説明

土壌のセメント原料化処理方法

【課題】 セメントの化学成分の変動を従来よりも抑制し、土壌を使用したセメントの生産性を向上させ、しかも土壌中に含まれる異物等の除去を容易にし、除去作業時における作業性を良好にすることが可能な土壌のセメント原料化処理方法を提供する。
【解決手段】 水分を5〜35質量%含む土壌と石灰石とを予め混合して流動性を向上させたセメント原料Aを作製した後、このセメント原料Aと他のセメント原料Bとを混合して焼成しセメントを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌のセメント原料化処理方法に係り、更に詳細には、水分を含む土壌、例えば、泥(沈泥、微泥、及び砂泥のいずれか1又は2以上)又は重金属に汚染された土壌を使用してセメントを製造する土壌のセメント原料化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント原料の代替品として、各種土砂が使用されている。
セメント製造プロセスでは、製造するセメントクリンカー(以下、単にセメントともいう)の化学成分を一定に保持するため、常に各種セメント原料(例えば、石灰石、軟珪石、水砕スラグ、及び鉄原料)の配合割合を調整している。
【0003】
しかし、水分を5〜35質量%含む土壌(例えば、粘土質又はシルト質)のように、粘性が高く流動性の悪いものを、そのままセメント原料として使用する場合、各種セメント原料の配合割合の調整時において、例えば、貯蔵ホッパーからの土壌の切り出し(供給)を安定に行うことができず、切り出し量が非常に不安定になる。その結果、製造されたセメントの化学成分が大きく変動する問題が生じていた。また、土壌中には、例えば、大塊、異物(例えば、鉄屑、植物残渣、及びプラスチックのいずれか1又は2以上)が混入しているが、流動性の悪い状態では、このような異物を除去することが難しく、除去精度が悪くなり、しかも除去作業時における作業性も悪かった。
このため、セメント原料として使用可能な土壌の量を現状よりも増加させることができず、土壌の使用原単位を大幅に増加することが困難であった。
【0004】
そこで、前処理として、各種セメント原料を予め加熱又はか焼する方法が開示されていた(例えば、特許文献1参照)。
また、土壌をセメント工場に運搬する前に、この土壌に生石灰(CaO)を入れて混合し、そのときに発生する熱で土壌中の水分を飛ばしたり、土壌にセメント系の固化材を混ぜたりして、流動性を向上させる方法もあった。
これにより、土壌を、流動性を向上させたセメント原料にできるので、安定した切り出しを行うことができ、製造されたセメントの化学成分を安定させ、また、土壌中の異物除去作業を容易にしていた。
【0005】
【特許文献1】特表平8−510985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の土壌のセメント原料化処理方法には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
水分を含む土壌を予め加熱又はか焼する場合、専用の設備が必要となるため、設備投資に要する費用がかかり経済的でない。
また、土壌に、生石灰やセメント系の固化材等のセメントの主成分ではない新たな材料を添加する場合、専用の設備が必要となって設備投資に要する費用がかかり経済的でなく、しかも、その作業に手間を要するため作業性も良好でない。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、セメントの化学成分の変動を従来よりも抑制し、土壌を使用したセメントの生産性を向上させ、しかも土壌中に含まれる異物等の除去を容易にし、除去作業時における作業性を良好にすることが可能な土壌のセメント原料化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う請求項1記載の土壌のセメント原料化処理方法は、水分を5〜35質量%含む土壌と石灰石とを予め混合して流動性を向上させたセメント原料Aを作製した後、このセメント原料Aと他のセメント原料Bとを混合して焼成しセメントを得る。
請求項1記載の土壌のセメント原料化処理方法において、土壌としては、例えば、粘土質又はシルト質の土壌であり、泥(沈泥、微泥、及び砂泥のいずれか1又は2以上)又は重金属に汚染された土壌を使用できる。
また、他のセメント原料Bとは、セメントの製造に従来使用されているセメント原料であり、例えば、石灰石(セメントの製造に必要な総石灰石量のうちセメント原料Aに使用された石灰石量を差し引いた量の石灰石)、軟珪石、水砕スラグ、及び鉄原料のいずれか1又は2以上を意味する。
【0009】
ここで、セメント原料Aに使用する土壌は、通常5〜35質量%の水分を含んでいるため、例えば、粘性が高く流動性の悪い状態となっている。しかし、これを石灰石と予め混合することで、流動性を向上させた(ハンドリング性を改善させた)セメント原料Aを作製できる。
なお、更に、水分が多くて粘性が高く流動性の悪い状態となっている土壌、即ち5〜30質量%、好ましくは10〜30質量%の水分を含む土壌を石灰石と予め混合することで、流動性の改善効果を更に顕著に現わすことができる。
【0010】
請求項2記載の土壌のセメント原料化処理方法は、請求項1記載の土壌のセメント原料化処理方法において、前記土壌と前記石灰石との混合比は1:1〜1:5の範囲である。
請求項2記載の土壌のセメント原料化処理方法において、土壌と混合する石灰石量を土壌と等量未満とした場合、土壌と混合する石灰石量が少なくなり、流動性を向上させたセメント原料Aを製造することができない。一方、土壌と混合する石灰石量が土壌量の5倍を超える場合、土壌と混合する石灰石量が多くなり、セメント原料Aの流動性を更に顕著に向上させることができない。
