説明

固形物生成評価装置及び固形物生成の評価方法

【課題】ターボチャージャや熱処理装置等におけるデポジットの生成に関する評価を行うことのできる固形物生成評価装置及び固形物生成の評価方法を提供する。
【解決手段】本発明の固形物生成評価装置100は、評価液体Lを貯留すると共に評価液体Lを気化させる気化部1と、試験片T(TR)を密閉空間内に保持しつつ試験片T(TR)を加熱する加熱炉4と、気化した評価液体Lを加熱炉4に向けて流入させる気体を供給する気体供給部2とを有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形物生成評価装置及び固形物生成の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンやターボチャージャ等の駆動装置、又は焼き入れ処理や浸炭処理等を行う熱処理装置には、装置の作動に伴い擦動する箇所が存在するため、該擦動箇所を潤滑するための潤滑油(潤滑剤)が上記装置に供給されている。
ここで、上記装置の内部は高温(例えば、600℃等)となっているため、供給された潤滑油(エンジンやターボチャージャ等においては燃料等も含む)は熱によって変質・炭化し、デポジットと呼ばれる固形物が生成されていた。このデポジットは、装置の性能を低下させるだけでなく、多大なメンテナンスを強いられることから、その生成量を抑制することが求められている。
【0003】
デポジットの生成量を抑制するためには、デポジットに変質しにくい潤滑油等の開発やデポジットが生成して付着していた箇所における材質・表面処理の改善等が考えられる。そして、このような開発を進めていくためには、様々な条件の下でデポジットの生成に関する評価を行う必要がある。もっとも、上記の実際の装置をデポジットの生成に関する評価に用いることは、手間やコストが掛かり適当でない。
そこで、特許文献1には、潤滑油等の評価液体を加熱した試験パネルに連続して付着させ、試験パネル上にデポジットを生成することのできる評価装置が開示されている。この評価装置を用いることで、実際の装置を用いることなくデポジットの生成に関する評価を行うことができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−23736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような課題が存在する。
従来の評価装置は、潤滑油等の評価液体を液状のまま高温の試験パネルに撥ねかけて、試験パネル上にデポジットを生成していた。一方、ターボチャージャや熱処理装置の内部では潤滑油等は熱により気化しており、気化した潤滑油等が高温の部材の表面に付着することでデポジットが生成されていた。すなわち、従来の評価装置とターボチャージャ等の装置との間では、デポジットの生成状況が異なっていた。
【0006】
また、従来の評価装置を用いて生成されるデポジットの組成は、カーボンだけでなく有機化合物も多く含まれたものであり、その状態は、ゲル状で有機溶剤等を用いて容易に除去できるものであった。一方、ターボチャージャ等の装置で生成されるデポジットの組成は、カーボンや酸化バナジウム等の無機物により構成され、その状態は、硬く固着し水噴射や有機溶剤等を用いても容易には除去できないものであった。
【0007】
以上のように、従来の評価装置とターボチャージャ等の実際の装置との間では、デポジットの生成状況も、生成されるデポジットの組成及び状態も共に異なるものである。そのため、従来の評価装置を用いてターボチャージャや熱処理装置等におけるデポジットの生成に関する評価を行うことが難しいという課題があった。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、ターボチャージャや熱処理装置等におけるデポジットの生成に関する評価を行うことのできる固形物生成評価装置及び固形物生成の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の固形物生成評価装置は、評価液体を貯留すると共に評価液体を気化させる気化部と、試験片を密閉空間内に保持しつつ試験片を加熱する加熱炉と、気化した評価液体を加熱炉に向けて流入させる気体を供給する気体供給部とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、まず気化部に貯留された液状の評価液体が気化する。次に、気体供給部から供給された気体により、気化した評価液体が加熱炉に向かって流入される。さらに、気化した評価液体が加熱炉によって加熱された試験片の表面に付着し、試験片の表面に評価液体の気化成分による固形物が生成される。
【0010】
また、本発明の固形物生成評価装置は、気化部が、液状の評価液体を加熱する加熱部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、気化部に貯留された液状の評価液体は、加熱部の加熱により気化する。
【0011】
