説明

固定化相補DNAまたはRNAを用いるDNAまたはRNA断片の測定方法

【目的】 蛍光偏光法によるDNAまたはRNA断片の測定法において、測定感度および信頼性の向上を計る。
【構成】 (1)蛍光標識された1本鎖DNAまたはRNAプローブと(2)検体中のDNAまたはRNAを、(3)該1本鎖DNAまたはRNAと相補的な塩基配列を含むDNAまたはRNAを固定化担体に結合させた固定化試薬と競合反応させて、2本鎖DNAまたはRNAを形成させ、2本鎖形成前の蛍光偏光度と2本鎖形成後の蛍光偏光度との変位を測定して、検体中のDNAまたはRNAに存在する該1本鎖DNAまたはRNAプローブに対応する塩基配列を測定する。
【効果】 蛍光標識されたDNAまたはRNAと測定対象と相補的な塩基配列を含む固定化DNAまたはRNAとの相補的結合反応による実効的な分子量変化が大きいため、蛍光偏光度の変化が大きくなり、測定感度および信頼性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、蛍光偏光法によるDNAまたはRNA断片の測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】蛍光偏光法によるDNAまたはRNA断片の測定法においては、測定のための試薬として、蛍光標識された測定対象と同一の塩基配列を含むDNAまたはRNAおよび測定対象に対して相補的な塩基配列を含むDNAまたはRNAを用いる競合方法がある(特開昭2−75958号公報参照)。この方法においては、蛍光標識された測定対象と同一の塩基配列を含むDNAまたはRNA(蛍光標識DNAまたはRNAと呼ぶ)、測定対象に対して相補的な塩基配列を含むDNAまたはRNA(相補DNAまたはRNAと呼ぶ)および測定対象DNAまたはRNAを混合させ、蛍光標識DNAまたはRNAと相補DNAまたはRNAとが、相補的に結合する際の蛍光偏光度の変化を測定することにより、測定対象DNAまたはRNAを測定する。(図2参照)
【0003】
【発明が解決しようとする課題】この方法では、蛍光偏光度の変化は、蛍光標識DNAまたはRNAが相補DNAまたはRNAと結合する際の実効的な分子量の変化に対応している。したがって、蛍光標識DNAまたはRNAと相補DNAまたはRNAの分子量に大きな差がない場合には、蛍光偏光度の変化は小さい。そのために、この測定法の感度および信頼性は低いものとなる。この問題を解決するためには蛍光偏光度の変化を大きくすればよいが、このためには相補DNAまたはRNAの分子量を蛍光標識DNAまたはRNAの分子量に対して充分に大きくする必要がある。すなわち、相補DNAまたはRNAを長鎖にする必要がある。しかし、このような相補DNAまたはRNAを準備することは、通常、困難である。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、(1)蛍光標識された1本鎖DNAまたはRNAプローブと(2)検体中のDNAまたはRNAを、(3)該1本鎖DNAまたはRNAと相補的な塩基配列を含むDNAまたはRNAを固定化担体に結合させた固定化試薬と競合反応させて、2本鎖DNAまたはRNAを形成させ、該2本鎖形成前の蛍光偏光度と該2本鎖形成後の蛍光偏光度との変化を測定することにより、検体中のDNAまたはRNAに存在する、上記1本鎖DNAまたはRNAプローブに対応する塩基配列を測定することを特徴とする固定化相補DNAまたはRNAを用いるDNAまたはRNA断片の測定方法である。
【0005】本発明における(1)蛍光標識された1本鎖DNAまたはRNAプローブとは、測定対象のDNAまたはRNAと同一の塩基配列を有するDNAまたはRNAに標識物質として蛍光物質を結合させたDNAまたはRNA(以下、蛍光標識DNAまたはRNAと呼ぶ)である。蛍光物質としては、例えばフルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネートなどがある。DNAまたはRNAに蛍光物質を結合させる方法としては、例えばチオカルバミド結合などの共有結合によるものがある。
【0006】本発明における(2)検体中のDNAまたはRNAとは、例えば血清、尿、各種培養液などの測定検体における細菌、ウイルスなどのDNAまたはRNA、また組織細胞やそれらの遊離DNAまたはRNAなどがある。
【0007】本発明における(3)該1本鎖DNAまたはRNAと相補的な塩基配列を含むDNAまたはRNAを固定化担体に結合させた固定化試薬(以下、固定化相補DNAまたはRNAと呼ぶ)とは、上記(1)蛍光標識された1本鎖DNAまたはRNAにおける1本鎖DNAまたはRNAと相補的な塩基配列を含むDNAまたはRNAを固定化担体に固定化することにより用意される。固定化担体としては、ポリスチレン、ナイロンなどの合成樹脂のビーズ、ラテックス粒子、ガラスビーズやAu,Agなどの金属微粒子などを用いることができる。またタンパク質などの高分子物質を用いることもできる。本発明の固定化担体の分子量は、上述の蛍光偏光法の原理に基づき、相補DNAまたはRNAの分子量が蛍光標識DNAまたはRNAの分子量に対して充分に大きくなるように選択される。固定化担体の分子量は蛍光標識DNAまたはRNAの分子量より5倍以上であることが好ましい。粒子などの固定化担体の分子量は、厳密には定義できないが、この場合には粒子の担体1個の平均質量にアボガドロ数をかけたものと定義する。また、固定化担体は必ずしも球状でなくてもよく、線状や板状でもよい。
