説明

固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルム並びにそれを用いて得られる触媒層−電解質膜積層体及び固体高分子形燃料電池

【課題】均一な転写性で、ゆがみのない触媒層−電解質膜積層体を製造することができる固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルム並びにそれを用いて得られる触媒層−電解質膜積層体及び固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルムは、
(1)フィルム基材上に触媒層が設けられ、
(2)該フィルム基材の触媒層と接していない側の表面に2個以上の貫通孔が設けられ、
(3)該貫通孔は、直径1〜100μmであり、
(4)貫通孔同士の最短距離が1cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルム並びにそれを用いて得られる触媒層−電解質膜積層体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池に使用される触媒層−電解質膜積層体は、基材フィルムに触媒層形成用組成物を塗工し、乾燥させた触媒転写フィルムと呼ばれるものを、水素伝導性高分子電解質膜の両面に配置し、熱プレスを行うことによって得られる。
【0003】
しかしながら、上記の方法では、触媒転写フィルムを電解質膜上に転写する際、電解質膜と触媒層の間に空気や除去しきれていない溶剤等の気泡をかんでプレスする恐れがある。この結果、圧力が不均一にかかるため、触媒層を基材フィルムから剥がす際に転写不良が発生し、均一な触媒層面が得られない。また、気泡をかんでいるため、電解質膜と触媒層に均一な圧力が加わらないため、触媒層−電解質膜積層体にゆがみが生じる。
【0004】
触媒層−電解質膜積層体に転写不良やゆがみが生じた状態では、転写した触媒層面が不均一になる。そのため、続いて触媒層上に形成されるガス拡散層等その他の層との密着性が悪く、燃料電池の性能を低下させてしまう恐れがある。
【0005】
そのため、従来は、触媒転写フィルムと電解質膜を1枚1枚手で伸ばしながらプレスする手法や、ローラーで転写する手法(例えば、特許文献1参照)がとられてきた。しかしながら、前者の方法は時間がかなりすぎて大量生産には適さず、後者の方法は装置が大がかりになることが問題であった。
【特許文献1】特開平10−64574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、均一な転写性で、ゆがみのない触媒層−電解質膜積層体を製造することができる固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルム並びにそれを用いて得られる触媒層−電解質膜積層体及び固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、フィルム基材上に触媒層が形成された固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルムにおいて、フィルム基材の触媒層と接していない側の表面に特定の貫通孔を形成することで、上記課題を解決した所望の触媒転写フィルムが得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の触媒転写フィルム、触媒層−電解質膜積層体及び固体高分子形燃料電池にかかる。
【0009】
項1.(1)フィルム基材上に触媒層が設けられ、
(2)該フィルム基材の触媒層と接していない側の表面に2個以上の貫通孔が設けられ、
(3)該貫通孔は、直径1〜100μmであり、
(4)貫通孔同士の最短距離が1cm以下である、
固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルム。
【0010】
項2.貫通孔の深さが、フィルム基材の厚み以上であり、触媒転写フィルムの総厚み以下である、項1に記載の触媒転写フィルム。
【0011】
項3.項1又は2に記載の触媒転写フィルムを用いて、電解質膜の片面又は両面に触媒層が設けられてなる、触媒層−電解質膜積層体。
【0012】
項4.項3に記載の触媒層−電解質膜積層体を具備する、固体高分子形燃料電池。
【0013】
1.触媒転写フィルム
本発明の固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルムは、
(1)フィルム基材上に触媒層が設けられ、
(2)該フィルム基材の触媒層と接していない側の表面に2個以上の貫通孔が設けられ、
(3)該貫通孔は、直径1〜100μmであり、
(4)貫通孔同士の最短距離が1cm以下である、
ものである。
【0014】
以下、各構成要件を説明する。
【0015】
<フィルム基材>
フィルム基材は特に制限されず、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の高分子フィルムを用いることができる。
