説明

土壌浄化剤および土壌浄化方法

【課題】複雑な工程や装置を必要とせず、安価かつ簡便に製造することができ、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌及び地下水の浄化において、従来の鉄を使用した浄化方法と比較して、無害化に要する時間を大幅に短縮しうる土壌浄化剤の提供。
【解決手段】平均一次粒子径が0.05〜1μmの範囲にある鉄微粒子を含み、固形分が20〜80重量%である鉄微粒子の水性懸濁液、好ましくは製鋼ダストの水スラリーと、前記鉄微粒子の重量を基準として4〜100重量%の炭酸水素ナトリウムとを含み、好ましくはメディア型分散機または衝撃型分散機により分散処理した土壌浄化剤、および有機ハロゲン化合物で汚染された土壌又は地下水に、前記土壌浄化剤を注入および/または混合する土壌浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌または地下水中に含まれる有機ハロゲン化合物を無害化するための土壌浄化剤、および土壌浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、トリクロロエチレンなどの有機ハロゲン化合物は、半導体や金属加工製品の脱脂溶剤として使用されており、漏洩または投棄されたこれらの化合物による土壌や地下水の汚染が大きな社会問題となっている。従来、これらの汚染に関する浄化方法としては、土壌ガス吸引法、土壌掘削法、地下水揚水法等が用いられてきた。
土壌ガス吸引法は、不飽和帯に存在する汚染物質を強制的に吸引する方法であり、ボーリングにより地盤中に吸引井戸を設置し、真空ポンプで吸引井戸内を減圧することにより、気化した汚染物質を土壌ガスとして回収除去する方法である。土壌掘削法は、汚染土壌を掘削し、掘削した土壌に風力乾燥、加熱処理などを施して汚染物質の回収除去を行う方法である。地下水揚水法は、土壌中に揚水井戸を設置し、汚染地下水を揚水して汚染物質を回収除去する方法である。
【0003】
しかしながら、これらの方法には次のような問題点がある。すなわち、土壌ガス吸引法においては、広範囲の土壌を対象とする場合、複数の吸引井戸や地上設備が必要となる。また、活性炭などの吸着剤に吸着させて土壌ガスから汚染物質を除去する場合、処理後の吸着剤が二次廃棄物となる。土壌掘削法においては、掘削した土壌の熱処理などが高コストであることや、掘削除去した範囲の周囲に汚染物質が残存すると、汚染物質が拡散し、再度汚染される可能性がある。地下水揚水法においては、汚染物質が飽和帯土壌に含まれるもので、かつ水に溶解する化合物でなければ回収除去することができない。また、土壌ガス吸引法と同様に、広範囲の土壌を対象とする場合、複数の揚水井戸や地上設備が必要であり、除去方法によっては二次廃棄物が発生する。さらに、地下水の揚水により地盤沈下を引き起こす可能性がある。
【0004】
これに対し、汚染土壌を直接浄化する方法として、鉄を使用した原位置浄化法が提案されている。しかし、鉄を使用した汚染土壌の浄化法においては、汚染の浄化に比較的長時間を要するという課題があった。
そのような課題を解決するため、微細な鉄微粒子のスラリーを使用した土壌浄化剤に関する技術が開発されている。これは、平均粒子径が10μm未満の球状の鉄微粒子を使用したものであり、微細な球状の鉄粒子を使用することで、土壌への速やかな浸透を可能としている。鉄微粒子としては、製鋼用の酸素吹転炉から精錬中に発生する排ガスを湿式集塵して得た製鋼ダストを利用しており、水スラリーの状態で使用されている。
【0005】
鉄微粒子については、さらなる改良が進められており、特許文献1には、表面がニッケル、銅、コバルト、モリブデンなどの金属と鉄酸化被膜で被覆された鉄粉が開示されている。また、特許文献2には、大粒径鉄粉の表面に小粒径鉄粉を焼結した比表面積の大きい鉄粉が開示されている。しかし、これらの鉄粉はいずれも、独自の方法で製造する必要があり、特別な装置を必要とするためコストの点で不利である。
【特許文献1】特開2002−161263号公報
【特許文献2】特開2002−167602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複雑な工程や装置を必要とせず、安価かつ簡便に製造することができ、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌及び地下水の浄化において、従来の鉄を使用した浄化方法と比較して、無害化に要する時間を大幅に短縮しうる土壌浄化剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌及び地下水の浄化において、従来の鉄を使用した浄化方法と比較して、無害化に要する時間を大幅に短縮しうる土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の土壌浄化剤は、平均一次粒子径が0.05〜1μmの範囲にある鉄微粒子を含み、固形分が20〜80重量%である鉄微粒子の水性懸濁液と、前記鉄微粒子の重量を基準として4〜100重量%の炭酸水素ナトリウムとを含むことを特徴とする。
