説明

土壌加温システム

【課題】広い範囲の土壌を長時間に亘って効率よく加温する。
【解決手段】
本発明の土壌加温システムは、電気ヒーター11b及び水の受け容器11aが内部に設けられた圧力容器11と、この圧力容器11内に加圧空気を導入する空気導入部14と、受け容器に水を供給する水タンク15及び給水バルブ16と、土壌Gに埋設され、圧力容器11で生成された加圧蒸気を噴射口12cから土壌Gへ噴射する送気管12と、圧力容器11と噴射口12cの間に配置され、圧力容器11と送気管12との間を連通したり遮断したりする噴射用バルブ13とを有する。そして、圧力容器11では、容器内に加圧空気が導入された後、受け容器11aに供給された水を電気ヒーター11bによって加圧することで加圧蒸気を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の浄化や土壌改良をするために土壌を加温する土壌加温システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、土壌を加温することで土壌を浄化することが行われている。例えば、特許文献1には、生石灰抗と土中水との反応熱によって土壌を加温し、土壌中の汚染物質を揮発させる浄化方法が記載されている。また、特許文献2には、汚染物質を分解可能な微生物を活性化することにより、土壌中の汚染物質を分解する浄化方法が記載されている。一般に微生物は、40℃程度の暖かい環境下で活性化することが知られているので、土壌を加温することで微生物による浄化能力を高めることができる。また、特許文献3には、土壌中にヒーターを設置し、このヒーターを発熱させることで周囲の土壌を加温する浄化方法が記載されている。さらに、特許文献4には、汚染土壌に高圧蒸気を噴射することで周囲の土壌を加温する浄化方法が記載されている。
【0003】
なお、土壌の加温は、土壌浄化の他、地盤改良や作物の生育促進の観点からも行われることがある。すなわち、固化材を混合した土壌に対し、固化材の固化を促進する目的で土壌を加温することがある。また、冬期において土壌の温度を適温に保つ目的で土壌を加温することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−292361号公報
【特許文献2】特開平9−10752号公報
【特許文献3】特開2002−119953号公報
【特許文献4】特表平4−501231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、生石灰と土中水の反応熱を用いる浄化方法では、土壌を長時間に亘って加温し続けることは困難である。また、生石灰と水が反応すると水酸化カルシウムが生成されるため、土壌がアルカリ性になってしまうという問題がある。
【0006】
また、ヒーターを使って土壌を加温する浄化方法では、ヒーター近傍の極めて狭い範囲の土壌しか加温できない。このため、広い範囲の土壌を加温するためには、複数のヒーターを用いなければならない。
【0007】
さらに、高圧蒸気を土中に噴射する浄化方法では、噴射直後に蒸気が凝集して圧力が低くなるため、ヒーターを使う浄化方法と同様に、広い範囲の土壌を加温するためには高圧蒸気の噴射管を多数用いる必要がある。また、この浄化方法では、噴射口周辺の水分量が過度に高くなり、土壌が緩んでしまうという問題もある。加えて、高圧蒸気をボイラー設備で生成し、地上の配管を用いて多数の箇所へ分配するように構成した場合、配管やジョイント部が破損すると高圧蒸気が漏れることとなるため、対策に万全を来さなければならない。加えて、地上に設置された配管では保温処理を施しても熱損失が生じるため、効率が損なわれてしまうという問題が生じる。
【0008】
なお、加熱された空気を土中に噴射することで土壌を加温することも考えられるが、空気の熱容量は小さ過ぎるため、広い範囲の土壌を加温することは困難である。
【0009】
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、広い範囲の土壌を長時間に亘って効率よく加温することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため本発明は、
土壌中に蒸気を噴射することで前記土壌を加熱する土壌加温システムであって、
ヒーター及び液体の受け容器が内部に設けられた圧力容器と、
前記圧力容器内に加圧ガスを導入するガス導入部と、