【0016】
また、転写性を向上させるためにこれらの高分子フィルム上に離型処理を施しても良い。離型処理は、例えば、積層フィルム上に離型層を形成させるか、積層フィルム上に凹凸処理を施すことにより行われるものが挙げられる。離型層は、離型性に優れた材料を用いて形成される。好ましい離型層の一例を示せば、離型層は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂にシリコーンオイル、シリコーンワックス、シリコーン樹脂、弗素樹脂等の離型性に優れた材料を添加して得られる混合物から形成されるものが挙げられる。またケイ素酸化物等の無機酸化物からなる薄膜を化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法等からなる蒸着法により形成してもよい。
【0017】
また、高分子フィルム以外にも、アート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙等の非塗工紙等の紙であってもよい。そのほか、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素繊維系シートであってもよい。これらの中でも、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート樹脂等が好ましい。
【0018】
フィルム基材の厚みは限定的でないが、例えば、取り扱い性及び経済性の観点からは、2.5μm〜200μm程度、好ましくは10μm〜150μm程度、さらには10μm〜100μm程度とすればよい。また、フィルム基材のサイズは、限定的ではないが、一般的に使用される大きさである10〜200mm×10〜200mm程度とすればよい。
【0019】
<触媒層>
触媒層は、固体高分子形燃料電池の触媒層として使用できるものであればよく、一般的には、(1)触媒担持炭素粒子(触媒を担持させた炭素粒子)及び(2)水素イオン伝導性高分子電解質を必須成分とする。
【0020】
触媒担持炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質は公知又は市販のものを使用することができる。
【0021】
触媒としては、燃料電池の電池反応を生じさせるものであればよく、例えば、白金、白金合金、白金化合物等が挙げられる。白金合金の具体例としては、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群より選択される少なくとも1種の金属と白金との合金が挙げられる。
【0022】
水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、特に、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。このような電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。
【0023】
触媒層の厚みは限定的でなく、固体高分子形燃料電池の触媒層として一般的に採用されている範囲とすればよい。例えば10〜50μm、好ましくは15〜30μm程度とすればよい。また、触媒層のサイズは、限定的ではないが、フィルム基材と同じ大きさである10〜200mm×10〜200mm程度とすればよい。
【0024】
触媒担持炭素粒子と水素イオン伝導性高分子電解質との含有割合は、前者1重量部に対して、後者を0.1〜5重量部程度、好ましくは0.2〜4重量部程度とすればよい。
【0025】
触媒層は、必要に応じて、炭素繊維、例えば気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンワイヤー等の公知の添加剤を含有していてもよい。
【0026】
<貫通孔>
本発明の固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルムは、フィルム基材の触媒層と接していない側の表面に2個以上の貫通孔が設けられている。
【0027】
この貫通孔は、フィルム基材を貫通する孔のことを意味し、この貫通孔は、フィルム基材のみに有していてもよいし、触媒層に達していてもよいし、フィルム基材と触媒層を貫通するものであってもよい。
【0028】
触媒転写フィルムの基材フィルム表面に貫通孔を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、加熱した針を押し付けるニードルパンチ法;エンボスロール、研摩ロール、砥石、研摩テープ等を使用して基材フィルムを溶融し、穿孔する熱溶融穿孔法;ナイフ、カッター、針、鋸刃、ミシン刃等を使用する物理的穿孔法;レーザー、ビーム加工、コロナ放電、プラズマ放電等の加工法;その他の方法等によって行うことができる。
【0029】
貫通孔の形状としては、ミシン目線状、丸穴状、四角状、三日月状、その他任意の形状でよい。
【0030】
