説明

圧力検知装置

【課題】柔軟性や通気性に優れ、かつ、外部から付加される圧力の有無のみならず、圧力の大きさを段階的に検出することのできる圧力検知装置を提供する。
【解決手段】導電性繊維から形成された互いに対向する一対の面状の導電性部材およびこれら導電性部材の間に介在するフレキシブルな面状のスペーサを有する単数または複数の圧力検知素子からなる布状圧力センサと、前記圧力検知素子のスペーサの変形度合いに応じて、前記一対の導電性部材の対向方向の圧力の大きさを複数の段階で検出する検出回路とにより、圧力検知装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性と信頼性とを兼ね備え、かつ圧力の大きさを段階的に検出することのできる圧力検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタス情報化社会の進歩に伴い、カーペットや壁紙、シートカバー、衣服等の、布を利用するさまざまな用途に埋め込んで使用するための、フレキシブルな電子システムが開発されてきている。特に、薄型のセンサや入力装置などは、ウェアラブルコンピュータや包装材などへの応用が期待されており、柔軟性、可撓性、通気性、人体への快適性などが求められている。
【0003】
従来、薄型の圧力センサとして、例えば、鉄や真鍮など導電体で形成された電極間に、ウレタンやゴムなどで形成した誘電体を介在させてコンデンサを構成し、圧力が印加された際の電極極板間距離の変化による電気容量変化を、電極部分の電圧変化として検出することで、圧力が印加されたことを検出する感圧センサが提案されている(例えば、特許文献1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような感圧センサでは、一定値以上の圧力が付加されているか否かのオン/オフ状態を認識および検出することができるのみであり、圧力の大きさを検出することができないので、用途が限られる。さらには、コンデンサの極板が金属板で形成されているので、ウェアラブルコンピュータや包装材などに適用するには、柔軟性、可撓性、通気性、人体への快適性などの点でも不十分であるという課題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−212183号公報
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、柔軟性や通気性に優れ、かつ、外部から付加される圧力の有無のみならず、圧力の大きさを段階的に検出することのできる圧力検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明に係る圧力検知装置は、導電性繊維から形成された互いに対向する一対の面状の導電性部材およびこれら導電性部材の間に介在するフレキシブルな面状のスペーサからなる単数または複数の圧力検知素子を有する布状圧力センサと、前記圧力検知素子のスペーサの変形度合いに応じて、前記一対の導電性部材の対向方向の圧力の大きさを複数の段階で検出する検出回路とを備えている。
【0008】
この構成によれば、導電性繊維のようなフレキシブルな素材を用いることで柔軟性や通気性などに優れる構造を有しながら、外部から付加される圧力の有無のみならず、圧力の大きさを複数の段階に分けて検出することが可能となる。
【0009】
本発明に係る上記布状センサにおいて、前記導電性繊維として、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維を使用することが好ましい。このように構成することにより、屈曲や洗濯においても導電層の破壊や剥離が起こることを効果的に防止することができ、衣服のような布を利用する用途に使用した場合でも、高い信頼性を発揮することが可能となる。
【0010】
上記の圧力検知装置において、前記布状圧力センサを、それぞれ検知感度の異なる複数の前記圧力検知素子から構成することができる。このように構成すれば、いずれの検知感度を有する圧力検知素子が圧力を検知したのかを検出することにより、圧力の大きさを、複数の段階に分けて検出することができる。また、このような構成の布状圧力センサを採用した場合には、圧力検知素子として、従来のオン/オフのみを検出する圧力スイッチを利用た簡単な構造の圧力検知装置とすることができる。
【0011】
上記のように、本発明に係る圧力検知装置の前記布状圧力センサを検知感度の異なる複数の前記圧力検知素子から構成する場合、この布状圧力センサを、前記複数の圧力検知素子を前記導電部材の対向方向に積層してなるものとしてもよい。このように構成することにより、圧力が付加される方向に直交する方向の所定の面積について、圧力の大きさを確実に複数の段階に分けて検出することができる。
【0012】
また、上記のように、本発明に係る圧力検知装置の前記布状圧力センサを検知感度の異なる複数の前記圧力検知素子から構成する場合、前記圧力検知素子として、前記スペーサに形成された、前記一対の面状導電性部材の対向方向に貫通する複数の貫通孔を介して前記一対の面状導電性部材が互いに接触することにより圧力を検知する接触抵抗型面状スイッチを使用することができる。このように構成することで、面状スイッチの2つの導電性部材の接触による抵抗の変化を検出する、簡単な構造の検出回路を使用して圧力の大きさを段階的に検出することが可能となる。
【0013】
本発明に使用される圧力検知素子として、前記接触面状型スイッチを使用する場合には、前記複数の面状スイッチが、それぞれ異なる材質からなるスペーサを備えることにより、各面状スイッチの圧力検知感度がそれぞれ異なる値に設定されていてもよく、あるいは、複数の面状スイッチの各スペーサに異なる構造の貫通孔を形成することにより、各面状スイッチの圧力検知感度がそれぞれ異なる値に設定されていてもよい。このように、スペーサの材質または貫通孔の構造を選択、調整することで、各圧力検知素子の圧力検知感度を設定することにより、圧力検知装置の検出可能圧力値の設定を幅広い範囲について容易に行うことができる。
【0014】
上記のように、本発明に係る圧力検知装置の前記布状圧力センサを検知感度の異なる複数の前記圧力検知素子から構成する場合、前記圧力検知素子として、前記スペーサが誘電性素材で形成されたコンデンサ型面状スイッチを使用することもできる。コンデンサ型面状スイッチは、圧力が付加された際の、2つの導電性部材間距離の変化によるコンデンサの電気容量変化を検出することにより、圧力の付加を検出する素子であるので、圧力の大きさをより高い信頼性で段階的に検出することが可能となる。
