説明

圧延ロール研削方法

【課題】ワークロールの研削前の待機時間を大幅に短縮することができる圧延ロール研削方法を提供する。
【解決手段】熱間圧延機から抜き出したワークロール19の幅方向の高温部を冷却装置41で冷却するとともに、幅方向の低温部を加熱装置42で加熱し、当該ワークロール19の幅方向の温度偏差が所定の値以下になってから、当該ワークロール19の研削を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯を製造するために用いる圧延ロールの研削方法に関する。製造の対象とする金属帯は帯鋼を主とするが、これに限るものではなく、銅、アルミほかの材質であってもよい。
【0002】
ちなみに、帯鋼は、JIS G 3131、JIS G 3141などに規定される通り、一般的に、厚さ0.10mm以上13.0mm以下、幅が600mm以上2300mm以下の帯状に長い薄板状の鋼材のことを指すが、平鋼(幅500mm以下)などの圧延ロールも本発明の適用対象にできる。
【0003】
なお、本発明は、熱間圧延ラインのほか、冷間圧延ラインにも適用可能である。
【背景技術】
【0004】
熱間圧延とは、被圧延金属材料(以下、被圧延材)を数100〜千数100℃に加熱した後、熱間圧延ライン上に抽出し、一対または複数対のロールで挟圧しつつそのロールを回転させることで、薄く延ばすことをいう。
【0005】
図1は、従来から多くある熱間圧延ライン100の一例を示す。加熱炉10により数百〜千数百℃に加熱された厚み150〜300mmの金属材料(被圧延材)8は、粗圧延機12、仕上圧延機18により厚み1〜25mmまで圧延されて薄く延ばされる。
【0006】
粗圧延機12は、図1に示す熱間圧延ライン100の場合、R1、R2、R3の3基であるが、必ずしも基数はこれに限らない。粗圧延機12は、往復圧延あるいは一方向圧延あるいは両者により、一般的に合計で6回あるいは7回の粗圧延を行って、粗圧延後の被圧延材8を、それにつづく仕上圧延機18に向け供給する。
【0007】
仕上圧延機18は、数百〜千数百℃の高温の被圧延材8を複数の圧延機で同時に圧延する熱間タンデム圧延機の形式をとるが、略して単に「仕上圧延機」と称されることが多い。
【0008】
粗圧延機12、仕上圧延機18とも、被圧延材8を挟んで上下から直接圧延するロールのことをワークロール19と称し、上ワークロールをさらにその上側から支え、圧延反力で上ワークロールが撓むのを抑えるロールと、下ワークロールをさらにその下側から支え、圧延反力で下ワークロールが撓むのを抑えるロールのことを、バックアップロール20と称する。
【0009】
このほか、熱間圧延ライン100には、被圧延材8を幅方向に圧延するためのエッジャーロール13が、各圧延機の入側に設置されているほか、仕上圧延機18の各圧延機間を除いて、その他の圧延機間には図示しない多数(合計で百以上)のテーブルローラが設置されており、被圧延材8を搬送する。
【0010】
また、被圧延材8には、加熱炉10での加熱中、あるいは、圧延され薄く延ばされる過程で、その表裏面に酸化物の層(以下、スケール)が生成するため、粗圧延機12の中の各圧延機の入側と仕上圧延機18の入側には、ポンプからの供給圧にして10〜30MPa内外の高圧水を被圧延材8の表裏面に吹き付けてスケールを除去するデスケーリング装置16が設置され、スケールを除去している。
【0011】
さらに、図1において、14はクロップシャーであり、仕上圧延前に被圧延材8の先後端のクロップ(被圧延材8の先後端の、いびつな平面形状の部分)を切断除去し、仕上圧延機18にスムーズに噛み込みやすい略矩形の平面形状に整形する。
【0012】
22は冷却ゾーンであり、仕上圧延後の被圧延材8を水冷する。23は冷却ゾーンのテーブルローラ群であり、ランナウトテーブルと呼ばれる。24はコイラであり、冷却後の被圧延材8を巻き取る。
【0013】
50は制御装置、70はプロセスコンピュータ、90はビジネスコンピュータである。
【0014】