また、本発明の固形物生成評価装置は、加熱部が、加熱炉での加熱温度よりも低い温度で評価液体を加熱するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、加熱部の加熱によって、加熱炉に達する前に評価液体が劣化して増粘化することが防止される。
【0012】
また、本発明の固形物生成評価装置は、気体供給部が、気化部内に貯留された液状の評価液体中に気体を供給するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、液状の評価液体中に気体が供給されるために、評価液体が攪拌され、且つ評価液体の気化が促進される。
【0013】
また、本発明の固形物生成評価装置は、気体供給部が、気体の供給量を調整する調整部を備えるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、気体の供給量を調整することで、気化した評価液体の流量及び流速が調整される。そのため、試験片の表面に生成される固形物の生成速度が調整される。
【0014】
また、本発明の固形物生成評価装置は、気体供給部が複数種類の気体を供給し、調整部が複数種類の気体の供給量をそれぞれ調整するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、気体供給部から供給された気体は加熱炉の密閉空間内に流入しており、試験片の周囲の雰囲気を、複数種類の気体のうち所定の気体雰囲気に設定することが可能となる。また、調整部により、複数種類の気体の混合比率を調整することも可能となる。
【0015】
また、本発明の固形物生成評価装置は、気化した評価液体及び気体を気化部から加熱炉まで供給する供給管と、供給管の内部を加熱する第2加熱部とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、供給管の内部が第2加熱部により加熱されているため、気化した評価液体が冷却されて供給管内で凝縮することが防止される。
【0016】
また、本発明における固形物生成の評価方法は、評価液体を気化させる気化工程と、気化した評価液体を流動させる気体を供給する気体供給工程と、密閉空間内に保持された試験片を加熱する加熱工程と、気化した評価液体を試験片に向けて衝突させ試験片の表面に評価液体による固形物を生成する工程と、固形物の生成に関する情報を計測する工程とを有するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、まず気化工程で評価液体が気化する。次に、気体供給工程で供給された気体により、気化した評価液体が試験片に向けて流動し始める。これらと同時に、加熱工程では試験片が加熱される。さらに、試験片に向けて流動している、気化した評価液体が加熱された試験片の表面に衝突し、試験片の表面に評価液体による固形物が生成される。最後に、固形物の生成に関する情報が計測され、固形物生成の評価がなされる。
【0017】
また、本発明における固形物生成の評価方法は、気化工程では、評価液体を加熱により気化させるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、液状の評価液体は加熱により気化する。
【0018】
また、本発明における固形物生成の評価方法は、気化工程では、加熱工程での加熱温度よりも低い温度で評価液体を加熱するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、気化工程での加熱によって、試験片に達する前に評価液体が劣化して増粘化することが防止される。
【0019】
また、本発明における固形物生成の評価方法は、気体供給工程では、気体を液状の評価液体中に供給するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、液状の評価液体中に気体が供給されるために、評価液体が攪拌され、且つ評価液体の気化が促進される。
【0020】
また、本発明における固形物生成の評価方法は、気体の供給量を調整する調整工程を有するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、調整工程で気体の供給量が調整されることから、気化した評価液体の流量及び流速が調整される。そのため、試験片の表面に生成される固形物の生成速度が調整される。
【0021】
また、本発明における固形物生成の評価方法は、気体供給工程では複数種類の気体を供給し、調整工程では複数種類の気体の供給量をそれぞれ調整するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、気体供給工程で供給された気体は試験片が保持された密閉空間内に流入しており、試験片の周囲の雰囲気を、複数種類の気体のうち所定の気体雰囲気に設定することが可能となる。また、調整工程において複数種類の気体の混合比率を調整することも可能となる。
【0022】