【0015】
本発明に使用される圧力検知素子として、前記接触面状型スイッチを使用する場合には、前記複数の面状スイッチが、それぞれ異なる材質からなるスペーサを備えることにより、各面状スイッチの圧力検知感度がそれぞれ異なる値に設定されていてもよい。
【0016】
本発明に係る圧力検知装置の、前記布状圧力センサは、前記スペーサが誘電性素材で形成されている1つのコンデンサ型圧力検知素子で構成し、前記スペーサの変形によるコンデンサの電気容量変化によって圧力の大きさを検知するものとしてもよい。このように構成することにより、スペーサの変形、すなわち一対の面状導電性部材間の距離の変化に応じて変化するコンデンサの電気容量を検知して、付加される圧力の大きさを、段階的にのみならず、連続的に検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に係る圧力検知装置によれば、柔軟性や通気性などに優れ、衣服や包装材等の布を利用する用途への適用が可能であり、かつ、外部から付加される圧力の有無のみならず、圧力の大きさを段階的に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係る圧力検知装置1の概略構成を示す分解斜視図である。この圧力検知装置1は、複数(この実施形態では3つ)の圧力検知素子3である接触抵抗型面状スイッチ3A〜3Aで構成される布状圧力センサ5と、布状圧力センサ5で検知した圧力の大きさを複数(この実施形態では3つ)の段階で検出する検出回路7とを主要な構成要素としている。
【0020】
布状圧力センサ5を構成する接触抵抗型面状スイッチ3A〜3Aのそれぞれは、図2の分解斜視図に示すように、互いに対向する一対の面状の導電性部材、すなわち第1導電性部材11および第2導電性部材13と、これら導電性部材11,13間に介在する面状のスペーサ15A〜15Aとを有している。第1および第2導電性部材11,13には、それぞれ、導電性素材からなる検出ライン16を介して検出回路7内の検知部17〜17に電気的に接続されている。図1に示すように、本実施形態において、布状圧力センサ5は、面状スイッチ3A〜3Aを、第1および第2導電性部材11,13の対向方向Xにこの順に積層して構成されている。
【0021】
第1および第2導電性部材11,13は、導電性の繊維、具体的には導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維(以下、導電性PVA系繊維と称する場合がある)によって形成されているが、後述するように、他の導電性繊維によって形成してもよい。
【0022】
図2の面状スペーサ15A〜15Aは、本実施形態においては、対向方向Xに貫通する多数の貫通孔19を有する電気絶縁性の素材によって形成されている。面状スイッチ3A〜3Aに対して、面状スイッチ3A〜3Aの面方向に直交する対向方向Xに圧力が加えられると、面状スペーサ15A〜15Aによって隔離されていた第1および第2導電性部材11,13は、フレキシブルな面状スペーサ15が変形することによって、面状スペーサの貫通孔19を介して互いに接触する。この接触により、第1および第2導電性部材11,13間に導通が生じ、この導通に起因する電気抵抗の変化を、検出回路7内の検知部17〜17が検知する。
【0023】
面状スペーサ15A〜15Aは、それぞれが柔軟性の異なる材質で形成されているので、面状スペーサ15A〜15Aの圧力検知感度、すなわち、第1および第2導電性部材11,13をスペーサの貫通孔19を介して互いに接触させるために要する圧力が、それぞれ異なる値に設定されている。本実施形態においては、各面状スイッチ3A〜3Aの圧力検知感度を25g重/cm、75g重/cm、240g重/cmに設定している。
【0024】
なお、本実施形態のように、布状圧力センサ5を複数の接触抵抗型面状スイッチ3Aによって構成する場合、各面状スイッチ3の圧力検知感度を異なる値に設定するために、上記のように各スペーサ15Aに異なる材質を用いる代わりに、またはこれに加えて、複数のスペーサ15Aに異なる構造の貫通孔19を形成してもよい。すなわち、複数のスペーサ15Aに、例えば、貫通孔19の孔径、形状、スペーサ15Aにおける面積当たりの孔の数などが異なる貫通孔19を形成してもよい。
【0025】
次に、本実施形態に係る圧力検知装置1の動作について説明する。
【0026】
図1に示す圧力検知装置1に、対向方向Xの圧力Pが付加されると、対向方向Xに積層された各面状スイッチ3A〜3Aの、導電性繊維で形成された導電性部材11,13の変形を介して、面状のスペーサ15A〜15Aが変形する。スペーサ15A〜15Aの変形により、その両面に配置されている第1導電性部材11と第2導電性部材13とが、スペーサに形成された貫通孔19を介して互いに接触する。
【0027】
スペーサ15A1〜15A3を、それぞれ互いに柔軟性の異なる材質で形成することにより、各面状スイッチ3A〜3Aの圧力検知感度を、25g重/cm、75g重/cm、240g重/cm、と段階的に異なる値に設定しているので、圧力Pの値を段階的に分けて検出することができる。すなわち、第1および第2導電性部材11,13が互いに接触して導通が生じると、導通が生じた面状スイッvチ3A〜3Aに対応する検知部17〜17が電気抵抗の変化を検知する。検出回路7内の検出部は、いずれの検知部17〜17が電気抵抗変化を検知しているかを判定することにより、対応する圧力Pの値を検出することができる。
【0028】
このように、本実施形態に係る圧力検知装置1によれば、圧力検知素子3として、スペーサに形成された複数の貫通孔を介して一対の面状導電性部材11,13が互いに接触することにより圧力を検知する接触抵抗型面状スイッチ3Aを使用し、面状スイッチの2つの導電性部材の接触による抵抗の変化を検出するので、簡単な構造の面状スイッチおよび検出回路を使用して、圧力の大きさを段階的に検出することが可能となる。
【0029】
さらには、面状導電性部材11,13として、導電性繊維、特には導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維を使用しているので、屈曲や洗濯においても導電層の破壊や剥離が起こることを効果的に防止することができ、衣服のような布を利用する用途に使用した場合でも、高い信頼性を発揮することが可能となる。
【0030】
