説明

固形有機物の処理方法および固形有機物の処理装置

【課題】有効利用が求められている固形有機物を効率的かつ簡便に処理して、エネルギーに変換する技術を提供すること。
【解決手段】固形有機物をメタン発酵汚泥と混合したうえで、カッターポンプ20により破砕して微細化する微細化処理ステップを含む分散化工程を行い、分散化した分散化処理物をメタン発酵するメタン発酵工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形有機物を、効率的且つ簡便に処理し、エネルギー変換するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固形有機物(特に廃棄物)からエネルギー回収する方法として、メタン発酵法がある。これは有機物を嫌気条件下で発酵させ、その大半をメタンを主成分とするバイオガスとして回収する方法である。発酵に関与する微生物の大半は、有機物を細胞内に取り込み、細胞内で代謝するため、固形有機物はまず水に溶ける形に可溶化される必要がある。メタン発酵法では、まず可溶化菌が菌体外酵素の働きで固形有機物を可溶化し、その後酸発酵菌が可溶化物を低分子の有機酸まで代謝し、最終的にメタン細菌が有機酸からメタンを生成する。このように、メタン発酵法では可溶化、酸発酵、メタン化の各プロセスで異なった微生物が働くため、それぞれのステージを分離した方が効率的である。しかしながら、各ステージを分離するためには、3つの発酵槽が必要となり、装置が大掛かりとなる。
微生物を担体等に固定化し、例えば下から上向きに固形有機物を流せば、担体に沿って固形有機物が可溶化、酸発酵、メタン化することが期待できるが、実際には固形有機物は沈降速度以上の速さで固形有機物を流すと、滞留時間が不足し反応が十分に進まないか、もしくは巨大な反応塔が必要となる。
メタン発酵法に先立ち、何らかの前処理で固形有機物の沈降速度を遅くすることができることが望ましい。このような技術の適用先として、例えば比較的前処理が容易なものとして生ごみ、前処理が困難なものとしてコーヒー粕があげられる。
焙煎したコーヒー豆からコーヒー成分を抽出した後の残留物であるコーヒー粕は国内で集中・安定して発生するバイオマスであり、その有効利用が求められている。飲料工場では、通常大量のエネルギーを使用しているため、発生したコーヒー粕からエネルギーを回収し、飲料生産時に利用することができれば理想的である。
【0003】
ところが、通常のバイオマスとは異なり、コーヒー粕は炭水化物と油分が主体の特殊なバイオマスであり、硬く可溶化されにくいため、通常のメタン発酵処理に供しても、バイオガス化効率は50%と低いのが実情である。
【0004】
さらに、従来、コーヒー粕を可溶化処理およびメタン発酵処理に供すると、脂肪酸等の低分子化の進行に応じて、芳香族カルボン酸であるコーヒー酸などの発酵阻害物が生じ、メタン発酵が阻害されるという問題点があった。そのため、コーヒー粕の可溶化率を下げる、或いは可溶化処理及びメタン発酵処理に供するコーヒー粕の量を低減せざるを得ないのが現状であり、効率的にコーヒー粕をメタン発酵処理する技術が確立できていなかった。
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、まずコーヒー粕を可溶化処理した後メタン発酵を行うことが、コーヒー粕をバイオガスに変換するのに有利であることを見出している。
【0006】
この可溶化処理を行った場合、通常、コーヒー粕は微細化するものの、十分流動するまでには微細化しにくく、これによりメタン発酵効率が低下するので、さらなるメタン発酵効率の向上のために、前記コーヒー粕を石臼で破砕する前処理を行うことも考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−218981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、粉砕装置が別途必要であるし、粉砕工程で大量の電力を消費するという問題がある。また、このような粉砕工程によっても、連続的な処理に供することは困難であり、バッチ的に処理する工程を介在することになるので、効率的な処理を見込むことはできない。また、コーヒー粕を十分流動させられるまで粉砕することが困難であるために、メタン発酵中にコーヒー粕が沈降してしまい、十分なメタン発酵期間を確保するためには、メタン発酵槽内の処理液を撹拌したり、強制流動させたりする付加設備が必要になるという実情がある。
