説明

固相反応で合成したFeTe1−xSx化合物の超電導化方法

【課題】
本発明は、固相反応で合成したFeTe1-x化合物における超電導特性の向上方法の提供を目的とする。
【解決手段】
本発明は、固相反応で合成したFeTe1-x化合物を70℃に加熱した酒類に浸漬することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系超電導体の超電導特性の向上に関する。更に詳しくは、固相反応で合成したFeTe1−x化合物の超電導特性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年初頭、東工大の細野教授のグループにより、鉄系超電導体が発見された。この発見を契機に、類似化合物に超電導体が次々と見出され、この鉄系超電導体は、新しい高温超電導体の鉱脈と期待されている。この鉄系超電導体では、鉄ヒ素、鉄リン、鉄セレンなどが作る二次元構造が超電導の起源と考えられている。そのため、これまで発見された鉄系超電導体のほとんどが、ヒ素やリン、セレンなど、毒性の強い元素を含んでいる。鉄系超電導体を応用していくためには、毒性の少ない元素で構成された新超電導体を見出すことが望まれていた。
【0003】
一方、FeTeは、FeSeなどの鉄系超電導体と類似構造を持つにも係わらず、反強磁性磁気秩序が邪魔して超電導を示さない。そこで、発明者らはこれまでに、SをドープしたFeTe1−x化合物を固相反応で合成し、反強磁性磁気秩序は消失するものの超電導は出現しない、いわば、磁性体と超電導体の間に位置する物質を得ることに成功している。
【0004】
更に、発明者らは、この物質が、70℃までの温度に加熱したイオン交換水中に保持すると超電導が発現することを見出した。しかしながら、この超電導の発現はわずかであり、さらなる超電導特性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−111517号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ACTA CHEMICA SCANDINAVICA 8,1927, 1954.
【非特許文献2】PHYSICAL REVIEW B81,214510(2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情に鑑み、固相反応で合成したFeTe1−x化合物の超電導特性のさらなる向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明1の超電導特性の向上方法は、固相反応で合成したFeTe1−x化合物の超電導特性を向上させる方法であって、酒類に浸漬することを特徴とする。
【0009】
発明2の超電導特性の向上方法は、浸漬する酒類の温度が凝固点〜沸点の温度範囲であることを特徴とし、使用する酒類がワイン、ビール、日本酒、ウイスキー、焼酎、あるいはこれ以外のエタノールを含有する酒であることを特徴とする。
【0010】
発明3の超電導特性の向上方法は、浸漬する酒類の温度が凝固点〜沸点の温度範囲であることを特徴とする。
【0011】
発明4の超電導特性の向上方法は、浸漬する酒類の保持時間が1秒〜1年であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
固相反応で合成したFeTe1−x化合物は、合成したままの状態では超電導を全く示さない。これを70℃に加熱したイオン交換水に浸漬すると、24時間後に超電導特性が、僅かに向上し、鉄系超電導物質となる。この状態を基準にして、温イオン交換水を、加熱した酒類に同じ浸漬条件で浸漬すると超電導特性が最大で7倍近く向上する効果が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
酒類としては、通常の市販品でよく、浸漬温度は、凝固点〜沸点までが最適である。これ以上の温度では、酒類中のエタノールの蒸気圧が高くなり一定の浸漬条件が得られない。また、これ以下の温度では、酒類の凝固が開始するのと、反応性が著しく低下する。浸漬時間は、1秒から1年が好ましく、更に好ましくは1時間から1ヶ月であり、最もこのましいのは1日から7日である。1秒以内だと反応が十分に進まず、1年以上では、効果が飽和するので好ましくない。
【実施例】
【0014】
FeTe1−x化合物の合成は以下の方法で行った。
出発原料にFe, Te, TeSを用い、組成比がFeTe1−x (x=0.2)になるように秤量して、グラインドせずに混合し、石英ガラス管に真空封入し、電気炉にて600℃で10時間焼成した。炉冷後、得られた原料はメノウ乳鉢を用い粉末状にグラインドし、ペレット状に加圧成型したのち石英ガラス管に真空封入し、電気炉にて600℃で10時間焼成した。出発原料に使用したTeSは組成比をTeSになるように秤量して、グラインドせずに混合し、石英ガラス管に真空封入し、電気炉にて500℃で8時間焼成した。
原料に使用したFe,Te,S材料は、以下のものを使用した。
Fe:(株)高純度化学研究所製のFe粉末であって、純度99.9%以上、平均粒径150μmの粒子。
Te:(株)高純度化学研究所製のTe粉末であって、純度99.9%, 平均粒径150μmの粒子。
S:(株)高純度化学研究所製のS粉末であって、純度99%以上。
【0015】
浸漬に使用した酒類は、以下の市販品を使用した。
(1)赤ワイン(商品名:ボンマルシェ、メルシャン社製、アルコール度数:11%)
(2)白ワイン(商品名:ボンマルシェ、メルシャン社製、アルコール度数:11%)
(3)ビール(商品名:アサヒスーパードライ、アサヒビール製、アルコール度数:5%)
(4)ウイスキー(商品名:山崎シングルモルト、サントリー製、アルコール度数:40%)
(5)日本酒(商品名:一人娘、山中酒造製、アルコール度数:15.5%)
(6)焼酎(商品名:果実酒の季節、宝酒造製、アルコール度数:35%)
【0016】
浸漬方法は以下の方法で行った。
赤ワイン、白ワイン、ビール、ウイスキー、日本酒、焼酎を20mlスクリュー管瓶に個別に10mlずつ入れ、合成したFeTe1−x化合物を浸漬し、恒温庫にて70℃で1日加熱した。
【0017】
固相反応で合成したFeTe1−x化合物は、合成直後そのままの状態では超電導を示さない。70℃に加熱した酒類に浸漬した後、試料の磁化率を測定することにより、超電導体積率を見積った。酒類に浸漬した全ての試料で超電導体積率がイオン交換水-エタノール溶液(エタノール:0−100容量%)に浸漬した場合に比較し増大することが確認された。酒類中で超伝導体積率が最も低い焼酎でも2倍以上の効果が得られた。最も高いのは赤ワインであり、赤ワインに浸漬した試料では6−7倍も超電導体積率が高く、顕著に超電導特性が向上したことを示した。