<触媒転写フィルム>
本発明の触媒転写フィルムは、
方法1:フィルム基材上に触媒層形成用組成物を塗布及び乾燥させることにより触媒層を形成し、次いで、フィルム基材側から2個以上の貫通孔を形成する方法、
方法2:フィルム基材の表面に2個以上の貫通孔を形成し、次いで、フィルム基材上に触媒層形成用組成物を塗布及び乾燥させることにより触媒層を形成する方法
のいずれでも作製することができる。
【0031】
方法1の場合
方法1では、フィルム基材上に触媒層形成用組成物を塗布及び乾燥させることにより触媒層を形成し、次いで、フィルム基材側から2個以上の貫通孔を形成する。
【0032】
触媒層は、フィルム基材上に、触媒層形成用組成物を塗布及び乾燥させることにより得られる。
【0033】
触媒層形成用組成物は、上記触媒層を形成するための組成物であって、上記触媒担持炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質に加え、溶剤を必須とする。
【0034】
溶剤は、公知又は市販のものを使用することができ、例えば、各種アルコール、各種エーテル、各種ジアルキルスルホキシド、水又はこれらの混合物等が挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4の一価アルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等が挙げられる。これらの溶剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
触媒層形成用組成物には、触媒担持炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質が所定の割合となるように配合される。例えば、触媒担持炭素粒子1重量部に対して、水素イオン伝導性高分子電解質(固形分)が0.1〜5重量部(特に0.2〜4重量部)、溶剤が5〜50重量部(特に10〜30重量部)含まれているのがよく、残りが水である。水の割合は、通常、触媒担持炭素粒子に対して、等重量〜20倍重量である。
【0036】
触媒層形成用組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0037】
触媒層形成用組成物を塗布した後、乾燥することにより触媒層が形成される。乾燥温度は、例えば、大気雰囲気中、通常40〜100℃、好ましくは60〜80℃である。乾燥時間は乾燥温度にもよるが、通常3分から2時間程度、好ましくは30〜60分である。
【0038】
次に、フィルム基材側から2個以上の貫通孔を形成する。貫通孔を形成する方法及び形状は上述したとおりである。
【0039】
この場合の貫通孔の直径は、1〜100μm、好ましくは1〜30μmである。孔の直径が1μm未満では、触媒層−電解質膜積層体を作製する際に気泡等が抜けにくく、孔の直径が100μmをこえると、触媒層のクラックより大きな面積を有し、孔を形成する際に触媒層を剥がしてしまい、長期的な電池性能を低下させてしまう恐れがある。
【0040】
また、孔同士の最短距離は、1cm以下、好ましくは2mm以下である。これは、触媒層−電解質膜積層体を作製する際に発生する気泡等は、通常1cm×1cm程度の大きさを有しているからである。
【0041】
貫通孔は、フィルム基材を貫通するものでもよいし、フィルム基材と触媒層を貫通するものでもよい。つまり、貫通孔の深さは、フィルム基材の厚み以上であり、触媒転写フィルムの総厚み以下である。具体的には、フィルム基材や触媒層の厚みにもよるが、貫通孔の深さは、フィルム基材の厚みと同程度である2.5μm〜200μm程度、好ましくは10μm〜150μm程度、さらには10μm〜100μm程度とすればよい。これは、小さすぎるとフィルム基材を貫通しないので空気が抜けない傾向があり、大きすぎると触媒層が剥がれやすい傾向があるからである。
【0042】
方法2の場合
方法2では、フィルム基材の表面に2個以上の貫通孔を形成し、次いで、フィルム基材上に触媒層形成用組成物を塗布及び乾燥させることにより触媒層を形成する。貫通孔を形成する方法及び形状は上述した通りである。
【0043】
この場合の貫通孔の直径は、1〜100μm、好ましくは1〜60μmである。貫通孔の直径が1μm未満では、触媒層−電解質膜積層体を作製する際に気泡等が抜けにくく、貫通孔の直径が100μmをこえると、インキが裏打ちする。
【0044】
また、貫通孔同士の最短距離は、1cm以下、好ましくは5mm以下である。これは、触媒層−電解質膜積層体を作製する際に発生する気泡等は、通常1cm×1cm程度の大きさを有しているからである。
【0045】
貫通孔は、フィルム基材を貫通するものである。具体的には、フィルム基材の厚みにもよるが、貫通孔の深さは、フィルム基材の厚みと同程度である2.5μm〜200μm程度、好ましくは10μm〜150μm程度、さらには10μm〜100μm程度とすればよい。これは、小さすぎるとフィルム基材を貫通しないので空気が抜けない傾向があり、大きすぎると触媒層が剥がれやすい傾向があるからである。
