説明

固体高分子形燃料電池及びその製造方法

【課題】固体高分子形燃料電池において、高電位が発生することを回避する。
【解決手段】アノード電極は、電解質膜に臨む電極触媒層を有する。この電極触媒層には、例えば、触媒担体であるカーボンブラック粒子36が、金属触媒である白金粒子38を担持した触媒担持粒子40が含まれる。白金粒子38は、糖類からなる皮膜42で被覆されている。糖類としては、融点が100℃以上のものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子膜からなる電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極及びカソード電極とを具備する固体高分子形燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、周知の通り、プロトン伝導体である固体高分子膜からなる電解質膜をアノード電極とカソード電極で挟持した電解質膜・電極接合体を備える。この電解質膜・電極接合体が1対のセパレータで挟持されることにより、単位セルが構成される。一般的には、固体高分子形燃料電池は、上記の単位セルが複数個積層されることで、スタックとして構成される。
【0003】
アノード電極及びカソード電極は、ガス拡散層と、該ガス拡散層と電解質膜との間に介在する電極触媒層から構成される。ガス拡散層は、例えば、カーボンペーパー又はカーボンクロスからなり、また、電極触媒層は、例えば、白金等の金属触媒を担持した触媒担体(カーボンブラック等)がイオン導伝性バインダを介して結合一体化されることにより形成される。
【0004】
この種の燃料電池では、例えば、無負荷状態から反応ガスを供給して運転を開始する際(換言すれば、起動時)において、図4に示すように、出力電圧が略一定となる定常状態となる前に高い電圧を示すことがある。すなわち、いわゆる高電位である。
【0005】
高電位では、電極触媒層に含まれる金属触媒(白金等)が粒成長する、シンタリングと呼称される現象が生じ易い。このシンタリングは、燃料電池の性能が低下する原因となる。シンタリングを起こした金属触媒では、電極反応に寄与する表面積が減少するからである。
【0006】
そこで、電位を低下させることが考えられる。この観点から、特許文献1において、発電停止状態にある燃料電池のカソード電極の酸素分圧を制御することが提案されている。しかしながら、酸素分圧を制御するためには、制御プログラムを構築した上で該制御プログラムに従って信号を制御回路に入力しなければならず、煩雑である。
【0007】
特許文献2には、金属粒子(例えば、白金)を糖類で包摂した複合体が開示されている。すなわち、該複合体は、糖類からなる膜中に金属粒子が分散したものである。該特許文献2には、このような複合体は電気伝導性に優れており、このために燃料電池の電解質膜として採用し得ることが記載されている。しかしながら、電解質膜・電極接合体が電気伝導性に優れるものであっても、運転している最中の燃料電池の出力電圧を向上させるには有効であるが、それにより起動開始直後の高電位を抑制し得ることにはならない。
【0008】
さらに、特許文献3に記載されるように金属触媒をフッ素樹脂で被覆し、これにより活性を低下させることも考えられる。しかしながら、周知の通りフッ素樹脂は撥水性であるので、この場合、燃料ガスや酸化剤ガスに含まれる水分が排出されるようになる。すなわち、電解質膜に湿分を付与することが困難となり、その結果、該電解質膜のプロトン伝導性が低下することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−26808号公報
【特許文献2】特開2008−81750号公報
【特許文献3】特許第2921725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、高電位を抑制するために有効且つ簡便な方策は未だ確立されていない。
【0011】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、簡素でありながら高電位を抑制し得る固体高分子形燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、固体高分子膜からなる電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極及びカソード電極とを具備する固体高分子形燃料電池において、
前記アノード電極は、ガス拡散層と、電極触媒層とを有し、
前記電極触媒層が、表面が糖類で被覆された金属触媒を含むことを特徴とする。
【0013】
