説明

土壌浄化方法及び微生物活性化剤

【課題】 バイオスティミュレーションに基づいて、十分に短い時間で油汚染土壌を浄化する方法を提供すること。
【解決手段】 油で汚染された土壌に、窒素源、リン源、及び炭素数12以下の直鎖アルカンを供給して、前記土壌に含まれる有機物質分解能を有する微生物を活性化し、前記土壌を浄化する土壌浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌浄化方法及び微生物活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物質で汚染された土壌を浄化する技術として、バイオレメディエーション(微生物の有機物質分解能を活用する土壌浄化技術)の一種であるバイオスティミュレーションが知られている。バイオスティミュレーションとは、土壌中に常在し、有機物質分解能を有する微生物を当該土壌中で増殖させ、又は、当該微生物の有機物質分解能を増強して、汚染土壌を浄化する技術である。バイオスティミュレーションでは、微生物の活性化(微生物の増殖、又はその有機物質分解能の増強)のために、微生物の栄養源を含有する微生物活性化剤が汚染土壌に供給される。
【0003】
このようなバイオスティミュレーションは、生態系への影響が軽微であること、原位置で簡便に実施可能であること、広範囲の土壌に対して適用可能であること、等の利点を有することから、油で汚染された土壌を浄化する技術としても注目され、その開発が進められている。油汚染土壌の浄化を目的としたバイオスティミュレーションとしては、従来、例えば、油汚染土壌に栄養源(窒素源、リン源等)を供給して、当該土壌内の油分解微生物を活性化することにより、当該土壌を浄化するものが知られていた(例えば、下記特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開2001−212552号公報
【特許文献2】特開2003−53324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のバイオスティミュレーションは、油、特に重質油で汚染された土壌の浄化に長時間を要し、必ずしも実用に適していないという問題を有していた。バイオスティミュレーションが上述のような利点を有することから、バイオスティミュレーションに基づいて、十分に短い時間で油汚染土壌を浄化する技術は強く求められていると考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、バイオスティミュレーションに基づいて、十分に短い時間で油汚染土壌を浄化する方法、及び、そのような方法の効率的な実施を可能にする微生物活性化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意研究したところ、意外なことに、バイオスティミュレーションに基づいて油汚染土壌を浄化する際に、窒素源と、リン源と、炭素数12以下の直鎖アルカンと、を併用することにより、土壌中の油分が短時間で顕著に減少することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、油で汚染された土壌に、窒素源、リン源、及び炭素数12以下の直鎖アルカンを供給して、前記土壌に含まれる有機物質分解能を有する微生物を活性化し、前記土壌を浄化する土壌浄化方法を提供する。ここで、「土壌に含まれる有機物質分解能を有する微生物を活性化」するとは、有機物質分解能を有する微生物を当該土壌中で増殖させ、又は、当該微生物の有機物質分解能を増強することを意味する。
【0008】
上記土壌浄化方法を用いれば、土壌中に常在する微生物のうち、特に、油分分解能に優れた微生物が選択的に活性化され、油汚染土壌が十分に短い時間で効率的に浄化される。その理由としては、例えば、次のようなことが考えられる。
【0009】
すなわち、油中には、一般に微生物によって分解されにくい炭化水素も多く含まれ、土壌中に常在する微生物は、必ずしも油分分解能を有するわけではない。しかし、上記土壌浄化方法では、油汚染土壌に、窒素源及びリン源の他に、一般に微生物によって分解されにくい物質である直鎖アルカンを更に供給するので、上記土壌浄化方法を用いれば、アルカンを始めとする種々の炭化水素を分解し、これを栄養源(炭素源)として取り込む能力を有する微生物が選択的に増殖し、また、微生物中で、種々の炭化水素を分解する酵素が誘導されることになる。すなわち、高い油分分解能を有する微生物が選択的に活性化されることになる。ここで、炭素数12以下の直鎖アルカンの代わりに、それ以外のアルカンを用いたとしても、微生物がそのようなアルカンを分解し、これを栄養源(炭素源)として取り込むのが過度に困難であるため、油分分解能に優れた微生物の選択的な活性化は起こりにくい。なお、汚染原因となった油には炭素数12以下の直鎖アルカンも含有されているが、その量は、油分分解能に優れた微生物を活性化するのに十分なものではない。
【0010】
上記直鎖アルカンの炭素数は、6〜12であるのが好ましい。炭素数が6〜12であれば、上記土壌浄化方法により、油分分解能に優れた微生物を特に効率的に活性化することができる。
【0011】
また、上記直鎖アルカンの供給量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、10〜500質量%であるのが好ましい。
