説明

土壌固化剤及びその製造方法

【課題】土木工事等において殊に有機質を含む軟弱土壌に対して優れた固化効果を発揮する土壌固化剤とその製造方法を提供する。
【解決手段】MgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物からなる土壌固化剤である。
また、MgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物との混合物からなる土壌固化剤である。
更に、リン酸またはリン酸塩水溶液とマグネシウム塩水溶液をpH9〜10の範囲で反応させ、反応生成物を濾過、洗浄後、乾燥させることからなるMgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物からなる土壌固化剤の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌固化剤及びその製造方法に関し、土木工事等において殊に有機質を含む軟弱土壌に対して優れた固化効果を発揮する土壌固化剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に土木工事等に於いて、軟弱地盤等の安定化処理方法として、固化剤を使用する固化処理が行われている。また、土木工事等に伴って発生する土壌等を搬出する場合にも、土壌が流動性を有しそのままでは搬出できないため、固化剤を使用して固化処理を行い搬出する方法が行われている。
土壌の固化処理に際しては、固化後の土壌が目的に応じた十分な強度を有していることと、固化処理した土壌が環境に悪影響を及ぼすものではないこと等が要求されている。
【0003】
軟弱土壌等の固化処理では、セメント系あるいは石灰系の固化剤を対象土壌に添加混合し処理する方法が一般的に行われている。
しかし、これら固化剤の主成分であるセメント、生石灰、消石灰等で固化処理された土壌は、処理土のpHが12〜13という高いpHとなり、この様な土壌では植生には適さない。また、湖沼、河川等の水域近くでは、固化処理土に接する水が強アルカリ性となるため、水性生物の生育にも影響を及ぼし環境問題を生じる。
【0004】
一方、土木工事等によって発生した泥化土壌はこれを搬出し易くするため、その固化処理に際して有機高分子凝集剤や吸水性樹脂等が多用されている。この場合、土壌が強アルカリ性にはならないものの処理土に耐水性がなく、水が混入すると再泥化し、更に薬剤の添加量が多くなると処理土が粘性化し、その再利用が困難となる。
従って固化処理が容易であり、しかも固化を行った後の処理土による環境への影響がなく、むしろ好環境をもたらす固化強度に優れた固化剤が要望されている。特にこのような固化剤として、中性で取扱いの容易な無機系の固化剤の出現が要望されている。
【0005】
この様な中性の土壌固化剤として、リン酸成分とマグネシウム成分を用いて土壌を硬化或いは固化させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この固化剤は二成分系であるため不均一成分になり易く、処理対象土壌によっては固化速度、強度にムラが生じ作業効率を悪化させるという問題がある。
更に、弱アルカリ性であるが、酸化マグネシウムとリン酸一水素マグネシウムを用いて水酸化マグネシウムのコロイド粒子とリン酸マグネシウム水和物を生成することにより土壌を固化させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、この方法も前記と同様に充分な固化強度を発揮できないという問題があるだけでなく、土壌中で反応させるために固化剤の粒径調整も必要となり製造コストも高くなる。更に、酸化マグネシウム含有比率が高いために、この様な固化剤は処理土壌がpH9以上のアルカリ性となり、環境への影響を及ぼすことから問題となる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−249774号公報
【特許文献2】特開2002−255602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは前述のような状況に於いて、固化処理が容易であり、しかも固化を行った後の処理土による環境への影響がなく、むしろ好環境をもたらす、固化強度に優れた固化剤について鋭意検討を重ねた。その結果、非晶質である特定組成のリン酸マグネシウム化合物が、前述の課題を解決する優れた土壌固化剤となることを見出した。
また更に、この様なリン酸マグネシウム化合物に、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物を混合して使用することにより、土壌を固化した際にその強度が更に向上することを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち本発明は、MgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物からなる土壌固化剤に関する。