15は仕上入側温度計であり、仕上圧延前の被圧延材8の温度を測定し、仕上圧延機18に被圧延材8が噛み込む際の、ロール間隙その他の各種の設定(セットアップ)を、プロセスコンピュータ70内での計算により設定値の決定を行った結果に基づいて行うための、その計算の起動の役割と、温度データの制御装置50とプロセスコンピュータ70への提供の役割と、を兼ねて果たす。
【0015】
21は仕上出側温度計を示し、温度データを制御装置50とプロセスコンピュータ70に提供する役割を果たす。
【0016】
そして、粗圧延機12、仕上圧延機18では、どの一つの圧延機をとっても、800〜1200℃という非常に高温の被圧延材8を圧延するため、図2に示すように、ワークロール19は、被圧延材8からの入熱により加熱されて熱膨張する。
【0017】
このとき、ワークロール19の被圧延材8よりも外側に相当する部位(いわゆる板道外)Bは、被圧延材8と接触しなくて比較的低温であることから、被圧延材8と接触するワークロール19の胴長方向中央部Cのうちの、板道外Bに近いC’の領域から、板道外Bに向かって、ワークロール19の胴長方向に熱が逃げるため、ワークロール19の胴長方向中央では、熱膨張が大きく、ワークロール19の胴長方向中央部Cのうちの、板道外Bに近いC’の領域では、熱膨張が小さい、という略台形の形状をしたロールプロフィルを形成する(以下サーマルクラウンと呼ぶ)。
【0018】
仕上圧延後の被圧延材8の板厚、それに、形状としては、品質上、均一なもの、平坦なものが求められるが、ワークロール19の台形状に突出したサーマルクラウンDの部分は、ワークロール19でまさに被圧延材8を圧延する際に、被圧延材8側に転写される結果、図2中に示すごとく、被圧延材8は、幅中央域では薄く、両幅端部に近づくと厚くなる、という幅方向に不均一な板厚分布をもつに至るとともに、最悪の場合には破断に至る。
【0019】
このように、ワークロール19の形状は被圧延材8への影響が大きいため、厳密に管理されている。ワークロール19の形状への影響としては、サーマルクラウンの他にも被圧延材8によるワークロール19の撓みや摩耗も転写される。
【0020】
そのため、図3に示すワークロールのイニシャルクラウンやベンダー力によるワークロールの撓み矯正等によりワークロールの形状を制御して被圧延材8を平坦なものとしている。
【0021】
また、ワークロールの摩耗が進行すると転写により被圧延材8の品質が確保できない状態となるため、一般的に100本程度の圧延でワークロール19は交換される。仕上圧延機は一般的に7スタンドあり、上下合わせて14本が必要なため、3時間周期でワークロール19を交換することになる。
【0022】
交換されたワークロール19は、その度に研削して圧延により発生した摩耗を除去するとともに、所望のイニシャルクラウンを付与している(例えば、特許文献1参照)。
【0023】
しかしながら、前記のようにワークロール19は被圧延材8からの入熱によりサーマルクラウンを持っているため、圧延直後では80℃程度と非常に高温な状態となっている。この状態で研削すると、室温まで冷えた後にはサーマルクラウンが除去されているため、所望のイニシャルクラウンとは異なるワークロール形状となる。そのため、実際には長時間待機した後に研削されている。しかしながらワークロールは3時間周期で14本のロールが消費されるため、研削装置は非常に逼迫した設備となっており、最悪の場合は研削したワークロール19が準備できないために圧延できない状態となる。
【0024】
そのため、従来は研削前にワークロール19を水冷することにより待機時間を短縮することが行われていた。
【0025】
しかしながら、特に転写による影響の大きい種類の被圧延材8を圧延するときに使用するワークロール19では、それでも大幅な時間短縮は困難であった。
【特許文献1】特開昭61−088906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、従来技術の斯かる問題を解決するためになされたものであり、ワークロールの研削前の待機時間を大幅に短縮することができる圧延ロール研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
斯かる目的を達成するための本発明は、以下の特徴を有している。