なお、布状圧力センサ5を構成する面状スイッチ3Aの数は、必要とされる圧力検出の仕様に応じて適宜設定してよい。また、本実施形態では、圧力検知装置1の布状圧力センサ5を、複数の接触抵抗型面状スイッチ3Aを対向方向Xに積層して構成しているが、図3に示すように、これら複数の面状スイッチ3Aを、面状スイッチ3Aの面方向に並べて配置してもよい。各面状スイッチ3Aの面方向の面積を、圧力Pが付加される際の、想定される外部との接触面積よりも十分に小さく設定すれば、このように配置しても、圧力Pの大きさを複数の段階に分けて検出することができる。
【0031】
また、第1実施形態の変形例として、図4に示すように、接触抵抗型面状スイッチ3Aに代えて、互いに対向する面状の第1導電性部材11と第2導電性部材13との間に誘電性素材で形成されたスペーサ15Bを介在させて構成したコンデンサ型の面状スイッチ3B(3B〜3B)を、圧力検知素子3として使用することもできる。
【0032】
この変形例においては、対向方向Xに圧力Pが付加された際に、面状スイッチ3Bのスペーサ15Bが変形することにより、コンデンサの極板として機能する第1導電性部材11と第2導電性部材13との間の距離Dが変化する。この極板間距離Dの変化にともなって、面状スイッチ3Bのコンデンサとしての電気容量が変化するので、電気容量が所定の値に達したときに、所定の圧力が付加されたことを検知する。
【0033】
図5にブロック図で示すように、本変形例における布状圧力センサ5は、コンデンサ型面状スイッチ3Bを含む発振回路21として構成されており、面状スイッチ3Bの電気容量の変化は、この発振回路21の発振周期の変化として検出回路7によって検出される。
【0034】
圧力検知素子3としてコンデンサ型の面状スイッチ3Bを使用する場合の発振回路21としては、極板間距離Dが変化することによる面状スイッチ3Bの容量変化を検出してスイッチング可能である限り特に限定されないが、構成が簡単で低い発振周波数を実現しやすい観点から、弛張型発振回路が好ましい。
【0035】
図5に示すように、弛張型の発振回路21は、面状スイッチ3Bと抵抗Rによる時定数回路23と、コンパレータ25および充放電用スイッチ27とを備える。図5において、面状スイッチ3Bに取り付けられた一方の端子は接地され、もう一方の端子は、抵抗Rを介して電源Wへと接続されている。
【0036】
電源Wからの電流は、抵抗Rを通してコンデンサである面状スイッチ3Bに充電され、時定数回路23とコンパレータ25との間のS点の電圧が上昇する。そしてS点の電圧がコンパレータ25の参照電圧Vref(V)に達すると、コンパレータ25によって、充放電用スイッチ27がONとされる。これにより、面状スイッチ3Bにおいて充電されていた電流が一気に放電され、S点の電圧は参照電圧Vref以下となる。このとき、コンパレータ25によって、充放電用スイッチ27はOFFとなり、再びコンデンサの充電が始まる。
【0037】
弛張型発振回路では、このようにコンデンサの充放電を繰り返すことによって、発振状態が継続される。そして、コンデンサの容量が増加すると、Vref(V)に到達するまでの時間が増加して発振周期が長くなり、逆に容量が減少すると発振周期が短くなる。したがって、この発振周期を、検出回路7で計測することにより、コンデンサの静電容量の変化を検出することができ、その結果、検出回路のスイッチング動作を行うことができる。
【0038】
例えば、図1における導電性部材12,13に対向方向Xの圧力が加わると、圧力によってスペーサが変形して極板間距離Dが短くなり、コンデンサの容量が変化する。そして、このコンデンサの容量変化が発振周期の長さに反映され、その発振周期の変化が検出回路7で計測される。検出回路7で計測された周期が、予め設定された閾値を超えると、最終的に検出回路7から検出回路をONにする出力がなされる。なお、検出回路7は、求められる性能に応じて、マイクロコンピュータを利用してもよいし、汎用のICを利用してもよい。
【0039】
複数(この変形例では3つ)の面状スイッチ3B1〜3B3間の圧力検知感度は、例えば、誘電体である各スペーサ15B〜15Bを異なる材質で形成することによって、異なる値に設定することができる。
【0040】
図6は、本発明の第2実施形態に係る圧力検知装置1の構成を示す概略図である。第2実施形態は、図1の第1実施形態に係る圧力検知装置1において、布状圧力センサ5を複数の圧力検知素子3で構成する代わりに、1つのコンデンサ型圧力検知素子3Cで構成している。
【0041】
図6のコンデンサ型圧力検知素子3Cは、図4に示す第1実施形態の変形例に用いるコンデンサ型の面状スイッチ3Bと同様の構造を有する。また、本実施形態においても、図4の変形例と同様に、コンデンサである圧力検知素子3Cを含む発振回路21を構成して布状圧力センサ5とし、この発振回路21の発振周期の変化を検出回路7で検出する。
【0042】
ただし、図4のコンデンサ型面状スイッチ3Bが、所定の極板間距離Dに対応する所定の電気容量値に達したか否かを検知するスイッチとして機能するのに対し、本実施形態における圧力検知素子3Cは、圧力が付加された際のスペーサ15Cの変形に伴う極板間距離Dの変化に応じた電気容量の変化を、検出回路7で直接、複数の段階で、または連続的に検知することにより、圧力Pの値を複数の段階に分けて、または連続的に検出する。
【0043】
すなわち、予め、測定などによって、特定の構成のコンデンサについて、付加した圧力と発振周期との相関特性を検出回路7内に用意しておき、検出回路7において、実際に検知した発振回路21の発振周期をこの相関特性と比較することにより、圧力値を検出することができる。
【0044】
本実施形態に係る圧力検知装置1によれば、スペーサの変形、すなわち一対の面状導電性部材間の距離の変化に応じて変化するコンデンサの電気容量を検知して、付加される圧力の大きさを、段階的にのみならず、連続的に検出することが可能となる。さらには、本実施形態においても、面状導電性部材11,13として、導電性繊維、特には導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維を使用しているので、屈曲や洗濯においても導電層の破壊や剥離が起こることを効果的に防止することができ、衣服のような布を利用する用途に使用した場合でも、高い信頼性を発揮することが可能となる。
【0045】
以下に、上記第1および第2実施形態係る圧力検知装置1の各構成要素に用いることのできる素材について詳しく説明する。
【0046】
(導電性部材)