【0046】
次に、フィルム基材上に触媒層形成用組成物を塗布及び乾燥させることにより触媒層を形成する。
【0047】
触媒層形成用組成物を塗布する面は、フィルム基材に形成される孔が貫通孔なので、フィルム基材のどちらの面でもよい。なお、触媒層形成用組成物の組成、塗布方法、乾燥温度等は方法1と同様でよい。
【0048】
2.触媒層−電解質膜積層体
本発明の固体高分子形燃料電池用触媒層−電解質膜積層体は、本発明の触媒転写フィルムを用いて、固体高分子電解質膜の片面又は両面に触媒層が設けられてなるものである。
【0049】
<電解質膜>
電解質膜は、水素イオン伝導性のものであれば限定的ではなく、公知又は市販のものを使用できる。電解質膜の具体例としては、例えば、デュポン社製の「Nafion」膜、旭硝子(株)製の「Flemion」膜、旭化成(株)製の「Aciplex」膜、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」膜等が挙げられる。
【0050】
電解質膜の膜厚は、通常1〜250μm程度、好ましくは5〜80μm程度とすればよい。
【0051】
<触媒層の形成方法>
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、電解質膜の片面又は両面に、本発明の触媒転写フィルムを転写して得られる。
【0052】
転写方法は常法に従って行えばよく、例えば、高分子電解質膜と、触媒転写フィルムの触媒層とが対向するように配置し、加圧することにより行えばよい。
【0053】
加圧の程度は、転写不良を避けるために、通常5〜100kgf/cm程度、好ましくは10〜70kgf/cm程度がよい。また、加圧操作の際は、転写不良をより一段と避けるために、加圧面を加圧することが好ましい。加圧温度は、電解質膜の破損、変形等を避ける観点から、200℃以下程度、特に100〜150℃程度が好ましい。
【0054】
3.電解質膜−電極接合体
本発明で使用する固体高分子形燃料電池用電解質膜−電極接合体は、本発明の触媒層−電解質膜積層体の片面又は両面に、ガス拡散基材が、触媒層とガス拡散基材が接するように設けられたものである。
【0055】
ガス拡散基材は限定的ではなく、例えば通気性のあるカーボン基材が挙げられ、具体的には、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の公知のものを使用すればよい。
【0056】
また、これらのカーボン基材は撥水処理されたものを用いてもよい。撥水処理は、例えば、カーボン基材をポリテトラフルオロエチレンエマルジョン液に含浸させた後、乾燥及び焼成することにより、行うことができる。
【0057】
さらに、カーボン基材の面を平滑にするための処理(平滑処理)を施したものを使用してもよい。例えば、カーボンブラック、ポリテトラフルオロエチレン及び水等を主成分とするインクをカーボン基材に塗布及び乾燥することにより、平滑にすることができる。
【0058】
ガス拡散基材の厚さは、通常20〜1000μm程度、好ましくは100〜400μm程度とすればよい。
【0059】
本発明で使用する固体高分子形燃料電池用電解質膜−電極接合体は、例えば、本発明の電解質膜−触媒層接合体の片面又は両面に、ガス拡散基材を、触媒層とガス拡散基材とが対面するように配置し、熱プレスすることにより、作製することができる。
【0060】
熱プレスする際の加圧レベルは、通常1〜100kgf/cm程度、好ましくは5〜70kgf/cm程度がよい。また、この際の加熱温度は、通常120〜150℃程度でよい。
【0061】
4.固体高分子形燃料電池
前記電解質膜−電極接合体に公知又は市販のセパレータを設けることにより、本発明の触媒層−電解質膜積層体を具備する、本発明の固体高分子形燃料電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、触媒転写フィルムを熱プレス等で電解質膜上に転写する際、触媒転写フィルムと電解質膜の間の気泡等が抜けやすくなることによって、転写した触媒層面の転写不良やゆがみを抑制することができ、平滑な触媒層−電解質膜積層体を製造できる触媒転写フィルムが得られる。また、これにより、伸ばす工程が不要になくなり、短時間で量産できるようになったり、高価な装置も不要であったりするという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、貫通孔はすべて電子顕微鏡(日本電子(株)製)で観察した。
【0064】
実施例1
ポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)に針を用いて、直径50〜100μmの大きさの貫通孔を複数形成し、基材フィルムを作製した。この際、貫通孔同士の最短距離を1cmとした。
【0065】