【0028】
[1]圧延機からワークロールを抜き出した後、予め、当該ワークロールの幅方向の高温部を冷却するとともに、幅方向の低温部を加熱し、当該ワークロールの幅方向の温度偏差が所定の値以下になってから、当該ワークロールの研削を行うことを特徴とする圧延ロール研削方法。
【0029】
[2]圧延機から抜き出した直後のワークロールの幅方向温度分布を温度計で測定して、冷却すべき高温部と、加熱すべき低温部を定めることを特徴とする前記[1]に記載の圧延ロール研削方法。
【0030】
[3]ワークロールの幅方向温度分布を温度計で測定することによって、高温部を冷却する時間と低温部を加熱する時間を調整することを特徴とする前記[1]または[2]に記載の圧延ロール研削方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、ワークロールの研削前の待機時間を大幅に短縮できるようになった。そして、本発明を適用して被圧延材を圧延することにより、生産量が増加するとともに、板厚が均一で、品質上、好ましい製品が得られ、腹伸びにより被圧延材が破断するようなトラブルも抑制できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
図4は、本発明の一実施形態を示す概略図である。この実施形態においては、熱間圧延機から抜き出したワークロール19を研削して、所望のイニシャルクラウンを付与するのに際して、図4に示すように、熱間圧延機から抜き出したワークロール19の幅方向の高温部を冷却装置(例えば、水冷装置)41で冷却するとともに、幅方向の低温部を加熱装置(例えば、バーナ)42で加熱し、当該ワークロール19の幅方向の温度偏差(ロール幅方向温度偏差)が所定の値以下になってから、当該ワークロール19の研削を行うようにしている。
【0034】
ここで、ワークロール19の幅方向の高温部とは、サーマルクラウンの台形状の領域であり、熱間圧延機から抜き出した直後に高温(例えば、80℃程度)になっている領域である。一方、ワークロール19の幅方向の低温部とは、サーマルクラウンの台形状の領域の外側の範囲であり、熱間圧延機から抜き出した直後に低温(例えば、40℃程度)になっている領域である。
【0035】
そして、高温部を冷却し、低温部を加熱して、ロール幅方向温度偏差が所定の値以下(例えば、10℃以下)になってから、ワークロール19の研削を開始するようにしているので、研削開始時にはサーマルクラウンがほぼ消滅しており、サーマルクラウンの影響を受けることなく、ワークロール19に所望のイニシャルクラウンを付与することができる。
【0036】
しかも、従来のようにワークロール19の全幅を水冷する場合は、高温部も低温部も冷却することになるので、両者の温度差(ロール幅方向温度偏差)が小さくなるまで、すなわち、サーマルクラウンが消滅するまでに時間が掛かるのに対して、この実施形態では、高温部を冷却するとともに、低温部を積極的に加熱しているので、両者の温度差(ロール幅方向温度偏差)が急速に小さくなり、短時間でサーマルクラウンが消滅する。したがって、ワークロール19を抜き出してから研削を開始するまでの待機時間を大幅に短縮することができる。
【0037】
なお、冷却すべき高温部(冷却領域)と加熱すべき低温部(加熱領域)を定めるには、熱間圧延機から抜き出した直後に、温度計でワークロール19の幅方向温度分布を測定して定めればよい。また、高温部を冷却する時間と低温部を加熱する時間は、温度計でワークロール19の幅方向温度分布(ロール幅方向温度偏差)を測定しながら調整すればよい。
【0038】
ただし、これまでの操業実績や数値計算に基づいて、冷却領域・加熱領域の設定や、冷却時間・加熱時間の調整を行うことができる場合は、温度計による測定は不要である。
【0039】
ちなみに、冷却装置41と加熱装置42は、ワークロール毎に冷却領域と加熱領域が変動する場合に対応できるように、ロール幅方向にゾーン分割されていて、ゾーン毎のON−OFFが行えるようになっている。
【0040】
なお、場合によっては、冷却装置41で冷却する領域と加熱装置42で加熱する領域の間に自然冷却(放冷)する領域を設けてもよい。