【0009】
そこで、本発明は、有効利用が求められている生ごみやコーヒー粕を効率的かつ簡便に処理して、エネルギーに変換する技術を提供することを目的とし、簡便かつ効率よく生ごみやコーヒー粕の沈降速度を低下させ、メタン発酵容易にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の特徴構成は、
固形有機物を、メタン発酵汚泥と混合したうえでカッターポンプにより破砕して微細化する微細化処理ステップを含む分散化工程を行い、分散化した分散化処理物をメタン発酵するメタン発酵工程を行う点にある。
〔作用効果1〕
生ごみやコーヒー粕をメタン発酵汚泥のような微細粒子および油状成分を含むものと混合して、カッターポンプにより破砕して微細化する微細化処理ステップを行うと、固形有機物の硬質部分が物理的に破砕され、微細化される。この際、微細化処理ステップは、生ごみやコーヒー粕は、メタン発酵汚泥と混合された状態のまま、連続して処理が行えるので、汚泥が固形有機物を微細化する研磨剤的に働くので、効率の良い処理が行える。また、前記生ごみやコーヒー粕は処理液に懸濁流動化された状態で微細化処理ステップ処理に供されるため、連続した処理が可能で、従来、粉砕処理にバッチ式な処理工程を要したのに比べて効率のよい分散化処理を行えることになる。このようにして生ごみやコーヒー粕が分散化された分散化処理物は、ほとんど沈降物の発生しない程度に十分に分散化されており、得られた分散化処理物は、後続のメタン発酵工程においても沈澱物のほとんど発生しない好適なメタン発酵が行える。
【0011】
〔構成2〕
また、本発明の特徴構成は、
前記分散化工程に、さらに嫌気的に処理する予備処理ステップを含む点にある。
【0012】
〔作用効果2〕
生ごみやコーヒー粕を、嫌気的に処理する予備処理ステップを行うと、前記生ごみやコーヒー粕に含まれる固形有機物は、嫌気性細菌により資化可能な程度にまで分散され、一部可溶化される。しかし、この状態では、生ごみやコーヒー粕のうち皮や殻のような硬質部分が十分には可溶化されず、後続のメタン発酵工程において沈降してしまうレベルの可溶化度である。
【0013】
そこで、上記予備処理ステップで得られた処理液をカッターポンプにより破砕して微細化する微細化処理ステップを行うと、前記硬質部分が物理的に破砕され、微細化される。この際、生ごみやコーヒー粕は、処理液に混入された状態のまま、連続して処理が行えるので、効率の良い処理が行える。また、この際、生ごみやコーヒー粕自体も予備処理ステップを経たものであるから容易に可溶化する部分は既に可溶化しており、カッターポンプは前記硬質部分のみ破砕すれば良く、負荷は軽減されているとともに、前記硬質部分も嫌気処理により、より破砕容易な性状になっているから、容易に破砕することができる。また、前記生ごみやコーヒー粕は処理液に懸濁流動化された状態で微細化処理ステップ処理に供されるため、連続した処理が可能で、従来、粉砕処理にバッチ式な処理工程を要したのに比べて効率のよい分散化処理を行えることになる。このようにして生ごみやコーヒー粕が分散化された分散化処理物は、ほとんど沈降物の発生しない程度に十分に分散化されており、得られた分散化処理物は、後続のメタン発酵工程においても沈澱物のほとんど発生しない好適なメタン発酵が行える。また、コーヒー粕のような油分の多いものについては、特に予備処理ステップを行わなくても、メタン発酵汚泥のような微細粒子および油状成分を含むものと混合して破砕するだけでも沈降速度を低下することができる。
【0014】
なお、生ごみやコーヒー粕の可溶化のために、メタン発酵汚泥またはその液体画分のいずれを使用することができる。メタン発酵汚泥を循環利用する場合はメタン発酵槽内の固形物濃度が上昇する恐れがあることから、好ましくはメタン発酵汚泥の液体画分である。
ここにいうメタン発酵汚泥とは、メタン発酵中又メタン発酵後の汚泥であり、通常のメタン発酵を行っているメタン発酵槽内から得ることができる。可溶化処理に使用されるメタン発酵汚泥としては、メタン発酵工程におけるメタン発酵処理中またはメタン発酵後の汚泥を利用することが望ましい。