更に本発明は、MgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物との混合物からなる土壌固化剤に関する。
更に本発明は、リン酸またはリン酸塩水溶液とマグネシウム塩水溶液をpH9〜10の範囲で反応させ、反応生成物を濾過、洗浄後、乾燥させることからなるMgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物からなる土壌固化剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の土壌固化剤は、土木工事等に於いて殊に有機質を含む軟弱土壌に対して優れた固化強度を発揮する。また、中性であり固化した土壌からのアルカリ溶出の問題がなく、固化処理も容易である。また、固化処理を行った土壌は搬送し易く、更に固化剤の成分は肥料成分として作用するため、固化土壌は植生にも適するものである。
また、本発明の非晶質リン酸マグネシウム化合物からなる土壌固化剤の製造方法は、簡易な手段によって容易に非晶質リン酸マグネシウム化合物を得ることができ、その効果は大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の土壌固化剤は、MgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物からなる土壌固化剤である。
この様な非晶質リン酸マグネシウム化合物は、リン酸またはリン酸塩水溶液とマグネシウム塩水溶液をpH9〜10の範囲で反応させ、反応生成物を濾過、洗浄後、乾燥させることにより製造することができる。
【0011】
この非晶質リン酸マグネシウム化合物を、その製造方法に基づき説明する。
本発明の非晶質リン酸マグネシウム化合物の製造方法は、先ず、リン酸またはリン酸塩水溶液とマグネシウム塩水溶液をpH9〜10の範囲で反応させる。
使用するリン酸またはリン酸塩としては、湿式リン酸、乾式リン酸または副生リン酸またはこれらの塩等を例示できる。また、使用するマグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等を例示することができる。マグネシウム塩水溶液は、これらマグネシウム塩を水に溶解したものであっても、または、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等を塩酸、硫酸または硝酸に溶解したものであっても良い。好ましいマグネシウム塩水溶液は、塩酸溶解液である。
更に、これらリン酸またはリン酸塩とマグネシウム塩は、概ね5〜30質量%の水溶液として使用する。
【0012】
リン酸またはリン酸塩水溶液とマグネシウム塩水溶液との反応に際しては、反応溶液のpHは9〜10の範囲で行うことが本発明に於いて殊に重要である。即ち、本発明ではこの反応溶液pHを9〜10の範囲に調整することにより、始めて後述するようなMgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物を得ることができる。
この反応を行う際の溶液pHが9未満となると、非晶質リン酸マグネシウムの生成率が低下するだけでなく、結晶質リン酸マグネシウム(MgHPO4・3H2O)を生成し、固化能も低いものしか得られない。また、反対に反応時のpHが10を越えると、生成する非晶質リン酸マグネシウムのMgO/Pモル比が3.7を上廻り、上記と同様に固化性能が低下するだけでなく、固化剤中にアルカリ成分が残存することから、処理土のpHが高くなる欠点を有する。
従って、リン酸またはリン酸塩水溶液とマグネシウム塩水溶液との反応は、リン酸またはリン酸塩水溶液にマグネシウム塩水溶液を添加する際に、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を同時に添加しながら反応を行うか、あるいはリン酸またはリン酸塩水溶液とマグネシウム塩水溶液とを反応容器内へpH調整を行いながら同時に添加する方法により行う。
【0013】
また、反応温度と時間に関しては、特段限定されるものではないが、温度20〜30℃程度の常温では、概ね5〜15分程度である。反応後に得られる生成物は、次いで濾過、洗浄を行い、乾燥手段に供する。
濾過、洗浄手段に関しては特段限定されるものではなく、減圧濾過法、加圧濾過法、遠心濾過法等により行う。また、洗浄は水で行えばよい。
乾燥方法は、静置乾燥法、噴霧乾燥法、回転乾燥法等の通常の手段により行えばよく、乾燥温度は100〜200℃で、概ね恒量となるまで行う。
【0014】
このような方法により、本発明のMgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物を得ることができる。また、この様にして得られる非晶質リン酸マグネシウム化合物は、その粒子径は10μm程度と小さく、見かけの嵩密度も0.2〜0.3g/mlと低いものである。また、水に対して難溶性であり、吸湿性の低い安定な物質である。
このようにして得られる本発明の非晶質リン酸マグネシウム化合物は、X線回折では無定形である。(図1参照)
これに対して、反応時のpHを7で合成したMgHPO4・3H2Oで示されるリン酸マグネシウムは結晶質である。(図2参照)