糖類からなる皮膜は、金属触媒の水素に対する活性を維持しつつ、酸素に対する活性を低下させる。従って、アノード電極では、水素を電離してプロトン及び電子を生成する電極反応が金属触媒によって促進される。その一方で、金属触媒は、酸素に対して鈍感となる。その結果として、カソード電極の電位が相対的に下降する。このため、カソード電極の最高到達電位が小さくなるので、高電位が発生することを抑制することができる。
【0014】
しかも、この場合、出力電圧に関係するセル電位が低下することが回避される。上記したように、アノード電極での電極反応が促進されるからである。
【0015】
すなわち、本発明によれば、高電位が発生することを回避しながら、十分なセル電位が得られる固体高分子形燃料電池を構成することができる。その上、アノード電極によって高電位が発生することが抑制されるので、複雑な制御プログラミングを構築する必要もない。
【0016】
なお、糖類としては、融点が100℃以上のものであることが好ましい。この場合、カソード電極の最高到達電位が一層小さくなり、結局、高電位を抑制する効果が一層顕著となる。
【0017】
また、糖類は、水に対して可溶なものであることが好ましい。電極触媒層を形成する際、溶媒として水を用いると糖類が溶解して均一に分散するので、金属触媒を被覆することが容易となる。
【0018】
糖類によって被覆された金属触媒それ自体で電極触媒層を形成するようにしてもよいが、糖類によって被覆された金属触媒を担体に担持し、該担体ごと金属触媒を含むようにして電極触媒層を形成するようにしてもよい。
【0019】
また、本発明は、固体高分子膜からなる電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極及びカソード電極とを具備する固体高分子形燃料電池を得る固体高分子形燃料電池の製造方法において、
溶媒に対し、糖類と、金属触媒とを添加した溶液を調製する工程と、
前記溶液から得たペーストを固体高分子膜に添着する工程と、
前記ペーストを固化することで、金属触媒が前記糖類で被覆された電極触媒層を得る工程と、
前記電極触媒層に対してガス拡散層を接合することでアノード電極を得る工程と、
を有することを特徴とする。
【0020】
このことから諒解されるように、アノード電極の電極触媒層を作製する際、出発材料として糖類を添加するという簡便な操作によって、金属触媒が糖類で被覆された電極触媒層を容易に得ることができる。すなわち、金属触媒を糖類で被覆するようにしたことに伴って煩雑な作業が加わることはなく、また、工程数が過度に増加することもない。
【0021】
上記したように高電位を抑制する効果に優れることから、融点が100℃以上である糖類を用いることが好ましい。また、水に対して可溶である糖類を用い、且つ溶媒として水を用いると、個々の金属触媒を均等に被覆することが容易となる。
【0022】
なお、金属触媒として、予め担体に担持されたものを用いるようにしてもよい。この場合、糖類によって被覆された金属触媒と、該金属触媒を担持する担体とを含む金属触媒が形成される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電極触媒層に含まれる金属触媒の表面を糖類で被覆するようにしているので、該金属触媒の水素に対する活性が維持されつつ、酸素に対する活性が低下する。すなわち、アノード電極は、水素に対して敏感なまま、酸素に対しては鈍感となる。このため、カソード電極の電位が相対的に下降することにより、カソード電極の最高到達電位が小さくなる。すなわち、高電位が発生することを抑制することができる。しかも、この場合、アノード電極での水素を電離してプロトン及び電子を生成する電極反応が金属触媒によって促進されるので、出力電圧に関係するセル電位が低下することが回避される。
【0024】
その上、このような電極触媒層は、アノード電極の電極触媒層を作製する際、糖類を添加した触媒層ペーストを調製することで容易に得ることができる。しかも、アノード電極によって高電位が発生することが抑制されるので、複雑な制御プログラミングを構築する必要がない。
【0025】
要するに、本発明によれば、簡素でありながら高電位を抑制し得るとともに、十分なセル電位が得られる固体高分子形燃料電池を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る固体高分子形燃料電池の単位セルの要部縦断面図である。
【図2】前記単位セルのアノード電極を構成する電極触媒層に含まれる触媒担持粒子の構成を模式的に示した概略構成図である。
【図3】実施例1〜7及び比較例1〜3の各単位セルにおけるカソード電極の最高到達電位と、発電時のセル電位とを示す図表である。