また、メタン発酵汚泥の液体画分とは、メタン発酵汚泥を固液分離することにより得られる液体画分であり、メタン発酵汚泥を膜濾過処理や遠心分離等の公知の固液分離処理することにより得ることができる。ここでは、メタン発酵工程における排水を利用することができる。
このような可溶化処理を経ることにより、生ごみやコーヒー粕について糖質、油脂、セルロースの部分分解や可溶化がなされている。
【0015】
なお、本発明において、「可溶化」とは、生ごみやコーヒー粕に含まれる固形有機物の全てが水中に溶解する程度に低分子化されている状態に限らず、生ごみやコーヒー粕に含まれる不溶性の固形有機物が、好ましくは5重量%以上の程度、より好ましくは10重量%以上の程度が水に分散する程度まで低分子化される状態となることにより、即座には固形分の沈殿が観測されない程度になった状態を含め、メタン発酵されやすい状態となっていることを意味する。
【0016】
従って、上記構成によると、生ごみやコーヒー粕含有排水を効率よくメタン発酵させてエネルギー変換することができるようになった。
【0017】
〔構成3〕
また、前記予備処理ステップを、固形有機物を60℃以上に加熱して行ってもよい。
【0018】
〔作用効果3〕
前記予備処理ステップは、生ごみやコーヒー粕のうち容易に可溶化する部分が液状化すればよいから、種々環境下で行うことができるが、後続のメタン発酵工程においてメタンガスを回収することを考慮すると、生ごみやコーヒー粕は可溶化するが、有機物がガス化して消失しない程度に行うことが好ましい。このような処理を行うにあたっては、処理液を加熱する方法が適用でき、特に、60℃以上に加熱する加熱処理を行うと、前記硬質部分の軟化により嫌気処理による有機物の大まかな分解が比較的容易に進行して、有機物を過度に分解することなく可溶化させることが可能になる。
【0019】
〔構成4〕
上記構成において、前記分散化処理物が、液中固形成分において粒径0.25mm以下が70%以上のスラリー状の生ごみ、あるいは、液中固形成分において粒径1mm以上が10%以下のスラリー状のコーヒー粕であることが好ましい。
【0020】
〔作用効果4〕
前記分散処理物が、生ごみにおいては液中固形成分において粒径0.25mm以下が70%以上、コーヒー粕においては液中固形成分において粒径1mm以上が10%以下のスラリー状となっていれば、分散化処理物中の固体成分は、ほぼ完全にエマルジョン状に分散した状態になっており、長時間にわたって沈澱物が生じず、スラリー状を維持できる。そのため、後続のメタン発酵工程を行うにあたって、十分な発酵処理時間を確保したとしても、沈澱物が発酵処理に対して不都合を及ぼすことがない。
【0021】
〔構成5〕
また、上記構成において、前記メタン発酵工程を、担体メタン発酵法により行うことが好ましい。
【0022】
〔作用効果5〕
メタン発酵工程を行うには、種々のメタン発酵方法を適用することができるが、本発明では通常のメタン発酵法に代えて、固定床担体によるメタン発酵法を適用することもできる。一般に、固定床担体によるメタン発酵工程は、処理液中に固形成分が存在する場合は完全混合方式となる。しかしながら、上述の構成において得られた可溶化処理物は、固定床担体法で必要とされる水処理期間にわたって安定して流動性が維持されるため、固定床担体による高いメタン発酵効率を有効に発揮させられる。
【0023】
〔構成6〕
また、上記目的を達成するための固形有機物の処理装置の特徴構成は、固形有機物を含む処理液を60℃以上に加熱する加熱部を備えた可溶化槽を備えるとともに、前記処理液を破砕して微細化するカッターポンプを備えた微細化処理部を備え、
分散化した分散化処理物を担体メタン発酵法によりメタン発酵するメタン発酵部を備えた点にある。
【0024】
〔作用効果6〕
上記構成によると、前記可溶化槽において分散化工程における予備処理ステップを行うことができる。この予備処理ステップを行った処理液を前記処理液を破砕して微細化するカッターポンプを備えた微細化処理部に供すると、前記微細化処理部では、微細化処理ステップが行える。そのため、可溶化槽と微細化処理部により効率よく分散化工程を行うことができる。
【0025】
分散化工程で分散化した処理液を前記メタン発酵部に供すると前記分散化処理液をメタン発酵することができ、生ごみやコーヒー粕由来の有機物からメタンガスを生成することができる。