【0008】例えば、粒径15nmの銀微粒子は、分子量に換算するとおよそ1×107 の物質であり、例えば300塩基対を有する測定対象DNAまたはRNAの分子量(約9万)に対して約100倍である。したがって、この測定対象と全く同一の塩基配列をもつ蛍光標識DNAまたはRNAと上記担体を用いた固定化相補DNAまたはRNAが相補的に結合した場合、実効的な分子量の変化は、約100倍である。これは蛍光偏光法によって測定を行う場合に充分な値である。
【0009】DNAまたはRNAを固定化担体に結合させる方法としては、吸着法、共有結合法、アビジンとビオチンとの特異的結合を利用する方法などがある。
【0010】本発明の測定法に使用する蛍光偏光測定装置の一例を図3に示す。ここで測定の原理について簡単に説明すると、図3において、光源11から出る光はフィルター12によって試薬に含まれる蛍光物質の励起波長に濾光され、偏光板13によって偏光される。この励起波長の偏光は、測定物質(サンプル)を入れたセル14に投射され、サンプル中の蛍光物質を励起する。励起された蛍光物質は、物質に応じた波長の蛍光を発するが、この際ブラウン運動の激しさに対応して、該蛍光は偏光の分散を起こす。該蛍光はその波長を透過するフィルター15を透過し、偏光板16を透過し、光検知器17によって電気信号に変換される。偏光板16を回転することにより、サンプルの蛍光に対して励起偏光と同じ向きの偏光成分Iaとこれと垂直の偏光成分Ibを求める。これらの値を用いて、次の示すサンプルの蛍光偏光度Pが求められる。
【0011】
【数1】


【0012】この場合、蛍光物質または蛍光物質を結合している物質のブラウン運動が激しいほど、励起偏光と垂直な向きの偏光成分Ibは、これと平行の偏光成分Iaに比して大きくなり、すなわちPは小さくなる。
【0013】本発明では、サンプルセル(図3の14)に蛍光標識DNAまたはRNAを含む溶液を入れ、測定対象DNAまたはRNA断片を含む溶液を加え、続いて固定化相補DNAまたはRNAを含む溶液を加える。ただし、これらの3種の溶液を加える順序は限定しない。加える蛍光標識DNAまたはRNAおよび固定化相補DNAまたはRNAの濃度は、測定対象DNAまたはRNAの測定濃度範囲に応じて適切に選定される。
【0014】本発明では、蛍光標識DNAまたはRNAは、測定対象DNAまたはRNAと競合しつつ、相補的結合反応により固定化相補DNAまたはRNAと結合する。蛍光標識DNAまたはRNAが固定化相補DNAまたはRNAと結合する際、見掛け上大きな分子量変化が生じるので、結合した量に対応して上述した蛍光偏光度Pの値が求められる。測定対象DNAまたはRNAの濃度に対応して固定化DNAまたはRNAと結合する蛍光標識DNAまたはRNAの量が決定される。したがって、偏光度Pが求められれば、測定対象DNAまたはRNAの濃度が求められる。
【0015】
【実施例】以下に本発明の実施例を例示することによって、本発明の効果をより一層明確なものとするが、これら実施例によって本発明の範囲は限定されない。
(実施例1)
各種DNA試薬の調製■コントロールDNA断片の調製法DNAシンセサイザー(ABI社製、391型)を用いて、ホスホアミダイト法により、チミン塩基からなる25merのオリゴヌクレオチドを合成した。精製はFPLC(ファルマシア社製)で逆相カラムにて行った。これを希釈用緩衝液(1×SSC,pH7.0,0.1%SDS、これを希釈バッファーと呼ぶ)によって8×10-10 〜10-7mol/lの範囲の7通りの濃度の溶液に希釈し、これをコントロールDNA断片試薬とした。
【0016】■固定化相補DNAの調製法■の場合と同様に、シンセサイザーによって、アデニン塩基からなる27merのオリゴヌクレオチドを合成し、さらに末端に以下の式に示すdU誘導体を付加した。これを■と同様に精製した。
【0017】
【化1】


【0018】このオリゴヌクレオチドを希釈バッファーによって10-6mol/lの濃度に調製し、この溶液1mlに炭酸緩衝液(0.5M,pH8.5)100μlを加えた。この溶液に、スクシニミジルD−ビオチン(モレキュラー・プローブ社製、S−1513)10μgを加え、室温にて3時間攪拌の後、FPLCにて精製した。この操作によって、上記オリゴヌクレオチドはビオチン標識された。このビオチン標識オリゴヌクレオチドに希釈バッファーを加え1mlとし、こてにストレプトアビジン固定化シルバーコロイド(E・Yラボラトリーズ社製),0.02%,0.5mlを加え、室温にて3時間攪拌した。さらに1%BSA,100μlを加え室温にて30分間インキュベートした。この溶液を20000×gで4分間遠心して上清を除去し、再び希釈バッファーにて溶解し1mlとした。これを10倍希釈したものを固定化相補DNA試薬とした。