【図4】燃料電池において高電位が発生したことを説明する時間−電圧変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る固体高分子形燃料電池につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施の形態に係る固体高分子形燃料電池の単位セル10の要部縦断面図である。単位セル10は、固体高分子膜からなる電解質膜12をアノード電極14とカソード電極16で挟持して構成される電解質膜・電極接合体18を備え、この電解質膜・電極接合体18が1組のセパレータ20、22で挟まれることで構成される。なお、図1における参照符号24は、アノード電極14に燃料ガスを供給するための燃料ガス供給路を示し、参照符号26は、カソード電極16に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給路を示す。
【0029】
アノード電極14及びカソード電極16は、ガス拡散層28、30と、該ガス拡散層28、30と電解質膜12との間に介在する電極触媒層32、34から構成される。ガス拡散層28、30は、例えば、カーボンペーパー又はカーボンクロスからなる。
【0030】
ここで、アノード電極14の電極触媒層32は、図2に示すように、触媒担体としてのカーボンブラック粒子36と、該カーボンブラック粒子36に担持された白金(金属触媒)粒子38とを有する触媒担持粒子40を含んで構成される。なお、図2ではカーボンブラック粒子36をCで示すとともに、白金粒子38をPtで示している。また、この図2においては、理解を容易にするために1個のカーボンブラック粒子36に対して2個の白金粒子38が担持された状態を模式的に示しているが、実際に担持される白金粒子38の個数は特にこれに限定されるものではない。
【0031】
そして、本実施の形態では、個々の白金粒子38が皮膜42で被覆されている。この皮膜42は、糖類からなる。
【0032】
糖類としては、融点が100℃以上であるものが好ましい。後述するように、この場合、高電位を抑制する効果に優れる。とりわけ、融点が120℃以上のものであるとよい。
【0033】
さらに、水に対して可溶である糖類が好ましい。この場合、電極触媒層32を作製することが容易であるからである。
【0034】
以上のような物性を有する糖類の好適な具体例としては、フルクトース(融点:104℃)、アロース(融点:128℃)、グルコース(融点:146℃)、キシロース(融点:144℃)、フコース(融点:163℃)が挙げられる。
【0035】
電極触媒層32は、このような白金粒子38を含む触媒担持粒子40が、イオン導伝性バインダを介して結合一体化されることにより形成される。
【0036】
一方、図1に示されるカソード電極16の電極触媒層34は、白金(金属触媒)粒子が糖類で被覆されていないことを除き、前記電極触媒層32と同様に構成されている。すなわち、電極触媒層34の触媒担持粒子は、触媒担体としてのカーボンブラック粒子36と、該カーボンブラック粒子36に担持された白金(金属触媒)粒子38とを有する。電極触媒層34は、このような触媒担持粒子が、イオン導伝性バインダを介して結合一体化されることにより形成される。
【0037】
一般的には、上記したような単位セル10が複数個積層されることにより、スタックとしての固体高分子形燃料電池が構成される。固体高分子形燃料電池には、比較的低温で作動し単位面積当たりの電流が大きいという利点があり、このため、自動車等の駆動機構として好適である。
【0038】
次に、上記の単位セル10を含む固体高分子形燃料電池の作用効果につき説明する。
【0039】
固体高分子形燃料電池に対しては、アノード電極14に臨むセパレータ20の燃料ガス供給路24、カソード電極16に臨むセパレータ22の酸化剤ガス供給路26の双方に、酸化剤ガス(例えば、空気)が供給される。勿論、この時点では、電極反応は生じない。従って、電位は0Vである(図4参照)。
【0040】
固体高分子形燃料電池を起動するに際しては、この状態から、燃料ガス供給路24に対して燃料ガス(例えば、水素)を供給する。すなわち、アノード電極14には、酸化剤ガスと燃料ガスの混合ガスが供給される。電解質膜12のプロトン伝導性を確保するべく該電解質膜12を湿潤状態に維持するため、これら酸化剤ガス及び燃料ガスは加湿されている。
【0041】