【0026】
従って生ごみやコーヒー粕を効率よくメタン発酵させてエネルギー変換することができるようになった。
【0027】
〔構成7〕
また、上記構成においては、前記カッターポンプが、流量50〜500L/min、歯の回転数500〜2000rpm程度、固定歯(グリッド)のスリット幅0.5〜2.0mmであることが好ましい。
【0028】
〔作用効果7〕
上記構成4に記載のように、分散化処理液は、完全にエマルジョン化して、長時間にわたって沈澱物が生じず、スラリー状を維持できることが望ましい。このような微細化処理はカッターポンプの処理能力を適正化することによって実現することができ、生ごみやコーヒー粕を生ごみにおいては液中固形成分において粒径0.25mm以下が70%以上、コーヒー粕においては液中固形成分において粒径1mm以上が10%以下のスラリー状にまで微細化するためには、流量50〜500L/min程度、歯の回転数500〜2000rpm程度、固定歯(グリッド)のスリット幅0.5〜2.0mm程度であるカッターポンプを用いることにより、生ごみやコーヒー粕含有排水を効率的に所望の液性を備えた微細化処理液に変換することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の処理方法によれば、固形有機物を効率よくかつ十分に分散化することができ、固形有機物を利用したメタン発酵を連続的に行えるようになった。
【0030】
また、本発明の処理方法は、従来可溶化しにくくバイオガス化効率が低かった生ごみやコーヒー粕を、十分に効率的にエネルギーに変換できるため、資源の有効利用の観点からも、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の固形有機物の処理方法のフローの一例を示す図である。
【図2】カッターポンプの概略図である。
【図3】カッターポンプの要部拡大図である。
【図4】コーヒー粕の微細化処理ステップの効果(破砕コーヒー粕の沈降速度)を示す図である。
【図5】生ごみの微細化処理ステップの効果(破砕生ごみの沈降速度)を示す図である。
【図6】コーヒー粕の微細化処理ステップの効果(破砕コーヒー粕の粒度分布)を示す図である。
【図7】生ごみの微細化処理ステップの効果(破砕生ごみの粒度分布)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の固形有機物の処理方法および固形有機物の処理装置の実施形態を説明する。なお、以下に示す実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0033】
本発明の固形有機物の処理装置は、図1に示すように、生ごみやコーヒー粕をメタン発酵汚泥と混合して処理液として受ける可溶化槽1と、カッターポンプ20を備えた微細化処理部2と、メタン発酵槽30からなるメタン発酵部3を備える。前記可溶化槽1で分散化工程における予備処理ステップを主に行い、前記微細化処理部2で分散化工程における微細化処理ステップを行い、前記メタン発酵部3でメタン発酵工程を行う。
【0034】
前記可溶化槽1は、混合槽10からなり、前記混合槽10には、上部に処理液供給部からの生ごみやコーヒー粕を受け入れる受入路L1が接続されるとともに、処理液のうち分散化した画分をメタン発酵部3に移送する移送路L2を接続して備える。また、前記可溶化槽1の底部には、処理液中の生ごみやコーヒー粕の固形分に富む画分を引き抜き、微細化処理部2に導く引抜路L3を備える。また、前記嫌気発酵槽には内部の処理液を60℃〜80℃に加熱する加熱部11を備える。
【0035】
加熱部11における加熱には、重油、都市ガス、電力等をエネルギー源として利用してもよいが、後述するメタン発酵工程で発生するメタンガスを用いて、熱と電力を得るコジェネレーション手段(ガスエンジン、燃料電池等)により得られる排熱を利用することが望ましい。
【0036】
前記微細化処理部2は、カッターポンプ20を備え、前記引抜路L3から前記可溶化槽1の内部の処理液中の固形分に富む画分を受け入れる吸込部20aを備えるとともに、吸込部20aから流入した処理液を、粉砕微細化する回転刃21を備え、前記回転刃により微細化されたコーヒー粕を含む処理液を吐出する吐出部20bを備える。
【0037】
