説明

土質改良工事方法及びそのシステム

【課題】 固化材スラリー製造プラントを複数の施工現場に対して共用できるようにして各現場には固化材スラリー製造プラントを設置せず、土質改良工事を合理的に、経済的に、高能率で施工する。
【解決手段】 可使時間が2時間以上14日以下となるように配合を定めて土質改良工事用の固化材スラリーを製造する定置式スラリープラント10を設け、適切な可使時間を付与した固化材スラリーを搬送装置20で施工現場に搬送し、現場に設けた固化材スラリーを保存する現場貯蔵装置30に可使時間以内の任意の時点まで保存した後、現場の対象土と混合して土質改良を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土質改良工事方法及びそのシステムに関する。さらに詳しくは、各種セメント及び/又はセメント系固化材を用いる土質改良工事を合理的に経済的に高能率施工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種セメント及び/又はセメント系固化材等のいわゆる「水硬性固化材」を用いて土質改良を行う技術がある。
【0003】
このような土質改良は、例えば、土質改良すべき地中に連続する壁体を形成したり、対象地盤の支持力を確保したり、地中に支持構造体を造成したりするなど、各種の目的に応じて、対象とする施工現場の土質を改良する現地工事によって行われる。
【0004】
従来の土質改良工事では、土質改良工事施工現場に固化材スラリー製造プラントを設置して、固化材スラリーを製造していた。このため土質改良工事の施工現場に固化材スラリー製造プラントの搬入、組立、運転、解体及び搬出が必要であった。場合によっては、固化材スラリーの製造プラントの下方の地盤を土質改良する必要もあり、工事を中断してプラントを移動してから土質改良しなければならず、土質改良のための工事所要日数のほかにプラントの移動のための解体、移動及び組立の時間が必要なこともあった。
【0005】
また従来は固化材スラリーを製造直後に使用し、当日の作業終了時に残余した固化材スラリーは産業廃棄物として処分していた。
【0006】
土質改良工事の実情によって、土質改良工事時間中の改良土の硬化を遅延させるために、固化材スラリー中に遅延剤を添加して、土質改良体の硬化を遅延させる技術は知られている。例えば、鋼材を土質改良体中に挿入する複合杭体の施工、又は大深度開発工事に用いられる長尺の土質改良杭体の施工では、1サイクルの所要時間が長時間となり、その間、固化材スラリーと固化対象土を混合撹拌した土質改良体を硬化しない状態で維持することが必要で、このために硬化遅延技術が用いられていた。
【0007】
このような工事の態様や改良すべき現場の土質、土質改良工事の方法、施工条件や施工手順その他によって、土質改良体の硬化時間を遅延させる必要がある場合、水硬性固化材に対して遅延効果を有する添加剤(遅延剤)を添加して、改良土の硬化時間を遅延させ、土質改良工事の作業性を確保したり、ラップ部等不連続性を生ずるおそれのある部分の改良土の品質改善を行うことがあった。このような工事の実情に対応するため、土質改良土の硬化時間を調整する技術がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
しかしこの技術は施工現場内に設置したスラリープラントにおいて製造した固化材スラリーを使用する技術である。
【0009】
また、セメントの硬化時間調整方法として、ペーストないしスラリー状のセメント混練材料に、凝結遅延剤を添加してセメントの水和を遅延させておき、これに減水剤及びセメント硬化促進剤を添加して、セメントの硬化調整を行う技術がある(例えば特許文献2参照。)。
【0010】
この技術は、コンクリートに関する技術であり、ポリオキシエチレン基を有するポリカルボン酸系セメント減水剤及びカルシウムアルミネートシリケートと石膏から成るセメント硬化促進剤を添加して、スランプを保持すると共に、適時にコンクリートを硬化させる技術である。この技術はコンクリートに関するものであって、土質改良技術に適用することはできない。
【0011】
水硬性固化材を用いる土質改良土の硬化遅延を図る場合に、土質改良体に、所期の遅延効果を発揮させると共に強度発現性を改良する技術もある(例えば特許文献3参照。)。この技術は、土質改良体の硬化遅延剤として、従来の遅延剤に遅延強化助剤を加えた硬化遅延剤を用いる技術である。
【0012】
また、セメントの凝結及び硬化を促進し、ゲルタイムの温度依存性が少なく調製が容易で、かつ固結体の所期及び長期の強度の発現性に優れる地盤改良用注入材がある(例えば、特許文献4参照。)。
【0013】