【0012】
上記土壌浄化方法では、油汚染土壌に、ビタミン類及び金属類を更に供給するのが好ましい。ビタミン類及び金属類を更に供給すると、微生物の成長が促進され、油分分解能に優れた微生物が更に活性化される。
【0013】
上記ビタミン類としては、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、葉酸、ビオチン、p−アミノ安息香酸、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12、リポ酸、ビタミンC及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられ、その供給量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、0.00001〜0.1質量%であるのが好ましい。
【0014】
また、上記金属類としては、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、コバルト、亜鉛、ホウ素、モリブデン、マンガン、それらの塩及びそれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられ、その供給量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、0.01〜100質量%であるのが好ましい。
【0015】
上記土壌浄化方法は、その好適な一態様において、上記窒素源、上記リン源、及び上記直鎖アルカンを含有する微生物活性化剤を油汚染土壌に供給することによって実施することができる。すなわち、本発明はまた、窒素源、リン源、及び炭素数12以下の直鎖アルカンを含有する微生物活性化剤を提供する。このような微生物活性化剤を用いれば、上記土壌浄化方法を効率的に実施して、油汚染土壌をより効率的に浄化することが可能になる。
【0016】
上記微生物活性化剤における上記直鎖アルカンの炭素数は、6〜12であるのが好ましい。炭素数が6〜12のものであれば、当該微生物活性化剤を土壌に供給することにより、油分分解能に優れた微生物を特に効率的に活性化することができる。
【0017】
また、上記直鎖アルカンの含有量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、10〜500質量%であるのが好ましい。
【0018】
上記微生物活性化剤は、ビタミン類及び金属類を更に含有するのが好ましい。ビタミン類及び金属類を更に含有すると、当該微生物活性化剤を土壌に供給することにより、微生物の成長を促進し、油分分解能に優れた微生物を更に活性化することができる。
【0019】
上記微生物活性化剤において、ビタミン類の含有量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、0.00001〜0.1質量%であるのが好ましく、また、金属類の含有量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、0.01〜100質量%であるのが好ましい。なお、ビタミン類及び金属類としては、上述したのと同様のものが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バイオスティミュレーションに基づいて、十分に短い時間で油汚染土壌を浄化する方法、及び、そのような方法の効率的な実施を可能にする微生物活性化剤が提供される。すなわち、本発明の土壌浄化方法又は微生物活性化剤によれば、生態系にほとんど悪影響を及ぼすことなく、十分に短い時間で、広範囲の油汚染土壌を浄化することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、図面中、同一又は同等の要素には同一の符号を付するものとする。
【0022】
(土壌浄化方法)
本発明の土壌浄化方法は、油で汚染された土壌に、窒素源、リン源、及び炭素数12以下の直鎖アルカンを供給して、土壌に含まれる有機物質分解能を有する微生物を活性化し、土壌を浄化するものである。
【0023】
窒素源は、土壌中の微生物により資化されるものであればよいが、アンモニア態窒素(塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等)及び硝酸態窒素(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等)が好ましい。
【0024】
また、リン源は、土壌中の微生物により資化されるものであればよく、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム12水和物、メタリン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、トリリン酸カリウム等が挙げられる。
【0025】
窒素源及びリン源の供給量は特に制限されないが、リン源中のリンに対する窒素源中の窒素の質量比(N/P)が1〜100であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。
【0026】