本発明の土壌浄化剤において、鉄微粒子の水性懸濁液としては、製鋼ダストの水スラリーを用いることができる。また、本発明の土壌浄化剤は、メディア型分散機または衝撃型分散機により分散処理したものであることが好ましい。
また、本発明の土壌浄化方法は、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌又は地下水に、本発明の土壌浄化剤を注入および/または混合すること特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の土壌浄化剤は、鉄微粒子の水性懸濁液と、pHの緩衝作用を有する炭酸水素ナトリウムとを含むため、各種有機ハロゲン化合物で汚染された土壌および地下水の浄化において浄化の活性が高く、有機ハロゲン化合物の分解速度を速くすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の土壌浄化剤は、平均一次粒子径が0.05〜1μmの範囲にある鉄微粒子の水性懸濁液と、炭酸水素ナトリウムとを含むものである。
鉄微粒子の平均一次粒子径は、電子顕微鏡での観察により得られた画像から算出するが、必要により画像解析装置等を用いて算出することが好ましい。平均一次粒子径が0.05μm未満の鉄微粒子のみを含む場合には、鉄微粒子が非常に微細であるため比表面積が大きく、鉄微粒子の酸化が速く進み、浄化の能力を失うまでの時間が短くなってしまう。一方、1μmを超える鉄微粒子のみを含む場合には、比表面積は小さく鉄微粒子の浄化能は失われづらくなるが、浄化の能力自体が弱くなる。
本発明の土壌浄化剤に含まれる鉄微粒子の粒子形状は、特に限定がないが、球形であることが好ましい。球形の鉄微粒子は、水性懸濁液中での均一な分散が容易となり、土壌浄化剤の流動性が向上する。また、土壌浄化剤を直接土壌に注入して使用する場合、土壌中への浸透が容易となる。
【0010】
また、鉄微粒子の水性懸濁液の固形分は20〜80重量%であり、3〜30重量%であることが好ましい。固形分が20重量%未満の水性懸濁液を使用する場合には、汚染地下水または汚染土壌の浄化に必要な量の鉄微粒子を添加するために、極めて大量の土壌浄化剤を使用しなければならず、効率が悪い。また、汚染された土壌に、大量の土壌浄化剤を直接注入および/または混合すると、注入後に地盤がゆるむ可能性があり、安全上の問題も発生する。一方、80重量%を超える水性懸濁液を使用する場合には、土壌浄化剤がスラリーの状態ではなくケーキ状となるため流動性を失い、更に発火の危険性がでてくる。また、汚染された土壌に、土壌浄化剤を直接注入する場合、土壌への迅速な浸透が困難となる。
【0011】
鉄微粒子の水性懸濁液は、平均一次粒子径が0.05〜1μmの範囲にある鉄微粒子の水性懸濁液であれば問題なく使用できるが、製鋼用の酸素吹転炉から精錬中に発生する排ガスを湿式集塵により集塵した製鋼ダストの水スラリーを用いることが好ましい。
製鋼ダストは、鉄および種々の酸化段階の酸化鉄を含むが、主成分は鉄、ウスタイト(FeO)、マグネタイト(Fe34)であり、通常、鉄を5〜100重量%、ウスタイト(FeO)を0〜95重量%、マグネタイト(Fe34)を0〜95重量%含有する。また、鉄微粒子の水性懸濁液として、製鋼ダストの水スラリーを使用する場合、通常は不純物として少量のニッケル、鉛、マンガン、亜鉛、銅、フッ素、ホウ素などが含有される。また、通常、鉄は水中の溶存酸素により酸化され、酸化鉄(III)(Fe23)や酸化水酸化鉄(FeO(OH))を生成するが、鉄微粒子の水性懸濁液は、これらの鉄化合物を含有しても差し支えない。
【0012】
製鋼ダストの水スラリーは、製鋼用の酸素吹転炉から精錬中に発生する排ガスを湿式集塵により集塵し、得られた製鋼ダストを粗粒分別後、シックナーで沈降収集して調製することができる。
すなわち、製鋼用の酸素吹転炉内に炭素、ケイ素、リン等の不純物を含有する銑鉄等の原料を投入し、攪拌しながら上部から酸素を急速に吹き込む。そうすることにより原料は酸素と反応し、炭素、ケイ素、リン等は酸化物に、銑鉄は綱となる。酸素を吹き込むことにより発生した微細な鉄粉または鉄の蒸気を含む排ガスは、ガス回収フードを通って湿式集塵により製鋼ダストとして集塵される。その際、CO等の気体はガス回収タンクに送られる。製鋼ダストの水スラリーは、粗粒分別され、粗いものは粗粒鉄粉として回収される。細かいものはシックナーで濃縮され、製鋼ダストの水スラリーを得ることができる。この方法によれば、特別な工程を必要とせず、経済的かつ簡便に製鋼ダストの水スラリーを調製することができる。
【0013】
