説明

土壌硬度測定器

【課題】構造が簡単でコストの低減及び操作性の向上が図れ、縦方向及び横方向の調査が容易にできる土壌硬度測定器を提供する。
【解決手段】土壌2の表面に当接される当て板3を先端に、後端に後部キャップ4を着脱可能に有する筒状の測定器本体5と、当て板に設けられた孔部6を通って測定器本体内より土壌内に貫入されるように設けられた貫入針7と、貫入針に所定の力を付与するために測定器本体内に収容されたバネ8と、測定器本体内にその後部キャップを貫通して挿入され貫入針を測定器本体内に引き込むべくバネを後方に引いて圧縮させるための操作軸9と、後部キャップ上に設けられ操作軸に形成した係合部24に係合することによりバネを圧縮した状態で操作軸を係止し、且つ係合部24に対する係合を解除することにより貫入針をバネ力で土壌内に発射させるための引き金25と、測定器本体に設けられ貫入針の貫入深さを表示する表示部12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌硬度測定器に係り、特に従来品よりも安価で取り扱いが簡易な土壌硬度測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より使われている土壌硬度測定器の機種としては、山中式(携帯タイプ)と長谷川式(貫入タイプ)が知られている。なお、これらに関連する技術としては、例えば特許文献1が知られている。
【0003】
山中式は、コンパクトで持ち運びに便利であり、精度も高く、計数的な土壌の硬度と根の生育の相関関係においても研究が進んでいる。
【0004】
一方、長谷川式は、垂直落下する重りの落下慣性力を一定にしてその場の土壌の硬度を最大深度で1000mmまで測ることができる。また、長谷川式は、補助部品として落下の誘導装置を備えており、落下精度の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3259910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記山中式は、精度が高いだけに調整や取り扱いが難しい。また、土壌硬度測定器の先端部がコーン形状であるため、強い力に耐え得るが、その分、応力の強いバネを使用する必要があり、調査単位もmm単位になることから、複雑な土壌には返って調査の結果を惑わす要素となり易い。そのため、1平方メートル当たりの観測点を多くとり、類推値を結果とする煩雑な作業を余儀なくされている。
【0007】
また、前述したように土壌硬度測定器の先端部がコーン形状であるため、測定深度も浅く、植栽現場作業と並行して使用するには困難であった。
【0008】
一方、前記長谷川式は、器材の重量が10kgに及ぶだけでなく、落下貫入式であるため、横方向(水平方向)の簡易な調査(測定)ができず、不便である。また、機材の構造が複雑で、コストが高いだけでなく、設営や調査にも多くの時間がかかるという難点もある。
【0009】
ところで、実際に植え穴を掘った後、地層側面を見ると、かなり複雑であり、腐敗層や小石、砂利砂層など地層の変化は地層の浅い部分では様々な理由から部分変化が激しい。従って、縦方向(鉛直方向)の貫入試験のみから結果を想定することは難しい面もある。
【0010】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、構造が簡単でコストの低減及び操作性の向上が図れ、縦方向及び横方向の調査が容易にできる土壌硬度測定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、土壌の表面に当接される当て板を先端に有し、後端に後部キャップを着脱可能に有する筒状の測定器本体と、前記当て板に設けられた孔部を通って測定器本体内より土壌内に貫入されるように設けられた貫入針と、該貫入針を前記土壌内に貫入すべく所定の力を付与するために前記測定器本体内に収容されたバネと、前記測定器本体内にその後部キャップを貫通して挿入され前記貫入針を測定器本体内に引き込むべく前記バネを後方に引いて圧縮させるための操作軸と、前記後部キャップ上に設けられ前記操作軸に形成した係合部に係合することにより前記バネを圧縮した状態で操作軸を係止し、且つ係合部に対する係合を解除することにより前記貫入針をバネ力で土壌内に発射させるための引き金と、前記測定器本体又は操作軸に設けられ前記貫入針の貫入深さを表示する表示部とを備えたことを特徴としている。
【0012】
前記当接板の孔部には前記貫入針の誤射を阻止するための蓋が着脱可能に設けられていることが好ましい。