前記受け容器に液体を供給する液体供給部と、
噴射用バルブを介して前記圧力容器と連通可能に構成され、前記噴射用バルブが閉じられるとともに前記加圧ガスが前記圧力容器に導入された状態で、前記受け容器に供給された液体を前記ヒーターで加熱することによって前記圧力容器内に生成された加圧蒸気を、前記噴射用バルブを開放することで前記土壌中に配置された噴射口から前記土壌へ噴射する蒸気噴射管と、
を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、容器内の加圧蒸気が噴射口から噴射されると、噴射直後の加圧蒸気は、液体蒸発時の膨張に伴う圧力と加圧ガスの圧力とがあわさり、強い力で土壌内を進行する。その後、土壌に熱を吸収されることで液体分が凝集して圧力が低下するが、それでも加圧ガスの圧力が作用するため、蒸気は土壌内をさらに進行できる。これにより、単に蒸気を噴射した場合よりも遠くへ蒸気を拡散させることができ、広い範囲の土壌を加温できる。
【0012】
そして、蒸気の基となった液体は、空気よりも熱容量が大きいため、加熱された空気を噴射する場合に比べて効率よく土壌を加温できる。さらに、本発明では、加圧蒸気を繰り返し噴射することで、土壌を長期間に亘って加温することができる。
【0013】
本発明の土壌加温システムにおいて、ガス抜きバルブの開状態で圧力容器の内部と外部を連通させる一方、ガス抜きバルブの閉状態で圧力容器の内部を外部から遮断するガス抜き部を設け、このガス抜きバルブを、噴射用バルブが開放された後に閉状態から開状態に変換するようにした場合には、噴射用バルブが開放されて加圧蒸気が土壌に向けて噴射された後、圧力容器の内部を外気と同じ圧力にすることができる。ここで、容器内に残圧があると、液体供給部に対して容器内の圧力が作用して噴出してしまうこともあり得る。そして、圧力容器の内部を外気と同じ圧力にすることで、次のサイクルにおける加圧蒸気の生成を早期に開始できる。
【0014】
本発明の土壌加温システムにおいて、噴射口を蒸気噴射管の下端側面に設けた場合には、噴射口から噴射された加圧蒸気が放物線を描くように上方へ拡散するので、広い範囲の土壌を効率よく加温できる。
【0015】
本発明の土壌加温システムにおいて、受け容器に供給される液体を水にした場合には、加圧された水蒸気が噴射されるので、加温対象の土壌についてpHが酸性側に変化したり、アルカリ性側に変化したりすることを抑制できる。
【0016】
本発明の土壌加温システムにおいて、土壌表面を気密状態で覆う気密シートと、この気密シートで覆われた土壌に埋設され、土壌中のガスを吸引するガス吸引部とを設けた場合には、加圧蒸気と共に上昇する土壌中の汚染物質を効率よく回収できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の土壌加温システムによれば、広い範囲の土壌を長時間に亘って効率よく加温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】土壌浄化システムの全体構成を説明する図である。
【図2】(a),(b)は、密閉容器における飽和水蒸気圧及び飽和水蒸気量と容器内温度の関係を説明する図である。
【図3】(a)〜(d)は土壌浄化システムの動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、蒸気の噴射によって汚染土壌を加温し、土壌を浄化する土壌浄化システムを例に挙げて説明する。この土壌浄化システムは、土壌加温システムに有害物質吸着工程を行う部分を付加することで構成される。
【0020】
図1に示す土壌浄化システムは、蒸気製造噴射装置1と、吸気管2と、吸引ポンプ3と、気液分離器4と、吸着槽5と、コンプレッサー6と、空気貯留タンク7とを有している。なお、これらの部分のうち、蒸気製造噴射装置1、吸気管2、吸引ポンプ3、気液分離器4、及び、コンプレッサー6が土壌加温システムに相当する。従って、土壌浄化システムは、土壌加温システムに吸着槽5を付加したものといえる。
【0021】
蒸気製造噴射装置1は、内部で加圧蒸気を生成する圧力容器11と、この圧力容器11と連通され、土壌Gに埋設される送気管12(蒸気噴射管)と、圧力容器11と送気管12の間に配置される噴射用バルブ13とを有する。この蒸気製造噴射装置1は、圧力容器11内で生成された加圧蒸気を、噴射用バルブ13の制御によって送気管12に導いて土壌Gへ噴射させる。なお、この蒸気製造噴射装置1については、後で詳しく説明する。