この技術は、地盤強化、止水、裏込め等においてセメントと組合せて用いる地盤改良用注入材(組成物)に係るものである。例えば、亀裂のある岩石層の空隙充填、透水層の止水、トンネルライニングの背面空間の裏込め等に用いる注入材である。
【0014】
この注入材は、CaO,NaO及びAlに換算した化学組成がCaO 54〜65重量%、NaO 5〜20重量%及びAl 21〜40重量%であるCaO−NaO−Al系焼成物100重量部に対し、石膏10〜200重量部及び凝結遅延剤0.01〜10重量部を含有する地盤改良用注入材、又は、8CaO・NaO・3Alを50重量%以上含むCaO−NaO−Al系焼成物100重量部に対し、石膏10〜200重量部及び凝結遅延剤0.01〜10重量部を含有する地盤改良用注入材である。
【0015】
NaOを含むCaO−NaO−Al系焼成物は、水和活性が高くセメントの凝結及び硬化を促進し、急硬性を著しく高めるものである。この地盤改良用注入材は使用に当ってゲルタイムを調整する必要があるので、製造時にあらかじめ凝結遅延剤の適量を添加して急硬性を標準化する。一方、地盤改良工事施工時に混練水に凝結遅延剤の所定量を溶解して用いることが示されているが、これは従来から知られている慣用手段である。
【特許文献1】特開平10−17864号公報
【特許文献2】特許第3973331号
【特許文献3】特開2004−43275号公報
【特許文献4】特開平9−100471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来、セメント系固化材を用いて土質改良を行う場合、水硬性固化材を土質改良すべき施工現場の固化対象土と混合して改良土に所望の強度を付与して、地中壁などの地中構造物や支持地盤を造成することが行われてきた。この場合、施工現場に水硬性固化材スラリーを製造する製造プラントなどを設置する。このような製造プラントは、施工工事量の大小に拘らず設置する必要がある。このため比較的小規模な土質改良工事では、原価高騰を免れることができなかった。
【0017】
また、土質改良工事は、工事の種類や施工工程の実情に応じて、施工時間の間隔を置いて施工する必要がある場合も多い。しかし、固化材スラリーの可使時間が適切になるように調整する技術は従来なかった。また、固化材スラリーに可使時間を付与した場合に、このような固化材スラリーによって発現する改良土の一軸圧縮強度が確保されるような技術は知られていない。
【0018】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、適切に可使時間を調整した固化材スラリーを製造する技術を提供することを目的とする。また本発明は、従来、水硬性固化材スラリー製造プラントを各施工現場に設置していたのを取止め、各土質改良施工現場の実情に合致するように適切な可使時間を付与した固化材スラリーを定置式プラントで製造し、これを各施工現場に搬送して、多数の施工現場における土質改良工事を合理的に経済的に、高能率で施工する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、次の技術手段を講じたことを特徴とする。すなわち、本発明は、施工現場の土質、環境、土質改良工法、及び施工条件に応じて、可使時間が2時間以上〜14日以下である固化材スラリーを定置式固化材スラリー製造プラントで製造し、該固化材スラリーを各土質改良施工現場に搬送して保存した後、前記可使時間以内に対象土と混合して土質改良を行うことを特徴とする土質改良工事方法である。
【0020】
なお、当然のことながら、固化材スラリー製造プラントと土質改良施工現場とが近接する場合には搬送の必要はない。また、条件に応じて、固化材スラリー製造プラントと土質改良施工現場との間にスラリーを保存する中継基地を設けてもよい。
【0021】
本発明において、固化材スラリーの可使時間とは、土質改良用固化材スラリーとしての特性を失うことなく保存できる期間を云う。本発明は、この可使時間が、土質改良工事の工程その他の条件に応じてスラリー硬化遅延剤等の混入量等を定めることによって調整するものである。
【0022】
本発明では、前記可使時間は2時間以上14日まで可能である。可使時間は、施工の工程計画、また土質改良工法、例えば、土質改良すべき対象物の形成目的、形状、規模、大きさ等に応じ、使用機器や混入撹拌方式、工事工程等に応じて定められる。本発明では固化材スラリー製造の自由度や保存時間を大きく拡大することができる。
【0023】
なお、本発明で2時間以上の可使時間を付与した固化材スラリーは、可使時間内に使用した場合に、遅延剤を加えない従来の固化材スラリーを使用したものに比し、改良土の一軸圧縮強度が低下しないように配慮した。本発明に適用する可使時間2時間以上の固化材スラリーの配合は、この点を重要なポイントとして定められたもので、この配合は多くの試験によって確認した。