直鎖アルカンは、炭素数が12以下であればよいが、特に炭素数が6〜12のもの、すなわちn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン及びn−ドデカンが好ましい。炭素数12以下の直鎖アルカンの代わりに、それ以外のアルカンが供給されると、微生物がそのようなアルカンを栄養源(炭素源)として取り込むのが過度に困難であるため、油分分解能に優れた微生物の選択的な活性化が起こりにくくなる。炭素数が6未満であると、炭素数が6〜12の場合と比較して、直鎖アルカンが微生物によって分解されやすく、活性化される微生物の油分分解能が低くなる傾向がある。
【0027】
また、直鎖アルカンの供給量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、10〜500質量%であるのが好ましい。供給量が10質量%未満であると、上記範囲内の場合と比較して、油分分解能に優れた微生物の活性化が不十分になる傾向がある。他方、供給量が500質量%を超えると、上記範囲内の場合と比較して、他の栄養源が微生物によって取り込まれにくくなり、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。
【0028】
本発明の土壌浄化方法では、油汚染土壌に、ビタミン類又は金属類を更に供給するのが好ましい。ビタミン類又は金属類を更に供給すると、微生物の成長が促進され、油分分解能に優れた微生物が更に活性化される。微生物の成長を促進し、油分分解能に優れた微生物を更に活性化するには、ビタミン類及び金属類の双方を供給するのが特に好ましい。
【0029】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンB(チアミン)、ビタミンB(リボフラビン)、ビタミンB(ピリドキシン)、葉酸、ビオチン、p−アミノ安息香酸、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12、リポ酸、ビタミンC及びそれらの塩(ピリドキシン塩酸塩、チアミン塩酸塩等)が挙げられる。ビタミン類は、一種のみを単独で供給しても、また、二種以上を供給してもよい。
【0030】
また、ビタミン類の供給量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、0.00001〜0.1質量%であるのが好ましい。供給量が0.00001質量%未満であると、上記範囲内の場合と比較して、微生物によって取り込まれるビタミン類が不足し、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。他方、供給量が0.1質量%を超えると、上記範囲内の場合と比較して、微生物中における他の栄養源の作用が阻害され、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。
【0031】
金属類としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、コバルト、亜鉛、ホウ素、モリブデン、マンガン、それらの塩(硫酸マグネシウム、硫酸鉄(II)等)及びそれらの水和物(硫酸マグネシウム7水和物、硫酸鉄(II)7水和物等)が挙げられる。金属類は、一種のみを単独で供給しても、また、二種以上を供給してもよい。
【0032】
また、金属類の供給量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、0.01〜100質量%であるのが好ましい。供給量が0.01質量%未満であると、上記範囲内の場合と比較して、微生物によって取り込まれる金属類が不足し、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。他方、供給量が100質量%を超えると、上記範囲内の場合と比較して、微生物中における他の栄養源の作用が阻害され、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。
【0033】
本発明の土壌浄化方法では、土壌浄化を阻害するものでない限り、油汚染土壌に、窒素源、リン源、炭素数12以下の直鎖アルカン、ビタミン類及び金属類以外の物質を更に供給してもよい。例えば、土壌中の油分を分散させるために、界面活性物質を更に供給してもよい。
【0034】
また、油汚染土壌に供給される物質(以下、場合により「土壌浄化物質」という。)は、原状のまま供給してもよいが、水と共に、特に水溶液の形態で供給するのが好ましい。水と共に、特に水溶液の形態で供給する方が、土壌浄化物質が土壌内のより広範な領域に、より均一に行き渡り、より広範囲の土壌中の微生物が活性化される。また、水と共に供給すると、より多くの水分が土壌に供給され、微生物の活性化が促進される。
【0035】
また、本発明の土壌浄化方法では、油汚染土壌に土壌浄化物質を供給するのに加えて、当該土壌に空気又は酸素を供給するのが好ましい。空気又は酸素を供給すると、好気性微生物の活性化が促進される。空気又は酸素は、気体状態で供給しても、水に溶解した状態で供給してもよい。
【0036】