【比較例】
【0018】
イオン交換水、エタノールおよびそれらの混合溶液に、固相反応で合成したFeTe1−x化合物を浸漬し、試料の磁化率を測定することにより、超電導体積率を見積った。その結果、試料の超電導体積率はエタノール濃度にほとんど依存せず8%前後と低かった。
【0019】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施例によって限定されるものではない。細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
この出願の発明により、超電導特性の向上方法として酒類を使用した方法が提供される。この出願の発明は超電導物質開発の新しい手法を提供するものであり、これまでに報告されている超電導物質全般への応用が期待できると考えられる。酒類は本実験に使用したものに限定されず、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】FeTe結晶構造を示す模式図である。FeとTeからなる層が積み重なった構造を取り、Teの一部をSで置換することによりFeTe1-xが作成される。作成したFeTe0.80.2試料は、粉末X線解析により、模式図で示す結晶構造であることを確認した。
【図2】70℃、24時間、酒類に浸漬した試料の超電導体積率である。イオン交換水―エタノールにおける超電導体積率は低く、アルコール濃度にほとんど依存しなかった。イオン交換水―エタノールにおける実験結果を基準にするため超電導体積率の平均値を1とし直線を引いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相反応で合成したFeTe1−x化合物の超電導特性を向上させる方法であって、酒類に浸漬することを特徴とする超電導特性の向上方法。
【請求項2】
請求項1の超電導特性の向上方法であって、使用する酒類がワイン、ビール、日本酒、ウイスキー、焼酎、あるいはこれ以外のエタノールを含有する酒であることを特徴とする
超電導特性の向上方法。
【請求項3】
請求項1の超電導特性の向上方法であって、浸漬する酒類の温度が凝固点〜沸点の温度範囲であることを特徴とする超電導特性の向上方法。
【請求項4】
請求項1の超電導特性の向上方法であって、浸漬する酒類の保持時間が1秒〜1年であることを特徴とする超電導特性の向上方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−148913(P2012−148913A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7699(P2011−7699)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月27日 インターネットアドレス「http://www.jst.go.jp/pr/announce/20100727−3/index.html」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 日本経済新聞社発行の「日経産業新聞 平成22年7月28日付朝刊(第11面)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 日本経済新聞社発行の「日本経済新聞 平成22年7月28日付朝刊(第38面)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 読売新聞社発行の「読売新聞 平成22年7月28日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 毎日新聞社発行の「毎日新聞 平成22年7月28日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 日刊工業新聞社発行の「日刊工業新聞 平成22年7月28日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 化学工業日報発行の「化学工業日報 平成22年7月28日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 鉄鋼新聞社発行の「鉄鋼新聞 平成22年7月28日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 東京新聞社発行の「東京新聞 平成22年7月28日付夕刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月28日 茨城新聞社発行の「茨城新聞 平成22年7月28日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月30日 朝日新聞社発行の「朝日新聞 平成22年7月30日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月30日 朝日学生新聞社発行の「朝日小学生新聞 平成22年7月30日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月31日 読売新聞社発行の「読売新聞 平成22年7月31日付夕刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月2日 インターネットアドレス「https://nanonet.nims.go.jp/modules/news/article.php?a_id=884」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月3日 日本工業新聞社発行の「フジサンケイビジネスアイ 平成22年8月3日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月2日 朝日新聞社発行の「朝日新聞 平成22年11月2日付朝刊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月5日 インターネットアドレス「http://www.jst.go.jp/pr/announce/20081105/index.html」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月23日〜26日 社団法人日本物理学会主催の「日本物理学会 平成22年度 秋季大会(物性関係)」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】