また、本発明における固形物生成の評価方法は、気化した評価液体が密閉空間に達する前に、気化した評価液体を加熱する工程を有するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、気化した評価液体が加熱されているため、密閉空間に達する前に、気化した評価液体が冷却されて凝縮することが防止される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、ターボチャージャや熱処理装置等と同様の生成状況でデポジット(固形物)を生成でき、同様の組成及び状態を有するデポジットを生成することができる。したがって、本発明によれば、ターボチャージャや熱処理装置等におけるデポジットの生成に関する評価を、実際の装置を用いることなく行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】固形物生成評価装置100の全体構成図である。
【図2】不活性雰囲気で生成されたデポジットの組成を示すグラフである。
【図3】酸素雰囲気で生成されたデポジットの組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の固形物生成評価装置及び固形物生成の評価方法における実施の形態を、図1から図3を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0026】
図1は、本実施形態に係る固形物生成評価装置100の全体構成図である。
固形物生成評価装置100は、潤滑油や燃料等の評価液体からデポジット(固形物)を生成し、その生成に関する評価を行うための装置であって、気化部1と、気体供給部2と、供給管3と、加熱炉4と、排ガス処理部5とを有している。
【0027】
気化部1は、潤滑油や燃料等の評価液体Lを貯留すると共に、評価液体Lを気化するものであって、液体貯留部11と、第1温度センサ12と、第1ヒータ(加熱部)13と、第1温度制御部14とを有している。
【0028】
液体貯留部11は、評価液体Lを貯留するための容器であり、耐熱性(例えば、300℃以上)を有する耐熱ガラスを用いて形成され、上下方向で分離可能なセパラブルフラスコである。液体貯留部11の上部には吐出口11aが設けられており、この吐出口11aは後述する供給管3に接続されている。
【0029】
液体貯留部11に貯留される評価液体Lとしては、ターボチャージャや熱処理装置(共に図示せず)における擦動箇所を潤滑するための潤滑油、エンジン(図示せず)で燃焼される燃料、又はそれらを混合した液体等が用いられる。燃料としては、ガソリン、軽油又は重油等が用いられる。
【0030】
第1温度センサ12は、液体貯留部11内に貯留された評価液体Lの温度を計測するための計測器であり、評価液体L中に設置されている。また、第1温度センサ12は、後述する第1温度制御部14に電気的に接続されている。
第1ヒータ(加熱部)13は、液体貯留部11を介してその内部に貯留された評価液体Lを加熱するものであって、液体貯留部11であるフラスコの下部外面に接触して設けられるマントルヒータである。また、第1ヒータ13は、第1温度制御部14に電気的に接続されている。
【0031】
第1温度制御部14は、第1ヒータ13の温度を制御することで評価液体Lの温度を調整する制御部である。この第1温度制御部14は、予め設定された評価液体Lの温度設定値を保持している。温度設定値には、評価液体Lが気化でき且つ評価液体Lを熱劣化させない範囲の温度が選択され、本実施形態での温度設定値は100℃から150℃の範囲内で設定されている。
【0032】
気体供給部2は、気化部1の液体貯留部11内に気体を供給するものであって、複数のボンベ21と、複数のバルブ(調整部)22と、管部23と、気体供給ノズル24と、流量制御部(調整部)25とを有している。
【0033】
複数のボンベ21は、複数種類の気体をそれぞれ高圧状態で収容する容器である。ボンベ21に収容される気体としては、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は酸素や空気等が用いられる。
複数のバルブ(調整部)22は、各ボンベ21の気体の吐出口に各々接続されており、各ボンベ21から吐出される気体の流量を調整するための開閉弁である。複数のバルブ22は、後述する流量制御部25に電気的に接続されている。
【0034】
管部23は、複数のバルブ22と気体供給ノズル24との間に設けられる管体である。管部23は、複数のバルブ22にそれぞれ接続された各管が順次集約されて1本の管となっている。
気体供給ノズル24は、液体貯留部11内に気体を供給するノズルである。気体供給ノズル24の先端には供給口24aが設けられ、供給口24aは液体貯留部11内に貯留された評価液体Lの内部に没入している。また、供給口24aは、液体貯留部11の底部近傍に設置されている。
流量制御部(調整部)25は、予め設定された各気体の流量設定値に基づいて、各気体の流量を制御するための制御部である。
【0035】