【0022】
吸気管2は、土壌Gの内部を地表付近まで上昇した蒸気を吸い込むためのものであり、有孔管やメッシュ状の暗渠管によって構成されている。この吸気管2は、土壌Gにおける地表側の位置に、地表に沿って複数横並びに配置されている。なお、本実施形態において、吸気管2が設けられた領域の地表部分は、気密シート8によって覆われている。この気密シート8により、揮発性の有害物質(例えば揮発性有機化合物)が含まれた蒸気を、外部に漏らすことなく回収できる。
【0023】
吸引ポンプ3は、吸気管2と気液分離器4とを接続する送気配管9の途中に設けられ、吸気管4側から気液分離器4側へ気体を送り出す。従って、この吸引ポンプ3を動作させると、土壌G中を上昇した蒸気が吸気管2の内部に吸い込まれる。そして、吸い込まれた蒸気は、送気配管9を通じて気液分離器4へと送られる。
【0024】
気液分離器4は、気体から水分を分離する装置であり、例えばノックアウトドラムによって構成される。そして、水分が分離された後の気体は吸着槽5に送られる。一方、分離された水分(分離水)には、少量ではあるが有機塩素化合物などの有害物質が含まれていることがあり、そのまま下水道などへ放流することはできない。このため、分離水については、水処理用の活性炭などを通過させることによって無害化し、その後排出される。
【0025】
吸着槽5は、気体中に含まれる有害物質を除去する装置であり、例えば活性炭吸着槽が用いられる。この活性炭吸着槽は、活性炭が充填された吸着室を内部に有し、導入口から導入された気体を活性炭に接触させる。活性炭との接触により、気体に含まれる揮発性の有害物質が活性炭に吸着される。そして、活性炭を通った後の気体は、排出口から排出される。
【0026】
コンプレッサー6は、吸着槽5から排出された気体を圧縮する装置である。ここで、吸着槽5から排出された気体は、気液分離器4で水分が除去され、吸着槽5で有害物質が吸着されているので、無害な低湿度の空気である。そして、コンプレッサー6で圧縮された空気は、加圧空気として空気貯留タンク7に貯留される。
【0027】
空気貯留タンク7は、コンプレッサー6から送られてきた加圧空気を貯留するものである。この加圧空気は、蒸気製造噴射装置1の圧力容器11の内部圧力よりも高い、規定の圧力で貯留されている。そして、加圧蒸気の生成時に圧力容器11へと送られる。
【0028】
次に、蒸気製造噴射装置1について詳しく説明する。
【0029】
蒸気製造噴射装置1は、圧力容器11と、送気管12と、噴射用バルブ13と、空気導入部14(ガス導入部)と、水タンク15と、給水バルブ16と、空気抜き部17(ガス抜き部)と、安全バルブ18とを有している。
【0030】
圧力容器11は、前述したように加圧蒸気を生成する部分である。本実施形態では、容積が10L程度であって耐圧が7気圧程度のものが用いられる。圧力容器11は後述するように100℃以上の高温になるため、熱損失をできるだけ抑える目的で、容器の外面或いは内面又は内外面に、ロックウール、ガラスウール、セラミックファイバー等を、例えばブランケット状にした保温材を装着する。この圧力容器11の内部空間には、水受け容器11aと電気ヒーター11bが設けられている。水受け容器11aは、水タンク15から供給された水を受ける部分であり、液体受け部に相当する。この水受け容器11aは、例えば上面が開口した金属製のトレイ状部材によって構成される。
【0031】
電気ヒーター11bは、通電によって発熱し、水の沸点よりも高い温度まで加熱する。この電気ヒーター11bは水受け容器11aの内側に配置されている。このため、水が供給された後に電気ヒーター11bが加熱されると、水受け容器11a内の水が蒸発し、圧力容器11の内部が蒸気で満たされる。後述するように、この蒸気製造噴射装置1では、圧力容器11に加圧空気を供給した後に電気ヒーター11bを加熱する。このため、電気ヒーター11bの出力は、加圧空気による加圧下であっても、水が蒸発する温度まで水受け容器11bに供給された水を加熱できる程度に定められる。
【0032】
送気管12は、蒸気噴射管に相当する部材であり、噴射用バルブ13を介して圧力容器11と連通される筒状部材として構成される。そして、蒸気製造噴射装置1の使用時において、送気管12は、上端部を除く大半の部分が土壌Gに埋設される。また、送気管12の下端は蓋部材によって塞がれており、下端側面には蒸気を噴射する噴射口12aが設けられている。なお、送気管12の長さや太さ、噴射口12aの大きさや数は、加圧蒸気の圧力や土壌Gの状態などに応じて定められる。