ここで、上記したように、アノード電極14の電極触媒層32に含まれる白金粒子38は、糖類からなる皮膜42で被覆されている(図2参照)。この皮膜42は、白金粒子38の水素に対する活性を維持しつつ、酸素に対する活性を低下させる。すなわち、電極触媒層32においては、水素を電離してプロトン及び電子を生成する電極反応が白金粒子38によって促進される。その一方で、該白金粒子38は、酸素に対して鈍感となる。このため、カソード電極16の電位が相対的に上昇すること、ひいては高電位が発生することを抑制することができる。
【0042】
具体的には、被覆が施されていない白金粒子38を電極触媒層とするアノード電極を含む固体高分子形燃料電池では、1.52Vに到達することがあるのに対し、本実施の形態に係る固体高分子形燃料電池では、高くとも1.45V以下となる。糖類が、融点が100℃以上のものである場合には、概ね1.15〜1.30Vの範囲内となる。
【0043】
皮膜42がフッ素樹脂からなる場合、電極触媒層32の撥水性が顕著となる。このため、燃料ガスに含まれる水分がアノード電極14から容易に排出されるようになるので、電解質膜12を湿潤状態に保持することが困難である。
【0044】
また、皮膜42をシリカ(SiO)から形成したときには、燃料ガス(又は起動前に供給された酸化剤ガス)が加湿されているため、発電環境において皮膜42が水分に溶出されるとともにガス拡散層30に流動し、該ガス拡散層30の気孔を閉塞する。このため、燃料ガスが拡散することが困難となるとともに、余剰の水分をアノード電極14から排出することが困難となる。
【0045】
さらに、皮膜42が金属からなるものであると、皮膜42が腐食して溶出する懸念がある。さらに、排出ガスに含まれる水分が金属イオンを含有しているので、この処理設備が必要となる。これに対し、本実施の形態では、皮膜42が糖類からなるために腐食する懸念がない。その上、糖類が無害であるため、排出ガスに含まれる水分に対して何らかの処理を行う必要もない。
【0046】
なお、糖類が水に対して可溶なものである場合、白金粒子38に過剰に付着した分が溶出はするものの、白金粒子38に対する糖類の付着力が強固であり、また、燃料ガスに含まれる水分量がさほど多くはないため、皮膜42が長期間にわたって白金粒子38を被覆する。従って、高電位が発生することを長期間にわたって抑制することができる。
【0047】
本実施の形態に係る固体高分子形燃料電池を構成する単位セル10中の電解質膜・電極接合体18は、例えば、先ず、電解質膜12に対して電極触媒層32、34を設け、次に、電極触媒層32、34に対してガス拡散層28、30を設けることによって得ることができる。なお、以降においては、電極触媒層32、34が設けられた電解質膜12を「CCM」と表記することもある。
【0048】
電極触媒層32を得るには、白金粒子38を担持したカーボンブラック粒子36と、糖類とを溶媒に添加する。ここで、糖類が水に対して可溶なものである場合には、溶媒として水を用いればよい。この場合、溶解した糖類が水に対して略均一に分散するので、個々の白金粒子38を均等に被覆し得るという利点がある。溶媒は、水に限定されるものではなく、例えば、水とアルコールの混合液であってもよい。
【0049】
なお、カーボンブラック粒子36は撥水性であるので、水に対して濡れ難い。従って、糖類がカーボンブラック粒子36に接触することが妨げられるので、カーボンブラック粒子36が皮膜42で被覆されることはほとんどない。
【0050】
このようにして調製された溶液に対し、次に、イオン伝導性高分子バインダとなるポリマー溶液を混合することによって、第1の触媒層ペーストを調製する。この第1の触媒層ペーストを、ポリテトラフルオロエチレン(PTEFE)やポリエチレンテレフタレート(PET)等からなるフィルム上に、白金粒子38が所定量となるように塗布した後、熱処理を施す。これにより、前記フィルム上に電極触媒層32を形成する。
【0051】
一方、電極触媒層34となる第2の触媒層ペーストを調製する。すなわち、白金粒子38を担持したカーボンブラック粒子36を溶媒に添加して溶液を調製した後、この溶液に対し、イオン伝導性高分子バインダとなるポリマー溶液を混合すればよい。なお、第2の触媒層ペーストにおける白金粒子38の量は、第1の触媒層ペーストと同一であってもよいし、相違していてもよい。
【0052】
以降は上記と同様に、第2の触媒層ペーストを、ポリテトラフルオロエチレンやポリエチレンテレフタレート等のフィルム上に、白金粒子38が所定量となるように塗布する。その後、熱処理を施せば、前記フィルム上に電極触媒層34が得られる。
【0053】
これらの電極触媒層32、34を、例えば、デカール法によって電解質膜12に転写する。すなわち、電解質膜12上に電極触媒層32、34を接触させた後、前記フィルム上から熱圧着を施す。その後、前記フィルムを電極触媒層32、34の各々から剥離すれば、電極触媒層32、34が電解質膜12に残留する。すなわち、CCMが形成される。