【0019】■FITC(フルオレセインイソチオシアネート)標識DNA断片の調製法■の場合と同様に、シンセサイザーによって、チミン塩基からなる27merのオリゴヌクレオチドを合成し、さらに末端に■の場合と同じくdU誘導体を付加した。これをFPLCにて精製した。このオリゴヌクレオチドを希釈バッファーによって10-6mol/lの濃度に調製し、この溶液1mlに炭酸緩衝液(0.5M,pH9.3)100μlを加えた。この溶液に、FITC(カッペル社製)10μgを加え、室温にて6時間攪拌の後、FPLCにて精製した。この操作によって、上記オリゴヌクレオチドはFITC標識とされた。これを希釈バッファーによって4×10-9 mol/lの濃度とし、これをFITC標識DNA断片試薬とした。濃度の測定は、260nmUV光における吸光度法に従った。
【0020】(実施例2)
測定装置および検量線の作成測定装置の構成は、図3を用いて説明したものである。蛍光励起波長は485nm、蛍光の受光波長は525nmとした。装置の励起側、蛍光側の波長フィルターの分光バンド幅はともに半値幅10nmとした。反応用セルは50℃に加温・保持した。
【0021】次に、コントロールDNA断片の検量線(校正曲線)を得るための手続きを示す。実施例1の■〜■に示した3種の試薬、コントロールDNA断片、固定化相補DNA、FITC標識DNA断片試薬はすべて50℃に加温・保持した。また反応用緩衝液(15×SSC,pH7.0,0.5%BSC、これをハイブリダイゼーションバッファーと呼ぶ)を用意し、同じく50℃に保持した。まず、反応用セルにハイブリダイゼーションバッファー1ml、続いてコントロールDNA断片試薬1ml、続いて固定化相補DNA試薬1mlを加え、50℃にて10分間インキュベートした。その後、FITC標識DNA断片試薬1mlを加え、50℃にて5分間インキュベートした後、偏光度を4回測定し、平均値をプロットした。この操作を、実施例1の■に示した7通りの濃度のコントロールDNA断片試薬に対して行った。このようにして得られたコントロールDNA断片の検量線を図4に示す。同図におけるコントロールDNA断片の濃度は上記4種の試薬溶液混合後の濃度である。この例により、本発明に基づく測定法によるチミン塩基からなる25merのオリゴヌクレオチドの測定が可能であることが明らかとなった。
【0022】
【発明の効果】実施例から明かなように、本発明では蛍光標識DNAまたはRNAと固定化相補DNAまたはRNAとの相補的結合反応による実効的な分子量変化が大きいので、測定の感度および信頼性が向上できる。また、固定化相補DNAまたはRNA試薬および蛍光標識DNAまたはRNA試薬の作成において、長鎖の相補DNAまたはRNA試薬を用意する必要がないので、従来技術よりも簡単に測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の蛍光偏光法によるDNAまたはRNA断片測定法の一例を示す。
【図2】従来法によるDNAまたはRNA断片測定法の一例を示す。
【図3】蛍光偏光測定装置の構成例を示す。
【符号の説明】
1.測定対象DNAまたはRNA
2.蛍光標識DNAまたはRNA
3.固定化相補DNAまたはRNA
4.蛍光標識DNAまたはRNA
5.相補DNAまたはRNA
11.光源
12.フィルター
13.偏光板
14.セル
15.フィルター
16.偏光板
17.光検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (1)蛍光標識された1本鎖DNAまたはRNAプローブと(2)検体中のDNAまたはRNAを、(3)該1本鎖DNAまたはRNAと相補的な塩基配列を含むDNAまたはRNAを固定化担体に結合させた固定化試薬と競合反応させて、2本鎖DNAまたはRNAを形成させ、該2本鎖形成前の蛍光偏光度と該2本鎖形成後の蛍光偏光度との変化を測定することにより、検体中のDNAまたはRNAに存在する、上記1本鎖DNAまたはRNAプローブに対応する塩基配列を測定することを特徴とする固定化相補DNAまたはRNAを用いるDNAまたはRNA断片の測定方法。
【請求項2】 固定化試薬の固定化担体の分子量が、蛍光標識させた一本鎖DNAまたはRNAプローブの少なくとも5倍であることを特徴とする請求項1記載の固定化相補DNAまたはRNAを用いるDNAまたはRNA断片の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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