【0033】
噴射用バルブ13は、前述したように圧力容器11と送気管12の間に配置されており、開状態において圧力容器11と送気管12とを連通し、閉状態において圧力容器11と送気管12とを遮断する。この噴射用バルブ13は、開閉状態を外部から電気的に制御できる。
【0034】
空気導入部14は、圧力容器11の内部に加圧空気を導入するための部分であり、空気導入管14aと空気導入バルブ14bとを有している。空気導入管14aは、一端が圧力容器11の側面に接続され、他端が空気貯留タンク7からの送気配管9に接続されている。また、空気導入バルブ14bは、空気導入管14aの途中に設けられており、開状態において加圧空気の圧力容器11側への流れを許容し、閉状態において加圧空気の圧力容器11側への流れを遮断する。この空気導入バルブ14bもまた、制御部によって開閉状態を外部から電気的に制御できる。
【0035】
水タンク15は、蒸気の基となる水を貯留する部分であり、給水バルブ16や給水管19とともに給水部(液体供給部)となる。本実施形態では、この水タンク15を圧力容器11の天井部よりも上方に配設している。水タンク15の底部と圧力容器11の天井部とは給水管19で接続されている。この給水管19は、水タンク15に貯留された水を圧力容器11内に供給するための部材である。そして、給水管19から圧力容器11に供給された水は、圧力容器11の内部を落下して水受け容器11aに貯められる。
【0036】
給水バルブ16は、給水管19の途中に設けられており、水タンク15から圧力容器11への水の供給を制御する。給水管19から排出された水は水量枡(図示せず)を満たし、水量枡が規定量の水で満たされると、この規定量の水が水受け容器11aへ落下する。この給水バルブ16は、例えば電磁弁によって構成され、制御部によって開閉動作が外部から電気的に制御される。従って、給水バルブ16を制御することで、給水開始や給水終了、給水量を制御することができる。
【0037】
空気抜き部17は、圧力容器11の内部を外部に連通させたり、圧力容器11の内部を外部から遮断させたりするための部分であり、空気抜き管17aと空気抜きバルブ17bとを有している。空気抜き管17aは、一端が圧力容器11の側面に接続され、他端が大気開放されている。また、空気抜きバルブ17bは、空気抜き管17aの途中に設けられており、開状態において圧力容器11の内部を外部に連通させ、閉状態において圧力容器11の内部を外部から遮断させる。この空気抜きバルブ17bもまた、制御部によって、開閉状態が外部から電気的に制御される。
【0038】
安全バルブ18は、圧力容器11の内部圧力が過度に大きくなる不具合を防止するためのものである。この安全バルブ18は、バルブ取り付け管20を介して圧力容器11に取り付けられている。そして、圧力容器11の内部圧力が閾値以下の場合には閉状態となっており、この閾値を超えると開状態に切り替わる。この動作により、圧力容器11の内部圧力は閾値以下に維持される。なお、本実施形態では、耐圧が7気圧の圧力容器11を用いているため、閾値は7気圧よりも低い値に設定されている。これにより、圧力容器11の内部圧力は、7気圧を超えないように調整される。また、安全バルブ18は、規定の内圧(ここでは7気圧)を超えると自動的に開いて内圧を放出する機構になっている。
【0039】
この蒸気製造噴射装置1では、前述したように、圧力容器11に加圧空気を導入した後、電気ヒーター11bによって水受け容器11aを加熱することで、加圧蒸気を生成する。ここで、この加圧蒸気が有する熱量について説明する。
【0040】
加圧蒸気の熱量を検討するに際し、説明用の例として、処理条件を次のように定める。すなわち、圧力容器11の容積を10Lとし、水受け容器11aに供給される水の量を10gとする。そして、加圧空気を導入することで、加熱前(20℃とする)における圧力容器11の圧力を2気圧(0.2MPa)とする。また、加熱前における圧力容器11の内部温度が20℃であって、圧力容器11を密閉した状態で150℃まで温度を上昇させることとする。
【0041】