また、Mg3(PO4)2・8H2Oとして示される一般のリン酸マグネシウムも結晶質である。(図3参照)
【0015】
次に、本発明のMgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物との混合物からなる土壌固化剤について詳記する。
この本発明の土壌固化剤は、前述のMgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物とを混合するものであるが、この様にすることで、本発明の非晶質リン酸マグネシウムを単独で使用した場合に比べ、更に処理土壌の強度を増加させることができる。
更には、処理土が水に接した際には、固化土壌からのリン酸成分の溶出を抑制するという効果を発揮する。
【0016】
尚、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物に代えて、他のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩類の使用では、その理由は定かでないが、本発明のように固化強度を増加させるという効果を発揮しない。本発明では、このように塩化物のみが効果を奏することが特徴である。
【0017】
非晶質リン酸マグネシウム化合物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物との混合割合は、非晶質リン酸マグネシウム化合物:アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物=80〜97:3〜20質量%の範囲である。
即ち、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物の混合割合が97:3を下廻りアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物の使用量が少ないと、この添加による固化強度の向上に寄与しない。また反対に、80:20を上廻りアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物の使用量を多くしても、使用量に見合った固化強度の向上には繋がらない。
また、本発明の土壌固化剤は、処理する土壌に添加する前に予め上記のような化合物の全成分を混合し、これを固化対象土壌に添加してもよいし、或いは各成分を個々に土壌に添加してもよい。
【0018】
本発明の土壌固化剤の使用量に関して云えば、固化対象土壌の土質、含水比等によって異なり一概には云えないが、一般的な軟弱土壌で含水比200%以下の場合には、本発明土壌固化剤は土壌1mあたり約50〜150kgの添加量が必要である。
また、含水比200〜400%の場合には、土壌固化剤は土壌1mあたり約150〜250kg程度の添加量とすることが望ましい。
尚、ここで云う含水比とは、土壌の固形分量に対する水分含有率即ち、水分量/土壌固形分量×100(%)で示される土壌の水分含有率である。
【0019】
また、処理対象土壌が高含水比の場合には、一般に使用されている無機凝集剤または有機高分子凝集剤あるいは吸水性樹脂等を併用して使用することもできる。この様な凝集剤として、無機凝集剤のポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等があり、有機高分子凝集剤としてポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル等が挙げられる。
【0020】
本発明の土壌固化剤は、様々な土壌の固化や土質改良等に利用できるが、セメント系、石灰系の固化剤では処理が困難な有機質を含有する軟弱土壌に対して特に効果的である。特に海水成分と有機質汚泥が混在する河口付近の河川浚渫土のような場合には、優れた固化効果を発揮する。
また、固化剤のpHが略中性のため、処理土はアルカリ溶出による環境負荷の心配が無い。更に、本発明固化剤の使用では、セメント系、石灰系の固化剤で有機質土壌を処理した際に発生するアンモニアガス等の発生も抑制できるという効果を発揮する。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を掲げ更に詳細に説明する。なお、実施例において%は特に断らない限り全て質量%を示す。
【0022】
[実施例1]
リン酸一ナトリウム(関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液7.3kgに、塩化マグネシウム(6水塩,関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液8.7kgを、12%水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加しながら溶液のpHを9.1に維持して反応を行った。尚、この時のpHの制御範囲は±0.1となるようにした。
反応生成物を減圧濾過装置により濾過し、更に水で洗浄した後、静置乾燥機中で105℃にて24時間乾燥を行った。乾燥後得られた粉末を分析に供した結果、Mg19.3%、P18.1%であり、MgO/Pのモル比は2.7であった。
