説明

土壌安定化工法

【課題】環境調和型の土壌安定化工法を提供する。
【解決手段】キトサンを水で5,000ppm〜7,000ppmに希釈した溶液を、侵食防止剤として土壌に吹き付けて行う土壌安定化工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌安定化工法に関するものであり、特に天然系の生分解性材料である「キトサン」を素材とした環境調和型の侵食防止タイプの土壌安定化工法である。
【背景技術】
【0002】
従来の土壌安定化工法は、植生基盤の強化、種子の発芽、生育促進を図り一定期間法面を安定させる機能を有している。
そのために、たとえば「建設物価」(財団法人 建設物価調査会)では、のり面緑化材のうちの「養生剤」と称して多くの侵食防止剤が掲載されている。
あるいはキトサンを使用して、底質を改良する工法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「建設物価」(財団法人 建設物価調査会発行)。
【特許文献1】特開2005−281439号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したような従来の土壌安定化工法は、素材が水溶性高分子、合成樹脂系、アスファルト乳剤系の材料を使用しておこなう工法である。
このように既製の侵食防止材の素材は人工物であり、自然環境に対して「絶対に優しい」とは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の土壌安定化工法は、キトサンを水で5,000ppm〜7,000ppmに希釈する希釈工程と、希釈工程で希釈した溶液を侵食防止剤として土壌に散布する散布工程によって構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の土壌安定化工法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 天然系の生分解性材料「キトサン」を素材としているため、環境調和型の侵食防止工法、土壌安定化工法として広く普及させることができる。
<2> 実験1の結果では5,000ppm以上、実験2の結果では3,000〜7,000ppmの濃度に対して適性が確認できた。
<3> 総括すると、5,000〜7,000ppmのキトサン溶液を用いることで最大限の効果が期待できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】珪砂に、キトサンを希釈した溶液を吹き付けて、本発明の土壌安定化工法を確認する実験の説明図。
【図2】比較例としてキトサンを希釈した溶液を吹き付けていない珪砂の流出状態の説明図。
【図3】キトサンの各種の希釈濃度における、珪砂の侵食率と流出状態を、傾斜面毎に比較した図。
【図4】珪砂5号に、キトサンを希釈した溶液を散布した場合の浸透厚さを比較した図
【図5】締め固めをしていない黒土に、キトサンを希釈した溶液を散布した場合の浸透厚さを比較した図。
【図6】締め固めをした黒土に、キトサンを希釈した溶液を散布した場合の浸透厚さを比較した図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>目的。
本発明の工法の目的は、永久に法面の安定化を図るというものではなく、法面形成後に植物が生育するまでの一定期間、斜面を安定させることを目的とする土壌安定化の方法である。
【0010】
<2>本発明の特徴。
本発明は、特にキトサンに着目し、これを水で5,000ppm〜7,000ppmに希釈した溶液を、侵食防止剤として土壌に吹き付けて行う安定化工法である。
前記した特許文献1に見られるように、公知の土壌安定化工法において、その吹き付け材量の一種としてキトサンが使用されていることが知られている。
しかし本発明は、特にキトサンだけに限定し、かつその希釈濃度を限定して、最良の状態で斜面の安定を図ることを特徴としている。
ここに「キトサン」とは蟹の甲羅から得られる天然素材であり、生分解性を持つ自然環境に優しい原料である。
【0011】
<3>安定化の試験。
本発明はキトサンを希釈した溶液を、侵食防止剤として土壌に吹き付けて行う安定化工法であるが、その希釈化の率について各種の実験を行った。
その実験の一つが、傾斜した法面における土砂の流出の程度を比較するための試験である。
【0012】
<4> 実験1。
この実験は、傾斜角別土砂流出量確認実験である。
【0013】
<4−1>実験方法。
実験方法は次の通りである。
1) キトサンを水で希釈させた溶液を用意する。
2) 用意した溶液は、0ppm、100ppm、1,000ppm、5,000ppm、10,000ppmである。
3) 珪砂5号に上記の溶液を散布する。このとき、散布量を34L/m2とする。
4) その後4日間後静置する。
5) 図1に示す試料の傾斜台1に30〜60度までの勾配をつけて、上記のキトサン希釈液を散布した試料皿2を搭載して、それが侵食を受けるか、流出するかを検証した。検証項目は侵食率と流出土量である。
【0014】
<4−2>実験結果。
実験の結果は図3に示すとおりである。
1) 傾斜が30度の時には希釈しない液(0ppm)を散布した珪砂も、希釈した液(100〜10000ppm)を散布した珪砂も、侵食が生じることがなく、斜面に沿って流出することもなかった。
2) 傾斜が40度の場合には、希釈しない液を散布した珪砂は、100%侵食を受けた。しかし希釈した液であっても、100ppmで80%、1,000ppmで60%が侵食を受けた。
3) 傾斜が50度の場合には、0ppmから5,000ppmの希釈液を散布した珪砂が侵食を受け、かつ半分近くが流出してしまった。しかし5,000ppm、10,000ppmの希釈液を散布した珪砂は侵食率、流出土量ともに影響を受けなかった。
4) 傾斜が60度の場合には、1,000ppmまでの希釈液は、資料の傾斜台に載せることさえできなかったが5,000ppm、10,000ppmの希釈液を散布した珪砂は、侵食率、流出土量ともに、影響を受けなかった。
5) 以上の結果から、キトサン溶液の濃度が5,000ppm以上の希釈液を散布したとき十分な侵食防止効果があることが確認できた。
【0015】
<5> 実験2。
この実験は、浸透固化厚さを確認する実験である。
【0016】
<5−1>実験方法。
実験方法は次の通りである。
1) キトサンを水で希釈させた溶液を用意する。
2) 用意した溶液の濃度は1,000ppm、2,000 ppm、3,000 ppm、5,000 ppm、7,000 ppm、10,000 ppmである。
3) 円筒の筒に3タイプの土(珪砂5号、黒土(締め固め無し)、黒土(締め固め有り))を詰め込む。
4) その上に前記1)で準備した溶液を散布する。このとき、散布量は5L/m2、10L/m2、34L/m2とする。
5) その後4日間静置する。
6) 各筒内の土の表面から、上記の溶液の珪砂への浸透固化厚さ(mm)を測定する。
【0017】
<5−2>実験結果。
実験の結果は図4〜6図に示すとおりであり、共通確認事項として次のことが明確となった。
1) キトサン濃度2,000 ppm 以下では固化しない。
2) 5,000〜7,000ppmでは、ほぼ浸透固化する。厚さは15〜30mmである。
3) 10,000ppmでは溶液の粘性が高い。そのため、珪砂5号と黒土(締め固め有り)のときは、溶液が浸透せずにあふれ出てしまった。
4) 以上の結果から、キトサン溶液の濃度が5,000〜7,000ppmである場合に、浸透固化厚さを十分に確保できることが明らかとなった。
【0018】
<6> 総合的判断。
実験1の結果では5,000ppm以上、実験2の結果では3,000〜7,000ppmの濃度に対して適性を確認することができた。
この実験を総括すると、5,000〜7,000ppmのキトサン溶液を土壌に散布、吹き付けることによって、斜面の土砂の侵食に対し、土砂の流出に対し、最大限の効果が期待できる土壌安定化工法を提供できると考えられる。
【符号の説明】
【0019】
1:試料の傾斜台
2:試料皿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンを水で5,000ppm〜7,000ppmに希釈する希釈工程と、
希釈工程で希釈した溶液を侵食防止剤として土壌に散布する散布工程によって構成する、
土壌安定化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−275697(P2010−275697A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126462(P2009−126462)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】