得られた製鋼ダストの水スラリーは、フィルタープレスなどの濾過装置により濾過して、水と水溶性の不純物を除去し、濾別された製鋼ダストを再度水に添加、混合して水スラリーにして使用しても良い。その際、濾別された製鋼ダストは、乾燥してから使用するか、あるいは濾別後の水含有ケーキをそのまま水に添加、混合して水スラリーにすることもできる。水の種類は特に限定されず、イオン交換水、蒸留水、水道水、井戸水など、特に不純物を多く含むものでない限り、あらゆる水を使用することができる。濾別された製鋼ダストを水スラリーにする際の混合方法は特に限定されず、通常液体の混合に使用されるいずれの攪拌機を使用してもよい。
【0014】
鉄微粒子の水性懸濁液は、分散処理することが好ましい。メディア型分散機または衝撃型分散機により分散処理すると、鉄微粒子の凝集が解砕、摩砕され、鉄微粒子の比表面積が大きくなり活性な表面が現れることから、有機ハロゲン化合物の分解速度が向上する。
メディア型分散機としては、サンドミル、ボールミル、バスケットミル、アトライター、DCPミル等が挙げられる。衝撃型分散機としては、ジェットミル、超音波分散機等が挙げられる。これらの装置は単独で用いても良いが、必要に応じて2つ以上の装置を組み合わせても良い。なかでも、鉄微粒子の分散粒子径の制御と生産性を考慮すると、サンドミルの使用が好ましい。
【0015】
メディア型分散機を用いて分散処理を行う場合、使用されるメディアの材質は特に制限されない。ガラスビーズとしてはソーダガラスビーズ、ハイビー、セラミックビーズとしては、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、アルミナビーズ、窒化ケイ素ビーズ、炭化ケイ素ビーズ、鋼球としては鉄球などから選択が可能である。モース硬度、分散性、耐アルカリ性、耐摩耗性の観点から、ハイビー、ジルコニアビーズが好ましいが、分散機の摩耗を考慮すると、ハイビーの使用が望ましい。メディアの径の大きさはΦ0.1〜60.0mmのものを用いることが可能であるが、分散後に必要とされる鉄微粒子の分散粒子径を考慮するとΦ0.5〜2.0mmのメディアが好ましい。分散機へのメディアの充填量は特に規定はされないが、メディアのかさ密度を考慮すると、分散機内の空間容積に対して50〜90%が好ましい。
【0016】
衝撃型分散機を用い分散処理を行う場合、気流微粉砕機としてジェットミルの使用が好ましい。ジェットミルのノズル形状やノズル数、ミル胴径、使用空気量などは特に限定されない。超音波分散機を用いる場合、循環式を用いることが好ましい。処理条件としての照射ホーン径、振動振幅等は特に限定されない。
【0017】
本発明の土壌浄化剤に含まれる炭酸水素ナトリウムは、土壌浄化剤の液性を最も高い浄化性能を発揮する水素イオン濃度(pH)領域に保持するために添加されるもので、環境や生体に負荷がない。炭酸水素ナトリウムは、一水素塩、二炭酸一水素塩でもよく、また天然に産出する二炭酸一水素三ナトリウムでもよい。また、結晶水を持つ水和物でも同等の効果を有する。
【0018】
炭酸水素ナトリウムの含有量は、鉄微粒子の重量を基準(100重量%)として、4〜100重量%の範囲であり、4〜50重量%の範囲であることが好ましい。ただし、鉄微粒子の水性懸濁液が、鉄微粒子および酸化鉄を含む場合には、鉄微粒子および酸化鉄の合計重量を基準(100重量%)とする。炭酸水素ナトリウムの含有量が4重量%未満の場合は、鉄微粒子が最も高い浄化性能を発揮するpH領域に保持する力が弱く、効果の発現が一時的である。また、100重量%を超える場合は、鉄微粒子の水性懸濁液中における溶解イオンの濃度が高くなり過ぎ、浄化性能が低下する。
【0019】
本発明の土壌浄化剤には、炭酸水素ナトリウム以外のpHの緩衝作用を持つ化合物(以下、「pH緩衝剤」と略して記載する。)を含有させることができる。例えば、フタル酸塩、ホウ酸塩、酢酸−酢酸ナトリウム等のpH緩衝剤の添加により、浄化性能の向上が図られる。
【0020】
炭酸水素ナトリウムは、結晶または粉末の状態で使用することができ、予め水に溶解したものを使用しても良い。例えば、揚水して集めた汚染水を浄化する場合には、汚染水に、鉄微粒子の水性懸濁液と、炭酸水素ナトリウムまたはその水溶液とを添加して浄化を行うことができる。
また、鉄微粒子の水性懸濁液中に、炭酸水素ナトリウムを予め添加して使用してもよい。炭酸水素ナトリウムを予め鉄微粒子の水性懸濁液中に添加して使用する場合、炭酸水素ナトリウムを添加した後、一定時間撹拌してから使用するのが好ましい。炭酸水素ナトリウム添加後の撹拌時間は、均一な水性懸濁液を得るためには、できる限り長い方が好ましいが、必要以上の長時間の撹拌は水性懸濁液中に空気を巻き込み、溶存酸素が増え、pHの変化と鉄微粒子の酸化を速めることがあり好ましくない。炭酸水素ナトリウムを鉄微粒子の水性懸濁液中へ混合するための撹拌は、通常10分から1時間程度で十分である。スラリー状の土壌浄化剤を、実際に使用する場所までタンクローリーなどで輸送する場合、鉄微粒子の水性懸濁液に炭酸水素ナトリウムを添加し、均一に混合した後に輸送を行い、輸送している間に水性懸濁液を均一安定化させることも有効である。
