説明

土壌の状態判定方法

【課題】浄化処理を行った土地が本当に浄化されているのかどうかを植物を用いて当該現場で具現化することにより、浄化処理を行った土地の地権者や近隣住民の心理的な嫌悪感を軽減可能な土壌の状態判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】浄化処理中の評価対象土壌50、又は、浄化処理後の評価対象土壌50に植物51を植え、当該植物51を当該評価対象土壌50の浄化効果を判定するためのセンサーとして用いた。また、汚染されていない土壌に植物を植えた後に採取した当該植物のデータをサンプルデータとし、上記評価対象土壌50に植物51を植えた後に採取した当該植物51のデータを土壌評価データとし、当該土壌評価データとサンプルデータとを比較し、近似していれば上記評価対象土壌50が浄化されていると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を利用した土壌の状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、汚染土壌に油を分解する微生物を供給することによって汚染土壌を浄化する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−276837号公報
【特許文献2】特開平9−276840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
汚染土壌を浄化する処理を行った後に、浄化の効果を確かめる方法としては、その浄化後の土壌の成分を調査することが一般的である。しかしながら、成分調査の場合、100m(10m×10m)に1地点の割合で土壌を採取し、その分析数値データによる証明だけであり、浄化処理を行った土地が本当に浄化されているのかどうかを当該現場で具現化する物体がなかったので、浄化処理を行った土地の地権者や近隣住民としては、本当に浄化されているのかどうか確信を得られない心理的な状況(心理的な嫌悪感)を払拭できないことが多いという問題点があった。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、浄化処理を行った土地が本当に浄化されているのかどうかを植物を用いて当該現場で具現化することにより、浄化処理を行った土地の地権者や近隣住民の心理的な嫌悪感を軽減可能な土壌の状態判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る土壌の状態判定方法は、浄化処理中の評価対象土壌、又は、浄化処理後の評価対象土壌に植物を植え、当該植物を当該評価対象土壌の浄化効果を判定するためのセンサーとして用いるので、浄化処理を行った土地が浄化されていることを植物によって当該現場で具現化できるので、浄化処理を行った土地の地権者や近隣住民の心理的な嫌悪感を軽減できる。
汚染されていない土壌に植物を植えた後に採取した当該植物のデータをサンプルデータとし、上記評価対象土壌に植物を植えた後に採取した当該植物のデータを土壌評価データとし、当該土壌評価データとサンプルデータとを比較し、近似していれば上記評価対象土壌が浄化されていると判定するので、浄化処理を行った土地が浄化されていることを植物によって当該現場で具現化できるとともに、データによっても裏付けできるので、浄化処理を行った土地の地権者や近隣住民の心理的な嫌悪感を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】当該評価対象土壌に植物を植えた状態を示す図。
【図2】サンプルデータを採取するための実験装置の平面図。
【図3】サンプルデータを採取するための実験装置の断面図。
【図4】植物育成部の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態では、図1に示すように、浄化処理中の評価対象土壌50、又は、浄化処理後の評価対象土壌50に植物51を植え、当該植物51を当該評価対象土壌50の浄化効果を判定するためのセンサーとして用いる。
例えば、病院や工場等の土壌汚染源となっていた建物を解体した後の跡地の汚染土壌を浄化処理中に当該浄化処理中の評価対象土壌50に植物51を植えたり、上記汚染土壌を浄化処理した後の評価対象土壌50に植物51を植える。
植物51としては、土壌を汚染する土壌汚染物質に反応する植物51を用いる。例えば、土壌汚染物質に反応する植物51としては、土壌汚染物質としての油(重油など)に反応する植物51、土壌汚染物質としての水銀に反応する植物51、土壌汚染物質としての鉛に反応する植物51等を用いる。