【0041】
このようにして、この実施形態においては、ワークロールの幅方向高温部を冷却するとともに、幅方向低温部を積極的に加熱しているので、ワークロールの研削前の待機時間を大幅に短縮することができる。その結果、圧延ラインの生産量を増加することが可能となる。
【実施例1】
【0042】
本発明の実施例として、上記の本発明の一実施形態に基づいて、ワークロールの幅方向高温部を冷却するとともに幅方向低温部を加熱した場合(本発明例)と、従来のように、ワークロールの全幅を水冷した場合(従来例)とで、ロール幅方向温度偏差(ロール幅方向の断面平均温度の偏差)の経時変化を比較した。
【0043】
その比較結果を図5に示す。図5では、横軸にワークロールを熱間圧延機から抜き出してから経過時間をとり、縦軸にロール幅方向の断面平均温度の偏差を示している。なお、ここでは、ロール幅方向の断面平均温度の偏差は、ワークロールの胴長方向中央部の断面平均温度とロール端部の断面平均温度との偏差で代表させている。
【0044】
例えば、ロール幅方向の断面平均温度の偏差が20℃になるまでの時間でみると、従来例では約180分(3時間)掛かっているのに対して、本発明例では約30分(0.5時間)と大幅に短くなっている。
【0045】
このように、本発明例では、ロール幅方向温度偏差の低減に要する時間が大幅に短縮されており、したがって、本発明を適用することによって、研削前の待機時間を大幅に短縮することが可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】熱間圧延ラインの例を示した図である。
【図2】サーマルクラウンの様子を示した図である。
【図3】ワークロールの形状に影響を及ぼす要素を示した図である。
【図4】本発明の一実施形態を示す概略図である。
【図5】本発明例と従来例のロール幅方向温度偏差の経時変化を比較した図である。
【符号の説明】
【0047】
1 圧延機
4 冷却装置
5 ワイパ
5a フレーム
6、6b ストリッパ
6a、6c フレーム
8 被圧延材
9 幅プレス
10 加熱炉
12 粗圧延機
13 エッジャーロール
14 クロップシャー
15 仕上入側温度計
16 デスケーリング装置
18 仕上圧延機
19 ワークロール
20 バックアップロール
21 仕上出側温度計
22 冷却ゾーン
23 ランナウトテーブル
24 コイラ
25 コイラ入側幅計
26 巻出リール
27 接合機
28 ループ設備
29 切断機
30 巻取リール
41 冷却装置
42 加熱装置
50 制御装置
70 プロセスコンピュータ
90 ビジネスコンピュータ
100 熱間圧延ライン
A 搬送方向
B 板道外
C ワークロール19の胴長方向中央部
D サーマルクラウン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機からワークロールを抜き出した後、予め、当該ワークロールの幅方向の高温部を冷却するとともに、幅方向の低温部を加熱し、当該ワークロールの幅方向の温度偏差が所定の値以下になってから、当該ワークロールの研削を行うことを特徴とする圧延ロール研削方法。
【請求項2】
圧延機から抜き出した直後のワークロールの幅方向温度分布を温度計で測定して、冷却すべき高温部と、加熱すべき低温部を定めることを特徴とする請求項1に記載の圧延ロール研削方法。
【請求項3】
ワークロールの幅方向温度分布を温度計で測定することによって、高温部を冷却する時間と低温部を加熱する時間を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の圧延ロール研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−101368(P2009−101368A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273265(P2007−273265)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)