説明

固体高分子型燃料電池用電極触媒

【課題】 優れた触媒活性を示す固体高分子型燃料電池用電極触媒を提供する。
【解決手段】 Ptを含む触媒成分が導電性カーボンに担持された固体高分子型燃料電池用電極触媒であって、Ptを含む触媒成分の結晶構造が面心立方構造であり、(111)面の結晶子経(D1)が3.8nmより大きく5nm以下、(220)面の結晶子経(D2)が3.0nmより大きく4nm以下、かつ、比(D1/D2)が1.21/1〜1.26/1である固体高分子型燃料電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池用電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用電極触媒として、例えば、特許文献1には、触媒粒子の(111)結晶面に垂直な方向の結晶子径の平均値D111と(100)結晶面に垂直な方向の結晶子径D100との比がD100/D111<1であり、触媒粒子の平均結晶子径が5nm以下である燃料電池用電極触媒体が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−157857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、優れた触媒活性を示す固体高分子型燃料電池用電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
白金(Pt)を含む触媒成分の結晶構造が面心立方構造である場合、(111)面は表面エネルギーが(100)面あるいは(110)面より小さく、結晶面が表面に現れやすいが、触媒活性は(100)面あるいは(l10)面より低い。一方、(100)面や(110)面の表面エネルギーは(111)面より高いが(111)面より触媒活性が高い。よって、(100)面あるいは(110)面がより表面に現れている電極触媒ほど高い性能が得られるといえる。
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、固体高分子型燃料電池用アノード触媒では、導電性カーボン担体にPtを含む触媒成分の結晶構造が面心立方構造を有し、(111)面の結晶子径が3.8nmより大きく5nm以下であり、(220)面の結晶子径が3.0nmより大きく4nm以下である触媒が好適であることを見出した。また、(111)面の結晶子径(D1)と(220)面の結晶子径(D2)との比(D1/D2)が1.21/1〜1.26/1である触媒が好適であることを見出した。
【0007】
(220)面は(110)面の倍周期であるので、(110)面の結晶子径と(220)面の結晶子径は等価であるので、(220)面の結晶子径を代用することが可能である。したがって、(111)面の結晶子径と(220)面の結晶子径との比は、(111)面の結晶子径と(110)面の結晶子径との比とみなすことができる。
【0008】
本発明は次のとおりのものである。
(1)白金(Pt)を含む触媒成分が導電性カーボンに担持された固体高分子型燃料電池用電極触媒であって、該白金を含む触媒成分の結晶構造が面心立方構造を有し、(111)面の結晶子径(D1)が3.8nmより大きく5nm以下であり、(220)面の結晶子径(D2)が3.0nmより大きく4nm以下であり、かつ、比(D1/D2)が1.21/1〜1.26/1であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(2)触媒成分がPtとRu、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種の元素とを含む上記(1)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(3)PtとRu、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種の元素との割合(原子比)が30:70〜60:40である上記(2)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(4)導電性カーボンがSiO 修飾導電性カーボンであって、その比表面積が100〜800m/gである上記(1)、(2)または(3)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(5)SiO 担持量が、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対し、1〜40質量%である上記(4)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(6)SiO 修飾導電性カーボンが、シランカップリング剤を導電性カーボンに吸着担持させた後、シラン化合物で処理して得られたものである上記(4)または(5)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極触媒は優れた触媒性能を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、(111)面および(220)面の結晶子径はCuKα線を用いた粉末X線回折法により算出する。すなわち、粉末X線回折法により、30°〜50°、65°〜75°を保持時間100〜400秒で測定し、得られる回折パターンから(111)面および(220)面の回折ピークの半値幅(β)を求め、シェラーの式:D=Kλ/βcosθにより各結晶子径を算出する。ここで、シェーラー定数(K)=1、測定X線波長(λ)=1.5405である。
【0011】
本発明の触媒成分としては、例えば、PtとRu、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種の元素との組み合わせを挙げることができる。PtとRu、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種の元素との割合(原子比)は、通常、30:70〜60:40である。
【0012】
触媒成分の担持量は、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対して、0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%である。
【0013】
本発明で用いる導電性カーボン担体としては、この種の電極触媒の製造に一般に用いられているものを用いることができる。例えば、カーボンブラック、カーボンナノホン、活性炭カーボン、カーボンナノチューブ、フラレンなどが用いられるが、なかでも、カーボンブラックが好適に用いられる。
【0014】
本発明においては、導電性カーボン担体として、SiO 修飾導電性カーボンであって、その比表面積が100〜800m/g、好ましくは150〜600m/gであるものが好適に用いられる。
【0015】
上記SiO 修飾導電性カーボンにおける、SiO 担持量は、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対し、1〜40質量%、好ましくは5〜30質量%である。
【0016】