また、この粉末をX線解析に供した結果、X線回折は非晶質からなる本発明のリン酸マグネシウムであった。
尚、X線回折装置は、(株)島津製作所製XRD−7000を使用し、Cu管球を用いて30kV、20mAの条件下で測定を行った。このX線回折図を図1に示した。
【0023】
[実施例2]
リン酸一ナトリウム(関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液7.3kgに、塩化マグネシウム(6水塩,関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液8.7kgを、12%水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加しながら溶液のpHを9.8に維持して反応を行った。尚、この時のpHの制御範囲は±0.1となるようにした。
反応生成物を加圧濾過装置により濾過し、更に水で洗浄した後、噴霧乾燥機中で200℃にて乾燥を行った。乾燥後得られた粉末を分析に供した結果、Mg23.0%、P17.9%であり、MgO/Pのモル比は3.3であった。
また、この粉末をX線解析に供した結果、X線回折は非晶質からなる本発明のリン酸マグネシウムであった。
【0024】
[比較例1]
リン酸一ナトリウム(関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液7.3kgに、塩化マグネシウム(6水和物,関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液8.7kgを、12%水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加しながら溶液のpHを7.0に維持して反応を行った。尚、この時のpHの制御範囲は±0.1となるようにした。
反応生成物を減圧濾過装置により濾過し、更に水で洗浄した後、静置乾燥機中で105℃にて24時間乾燥を行った。乾燥後得られた粉体を分析に供した結果、Mg17.6%、P18.0%であり、MgO/Pのモル比は2.4であった。
また、この粉末をX線解析に供した結果、X線回折は結晶質の回折ピークを有していた。このX線回折結果を図2に示した。
【0025】
[比較例2]
リン酸一ナトリウム(関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液7.3kgに、塩化マグネシウム(関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液8.7kgを、12%水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加しながら溶液のpHを10.2に維持して反応を行った。尚、この時のpHの制御範囲は±0.1となるようにした。
反応生成物を減圧濾過装置により濾過し、更に水で洗浄した後、噴霧乾燥機により200℃にて乾燥を行った。乾燥後得られた粉末を分析に供した結果、Mg23.0%、P15.2%であり、MgO/Pのモル比は3.9であった。
また、この粉末をX線解析に供した結果、X線回折は結晶質の回折ピークを有していた。
実施例1及び2、比較例1及び2で得た本発明の土壌固化剤と比較例の固化剤を使用し、以下の方法で土壌の固化試験を行った。
固化試験の対象土壌として、笠岡特殊粘土(清水礦業(株)製)を使用し、水でこの土壌を含水比67%、密度1.45g/mlからなる含水土壌に調製した。
この試験用含水土壌1,000mlに対して、本発明又は比較例の固化剤を150gの割合で添加し、これを万能混合攪拌機((株)品川工業所製 5DM型)で混合後、型枠(直径40mm×高さ80mm)に入れ、28日間空気中で養生した。固化後の供試体強度を一軸圧縮試験機(藤原製作所製、JIS A1216(土の一軸圧縮試験方法)仕様)で測定した。
また、固化土壌のpHは、固化土壌を10mm以下に解砕し、JGS 0211−2000(地盤工学会基準 土懸濁液のpH試験方法)に準拠して測定した。
これらの固化試験結果を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
[実施例3]
リン酸一ナトリウム(関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液7.3kgに、硝酸マグネシウム(関東化学(株)製,試薬特級) 5%水溶液23.4kgを、12%水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加しながら溶液のpHを9.5に維持して反応を行った。尚、この時のpHの制御範囲は±0.1となるようにした。
反応生成物を減圧濾過装置により濾過し、更に水で洗浄した後、回転乾燥機により出口温度130℃で4時間乾燥を行った。乾燥後得られた粉末を分析に供した結果、Mg21.3%、P18.1%であり、MgO/Pのモル比は3.0であった。