導電性部材は、例えば、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維(以下、導電性PVA系繊維と称する場合がある)を少なくとも含む。導電性部材は、導電性PVA系繊維のみから形成されてもよいし、導電性PVA系繊維と導電性PVA系繊維以外の繊維(絶縁性繊維)とから形成されてもよい。絶縁性繊維は、有機繊維(例えば、天然繊維、化学繊維など)であってもよいし、無機繊維(例えば、ロックファイバー、ガラス繊維など)であってもよい。
【0047】
天然繊維としては、例えば、動物繊維(例えば、絹、バイサス、羊毛、モヘヤ、アンゴラ、牛毛など)、植物繊維[例えば、綿類(例えば、綿花、リンターなど)、麻類(たとえば、大麻、亜麻、黄麻、マニラ麻、サイザル麻など)、カポック、竹、ケナフ、ココヤシなど]などが挙げられる。
【0048】
化学繊維としては、例えば、合成繊維[例えば、ポリビニルアルコール系繊維(例えば、ポリビニルアルコール繊維、エチレン−ビニルアルコール繊維、ポリビニルアセタール繊維など)、ポリエステル系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド系繊維(例えば、脂肪族ナイロン繊維、芳香族ナイロン繊維など)、アクリル繊維(例えば、ポリアクリロニトリル繊維、アクリロニトリル−アクリル酸エステル繊維、アクリロニトリル−メタクリル酸エステル繊維、アクリロニトリル−酢酸ビニル繊維など)、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維など)、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維など]、再生繊維(例えば、レーヨン、キュプラ、モダル、リヨセルなどのセルロース誘導体繊維;キチン、コラーゲン、アルギン酸など)、半合成繊維(例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテートなど)などが挙げられる。
【0049】
これらの繊維は、単独でまたは組み合わせて使用できる。これらの絶縁性繊維のうち、屈曲性と柔軟性の観点から、有機繊維が好ましく、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維などが好ましい。
【0050】
導電性PVA系繊維と絶縁性繊維との割合は、繊維構造体が導電性を呈する限り特に限定されないが、例えば、導電性PVA系繊維/絶縁性繊維(重量部)として、50/50〜100/0程度、好ましくは60/40〜95/5程度、さらに好ましくは70/30〜90/10程度である。
【0051】
本発明で、導電性PVA系繊維および絶縁性繊維の繊度は特に限定されず、例えば、繊度は、0.1〜100,000dtex程度、好ましくは0.3〜50,000dtex程度、より好ましくは、1〜10,000dtex程度であってもよい。
【0052】
導電性部材の形状は、コンデンサ用スペーサへの固定形状に応じて自由に設定することができ、1次元構造体、2次元構造体および3次元構造体のいずれであってもよい。これらの形状のうち、柔軟性や耐屈曲性の観点から、1次元構造体や2次元構造体が好ましい。これらの導電性部材は、公知または慣用の方法により、所定の形状に作製できる。
【0053】
例えば、導電性部材が1次元構造体である場合、1次元構造体としては、糸状物(例えば、単糸、双糸、引きそろえ糸、フィラメント糸、三子糸、紡績糸など)、紐状物(例えば、組み紐、より紐、まき紐、編み紐、ロープなど)などが挙げられる。なお、これらの1次元構造体がコンデンサ用スペーサに固定される場合、1次元構造体の形状は一直線である必要はなく、曲線部分を有していてもよいし、枝分かれ部分を有していてもよい。
【0054】
例えば、導電性部材が1次元構造体であり、同じ方向に向かって突出した複数の櫛歯部と、この櫛歯部同士をつなぐ基部から形成される櫛型形状である場合、基部から突出する櫛歯部の数は、1〜10列程度であってもよく、好ましくは2〜8列程度であってもよい。
【0055】
導電性部材が1次元構造体である場合、例えば、導電性部材の直径は、使用目的によって0.01mm〜10mm程度の広い範囲から適宜選択することができ、例えば、衣服としての着心地のよさと導電性能とを両立する観点から、導電性部材の直径は、0.03mm〜5mm程度、好ましくは0.1mm〜3mm程度、さらに好ましくは0.5mm〜2mm程度であってもよい。
【0056】
また、導電性部材が2次元構造体である場合、2次元構造体としては、布帛[例えば、織物(例えば、平織物、綾織物または朱子織物など)、編物(例えば、緯編物、経編物、平編物、天竺編物、レース編物など)、不織布(例えば、乾式不織布、湿式不織布など)など]、帯状物などが挙げられる。
【0057】
導電性部材が2次元構造体である場合、例えば、導電性部材の厚さは、使用目的によって0.01mm〜1cm程度の広い範囲から適宜選択することができるが、本発明では、特定の導電性PVA系繊維を用いるため、導電性部材の厚さが、例えば、0.03mm〜5mm程度(好ましくは0.1mm〜3mm程度、さらに好ましくは0.3mm〜2mm程度)であっても、耐屈曲性および導通性を両立できる。
【0058】
また、導電性部材が、帯状である導電帯である場合、各導電帯の幅は、例えば、1mm〜10cm程度、好ましくは5mm〜7cm程度、さらに好ましくは1cm〜5cm程度であってもよい。
【0059】
(導電性ポリビニルアルコール系繊維)
導電性PVA系繊維は、導電性微粒子を含有する。導電性微粒子としては、例えば、各種金属類(金属単体、金属酸化物、金属硫化物など)、グラファイト類などが挙げられる。これらの導電性微粒子のうち、ポリビニルアルコール系繊維との結合性の観点から、金属硫化物、特に硫化銅(例えば、一価の硫化銅や二価の硫化銅)が好ましい。
【0060】
導電性微粒子の平均粒子径は、繊維内部へ微分散する観点から、500nm以下であるのが好ましい。例えば、導電性微粒子の平均粒子径は、400nm以下(例えば、1nm〜400nm程度)、好ましくは300nm以下(例えば、5nm〜200nm程度)、さらに好ましくは100nm以下(例えば、7nm〜50nm程度)であってもよい。なお、導電性PVA系繊維中の硫化銅微粒子は、透過型顕微鏡(TEM)にて確認できる。
【0061】
