説明

圧力容器

【課題】蓋体を溶接によってヒンジ部へ連結する場合であっても、溶接によるひずみを原因とするヒンジ部の不良が生じないようにする圧力容器を提供する。
【解決手段】開口部が形成された缶体と、缶体の開口部を閉塞する蓋体と、蓋体を開閉するためのヒンジ部42と、先端部が蓋体に固定され、基端部40bがヒンジ部42に連結されたヒンジアーム40とを備える圧力容器において、ヒンジ部42は、缶体の外壁面又は床面に固定された基台45と、基台45に形成された2つの支持穴54,54に両端部が挿入されて基台45に対して回転しないように保持される支持軸44と、2つの支持穴54,54内での支持軸44の両端部の位置をそれぞれ調整可能なヒンジ調整手段と、ヒンジアーム40の基端部40bに設けられ、支持軸44に対して回動可能となるように支持軸44を把持する把持部48とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶体の開口部を閉塞する蓋体が開閉可能となるように設けられた圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療器具や各種実験器具等の対象物を収納し、加圧・加温等して滅菌する滅菌装置が従来より知られている。このような滅菌装置には、圧力容器が用いられる。
【0003】
圧力容器は、内部に対象物を収納する缶体と、缶体の開口部を閉塞するための蓋体とを備えている。蓋体は、ヒンジによって開閉可能に設けられている。
【0004】
従来の圧力容器の一例を図5に示す。
この圧力容器10は、横置きの缶体11と、缶体11の開口部13を閉塞するための蓋体12とを備えている。
蓋体12の正面には、ヒンジブラケット14が固定され、このヒンジブラケット14は転回枠15に対して回動可能に取り付けられている。転回枠15は、シリンダ16によって旋回する旋回板17のピン17aに押動されて回動軸18を中心に回動し、蓋体12を缶体11の上方へ押し上げるように動作する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−293697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧力容器の缶体11の開口部に対して蓋体12を完全に密閉させるには、缶体11の開口面と蓋体12の開口面に当接する面とが平行であり、且つ缶体11の中心線と蓋体12の中心線とが一致するように配置されることが好ましい。
【0007】
しかし、上述したような従来の圧力容器では、蓋体12に対して溶接によってヒンジブラケット14を固定しようとすると、溶接によるひずみが生じるため缶体11の開口面と蓋体12の開口面に当接する面とが非平行となったり、缶体11の中心線と蓋体12の中心線とが不一致となったりして回動軸18における転回枠15の回動がスムーズにいかなくなるおそれもあり、結果として蓋体12の開閉が不能となることも考えられるという課題がある。
【0008】
なお、ヒンジブラケット14の蓋体12への固定を溶接ではなく他の方法(例えばボルトによる固定)にすれば、ひずみは生じない。
しかし、圧力容器が大型である場合には蓋体の重量も非常に重くなるのでボルトによる固定ではボルトへの荷重がかかりすぎてしまい、ボルトの破損等も考えられる。このため、特に蓋体の重量が重い場合には、溶接によってヒンジブラケットを固定することが構造上最も好ましい。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、蓋体を溶接によってヒンジ部へ連結する場合であっても、溶接によるひずみを原因とするヒンジ部の不良が生じないようにする圧力容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる圧力容器によれば、開口部が形成された缶体と、該缶体の開口部を閉塞する蓋体と、前記蓋体を開閉するためのヒンジ部と、先端部が前記蓋体に固定され、基端部が前記ヒンジ部に連結されたヒンジアームとを備える圧力容器において、前記ヒンジ部は、前記缶体の外壁面又は床面に固定された基台と、該基台に形成された2つの支持穴に両端部が挿入されて基台に対して回転しないように保持される支持軸と、前記2つの支持穴内での支持軸の両端部の位置をそれぞれ調整可能なヒンジ調整手段と、前記ヒンジアームの基端部に設けられ、該支持軸に対して回動可能となるように前記支持軸を把持する把持部とを有することを特徴としている。
この構成を採用することによって、まず蓋体にヒンジアームの先端部を溶接で固定してから、ヒンジ調整手段によって支持軸の基台に対する位置関係を調整できる。このため、溶接によってヒンジアームの位置にひずみが生じたとしても、ヒンジ部における支持軸の位置を調節してヒンジ部におけるヒンジアームの動作をスムーズに行うことができる。
【0011】
また、前記ヒンジ調整手段は、前記支持穴の周囲壁面の複数箇所に形成されているネジ穴に螺合し、先端が前記支持軸の外周面に当接するように配置された複数本のボルトであることを特徴としてもよい。
この構成によれば、ボルトのねじ込み量を調整することによって、支持軸の支持穴に対する位置を容易に調整できる。
【0012】
さらに、前記ボルトおよび前記支持軸の端面を隠蔽するカバーが設けられていることを特徴としてもよい。
この構成によれば、調整済みのボルトが勝手に再度調整されるようなことを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の圧力容器によれば、溶接によって蓋体とヒンジ部との間を強固な作りとした場合であっても、蓋体をスムーズに開閉させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる圧力容器全体の構成を示す正面図である。
【図2】圧力容器の平面図である。
【図3】ヒンジ部の構成を示す側面図である。
【図4】ヒンジ部の構成を示す平面図である。
【図5】従来の圧力容器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に圧力容器全体を示す正面図を図示し、図2に缶体に対して開閉する蓋体の様子を示す平面図を図示する。
【0016】
圧力容器30は、有底円筒状の缶体34と、缶体34の開口部35を閉塞するための蓋体36とを備えている。缶体34は横置きに配置されており、開口部35も水平方向を向いている。
缶体34は、脚部38によって床面33(あるいは、図示しない筐体内の梁や仕切等)の上に配置される。
【0017】
蓋体36は、ヒンジアーム40によってヒンジ部42に連結されている。ヒンジアーム40の先端部40aは蓋体36の正面に溶接によって固定されており、ヒンジアーム40の基端部40bはヒンジ部42に連結されている。
ヒンジ部42は、缶体34の開口部35の中心部から缶体34の外壁面よりも外側に水平方向に移動した位置に設けられている。
【0018】
ヒンジ部42は、基台45の上端部に設けられている。基台45は、下端部が仕切台33(床面)に固定されている。基台45は、ヒンジ部42とヒンジアーム40とを介して蓋体36を仕切台33(床面)に固定するために、蓋体36を支持するように設けられているものである。このように、蓋体36を床面で支持するようにしたことで、蓋体36を支持するアームを缶体34の外壁に固定する場合と比較して、缶体34の熱をヒンジアーム40に伝導させないようにすることができる。
【0019】
すなわち、缶体34の熱がヒンジアーム40に伝導してしまうと、ヒンジアーム40が放熱板としての役割を果たして缶体34の熱が外部に放出されてしまい、缶体34が温度低下してしまう。しかし、蓋体36を支持するヒンジアーム40を缶体34には接続しないようにしたので、缶体34の熱放出を防止し、エネルギー効率を良好にすることができる。
ただし、本発明としては、このような構成に限定されることはなく、基台45が缶体34に取り付けられているものであってもよい。
【0020】
図1や図2に示されているように、ヒンジ部42における回動の軸線方向は鉛直方向を向いており、ヒンジ部42はヒンジアーム40を水平面内で回動可能となるように設けている。このため、蓋体36は、缶体34の開口部35の前方から側面に向くように缶体34から離間し、開口部を開閉する。
【0021】
なお、本実施形態におけるヒンジアーム40には、先端部40aと基端部40bの中途部において第2ヒンジ部50が設けられている。第2ヒンジ部50は、ヒンジアーム40を途中で折り曲げるように構成されており、蓋体36の開閉の自由度を増すことができる。
ただし、本発明としては第2ヒンジ部50が設けられていない構成であってもよい。
【0022】
図3にヒンジ部の側面図を示し、図4にヒンジ部の平面図を示す。
ヒンジ部42は、支持軸44と、支持軸44を回動可能に把持する把持部48とを有している。支持軸44は、基台45の上端部に配置されている。把持部48は、ヒンジアーム40の基端部40bに形成されている。
支持軸44は、基台45の上端部においてその軸線が上下方向を向くように保持されている。
【0023】
基台45において、支持軸44を保持する部位は、支持軸44の上部を保持するように水平方向に延び、支持軸44を貫通させる貫通穴51が形成された上部保持板45aと、支持軸44の下部を保持するように水平方向に延び、支持軸44を貫通させる貫通穴52が形成された下部保持板45bとを備えている。
このように、基台45の本体45cと、上部保持板45aおよび下部保持板45bとによって、側面視コの字状の、保持する部位が構成される。
【0024】
支持軸44の両端部には、支持軸44の両端部が挿入される支持穴54,54が形成されたブロック体56,56が上部保持板45a及び下部保持板45bにそれぞれ固定されて配置されており、この支持穴54内で支持軸44が後述するボルト58によって支持されている。
【0025】
ブロック体56に形成されている支持穴54は、支持軸44が支持穴54内で自由に移動できる程度に支持軸44よりも大径に形成されている。
そして、ヒンジ部42には、支持軸44の両端部を各支持穴54内での位置を調整することによって、ヒンジ部42としての回動軸の傾きを調整するヒンジ調整手段55が設けられている。
【0026】
ヒンジ調整手段55は、具体的には支持軸44の周囲の複数箇所において配置されたボルト58が、支持軸44の位置を調整するように設けられている。ボルト58は、ブロック体56に形成されたネジ穴59に螺合して先端部が支持軸44の外周面に当接するように設けられる。このとき、複数のボルト58のねじ込み量をそれぞれ調整することによって、支持穴54内での支持軸44の位置を調整することができる。支持軸44の外周面であって、ボルト58の先端部が当接する部位63は、平坦面となるように形成され、ボルト58が確実に支持軸44の外周面に当接するように設けるとよい。
本実施形態によれば、支持軸44の両端部にはそれぞれ4本のボルト58を配置して支持軸44の保持及び位置調整を行っている。
【0027】
各ボルト58の先端(外方側)にはボルトの頭部66が設けられており、作業者は頭部66を回すことでボルト58を支持軸44側にねじ込みまたは外方に抜き出すことができる。
また、ブロック体56の外周面であって、ボルトの頭部66が当接する部位64は、平坦面となるように形成され、ボルトの頭部66の位置が確実に維持されるよう設けるとよい。
【0028】
なお、支持軸44の上端部の上面と側面を覆い、ボルト58を隠蔽するカバー60を装着すると良い。これにより、見た目にも優れ、且つ勝手にボルト58のねじ込み位置が調整されてしまうようなことを防止できる。カバー60は、図示しないボルト等によって支持軸44の上端面に固定される。このため、支持軸44が、支持穴54及び貫通穴51から抜け落ちそうになったとしても、カバー60の外周縁の下端面が上部保持板45aの上面に当接する。このように、カバー60は、支持軸44が支持穴54及び貫通穴51から抜け落ちないように抜け止めの機能も有する。
また、支持軸44の下端部の下面と側面を覆うカバーを、上端部と同様に設けてもよい。
【0029】
なお、支持軸44の下端部においては、支持軸44をブロック体56に固定するための抜け止め用プレート68が設けられている。抜け止め用プレート68の一部は、支持軸44の下端部に進入し、抜け止め用プレート68の他の部位は固定用ボルト69によってブロック体56の下端面に固定される。
なお、抜け止め用プレート68のブロック体56への固定は、ヒンジ調整手段55による支持軸44の軸線方向の傾き調整の後に行うようにするとよい。
【0030】
支持軸44の周囲は、ヒンジアーム40の基端部40bに形成された把持部48によって把持されている。把持部48は、支持軸44を回動中心として支持軸44に対して回動自在に設けられている。把持部48には、支持軸44との間の回動をスムーズに行うためのベアリング62を設けてもよい。
【0031】
本実施形態では、このようにしてヒンジ調整手段55を設けたことで、支持軸44の上下両端部の位置をそれぞれ水平方向に調整でき、支持軸44の鉛直方向に対する傾きの調整が可能となった。
このため、ヒンジアーム40の先端部40aを溶接によって蓋体36に固定した場合において、溶接を起因とするひずみが生じて缶体34の開口面と蓋体36とが平行にならず、または缶体34の中心線と蓋体36の中心線が一致しない場合であっても、各ボルト58のねじ込み量を調整して、ひずみにあわせて支持軸44の傾きを調整して、缶体34に蓋体36を確実に密閉させるようにヒンジアーム40を動作させることができる。
【0032】
なお、上述してきた実施形態においては、ヒンジ部42の支持軸44が鉛直方向に向くように配置されたものであった。
しかし、本発明の特徴であるヒンジ調整手段55を設けたヒンジ部としては、支持軸44が水平方向や他の方向に向いているものであってもよい。
【0033】
また、缶体34も開口部35が水平方向を向く横置き型ではなく、開口部35が上方を向く縦置き型の圧力容器に対してヒンジ調整手段55を採用してもよい。
【0034】
以上本発明につき好適な実施例を挙げて種々説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
【符号の説明】
【0035】
30 圧力容器
31 筐体
33 仕切台
34 缶体
35 開口部
36 蓋体
38 脚部
40 ヒンジアーム
40a 先端部
40b 基端部
42 ヒンジ部
44 支持軸
45 基台
45a 上部保持板
45b 下部保持板
45c 本体
48 把持部
50 第2のヒンジ部
51,52 貫通穴
54 支持穴
55 ヒンジ調整手段
56 ブロック体
58 ボルト
59 ネジ穴
60 カバー
62 ベアリング
63,64 平坦面となる部位
66 ボルトの頭部
68 抜け止め用プレート
69 固定用ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成された缶体と、
該缶体の開口部を閉塞する蓋体と、
前記蓋体を開閉するためのヒンジ部と、
先端部が前記蓋体に固定され、基端部が前記ヒンジ部に連結されたヒンジアームとを備える圧力容器において、
前記ヒンジ部は、
前記缶体の外壁面又は床面に固定された基台と、
該基台に形成された2つの支持穴に両端部が挿入されて基台に対して回転しないように保持される支持軸と、
前記2つの支持穴内での支持軸の両端部の位置をそれぞれ調整可能なヒンジ調整手段と、
前記ヒンジアームの基端部に設けられ、該支持軸に対して回動可能となるように前記支持軸を把持する把持部とを有することを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記ヒンジ調整手段は、
前記支持穴の周囲壁面の複数箇所に形成されているネジ穴に螺合し、先端が前記支持軸の外周面に当接するように配置された複数本のボルトであることを特徴とする請求項1記載の圧力容器。
【請求項3】
前記ボルトおよび前記支持軸の端面を隠蔽するカバーが設けられていることを特徴とする請求項2記載の圧力容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−169113(P2010−169113A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9939(P2009−9939)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(391015926)千代田電機工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】