説明

固定手段およびそれに関連する製造方法

本発明は、ベ−スメタルからなる本体(12)を備え、該本体に少なくとも1つの耐腐食性の層(14)が形成されている固定手段に関する。本発明により、少なくとも1つの耐腐食性の層(14)に、少なくとも1つの耐腐食性の層(14)よりも小さい摩擦係数を有する他の層(16)が少なくとも部分的に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の上位概念部に記載の固定手段および独立請求項7の上位概念部に記載の関連する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドイツ国特許出願公開第2322352号明細書には、ねじ山を有する炭素鋼からなる電気クロムめっきされた固定手段が記載されている。ここに記載の固定手段は、良好な耐腐食特性を備え、構造的なベ−スメタルと金属もしくは金属合金の複数の層とからなる特殊な層構造を有し、これらの層は、電界被覆法によって形成され、良好な耐腐食特性および良好な付着特性をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第2322352号明細書
【発明の概要】
【0004】
これに対して、独立請求項1に記載の特徴を有する本発明による固定手段は、少なくとも1つの耐腐食性の層に、少なくとも1つの耐腐食性の層よりも小さい摩擦係数を有する他の層が少なくとも部分的に形成されているという利点を有する。
【0005】
ベ−スメタルからなる本体を備え、本体に少なくとも1つの耐腐食性の層が形成される固定手段を製造するための方法では、本発明によれば耐腐食性の層に、少なくとも1つの耐腐食性の層よりも小さい摩擦係数を有する他の層が少なくとも部分的に形成される。
【0006】
本発明の実施形態は、有利には、高い耐腐食性を有し、同時に良好な潤滑特性もしくは低減された摩擦係数を備える固定手段を提供する。他の層は、直接に、または少なくとも1つの中間層を介して耐腐食性の層に形成してもよい。
【0007】
本発明の本質は、一方では摩擦係数にポジティブな影響を及ぼし、他方では使用されるね込み相手または圧入相手にネガティブな影響を及ぼさない、固定手段のために適した表面を形成することである。この場合、耐腐食性の層を形成した後に、より小さい摩擦係数を有する他の層が形成される。これにより、例えば、終端層として形成される他の層は、潤滑特性を備え、選択された材料に関係して耐腐食性をさらに高めることができる。
【0008】
従属請求項に記載した手段および改良形態により、独立請求項1に記載の固定手段および独立請求項7に記載の製造方法の有利な改良形態が可能となる。
【0009】
耐腐食性の層が亜鉛−ニッケル層として構成されていることは、特に有利である。代替的に、鉄−亜鉛組み合わせおよび/または十分な腐食防止を保障するために適した他の材料もしくは材料組み合わせから耐腐食性の層を製造することもできる。この場合、他の層のための摩擦を低減する材料としては、亜鉛および/またはアルミニウムおよび/または錫および/または銅および/または炭素および/または摩擦係数を低減するために適した他の材料もしくは材料組み合わせを用いることができる。亜鉛の使用は、亜鉛層を形成するための技術的装置および方法が広範囲に提供されており、既知であるという利点を有する。他の層は摩擦係数を改善するためにのみ形成されるので、この層は約1〜15μmの範囲の極めてわずかな層厚さで形成することができ、したがって、有利には固定手段の原形に著しい影響を及ぼさない。さらに、耐腐食性の層としての亜鉛−ニッケル層と他の亜鉛層との間の極めて良好な結合により、安定的で低減された摩擦係数を期待することができる。既知の耐化学性もポジティブに評価することができる。
【0010】
固定手段の有利な構成では、本体はねじ山、特にセリフタッピング式ねじ山を備える。固定手段をねじもしくはボルトとして構成した場合、例えば、ねじのねじ山領域もしくはボルトのシャフト領域にのみ摩擦を低減するための他の層を形成してもよい。代替的に、摩擦を低減するための他の層をねじもしくはボルトに完全に形成してもよい。
【0011】