このような微粒子であることにより、繊維中での粒子間距離の著しい減少が可能となり、少ない量にて高い導電性を発現することができる。例えば、同じ重量%の含有量において、粒子径が百分の一になると、粒子間距離は一万分の一にまで小さくなることが知られている。また、このような場合、粒子間相互作用が非常に強く働き、その間に挟まれたポリマー分子は、あたかも導電性粒子と同じような機能を示すこと(サイズ効果)も知られている[例えば、ナノコンポジットの世界、p22(工業調査会)参照]。従って、このサイズ効果により、繊維内部にて電流が流れやすくなり、少ない量でも、優れた導電性を付与することができ、それ故、このような繊維を用いたコンデンサは優れたセンシング特性を発現する。
【0062】
さらに、このような微粒子は、通常、繊維の表層だけでなく繊維内部にも微分散するので、繊維内部で強固な導通パスを形成できる。このような導通パスの形成により、導電性PVA系繊維は、繊維であるにも関わらず、高い導電性を達成できる。すなわち、導電性PVA系繊維は、金属メッキ繊維や金属繊維などと異なり、繊維自体の柔軟性と導電性とを両立できる。なお、本発明で、繊維の表層とは、繊維表面から1μm程度の深さ範囲のことを示し、繊維の内部とは、繊維の表面から繊維の中心までの範囲を示す。
【0063】
それに加え、導電性PVA系繊維では、繊維本体と導電性微粒子との一体性が高いため、繰り返し圧縮力を与えても繊維の体積固有抵抗値が変化しにくい。さらに屈曲や洗濯などの負荷をかけても導通パスが破壊されないので、本発明のコンデンサに、耐屈曲性や耐洗濯性を付与することができる。
【0064】
すなわち、本発明で用いられる導電性PVA系繊維では、屈曲や洗濯における導電層の破壊や剥離が起こらず、繰り返しの使用に対して安定的な性能を保持することが出来る。さらに、金属メッキ繊維や金属繊維に比べて、通気性や柔軟性、風合いに優れている。
【0065】
本発明で使用する導電性PVA系繊維は、短繊維(例えば、ステープルファイバー、ショートカットファイバーなど)、長繊維(例えば、モノフィラメント、マルチフィラメントなどのフィラメントヤーン)などのあらゆる形態で用いることができる。このような繊維は、公知または慣用の方法により、糸や布帛などの所定形状に加工でき、優れた導電性と耐屈曲性を付与できる。
【0066】
導電性PVA系繊維の体積固有抵抗値は、例えば、1×10〜1×10−2Ω・cm程度、好ましくは5×10〜5×10−2Ω・cm程度、さらに好ましくは1×10〜1×10−1Ω・cm程度であってもよい。なお、体積固有抵抗値は後述の方法により測定される。体積固有抵抗値が大きすぎると、導電性が足りず、誤動作を起こしたりするなど良好なセンシング特性が得られない場合がある。また、体積固有抵抗値が小さすぎると、過電流によってショートする虞がある。
【0067】
また、導電性PVA系繊維では、JIS P 8115に準拠した耐屈曲性試験(荷重1.5kgf;1000回)を行う前後の体積固有抵抗値の変動率が、例えば、50%程度以内、好ましくは40%程度以内、さらに好ましくは30%程度以内であってもよい。体積固有抵抗値の変動率が高すぎると、センサーの誤動作を誘発するだけでなく、繰り返し使用による安定したセンシング特性を発現することができず、信頼性に欠ける。
【0068】
(PVA系ポリマー)
本発明のコンデンサに用いる導電性PVA系繊維を形成するPVA系ポリマーは、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、所望により他の構成単位(変性ユニット)を有していてもかまわない。このような構造単位としては、例えば、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等)、アクリル酸類(例えば、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステルなど)、メタクリル酸類(例えば、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類など)、アクリルアミド類(例えば、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類(例えば、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等)、N−ビニルラクタム類(例えば、N−ビニルピロリドンなど)、N−ビニルアミド類(例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等)、ビニルエーテル類(例えば、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等)、ニトリル類(例えば、アクリロニトリル等)、ハロゲン化ビニル化合物(塩化ビニル等)、不飽和ジカルボン酸類(例えば、マレイン酸およびその塩またはその無水物やそのエステル等)などが挙げられる。これらの変性ユニットは、単独でまたは組み合わせて使用できる。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。
【0069】
ビニルアルコールユニットに対する変性ユニットの割合(モル比)は、(ビニルアルコールユニット)/(変性ユニット)=85/15〜100/0程度、好ましくは88/12〜99/1程度、さらに好ましくは90/10〜98/2程度である。もちろん本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてポリマー中に、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。なお、これらの添加剤は、単独でまたは組み合わせて含まれていてもよい。
【0070】
導電性PVA系繊維を構成するPVA系ポリマーの重合度は、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が1200〜20000程度(好ましくは1500〜15000程度、さらに好ましくは2000〜10000程度)のものが望ましい。高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から、平均重合度が1500〜5000である場合が多い。
【0071】
また、PVA系ポリマーのケン化度も、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の力学物性の点から、例えば、88モル%以上、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であってもよい。PVA系ポリマーのケン化度が低すぎると、得られる繊維の機械的特性や工程通過性、製造コストなどの面で好ましくない場合が多い。