この条件下における圧力容器11の容器内圧力について検討する。まず、蒸気の分圧について検討する。図2(a)及び図2(b)に示すように、温度150℃における飽和水蒸気圧は5000hPaであり、飽和水蒸気量は2500g/mである。この図から、1mの圧力容器11であれば、2.5kgの水を蒸気にすることができ、そのときの容器内圧力は0.5MPa(=5000hPa)になることが判る。本実施形態では、10Lの圧力容器11を用いるため、温度150℃で25gの水を蒸気にすれば、容器内圧力が0.5MPaになる。前述の処理条件において、蒸発させる水の量は10gであるため、この量の水を蒸発させた際の蒸気分圧は、次式(1)から0.2MPaになる。
蒸気分圧=0.5MPa×(10g/25g)=0.2MPa … (1)
【0042】
次に、空気分圧について検討する。前述の処理条件において、加熱前の空気圧力は0.2MPaである。そして、容器内の空気は加熱によって膨張するので、その圧力を高める。膨張後の空気分圧は、次式(2)から約0.3MPaになる。
空気分圧=0.2MPa×(273K+150K)/(273K+20K)≒0.3MPa … (2)
【0043】
そして、容器内圧力は、蒸気分圧と空気分圧とを加算した値になるので0.5MPaになる。ここで、水の量を増やせば蒸気の分圧が増えるので容器内圧力が高くなり、水の量を減らせば蒸気の分圧が減るので容器内圧力が低くなる。すなわち、蒸発させる水の量を調整することで、容器内圧力を調整できる。また、加熱温度の設定値を調整することで、容器内圧力を調整できる。
【0044】
次に、加熱に要する熱量について検討する。ここでは、水の加熱に係る熱量と乾き空気の加熱に係る熱量とに分けて検討する。
【0045】
水の加熱に係る熱量は、水の蒸発熱と水の比熱とを加算したものになる。このため、次式(3)に示すように、熱量は6690calとなる。なお、100℃における水の蒸発潜熱を539cal/gとした。
熱量(水)=10g×539cal/g+10g×(150℃−20℃)×1cal/g/℃=6690cal … (3)
【0046】
乾き空気の加熱に係る熱量は、次式(4)に示すように、約578calとなる。なお、空気の比重を1.3g/L/atm、乾き空気の定容比熱を0.171cal/g/℃とした。
熱量(乾き空気)=10L×1.3g/L/atm×2atm×(150℃−20℃)×0.171cal/g/℃≒578cal … (4)
【0047】
従って、合計の熱量は7268cal(=30526J)となり、1000Wのヒーターで約30秒間加熱した際の熱量に相当する。このため、1000Wよりも大きな出力のヒーターを用いれば、30秒よりも短い時間で水を蒸発させることができる。ここで、水の加熱に係る熱量と乾き空気の加熱に係る熱量とを比較すると、水の熱量は乾き空気の熱量よりも10倍以上大きい。このことから水は、加圧蒸気において熱量を高めるための要素としても機能していることが判る。
【0048】
そして、圧力容器11内の蒸気が全て噴射口12aから噴射され、温度15℃の土に対する加温に使われたと仮定すると、次式(5)に示すように、1回の蒸気噴射によって約550gの土を40℃まで加温できるといえる。なお、土の比熱を0.53cal/g/℃とした。
加温される土の量=7268cal÷0.53[cal/g/℃]÷(40℃−15℃)≒550g … (5)
【0049】
例えば、直径2m、深さ5m、体積15.7m、質量23.6トンの土を15℃から40℃に加温する場合について考える。この場合、次式(6)に示すように、約42900回の噴射を繰り返すことにより、質量23.6トンの土を加温できる。30秒間に1回の頻度で噴射を繰り返した場合、所要日数は約15日となる。また、必要な水の量は、次式(7)に示すように429Lになる。さらに、噴射される蒸気の体積及び加温対象の土の体積に対する比率は、次式(8),(9)に示すように蒸気の体積が429mとなり、比率が約27倍となる。
【0050】
繰り返し回数=23.6トン×1000[kg/トン]÷0.55[kg/回]≒42900回 … (6)
水の必要量=42900回×0.01[L/回]≒429L … (7)
蒸気の体積=42900回×0.01[m/回]≒429m … (8)
比率=429m÷15.7m≒27倍 … (9)
【0051】
従って、本実施形態の蒸気製造噴射装置1を用いることにより、質量で23.6トンにもなる大量の土を、理論上は15日程度の期間で加温でき、加温に際して必要となる水の総量も約430Lと少なく抑えられることが理解できる。
