀粒子を分散させた分散液に浸漬し、その後乾燥処理する。これにより、カーボン層15上に銀ペイント層16が形成される。本工程により、陰極引出層が形成され、ステップS1〜S5により、コンデンサ素子10が形成される。
【0047】
次に、図1および図2に示すように、コンデンサ素子10を封止して、固体電解コンデンサを作製する(ステップS6)。封止の方法は特に限定されないが、たとえば、以下の方法がある。
【0048】
すなわち、まず、陽極端子17を陽極リード12の露出している一端に接続し、銀ペイント層16上に接着層18を形成して陰極端子19の一端を接続する。次に、陽極端子17および陰極端子19の各他端が露出するように、コンデンサ素子10を外装樹脂20によって封止する。次に、露出している陽極端子17および陰極端子19を外装樹脂20に沿うように折り曲げてエージング処理することにより、図1に示す固体電解コンデンサが製造される。
【0049】
上記固体電解コンデンサの製造方法によれば、誘電体被膜13は、金属酸化物からなる第1誘電体被膜13aと、KH2PO4からなる第2誘電体被膜13bとから構成される。第2誘電体被膜13bを構成するKH2PO4は強誘電体であって、上記の金属酸化物よりも誘電率が高いため、誘電体被膜13は、従来の金属酸化物のみからなる誘電体被膜と比較して、高い静電容量を有することができる。したがって、結果的に、大容量の固体電解コンデンサを製造することができる。
【0050】
また、第1誘電体被膜13aと第2誘電体被膜13bとの各厚みを調整することにより、従来の金属酸化物のみからなる誘電体被膜を有する固体電解コンデンサと比較して、さらなる小型化が可能となる。
【0051】
さらに、KH2PO4は、BaTiO3よりも作製が容易であり、また、安定的に作製することができる。したがって、上記固体電解コンデンサの製造方法によれば、所望の大容量化、小型化が実現された固体電解コンデンサを歩留まりよく製造することができる。
【0052】
また、第2誘電体被膜13bを構成するKH2PO4は、分子中に酸素原子(O)を有するため、第1誘電体被膜13aの欠損部を修復することができる。したがって、上記固体電解コンデンサの製造方法によれば、固体電解コンデンサの自己修復性の高い固体電解コンデンサを製造することができる。
【0053】
(他の構成の固体電解コンデンサおよびその製造方法)
以上図1〜図3を用いて、焼結体からなる陽極体を有する固体電解コンデンサおよびその製造方法について説明したが、本発明は上記構成の固体電解コンデンサに限られず、たとえば、巻回型の固体電解コンデンサ、および弁金属の板を用いた積層型の固体電解コンデンサに適用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
まず、タンタル粉末を準備し、棒状体のタンタルからなる陽極リードの長手方向の一端側を金属粉末に埋め込んだ状態で、タンタル粉末を直方体に成形した。そして、この成形体を焼結して、陽極リードの一端が埋設された多孔質構造の陽極体を形成した。このときの陽極体の寸法は、縦×横×高さが4.5mm×3.5mm×2.5mmであった。
【0056】
次に、陽極体を0.02質量%のリン酸水溶液に浸漬して、陽極リードを介して陽極体に30Vの電圧を5時間印加することにより、陽極体の表面にTa25からなる第1誘電体被膜を形成した。そして、リン酸水溶液より陽極体を引き上げ、水で洗浄した後乾燥させた。そして、陽極体を1mol/lのKH2PO4を含有するKH2PO4水溶液に浸漬して引き上げて静置した。これにより、第1誘電体被膜上にKH2PO4からなる第2誘電体被膜が形成され、2層構造の誘電体被膜が形成された。
【0057】
次に、化学重合法を用いて、上記誘電体被膜上に導電性のプレコート層を形成した。具体的には、まず、重合液として、ピロールを0.03mol/lの濃度で含むエタノール溶液と、過硫酸アンモニウムおよびパラトルエンスルホン酸を含有する水溶液とを準備した。そして、このエタノール溶液および水溶液に順に陽極体を浸漬して引き上げ、これを室温で放置することにより、ポリピロールからなるプレコート層を形成した。
【0058】
次に、電解重合法を用いて、上記誘電体被膜およびプレコート層上に固体電解質層を形成した。具体的には、まず、電解重合液として、0.03mol/lのピロールおよびアルキルナフタレンスルホン酸を含む水溶液を準備た。そして、該水溶液を電解重合用装置の電解槽内に満たし、その水溶液に陽極体を浸漬して、プレコート層に0.5mAの電流を3時間通電することにより、ポリピロールからなる固体電解質層を形成した。
【0059】
次に、固体電解質層上に、グラファイト粒子懸濁液を塗布して大気中で乾燥させることによりカーボン層を形成し、さらに、カーボン層上に銀粒子を含む溶液を塗布して大気中で乾燥させることにより銀ペイント層を形成した。以上により、コンデンサ素子が作製された。
【0060】