土壌汚染物質に反応する植物51とは、土壌汚染物質に汚染された土壌に植えられた場合と、土壌汚染物質に汚染されていない土壌に植えられた場合とで、生育状態に差が表れる植物51を言う。例えば、葉や茎の彩度、色具合、植物51の温度、葉の形態などの生育状態に差が表れる植物51である。
【0008】
上述した評価対象土壌50に植物51を植えて、当該植物51の生育変化を観察することにより当該評価対象土壌50の状態を判定する。判定は、サンプルデータと、観察データとを比較して行う。
【0009】
図2を参照し、サンプルデータを採取するための実験装置を説明する。実験装置1は、複数の植物育成部2を備える。植物育成部2(2A;2B;2C;2D;2E)は、領域を区画する領域区画材3と、領域区画材3で囲まれた領域に設けられた土壌4と、土壌4に植えられた植物51とにより構成した。領域は、底面6と領域区画材3とにより区画された縦寸法a=60cm、横寸法b=60cm、深さ寸法c=90cmの立方体領域に形成される。図4に示すように、土壌4は、底面6の上に設けられた吸着層7と、吸着層7の上に設けられた下側良質土層8と、下側良質土層8の上に設けられた汚染土層9と、汚染土層9の上に設けられた上側良質土層10とにより構成される。
吸着層7の深さ寸法7aは30cm、下側良質土層8の深さ寸法8aは10cm、汚染土層9の深さ寸法9aは30cm、上側良質土層10の深さ寸法10aは15cmとした。尚、後述するアガサを植える土壌は、吸着層7の深さ寸法7aを20cm、下側良質土層8の深さ寸法8aを10cm、汚染土層9の深さ寸法9aを100cm、上側良質土層10の深さ寸法10aを50cmとした。これは、植物の根系の深さの違いによりモニタリング出来る深度を使い分けることを目的としている。
【0010】
汚染物質として鉛を含有した鉛汚染土層を備えた植物育成部2A、汚染物質として水銀を含有した水銀汚染土層を備えた植物育成部2B、汚染物質として油を含有した油汚染土層を備えた植物育成部2C、汚染物質として鉛と水銀と油とを含有した混合汚染土層を備えた植物育成部2Dを作製した。また、比較用として、汚染物質を含有しない良質土層のみの植物育成部2Eを作製した。
鉛汚染土層や水銀汚染土層や混合汚染土層を備えた植物育成部2A,2B,2Dの吸着層7は、重金属類吸着剤+砂質土とにより作製した。油汚染土層を備えた植物育成部2Cの吸着層7は、油吸着剤+砂質土とにより作製した。吸着層7は、汚染物質がほかの領域に移動するのを防止する。
【0011】
植物育成部2に植える供試植物52としては、エニシダ20、ハマボウフウ21、ハマゴボウ22、ヨモギ23、ミソソバ24、キショウブ25、アガサ26、三種混合芝27を用いた。
つまり、鉛汚染土層を備えた植物育成部2A、水銀汚染土層を備えた植物育成部2B、油汚染土層を備えた植物育成部2C、混合汚染土層を備えた植物育成部2D、良質土層のみの植物育成部2Eを、それぞれ、供試植物52の種類毎に用意し、異なる土層を備えた植物育成部2にそれぞれ同じ種類の供試植物52を植えて、土層の違いによって同じ植物の生育にどのような違いが出るかを目視観察、触感観察できるような実験装置1とした。
【0012】
上記実験装置1の各植物育成部2に植えた供試植物52のデータ、例えば、目視観察データ、触感観察データ、測定データなどを定期的(例えば、1週間毎、1ヶ月毎)に採取してサンプルデータとする。
目視観察データは、葉の斑点の有無や茎の太さなどのように、目で観察できるデータである。
触感観察データは、葉や茎を手で触った場合の異物の有無などのように、手で触って観察できるデータである。
測定データは、例えば、植物の撮像画像を解析して得られる彩度、色度合等の植物の色データ、サーモグラフィにより測定した植物の温度データ、植物に流れる微弱電流データなどである。
【0013】
そして、上述したような、病院や工場等の土壌汚染源となっていた建物を解体した後の跡地の汚染土壌を浄化処理中に当該浄化処理中の評価対象土壌50、又は、上記汚染土壌を浄化処理した後の評価対象土壌50に植物51を植え、当該植物51が生育する過程で得られるデータ、例えば、目視観察データ、触感観察データ、測定データなどを定期的(例えば、1週間毎、1ヶ月毎)に採取して土壌評価データとする。
【0014】
同一種類の植物51に関する土壌評価データとサンプルデータとを比較することで、評価対象土壌50を適切に評価できる。つまり、土壌評価データが良質土層のみの植物育成部2Eで育てた供試植物52から採取されたサンプルデータと似ていれば、評価対象土壌50の土壌は浄化されていると判断する。