【0013】
前記後部キャップを取外した前記測定器本体の後端から前記バネを取外し、前記バネ力に相当する重量の重りを前記貫入針の後部に落下させた時の土壌内への貫入針の貫入深さと、前記バネ力による土壌内への貫入針の貫入深さとを比較することにより前記バネの精度を確認するように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、構造が簡単でコストの低減及び操作性の向上が図れ、縦方向及び横方向の調査が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る土壌硬度測定器の一実施形態を概略的に示す図で、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図2】土壌硬度測定器により土壌硬度を測定する状態を示す図である。
【図3】土壌硬度測定器の構成を示す分解図である。
【図4】土壌硬度測定器に用いられるバネを示す図である。
【図5】バネの精度を確認するための重りを示す図である。
【図6】バネの精度を確認するための重り落下試験を説明する図である。
【図7】土壌硬度測定器により土壌硬度を測定する一例を示す図である。
【図8】測定結果を記録する直交座標の一例を示す図である。
【図9】土壌硬度測定器による他の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0017】
図1において、1は土壌硬度測定器であり、この土壌硬度測定器1は、土壌2の表面に当接される当て板(当て皿ともいう)3を先端に有し、後端に後部キャップ4を着脱可能に有する筒状の測定器本体5を備えている。この測定器本体5内には、前記当て板3に設けられた孔部6を通って土壌2内に貫入される貫入針7と、この貫入針7を土壌2内に貫入すべく所定の力を付与するバネ(コイルバネ)8と、このバネ8を後方に引いて圧縮させると共に前記貫入針7を測定器本体5内に引き込むための操作軸9とが収容されている。
【0018】
前記測定器本体5は、図3にも示すように金属製例えばアルミニウム製の円筒体からなり、手で握り易い大きさ、例えば直径が3〜5cm程度、長さが50〜60cm程度とされている。この測定器本体5の先端側の側面には後述の貫入針7の貫入深さを表示するためのスリット状の表示窓10が形成されていると共にその表示窓10の少なくとも一側部には目盛り11が付され、貫入針7の貫入深さ(貫入量)を表示する表示部12とされている。
【0019】
調整された土壌2の表面に測定器本体5を垂直に設置するために測定器本体5の先端部に前記当て板3が設けられている。この当て板3は、直径が3〜5cm程度の金属板例えばアルミ板からなっている。
【0020】
前記測定器本体5の先端に当て板3を取付けるために、測定器本体5の先端には前記後部キャップ4と同形状の前部キャップ13が着脱可能に取付けられている。前記測定器本体5の先端部及び後端部の外周には雄ねじ部14,15が形成され、前部キャップ13及び後部キャップ4には前記雄ねじ部14,15に螺着する雌ねじ部(図示省略)が形成されている。
【0021】
また、前部キャップ13には中空の突軸16を介して前記当て板3が取付けられている。この場合、突軸16に対して当て板3を着脱可能に取付けるために、当て板3の後端中央部にはナット17が固着され、突軸16の先端部には前記ナット17を螺合する雄ねじ部18が形成されている。
【0022】
前記貫入針7は、ステンレス製で直径が4mm、当て板3からの突出量が最大で例えば10cmとされており、先端に鋭角に尖った尖鋭部7aを有している。この貫入針7の後端部には前記測定器本体5内を摺動可能な円柱状の摺動体19が設けられている。この摺動体19の少なくとも先端側には摺動を円滑にするためのテーパ20が形成されていることが好ましい。摺動体19の側面には貫入深さを指示する小ネジからなる指針21が取付けられている。この指針21は、測定器本体の前記表示窓10の外側から摺動体19に取付けられている。
【0023】
前記後部キャップ4には、前記操作軸9の後端部を突出させるための中心孔22が設けられている。操作軸9の先端部にはバネ8の先端部を係止するためのフランジ部23が設けられており、このフランジ部23の先端部が前記貫入針7の後部の摺動体19にバネ8の力(弾発力、付勢力)で当接している。
【0024】