前記カッターポンプ20は、図2、図3に示すように、ポンプ羽根車軸と同軸で回転する回転刃21とケーシング22に固定された固定刃23および回転刃21に対向して設けられるグリッド24を備えており、回転刃21は固定刃23およびグリッド24と隙間狭く接近して回転し、この回転刃21と固定刃23およびグリッド24により、コーヒー粕(固形物)を処理液と共に吸込部20aから吸い込まれる固形分を破砕しつつ吐出部20bから吐出可能に構成されている。
【0038】
これにより、例えば、固定歯(グリッド)のスリット24aの幅を0.5〜2.0mm程度としてあると、生ごみにおいては液中固形成分において粒径0.25mm以下が50%以上、コーヒー粕においては液中固形成分において粒径1mm以上が20%以下の処理液を、流量50〜500L/min程度、歯の回転数500〜2000rpm程度で処理することにより、生ごみにおいては液中固形成分において粒径0.25mm以下が70%以上、コーヒー粕においては液中固形成分において粒径1mm以上が10%以下のスラリーになる程度まで微細化することができる。この際、微細化しにくい生ごみにおいては、可溶化槽温度を80℃程度にすることで、より高い粉砕効果を得ることができる。
【0039】
前記吐出部20bから吐出された処理液は、前記可溶化槽1の上部に接続される返送路L4より可溶化槽1に戻され、さらに、可溶化槽1の内部での滞留期間中に加熱部11による熱と、嫌気処理による可溶化が行われる。
処理液中の生ごみやコーヒー粕の可溶化処理は、生ごみやコーヒー粕とメタン発酵汚泥またはその液体画分との共存下、即ちこれらを混合した状態で加熱処理することにより行われる。生ごみやコーヒー粕と、メタン発酵汚泥またはその液体画分との混合比については、特に制限されるものではないが、生ごみやコーヒー粕の乾燥重量100重量部当たり、メタン発酵汚泥またはその液体画分を10〜1000重量部、好ましくは50〜400重量部、さらに好ましくは100〜150重量部が例示される。
【0040】
なお、前記微細化処理部2では、カッターポンプ20から吐出される処理液を、一旦可溶化槽1に返送した後、可溶化した画分を移送路L2より移送する構成とし、処理液が可溶化槽1の内部で十分可溶化されるのに必要な処理液の滞留時間を確保する構成としたが、これに限るものではない。カッターポンプ20から吐出される処理液が、常時メタン発酵工程に供して支障ない程度に十分分散化できているのであれば、可溶化槽1に返送することなく直接後続のメタン発酵工程に供しても良く、カッターポンプ20から吐出される処理液と、前記可溶化槽で可溶化済みの処理液とを所定割合で混合して後続のメタン発酵工程に供しても良い。要するに分散化工程からメタン発酵工程に移される処理液中の生ごみやコーヒー粕成分が、メタン発酵工程に悪影響を生じにくい程度に微細化、流動化されていればよい。
【0041】
可溶化処理時の温度条件については、60℃以上であればよいが、生ごみやコーヒー粕の可溶化効率をさらに向上させるには、好ましくは70〜95℃程度、さらに好ましくは70〜80℃程度があげられる。メタン発酵汚泥には、固形物を分解する可溶化菌、酸発酵菌と、有機酸をメタン化するメタン細菌が含まれる。一般的に、60℃以上の温度条件ではメタン細菌は生育できないため、60℃以上の温度条件によって行われる可溶化処理では、メタン発酵汚泥またはその液体画分中のメタン細菌以外の微生物(可溶化菌、酸発酵菌)または物質によって、生ごみやコーヒー粕の可溶化が行われると考えられる。
【0042】
また、可溶化処理時の加熱時間としては、生ごみやコーヒー粕とメタン発酵汚泥またはその液体画分との混合比、加熱温度等に応じて適宜設定されるが、例えば、1〜72時間、好ましくは4〜48時間、さらに好ましくは12〜24時間が例示される。
【0043】
これにより処理液は可溶化処理を受けて性状が生ごみにおいては液中固形成分において粒径0.25mm以下が70%以上、コーヒー粕においては液中固形成分において粒径1mm以上が10%以下のスラリーなり、生ごみやコーヒー粕に含まれる固形有機物が、メタン発酵可能な程度にまで低分子化され、可溶化されるとともに、上向流式のメタン発酵処理を長時間にわたって行ったとしても、固形分の沈殿が観測されない程度に十分可溶化された状態になっている。
【0044】