供給管3は、気化部1から加熱炉4まで流体を移動させるものであって、第2管部31と、第2温度センサ32と、第2ヒータ(第2加熱部)33と、第2温度制御部34とを有している。
第2管部31は、液体貯留部11の吐出口11aと、後述する加熱炉4の第3管部41との間に設けられており、ステンレス製のフレキシブルチューブが用いられている。
第2温度センサ32は、第2管部31の外周面に接触して設けられており、第2温度制御部34に電気的に接続されている。
【0036】
第2ヒータ(第2加熱部)33は、第2管部31をその外周面から加熱するためのヒータである。第2ヒータ33は、リボン状のヒータであり、第2管部31の外周面に巻回され且つ第2管部31の全長に亘って隙間なく設けられている。第2ヒータ33は、第2温度制御部34に電気的に接続されている。
【0037】
第2温度制御部34は、予め設定された第2管部31の温度設定値、及び第2温度センサ32から出力される現在の第2管部31の温度に基づいて、第2ヒータの温度を制御する制御部である。本実施形態での温度設定値は150℃から250℃の範囲内で設定されている。
【0038】
加熱炉4は、気化した評価液体Lを付着させるための試験片Tを、密閉空間内で加熱するものであって、第3管部41と、第3温度センサ42と、第3ヒータ43と、第3温度制御部44とを有している。
第3管部41は、その内部に複数の試験片Tを設置するための管体であって、耐熱性(例えば、700℃等)を有する石英を用いて形成されている。第3管部41の一端部は供給管3に接続され、他端部は後述する排ガス処理部5に接続されており、それらの接続箇所以外では第3管部41は気密に保持されている。
【0039】
第3管部41内に設置される複数の試験片Tは、その表面にデポジットを生成させるためのものである。デポジットの生成を抑える効果のある材質や表面処理を評価するために、複数種類の材質及び表面処理の試験片Tが用いられる。
なお、材質や表面処理等の評価を行う場合には、複数の試験片Tのうち少なくとも1つはリファレンス用の試験片TRとする。このリファレンス用試験片TRの材質は例えばステンレスであり、表面処理も一定ものが用いられている。
【0040】
第3温度センサ42は、第3管部41の温度を計測する計測器であり、第3温度制御部44に電気的に接続されている。
第3ヒータ43は、第3管部41の外周面に接して設けられており、第3管部41を介して複数の試験片T(TR)を加熱するためのヒータである。第3ヒータ43は、第3温度制御部44に電気的に接続されている。
【0041】
第3温度制御部44は、第3管部41を所定の温度に維持するための温度制御部である。第3温度制御部44は、予め設定された第3管部41の温度設定値を保持している。この温度設定値には、第3管部41内で加熱された試験片Tの表面に気化した評価液体Lが付着したときに、評価液体Lが変質・炭化できる温度が設定され、本実施形態では300℃から700℃の範囲内で設定されている。
【0042】
排ガス処理部5は、第3管部41から排出された気体(試験片Tに付着しなかった気化した評価液体Lを含む)を浄化する処理部である。
【0043】
なお、上述した第1温度制御部14、流量制御部25、第2温度制御部34及び第3温度制御部44は、いずれもその作動時間を制御するためのタイマーを有しており、所定の時間で固形物生成評価装置100を作動させることができる。
【0044】
続いて、上述した固形物生成評価装置100を用いて、潤滑油や燃料等の評価液体からデポジットを生成する方法、及びデポジット生成の評価方法について説明する。
【0045】
まず、気化部1の液体貯留部11に、潤滑油、燃料、又はそれらを混合した評価液体Lを貯留する。また、気体供給部2のボンベ21に、気化部1に供給するための気体を収容し、加熱炉4の第3管部41内に、複数の試験片T(TR)を設置する。
【0046】
次に、気化部1において評価液体Lを気化させる。
第1温度制御部14は、予め設定された評価液体Lの温度設定値を保持している。この温度は、100℃から150℃の範囲で設定される。なお、この設定温度値は、加熱炉4内の温度よりも低く設定されており、且つ評価液体Lが加熱により劣化及び増粘化しない範囲の温度に設定されている。これにより、気化部1での評価液体Lの劣化及び増粘化を防ぐことができる。
【0047】
第1温度センサ12は、評価液体Lの現在の温度を計測し、計測結果を第1温度制御部14に出力する。第1ヒータ13は、第1温度制御部14から出力される電気的指示を受けて発熱し、液体貯留部11を介して評価液体Lを加熱する。第1温度制御部14は、第1温度センサ12の計測結果及び評価液体Lの温度設定値に基づいて、第1ヒータ13の温度を制御する。結果として、評価液体Lは加熱され予め設定された温度に維持される。
評価液体Lは、加熱により気化する。
【0048】
次に、気体供給部2が、気化部1に気体を供給する。
複数のボンベ21に、気化部1に供給するための気体、例えば窒素、アルゴン、一酸化窒素、二酸化硫黄、空気又は酸素等が各々収容される(図1では、3種の気体を3個のボンベにそれぞれ収容した場合を図示したが、気化部1に供給する気体の種類により、ボンベの数は適宜変更してよい)。なお、単一の気体のみを用いてもよい。