【0072】
本発明の導電性PVA系繊維は、公知または慣用の方法により得ることができるが、例えば、硫化銅が内部に微分散した導電性PVA系繊維は、通常のPVA系繊維の製造工程中において、銅イオンを含む化合物を繊維中に含侵させ、その後の工程で銅を硫化処理することにより得ることができる。
【0073】
導電性PVA系繊維を得るためには、まず、PVA系ポリマーを溶媒に溶解した紡糸原液を調製する。
紡糸原液の溶媒としては、各種極性溶媒を用いることができ、例えば、水、有機溶媒[ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称す)などのスルホキシド類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの窒素含有極性溶媒;グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類など]、これらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。これらのうち、水やDMSOがコスト、回収性等の工程通過性の点で好適である。
【0074】
紡糸原液中のポリマー濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、例えば、8〜60重量%程度(好ましくは10〜50重量%程度)であるのが好ましい。紡糸原液の吐出時の液温は、紡糸原液が分解、着色しない範囲であることが好ましく、具体的には50〜200℃とすることが好ましい。
【0075】
得られた紡糸原液は、通常、ノズルからPVA系ポリマーに対して固化能を有する固化液あるいは、気体中に吐出される。紡糸形式としては、湿式紡糸、乾湿式紡糸あるいは乾式紡糸などが挙げられる。なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。また、乾式紡糸とは、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。
【0076】
本発明において、湿式紡糸または乾湿式紡糸の際に用いる固化浴は、原液溶媒が有機溶媒の場合と水(または水溶液)の場合では異なる。有機溶媒を用いた原液の場合には、得られる繊維強度等の点から固化浴溶媒と原液溶媒からなる混合液であることが好ましく、固化溶媒としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒を用いることができる。これらの中でも低腐食性及び溶剤回収の点でメタノールとDMSOとの組合せが好ましい。一方、紡糸原液が水溶液の場合、固化浴を構成する固化溶媒としては、PVA系ポリマーに対して固化能を有する限り特に限定されず、例えば、硫酸ナトリウム(芒硝)、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の無機塩類の水溶液;水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができる。また、PVA系ポリマーと共にホウ酸などを加えた水溶液を、アルカリ性固化浴中にゲル化紡糸することも出来る。
【0077】
次に固化された原糸から紡糸原液の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させる。この際、抽出と同時に原糸を湿延伸すると、乾燥時の繊維間の膠着を抑制でき、繊維の機械的特性を向上させる観点から好ましい。その際の湿延伸倍率としては、2〜10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。なお、抽出溶媒としては固化溶媒単独あるいは原液溶媒と固化溶媒の混合液を用いることができる。また、湿延伸された糸は、乾燥後、更に乾熱延伸および熱処理を施してもよい。延伸すると、繊維の結晶化度と配向度があがり、繊維の機械特性が著しく向上できるので好ましい。
【0078】
延伸は、公知または慣用の手段により行うことができ、例えば100℃以上(好ましくは150℃〜260℃程度)で行うことができる。温度が低すぎると、繊維の白化が生じ、そのため機械的物性の低下をもたらす。また温度が高すぎると、繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらす。また、延伸倍率としては、3倍以上(好ましくは5〜25倍程度)の全延伸倍率であってもよい。なお、ここでいう全延伸倍率とは、先述した乾燥前の固化浴中での湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積である。例えば、湿延伸を3倍とし、その後の乾熱延伸を2倍とした場合の全延伸倍率は6倍となる。
【0079】
導電性PVA系繊維では、上記の湿延伸後の膨潤状態の糸篠、若しくは乾燥または延伸後の糸篠を、銅イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させて該化合物を繊維中に含浸させる。この場合、繊維内部への銅イオンを含む化合物を均一に浸透させ、銅イオンとPVA系ポリマーの水酸基とを配位結合させるためには、繊維は浴溶媒により膨潤していることが必要である。そのため、浴に用いる溶媒はメタノール等のアルコール類、水、塩類などの水溶液、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
【0080】
浴溶媒による繊維の膨潤率は20質量%以上(好ましくは30質量%〜300質量%程度、さらに好ましくは50質量%〜250質量%程度)であるのが好ましい。なお、膨潤率調整のため、糸篠を先ず所定の浴に浸漬し、その後、銅イオンを放出する化合物が溶解された浴に浸漬する事が望ましい場合もある。膨潤率が小さすぎると、銅イオンがPVA系ポリマーの水酸基と十分な配位結合を形成できず、従って繊維内部まで硫化銅ナノ微粒子を生成させることができない。一方で、膨潤率が大きくなりすぎた場合、浴へのPVA系ポリマーの溶出などが起こり、工程通過性の面で好ましくない。
【0081】