従って、流動性を向上させたセメント原料Aを製造するためには、土壌と石灰石との混合比を1:1〜1:5、好ましくは1:1〜1:4、更には1:1〜1:3にすることが好ましい。
【0011】
請求項3記載の土壌のセメント原料化処理方法は、請求項1及び2記載の土壌のセメント原料化処理方法において、前記石灰石の粒径は40mm以下で、その平均粒径が1〜10mmである。
請求項3記載の土壌のセメント原料化処理方法において、石灰石の粒径が40mmを超える場合、石灰石の粒径が大きくなり、土壌と略均一に混合することができず、流動性を向上させたセメント原料Aを製造できない恐れがある。
従って、流動性を向上させたセメント原料Aを製造するためには、石灰石の粒径を35mm以下、更には30mm以下とすることが好ましい。
【0012】
また、石灰石の平均粒径が1mm未満の場合、石灰石の粒径が全体的に細かくなり過ぎ、例えば、石灰石の周囲に土壌を付着させずらくなり、流動性を向上させたセメント原料Aを製造できない。一方、石灰石の平均粒径が10mmを超える場合、石灰石の粒径が全体的に大きくなり、土壌と略均一に混合することができず、やはり流動性を向上させたセメント原料Aを製造できない恐れがある。
従って、流動性を向上させたセメント原料Aを製造するためには、石灰石の平均粒径を2〜7mm、更には2〜5mmとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜3記載の土壌のセメント原料化処理方法は、他のセメント原料Bと混合する前に、水分を5〜35質量%含む土壌と石灰石とを予め混合して、土壌を使用して流動性を向上させたセメント原料Aを作製するので、例えば、他のセメント原料Bとの調合時におけるセメント原料Aの貯蔵ホッパーからの切り出し量(供給量)のばらつきを、従来よりも狭い範囲にでき、製造されるセメントの化学成分の変動を抑制して、安定した品質にできる。このため、セメント原料として処理できる土壌量を従来よりも増加させることができ、土壌を使用したセメントの生産性も向上させることができる。
また、土壌との予混合に、セメント製造のための主原料になる石灰石を使用するので、従来のように他の材料を使用する必要がなく経済的であり、しかも作業性やハンドリング性も良好である。
【0014】
特に、請求項2記載の土壌のセメント原料化処理方法は、土壌と石灰石との混合比を所定の範囲に調整するので、土壌の水分量に応じた石灰石の混合量を設定でき、流動性を更に向上させたセメント原料Aを製造できる。
請求項3記載の土壌のセメント原料化処理方法は、石灰石の粒径を規定するので、セメント原料Aの粒径を調整でき、流動性を更に向上させたセメント原料Aを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
続いて、添付した本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る土壌のセメント原料化処理方法は、土壌と石灰石(CaCO3 )とを予め混合して流動性を向上させたセメント原料Aを作製した後、このセメント原料Aと、例えば、不足分の石灰石、軟珪石、水砕スラグ、及び鉄原料のいずれか1又は2以上を含む他のセメント原料Bとを混合して焼成しセメントを得る方法である。なお、混合したセメント原料A及びセメント原料Bの混合物中の土壌量は、この混合物に対して例えば5〜20質量%程度である。以下、詳しく説明する。
【0016】
土壌は、例えば、粒径が0.002mm以上0.02mm未満の砂と粘土との中間の細かさを有するシルト質のものや、0.002mm未満の粘土質のものであり、水分を5〜35質量%含む泥(沈泥、微泥、及び砂泥のいずれか1又は2以上)又は重金属に汚染された土壌である。
また、石灰石は、粒径が40mm以下(好ましくは30mm以下)で、平均粒径が1〜10mm(好ましくは2〜5mm)のものであり、例えば水分を2〜3質量%程度含むセメントの主原料(例えば、セメント中の60〜80質量%程度)である。
【0017】
この土壌と石灰石との混合比が1:1〜1:5(好ましくは1:1〜1:3)の範囲になるように、土壌に石灰石を加えて混合する。ここで、土壌中の水分量が少ない場合は、土壌と石灰石との混合比を1:1に近づけ、また土壌中の水分量が多い場合は、土壌と石灰石との混合比を1:5に近づけることが好ましい。
なお、土壌と石灰石との混合は、土壌中に石灰石が略満遍なく行き渡ればよく、例えば、土壌に石灰石を添加した後、シャベルが設けられたショベルローダーを使用して混合することが可能であるが、ミキサー等の混合機を用いて混合することも可能である。
【0018】
上記したように、水分を含み、粘性が高く流動性が悪い(べとべと)状態の土壌と、水分をほとんど含まず、しかも前記した粒径を備える流動性が良好な石灰石とを予め混合するので、土壌を流動性が良好な(さらさら)状態のセメント原料Aにできる。
そして、このセメント原料Aを篩にかけることで、このセメント原料A中から、大塊、異物(例えば、鉄屑、植物残渣、及びプラスチックのいずれか1又は2以上)等を除去する。この作業は、水分を含んだ土壌から除去するのではなく、流動性を向上させた状態でセメント原料Aから除去するので、大塊及び異物の除去効率を高めることができる。このため、セメント原料Aの品質を良好なものにでき、製造するセメントの品質を従来よりも高めることができる。また、作業時間も短縮できるのでセメントの原料として従来よりも多量の土壌を使用できる。
【0019】
次に、異物等の除去処理が行われたセメント原料Aを、連続的に所定量ずつ切り出し(供給)可能な貯留ホッパーへ投入する。