次に、コンデンサ素子において、陽極リードに銅からなる陽極端子を溶接し、銀ペイント層に銀接着剤を塗布して接着層を形成し、接着層に銅からなる陰極端子の一端を接着させた。さらに、陽極端子および陰極端子の一部が露出するように、コンデンサ素子をエポキシ樹脂からなる外装樹脂で封止した。そして、外装樹脂から露出する陽極端子および陰極端子を外装樹脂に沿うように折り曲げた後、エージング処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。固体電解コンデンサの寸法は、縦×横×高さが7.3mm×4.3mm×3.8mmであった。なお、本実施例において、100個の固体電解コンデンサを作製した。
【0061】
(実施例2)
第2誘電体被膜を形成した後、陽極体を200℃で60分間加熱処理した以外は、実施例1と同様の方法により固体電解コンデンサを作製した。固体電解コンデンサの寸法は、縦×横×高さが7.3mm×4.3mm×3.8mmであった。なお、本実施例において、100個の固体電解コンデンサを作製した。
【0062】
(比較例1)
第2誘電体被膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、固体電解コンデンサを作製した。固体電解コンデンサの寸法は、縦×横×高さが7.3mm×4.3mm×3.8mmであった。なお、本比較例において、100個の固体電解コンデンサを作製した。
【0063】
(性能評価)
各実施例および各比較例の固体電解コンデンサの全数について、4端子測定用のLCRメータを用いて、周波数120Hzにおける静電容量(μF)を測定した。また、各実施例および各比較例の固体電解コンデンサから10個ずつ選択し、10Vの電圧を2分間印加した後、各固体電解コンデンサの漏れ電流量(μA)を測定した。
【0064】
【表1】

【0065】
各評価の結果を表1に示す。なお、表1の結果は、それぞれの固体電解コンデンサの平均値である。表1を参照し、実施例1の固体電解コンデンサは、比較例1の固体電解コンデンサよりも高い静電容量を有することがわかった。
【0066】
また、実施例1の固体電解コンデンサは、比較例1の固体電解コンデンサよりも低い漏れ電流量であることがわかった。これは、KH2PO4からなる第2誘電体被膜が、第1誘電体被膜の損傷を修復するためと考えられた。
【0067】
また、表1を参照し、実施例2の固体電解コンデンサは、実施例1の固体電解コンデンサよりも高い静電容量を有することがわかった。これは、第2誘電体被膜の加熱処理を行うことにより、KH2PO4の結晶性が高まるためと考えられた。
【0068】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、固体電解コンデンサおよびその製造方法に広く利用することができる可能性がある。
【符号の説明】
【0070】
10 コンデンサ素子、11 陽極体、12 陽極リード、13 誘電体被膜、13a 第1誘電体被膜、13b 第2誘電体被膜、14 固体電解質層、15 カーボン層、16 銀ペイント層、17 陽極端子、18 接着層、19 陰極端子、20 外層樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体と、
前記陽極体の表面に設けられた誘電体被膜と、
前記誘電体被膜上に設けられた固体電解質層と、を備え、
前記誘電体被膜は、金属酸化物からなる第1誘電体被膜と、リン酸二水素カリウムからなる第2誘電体被膜とを有する、固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1誘電体被膜は、前記陽極体を構成する弁作用金属の金属酸化物である、請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
陽極体の表面に誘電体被膜を形成する工程と、
前記誘電体被膜上に固体電解質層を形成する工程と、を備え、
前記誘電体被膜を形成する工程は、金属酸化物からなる第1誘電体被膜を形成する工程と、リン酸二水素カリウムからなる第2誘電体被膜を形成する工程と、をこの順に含む、固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記第1誘電体被膜を形成する工程は、前記陽極体を化成処理する工程を含み、前記第2誘電体被膜を形成する工程は、前記陽極体をリン酸二水素カリウムを含有する溶液中に浸漬する工程を含む、請求項3に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記第2誘電体被膜を形成する工程は、前記溶液中に浸漬された前記陽極体を前記溶液から引上げた後、前記陽極体を加熱する工程をさらに含む、請求項4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記固体電解質層を形成する工程は、前記誘電体被膜上に導電性のプレコート層を形成する工程を含み、前記プレコート層を形成する工程は、非水系溶媒を用いて前記プレコート層を形成する、請求項3から5のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−74026(P2013−74026A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210698(P2011−210698)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)