【0052】
次に、図3を参照し、土壌浄化システムによる土壌Gの加温について説明する。
【0053】
この土壌浄化システムでは、まず、図3(a)に示すように、圧力容器11の内部を大気圧にする。このため、空気抜きバルブ17bを開状態にする。また、給水バルブ16を開放し、規定量(10g)の水を水受け容器11aに供給する。なお、このとき、噴射用バルブ13、空気導入バルブ14b、安全バルブ18は閉状態になっている。
【0054】
水受け容器11aに水を供給したならば、圧力容器11に加圧空気を導入する。この場合、図3(b)に示すように、給水バルブ16及び空気抜きバルブ17bを閉状態にした後に、空気導入バルブ14bを開状態にする。ここで、本実施形態では、圧力容器11の内部が大気圧であって、空気貯留タンク7に貯留されている加圧空気が規定の圧力であるため、空気導入バルブ14bの開放時間によって圧力容器11の内部を所望の圧力にすることができる。本実施形態では、圧力容器11の内部が2気圧になる期間に亘って空気導入バルブ14bを開状態にする。
【0055】
圧力容器11に加圧空気を導入したならば、水受け容器11aの水を蒸発させる。この場合、図3(c)に示すように、空気導入バルブ14bを閉状態にした後に、電気ヒーター11bに通電する。これにより、水受け容器11aが加熱されて容器内の水が蒸発し、圧力容器11の内部が加圧蒸気Vで満たされる。
【0056】
圧力容器11の内部が加圧蒸気Vで満たされたならば、この加圧蒸気Vを噴射する。すなわち、噴射用バルブ13を開放して、噴射口12aから加圧蒸気Vを土壌Gに向かって噴射する。
【0057】
ここで、本実施形態では、加圧蒸気Vを生成するに際し、水の加熱前に加圧空気を圧力容器11の内部に導入している。このため、噴射口12aから噴射された加圧蒸気Vの温度が下がって凝集が生じても加圧空気に伴う圧力が残っており、加圧蒸気Vが土壌G内をさらに進行する。従って、単に蒸気を噴射した場合よりも遠くへ蒸気を拡散させることができ、広い範囲の土壌Gを加温できる。また、噴射口12aの近傍で多くの水が凝集して地盤が緩くなってしまう不具合も抑制できる。
【0058】
そして、蒸気を含んだ空気は乾き空気よりも蒸気の分だけ熱容量が大きいので、加熱された乾き空気を噴射する場合に比べて効率良く土壌Gを加温することができる。また、加圧蒸気Vを瞬間的に噴射させているので、蒸気の進行によって土壌Gに空気の通り道ができても反動で土が戻り、空気の通り道が塞がれる。これにより、空気の通り道が一定部分に形成されていることによる不具合、すなわち固定された空気の通り道の周辺のみが他の部分に比べて加温され、土壌Gの温度にムラができてしまう不具合を抑制できる。その結果、土壌Gを均等に加温することができる。
【0059】
土壌Gに噴射された加圧蒸気Vは土壌Gの内部を上昇する。ここで、噴射口12aが蒸気噴射管の下端側面に設けられているので、図3(d)に矢印で示すように、噴射口12aから噴射された加圧蒸気Vが放物線を描くように上方へ拡散する。このため、広い範囲の土壌Gを効率よく加温できる。そして、本実施形態では、水を蒸発させているので、加温対象の土壌Gについて、pHが酸性側に変化したり、アルカリ性側に変化したりすることを抑制できる。
【0060】
加圧蒸気Vが上昇するとき、土壌Gに含まれる揮発性の有害物質もこの加圧蒸気Vとともに土壌G内を上昇する。これらの加圧蒸気V及び有害物質は、地表付近において吸気管2に吸い込まれる。その後、気液分離器4で水分が分離され、吸着槽5で有害物質が吸着される。水分及び有害物質が除去された空気はコンプレッサー6で圧縮され、加圧空気として圧力容器11に貯留される。圧力容器11に貯留された加圧空気は、圧力容器11に供給されて次サイクル用の加圧蒸気の生成に用いられる。
【0061】
次サイクルでも、図3(a)から図3(d)で説明した動作が行われる。ここで、噴射口12aから加圧蒸気Vが噴射された後、加圧空気の導入に先立って空気抜きバルブ17bを開状態とし、圧力容器11の内部を大気圧に戻しているので、加圧空気の導入を速やかに行える。すなわち、圧力容器11内の圧力を大気圧とほぼ等しくしておくことで、給水バルブ16を開放した際に、圧力容器11内の蒸気が水タンク15へ流れ込むことを防止し、上方からの自由落下による水の供給を確実に行うことができる。その結果、加圧蒸気Vの生成を早期に開始できる。
【0062】