【0024】
本発明では、前記固化材スラリーは定置式固化材スラリー製造プラントで製造し、該固化材スラリーを各土質改良施工現場に搬送して保存した後、対象土と混合するので、土質改良工事方法の全面的な合理的な改善を図ることができる。従って、固化材スラリー可搬距離の領域内に定置式固化材スラリー製造プラントを設けることにより、個々の土質改良施工現場に固化材スラリー製造プラントを設置する必要がなくなる。このことによって、広域に亘る土質改良工事を総合的に、合理的、経済的に行うことができ、莫大な効果を奏する。
【0025】
上記本発明方法を好適に実施するための本発明のシステムは、土質改良工事の施工現場に、固化材スラリー製造プラントから搬送された固化材スラリーを保存する現場貯蔵装置を備えたことを特徴とする土質改良工事システムである。
【0026】
本発明の土質改良工事システムは固化材スラリーの製造プラントを各施工現場に設けることなく、延長した可使時間内に搬送可能な広域の施工現場に対して、各施工現場にはその作業工程に応じた固化材スラリーを保存する現場貯蔵装置のみを備えるとよい。
【0027】
現場貯蔵装置は、固化材スラリー保存タンクとその付属品のみからなるものである。土質改良工事施工現場ごとに固化材スラリー製造プラントを設置する必要がなくなるので、土質改良工事全体の合理化、経済化を達成することができる。
【0028】
本発明の現場貯蔵装置は、広域の複数の施工現場に対して1個所に設けた定置式固化材スラリー製造プラントと土質改良工事施工現場との地理的条件、現場施工工事の規模、作業工程等に応じて、適切な規模の現場貯蔵装置のみを各施工現場に設けるだけでよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明では固化材スラリーの可使時間を2時間以上14日以下とする。このことによって、固化材スラリーの可搬距離を大きく拡大することができ、施工工事工程に応じた固化材スラリーを適時適切に配送することができる。その可搬領域内に定置式固化材スラリー製造プラントを1個所設けることにより、個々の作業現場に固化材スラリー製造プラントを設置する必要がなくなる。各施工現場では実情に応じた現場貯蔵装置のみを備え、工事工程に応じた可使時間を有する固化材スラリーを使用することができ、広域に亘る土質改良工事を全面的に、合理的、経済的に行うことが可能となる。
【0030】
硬化遅延性の固化材スラリーは可使時間以内であれば、練置き後の保存日数を自由に選択して使用可能であり、また施工現場で工事終了後に残余した固化材スラリーは、同一配合の他の現場に輸送して使用することも可能であり、固化材スラリーの有効利用を図ることができ廃棄する量を最小限にすることができる。
【0031】
土質改良工事の種類及び目的によって、固化材と固化対象土を混合撹拌した土質改良体を硬化しない状態で長時間維持する必要がある場合にも、本発明は効果的に対応することができる。
【0032】
本発明では、土質改良工事の施工現場に、大型の重量物である固化材スラリー製造プラントを持込、組立、運転、解体、搬出する必要がなく、固化材スラリー現場貯蔵装置のみ備えればよい。従って、施工現場における設備費、人件費、電力費等を節減することができ、また、品質管理や在庫管理が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明方法は、
(a)施工現場の土質、環境、土質改良工事の方式、及び地理的条件に応じて、可使時間が2時間以上14日以下となるように配合を定めて固化材スラリーを製造し、土質改良施工現場に搬送する。
(b)この固化材スラリーは現場貯蔵装置等に保存することができ、前記可使時間以内の任意の時点まで保存した後、現場の対象土と混合して土質改良を行うものである。
【0034】
本発明では固化材スラリーに遅延剤を加えて、固化材スラリーの可使時間が2時間以上14日以下となるように調整する。遅延剤の添加量は固化材スラリーの配合、土質改良施工現場の土質、土質改良工事の方式、土質改良工事の工程計画、施工現場への搬送時間、施工工事工程等に応じて所望の可使時間を定め、添加量を決定する。
【0035】
遅延剤としては、例えば、遅延性を有する市販のコンクリート用化学混和剤及びソイルセメント用分散剤、遅延剤、オキシカルボン酸又は/及びその塩、リグニンスルホン酸塩、糖類及びその混合物、糖アルコール類、糖アルコールと高級脂肪酸とのエステル化合物などを用いることができる。
【0036】
以上のように、2時間以上14日以下の適切な可使時間を付与した固化材スラリーを定置式製造プラントで製造し、スラリータンクを備えた車輌等により施工現場に搬送する。施工現場には搬送された固化材スラリーを保存する現場貯蔵装置を備え、保存された固化材スラリーを施工工程に従って使用する。従って、固化材スラリーの廃棄を最小限にすることができる。