即ち、植物51を上記評価対象土壌50の浄化効果を判定するためのセンサーとして用いることができるようになる。
【0015】
例えば、病院や工場等の土壌汚染源となっていた建物を解体した後の跡地の土壌を浄化している途中、又は、浄化した後に、当該跡地を地権者に返却する場合に、当該跡地が浄化されていて安全であることを当該跡地の地権者や近隣住民に説明する際、評価対象土壌50としての当該跡地に植えた植物51の外観変化を地権者や近隣住民に定期的に見せ、当該外観変化と良質土層のみの植物育成部2Eで育てた供試植物52の外観変化とが似ていることを地権者や近隣住民に提示することにより、地権者や近隣住民は、当該跡地の浄化効果を、当該跡地が浄化されていることを具現化している植物51によって現場で現状確認できることから、地権者や近隣住民の心理的な嫌悪感が払拭されるようになる。
【0016】
そして、当該外観変化と良質土層のみの植物育成部2Eで育てた供試植物52の外観変化とが似ていることを地権者や近隣住民に提示することに加え、土壌評価データと良質土層のみの植物育成部2Eで育てた供試植物52から採取されたサンプルデータとが似ていることを提示することにより、浄化効果を、データによっても裏付けできるので、浄化処理を行った土地の地権者や近隣住民の心理的な嫌悪感をより軽減できるようになる。
【0017】
また、同一種類の植物51に関する土壌評価データと植物育成部2A〜2Dで育てた供試植物52から採取されたサンプルデータとが近似していれば、評価対象土壌50が浄化されていないと判定する。当該判定により、再び浄化処理を行うことによって、浄化処理を行った土地の地権者や近隣住民の心理的な嫌悪感を軽減できる。この場合、土壌評価データが、どのような汚染物質を含有する汚染土層を備えた植物育成部2A〜2Dで育てた供試植物52から採取されたサンプルデータと似ているのかを判定することで、当該評価対象土壌50にどのような汚染物質が残留しているのかを判断できる。当該評価対象土壌50の汚染物質がわかれば、その汚染物質を効果的に除去できる浄化方法を用いて当該評価対象土壌50を浄化できるようになる。
【0018】
実施形態によれば、植物51を評価対象土壌50の浄化処理後の浄化効果を判定するためのセンサーとして用いることができるようになり、評価対象土壌50の関係者は、評価対象土壌50の浄化効果を、当該評価対象土壌50が浄化されていることを具現化している植物51によって現場で現状確認できることから、評価対象土壌50の関係者の心理的な嫌悪感が払拭されるようになる。
【0019】
実施形態によれば、評価対象土壌50の浄化が不完全な場合に、当該評価対象土壌50に残っている汚染物質を判断できるようになるので、その汚染物質を効果的に除去できる浄化方法を用いて当該評価対象土壌50を浄化できるようになる。
【0020】
尚、評価対象土壌50としての汚染土壌に上述した各種の植物51を植えて、当該各種の植物51の土壌評価データを記録し、当該土壌評価データと上記サンプルデータとを比較することで、当該汚染土壌の汚染物質を特定することも可能となるので、その汚染土壌の汚染物質を効果的に除去できる浄化方法を用いて汚染土壌を浄化できるようになる。
【符号の説明】
【0021】
50 評価対象土壌、51 植物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化処理中の評価対象土壌、又は、浄化処理後の評価対象土壌に植物を植え、当該植物を当該評価対象土壌の浄化効果を判定するためのセンサーとして用いることを特徴とする土壌の状態判定方法。
【請求項2】
汚染されていない土壌に植物を植えた後に採取した当該植物のデータをサンプルデータとし、上記評価対象土壌に植物を植えた後に採取した当該植物のデータを土壌評価データとし、当該土壌評価データとサンプルデータとを比較し、近似していれば上記評価対象土壌が浄化されていると判定することを特徴とする請求項1に記載の土壌の状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−72941(P2011−72941A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228347(P2009−228347)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(509272621)
【出願人】(509272632)
【Fターム(参考)】