このフィルムに白金担持触媒(田中貴金属工業(株)製)とNafion溶液(デュポン社製)とイソプロピルアルコールと水とを混合し、撹拌して得られた触媒層形成用組成物を塗工し、70℃で30分乾燥させて実施例1の触媒転写フィルムを得た(触媒層の厚み:20μm)。
【0066】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、実施例1の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0067】
実施例2
ポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)にエキシマレーザー((株)ジーエス・ユアサコーポレーション製)を用いて、直径1μmの大きさの貫通孔を複数形成し、基材フィルムを作製した。この際、貫通孔同士の最短距離を0.1mmとした。
【0068】
このフィルムに実施例1で用いた触媒層形成用組成物を塗工し、70℃で30分乾燥させて実施例2の触媒転写フィルムを得た(触媒層の厚み:20μm)。
【0069】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、実施例2の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0070】
実施例3
粒度#60〜120の粒度分布を有するダイヤモンド粉を、エポキシ樹脂をバインダーとして、金属製ロールの外周面に塗布、乾燥、硬化させて砥石ロールを作製した。
【0071】
この砥石ロールと受けロールとの間にポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)を通して、該砥石ロールを圧接して粗面加工を施した。これにより、フィルムの全表面に5〜50μmの大きさの多数の貫通孔を有する粗面を形成した。この際、貫通孔同士の最短距離は0.1cmであった。
【0072】
このフィルムに実施例1で用いた触媒層形成用組成物を塗工し、70℃で30分乾燥させて実施例3の触媒転写フィルムを得た(触媒層の厚み:20μm)。
【0073】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、実施例3の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0074】
実施例4
実施例1で用いた触媒層形成用組成物をポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)に塗工し、70℃で30分乾燥させた(触媒層の厚み:20μm)。
【0075】
この触媒転写フィルムに、針を用いて、直径50〜100μmの大きさの貫通孔(深さ:25μm〜45μm)を複数形成し、実施例4の触媒転写フィルムを得た。この際、貫通孔同士の最短距離を1cmとした。
【0076】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、実施例4の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0077】
実施例5
実施例1で用いた触媒層形成用組成物をポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)に塗工し、70℃で30分乾燥させた(触媒層の厚み:20μm)。
【0078】
この触媒転写フィルムに、エキシマレーザー((株)ジーエス・ユアサコーポレーション製)を用いて、直径1μmの大きさの貫通孔(深さ:25μm〜45μm)を複数形成し、実施例5の触媒転写フィルムを得た。この際、貫通孔同士の最短距離を0.1mmとした。
【0079】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、実施例5の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0080】
実施例6
実施例1で用いた触媒層形成用組成物をポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)に塗工し、70℃で30分乾燥させた(触媒層の厚み:20μm)。
【0081】
粒度#60〜120の粒度分布を有するダイヤモンド粉を、エポキシ樹脂をバインダーとして、金属製ロールの外周面に塗布、乾燥、硬化させて砥石ロールを作製した。
【0082】
この触媒転写フィルムに、実施例3で用いた砥石ロールと受けロールとの間にポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)を通して、該砥石ロールを圧接して粗面加工を施した。これにより、フィルムの全表面に5〜50μmの大きさの多数の貫通孔(深さ:25μm〜45μm)を有する粗面を形成し、実施例6の触媒転写フィルムを得た。この際、貫通孔同士の最短距離は0.2cmであった。