次にPVA系繊維中で配位結合している銅イオンを硫化還元処理する目的で、硫化物イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させる。その場合、硫化物イオンを含む化合物の浴への添加量は、銅イオンの導入量によって必要に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1〜100g/L程度(好ましくは10〜90g/L程度、さらに好ましくは20〜80g/L程度)の範囲であってもよい。添加量が少なすぎると、繊維内部の銅イオンまで還元処理が進まない可能性があるので好ましくない。また添加量が多すぎると、PVA系繊維内に含まれる銅イオンを還元処理するに十分な量ではあるが、回収系や臭気問題など工程性の面であまり好ましくない。
【0082】
繊維に含浸された銅イオンを硫化する反応は、特に硫化還元能の大きい化合物を用いた場合は瞬時に起こることから、この場合の滞留時間には特に制限はないが、繊維内部にまで十分硫化還元処理を施すことを目的に、滞留時間は0.1秒以上であることが望ましい。また、先述した銅イオンを含浸させる工程、ここでいう銅イオンを繊維中で硫化析出させる工程にて、特定の周波数の超音波を照射することが、得られる導電性や品質確保において、有利になることもある。
【0083】
さらに、このようにして得られた、繊維中に硫化銅ナノ微粒子を導入された原糸若しくは延伸糸に対し、熱処理を施すことにより、繊維物性を向上できる。熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃程度の温度で行うのがよい。温度が低すぎると、繊維物性の向上効果が不十分であり、一方、温度が高すぎると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらす。
【0084】
[接触抵抗型面状スイッチ用スペーサ]
面状のフレキシブルなスペーサは、絶縁性であるとともに貫通孔を有し、スペーサの両側にそれぞれ配設された第1および第2の導電性部材が非接触状態では、これらの導電性部材間で導通するのを妨げる。そして、センサーが圧縮力を受けると、スペーサの貫通孔を通して第1および第2の導電性部材が接触し、これらの導電性部材が導通する。本発明では、導電性部材に特定の導電性PVA系繊維を用いるため、スペーサとして変形導電性織編物などを用いる必要がない。すなわち、スペーサ内部に導電物体が存在しなくても、導電性部材間の導通が可能となる。
【0085】
このような軟質スペーサとしては、公知または慣用の方法により貫通孔を設けることができれば特に限定されず、例えば、布帛(例えば、前記導電性部材の項で例示した絶縁性繊維で形成された織物または編物)、ゴム、軟質発泡体(例えば、軟質ウレタンフォームなど)などが挙げられる。
【0086】
スペーサを形成するゴムとしては、天然ゴム、合成ゴム(例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコーンゴムなど)、熱可塑性エラストマー(TPE)(例えば、スチレン系TPE、オレフィン系TPE、塩化ビニル系TPE、ウレタン系TPE、ポリエステル系TPE、ポリアミド系TPEなど)などが例示できる。これらの軟質スペーサは、圧縮力による導電性部材の接触を妨げないだけでなく、耐屈曲性にも優れる。これらの軟質スペーサのうち、耐洗濯性を有する観点から、布帛が好ましい。
【0087】
上述したように、布帛は、前記導電性部材の項で例示した各種絶縁性繊維を用いて形成でき、例えば、絶縁性の観点から、合成繊維(例えば、ポリエステル系繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン系繊維など)が好ましい。
【0088】
導電性部材間の絶縁状態、およびこれらの布帛の接触による導通状態の双方を担保するため、スペーサの貫通孔の大きさ(孔径)は、スペーサ本体の厚みに応じて適宜選択できる。例えば、スペーサの孔径は、0.1mm〜3cm程度、好ましくは0.5mm〜2cm程度、さらに好ましくは1mm〜1cm程度である。スペーサは、通常、複数の貫通孔を有する場合が多い。なお、スペーサが布帛である場合、孔径に代えて、目開きが0.1mm〜1cm程度、好ましくは0.5mm〜5mm程度、さらに好ましくは1mm〜3mm程度の粗目の織編物であってもよい。
【0089】
スペーサの厚みは、導電性部材間の絶縁状態、およびこれらの繊維構造体の接触による導通状態の双方を担保できる限り特に限定されないが、例えば、0.1mm〜1cm程度、好ましくは0.2mm〜5mm程度、さらに好ましくは0.3mm〜3mm程度であってもよい。
【0090】
さらに、スペーサは、特定の厚みや孔径を有するだけでなく、特定の目付け(単位面積当たりの重さ)を有していてもよく、例えば、布帛の場合、目付けは5〜200g/m程度、好ましくは10〜150g/m程度、さらに好ましくは15〜100g/m程度であってもよく、ゴムの場合、目付けは10〜300g/m程度、好ましくは30〜200g/m程度、さらに好ましくは50〜100g/m程度、軟質発泡体の場合、目付けは5〜200g/m程度、好ましくは10〜150g/m程度、さらに好ましくは30〜100g/m程度であってもよい。
【0091】
(コンデンサ用スペーサ)
本発明のコンデンサ型圧力検知素子(コンデンサ型面状スイッチ)に用いられるスペーサは誘電体から形成され、スペーサの所定の位置に、導電性部材は互いに接触することなく縫い付けや接着などにより固定されている。
【0092】
コンデンサ用スペーサの比誘電率は導電性部材がコンデンサを形成できる限り特に限定されないが、例えば比誘電率としては、1〜100程度であってもよく、好ましくは2〜50程度であってもよい。
【0093】
コンデンサ用スペーサの形状は、導電性部材の形状に応じて適宜変化させることができ、特に限定されないが、通常、面状である場合が多い。また、導電性部材が、コンデンサ用スペーサを挟んでその両側に配設される場合、スペーサは、対になった導電性部材を接触させるための貫通孔を有しない。
【0094】
例えば、コンデンサ用スペーサとしては、誘電性布帛またはシートが挙げられる。また、一体成形性に優れる観点から、コンデンサ用スペーサは、スペーサを挟んで両側に存在する導電性部材同士を接着する接着層であってもよい。なお、本発明では、コンデンサにおいて接着層がシート状に導電性部材の間に存在している場合、接着層を誘電性シートの範疇に含めるものとする。
【0095】
例えば、コンデンサ用スペーサとして用いられる誘電性布帛としては、導電性部材の項で述べた各種天然繊維(例えば、動物繊維、植物繊維)、化学繊維(例えば、合成繊維、半合成繊維)などを用いて、公知または慣用の方法により形成された織編布や不織布などが挙げられる。