【0037】
本発明を開発するに至った試験研究による知見について以下説明する。
【0038】
土質改良工事に使用する固化材スラリーが、硬化することなく、所望の流動性を保持する時間、すなわち可使時間が2時間以上14日以下となるような配合例を表1に示した。
【0039】
表1について以下説明する。
【0040】
固化材スラリーは土質改良工事方法、固化材の種類、水セメント比、可使時間、遅延剤の種類に応じて、スラリー遅延剤の添加量を定めることができる。
【0041】
スラリー遅延剤添加量(質量%)は固化材に対する質量%であり、固化材の製造ロット、混練水(固化材スラリーの製造時に使用する水)及び環境温度等によって変化することがある。
【0042】
ソイルセメントコラム工法は、回転撹拌装置を用いて所定深度まで空掘掘進し、次いで固化材を注入しながら地盤とセメント系固化材とを撹拌混合し、地盤中に強固な柱状体を形成する工法である。中間とあるのは杭の中間部を形成するものである。固化材としてUS50又はUS52を用いる。
【0043】
US50(商品名)は宇部三菱セメント(株)のセメント系固化材で、砂質土、シルト、粘土の土質改良に適する。例えば、密度3.04g/cm 比表面積4,280cm/gである。代表的な化学成分は、SiO:23.8%、Al:8.4%、Fe:1.5%、CaO:53.7%、MgO:3.3%、SO:6.4%である。
【0044】
US52(商品名)は宇部三菱セメント(株)のセメント系固化材で、火山灰質粘性土、有機質土(腐植土)、超高含水のヘドロ等の土質改良に適する。例えば、密度3.06g/cm、比表面積4,240cm/gである。代表的な化学成分は、SiO:21.4%、Al:6.5%、Fe:1.7%、CaO:57.7%、MgO:2.5%、SO:7.6%である。
【0045】
ソイルセメントコラム工法に対して以上の固化材を用い、W/C=60%を対象とし、スラリー遅延剤としては、アルカリ土類金属の水酸化物(67質量部)とオキシカルボン酸塩(22質量部)およびリグニンスルホン酸塩(8質量部)の混合粉体を用いた。
【0046】
可使時間の表示は次のとおりである。
【0047】
可使時間1日……可使時間が2時間以上24時間まで
可使時間3日……可使時間が24時間を超え72時間まで
可使時間7日……可使時間が72時間を超え168時間まで
可使時間14日…可使時間が168時間を超え336時間まで
この表示は以下の表全て同じである。
【0048】
表1に示すように、ソイルセメントコラム工法(中間)に対して固化材としてUS50及びUS52を用い、水セメント比(W/C)を60%としたとき、固化材に対するスラリー遅延剤添加量は
US50では、
可使時間1日のとき 1.50質量%
可使時間3日のとき 2.00質量%
可使時間7日のとき 2.25質量%
可使時間14日のとき 2.50質量%
US52では、
可使時間1日のとき 1.50質量%
可使時間3日のとき 2.25質量%
可使時間7日のとき 2.50質量%
可使時間14日のとき 2.75質量%
であった。
【0049】
次に、ソイルセメント翼付鋼管杭工法は、上記ソイルセメントコラム工法と同様に地中に柱状体(ソイルセメント柱)を形成し、その中に羽根付鋼管を挿入してハイブリッド杭を構築する工法である。
【0050】
固化材としてUS50又はUS52を用い、水セメント比80%とし、上記ソイルセメントコラム工法と同様の遅延剤を用いたときの固化材に対するスラリー遅延剤添加量を、それぞれ、可使時間に応じて表1に示した。
【0051】
ソイルセメント鋼管杭工法は、地盤にセメントスラリーを注入撹拌して構築される固化体(ソイルセメント柱)と外面突起付き鋼管とから構成される合成杭(ソイルセメント鋼管杭)を地中に形成する工法である。ソイルセメント柱を造成しながら鋼管を建て込む同時埋設方式と、ソイルセメント柱を造成した後に鋼管を建て込む後埋設方式とがある。中間とあるのは、杭の中間部(根固部の上位の杭体部)を対象とする場合を指し、根固とあるのは杭底に設けた根固め球根を対象とする場合を指す。
【0052】
固化材としてBB(住友大阪セメント(株)製の高炉セメントB種(JIS R 5211))を用い、中間は水セメント比100%、根固は水セメント比60%とした。用いたスラリー遅延剤は上記と同様である。各可使時間ごとのスラリー遅延剤添加量は表1に示すとおりである。
【0053】
中堀根固鋼管杭工法は、鋼管杭又は鋼管矢板内にオーガースクリューを挿入して回転させ、杭先端部の土砂を連続的に掘削排土しながら杭を地中に圧入し、その後、杭先端部に固化材スラリーを高圧で噴射し、先端根固め拡大球根を造成する工法である。杭先端地盤は砂質地盤又は礫質地盤である。