【0021】
炭酸水素ナトリウムは、鉄微粒子の水性懸濁液中に予め添加してメディア型分散機または衝撃型分散機により分散処理し、高効率で鉄微粒子の水性懸濁液と混合することが好ましい。鉄微粒子の水性懸濁液と炭酸水素ナトリウムとを分散処理で均一に混合することにより、有機ハロゲン化合物の分解速度を上げ、汚染された土壌または地下水の浄化に要する時間を早めることが可能となる。すなわち、鉄微粒子の水性懸濁液と炭酸水素ナトリウムとを、分散機で効率よく撹拌および摩砕することにより、鉄微粒子が微細化されて活性な表面積があらわれると共に、炭酸水素ナトリウムのpH緩衝効果により、有機ハロゲン化合物の分解反応に最適なpHが保たれ、浄化力が向上する。
【0022】
鉄微粒子の水性懸濁液と炭酸水素ナトリウムとを分散処理する方法としては、分散機への水性懸濁液の供給と分散機から排出された水性懸濁液を受ける槽が同一である循環分散と、供給と受ける槽が別であるパス分散が挙げられる。いずれの方法でも有機ハロゲン化合物の浄化速度向上は可能である。パス分散は確実にすべての水性懸濁液中の成分が分散機を通過する方法であり、処理方法として好ましい。
【0023】
以下に、本発明の土壌浄化剤を使用した土壌浄化方法について、詳細に説明する。
本発明の土壌浄化剤の使用方法については特に限定されないが、例えば、本発明の土壌浄化剤を、揚水して集めた汚染地下水や河川の水などと混合することにより、汚染物質を浄化することができる。また、本発明の土壌浄化剤を、汚染された土壌に直接注入および/または混合することによっても、汚染物質を浄化することができる。
【0024】
本発明の土壌浄化剤は、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌または地下水を浄化するためのものである。浄化の対象となる有機ハロゲン化合物の例としてはテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、trans−1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、塩化ビニルなどの不飽和ハロゲン化炭化水素、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタンなどの飽和ハロゲン化炭化水素が挙げられる。ここに示した化合物は対象物質の一例であって、本発明は上記以外の脂肪族ハロゲン化炭化水素による汚染にも適用可能である。本発明の土壌浄化剤はこれらの有機ハロゲン化合物を脱ハロゲン化し、最終的にはハロゲン原子が全て水素原子に置換された、無害な炭化水素を生成する。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
分散処理は、メディア型分散機(容量0.6L、シンマルエンタープライズ社製「Dynoミル」)を用い、メディアとしてΦ1.0〜1.5mmのハイビーD24を充填率80%で充填し、2パス分散で行った。
土壌浄化剤中の固形分の分散粒子径は、粒度分布計「Mastersizer2000」、及び測定用分散アクセサリ「Hydro2000S」(いずれもMalvern Instruments ltd.社製)を用いて5回測定して平均値を算出し、D50値を分散粒子径とした。評価用サンプルとしては、ヘキサメタリン酸ナトリウムを分散媒とする0.2重量%溶液を用いた。
【0026】
有機ハロゲン化合物とその分解生成物の定量は、JIS K 0125に準じて、ヘッドスペース−ガスクロマトグラフ法により行った。ガスクロマトグラフとしては日本電子データム株式会社製のGC−8610を、カラムには同社製のキャピラリーカラムNBW−310SS30を、検出器としては光イオン化検出器(PID)をそれぞれ使用した。浄化実験においては、一定時間毎にサンプリングしたヘッドスペースガスを分析し、検量線から基質の残存量を定量した。
基質の残存量は浄化開始(0時間)から3日後(72時間)、1週間後(168時間)、2週間後(336時間)、4週間後(672時間)で測定し、2週間後までの値を用いて速度定数を算出し、浄化速度を比較した。
【0027】
[実施例1]