前記メタン発酵部3は、内部に嫌気性微生物を主体とする汚泥を保持する担体を備えるとともに、可溶化槽1から排出された処理液を分散供給する処理液供給部31を備える。これにより、導入される処理液の上向流が形成される。担体の形状は繊維状、布状、板状、キューブ状、球状等どのような形態でもよく、また材質も樹脂、炭素繊維等の中から好適なものを選択すればよい。
【0045】
これにより被処理液は、メタン発酵槽内で下部から順に可溶化、酸発酵、メタン化のプロセスを順に受ける。担体上には各プロセスを担当する微生物で優占されるため、反応効率が高くなる。生ごみやコーヒー粕についてセルロース、たんぱく質や脂質の部分分解や可溶化がなされ、メタン発酵を受け、COD換算1kgあたり200〜350m3のメタンガスを生産でき、生産されたメタンガスは回収・利用される。またメタン発酵部3からの処理液排水は5000〜20000mgCOD/L程度の排水となり外部に放出される。
【0046】
前記メタン発酵部3からオーバーフローした処理液排水の一部は、希釈路L6を介して前記可溶化槽1に返送供給される。これにより、前記可溶化槽1に供給される生ごみやコーヒー粕を含有する処理液は希釈される。
希釈路L6を介して前記可溶化槽1に返送供給される処理液排水は、前記可溶化槽1に供給される生ごみやコーヒー粕含有排水の乾燥重量の5〜50倍相当量、好ましくは10〜20倍相当量とする。つまり、生ごみやコーヒー粕含有排水が、メタン発酵工程後の処理液の液体画分と共に返送供給されるメタン発酵菌またはこれを含むメタン発酵汚泥と混合されて嫌気的に処理される。希釈する処理液排水の量が上記範囲よりも低い場合には、メタン発酵により生じる発酵阻害物によってメタン発酵の進行が阻害され、処理液排水の量が上記範囲よりも多い場合には、メタン細菌の栄養源の濃度が低くなりメタン発酵の進行が遅くなる。
【0047】
可溶化処理物を希釈する処理液排水としては、メタン発酵に悪影響を及ぼすものでない限り、特に制限されないが、例えば、水道水、工場排水、生物学的排水処理施設からの余剰汚泥(活性汚泥)または処理液等があげられ、好ましくは上記処理液排水が好適に使用され、可溶化の促進に寄与するとともに、廃棄される処理液排水量を削減できる。
【0048】
可溶化槽1への可溶化処理物および処理液排水の供給は、可溶化処理物と処理液排水を個別に可溶化槽1に供給する方法;可溶化槽1の前段で予め可溶化処理物と処理液排水とを混合したものを投入する方法等、適宜慣用されている方法を採用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1
コーヒー粕2kg(乾燥重量)にメタン発酵排水15Lを混合して模擬被処理液を調整した。前記模擬被処理液を、80℃で2日間加温して予備処理ステップを行うとともに、カッターポンプ20(ハクスバーナゼノア製KD50)で粉砕し微細化処理ステップを行った。
【0051】
コーヒー粕は清涼飲料水工場の製造ラインから排出されたものを用いた。
メタン発酵排水としては、コーヒー粕を連続的に処理している高温メタン発酵槽汚泥を用いた。この処理液排水には、Methanosarcina, Methanococcus等のメタン発酵菌が生育している。
粉砕は、模擬被処理液を収容するタンクから模擬被処理液をカッターポンプ20により引き抜き、破砕された模擬被処理液を前記タンクに返送循環する方法とした。
この循環条件としては、模擬被処理液が、カッターポンプ20を1から20回通過する線速度、流通時間とした。
【0052】
その結果、図4に示すように、予備処理ステップののち微細化処理ステップを行って得られた処理液は完全なスラリー状態となり、20日間放置しても、沈降物はなかった。処理液に10倍体積の高温メタン発酵汚泥を加え、嫌気条件55℃で加温したところ、14日後に投入コーヒー粕の70%がバイオガス化した。
【0053】
比較例1
上記実施例において、コーヒー粕2kgにメタン発酵排水15Lを混合した模擬被処理液をカッターポンプ20(ハクスバーナゼノア製KD50)で粉砕する微細化処理ステップに供した。上記実施例と同様の条件で微細化処理ステップを行ったところ、図4に示すように、処理液は完全なスラリー状態となり、20日間放置しても、沈降物はなかった。また、破砕物に10倍体積の高温メタン発酵汚泥を加え、嫌気条件55℃で加温したところ、14日後に投入コーヒー粕の60%がバイオガス化するにとどまった。