【0054】
固化材としてN(住友大阪セメント(株)製の普通セメント(JIS R 5210))又はBBを用い、水セメント比67%とした。スラリー遅延剤は上記と同様で各可使時間に対応する遅延剤添加量は表1に示すとおりである。
【0055】
湿式深層改良工法は、ソイルセメントコラム工法と同様に回転撹拌装置を用いて所定深度まで地中を空掘掘進し、次いで固化材を注入しながら地盤とセメント系固化材とを撹拌混合し、地盤中に柱状体を形成する工法である。固化材としてBBを用い、水セメント比150%とした。
【0056】
表1に示すように、試験によって、固化材スラリーとして流動性を長時間持続し、適切な可使時間を持つ硬化遅延性の固化材スラリーを得た。この硬化遅延性の固化材スラリーは、可使時間中の任意の時点で土質改良対象土と混合すると、スラリーの可使時間にかかわらず所期の水硬性固化材の水和反応が開始し、改良土の硬化が逐次進行する。
【0057】
次に、土質改良工事方法における従来の固化材スラリーの練置時間と一軸圧縮強度との関係を調査した結果を表2に示した。
【0058】
表2は、表1に示したのと同様の工法、固化材、水セメント比等によって製造し、遅延剤を添加しない従来の固化材スラリーを用いて、練置時間を0時間、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間としたときの土質改良体の材齢28日の一軸圧縮強度(N/mm)の変化を示したものである。
【0059】
固化材スラリー製造直後、すなわち練置時間が0のときの一軸圧縮強度に対して、練置時間経過と共に何れも強度が低下する。練置時間が0時間の強度に対して練置時間1時間では強度は98〜99%、練置時間1.5時間では89〜96%であるが、練置時間2時間では78〜88%に低下し、練置時間2.5時間では65〜79%に低下している。このことは、従来技術では練置時間が概ね2時間では一軸圧縮強度に悪影響が起ることを示している。
【0060】
次に、本発明の実施例について表3〜表13を参照して説明する。
【0061】
表3は、ソイルセメントコラム工法(中間)の場合の改良土の一軸圧縮強度を示したものである。固化材としてUS50を用い、単位固化材量を300kg/mとし、水セメント比(W/C)を60%とし、可使時間が3日及び14日となるように、それぞれスラリー遅延剤を、固化材に対して2.0質量%及び2.5質量%添加した固化材スラリーを用い、対象土として君津砂を用いた試料の材齢28日の一軸圧縮強度を示している。比較のためにスラリー遅延剤を添加しない可使時間0日の従来例を併せて示した。
【0062】
なお、このソイルセメントコラム工法(中間)の実施例では、杭の中間部を形成する地中柱体を形成するため、土質改良工程の経過時間中に土質改良体の硬化を遅延させる目的で、作業用遅延剤を固化材に対して1.0質量%追加添加した。この作業用遅延剤としては短時間でスラリー中へ分散するように液体を用いた。具体的にはオキシカルボン酸塩(固形量27質量部)およびリグニンスルホン酸塩(固形量3質量部)の混合液体である。このような土質改良の作業時間が長くなるために、その間の土質改良土の硬化時間を遅延させる目的で、作業用遅延剤を用いる技術は従来から知られているものである。
【0063】
表3〜表13における保存時間の表示は次のとおりである。
【0064】
保存時間0(直後)…スラリー製造直後改良土と混合
保存時間2時間………スラリー製造後2時間経過後改良土と混合
保存時間1日…………スラリー製造後24時間経過後改良土と混合
保存時間3日…………スラリー製造後72時間経過後改良土と混合
保存時間7日…………スラリー製造後168時間経過後改良土と混合
保存時間14日………スラリー製造後336時間経過後改良土と混合
表3では可使時間が3日で、保存時間が2時間、1日及び3日の試料、並びに可使時間が14日で、固化材スラリーを保存時間が2時間及び14日の試料について、材齢28日の一軸圧縮強度は、それぞれ、4.16、4.32、4.42、3.89、4.16N/mmであった。スラリー遅延剤を添加しないで保持時間0(製造直後使用)とした従来の固化材スラリーを用いた試料の一軸圧縮強度は3.81N/mmであった。
【0065】
遅延剤を加えない従来例を基準として、一軸圧縮強度比という欄を表3の下段に設けて、本発明の試料の一軸圧縮強度の値を評価した。表3の一軸圧縮強度比の欄の第1行目は、遅延剤無添加の試料(従来例)の一軸圧縮強度を100%として、遅延剤を添加した実施例の一軸圧縮強度の値を比率で示したもので、各値は102〜116%となっている。
【0066】