そして、製造されるセメントが目的とする化学成分を有するように、セメント原料Aを貯留ホッパーから連続的に所定量ずつ搬送コンベアへ切り出す。このとき、製造されるセメントの化学成分に応じて、他のセメント原料Bを構成する不足分の石灰石、軟珪石、水砕スラグ、及び鉄原料のいずれか1又は2以上も、それぞれ貯留した貯留ホッパーから所定量ずつ搬送コンベアへ切り出される。
このように、各貯留ホッパーから切り出されたセメント原料Aとセメント原料Bとを、通常のセメントの製造方法と同様、例えば混合機に投入して混合し、更に粉砕して乾燥させた後、例えばロータリーキルンを使用して焼成することで、セメントを製造する。
【0020】
これにより、例えば、セメント原料Bとの調合時におけるセメント原料Aの貯留ホッパーからの切り出し量のばらつきを、従来よりも狭い範囲にできる。この安定した供給量により、製造されるセメントの化学成分の変動を従来よりも抑制して、安定した品質のセメントを製造できる。
従って、セメントの原料として処理される土壌量を従来よりも増加させることができ、土壌を使用したセメントの生産性も向上させることができる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここで、図1は本発明の一実施例に係る土壌のセメント原料化処理方法によって作製したセメントの化学成分の変動を示す説明図である。この図1は、2002年4月から2003年11月までに製造したセメントの化学成分の変動を示すものであり、2002年12月を経過した後、前記した本発明の土壌のセメント原料化処理方法を適用(予備混合を開始)した結果である。
【0022】
なお、図1中のHM値(◆)は水硬率、SM値(■)はケイ酸率、IM値(▲)は鉄率をそれぞれ示しており、各数値は以下の式で求められる。なお、いずれも質量比である。
HM値=(CaO)/(SiO2 +Al23 +Fe23
SM値=(SiO2 )/(Al23 +Fe23
IM値=(Al23 )/(Fe23
また、図1の縦軸は、2001年度のHM値、SM値、IM値の各平均値をそれぞれ100とした場合の変動値を示している。
【0023】
使用した土壌と石灰石の水分及び化学成分の数値を表1に、石灰石の粒度分布を表2にそれぞれ示す。この表1中の「ig.loss」とは、分析を行うに際し、土壌及び石灰石を焼成したときの質量の減少率を示している。なお、表1中の土壌の各化学成分の和が100質量%にならないのは、分析していない他の成分があるためである。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表1から明らかなように、土壌の主成分はシリカ(SiO2 :63.1質量%)であり、次の成分はアルミナ(Al23 :14.3質量%)である。従って、土壌の配合割合の変動の検討は、図1中のSM値及びIM値の推移を主として行った。
【0027】
まず、SM値の変動(ばらつき)範囲については、本発明の適用前、即ち従来方法の適用時である2002年4月から12月までは65程度(最大値150:2002年5月、最小値85:2002年11月)だった。しかし、本発明の適用後、即ち2003年1月から11月までは、変動範囲を35程度(最大値80:2003年5月、最小値45:2003年7月)の範囲内に抑制できたことを確認できた。
【0028】
また、IM値の変動範囲については、従来方法の適用時である2002年4月から12月までは、IM値のばらつきが155程度(最大値225:2002年7月、最小値70:2002年12月)だった。しかし、本発明の適用後、即ち2003年1月から11月までは、変動範囲を30程度(最大値75:2003年7月、最小値45:2003年2月)の範囲内まで抑制できたことを確認できた。
以上のことから、本発明の土壌のセメント原料化処理方法を適用することで、安定した品質を備えるセメントを製造できることを確認できた。
【0029】
以上、本発明を、一実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の土壌のセメント原料化処理方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例に係る土壌のセメント原料化処理方法によって作製したセメントの化学成分の変動を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を5〜35質量%含む土壌と石灰石とを予め混合して流動性を向上させたセメント原料Aを作製した後、このセメント原料Aと他のセメント原料Bとを混合して焼成しセメントを得ることを特徴とする土壌のセメント原料化処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の土壌のセメント原料化処理方法において、前記土壌と前記石灰石との混合比は1:1〜1:5の範囲であることを特徴とする土壌のセメント原料化処理方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の土壌のセメント原料化処理方法において、前記石灰石の粒径は40mm以下で、その平均粒径が1〜10mmであることを特徴とする土壌のセメント原料化処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−16234(P2006−16234A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194284(P2004−194284)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(500477425)新日鐵高炉セメント株式会社 (6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)