本発明による方法の有利な構成では、耐腐食性の層を電気めっき法および/または湿式化学法および/または吹付け法および/または浸漬法によってベ−スメタルに形成してもよい。同様に他の層を電気めっき法および/または湿式化学法および/または吹付け法および/または浸漬法によって、直接に、または少なくとも1つの中間層を介して耐腐食性の層に形成してもよい。
【0012】
本発明による方法の他の有利な構成では、亜鉛層として構成された他の層は、溶融亜鉛めっきプロセスによって、直接に、または少なくとも1つの中間層を介して耐腐食性の層に形成してもよい。
【0013】
本発明の実施形態は、例えば、自動車の制御機器をねじ込むために使用することができる。
【0014】
本発明の実施例を図面に示し、以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による固定手段の実施例の一部を示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
例えば、鋼およびアルミニウムから作製された金属薄板および金属部品には、薄板または部品を腐食性の媒体による影響から保護する被覆層が設けられていることが多い。このような被覆層によって、さらに被覆層に塗布されるラッカ−塗料の付着を改善することができ、これにより、薄板または部品の耐腐食性がさらに改善される。しかしながら、腐食保護層には、Cr(VI)含有組成物を含むものもあり、このような組成物は、Cr(VI)の性質によりもはや望ましくない。EU廃自動車指令ならびに電気電子機器廃棄物指令の枠組みでは、Cr(VI)含有被覆層は取り除かれ、自動車分野では金属部品のための代替的な腐食保護被覆層の需要が著しく高まっている。とりわけ、高い耐腐食性と連携したわずかな層厚さが関して極めて高い要求のある接続技術の分野では、現在では適した被覆層について大きい選択肢がまだない。ここでは、とりわけ厚膜パッシベ−ション、トップコ−トおよびシ−リングが使用され、これらは特に亜鉛層に使用される。上記代替表面は、例えば、締付け特性などねじ込み状態にネガティブに作用するか、または媒体との不適合性による問題または機能的に危険な粒子形成を引き起こす恐れがある。とりわけ、ねじ結合ではほとんどの場合には上記処理によって摩擦係数が高まる。
【0017】
従来技術では、高い耐腐食性に関しては亜鉛−ニッケル表面による被覆層が実施される。この被覆層は、特に傾斜の増大に対する要求の高いねじ込み領域で使用される。この被覆層の欠点は表面における層の構成にある。この層は摩擦を高める作用があり、これにより、例えばねじ込み状態で最大許容トルクを超過するまでパラメ−タが変化する。特にセルフタッピング式ねじでは、亜鉛−ニッケルを被覆したねじではこの限界をすぐに超過してしまう。例えば圧入プロセスなどの他のプロセスにも不利に作用する。部分的にはこの問題を付加的な摩擦低減トップコ−トによって解決しようと試みられている。しかしながら、これは存在する問題を取り除くためには不十分である。
【0018】
図1からわかるように、本発明による固定手段10の図示の実施例は、ベ−スメタルからなる本体12を備え、本体12には少なくとも1つの耐腐食性の層14が形成されており、層14は、例えば、亜鉛−ニッケル層および/または鉄−亜鉛層として構成されている。本発明によれば、少なくとも1つの耐腐食性の層14には他の層16が少なくとも部分的に形成されており、この層16は、少なくとも1つの耐腐食性の層14よりも小さい摩擦係数を有する。図示の実施例では、他の層16は終端層として構成されており、耐腐食性の層14に直接に形成されている。代替的には、耐腐食性の層14と他の層16との間にさらに別の中間層を配置してもよい。さらに他の層16には、例えばラッカ−層などのさらなる終端層を塗布してもよい。他の層16は、例えば、亜鉛層および/またはアルミニウム層および/または錫層および/または銅層および/または炭素層として構成することもでき、約1〜15μmの範囲の厚さを有する。自動車で使用する場合、本体12は、例えばセルフタッピング式ねじ山を備える。
【0019】
本発明による他の層16は、摩擦を低減するように作用し、これにより、特に耐腐食性の亜鉛−ニッケル層を有するセルフタッピング式のねじの場合、自動車におけるねじ込み状態を有利に改善し、最大許容トルクの超過を防止することができる。さらに、摩擦を低減する終端層16により、例えば圧入プロセスなどの他のプロセスにも有利に作用する。