二種以上の土壌浄化物質は、効率的な土壌浄化のために、同時に供給するのが好ましいが、任意の順序で異なる時に供給してもよい。例えば、先ず、窒素源及びリン源を土壌に供給し、次いで、炭素数12以下の直鎖アルカン等を供給してもよい。また、土壌浄化物質、及び空気又は酸素は、微生物の効率的な活性化のために、同時に供給するのが好ましいが、任意の順序で異なる時に供給してもよい。
【0037】
本発明の土壌浄化方法において、土壌浄化は、油汚染土壌の原位置で行うのが好ましい。原位置で行う方が、土壌浄化をより簡便に、かつより低コストで行うことができる。原位置における土壌浄化は、例えば、井戸等を通じて、空気と共に土壌浄化物質を注入する方法、又は、汚染土壌に土壌浄化物質を添加し、ブルドーザー等で撹拌する方法を用いて行うことができる。より具体的には、例えば、図1に示す土壌浄化装置を用いて行うことができる。
【0038】
図1は、土壌に設置された土壌浄化装置の一例を示す概略構成図である。図1に示す土壌浄化装置1は、土壌G内の汚染領域4の周囲に設けられ、地表から飽和層(帯水層)3内まで延在する複数の注入井戸6(図1には、2本のみが示されている。)と、汚染領域4のほぼ中央に設けられ、地表から飽和層3内まで延在する揚水井戸7と、土壌浄化物質の水溶液、及び空気が収容され、管T1を介して注入井戸6に連結された供給槽5と、管T2を介して揚水井戸7に連結された分離槽9と、管T2の途中に設けられた揚水ポンプ8と、管T3を介して分離槽9に連結された曝気槽10と、管T5を介して曝気槽10に連結された吸着塔11と、を備える。そして、供給槽5は、管T7を介して曝気槽10に連結され、曝気槽10は、管T1の途中に接続された管T8と、管T1と、を介して注入井戸6に連結されている。また、分離槽9には管T4が接続され、吸着塔11には管T6が接続されている。
【0039】
なお、土壌G内では、上方に不飽和層2が形成され、下方に、地下水が滞留した飽和層3が形成され、地下水面Lが不飽和層2と飽和層3との境界をなしている。また、飽和層3内には、油で汚染された領域である汚染領域4が形成されている。
【0040】
土壌浄化装置1を用いた土壌浄化は、例えば、次のように行われる。
【0041】
先ず、供給槽5から、土壌浄化物質の水溶液、及び空気を、管T1及び注入井戸6を通じて飽和層3に注入する(供給工程)。供給工程により、土壌Gに含まれる有機物質分解能を有する微生物が活性化され、汚染領域4が浄化される。
【0042】
次に、地下水を、揚水ポンプ8を用いて、揚水井戸7及び管T2を通じて分離槽9に汲み上げる(揚水工程)。揚水工程により、油を含有する地下水の一部が土壌から取り除かれ、その分だけ土壌が浄化される。また、飽和層3内において、注入井戸6から揚水井戸7に向かう地下水の流れFが生じて、土壌浄化物質及び空気が汚染領域4に効率的に供給され、汚染領域4における微生物の活性化、及び汚染領域4の浄化が促進される。
【0043】
次に、分離槽9において、汲み上げられた地下水から、地下水中の油を分離除去する(分離工程)。更に、地下水を、管T3を通じて曝気槽10に移送し、曝気槽10で地下水を曝気する(曝気工程)。分離工程及び曝気工程により、地下水が浄化され、地下水の再利用が可能になる。分離工程で分離除去された油は、管T4を通じて分離槽9から排出される。
【0044】
最後に、曝気処理の際に発生したガスを、管T5を通じて曝気槽10から吸着塔11に移送し、吸着塔11でガス中の油分を吸着除去する(吸着工程)。そして、ガスは、管T6を通じて吸着塔11から大気中に排出される。吸着工程により、曝気処理の際に発生したガスが、大気を汚染することなく、大気中に排出される。
【0045】
なお、土壌浄化物質及び空気は、管T7を通じて供給槽5から曝気槽10に移送し、曝気処理が行われた地下水と共に、管T8、管T1及び注入井戸6を通じて飽和層3に注入することもできる。また、揚水工程、分離工程、曝気工程及び吸着工程は、実施するのが好ましいが、実施しなくてもよい。
【0046】
本発明の土壌浄化方法は、原位置処理方法以外の方法、例えば、汚染土壌に水を加えてスラリー化した後、これを土壌浄化物質と共に反応槽で処理する方法、汚染土壌を掘削して地上に積み上げ、これに土壌浄化物質を添加して処理する方法等を用いて実施することもできる。
【0047】
本発明の土壌浄化方法を用いれば、土壌中に常在する微生物のうち、特に、油分分解能に優れた微生物が選択的に活性化され、油で汚染された土壌が十分に短い時間で浄化される。ここで、土壌汚染の原因となる油は、鉱油(ガソリン、灯油、軽油等)、合成油、動植物油等のいずれであってもよい。
【0048】
(微生物活性化剤)
本発明の微生物活性化剤は、窒素源、リン源、及び炭素数12以下の直鎖アルカンを含有するものである。本発明の微生物活性化剤を用いれば、本発明の土壌浄化方法を効率的に実施して、油汚染土壌をより効率的に浄化することが可能になる。
【0049】
窒素源は、土壌中の微生物により資化されるものであればよいが、アンモニア態窒素(塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等)及び硝酸態窒素(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等)が好ましい。
【0050】