【0054】
又は、第1及び第2の触媒層ペーストを、インクジェット、スプレー、ドクターブレード、グラビア印刷、ダイコート等によって電解質膜12に塗布した後、これを乾燥することで電極触媒層32、34、ひいてはCCMを形成するようにしてもよい。
【0055】
このようにして電解質膜12の両端面に電極触媒層32、34を設ける一方で、ガス拡散層28、30を作製する。すなわち、例えば、カーボンブラック粒子36とポリテトラフルオロエチレン粒子を所定の重量比で混合した混合物を適切な溶媒に分散することで拡散層ペーストを得、次に、該拡散層ペーストをカーボンペーパーやカーボンクロス等の多孔質材からなる基材に塗布した後、これを乾燥して下地層を形成する。これにより、基材及び下地層からなるガス拡散層28、30が得られる。
【0056】
このようにして得たガス拡散層28の下地層を電極触媒層32に接触させるとともに、ガス拡散層30の下地層を電極触媒層34に接触させ、さらに、熱圧着を施す。これにより、電極触媒層32、34の各々に対してガス拡散層28、30が接合一体化され、電解質膜・電極接合体18が得られるに至る。この電解質膜・電極接合体18から単位セル10を構成するには、さらに、アノード電極14及びカソード電極16の各一端面にセパレータ20、22や集電用電極、エンドプレート等を配置すればよい。
【0057】
以上のように、本実施の形態によれば、電極触媒層を形成する際に糖類を添加して第1の触媒層ペーストを得るという簡便な作業によって、皮膜42で被覆された白金粒子38を含む電極触媒層32を得ることができる。しかも、この電極触媒層32によって高電位が抑制されるので、複雑な制御プログラミングを構築する必要がない。
【0058】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0059】
例えば、上記した実施の形態では、アノード電極14の電極触媒層32に含まれる白金粒子38のみを皮膜42で被覆するようにしているが、カソード電極16の電極触媒層34に含まれる白金粒子38も同様に、皮膜42で被覆するようにしてもよい。
【0060】
また、触媒担体としてカーボンブラック粒子36を挙げているが、特にこれに限定されるものではない。また、皮膜42は、白金粒子38と併せてカーボンブラック粒子36を被覆するものであってもよい。
【0061】
さらに、電極触媒層32は、皮膜42が形成された白金粒子38がイオン伝導性バインダによって結合されたものであってもよい。すなわち、カーボンブラック粒子36等の触媒担体は必須ではない。
【0062】
さらにまた、金属触媒は白金粒子38に特に限定されるものではなく、パラジウム(Pd)粒子やルテニウム(Ru)粒子であってもよいし、Pt、Pd又はRuを主成分とする合金の粒子であってもよい。
【実施例】
【0063】
[実施例1]
80mlの純水と20mlの特級エタノールを混合して撹拌し、混合溶媒とした。この混合溶媒に対して10gのジヒドロキシアセトン(融点:75℃)を添加して撹拌した後、田中貴金属工業社製のTEC10EA50E(白金粒子担持カーボンの商品名)を10g添加し、さらに30分撹拌した。
【0064】
その後、この溶液に対し、米国デュポン社製のナフィオンD2020(パーフルオロアルキレンスルホン酸ポリマーの商品名)の溶液を添加した。添加量は、白金粒子:溶液中のポリマー=1:1の重量比となるようにした。この混合溶液を、所定の粘度となるまで撹拌した後、回転数80rpmで遊星ボールミルを120分間行うことによって第1の触媒層ペーストを作製した。
【0065】
次に、第1の触媒層ペーストを、白金粒子が0.2mg/cmとなるようにしてPETフィルム上にスクリーン印刷を行った。その後、60℃で10分間加熱し、さらに、減圧下にて100℃で15分間加熱することにより乾燥させ、第1の電極触媒シートを得た。
【0066】
これとは別に、ノルマルプロピルアルコール:水=1:2(重量比)の混合溶媒を用意し、この混合溶媒に、田中貴金属工業社製のTEC10E50E(白金粒子担持カーボンの商品名)を添加した。添加量は、混合溶媒の重量の1/10とした。
【0067】
さらに、この溶液に対し、ナフィオンD2020の溶液を添加した。添加量は、白金粒子:溶液中のポリマー=1:1.5の重量比となるようにした。この混合溶液を、所定の粘度となるまで撹拌した後、回転数80rpmで遊星ボールミルを120分間行うことによって第2の触媒層ペーストを作製した。
【0068】