前記後部キャップ4の上面には、操作軸9の側面に形成した係合部(係合溝)24に係合することにより前記バネ8を圧縮した状態で操作軸9を係止し、且つ係合部24に対する係合を解除することにより前記貫入針7をバネ8の力で土壌内に打ち込むための引き金25が設けられている。この引き金25は、横長の金属板からなり、その一端が前記後部キャップ4の上面の偏芯位置にネジ26で回動可能に取付けられている。この引き金25の他端を図7の(b)に示すように矢印方向に回動すると、操作軸9の係合部24から引き金25の係合が外れるため、操作軸9がバネ8の力で先端側へ押され、これにより貫入針7が土壌2内に打ち込まれるようになっている。前記当て板3の孔部6には前記貫入針7の誤射を阻止するための蓋(ネジ蓋)27が着脱可能に設けられていることが好ましい。
【0025】
バネ8としては、図4の(a)、(b)に示すようにバネ力の弱いバネ8aと、バネ力の強いバネ8bとの2種類のバネが選択的に用いられるようになっていることが好ましい。
【0026】
また、図6に示すように前記後部キャップ4を取外した前記測定器本体5の後端から前記バネ8を取外し、前記バネ力に相当する重量の重り28を前記貫入針7の後部に落下させた時の土壌2内への貫入針7の貫入深さと、前記バネ8による土壌2内への貫入針7の貫入深さとを比較することにより前記バネ8の精度を確認できるように構成されていることが好ましい。この場合も、重り28としては、図5の(a)、(b)に示すように前記バネ力の弱いバネ8aに対応する重量の軽い重り28aと、前記バネ力の強いバネ8bに対応する重量の重い重り28bとの2種類の重りが選択的に用いられるようになっていることが好ましい。
【0027】
次に、前記土壌硬度測定器1を用いた土壌硬度の測定方法について説明する。一般的に多くの植物は地表より50cm程度の所に生存に欠かせない吸収根を持っている。従って、図7に示すように土壌2を縦15cm、横25cmの間隔で階段状に堀落として各段の上面2a及び側面2bを土壌硬度測定器1により測定する。測定に先立ち、土壌硬度測定器1の操作軸9の後端部を引っ張ってバネ8を圧縮し、操作軸9の係合部24に引き金25の一側部を係合させて係止状態にする。なお、直ちに測定を開始しない場合には、当て板3の孔部6に蓋27を取付けておく。
【0028】
操作軸9を容易に引っ張るために、操作軸9の端部に引き手30が設けられていることが好ましい。引き手30は例えばリング状に形成され、操作軸9の端部には引き手30を取付けるための孔部31が設けられる(図3参照)。なお、引き手の代わりに、操作軸の端部の外周に滑り止めの凹凸が設けられていても良い。
【0029】
土壌2の上面2aを測定する場合には、当て板3の孔部6から蓋27を取外し、当て板3を土壌2の上面2aに押し当てて測定器本体5を垂直に立てたセット状態にする。この場合、一方の手で測定器本体5を保持し、他方の手で引き金25を操作すればよい。構造の簡素化及び検出精度の向上を図るために、操作軸9と貫入針7とは分離されており、接着されておらず、また貫入針7の引き込み用のバネ等も用いられていない。測定器本体5を垂直に立てる際に、貫入針7が自重で測定器本体5の先端から突出するが、土壌2の上面2aに当て板3を押し当てる際に貫入針7は測定器本体5内に押し込まれる。
【0030】
前記セット状態で引き金25を引くと、引き金25の一側部が係合部24から離脱して操作軸9の拘束状態が解除され、バネ8の力で貫入針7が土壌2内に発射され、土壌2の硬度に応じた長さだけ貫入針7が土壌2内に貫入される。その貫入量を表示部12の目盛り11で測定し、その測定値を記録すればよい。
【0031】
土壌2の側面2bを測定する場合には、当て板3を土壌2の側面2bに押し当てて測定器本体5を水平に保持した状態で引き金25を引いて貫入針7を土壌2内に発射・貫入させ、その貫入量を表示部12の目盛り11で測定すればよい。例えば、縦方向の測定値が3cmで、横方向の測定値が7cmである場合には、図8に示すように直交座標29の第1象限にその測定値Cを記録すればよい。
【0032】
前記直交座標29にその測定値を記録し、数多くの測定点を面的に且つ継続的に観測することにより、側面指数を横軸(X軸)に、平面指数を縦軸(Y軸)に表わすグラフを作成することができる。
【0033】
そして、土壌の特徴と植物の成長速度などを観察することにより、植物の成長と土壌の物理的な特性との関係を把握することが可能となり、更に継続的な調査の結果を生かした植物の維持育成計画にも寄与することが可能となる。なお、土壌検査には水の浸透試験が付きものであるが、10cm貫入の場合、地層の目視及び異臭の有無の調査を行うだけで水の浸透試験は必ずしも必要とされない。
【0034】