また、リン源は、土壌中の微生物により資化されるものであればよく、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム12水和物、メタリン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、トリリン酸カリウム等が挙げられる。
【0051】
窒素源及びリン源の含有量は特に制限されないが、リン源中のリンに対する窒素源中の窒素の質量比(N/P)が1〜100であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。
【0052】
直鎖アルカンは、炭素数が12以下であればよいが、特に炭素数が6〜12のもの、すなわちn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン及びn−ドデカンが好ましい。炭素数12以下の直鎖アルカンの代わりに、それ以外のアルカンが含有されると、微生物がそのようなアルカンを栄養源(炭素源)として取り込むのが過度に困難であるため、油分分解能に優れた微生物の選択的な活性化が起こりにくくなる。炭素数が6未満であると、炭素数が6〜12の場合と比較して、直鎖アルカンが微生物によって分解されやすく、活性化される微生物の油分分解能が低くなる傾向がある。
【0053】
また、直鎖アルカンの含有量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、10〜500質量%であるのが好ましい。含有量が10質量%未満であると、上記範囲内の場合と比較して、油分分解能に優れた微生物の活性化が不十分になる傾向がある。他方、含有量が500質量%を超えると、上記範囲内の場合と比較して、他の栄養源が微生物によって取り込まれにくくなり、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。
【0054】
本発明の微生物活性化剤は、ビタミン類又は金属類を更に含有するのが好ましい。ビタミン類又は金属類を更に含有すると、微生物の成長を促進し、油分分解能に優れた微生物を更に活性化することが可能になる。微生物の成長を促進し、油分分解能に優れた微生物を更に活性化するには、ビタミン類及び金属類の双方を含有するのが特に好ましい。
【0055】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンB(チアミン)、ビタミンB(リボフラビン)、ビタミンB(ピリドキシン)、葉酸、ビオチン、p−アミノ安息香酸、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12、リポ酸、ビタミンC及びそれらの塩(ピリドキシン塩酸塩、チアミン塩酸塩等)が挙げられる。ビタミン類は、一種のみを単独で含有しても、また、二種以上を含有してもよい。
【0056】
また、ビタミン類の含有量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、0.00001〜0.1質量%であるのが好ましい。含有量が0.00001質量%未満であると、上記範囲内の場合と比較して、微生物によって取り込まれるビタミン類が不足し、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。他方、含有量が0.1質量%を超えると、上記範囲内の場合と比較して、微生物中における他の栄養源の作用が阻害され、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。
【0057】
金属類としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、コバルト、亜鉛、ホウ素、モリブデン、マンガン、それらの塩(硫酸マグネシウム、硫酸鉄(II)等)及びそれらの水和物(硫酸マグネシウム7水和物、硫酸鉄(II)7水和物等)が挙げられる。金属類は、一種のみを単独で含有しても、また、二種以上を含有してもよい。
【0058】
また、金属類の含有量は、窒素源中の窒素の質量、及びリン源中のリンの質量の合計に対して、0.01〜100質量%であるのが好ましい。含有量が0.01質量%未満であると、上記範囲内の場合と比較して、微生物によって取り込まれる金属類が不足し、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。他方、含有量が100質量%を超えると、上記範囲内の場合と比較して、微生物中における他の栄養源の作用が阻害され、微生物の活性化が不十分になる傾向がある。
【0059】
本発明の微生物活性化剤は、微生物の活性化を阻害しないものであれば、窒素源、リン源、炭素数12以下の直鎖アルカン、ビタミン類及び金属類以外の物質を更に含有してもよい。そのような物質としては、ケイ素源(ケイ酸塩)、界面活性物質等が挙げられる。
【0060】
また、本発明の微生物活性化剤は、成分となる二種以上の土壌浄化物質が原状のまま混合された混合物であっても、また、そのような混合物の水溶液であってもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
先ず、全石油系炭化水素濃度(TPH)が1質量%の油汚染土壌100gを用意した。また、以下に示す量の硝酸アンモニウム(NHNO)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(NaHPO・12HO)、リン酸二水素カリウム(KHPO)及びn−オクタンを水に溶解した水溶液50mLを調製して、微生物活性化剤を得た。