製鋼ダストの水スラリーの固形分を25重量%に調整し、分散前スラリーとした。この分散前スラリー1000mlに、炭酸水素ナトリウム31g(スラリー中に含まれる固形分重量(鉄微粒子および酸化鉄の合計重量)250gに対して12.4重量%)を添加し、10分間ディゾルバーで撹拌した。その後、Dynoミルで分散処理し、炭酸水素ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーの水素イオン濃度(以下、pHという。)を常温で測定したところ11.4であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Aを得た。土壌浄化剤A中に含まれる製鋼ダストの割合は、5重量%である。土壌浄化剤A中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、1.68μmであった。
【0028】
[実施例2]
炭酸水素ナトリウムの添加量を31gから62g(スラリー中に含まれる固形分重量(鉄微粒子および酸化鉄の合計重量)250gに対して24.8重量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして炭酸水素ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーのpHを常温で測定したところ11.6であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Bを得た。土壌浄化剤B中に含まれる製鋼ダストの割合は、5重量%である。土壌浄化剤B中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、1.71μmであった。
【0029】
[実施例3]
炭酸水素ナトリウムの添加量を31gから93g(スラリー中に含まれる固形分重量(鉄微粒子および酸化鉄の合計重量)250gに対して37.2重量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして炭酸水素ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーのpHを常温で測定したところ11.7であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Cを得た。土壌浄化剤C中に含まれる製鋼ダストの割合は、5重量%である。土壌浄化剤C中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、1.55μmであった。
【0030】
[実施例4]
炭酸水素ナトリウムの添加量を31gから124g(スラリー中に含まれる固形分重量(鉄微粒子および酸化鉄の合計重量)250gに対して49.6重量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして炭酸水素ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーのpHを常温で測定したところ11.6であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Dを得た。土壌浄化剤D中に含まれる製鋼ダストの割合は、5重量%である。土壌浄化剤D中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、1.41μmであった。
【0031】
[実施例5]
炭酸水素ナトリウムの添加量を31gから8g(スラリー中に含まれる固形分重量(鉄微粒子および酸化鉄の合計重量)250gに対して3.1重量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして炭酸水素ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーのpHを常温で測定したところ11.6であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Eを得た。土壌浄化剤E中に含まれる製鋼ダストの割合は、5重量%である。土壌浄化剤E中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、1.51μmであった。
【0032】
[実施例6]
炭酸水素ナトリウムの添加量を31gから16g(スラリー中に含まれる固形分重量(鉄微粒子および酸化鉄の合計重量)250gに対して6.6重量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして炭酸水素ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーのpHを常温で測定したところ11.6であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Fを得た。土壌浄化剤F中に含まれる製鋼ダストの割合は、5重量%である。土壌浄化剤F中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、1.38μmであった。
【0033】
[実施例7]