調査結果には、場所の特徴すなわち景観診断を基本とし、春夏秋冬による変化、地温、水分量を計器や触診により観察して記録し、土壌硬度測定器1による測定値は100例を単位に直交座標29に記録することが好ましい。
【0035】
このように本実施形態の土壌硬度測定器によれば、土壌2の表面に当接される当て板3を先端に有し、後端に後部キャップ4を着脱可能に有する筒状の測定器本体5と、前記当て板3に設けられた孔部6を通って測定器本体5内より土壌2内に貫入されるように設けられた貫入針7と、該貫入針7を前記土壌2内に貫入すべく所定の力を付与するために前記測定器本体5内に収容されたバネ8と、該バネ8を後方に引いて圧縮させると共に前記貫入針7を測定器本体5内に引き込むための操作軸9と、前記後部キャップ4上に設けられ前記操作軸9に形成した係合部24に係合することにより前記バネ8を圧縮した状態で操作軸9を係止し、且つ係合部24に対する係合を解除することにより前記貫入針7をバネ8の力で土壌2内に発射させるための引き金25と、前記測定器本体5に設けられ前記貫入針7の貫入深さを表示する表示部12とを備えているため、構造が簡単でコストの低減及び操作性の向上が図れ、縦方向及び横方向の土壌硬度の調査が容易にできる。従って、土壌硬度測定器1の入手が容易で普及し易いため、土壌硬度のデータを取り易い。特に、貫入針7を測定器本体5内に引き込めた状態で測定場所にセットできるので、狭隘な場所での調査を容易に行うことができる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【0037】
図9は、土壌硬度測定器による他の測定方法を説明する図である。この測定方法は、引き金25を解除した状態、すなわち貫入針7を当て板3から突出させた状態で行われる。片方の手で測定器本体5を土壌2の表面に対して垂直に保持した状態で矢印で示すように当て板3が土壌2の表面に当接されるまで押し進める。
【0038】
これにより貫入針7が土壌2の硬度に応じて土壌2内に貫入されるので、その貫入量を表示部12の目盛り11で測定し、その測定値を記録すればよい。なお、土壌硬度測定器の貫入針及びバネ以外は合成樹脂製であっても良く、これによりコストの低減が図れる。
【符号の説明】
【0039】
1 土壌硬度測定器
2 土壌
2a 土壌の上面
2b 土壌の側面
3 当て板
4 後部キャップ
5 測定器本体
6 孔部
7 貫入針
7a 尖鋭部
8 バネ
9 操作軸
10 表示窓
11 目盛り
12 表示部
13 前部キャップ
14,15 雄ねじ部
16 突軸
17 ナット
18 雄ねじ部
19 摺動体
20 テーパ
21 指針
22 中心孔
23 フランジ部
24 係合部
25 引き金
26 ネジ
27 蓋
28 重り
29 直交座標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌の表面に当接される当て板を先端に有し、後端に後部キャップを着脱可能に有する筒状の測定器本体と、前記当て板に設けられた孔部を通って測定器本体内より土壌内に貫入されるように設けられた貫入針と、該貫入針を前記土壌内に貫入すべく所定の力を付与するために前記測定器本体内に収容されたバネと、前記測定器本体内にその後部キャップを貫通して挿入され前記貫入針を測定器本体内に引き込むべく前記バネを後方に引いて圧縮させるための操作軸と、前記後部キャップ上に設けられ前記操作軸に形成した係合部に係合することにより前記バネを圧縮した状態で操作軸を係止し、且つ係合部に対する係合を解除することにより前記貫入針をバネ力で土壌内に発射させるための引き金と、前記測定器本体に設けられ前記貫入針の貫入深さを表示する表示部とを備えたことを特徴とする土壌硬度測定器。
【請求項2】
前記当接板の孔部には前記貫入針の誤射を阻止するための蓋が着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の土壌硬度測定器。
【請求項3】
前記後部キャップを取外した前記測定器本体の後端から前記バネを取外し、前記バネ力に相当する重量の重りを前記貫入針の後部に落下させた時の土壌内への貫入針の貫入深さと、前記バネ力による土壌内への貫入針の貫入深さとを比較することにより前記バネの精度を確認するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の土壌硬度測定器。

【図4】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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