表3中の一軸圧縮強度比の欄の第2,3行目はそれぞれ、可使時間3日及び14日の試料について、保存時間2時間の試料を基準(100%)として、それよりも保存時間の長い試料の一軸圧縮強度比を表示したものである。何れも、保存時間の長い方の一軸圧縮強度が向上していることが示されている。
【0067】
表4はソイルセメントコラム工法(中間)の固化材としてUS50を用い、対象土として粘土を用いた場合の一軸圧縮強度を示したものである。表4は固化材の単位固化材量を300kg/mとし、水セメント比(W/C)を60%とし、固化材スラリーの可使時間が3日となるようにスラリー遅延剤を添加した試料の成績を示すものである。
【0068】
可使時間が3日で保存時間が2時間、1日及び3日の試料について、材齢28日の一軸圧縮強度を測定した。参考のため、比較例として遅延剤を全く加えない固化材スラリーを用いた試料(従来例)についても一軸圧縮強度を示した。遅延剤を全く添加しない試料(従来例)の一軸圧縮強度が3.39N/mmであったのに対し、遅延剤を添加した実施例の一軸圧縮強度はすべてこれを上廻った。
【0069】
参考のために、表3と同様に、一軸圧縮強度比という欄を設けてこれを評価した。遅延剤を添加しない従来例に対して、スラリー遅延剤を添加した実施例では何れも一軸圧縮強度が向上しており、また、同一の可使時間のものに対して、保存時間が2時間の試料よりも保存期間が長い試料の方が一軸圧縮強度が向上していることがわかる。
【0070】
表5は、ソイルセメントコラム工法(中間)において、固化材としてUS52(単位固化材量300kg/m)を用い、水セメント比を60%とし、スラリー遅延剤を2.25質量%添加して可使時間を3日とした固化材スラリーを用い、対象土として、立川ローム(湿潤密度1.310g/cm、含水比113.9%)及び坂東ローム(湿潤密度1.360g/cm、含水比110.3%)を用いた試料の材齢28日の一軸圧縮強度を求めたデータである。実施例では作業用遅延剤を固化材に対して1.0質量%を追加した。
【0071】
一軸圧縮強度比の表示は表3で説明したのと同様である。立川ローム及び坂東ロームの何れにおいても、スラリー遅延剤を加えた実施例の強度が向上しており、さらに保存時間の長い試料の一軸圧縮強度がより向上していることが示されている。
【0072】
表6はソイルセメント翼付鋼管杭工法(中間)において、固化材としてUS50(単位固化材量300kg/m)を用い、水セメント比80%、スラリー遅延剤添加量1.5質量%、可使時間3日、保存時間2時間,1日,3日としたときの、粘土を用いた土質改良試料の材齢28日における一軸圧縮強度の値を示したものである。
【0073】
一軸圧縮強度比を表3と同様の表示で示してある。表6の実施例においてもスラリー遅延剤を加えた試料の一軸圧縮強度は向上していることが明らかである。
【0074】
表7はソイルセメント翼付鋼管杭工法(中間)で、固化材としてUS50(単位固化材量250kg/m)を用い、水セメント比(W/C)80%における、可使時間を3日及び7日とした固化材スラリーを用い、対象土としてシルト(長津田)を用いた土質改良試料の、材齢28日における一軸圧縮強度を示す。
【0075】
一軸圧縮強度比の表示は表3と同様である。遅延剤を添加した固化材スラリーを用いた実施例の一軸圧縮強度はすべて向上している。
【0076】
表8はソイルセメント翼付鋼管杭工法(中間)で、固化材としてUS52(単位固化材量300kg/m)を用い、水セメント比(W/C)80%における可使時間を3日とした固化材スラリーを用い、対象土として立川ローム及び坂東ロームに適用した土質改良材の一軸圧縮強度及び強度比を示すデータである。
【0077】
スラリー遅延剤を添加した場合、本発明の実施例では一軸圧縮強度比はすべて向上していることがわかる。
【0078】
表9はソイルセメント鋼管杭工法(中間)で、固化材としてBB(高炉セメント)(単位固化材量250kg/m)を用い、水セメント比(W/C)100%で、可使時間が3日及び7日の固化材スラリーを製造し、対象土としてシルト(長津田)と混合して得た実施例の材齢28日の一軸圧縮強度のデータを示す。
【0079】
一軸圧縮強度比を表3と同様に示した。スラリー遅延剤を加えた本発明の実施例の固化材スラリーを用いた試料は遅延剤を加えない従来例の試料に対して一軸圧縮強度はすべて向上している。また同一可使時間の実施例でも保存日数の長い方の一軸圧縮強度が向上している。
【0080】
表10はソイルセメント鋼管杭工法(中間)で、固化材としてBB(高炉セメント)(単位固化材量300kg/m)を用い、水セメント比(W/C)100%で、スラリー遅延剤添加量1.0質量%、可使時間3日の固化材スラリーを製造し、粘土と混合して得た実施例と、遅延剤を添加しない従来例について材齢28日の一軸圧縮強度を調べたデータを示す。
【0081】
