説明

圧延機のルーパ張力制御方法および制御装置

【課題】スライディングモード制御における状態変数の次数を増やすことなく定常偏差をなくし、現場でのパラメータ調整や制御性能の解析等を容易に行うことの出来る圧延機のルーパ張力制御方法を提供すること。
【解決手段】スライディングモード制御器22における、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ルーパトルク偏差にルーパトルク外乱を加えた値との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式からなる連立一次方程式に、外乱オブザーバ20によって推定された状態変数やルーパ角度偏差等の各種の状態変数を代入して、その成立状態を評価し、その結果に基づいて、ルーパトルク制御指令値およびミル速度制御指令値を求め、ルーパ装置18やミル駆動モータ24を制御した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機において連続する複数のスタンド間に配置されたルーパの張力制御方法及び制御装置に係り、特に、ミル速度およびルーパトルクによって、スタンド間の圧延材張力およびルーパ角度を任意の目標値に制御するルーパ張力制御方法と、その装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧延機においては、過大張力の際の板切れや過小張力の際の板流れなどを起こさず、安定した状態で製品を圧延するために必要な制御の一つとして、ルーパ張力制御が行われている。そして、そのようなルーパ張力制御方法としては、PID制御方法や状態フィードバック制御方法、或いは、目標値と実績値との偏差の原因を各種外乱の影響とし、これらの外乱をあらかじめ打ち消すように入力を加えることで、ルーパ角度および圧延材張力を制御する外乱オブザーバを用いた制御方法等、各種の手法が提案されている。しかしながら、これらの制御方法にあっては、ルーパの立ち上げ後の定常状態を対象として設計された線形モデルに対する線形制御方法であるために、特に非線形性の強いルーパの立ち上げ時等においては、定常状態並みの制御性能を保証することが出来ないものであった。
【0003】
そこで、特開平11−90516号公報(特許文献1)においては、非定常部の非線形な対象に対して有効なスライディングモード制御を導入し、制御対象となる圧延機の内部の状態変数を状態空間の超平面に拘束するようにして、各制御装置の操作量を求める熱間圧延機の制御方法が、明らかにされている。
【0004】
通常、このようなスライディングモード制御において、状態変数を超平面に拘束させつつ、最終状態に推移させるためには、目標状態において各種変数の偏差が0となる必要がある。しかしながら、ルーパ角度、圧延張力等は、その偏差を目標値からのずれ(偏差)として与えれば、目標状態で0となるのであるが、ルーパトルク、ミル速度、ルーパトルク指令値及びミル速度指令値等は、目標状態における値を計算できたとしても、モデル化誤差の影響等で、その偏差が0とならないのである。即ち、これによって、圧延材張力およびルーパ角度についての定常偏差が生じることとなる。
【0005】
そこで、かかる特許文献1にて明らかにされている制御方法においては、ルーパ角度偏差や圧延材張力偏差等の積分値を新たな変数として導入し、これらをスライディングモード制御に対する状態変数の要素に加えた拡大系を生成することで、そのような定常偏差が生じないような制御系の設計の実現を図るものであった。
【0006】
しかしながら、そのような特許文献1にて明らかにされている手法にあっては、スライディングモード制御における超平面を表す連立方程式の次数が増えて複雑となるため、現場でのパラメータ調整や、制御性能の解析等が容易に出来ないといった問題を内在するものであった。また、それら積分に関する変数は、最終状態において0とならない可能性が高いため、定常偏差をなくすことは出来たとしても、超平面に拘束させることが出来ないため、ルーパがスムーズに立ち上がらない恐れがある等の問題点もあったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−90516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、スライディングモード制御における状態変数の次数を増加させることなく、定常偏差をなくすと共に、現場でのパラメータ調整や制御性能の解析などを容易に行うことを可能にした圧延機のルーパ張力制御方法を提供することにある。また、本発明にあっては、そのような制御方法を用いた圧延機のルーパ張力制御装置を提供することも、その解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題の解決のために、複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御方法であって、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ルーパトルク偏差と、ミル速度偏差と、ルーパトルク外乱と、ミル速度外乱との関係を表す連立一次方程式の全ての係数を評価指標に基づいて決定しておき、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ルーパトルク偏差及び該ミル速度偏差を測定または推定し、さらに該ルーパトルク外乱及び該ミル速度外乱を推定し、前記連立方程式が成立するように状態を推移させるためのルーパトルク指令値及びミル速度指令値を求めて、該ルーパトルク指令値及び該ミル速度指令値を用いて制御することを特徴とする圧延機のルーパ張力制御方法を、その要旨とするものである。
【0010】
なお、このような本発明に従う圧延機のルーパ張力制御方法の好ましい態様の一つによれば、前記ルーパトルク指令値及びミル速度指令値は、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ルーパトルク偏差にルーパトルク外乱を加えた値との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式を設定し、該二つの一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておき、スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ルーパトルク偏差、該ミル速度偏差、該ルーパトルク外乱及び該ミル速度外乱を推定して、該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値と、該圧延材張力偏差を推定した値または該圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値と、該ルーパトルク偏差を推定した値と、該ミル速度偏差を推定した値と、該ルーパトルク外乱を推定した値と、該ミル速度外乱を推定した値とを、前記二つの一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該二つの一次方程式が同時に成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度制御指令を求め、さらにこれらの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値が前記ルーパトルク指令値とされる一方、該ミル速度制御指令から前記ミル速度外乱を推定した値を差し引いた値が前記ミル速度指令値とされて、求められることとなる。