【0020】
ベ−スメタルからなる本体12を有する固定手段10を製造するための本発明による方法では、少なくとも1つの耐腐食性の層14を本体に形成する。次いで本発明によれば、少なくとも1つの耐腐食性の層14に、少なくとも1つの耐腐食性の層14よりも小さい摩擦係数を有する他の層16を少なくとも部分的に形成する。耐腐食性の層14は、例えば、電気めっき法および/または湿式化学法および/または吹付け法および/または浸漬法によってベ−スメタル12に形成してもよい。他の層16を電気めっき法および/または湿式化学法および/または吹付け法および/または浸漬法によって直接に、または少なくとも1つの中間層を介して、耐腐食性の層16に形成してもよい。亜鉛層として構成された他の層16は、溶融亜鉛めっきプロセスによって直接に、または少なくとも1つの中間層を介して耐腐食性の層14に形成してもよい。
【0021】
本発明の本質的な利点は、高い耐腐食性を有し、同時に良好な潤滑特性もしくは低減された摩擦係数を有する固定手段が提供されることである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベ−スメタルからなる本体(12)を備え、該本体に少なくとも1つの耐腐食性の層(14)が形成されている固定手段であって、
少なくとも1つの耐腐食性の層(14)に、少なくとも1つの耐腐食性の層(14)よりも小さい摩擦係数を有する他の層(16)が少なくとも部分的に形成されていることを特徴とする、固定手段。
【請求項2】
前記他の層(16)が、直接に、または少なくとも1つの中間層を介して前記耐腐食性の層(14)に形成されている、請求項1に記載の固定手段。
【請求項3】
前記耐腐食性の層(14)が、亜鉛−ニッケル層および/または鉄−亜鉛層として構成されている、請求項1または2に記載の固定手段。
【請求項4】
前記他の層(16)が、亜鉛層および/またはアルミニウム層および/または錫層および/または銅層および/または炭素層として構成されている、請求項1から3までのいずれか一項に記載の固定手段。
【請求項5】
前記他の層(16)が約1〜15μmの範囲の厚さを有する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の固定手段。
【請求項6】
前記本体(12)が、ねじ山、特にセルフタッピング式のねじ山を備える、請求項1から5までのいずれか一項に記載の固定手段。
【請求項7】
ベ−スメタルからなる本体(12)を備え、該本体に少なくとも1つの耐腐食性の層(14)が形成される、上記請求項1から6までのいずれか一項に記載の固定手段を製造するための方法において、
少なくとも1つの耐腐食性の層(14)よりも小さい摩擦係数を有する他の層(16)を耐腐食性の層(14)に形成することを特徴とする、固定手段を製造するための方法。
【請求項8】
前記耐腐食性の層(14)を、電気めっき法および/または湿式化学法および/または吹付け法および/または浸漬法によってベ−スメタルに形成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記他の層(16)を、電気めっき法および/または湿式化学法および/または吹付け法および/または浸漬法によって、直接に、または少なくとも1つの中間層を介して前記耐腐食性の層(14)に形成する、形成請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
亜鉛層として構成された前記他の層(16)を、溶融亜鉛めっきプロセスによって、直接に、または少なくとも1つの中間層を介して前記耐腐食性の層(14)に形成する、請求項7から9までのいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−521445(P2013−521445A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555339(P2012−555339)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050293
【国際公開番号】WO2011/107303
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH