説明

圧入ナット

【課題】簡単にパネルに圧入して取付けることができ、押込み強度が高い圧入ナット。
【解決手段】パネル(30)の取付孔(31)に取り付ける圧入ナット(10)は、雌ねじが形成され、圧入ナットの中心軸に沿った貫通孔(18)を有するナット本体(11)と、本体の一方の側に形成され、パネルの取付孔に固定するためのナット固定部(12)と、を備える。ナット固定部は、本体に隣接し、パネルの取付孔の内径より大きい外径を有する段部(14)と、段部に隣接し、パネルの取付孔の内径より小さい外径を有する溝部(15)と、溝部に隣接し、上端部はパネルの取付孔の内径より大きい外径を有し、下端部はパネルの取付孔の内径より小さい外径を有する円錐台形の挿入部(16)と、を有する。挿入部には中心軸に対して稜線が傾斜したねじ山(21)が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネルに形成された孔に押し込んで固定し、ボルト等のねじ部材をねじ止めするのに使用する圧入ナットに関する。特に、押込み強度が高い圧入ナットに関する。
【背景技術】
【0002】
パネルに成形された孔に、押し込みにより固定して、ボルト等の部材を固定するのに使用する圧入ナットは知られている。このようなナットは、押し込みナット、プレスナット、クリンチングナットとも呼ばれている。圧入ナットは、パネルに取り付けるにあたって、溶接、ねじ止め当の必要がなく、押し込むだけで簡単に取り付けることが出来るという利点がある。
【0003】
図1は、従来の圧入ナットの正面図、図2は斜視図、図3は圧入ナットをパネルに取り付けた状態を示す断面図である。圧入ナット50は、ナット本体51と、ナット固定部52とから成る。ナット本体51は、六角ナットの形状であり、外形が6角形で稜線部分は面取りしてある。ナット本体51は、底面53を有する。ナット本体51の中央部には中心軸z方向に貫通孔58が形成され、貫通孔58は雌ねじを有し、雌ねじにボルト等をねじ止めすることができる。ナット固定部52は、ナット本体51に隣接し、高さが低い円筒形の溝部55を有する。溝部55の外径は、パネル30の取付孔31の内径31dより小さい。溝部55に続いて、下端部に円錐台形の挿入部(ナール部)56を有する。挿入部56の下端部の外径は、取付孔31の内径31dより小さいが、溝部55に隣接する挿入部56の上端部の外径は、取付孔31の内径31dより大きくなっている。挿入部56の側面には、傾斜したねじ山57が形成されている。
【0004】
図3は、圧入ナット50をパネル30に取り付けた状態を示す側面図である。圧入ナット50をパネル30に取り付けるときは、圧入ナット50の挿入部56の下端部をパネル30の取付孔31に挿入し、圧入ナット50を押し込んでいく。挿入部56の上端部まで押込まれていくと、挿入部56はパネル30の取付孔31の側面の部分を変形させ、パネル30の変形した材料は、挿入部56のねじ山57の間に入り込む。挿入部56のねじ山57の間に入ることにより、ナット50の回転が阻止される。こうして、圧入ナット50はパネル30に取り付けられる。ナット本体51の底面53はパネル30の上面に接した状態で止まり、それ以上は押し込まれないので、パネル30を変形させることはしない。そのため、挿入部56により変形したパネル30の材料は、挿入部56より上方の溝部55には入り込みにくい。そのため、パネル30にナット50を取り付け、ナット50にボルトをねじ止めするとき、又はねじ止めした状態で、ボルトに力が加わると、ナット50はパネル30から外れやすかった。
【0005】
このような圧入ナットは、パネルへの押し込みにより簡単に取り付けることが出来るが、ナットの固着力の点では不十分であった。
【0006】
特許文献1は、図1〜3に示した従来の圧入ナットを開示する。6角ナットの底面にねじ孔と同軸に管状部分を有し、管状部分の先端部に底面から離隔して周面が円錐面をなす管状係合部を有する圧入固定形ナットを開示する。管状係合部には、一方向に傾斜したローレットが形成されている。
【0007】
特許文献2は、ナットボディの座面側に凹部と凸部とが円周方向の等間隔に形成された第1歯部と、第1歯部の凹部に凸部が位置し、第1歯部の凸部に凹部が位置するように凹部と凸部とが円周方向の等間隔に形成された第2歯部とを一体成形した圧入ナットを開示する。特許文献2は、第1歯部と第2歯部との凹部と凸部が位置がずれているので、軸方向への引き抜き力を向上させることが出来る。
【0008】
特許文献3は、本体とナット固定部とを備え、ナット固定部は、先端側の挿入部と、挿入部に隣接する溝部と、溝部とナット本体の間の押し込み部とを有する押し込みナットを開示する。挿入部は円錐台に形成され、傾斜した側面には歯形が形成されている。ナット本体の底面には、押し込み部が形成されている。特許文献3は、ナットの回転を阻止することが出来る。
【0009】
特許文献1〜3は、押込み強度が高い圧入ナットを得ることを目的としているが、押込み強度はまだ不十分であった。
そのため、簡単にパネルの孔に取付けることができ、押込み強度が高い圧入ナットが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭62−13021号公報
【特許文献2】特開平7−15126号公報
【特許文献3】実開昭63−35809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、簡単にパネルに取付けることができ、押込み強度が高い圧入ナットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、パネルの取付孔に圧入して取り付ける圧入ナットであって、
雌ねじが形成され、前記圧入ナットの中心軸に沿った貫通孔を有するナット本体と、
前記本体の一方の側に形成され、パネルの取付孔に固定するためのナット固定部と、を備え、前記ナット固定部は、
前記ナット本体に隣接し、前記パネルの前記取付孔の内径より大きい外径を有する段部と、
前記段部に隣接し、前記パネルの前記取付孔の内径より小さい外径を有する溝部と、
前記溝部に隣接し、上端部は前記段部の外径より小さい外径で、前記パネルの前記取付孔の内径より大きい外径を有し、下端部は前記パネルの前記取付孔の内径より小さい外径を有する円錐台形の挿入部と、を有し、前記挿入部には前記中心軸に対して稜線が傾斜したねじ山が形成されている圧入ナットである。
【0013】
これにより、挿入部によりパネルの変形した材料は、挿入部のねじ山の間に入り込み、圧入ナットの回転が阻止される。更に段部により変形したパネルの材料が、溝部に入り込み、挿入部のねじ山の間にも入り込む。そのため、圧入ナットはパネルに強固に取り付けられる。
【0014】
前記段部の外周部に、前記中心軸に対して稜線が傾斜したねじ山が形成されていてもよい。
前記段部の外周部のねじ山の山部分は、前記挿入部のねじ山の谷部分に位置することが好ましい。
こうすると、段部により変形したパネルの材料が、挿入部のねじ山の間に入り込み易くなる。
前記段部の外周部に、ねじ山は形成されていなくてもよい。
【0015】
前記圧入ナットの前記挿入部の下面において、前記挿入部のねじ山の一方の傾斜線の角度と他方の傾斜線の角度とが異なることが好ましい。
前記挿入部の前記ねじ山の前記一方の傾斜線の角度は50〜90°であり、前記他方の傾斜線の角度は25〜35°であることが好ましい。
前記一方の傾斜線の角度は60〜80°であることが更に好ましい。
こうすると、圧入ナットの押込み強度が更に高くなる。
【0016】
前記挿入部の前記ねじ山の稜線が、前記中心軸に対して傾いている傾き角は、50〜70°であることが好ましい。
前記傾き角は、55〜65°であることが更に好ましい。
こうすると、圧入ナットの押込み強度が更に高くなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡単にパネルの孔に取付けることができ、押込み強度が高い圧入ナットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の圧入ナットの正面図である。
【図2】図1の圧入ナットの斜視図である。
【図3】図1の圧入ナットをパネルに取り付けた状態を示す断面図である。
【図4】押込み強度の測定方法を説明するための断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の圧入ナットの正面図である。
【図6】図5の圧入ナットの断面図である。
【図7】図5の圧入ナットをパネルに取り付けた状態を示す断面図である。
【図8】図7のA部分の拡大断面図である。
【図9】図7の圧入ナット付きのパネルに、ボルトにより他のパネルを取り付けた状態を示す断面図である。
【図10】図5の圧入ナットを斜め下から見た斜視図である。
【図11】図9のB部分の拡大斜視図である。
【図12】本発明の第2の実施形態の圧入ナット10'を斜め下から見た斜視図である。
【図13】図11のC部分の拡大斜視図である。
【図14】(a)は従来の圧入ナットの挿入部のねじ山形状、(b)は本発明の第1、第2実施形態の圧入ナットの挿入部のねじ山形状を示す図である。
【図15】本発明の第2の実施形態の圧入ナットの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を説明する前に、圧入ナット等の押込み強度の測定方法について説明する。図4は、押込み強度の測定方法を説明するための断面図である。
押込み強度の測定には、パネル30に圧入ナット50を取り付けた試料を使用する。ナット本体51とナット固定部52とを貫通する貫通孔58には雌ねじが形成され、ナット固定部52の側からボルト40が挿入されている。ナット本体51の外径より大きい内径の孔45が形成された治具44を用意する。パネル30に圧入ナット50を取り付けた状態で、ナット本体51の側を下、ボルト40の頭部41を上にして、治具44の孔45に圧入ナット50が入るようにセットする。
【0020】
この状態で、上からボルト40の頭部41を押込み、パネル30から圧入ナット50が外れる強度を押込み強度と呼ぶ。
実際の組立工程で、パネル30に取り付けた圧入ナット50にボルト40を挿入して取り付けるとき、圧入ナット50がパネル30から外れることがある。また、圧入ナット50にボルト40を取り付けた状態で、ボルト40の頭部41に力がかかると、圧入ナット50が外れることがある。このような作業時に、圧入ナット50がパネル30から外れないことが必要である。そのため、押込み強度は、圧入ナット50のパネル30への取り付け強度の目安となる。
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による圧入ナット10について説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態の圧入ナット10の正面図、図6はその断面図である。圧入ナット10は、ナット本体11と、ナット固定部12とから成る。ナット本体11は、六角ナットの形状であり、外形が6角形で稜線部分は面取りしてある。ナット本体11は、底面13を有する。ナット本体11の中央部には中心軸z方向に貫通孔18が形成され、貫通孔18には雌ねじが形成され、ボルト等をねじ止めすることができる。
【0022】
ナット固定部12は、圧入ナット10をパネル30に固定するための部分である。ナット固定部12は、段部14と、溝部15と、挿入部16とを含む。ナット本体11に隣接し、高さの低い円筒形の段部14が形成されている。段部14の外径は、パネル30の取付孔31の内径31dより大きく、圧入ナット10をパネル30に押し込むとき、段部14は取付孔31の周辺のパネル30の材料を変形させることができる。段部14の側面には、正面から見て傾斜したねじ山22が形成されている。段部14のねじ山22の頂部を結ぶ円の外径は、パネル30の取付孔31の内径31dより大きい。段部14のねじ山22の谷部を結ぶ円の外径は、パネル30の取付孔31の内径31dより大きいことが好ましい。
段部14の下に薄い円筒形の溝部15が形成されている。溝部15の外径は、段部14の外径より小さく、またパネル30の取付孔31の内径31dより小さい。圧入ナット10をパネル30に押し込むとき、段部14により変形したパネル30の材料が、溝部15に入り込むようになっている。
【0023】
溝部15に続いて、下端部に高さの低い円錐台形の挿入部16が形成されている。挿入部16の下端部の外径は、上端部の外径より小さい。挿入部16の上端部の外径は、段部14の外径より小さい。挿入部16の上端部の外径より段部14の外径が大きいと、挿入部16で押し広げられた取付孔31を、段部14で更に押し広げることが出来る。
挿入部16の下端部の外径は、取付孔31の内径31dより小さいが、溝部15に隣接する挿入部16の上端部の外径は、取付孔31の内径31dより大きくなっている。そのため、圧入ナット10をパネル30の取付孔31に押し込んでいくと、取付孔31の内周を外側下方に変形させる。
【0024】
挿入部16の側面には、正面から見て、圧入ナット10の中心軸zに対して傾斜したねじ山21が形成されている(図5において、21はねじ山の稜線の位置を指す)。挿入部16の下端部のねじ山21の頂部を結ぶ円の外径は、取付孔31の内径31dより小さい。溝部15に隣接する挿入部16の上端部のねじ山21の頂部を結ぶ円の外径は、取付孔31の内径31dより大きい。挿入部16の上端部のねじ山21の谷部を結ぶ円の外径は、取付孔31の内径31dより大きいことが好ましい。
圧入ナット10の貫通孔18は、ナット本体11から挿入部16まで連続し、雌ねじが連続して形成されている。
【0025】
図7は、圧入ナット10をパネル30に取り付けた状態を示す断面図である。圧入ナット10をパネル30に取り付けるときは、圧入ナット10の挿入部16の下端部をパネル30の取付孔31に挿入し、圧入ナット10を押し込んでいく。
図8は、図7のA部分の拡大断面図である。取付孔31に挿入部16の上端部まで押込まれていくと、挿入部16はパネル30の取付孔31の側面の部分を変形させ、パネル30の変形した材料は、挿入部16のねじ山21の間に入り込む。変形した材料が、挿入部16のねじ山21の間に入ることにより、ナット10の回転が阻止される。更に圧入ナット50を押し込んでいくと、段部14がパネル30の取付孔31の周辺の上面に当接し、取付孔31の周辺のパネル30の材料を下方に押し、変形したパネル30の材料は、溝部15に入り込む。段部14により変形した材料は、挿入部16のねじ山21の間にも入り込む。そのため、圧入ナット10はパネル30に強固に取り付けられる。
【0026】
圧入ナット10の材料は、塑性変形する材料であれば、使用することができる。例えば、鉄、アルミニウム等である。また、圧入ナット10には、変形に耐えるものであれば、表面処理がされていてもよい。例えば、さび防止のためメッキされていてもよい。塑性変形する材料であれば、金属以外の材料でも可能である。
【0027】
図9は、図7のパネル30に取り付けた圧入ナット10を使用して、ボルト40により他のパネル35を取り付けた状態を示す断面図である。図7のパネル30の下側(圧入ナット10と反対側)に、パネル30の取付孔31と他のパネル35の取付孔36があうように、他のパネル35を重ねる。他のパネル35の側から、ボルト40を取付孔36と取付孔31に挿通し、圧入ナット10の貫通孔18にボルト40をねじ止めする。ボルト40の頭部41の面が他のパネル35の面に接して、他のパネル35はパネル30に固定される。
又は、図示しないが、図9に示すのとは異なり、図9の圧入ナット10の上側に他のパネル35を配置し、ボルトの頭部41を上にして、圧入ナット10の上側に他のパネル35を固定することもできる。
【0028】
ここで、段部14のねじ山22と、挿入部16のねじ山21について説明する。図10は、本発明の第1の実施形態の圧入ナット10を斜め下から見た斜視図であり、図11は図10のB部分の拡大斜視図である。段部14の側面には、傾斜したねじ山22が形成されている。挿入部16の側面には、傾斜したねじ山21が形成されている。圧入ナット10を下方から見て、段部14のねじ山22の山部は、挿入部16のねじ山21の間、即ち谷部に位置するように配置されている。こうすると、段部14のねじ山22により変形した材料は、挿入部16のねじ山21に遮られずに、挿入部16のねじ山21の間の谷部に入り込む。
【0029】
図12は、本発明の第2の実施形態の圧入ナット10'を斜め下から見た斜視図であり、図13は図12のC部分の拡大斜視図である。第2の実施形態は第1の実施形態とほぼ同様であり、第1の実施形態と異なる点のみを説明する。第2の実施形態では、段部14'の側面にはねじ山は形成されていず、段部14'は高さの低い円筒形である。段部14'の外径は、パネル30の取付孔31の内径より大きい。溝部15は、第1の実施形態と同様である。挿入部16は、第1の実施形態と同様であり、側面に傾斜したねじ山21が形成されている。
【0030】
第2の実施形態では、圧入ナット10'を押し込むことにより、段部14'により変形したパネルの材料は、溝部15に入り込む。
段部14'の外径は、挿入部16の上端部のねじ山21の山部を結ぶ円の外径より大きい。そのため、段部14'により変形したパネルの材料は、挿入部16のねじ山21の間の谷部に入り込む。
こうして、圧入ナット10'は、パネル30に強固に固定される。
【0031】
段部14'のない従来の圧入ナット50と、ねじ山のない段部14'を有し他の条件は同じとした圧入ナット10'を用意し、その押し込み強度を比較したところ、段部14'のない従来の圧入ナット50と比較して、段部14'がある圧入ナット10'の押し込み強度は約60%向上した。
【0032】
(ねじ山形状)
圧入ナットの挿入部を下から見て、図14の(a)に示すように、従来の圧入ナット50の挿入部56のねじ山の左右の傾斜線の角度αとβは同じであった。即ち、ねじ山の形状は二等辺三角形であった。本発明の第1、2の実施形態では、圧入ナット10の挿入部16を下から見て、図14の(b)に示すように、圧入ナット10の挿入部16のねじ山21は、ノコギリ形である。即ち、圧入ナット10の挿入部16のねじ山21は、ねじ山の左右の傾斜線の角度が異なる。ねじ山21の谷部を通る円にねじ山の一方の傾斜線が交わる位置で、この円に接する接線t1に対して、ねじ山の一方の傾斜線g1がなす角度をαとし、他方の傾斜線g2がねじ山21の谷部を通る円に交わる位置で、ねじ山21の谷部を通る円に接する接線t2と他方の傾斜線のなす角度をβとすると、角度αと角度βとは異なる。
圧入ナット10の挿入部16の下面における傾斜線の角度を説明したが、挿入部16の中心軸zに垂直な断面における傾斜線の角度も、挿入部16の下面における傾斜線の角度と同じである。
なお、傾斜線とは、中心軸zに垂直な断面において、ねじ山の谷部の底部から山部の頂部へ引いた線をいうものとする。挿入部の下面においては、ねじ山の谷部の底部から山部の頂部へ向かう線をいう。
【0033】
角度βは、50〜90°が好ましく、90°に近いほど好ましいが、製造上の条件を考慮すると60〜80°が好ましい。角度αは、25〜30°の範囲が好ましい。
図4に示す押し込み強度の測定方法により、圧入ナットの押込み強度を測定するとき、ボルト40を押し下げると、パネルの取付孔の周囲のパネルの材料は図4の下方向(図5の上方向)に押される。ねじ山21が傾斜しているので、このパネルの材料は、圧入ナット10の中心軸zに垂直な断面において、図14の(b)の矢印Fで示す方向に移動しようとする。そのため、角度βが大きく90°に近いと、パネルの材料の移動を妨げるように作用し、その結果押し込み力が大きくなる。
【0034】
(ねじ山傾き角)
図15は、本発明の第2の実施形態の圧入ナットの正面図である。即ち、段部14'には、ねじ山はない。第2の実施形態の圧入ナットの図を使用して、挿入部16のねじ山21の傾き角について説明するが、第1の実施形態も挿入部16のねじ山21は第2の実施形態と同じなので、この説明は、第1の実施形態にも当てはまる。
図15に示すように、圧入ナット10の挿入部16のねじ山21の傾き角θは、圧入ナット10の正面図において、圧入ナット10の中心軸zの位置で、ねじ山21の稜線が中心軸zに対して傾いている角度とする。通常は、圧入ナット10のねじ山21の傾き角θは、約45°である。稜線とは、ねじ山の頂部を結んだ線をいう。
【0035】
図4を参照して説明したように、押し込み強度を測定するときは、圧入ナット10には、図15の上方向に力Gがかかる。挿入部16のねじ山21の間にパネルの材料が入り込んでいるため、ねじ山21の傾き角θが大きいほど、上向きの力Gに対する抵抗が大きくなり、押し込み強度は高くなる。
本発明の第1、第2の実施形態では、ねじ山21の傾き角θは、50〜70°の範囲であり、傾き角θは大きいほど押し込み強度が高くなる。但し、製品の機能上、傾き角θは55〜65°の範囲が好ましい。
【0036】
第2の実施形態により、圧入ナットのねじ山21の角度α、βとも45°の圧入ナットと、圧入ナットのねじ山21をノコギリ形とし、角度αを70°、角度βを30°とし他の条件は同じとした圧入ナットとを用意し、押し込み強度を比較したところ、角度α、βとも45°の圧入ナットと比較して、角度αを70°、角度βを30°とした圧入ナットは、押し込み強度が約10%向上した。
ねじ山21の傾き角θが45°の圧入ナットと、ねじ山21の傾き角θを60°とし他の条件は同じとした圧入ナット10を用意し、押し込み強度を比較したところ、傾き角θが45°の圧入ナットと比較して、傾き角θを60°とした圧入ナットは、押し込み強度が更に約10%向上した。
【0037】
このように、本発明の実施形態によれば、簡単にパネルの孔に取付けることができ、押込み強度が高い圧入ナットを得ることができる。
【符号の説明】
【0038】
10 圧入ナット
11 ナット本体
12 ナット固定部
13 底面
14 段部
15 溝部
16 挿入部
18 貫通孔
21 ねじ山
22 ねじ山
30 パネル
31 取付孔
35 他のパネル
36 取付孔
40 ボルト
41 頭部
44 治具
45 孔
50 圧入ナット
51 ナット本体
52 ナット固定部
53 底面
55 溝部
56 挿入部
57 ねじ山
58 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルの取付孔に圧入して取り付ける圧入ナットであって、
雌ねじが形成され、前記圧入ナットの中心軸に沿った貫通孔を有するナット本体と、
前記本体の一方の側に形成され、パネルの取付孔に固定するためのナット固定部と、を備え、
前記ナット固定部は、
前記ナット本体に隣接し、前記パネルの前記取付孔の内径より大きい外径を有する段部と、
前記段部に隣接し、前記パネルの前記取付孔の内径より小さい外径を有する溝部と、
前記溝部に隣接し、上端部は前記段部の外径より小さい外径で、前記パネルの前記取付孔の内径より大きい外径を有し、下端部は前記パネルの前記取付孔の内径より小さい外径を有する円錐台形の挿入部と、を有し、
前記挿入部には前記中心軸に対して稜線が傾斜したねじ山が形成されていることを特徴とする圧入ナット。
【請求項2】
請求項1に記載の圧入ナットであって、
前記段部の外周部に、前記中心軸に対して稜線が傾斜したねじ山が形成されている圧入ナット。
【請求項3】
請求項2に記載の圧入ナットであって、
前記段部の外周部のねじ山の山部分は、前記挿入部のねじ山の谷部分に位置する圧入ナット。
【請求項4】
請求項1に記載の圧入ナットであって、
前記圧入ナットの前記挿入部の下面において、前記挿入部のねじ山の一方の傾斜線の角度と他方の傾斜線の角度とが異なる圧入ナット。
【請求項5】
請求項4に記載の圧入ナットであって、
前記挿入部の前記ねじ山の前記一方の傾斜線の角度は50〜90°であり、前記他方の傾斜線の角度は25〜35°である圧入ナット。
【請求項6】
請求項5に記載の圧入ナットであって、
前記一方の傾斜線の角度は60〜80°である圧入ナット。
【請求項7】
請求項1に記載の圧入ナットであって、
前記挿入部の前記ねじ山の稜線が、前記中心軸に対して傾いている傾き角は、50〜70°である圧入ナット。
【請求項8】
請求項7に記載の圧入ナットであって、
前記傾き角は、55〜65°である圧入ナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−113396(P2013−113396A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261257(P2011−261257)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(390025243)ポップリベット・ファスナー株式会社 (159)