【0063】
NHNO:上記土壌に含有される炭化水素中の炭素(C)の全質量に対して、NHNO中の窒素(N)量が10質量%となる量
NaHPO・12HO及びKHPO:上記土壌に含有される炭化水素中の炭素(C)の全質量に対して、NaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)量が1質量%となる量
n−オクタン:上記土壌に含有される炭化水素中の炭素(C)の全質量に対して、n−オクタン中の炭素(C)量が5質量%となる量(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、45質量%)
【0064】
次に、上記土壌(100g)と上記微生物活性化剤(上記水溶液50mL)とを容量500mLの三角フラスコに入れ、得られた混合物を、20℃の下、1か月間、回転培養器を用いて、150rpmで連続的に撹拌した。
【0065】
最後に、撹拌した土壌を、室温下、20分間、四塩化炭素で抽出し、赤外吸収法でTPHを測定して、撹拌前のTPHに対するTPH減少率を求めた。
【0066】
(実施例2)
微生物活性化剤として、実施例1と同じ量の硝酸アンモニウム(NHNO)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(NaHPO・12HO)、リン酸二水素カリウム(KHPO)及びn−オクタンに加えて、以下に示す量のビタミン類(ビオチン、ピリドキシン塩酸塩、葉酸、リボフラビン、チアミン塩酸塩、ニコチン酸及びp−アミノ安息香酸)及び金属類(硫酸マグネシウム7水和物(MgSO・7HO)、硫酸鉄(II)7水和物(FeSO・7HO)、塩化カルシウム2水和物(CaCl・2HO)、硫酸マンガン5水和物(MnSO・5HO)及び硫酸亜鉛7水和物(ZnSO・7HO))を水に溶解した水溶液50mLを調製し、これを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、撹拌前のTPHに対するTPH減少率を求めた。
【0067】
ビオチン:0.05mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.002質量%)
ピリドキシン塩酸塩:0.05mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.002質量%)
葉酸:0.05mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.002質量%)
リボフラビン:0.05mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.002質量%)
チアミン塩酸塩:0.05mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.002質量%)
ニコチン酸:0.05mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.002質量%)
p−アミノ安息香酸:0.05mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.002質量%)
MgSO・7HO:100mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、4.5質量%)
FeSO・7HO:10mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.45質量%)
CaCl・2HO:10mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.45質量%)
MnSO・5HO:10mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.45質量%)
ZnSO・7HO:10mg/L(NHNO中の窒素(N)の質量、並びにNaHPO・12HO及びKHPO中のリン(P)の質量の合計に対して、0.45質量%)
【0068】
(比較例1)
微生物活性化剤として、実施例1と同じ量の硝酸アンモニウム(NHNO)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(NaHPO・12HO)及びリン酸二水素カリウム(KHPO)を水に溶解した水溶液(n−オクタンを含有しない。)50mLを調製し、これを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、撹拌前のTPHに対するTPH減少率を求めた。
【0069】
実施例1、実施例2及び比較例1の結果を表1に示す。
【表1】

【0070】
表1に示されるように、実施例1及び2で得られたTPH減少率は、比較例1で得られたTPH減少率と比較して、顕著に高い値である。また、実施例2で得られたTPH減少率は、実施例1で得られたTPH減少率と比較しても、顕著に高い値である。
【0071】