【0011】
また、かかる本発明に従う圧延機のルーパ張力制御方法の別の好ましい態様の一つによれば、前記ルーパトルク指令値及びミル速度指令値は、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式を設定し、該二つの一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておき、スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ミル速度偏差、該ミル速度外乱及びルーパトルク外乱を推定して、該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値と、該圧延材張力偏差を推定した値または該圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値と、該ミル速度偏差を推定した値と、該ミル速度外乱を推定した値とを、前記二つの一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該二つの一次方程式が同時に成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度制御指令を求め、さらにこれらの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値が、前記ルーパトルク指令値とされる一方、該ミル速度制御指令から前記ミル速度外乱を推定した値を差し引いた値が、前記ミル速度指令値とされて、求められることとなる。
【0012】
さらに、本発明に従う圧延機のルーパ張力制御方法の望ましい態様の一つによれば、複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、該スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御方法であって、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差との関係を表す一次方程式を設定し、該一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておき、スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、圧延材張力偏差、及びルーパトルク外乱を推定して、該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値とを、前記一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該一次方程式が成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令を求め、さらにこの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値を前記ルーパトルク指令値とすることによるルーパ角度制御方法に、前記圧延材張力偏差を推定した値を0にするためのミル速度制御指令を求め、該ミル速度制御指令を前記ミル速度指令値とすることによる張力制御方法を加えたことを特徴とする。
【0013】
ところで、本発明にあっては、複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、該スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御装置であって、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ルーパトルク偏差にルーパトルク外乱を加えた値との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式を設定し、該二つの一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておく手段と、スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ルーパトルク偏差、該ミル速度偏差、該ルーパトルク外乱及び該ミル速度外乱を推定する手段と、該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値と、該圧延材張力偏差を推定した値または該圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値と、該ルーパトルク偏差を推定した値と、該ミル速度偏差を推定した値と、該ルーパトルク外乱を推定した値と、該ミル速度外乱を推定した値とを、前記二つの一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該二つの一次方程式が同時に成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度制御指令とを求める手段と、さらにこれらの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値を前記ルーパトルク指令値とし、該ミル速度制御指令から前記ミル速度外乱を推定した値を差し引いた値を前記ミル速度指令値とする手段とから構成されることを特徴とする圧延機のルーパ張力制御装置をも、その要旨とするものである。
【0014】