流量制御部25が各バルブ22の開度を制御し、各ボンベ21から吐出されるそれぞれの気体の流量を調整する。ボンベ21からはバルブ22の開度に応じた流量で気体が吐出され、該気体は管部23に導入される。
複数の気体を用いている場合には、各ボンベ21から吐出された気体は管部23で集約され混合される。また、流量制御部25は、各ボンベ21から吐出されるそれぞれの気体の流量を制御することで、各気体の混合比率を調整することもできる。
【0049】
管部23内の気体は、気体供給ノズル24に向かって流入し、気体供給ノズル24の供給口24aから評価液体L内に供給される。供給口24aは液体貯留部11の底部近傍に設けられているため、評価液体L内に供給された気体は液体貯留部11の底部近傍から評価液体Lの液面に向かって上昇して流動する。この気体の流動により評価液体Lは攪拌され、気体の気泡が液面にて破裂することで評価液体Lの気化が促進される。気化した評価液体Lは、液体貯留部11の吐出口11aから気体と共に吐出され、供給管3に導入される。
【0050】
次に、供給管3内の気化した評価液体L及び気体は、加熱炉4に向かって流入される。
第2温度制御部34は、第2温度センサ32の温度計測結果及び予め設定された第2管部31の設定温度値(例えば250℃)に基づいて、第2ヒータ33の温度を制御する。結果として、第2管部31は加熱され予め設定された温度に維持される。第2管部31が加熱されているために、第2管部31内を流れる気化した評価液体Lの冷却を防止でき、冷却による評価液体Lの凝縮を防ぐことができる。
【0051】
次に、加熱炉4内に設置された試験片T及びリファレンス用試験片TRの表面にデポジットが生成される。
第3温度制御部44は、予め設定された第3管部41の温度設定値を保持している。この設定温度は、第3管部41の内部がターボチャージャや熱処理装置の内部と同様の温度となるように設定されており、例えば600℃に設定されている。
【0052】
第3温度センサ42は、第3管部41の現在の温度を計測し、計測結果を第3温度制御部44に出力する。第3ヒータ43は、第3温度制御部44から出力される電気的指示を受けて発熱し、第3管部41をその外部から加熱する。第3温度制御部44は、第3温度センサ42の計測結果及び第3管部41の温度設定値に基づいて、第3ヒータ43の温度を制御する。結果として、第3管部41の内部は、ターボチャージャや熱処理装置の内部と同様の温度に維持され、第3管部41内に設置された試験片T(TR)も加熱され上記温度に維持される。
【0053】
気化した評価液体L及び気体は、供給管3内から加熱炉4の第3管部41内に導入される。第3管部41は、供給管3及び排ガス処理部5との接続部以外は気密に保たれているため、第3管部41の内部、すなわち試験片T(TR)の周囲の雰囲気は、気体供給部2から供給された気体によって満たされている。
【0054】
気化した評価液体Lは、気体と共に排ガス処理部5に向かって第3管部内を流れる。その流れを妨げるように試験片T(TR)が第3管部41内に設置されているため、気化した評価液体Lは、加熱された試験片T及びリファレンス用試験片TRの表面に付着する。試験片T(TR)の表面で評価液体Lは熱により変質・炭化し、試験片T(TR)の表面でデポジットが生成される。すなわち、加熱炉4の第3管部41内では、ターボチャージャや熱処理装置内と同様の状況、特に、温度及び気体の酸素濃度を同様の条件とした中で、デポジットを生成することができる。
【0055】
第3管部41から排出された気体及び気化した評価液体Lは、排ガス処理部5に導入され、評価液体Lの凝縮・分離や気体の浄化等が行われる。
【0056】
次に、加熱炉4内で生成されたデポジットの生成に関する情報を計測し、その評価を行う。以下、一例として生成されたデポジットの重量計測を行う。
デポジットの重量計測は、上述したデポジット生成工程の前後での重量変化により行う。すなわち、デポジットの生成前後での試験片Tの重量を計測し、それらの間の差を生成されたデポジットの重量とするものである。なお、例えば、試験片Tの材料及び表面処理を一定とし、評価液体Lの種類や組成等を様々に変えることで、デポジットの生成に関する評価を行う場合は、リファレンス用試験片TRを用いずともよい。また、この場合に、複数の試験片Tを設置し、各試験片T上に生成されたデポジット重量を平均したものを計測値としてもよい。
【0057】
一方、試験片Tの材料や表面処理を様々に変化させたときのデポジット生成量を評価する場合には、評価液体Lの種類や試験時間によってデポジットの生成量が異なるため、試験片Tの材料や表面処理のデポジット生成に対する影響のみを評価することが難しい。そのため、リファレンス用試験片TRを用いて、試験片Tの材料や表面処理のみに着目した評価を行うことが可能となる。
【0058】