実施例1、実施例2及び比較例1により、本発明の土壌浄化方法を用いれば、油汚染土壌を、十分に効率的に、すなわち十分に短い時間で浄化することが可能になることが示された。特に、油で汚染された土壌に、窒素源、リン源、及び炭素数12以下の直鎖アルカンに加えて、更に、ビタミン類及び金属類を供給する土壌浄化方法は、油汚染土壌を極めて効率的に浄化することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の土壌浄化方法及び微生物活性化剤は、油汚染土壌の浄化に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】土壌に設置された土壌浄化装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0074】
1…土壌浄化装置、2…不飽和層、3…飽和層(帯水層)、4…汚染領域、5…供給槽、6…注入井戸、7…揚水井戸、8…揚水ポンプ、9…分離槽、10…曝気槽、11…吸着塔、T1〜T8…管、G…土壌、L…地下水面、F…地下水の流れ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油で汚染された土壌に、窒素源、リン源、及び炭素数12以下の直鎖アルカンを供給して、前記土壌に含まれる有機物質分解能を有する微生物を活性化し、前記土壌を浄化する土壌浄化方法。
【請求項2】
前記直鎖アルカンの炭素数が6〜12である、請求項1に記載の土壌浄化方法。
【請求項3】
前記直鎖アルカンの供給量が、前記窒素源中の窒素の質量、及び前記リン源中のリンの質量の合計に対して、10〜500質量%である、請求項1又は2に記載の土壌浄化方法。
【請求項4】
前記土壌に、ビタミン類及び金属類を更に供給する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の土壌浄化方法。
【請求項5】
前記ビタミン類が、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、葉酸、ビオチン、p−アミノ安息香酸、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12、リポ酸、ビタミンC及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項4に記載の土壌浄化方法。
【請求項6】
前記金属類が、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、コバルト、亜鉛、ホウ素、モリブデン、マンガン、それらの塩及びそれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項4又は5に記載の土壌浄化方法。
【請求項7】
前記ビタミン類の供給量が、前記窒素源中の窒素の質量、及び前記リン源中のリンの質量の合計に対して、0.00001〜0.1質量%である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の土壌浄化方法。
【請求項8】
前記金属類の供給量が、前記窒素源中の窒素の質量、及び前記リン源中のリンの質量の合計に対して、0.01〜100質量%である、請求項4〜7のいずれか一項に記載の土壌浄化方法。
【請求項9】
窒素源、リン源、及び炭素数12以下の直鎖アルカンを含有する微生物活性化剤。
【請求項10】
前記直鎖アルカンの炭素数が6〜12である、請求項9に記載の微生物活性化剤。
【請求項11】
前記直鎖アルカンの含有量が、前記窒素源中の窒素の質量、及び前記リン源中のリンの質量の合計に対して、10〜500質量%である、請求項9又は10に記載の微生物活性化剤。
【請求項12】
ビタミン類及び金属類を更に含有する、請求項9〜11のいずれか一項に記載の微生物活性化剤。
【請求項13】
前記ビタミン類が、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、葉酸、ビオチン、p−アミノ安息香酸、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12、リポ酸、ビタミンC及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項12に記載の微生物活性化剤。
【請求項14】
前記金属類が、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、コバルト、亜鉛、ホウ素、モリブデン、マンガン、それらの塩及びそれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項12又は13に記載の微生物活性化剤。
【請求項15】
前記ビタミン類の含有量が、前記窒素源中の窒素の質量、及び前記リン源中のリンの質量の合計に対して、0.00001〜0.1質量%である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の微生物活性化剤。
【請求項16】
前記金属類の含有量が、前記窒素源中の窒素の質量、及び前記リン源中のリンの質量の合計に対して、0.01〜100質量%である、請求項12〜15のいずれか一項に記載の微生物活性化剤。

【図1】
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