【0083】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、実施例6の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0084】
比較例1
ポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)に細孔を設けず、実施例1で用いた触媒層形成用組成物を塗工し、70℃で30分乾燥させ、比較例1の触媒転写フィルムを得た(触媒層の厚み:20μm)。
【0085】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、比較例1の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0086】
比較例2
ポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)に針を用いて、直径150〜200μmの大きさの貫通孔を複数形成し、基材フィルムを作製した。この際、貫通孔同士の最短距離を2mmとした。
【0087】
このフィルムに実施例1で用いた触媒層形成用組成物を塗工し、70℃で30分乾燥させて比較例2の触媒転写フィルムを得た(触媒層の厚み:20μm)。
【0088】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、比較例2の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0089】
比較例3
ポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)に針を用いて、直径50〜100μmの大きさの貫通孔を複数形成し、基材フィルムを作製した。この際、貫通孔同士の最短距離を3cmとした。
【0090】
このフィルムに実施例1で用いた触媒層形成用組成物を塗工し、70℃で30分乾燥させて比較例3の触媒転写フィルムを得た(触媒層の厚み:20μm)。
【0091】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、比較例3の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0092】
比較例4
ポリエチレンテレフタラートフィルム(PET、東レ(株)製、厚み25μm)に実施例1で用いた触媒層形成用組成物を塗工し、95℃で10分乾燥させた(触媒層の厚み:20μm)。
【0093】
この触媒転写フィルムに針を用いて、直径200μmの大きさの貫通孔(深さ:25μm〜45μm)を複数形成し、比較例4の触媒転写フィルムを得た。この際、貫通孔同士の最短距離を2mmとした。
【0094】
この触媒転写フィルムを50mm×50mmにカットし、電解質膜(デュポン社製、Nafion)に熱プレスし、比較例4の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0095】
実施例1〜6及び比較例1〜4のフィルムに形成する孔について、表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
試験例1:泡がみ試験
実施例1〜6及び比較例1〜4の触媒層−電解質膜積層体の作製を5回行い、泡がみしているかどうかを評価した。なお、泡がみ率は、5回とも泡をかんだもの(気泡が混入したもの)を100%、1回もかまなかったものを0%として記載した。
【0098】
結果を表2に示す
【0099】
【表2】

【0100】
なお、実施例1〜6及び比較例1〜4について、触媒転写フィルムの大きさを100mm×100mmとして同様の試験をしたところ、泡がみ率、泡の大きさは変わらなかった。そのため、本発明によれば、触媒転写フィルムの大きさによらず、泡がみを抑えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)フィルム基材上に触媒層が設けられ、
(2)該フィルム基材の触媒層と接していない側の表面に2個以上の貫通孔が設けられ、
(3)該貫通孔は、直径1〜100μmであり、
(4)貫通孔同士の最短距離が1cm以下である、
固体高分子形燃料電池用触媒転写フィルム。
【請求項2】
貫通孔の深さが、フィルム基材の厚み以上であり、触媒転写フィルムの総厚み以下である、請求項1に記載の触媒転写フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒転写フィルムを用いて、電解質膜の片面又は両面に触媒層が設けられてなる、触媒層−電解質膜積層体。
【請求項4】
請求項3に記載の触媒層−電解質膜積層体を具備する、固体高分子形燃料電池。

【公開番号】特開2010−80169(P2010−80169A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245447(P2008−245447)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】