具体的には、まず、第3管部41内に設置する複数の試験片Tのうち、少なくとも1つをリファレンス用試験片TRとする。そして、デポジットの生成前後での試験片T及びリファレンス用試験片TRの重量変化から、それぞれの表面で生成されたデポジット重量を計測する。試験片Tの表面でのデポジット重量を、リファレンス用試験片TRの表面でのデポジット重量で除算し、得られた値を評価指標とする。この評価指標を用いることで、試験片Tの材料や表面処理のみに着目した評価を行うことができる。
以上で、固形物生成評価装置100による評価液体Lからのデポジットの生成、及びデポジットの生成に関する評価が終了する。
【0059】
続いて、固形物生成評価装置100を用いて生成されたデポジット及びターボチャージャ内で生成されたデポジットの、それぞれの組成及び状態を比較する。
図2は、不活性雰囲気で生成されたデポジットの組成を示すグラフである。
図3は、酸素雰囲気で生成されたデポジットの組成を示すグラフである。
【0060】
ターボチャージャには、その内部を流動する気体の酸素濃度が低い箇所と高い箇所とが存在する。そして、雰囲気の酸素濃度の違いによって生成されるデポジットの組成が変化し、例えば酸素濃度が低い箇所(例えば0%)ではカーボンを主成分とするデポジットが生成され、酸素濃度が高い箇所(例えば10%)ではカーボンだけでなく酸化バナジウム等の無機物も生成される。
そこで、固形物生成評価装置100の気体供給部2から供給される気体を不活性ガス(窒素又はアルゴン等)のみとした場合と、上記不活性ガスに酸素又は空気を混合しその酸素濃度を凡そ10%とした場合との、それぞれの場合でデポジットを生成した。
【0061】
まず、不活性雰囲気で生成されたデポジットについて説明する。
気体供給部2から供給される気体を不活性ガス(窒素又はアルゴン等)のみとし、加熱炉4における第3管部41の内部をターボチャージャの内部と同様の温度とした条件で、固形物生成評価装置100を用いてデポジットを生成した。固形物生成評価装置100にて生成されたデポジット及びターボチャージャ内の酸素濃度が低い箇所で生成されたデポジットを、共にラマン分光分析法を用いて分析した結果を図2に示す。
【0062】
図2の横軸は、ラマン散乱光の振動数と入射光の振動数との間の差(ラマンシフト)を表し、縦軸はラマン散乱光の強度を表している。ラマンシフトは分析対象の物質に特有の値となることから、ラマン分光分析法により得られるラマンシフトの波形を比較することで、分析対象を比較することができる。
図2に示すように、実線は、固形物生成評価装置100を用いて生成されたデポジットの分析結果であり、波線は、ターボチャージャ内の酸素濃度が低い箇所で生成されたデポジットの分析結果である。図2を参照すると、上記分析結果は共にカーボンの存在を示す1500cm−1近傍でのピークを有している。そのため、本実施形態に係る固形物生成評価装置100を用いて、ターボチャージャ内の酸素濃度が低い箇所で生成されたデポジットと組成的に近似したデポジットを生成できることが判明した。
また、上記両装置内で生成された各デポジットは、共に硬く固着し、水噴射や有機溶剤によっても容易に除去できない状態となっている。そのため、本実施形態に係る固形物生成評価装置100を用いて、ターボチャージャ内の酸素濃度が低い箇所で生成されたデポジットと状態的に近似したデポジットを生成できることも判明した。
【0063】
次に、酸素雰囲気で生成されたデポジットについて説明する。
気体供給部2から供給される気体を不活性ガス(窒素又はアルゴン等)に酸素又は空気を混合してその酸素濃度を凡そ10%とし、加熱炉4における第3管部41の内部をターボチャージャの内部と同様の温度とした条件で、固形物生成評価装置100を用いてデポジットを生成した。固形物生成評価装置100にて生成されたデポジット及びターボチャージャ内の酸素濃度が比較的高い箇所(凡そ10%)で生成されたデポジットを、共にラマン分光分析法を用いて分析した結果を図3に示す。
【0064】
図3を参照すると、上記分析結果は共に酸化バナジウムの存在を示す800cm−1近傍でのピークを有している。そのため、本実施形態に係る固形物生成評価装置100を用いて、ターボチャージャ内の酸素濃度が低い箇所で生成されたデポジットと組成的に近似したデポジットを生成できることが判明した。
また、上記両装置内で生成された各デポジットは、共に硬く固着し、水噴射や有機溶剤によっても容易に除去できない状態となっている。そのため、本実施形態に係る固形物生成評価装置100を用いて、ターボチャージャ内の酸素濃度が低い箇所で生成されたデポジットと状態的に近似したデポジットを生成できることも判明した。
【0065】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、ターボチャージャや熱処理装置等と同様の生成状況でデポジット(固形物)を生成でき、同様の組成及び状態を有するデポジットを生成することができる。したがって、本実施形態によれば、ターボチャージャや熱処理装置等におけるデポジットの生成に関する評価を、実際の装置を用いることなく行うことができるという効果がある。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態では、気体供給部2は液体貯留部11に貯留された評価液体L内に気体を供給しているが、これに限定されるものではなく、気体供給部2が供給する気体によって気化した評価液体Lが加熱炉4に向かって流入する構成となっていればよい。