また、この粉末をX線解析に供した結果、X線回折は非晶質からなる本発明のリン酸マグネシウムであった。
【0028】
[比較例3]
比較のために、リン酸マグネシウム(Mg3(PO4)2・8H2O,関東化学(株)製,試薬1級)を使用し、この粉末をX線解析に供した。X線回折は結晶質のリン酸マグネシウムのピークを示した。このX線回折図を図3に示した。
【0029】
[比較例4]
リン酸水素マグネシウム(MgHPO4・3H2O,関東化学(株)製,試薬1級)89%と軽焼マグネシア(中国製,MgO 95%)11%とを混合し、比較のための固化剤を調製した。
【0030】
実施例3と比較例3及び4の固化剤を使用し、以下の方法で土壌の固化試験を行った。
固化試験の対象土壌として、加古川河口付近の河川浚渫土(兵庫県加古川市所在,含水比213%、密度1.30g/ml)を使用し、この試験用含水土壌1,000mlに対して、本発明又は比較例の固化剤を150gの割合で添加し、これを万能混合攪拌機で30秒間混合後、型枠(直径40mm×高さ80mm)に入れ、28日間空気中で養生した。固化後の供試体の強度を一軸圧縮試験機((株)藤原製作所製、JIS A1216仕様)で測定した。また、固化土壌のpHを併せて測定した。
これらの固化試験結果を表2に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
[実施例4〜14]
湿式リン酸(HPO66%)を水で希釈し28%リン酸21.2kgとし、これに工業用水酸化ナトリウムを添加して、24%リン酸一ナトリウム水溶液を調製した。別に、軽焼マグネシア(中国製,MgO 95%)の27%水スラリーに、工業用塩酸を添加して26%塩化マグネシウムの水溶液を調製した。上記24%リン酸一ナトリウム水溶液30.9kgに、26%塩化マグネシウム水溶液33.7kgを、25%水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加しながら溶液のpHを9.5に維持して反応を行った。尚、この時のpHの制御範囲は±0.1となるようにした。
反応生成物を加圧濾過装置により濾過し、更に水で洗浄した後、静置乾燥機中で200℃にて24時間乾燥を行った。乾燥後得られた粉末を分析に供した結果、Mg19.2%、P16.3%であり、MgO/Pのモル比は3.0であった。
また、この粉末をX線解析に供した結果、X線回折は非晶質からなる本発明のリン酸マグネシウムであった。
【0033】
このリン酸マグネシウムを使用し、これに表3に示した各種のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩化物を表3に示した割合で混合し、本発明の土壌固化剤を製造した。
これらの固化剤を使用し、以下の方法で土壌の固化試験を行った。
固化試験の対象土壌として、貯水池(加古川市平岡町三ッ池)工事より発生した有機質土(含水比245%、密度1.38g/ml)を使用し、この試験用含水土壌1000mlに対して本発明の固化剤を175gの割合で添加し、これを万能混合攪拌機で30秒間混合後、型枠(直径40mm×高さ80mm)に入れ、28日間空気中で養生した。
固化後の供試体の強度を一軸圧縮試験機で測定した。また、固化土壌のpHを併せ測定した。これらの固化試験結果を表3に示した。
【0034】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1で製造した本発明の非晶質のリン酸マグネシウムのX線回折図である。
【図2】比較例1で製造した結晶質を示すリン酸マグネシウムのX線回折図である。
【図3】比較例3で使用した市販のリン酸マグネシウム(8水塩) のX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物からなる土壌固化剤。
【請求項2】
MgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物との混合物からなる土壌固化剤。
【請求項3】
非晶質リン酸マグネシウム化合物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物との混合割合が、非晶質リン酸マグネシウム化合物:アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物=80〜97:3〜20質量%の範囲である請求項2記載の土壌固化剤。
【請求項4】
リン酸またはリン酸塩水溶液とマグネシウム塩水溶液をpH9〜10の範囲で反応させ、反応生成物を濾過、洗浄後、乾燥させることからなるMgO/Pモル比が2.5〜3.7の範囲にある非晶質リン酸マグネシウム化合物からなる土壌固化剤の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−117707(P2006−117707A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303669(P2004−303669)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】