遅延剤を加えない固化材スラリーを用いた従来例の一軸圧縮強度は0.44N/mmであった。一軸圧縮強度比を表3と同様に示した。スラリー遅延剤を加えた固化材スラリーを用いた実施例は、遅延剤を加えない従来例に対して一軸圧縮強度はすべて向上している。また同一可使時間の実施例でも保存日数の長い方が向上している。
【0082】
表11はソイルセメント鋼管杭工法(根固)で、固化材としてBB(高炉セメント)(単位固化材量300kg/m)を用い、水セメント比(W/C)60%で、可使時間1日及び3日の実施例の固化材スラリーを製造し、砂礫と混合して得た試料の材齢28日の一軸圧縮強度のデータを示す。
【0083】
なお、根固め工程では作業用遅延剤は用いない。
【0084】
遅延剤を加えない固化材スラリーを用いた従来例の一軸圧縮強度は15.8N/mmとなっている。一軸圧縮強度比のデータを表3と同様に示した。スラリー遅延剤を加えた固化材スラリーを用いた実施例は、遅延剤を加えない従来例に対して一軸圧縮強度はすべて向上している。また同一可使時間の実施例では保存日数の長い方の一軸圧縮強度が向上している。
【0085】
表12は中堀根固鋼管杭工法(根固)で、固化材としてBB(高炉セメント)(単位固化材量300kg/m)を用い、水セメント比(W/C)67%で、可使時間1日及び3日の固化材スラリーを製造し、砂礫と混合して得た試料の材齢28日の一軸圧縮強度のデータを示す。
【0086】
なお、根固め工程では固化材スラリーは短時間に高圧噴射するので、作業用遅延剤は用いない。
【0087】
スラリー遅延剤を加えない固化材スラリーを用いた従来例の一軸圧縮強度は12.3N/mmとなっている。一軸圧縮強度比を表3と同様に示した。スラリー遅延剤を加えた固化材スラリーを用いた実施例は遅延剤を加えない従来例に対して一軸圧縮強度はすべて向上している。また同一可使時間の実施例では保存日数の長い方が向上している。
【0088】
表13は湿式深層改良工法で、対象土は砂質土で、固化材としてBB(高炉セメント)を用い、単位固化材量は300kg/mとし、水セメント比(W/C)150%とし、スラリー遅延剤添加量1.00質量%、可使時間3日とした実施例の一軸圧縮強度の例を示したものである。
【0089】
この工法では作業用遅延剤は固化材スラリーを保存時間2時間で使用する場合は添加せず、可使時間3日で保存時間3日の場合に0.5質量%追加添加した。
【0090】
一軸圧縮強度比の欄に示すように、スラリー遅延剤を添加しない比較例に対し、実施例では一軸圧縮強度比が向上している。
【0091】
以上説明したように、すべての実施例において、遅延剤を添加しない比較例に比べて一軸圧縮強度が向上しており、実施例中では、保存時間が延長すると土質改良体の一軸圧縮強度が向上することが明らかとなった。表2に示した従来例では練置時間の増加と共に一軸圧縮強度が低下し、2時間を越えると急激に低下するのに比べ、本発明の固化材スラリーは全く異なる特性を示している。これは本発明の極めて優れた特徴である。
【0092】
次に、図1〜図3を参照して、本発明方法及びシステムについて詳細に説明する。
【0093】
図3は従来技術の土質改良工事システムを示すフローシートである。土質改良工事を行うには、固化材スラリープラント50を施工現場に設置する必要があった。固化材スラリープラント50は、固化材サイロ51、水タンク52、添加剤サイロ53を備え、これらから供給された材料を混練して固化材スラリーを製造するミキサ54、アジテータ55を備え、製造されたスラリーを送出するポンプ57を備えたものである。そして製造した固化材スラリーは、施工機械への供給経路58を経て、施工機械に供給される。工事内容によっては製造された固化材スラリーを短時間貯蔵するスラリータンク56を設置することもある。
【0094】
従来は、このような土質改良工事システム(スラリープラント50)を各土質改良工事施工現場に設置する必要があった。
【0095】
図1は本発明システムの実施例を示すフローシートである。本発明のシステムは、広域の土質改良工事施工領域に1個所設けられる定置式スラリープラント10と、各施工現場に設けられる現場貯蔵装置30とから構成されている。そして、定置式スラリープラント10から各施工現場に固化材スラリーを搬送する搬送手段20を備えている。
【0096】
定置式スラリープラント10は、図3に示したスラリープラント50とほぼ同様の構成を有する。すなわち、固化材サイロ11、水タンク12、スラリー遅延剤サイロ13、ミキサ14、アジテータ15、スラリータンク16を備えている。
【0097】
定置式スラリープラント10は、各土質改良施工現場の条件に合致するように、可使時間が1日〜14日(2時間〜336時間)に亘る種々の固化材スラリーを製造するプラントであって、製造した固化材スラリーを搬送装置20を用いて土質改良工事施工現場に搬送可能な適切な立地条件の位置に設置すればよい。
