説明

圧壊特性が優れたアルミニウム合金押出材

【目的】 衝突時に乗員に対して大きな衝撃を与えないように優れた圧壊特性を有し、且つ軽量である圧壊特性が優れたアルミニウム合金押出材を提供する。
【構成】 このアルミニウム合金押出材は、圧縮加工又は張出加工により局所的な脆弱部が設けられており、押出方向に圧壊したときの初期荷重が、平均荷重の±20%の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は輸送機器における衝撃吸収能力を必要とする部材、例えば自動車のサイドメンバー等に使用するのに好適の圧壊特性が優れたアルミウム合金押出材に関する。
【0002】
【従来の技術】衝突時の衝撃を、それ自身の塑性変形で緩和する緩衝材は、輸送機、特に自動車に用いられてこれらの安全性を高めている。一方、自動車の走行燃費の低減のため、これらの緩衝材にも軽量化が求められ、このため緩衝材としてアルミニウム合金の使用が期待されている。同時に、衝突時に乗員に対する衝撃を抑制するため圧壊特性に優れた材料で緩衝材を構成することが望ましい。
【0003】これらの要望を満たすため、自動車のサイドメンバー材として、圧壊特性が異なる押出部材で構成したものが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このようなサイドメンバー材は構造が複雑になり、重量が増すという欠点がある。
【0005】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、衝突時に乗員に対して大きな衝撃を与えないように優れた圧壊特性を有し、且つ軽量である圧壊特性が優れたアルミニウム合金押出材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係るアルミニウム合金押出材は、押出方向に圧壊したときの初期荷重を低減するために、その一部に圧縮加工又は張出加工により脆弱部(応力集中部)が設けられていることを特徴とする。
【0007】
【作用】車両衝突時の乗員に対する衝撃の大きさは、静的な圧壊試験における変位−荷重曲線の初期荷重及び初期荷重と平均荷重との荷重差に依存する。このため、この初期荷重を抑制すれば、この衝撃を著しく低減することができる。
【0008】動的な圧縮特性は静的特性から推測することができる。図1の曲線aは押出材(押出のままの未加工材)を押出方向に静的に圧壊させたときの変位−荷重曲線を示す。この未加工材の場合は、変位の増加に伴って構造として耐え得る最大の荷重(初期荷重c)に達した後、平均荷重dを中心として塑性変形を繰り返す。
【0009】初期荷重cと平均荷重dとの差が大きな押出材は、これを自動車等のサイドメンバーとして使用した場合に、衝突時に乗員への衝撃が大きくなる。
【0010】一方、曲線bは押出材に圧縮加工を加え、応力集中部を設けたものの圧壊曲線である。このように、押出材に加工による応力集中部を設けておくと、押出材は既に塑性変形を開始しているため、図1の曲線bのように、平均荷重dはそのままにして初期荷重cのみを低く抑えることができる。このため、本発明のように、予め応力集中部を設けておくことにより、押出材の圧壊時の初期荷重を低減して衝撃を抑制することができる。
【0011】
【実施例】以下、添付の図面を参照して本発明の実施例について更に説明する。
【0012】図2及び図3は夫々押出方向に圧縮加工及び内側張出加工を施した場合の本発明の実施例に係るアルミニウム合金押出材の一例を示す。なお、図2、3の左半分が断面図、右半分が外観図である。図2に示す押出材1は、この押出材1に圧縮加工を加えることにより、その適所に外側張り出し部2が周方向に沿って設けられている。また、図3に示す押出材3は圧縮加工により内側張り出し部4が設けられている。
【0013】このように構成された押出材1、3においては、圧壊時に、図1の曲線bのように、変位に対して荷重が変化するため、その初期荷重と平均荷重との荷重差が極めて小さく、その衝撃が小さい。従って、この押出材を自動車のサイドメンバーとして使用すると、衝突時の乗員の衝撃を緩和することができる。また、この押出材はアルミニウム合金であるから軽量であり、自動車の軽量化に寄与する。
【0014】これらの張り出し部2,4の加工の部位は、押出材1,3の圧壊特性に影響しないため、任意の位置に設定することができ、いずれの位置でも同様の効果を奏する。
【0015】図4、5、6は押出形材の中央部に圧縮加工部を設けるための加工方法をその工程順に示す図である。図4に示すように、円筒状の押出型材5にこの型材5よりも大径の1対の円筒状冶具6,7を両者間に若干の間隙を設けて嵌合し、この冶具6,7を押出型材5に嵌合させたまま、その軸方向に圧縮荷重を印加する。そうすると、図6に示すように、押出型材5の外周面にその周方向に延びる外側張り出し部8が形成される。
【0016】次に、実際に図2に示す押出材を製造し、その圧壊特性を試験した結果を比較例と比較して説明する。JIS6061合金(Si:0.61重量%、Mg:0.92重量%、Fe:0.21重量%、Cu:0.28重量%、Cr:0.13重量%)を外径が40mm、内径が37mmのパイプ形状に押出し加工し、熱処理を実施した後、100mmの長さに切断した。この形材に万能試験機で一旦圧縮荷重を印加し、初期荷重点の変位を超える変位を与えた。得られた押出材は図2に示すように張り出し部2が形成されていた。
【0017】この試験材と比較例材としての未加工材を万能試験機で圧壊試験した。圧壊試験後、これらの材料は蛇腹状に座屈した。本実施例材と比較例材との初期荷重及び平均荷重の測定結果を下記表1に示す。
【0018】
【表1】


【0019】この表1から明らかなように、本実施例材は比較例材と比較して、平均荷重は同等量を維持しつつ、初期荷重だけが低下している。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、予め圧縮加工を施すことによって、平均荷重はそのままで初期荷重のみを低減でき、本発明のアルミニウム合金材を自動車の緩衝材に使用すれば、衝突時の衝撃を効果的に吸収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧縮荷重を印加したときの変位−荷重曲線を示すグラフ図である。
【図2】本発明の実施例に係る押出材を示す模式図である。
【図3】本発明の他の実施例に係る押出材を示す模式図である。
【図4】押出型材の圧縮加工の1工程を示す模式図である。
【図5】同じくその次の工程を示す模式図である。
【図6】同じくその圧縮加工後の押出型材を示す斜視図である。
【符号の説明】
1,3,5;押出材
2,4,8;張り出し部
6,7;冶具

【特許請求の範囲】
【請求項1】 その一部に圧縮加工又は張出加工により脆弱部が設けられていることを特徴とする圧壊特性が優れたアルミニウム合金押出材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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