上記SiO 修飾導電性カーボンは、常法により、シランカップリング剤を導電性カーボンに吸着担持させた後、シラン化合物で処理して得るのが好ましい。
【0017】
上記シラン化合物としては、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン等のクロロシラン;テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン;テトラエチルオルトシリケートなどが挙げられる。
【0018】
上記シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。なかでも、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
エタノール250gに3−アミノプロピルトリエトキシシラン5gおよびカーボンブラック(VulcanXC72、Cabot社)10gを添加し、30分間、室温で攪拌を行った。次に、ろ過、水洗後、窒素雰囲気下、110℃で乾燥し、SiO 修飾導電性カーボン担体を得た。次に、このSiO 修飾導電性カーボン担体を1規定の硝酸水溶液100gに加え、室温で2時間攪拌した後、ろ過、水洗を行い、窒素雰囲気下110℃で乾燥した。次に、上記硝酸処理したSiO 修飾導電性カーボン担体を、テトラエチルオルトシリケート21gおよびエタノール230gの溶液に加え、室温で15分間攪拌した後、25%アンモニアすい6.8g、水11.2gを添加し、室温で約10時間攪拌を行った。その後、ろ過、水洗を行い、窒素雰囲気下110℃で乾燥し、担体Aを得た。
<触媒調製>
エチレングリコール100mLにNaOH(顆粒状)2gを添加し、窒素雰囲気下、70℃で溶解させた。次に、エチレングリコール100mLにジニトロジアンミン白金硝酸水溶液(Pt:0.386g)4.79g、硝酸ルテニウム水溶液(Ru:0.425g)9.34gを添加した。このエチレングリコール溶液に、NaOHを溶解させたエチレングリコール溶液を添加し、窒素雰囲気下、室温で1時間攪拌した(脱気)。次に、この溶液を、窒素雰囲気下、90℃(液温)で3時間還流した。冷却後、この溶液に担体Aを0.386g添加し、窒素雰囲気下、室温で、1時間攪拌した(脱気)後で、160℃(液温)で、窒素雰囲気下、3時間還流した。冷却後、攪拌しながら、1N硝酸水溶液を徐々に滴下し、pH1に調整した。固体をろ過し、イオン交換水で十分に洗浄し、窒素雰囲気下110℃で乾燥した後に、水素を用いて300℃で2時間還元処理して触媒Aを作成した。得られた触媒Aを分析したところ、その組成は、Pt:Ru:SiO :カーボンブラック=38:23:9:30(質量%)であった。この触媒をX線回折法で分析を行ったところ、触媒Aの結晶構造は面心立方構造であった。なお、(111)面の結晶子経(D1)、(220)面の結晶子経(D2)、およびD1/D2を表1に示す。
<性能評価>
触媒A10mgを5%ナフィオン溶液(Aldrich社製)を加え、超音波により十分に分散させ触媒ペーストを作成した。この触媒ペースト5μLをグラッシーカーボン電極上に固定化し試験電極とした。
【0020】
触媒性能の評価は、硫酸水溶液にメタノールを1mol/Lとなるように添加した。25℃に保持されたこの溶液中に上記試験電極を浸漬し、作用極とし、対極には白金線、参照極には可逆水素電極(RHE)を用いて電位規制法によりメタノール酸化電流と電極電位の関係を測定し、0.6V.vs.RHEにおける酸化電流値をグラッシーカーボン電極上に塗布した触媒中に含有される白金質量で除した値(白金質量当たりの酸化電流値)とした。電流値が高いほど高性能である。結果を表1に示す。
(比較例1)
Johnson Mattey社製のPtRu担持カーボン触媒(HiSPEC10100)を用いて実施例1と同様にして性能評価を行った。この触媒の結晶構造は面心立方構造であった。(111)面の結晶子経(D1)、(220)面の結晶子経(D2)、およびD1/D2、それに性能評価結果を表1に示す。
(比較例2)
E−TEK社製のPtRu担持カーボン触媒(HP60%、Pt:Ru=1:1on DMFCopimized carbon、C20−60)を用いて実施例1と同様にして性能評価を行った。この触媒の結晶構造は面心立方構造であった。(111)面の結晶子経(D1)、(220)面の結晶子経(D2)、およびD1/D2、それに性能評価結果を表1に示す。
(比較例3)
石福金属社製のPtRu担持カーボン触媒(IFDM40A、PtRu(60%)/KetjenBlackEC)を用いて実施例1と同様にして性能評価を行った。この触媒の結晶構造は面心立方構造であった。(111)面の結晶子経(D1)、(220)面の結晶子経(D2)、およびD1/D2、それに性能評価結果を表1に示す。
【0021】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金(Pt)を含む触媒成分が導電性カーボンに担持された固体高分子型燃料電池用電極触媒であって、該白金を含む触媒成分の結晶構造が面心立方構造を有し、(111)面の結晶子径(D1)が3.8nmより大きく5nm以下であり、(220)面の結晶子径(D2)が3.0nmより大きく4nm以下であり、かつ、比(D1/D2)が1.21/1〜1.26/1であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
触媒成分がPtとRu、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種の元素とを含む請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
PtとRu、Ir、Au、Os、Rh、W、Mo、SnおよびTaから選ばれる少なくとも1種の元素との割合(原子比)が30:70〜60:40である請求項2に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
導電性カーボンがSiO 修飾導電性カーボンであって、その比表面積が100〜800m/gである請求項1、2または3に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
SiO 担持量が、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対し、1〜40質量%である請求項4に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
SiO 修飾導電性カーボンが、シランカップリング剤を導電性カーボンに吸着担持させた後、シラン化合物で処理して得られたものである請求項4または5に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。

【公開番号】特開2010−92799(P2010−92799A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263869(P2008−263869)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】