【0098】
この定置式スラリープラント10の設置位置は、固化材スラリーを供給するために最も経済性を有する領域及び地点を選択して定めればよい。例えば、機材センター等を利用してもよく、生コンクリート工場や流動化処理プラント等に併設してもよく、その他の有利な立地条件を勘案して定めるとよい。
【0099】
現場貯蔵装置30は、スラリータンク31及び土質改良工事施工機械にスラリーを送るスラリー送出ポンプ36を備え、内部撹拌手段として循環ポンプ33を付属することも可能である。
【0100】
現場貯蔵装置30は、定置式スラリープラント10で製造され、搬送手段20によって搬送された固化材スラリーを、スラリータンク31に受け入れて保存する。
【0101】
現場貯蔵装置30は、土質改良工事施工現場の規模、工程、その他に応じて適切な容量のものを設ければよく、搬送、設置、撤去等も容易であり、固化材スラリーの品質管理、在庫管理等も容易である。
【0102】
図2は、本発明の実施態様を示すシステムのフローシートであって、各種の条件に応じて設置するスラリー中継基地40を示したものである。スラリー中継基地40は、撹拌循環装置を備えたスラリータンク41を備え、必要に応じて、定置式スラリープラント10の位置と現場貯蔵装置30の位置との中間位置に設けられる。このスラリー中継基地40を設けることによって、さらに広域の土質改良工事領域に対応することができ、また、搬送装置20を地域条件に応じて最も合理的に運用することが可能となり、土質改良工事全体の経済性をさらに高めることができる。
【0103】
本発明が適用される土質改良工事は水硬性固化材スラリーを用いる各種工法であって、固結工法による機械攪拌工法、高圧ジェット噴射工法及び機械攪拌とジェット噴射の組合せ工法等である。
【0104】
本発明の固化材スラリーは、このような土質改良工事に好適に用いられるほか、半たわみ性舗装工事、プレストレストコンクリート舗装におけるリフトアップ工法、トンネルや護岸や防波堤の裏込工事、鋼管柱列土留工事、各種根固工事、プレストレスコンクリートシース内や、プレパクトコンクリートへの注入などに用いる硬化性固化材スラリーとしてそれぞれの条件に応じて好適に用いることができる。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
【表7】

【0112】
【表8】

【0113】
【表9】

【0114】
【表10】

【0115】
【表11】

【0116】
【表12】

【0117】
【表13】

【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明システムの実施例を示すフローシートである。
【図2】本発明システムの実施例を示すフローシートである。
【図3】従来装置を示すフローシートである。
【符号の説明】
【0119】
10 定置式スラリープラント
11,51 固化材サイロ
12,52 水タンク
13 スラリー遅延剤サイロ
14,54 ミキサ
15,55 アジテータ
16,56 スラリータンク
20 搬送装置
21 スラリータンク送入経路
30 現場貯蔵装置
31,41 スラリータンク
33 循環ポンプ
34 追加混和剤タンク
35 混和剤追加ポンプ
36 スラリー送出ポンプ
37 供給経路
40 スラリー中継基地
50 スラリープラント
53 添加剤サイロ
57 ポンプ
58 供給経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工現場の土質、環境、土質改良工法、及び施工条件に応じて、可使時間が2時間以上〜14日以下である固化材スラリーを定置式固化材スラリー製造プラントで製造し、該固化材スラリーを各土質改良施工現場に搬送して保存した後、前記可使時間以内に対象土と混合して土質改良を行うことを特徴とする土質改良工事方法。
【請求項2】
土質改良工事の施工現場に、固化材スラリー製造プラントから搬送された固化材スラリーを保存する現場貯蔵装置を備えたことを特徴とする土質改良工事システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−221784(P2009−221784A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69476(P2008−69476)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(500520031)三菱商事建材株式会社 (12)
【出願人】(000133881)株式会社テノックス (62)
【出願人】(502171792)株式会社フローリック (3)