【符号の説明】
【0068】
100…固形物生成評価装置、1…気化部、13…第1ヒータ(加熱部)、2…気体供給部、22…バルブ(調整部)、25…流量制御部(調整部)、3…供給管、33…第2ヒータ(第2加熱部)、4…加熱炉、L…評価液体、T…試験片、TR…リファレンス用試験片(試験片)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価液体を貯留すると共に、前記評価液体を気化させる気化部と、
試験片を密閉空間内に保持しつつ、前記試験片を加熱する加熱炉と、
気化した前記評価液体を前記加熱炉に向けて流入させる気体を供給する気体供給部とを有することを特徴とする固形物生成評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の固形物生成評価装置において、
前記気化部は、液状の前記評価液体を加熱する加熱部を備えることを特徴とする固形物生成評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載の固形物生成評価装置において、
前記加熱部は、前記加熱炉での加熱温度よりも低い温度で、前記評価液体を加熱することを特徴とする固形物生成評価装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の固形物生成評価装置において、
前記気体供給部は、前記気化部内に貯留された液状の前記評価液体中に前記気体を供給することを特徴とする固形物生成評価装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の固形物生成評価装置において、
前記気体供給部は、前記気体の供給量を調整する調整部を備えることを特徴とする固形物生成評価装置。
【請求項6】
請求項5に記載の固形物生成評価装置において、
前記気体供給部は、複数種類の前記気体を供給し、
前記調整部は、前記複数種類の気体の供給量をそれぞれ調整することを特徴とする固形物生成評価装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の固形物生成評価装置において、
気化した前記評価液体及び前記気体を、前記気化部から前記加熱炉まで供給する供給管と、
前記供給管の内部を加熱する第2加熱部とを有することを特徴とする固形物生成評価装置。
【請求項8】
評価液体を気化させる気化工程と、
気化した前記評価液体を流動させる気体を供給する気体供給工程と、
密閉空間内に保持された試験片を加熱する加熱工程と、
気化した前記評価液体を前記試験片に向けて衝突させ、前記試験片の表面に前記評価液体による固形物を生成する工程と、
前記固形物の生成に関する情報を計測する工程とを有することを特徴とする固形物生成の評価方法。
【請求項9】
請求項8に記載の固形物生成の評価方法において、
前記気化工程では、前記評価液体を加熱により気化させることを特徴とする固形物生成の評価方法。
【請求項10】
請求項9に記載の固形物生成の評価方法において、
前記気化工程では、前記加熱工程での加熱温度よりも低い温度で、前記評価液体を加熱することを特徴とする固形物生成の評価方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の固形物生成の評価方法において、
前記気体供給工程では、前記気体を液状の前記評価液体中に供給することを特徴とする固形物生成の評価方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載の固形物生成の評価方法において、
前記気体の供給量を調整する調整工程を有することを特徴とする固形物生成の評価方法。
【請求項13】
請求項12に記載の固形物生成の評価方法において、
前記気体供給工程では、複数種類の前記気体を供給し、
前記調整工程では、前記複数種類の気体の供給量をそれぞれ調整することを特徴とする固形物生成の評価方法。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか一項に記載の固形物生成の評価方法において、
気化した前記評価液体が前記密閉空間に達する前に、気化した前記評価液体を加熱する工程を有することを特徴とする固形物生成の評価方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−7550(P2011−7550A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149668(P2009−149668)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)