【0054】
比較例2
コーヒー粕2kgに水15gを混合した模擬被処理液をカッターポンプ20(ハクスバーナゼノア製KD125)で粉砕した。上記実施例と同様の条件で微細化処理ステップを行ったところ、図4に示すように、粉砕回数が10回までは、破砕物の沈降速度は1.7〜1.8m/日であった。また、破砕物に10倍体積の高温メタン発酵汚泥を加え、嫌気条件55℃で加温したところ、14日後に投入コーヒー粕の50%がバイオガス化するにとどまった。
【0055】
まとめ1
実施例1、比較例1,2におけるカッターポンプ20(破砕ポンプ)によって破砕されたコーヒー粕の粒度分布を調べたところ、図6のようになった。
コーヒー粕に水を加えて粉砕した場合(図6(a)、比較例2に相当)、粒径1mm以上の粒子の存在比率が破砕3回まではほとんど下がらず、その後少しずつ減少している。これに比べ、汚泥を加えた場合(図6(b)、比較例1に相当)、および汚泥を加えて可溶化した場合(図6(c)、実施例1に相当)は、破砕回数1回でも粒径1mm以上の存在比率が半減しており、さらに、可溶化したのちに破砕したものについては、この傾向がさらに顕著である。
従って、コーヒー粕については、粒径1mm以上の存在比率が低下することにより、全体として沈降しない状況となっていることが推察される。
【0056】
本結果から、脂質を多く含むコーヒー粕の場合は、メタン発酵液と混合して行うことにより、コーヒー粕を沈降しない状況とできることがわかった。また、メタン発酵処理に先立って予備処理ステップおよび微細化処理ステップを行った場合は、さらに効率よくメタン発酵を行うことができ、コーヒー粕を処理することが出来るとともにバイオガスを生産することができることがわかった。
【0057】
実施例2
生ごみ1kg(乾燥重量)にメタン発酵排水10Lを混合して模擬被処理液を調整した。前記模擬被処理液を、80℃で2日間加温して予備処理ステップを行うとともに、カッターポンプ20(ハクスバーナゼノア製KD125)で粉砕し微細化処理ステップを行った。
【0058】
生ごみは下記組成の人工生ごみを用いた。
魚あら9%、たまねぎ皮12%、いも皮15%、白菜7%、オレンジ皮16%、バナナ皮9%、キャベツ1.5%、ジャガイモ1.5%、ニンジン1.5%、大根1.5%、ご飯3%、食パン3%、中華麺3%、コーヒー粕8%、茶滓9%(いずれも乾燥重量比)
【0059】
メタン発酵排水としては、生ごみを連続的に処理している高温メタン発酵槽汚泥を用いた。この処理液排水には、Methanosarcina, Methanococcus等のメタン発酵菌が生育している。
粉砕は、模擬被処理液を収容するタンクから模擬被処理液をカッターポンプ20により引き抜き、破砕された模擬被処理液を前記タンクに返送循環する方法とした。
この循環条件としては、模擬被処理液が、カッターポンプ20を1から20回通過する線速度、流通時間とした。
【0060】
その結果、図5に示すように、予備処理ステップののち微細化処理ステップを行って得られた処理液は、完全なスラリー状態となり、20日間放置しても、沈降物はなかった。処理液に10倍体積の高温メタン発酵汚泥を加え、嫌気条件55℃で加温したところ、14日後に生ごみの90%がバイオガス化した。
【0061】
比較例3
上記実施例において、生ごみ1kgにメタン発酵排水10Lを混合した模擬被処理液をカッターポンプ20(ハクスバーナゼノア製KD125)で粉砕する微細化処理ステップに供した。上記実施例と同様の条件で微細化処理ステップを行ったところ、図5に示すように、破砕物の沈降速度は1.3〜1.5m/日であった。高さ5mのメタン発酵槽に滞留時間5日で被処理物を投入することを想定すると、槽内での線速度は1m/日となるため、本沈降速度では投入物中のSSは沈降してしまう。破砕物に10倍体積の高温メタン発酵汚泥を加え、嫌気条件55℃で加温したところ、14日後に投入コーヒー粕の70%がバイオガス化するにとどまった。
【0062】
比較例4
生ごみ1kgに水10gを混合した模擬被処理液をカッターポンプ20(ハクスバーナゼノア製KD125)で粉砕した。上記実施例と同様の条件で微細化処理ステップを行ったところ、図5に示すように、粉砕回数が10回までは、破砕物の沈降速度は4〜12m/日であった。また、破砕物に10倍体積の高温メタン発酵汚泥を加え、嫌気条件55℃で加温したところ、14日後に投入生ごみの70%がバイオガス化するにとどまった。