製鋼ダストの水スラリーの固形分を25重量%に調整し、Dynoミルで分散して、製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリー1000mlに、炭酸水素ナトリウムを93g(スラリー中に含まれる固形分重量(鉄微粒子および酸化鉄の合計重量)250gに対して37.2重量%)を添加し、10分間ディゾルバーで撹拌し、炭酸水素ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーのpHを常温で測定したところ11.7であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Gを得た。土壌浄化剤G中に含まれる製鋼ダストの割合は、5重量%である。土壌浄化剤G中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、1.55μmであった。
【0034】
[比較例1]
炭酸水素ナトリウム31gを、リン酸二水素カリウム46.5gおよびリン酸水素二ナトリウム46.5g(スラリー中に含まれる固形分重量(鉄微粒子および酸化鉄の合計重量)250gに対して両化合物合計で37.2重量%)に変更した以外は、実施例1と同様にしてリン酸二水素カリウムおよびリン酸水素二ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーのpHを常温で測定したところ7.60であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Hを得た。土壌浄化剤H中に含まれる製鋼ダストの割合は、5重量%である。土壌浄化剤H中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、1.56μmであった。
【0035】
[比較例2]
イオン交換水に、固形分が25重量%となるように市販の鉄粉(同和鉱業社製「E−200」)を添加調整し、分散前スラリーを得た。この分散前スラリー1000mlに炭酸水素ナトリウム93gを添加し、実施例1と同様にして炭酸水素ナトリウムを含有する製鋼ダストの分散スラリーを得た。この分散スラリーのpHを常温で測定したところ8.2であった。
さらに、この分散スラリーをイオン交換水により重量比で5倍に希釈し、土壌浄化剤Iを得た。土壌浄化剤I中に含まれる鉄粉の割合は、5重量%である。土壌浄化剤I中の固形分(鉄微粒子および酸化鉄)の分散粒子径を測定したところ、43.8μmであった。
【0036】
実施例および比較例で用いた原料鉄微粒子の種類、鉄微粒子の平均一次粒子径、炭酸水素ナトリウムの含有量、炭酸水素ナトリウムの添加方法について、表1に示す。
【表1】

【0037】
実施例1〜7及び比較例1〜2で得られた土壌浄化剤について、下記の方法で浄化能を評価した。結果を表2に示す。また、土壌浄化剤中の固形分の分散粒子径、分散スラリーのpH(調製直後、1週後、2週後)、初期〜336時間後のトリクロロエチレンの残存濃度から算出した速度定数を表2に示す。
[浄化能の評価方法]
100mlの褐色ガラスバイアル瓶に、土壌浄化剤43gを添加し、トリクロロエチレン濃度100ml/lの標準液4mlをホールピペットで精秤し添加し、ポリフッ化エチレンをコートしたブチルゴムセプタムとアルミシールにより密封した。このガラスバイアル瓶を、25±2℃に管理した恒温室中で、振幅25mmの往復式振盪器を使用し、200回/分の振盪速度で往復振盪し、初期(0日)、72時間後(3日)、168時間後(1週間)、336時間後(2週)、および672時間後(4週間)のトリクロロエチレン濃度をそれぞれ測定した。初期値との差が大きいほどトリクロロエチレンに対する浄化能が高いことを示す。速度定数の値が大きいものほど浄化能力が高いことを示す。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が0.05〜1μmの範囲にある鉄微粒子を含み、固形分が20〜80重量%である鉄微粒子の水性懸濁液と、前記鉄微粒子の重量を基準として4〜100重量%の炭酸水素ナトリウムとを含む土壌浄化剤。
【請求項2】
鉄微粒子の水性懸濁液が、製鋼ダストの水スラリーである請求項1記載の土壌浄化剤。
【請求項3】
メディア型分散機または衝撃型分散機により分散処理したものである請求項1または2記載の土壌浄化剤。
【請求項4】
有機ハロゲン化合物で汚染された土壌又は地下水に、請求項1ないし3いずれか1項に記載の土壌浄化剤を注入および/または混合すること特徴とする土壌浄化方法。



【公開番号】特開2006−346533(P2006−346533A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173481(P2005−173481)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】