以後は、加圧蒸気Vの生成と噴射とが繰り返し行われて土壌Gが加熱される。このため、土壌Gを長期間に亘って加温することができる。そして、1回の噴射で使用される水の量は10g(10cc)程度と極めて少ない。このため、水タンク15への水の補給頻度も少なくすることができ、作業者の負担が少ない。
【0063】
===その他の実施形態===
以上の各実施形態に関する説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨、目的を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0064】
まず、蒸気生成用の液体に関し、前述の実施形態では水を用いているがこれに限定されない。例えば、エタノールであってもよい。また、浄化用の微生物を活性化させる目的で土壌Gを加温する場合には、蒸気生成用の液体に微生物用の栄養素を混ぜてもよい。
【0065】
また、圧縮空気を供給するに際し、空気貯留タンク7に代えてコンプレッサーを接続してもよいし、圧縮空気に代えて、加圧された窒素ガスを用いてもよい。
【0066】
さらに、圧力容器11の容積、送気管12の長さや太さは、前述の実施形態のものに限定されるものではなく、土壌Gの状態にあわせて適宜に設定できる。
【0067】
また、前述の実施形態では土壌浄化システムを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、地盤改良のために土壌Gを加温するシステムであってもよいし、作物の生育促進のために土壌Gを加温するシステムであってもよい。そして、作物の生育促進のために土壌Gを加温する場合には、作物の栄養素を蒸気生成用の液体に混入させるとよい。
【符号の説明】
【0068】
1 蒸気製造噴射装置
2 吸気管
3 吸引ポンプ
4 気液分離器
5 吸着槽
6 コンプレッサー
7 空気貯留タンク
8 気密シート
9 送気配管
11 圧力容器(11a 水受け容器,11b 電気ヒーター)
12 送気管(12a 噴射口)
13 噴射用バルブ
14 空気導入部(14a 空気導入管,14b 空気導入バルブ)
15 水タンク
16 給水バルブ
17 空気抜き部(17a 空気抜き管,17b 空気抜きバルブ)
18 安全バルブ
19 給水管
20 バルブ取り付け管
G 土壌
V 加圧蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中に蒸気を噴射することで前記土壌を加熱する土壌加温システムであって、
ヒーター及び液体の受け容器が内部に設けられた圧力容器と、
前記圧力容器内に加圧ガスを導入するガス導入部と、
前記受け容器に液体を供給する液体供給部と、
噴射用バルブを介して前記圧力容器と連通可能に構成され、前記噴射用バルブが閉じられるとともに前記加圧ガスが前記圧力容器に導入された状態で、前記受け容器に供給された液体を前記ヒーターで加熱することによって前記圧力容器内に生成された加圧蒸気を、前記噴射用バルブを開放することで前記土壌中に配置された噴射口から前記土壌へ噴射する蒸気噴射管と、
を有することを特徴とする土壌加温システム。
【請求項2】
ガス抜きバルブの開状態で前記圧力容器の内部と外部を連通させ、前記ガス抜きバルブの閉状態で前記圧力容器の内部を外部から遮断するガス抜き部を有し、
前記ガス抜きバルブは、前記噴射用バルブが開放された後に閉状態から開状態に変換されることを特徴とする請求項1に記載の土壌加温システム。
【請求項3】
前記噴射口は前記蒸気噴射管の下端側面に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の土壌加温システム。
【請求項4】
前記液体は水であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の土壌加温システム。
【請求項5】
土壌表面を気密状態で覆う気密シートと、
前記気密シートで覆われた前記土壌に埋設され、前記土壌中のガスを吸引するガス吸引部とを有することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の土壌加温システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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