次に、第2の触媒層ペーストを、白金粒子が0.5mg/cmとなるようにしてPETフィルム上にスクリーン印刷を行った。その後、60℃で10分間加熱し、さらに、減圧下にて100℃で15分間加熱することにより乾燥させ、第2の電極触媒シートを得た。
【0069】
さらにまた別に、ガス拡散層を作製した。すなわち、先ず、三菱化学社製のケッチェンブラックEC(カーボンブラック粒子)と、三井・デュポンフロロケミカル社製のテフロン640J(PTFE粒子)とを4:6の重量比で混合し、エチレングリコールに均一に分散させて拡散層ペーストを得た。この拡散層ペーストを、東レ社製のカーボンペーパーTGP−H060(基材)の平坦面に塗布して乾燥することで下地層とした。これにより、基材上に下地層が形成されたガス拡散層を2個得た。
【0070】
以上のようにして第1及び第2の電極触媒シートとガス拡散層を得た後、電解質膜・電極接合体を作製した。すなわち、米国デュポン社製のナフィオンN112(パーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー膜の商品名)を電解質膜として選定し、該電解質膜の一端面に第1の電極触媒シートを接触させるともに、残余の他端面に第2の電極触媒シートを接触させた。勿論、この際には、電極触媒層が形成されている側の端面を電解質膜の各端面に向けた。
【0071】
次に、120℃、2MPaにて8分間のホットプレスを行い、これにより各電極触媒層を電解質膜の各端面に接合した。その後、第1及び第2電極触媒シートからPETフィルムを剥離させた。これにより、電解質膜の両端面に第1及び第2の電極触媒層が転写されたCCMを得た。
【0072】
このCCMに対し、厚みが20μmの白金泊をアノード電極となる側に配置した。勿論、白金箔は、アノード電極との間に短絡を起こすことを回避するべく、アノード電極に対して1mmの間隔が形成されるように離間させた。
【0073】
次に、2個のガス拡散層における各下地層を前記各電極触媒層に接触させ、その後、150℃、2.5MPaにて12分間のホットプレスを行い、これにより各電極触媒層と各ガス拡散層とを接合一体化してアノード電極とカソード電極を得、電解質膜・電極接合体を構成した。さらに、この電解質膜・電極接合体を1組のセパレータで挟持し、単位セルを得た。アノード電極及びカソード電極の電極面積は、双方ともに25cmであった。
【0074】
この単位セルを、70℃で0〜1.0A/cmの負荷を付与するサイクルを50回繰り返すことでエージングを行った。なお、アノード電極及びカソード電極に供給するガスの相対湿度を85%とすることで加湿した。また、1.0A/cmでのガスの利用率は、アノード電極/カソード電極=0.7/0.6であった。これを実施例1とする。
【0075】
[実施例2〜7]
実施例1におけるジヒドロキシアセトンに代替してデオキシリボース、フルクトース、アロース、グルコース、キシロース、フコースのいずれかを用いてアノード電極となる電極触媒層を作製したことを除いては実施例1と同様にして、単位セルをそれぞれ得た。さらに、各々の単位セルに対して上記のエージングを行った。各々を実施例2〜7とする。
【0076】
[比較例1]
アノード電極の電極触媒層を、カソード電極の電極触媒層と同一構成としたことを除いては実施例1と同様にして単位セルを得た後、上記のエージングを行った。これを比較例1とする。
【0077】
[比較例2]
三井・デュポンフロロケミカル社製のテトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体分散液であるFEP120−JR(固形分濃度54%)に対して純水を50重量%添加した。さらに、TEC10EA50Eを添加して20分間超音波撹拌を行った。
【0078】
この溶液を濾過した後、残渣を350℃にて60分間、N雰囲気下で加熱処理した。得られた粉体を乳鉢で若干粉砕し、この粉砕物を、重量比で1:1の水/エタノール混合溶媒に分散した。さらに、ナフィオンD2020の溶液を、白金粒子:溶液中のポリマー=1:1の重量比となるように添加した。以降は実施例1に準拠して単位セルを得、上記のエージングを行った。これを比較例2とする。
【0079】
[比較例3]
10wt%のアンモニア水溶液100mlに対し、5gのTEC10EA50Eを添加して超音波撹拌を行った。このアンモニア水溶液に対し、5gのアミノプロピルエトキシシランをさらに添加して撹拌した。次に、20gのケイ酸エチルをさらに添加して1時間撹拌した後、遠心分離及び濾過を行った。残渣に対してアセトン洗浄を行い、次に、60℃にて12時間乾燥した。
【0080】
次に、Ar雰囲気下で450℃にて2時間焼成処理を施した。さらに、王水に30分間浸漬した後で濾過を行い、残渣を純水で洗浄した。
【0081】