【0063】
まとめ2
実施例2、比較例3,4におけるカッターポンプ20(破砕ポンプ)によって破砕された生ごみの粒度分布を調べたところ、図7のようになった。
生ごみに水を加えて粉砕した場合(図7(a)、比較例4に相当)、粒径0.5mm以上の粒子の存在比率(1mm以上と0.5−1.0mmの合計)が破砕3回まではほとんど下がらず、その後少しずつ減少している。これは破砕回数1、3回を除き、図5における沈降速度の傾向とほぼ一致する。また、汚泥を加えた場合(図7(b)、比較例3に相当)、粒径0.5mm以上の存在比率が破砕回数1回で30%程度、破砕回数10回で20%程度と減少している。ただし、この割合では沈降速度はある程度までしか減少しないものと推察される。これに比べ、可溶化したのちに破砕したもの(図7(c)、実施例2に相当)については、破砕回数1回でも粒径0.5mm以上の存在比率が20%以下となっており、この状態になると沈降速度が著しく低下するものと思われる。
【0064】
本結果から、脂質等SSをエマルジョン状態とするものを多く含まない生ごみの場合は、メタン発酵液と混合して行っても、沈降速度を十分に低下することはできず、予備処理ステップを行うことにより、沈降速度を十分に低下できることがわかった。また、メタン発酵処理に先立って予備処理ステップおよび微細化処理ステップを行った場合は、さらに効率よくメタン発酵を行うことができ、生ごみを処理することが出来るとともにバイオガスを生産することができることがわかった。
【符号の説明】
【0065】
1 :可溶化槽
2 :微細化処理部
3 :メタン発酵部
10 :混合槽
11 :加熱部
20 :カッターポンプ
20a :吸込部
20b :吐出部
21 :回転刃
22 :ケーシング
23 :固定刃
30 :メタン発酵槽
30a :グラニュール
31 :処理液供給部
32 :オーバーフロー部
33 :分離板
100 :乾燥重量
L1 :受入路
L2 :移送路
L3 :引抜路
L4 :返送路
L5 :処理液循環路
L6 :希釈路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形有機物を、メタン発酵汚泥と混合したうえでカッターポンプにより破砕して微細化する微細化処理ステップを含む分散化工程を行い、分散化した分散化処理物をメタン発酵するメタン発酵工程を行う固形有機物の処理方法。
【請求項2】
前記分散化工程に、嫌気的に処理する予備処理ステップを含む請求項1記載の固形有機物の処理方法。
【請求項3】
前記予備処理ステップを、前記固形有機物を60℃以上に加熱して行う請求項2記載の固形有機物の処理方法。
【請求項4】
前記分散化処理物が、液中固形成分において粒径0.25mm以下が70%以上のスラリー状の生ごみ、あるいは、液中固形成分において粒径1mm以上が10%以下のスラリー状のコーヒー粕である請求項1〜3のいずれか一項に記載の固形有機物の処理方法。
【請求項5】
前記メタン発酵工程を、担体メタン発酵法により行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の固形有機物の処理方法。
【請求項6】
固形有機物を含む処理液を60℃以上に加熱する加熱部を備えた可溶化槽を備えるとともに、前記処理液を破砕して微細化するカッターポンプを備えた微細化処理部を備え、
分散化した分散化処理物を担体メタン発酵法によりメタン発酵するメタン発酵部を備えた固形有機物の処理装置。
【請求項7】
前記カッターポンプが、流量50〜500L/min、歯の回転数500〜2000rpm程度、固定歯(グリッド)のスリット幅0.5〜2.0mmである請求項6に記載の固形有機物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−217900(P2012−217900A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84751(P2011−84751)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】