【0096】
また、コンデンサ用スペーサとして用いられる誘電性シートとしては、各種樹脂(好ましくは軟質樹脂)やゴムから、公知または慣用の方法により形成されたシートなどが挙げられる。
軟質樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン酢酸ビニル共重合体など)、アイオノマー樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレンなど)、塩素系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなど)、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610など)、セルロース誘導体(例えば、セロファン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプチレートなど)、アクリル系樹脂(例えば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルニトリル、エチレン−メタクリル酸共重合体など)、ポリイミド系樹脂(ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなど)、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂などが挙げられる。
【0097】
また、ゴムとしては、天然ゴム、合成ゴム(例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコーンゴムなど)、熱可塑性エラストマー(TPE)(例えば、スチレン系TPE、オレフィン系TPE、塩化ビニル系TPE、ウレタン系TPE、ポリエステル系TPE、ポリアミド系TPEなど)などが挙げられる。
【0098】
コンデンサ用スペーサの厚みは、導電性部材の配設様式に応じて適宜設定することができ、導電性部材を良好に絶縁して、コンデンサとしての機能を発揮させることができる限り特に限定されないが、例えば、0.1mm〜1cm程度、好ましくは0.2mm〜5mm程度、さらに好ましくは0.3mm〜3mm程度であってもよい。
【0099】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧力検知装置の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1の圧力検知装置に用いられる面状スイッチを示す分解斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る圧力検知装置において、面状スイッチを面方向に並べて配置した例を示す概略図である。
【図4】本発明の第1実施形態の変形例に用いられる面状スイッチの概略構成を示す分解斜視図である。
【図5】図4の変形例に係る圧力検知装置の回路構成例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る圧力検知装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0101】
1 圧力検知装置
3 圧力検知素子
5 布状圧力センサ
7 検出回路
11 第1導電性部材
13 第2導電性部材
15 スペーサ
X 導電性部材の対向方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維から形成された互いに対向する一対の面状の導電性部材およびこれら導電性部材の間に介在するフレキシブルな面状のスペーサからなる単数または複数の圧力検知素子を有する布状圧力センサと、
前記圧力検知素子のスペーサの変形度合いに応じて、前記一対の導電性部材の対向方向の圧力の大きさを複数の段階で検出する検出回路と、
を備える圧力検知装置。
【請求項2】
請求項1の圧力検知装置において、前記導電性繊維が、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維である圧力検知装置。
【請求項3】
請求項1または2の圧力検知装置において、前記布状圧力センサが、それぞれ検知感度の異なる複数の前記圧力検知素子を有する圧力検知装置。
【請求項4】
請求項3の圧力検知装置において、前記布状圧力センサが、前記複数の圧力検知素子を前記導電部材の対向方向に積層してなる圧力検知装置。
【請求項5】
請求項3または4の圧力検知装置において、前記圧力検知素子が、前記スペーサに形成された、前記一対の面状導電性部材の対向方向に貫通する複数の貫通孔を介して前記一対の面状導電性部材が互いに接触することにより圧力を検知する接触抵抗型面状スイッチである圧力検知装置。
【請求項6】
請求項5の圧力検知装置において、前記複数の面状スイッチが、それぞれ異なる材質からなるスペーサを備えることにより、各面状スイッチの圧力検知感度がそれぞれ異なる値に設定されている圧力検知装置。
【請求項7】
請求項5または6の圧力検知装置において、前記複数の面状スイッチの各スペーサに異なる構造の貫通孔を形成することにより、各面状スイッチの圧力検知感度がそれぞれ異なる値に設定されている圧力検知装置。
【請求項8】
請求項3または4の圧力検知装置において、前記圧力検知素子は、前記スペーサが誘電性素材で形成されたコンデンサ型面状スイッチである圧力検知装置。
【請求項9】
請求項8の圧力検知装置において、前記複数の面状スイッチが、それぞれ異なる材質からなるスペーサを備えることにより、各面状スイッチの圧力検知感度がそれぞれ異なる値に設定されている圧力検知装置。
【請求項10】
請求項1または2の圧力検知装置において、前記布状圧力センサは、前記スペーサが誘電性素材で形成されている1つのコンデンサ型圧力検知素子からなり、前記スペーサの変形によるコンデンサの電気容量変化によって圧力の大きさを検知する圧力検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−101827(P2010−101827A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275431(P2008−275431)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(507213983)