次に、H/Ar流通下で500℃にて2時間の水素還元を行った。生成物を乳鉢で若干粉砕し、この粉砕物を、重量比で1:1の水/エタノール混合溶媒に分散した。さらに、ナフィオンD2020の溶液を、白金粒子:溶液中のポリマー=1:1の重量比となるように添加した。以降は実施例1に準拠して単位セルを得、上記のエージングを行った。これを比較例3とする。
【0082】
以上の実施例1〜7及び比較例1〜3の各単位セルにつき、起動時のカソード電極の電位を測定した。具体的には、50℃にてアノード電極及びカソード電極の双方に空気を供給している状態から、アノード電極のみに水素をさらに供給することで単位セルの発電を開始し、カソード電極の最高到達電位と、セル電位とを調べた。
【0083】
なお、この際には、前記白金泊を参照電極とするとともに、カソード電極のガス排出側での電位を測定した。また、電流密度は1A/cmとした。
【0084】
結果を、各皮膜の融点とともに図3に併せて示す。この図3から、白金粒子を糖類で被覆した実施例1〜7において、比較例1よりも最高電位が小さくなっていること、しかも、比較例1に匹敵するセル電位が得られていることが分かる。これに対し、比較例2、3では、最高電位こそ小さくなっているものの、セル電位も小さくなっている。
【0085】
以上から、糖類で白金粒子を被覆した場合、高電位を抑制しながらも十分なセル電位が得られることが明らかである。
【0086】
図3からは、融点が100℃以上である糖類を用いたときに最高到達電位が一層抑制されていることが諒解される。すなわち、融点が100℃以上である糖類を用いることにより、高電位を一層有効に抑制することができる。
【符号の説明】
【0087】
10…単位セル 12…電解質膜
14…アノード電極 16…カソード電極
18…電解質膜・電極接合体 20、22…セパレータ
28、30…ガス拡散層 32、34…電極触媒層
36…カーボンブラック粒子 38…白金粒子
40…触媒担持粒子 42…皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子膜からなる電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極及びカソード電極とを具備する固体高分子形燃料電池において、
前記アノード電極は、ガス拡散層と、電極触媒層とを有し、
前記電極触媒層が、表面が糖類で被覆された金属触媒を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記糖類は、融点が100℃以上のものであることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池において、前記糖類は、水に対して可溶であることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池において、前記糖類によって被覆された前記金属触媒が担体に担持されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項5】
固体高分子膜からなる電解質膜と、前記電解質膜を挟持するアノード電極及びカソード電極とを具備する固体高分子形燃料電池を得る固体高分子形燃料電池の製造方法において、
溶媒に対し、糖類と、金属触媒とを添加した溶液を調製する工程と、
前記溶液から得たペーストを固体高分子膜に添着する工程と、
前記ペーストを固化することで、金属触媒が前記糖類で被覆された電極触媒層を得る工程と、
前記電極触媒層に対してガス拡散層を接合することでアノード電極を得る工程と、
を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法において、前記糖類として、融点が100℃以上のものを用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の製造方法において、前記溶媒として水を用いるとともに、前記糖類として、水に対して可溶であるものを用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法において、前記金属触媒として、予め担体に担持されたものを用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−51109(P2013−51109A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188189(P2011−188189)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】