なお、そのような本発明に従う圧延機のルーパ張力制御装置の好ましい態様の一つによれば、複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御装置であって、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式を設定し、該二つの一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておく手段と、スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ミル速度偏差、該ミル速度外乱及びルーパトルク外乱を推定する手段と、該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値と、該圧延材張力偏差を推定した値または該圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値と、該ミル速度偏差を推定した値と、該ミル速度外乱を推定した値とを、前記二つの一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該二つの一次方程式が同時に成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度制御指令とを求める手段と、さらにこれらの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値を前記ルーパトルク指令値とし、該ミル速度制御指令から前記ミル速度外乱を推定した値を差し引いた値を前記ミル速度指令値とする手段とから構成されることとなる。
【0015】
また、本発明に従う圧延機のルーパ張力制御装置の別の好ましい態様の一つよれば、複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御装置であって、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差との関係を表す一次方程式を設定し、該一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておく手段と、スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、圧延材張力偏差、及びルーパトルク外乱を推定する手段と、該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値とを、前記一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該一次方程式が成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令を求める手段と、さらにこの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値を前記ルーパトルク指令値とする手段と、前記圧延材張力を推定した値を0にするためのミル速度制御指令を求め、該ミル速度制御指令を前記ミル速度指令値とする手段とから構成されることとなる。
【発明の効果】
【0016】
従って、このような本発明に従う圧延機のルーパ張力制御方法によれば、外乱オブザーバによって、通常の状態変数に加えて、ミル速度外乱およびルーパトルク外乱を推定し、これらを、ミル速度、ルーパトルクの目標状態における設定値と実績値との誤差として考え、超平面の連立方程式に代入し、また、ルーパトルク制御指令やミル速度制御指令などの制御指令から、外乱をあらかじめ打ち消すように、これらの外乱を推定した値を差し引いて、ルーパトルク指令値およびミル速度指令値とすることで、最終的に超平面に状態変数を拘束することが可能となるのである。
【0017】
そして、その結果、前述した特許文献1にて明らかにされている制御方式のように、状態変数の次数を増やすことなく、定常偏差をなくすことが出来、また、ミル速度外乱およびルーパトルク外乱ともに物理的な意味づけが容易であるところから、パラメータ調整や制御性能の解析などを行い易く、かつルーパの立ち上げ時などの非線形性が強い状況においても、安定した制御が可能となるのである。また、本発明にあっては、状態変数を超平面に乗せることが可能となるため、圧延開始時の過渡状態においてルーパおよび張力の挙動がスムーズになることも期待出来ることとなる。
【0018】
さらに、このような本発明に従う圧延機のルーパ張力制御装置を備えた圧延機にあっては、現場でのパラメータ調整や制御性能の解析などを容易に行うことが出来ると共に、圧延開始時にルーパが立ち上がってある程度の角度に落ち着くまでの過渡状態においても、安定したルーパ制御を行うことが出来るため、安定した板圧延を行うことが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に従う圧延機のルーパ制御装置を備えた圧延機の一例を概略的に示す説明図である。
【図2】本発明に従う圧延機のルーパ制御装置にて採用される外乱オブザーバの構成の一例を示す説明図である。
【図3】本発明に従う圧延機のルーパ制御装置を備えた圧延機の別の一例を概略的に示す説明図である。
【図4】図3に示される圧延機のルーパ制御装置によるルーパ張力制御のシミュレーション結果を示すグラフであって、(a)は、圧延材張力の時間経過による変化を示し、(b)は、ルーパ角度の時間経過による変化を示している。
【図5】従来の制御方式によるルーパ張力制御のシミュレーション結果を示すグラフであって、(a)は、圧延材張力の時間経過による変化を示し、(b)は、ルーパ角度の時間経過による変化を示している。
【図6】本発明に従う圧延機のルーパ制御装置を備えた圧延機の更に別の一例を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0021】
先ず、図1には、本発明に従う圧延機のルーパ張力制御方法の構成の一例として、請求項2で示した制御方式を用いた制御装置1を備えた圧延機が、ブロック図の形態において概略的に示されている。かかる図1において、2および4は、上流側および下流側の圧延スタンドであり、それぞれ、各一対のワークロール6,10と、バックアップロール8,12を備えている。そして、圧延材14が、かかる図において左方から右方に送られて、それぞれの圧延スタンド2,4によって、圧延材14に圧延加工が施されるようになっている。また、上流側圧延スタンド2と下流側圧延スタンド4の間には、油圧ポンプや電動モータ等の駆動手段によって1軸回りに揺動作動せしめられ、圧延材14に当接せしめられるルーパを備えたルーパ装置18が配置されている。さらに、ルーパ装置18には、図示はしないが、圧延材14の張力を検出する張力センサーおよびルーパの揺動角度を検出する角度検出センサーが、それぞれ備えられている。
【0022】
そして、かかるルーパ装置18によって検出されたルーパ角度測定値および圧延材張力測定値は、外乱オブザーバ20に入力され、この外乱オブザーバ20によって、ルーパ角度偏差、ルーパ角速度偏差、圧延材張力偏差、ルーパトルク偏差、ミル速度偏差、ルーパトルク外乱及びミル速度外乱が推定される。このうち、ルーパ角度偏差を推定した値と、ルーパ角速度偏差を推定した値と、圧延材張力偏差を推定した値とで構成されるベクトルを状態変数1とする一方、ルーパトルク偏差を推定した値と、ミル速度偏差を推定した値とで構成されるベクトルを状態変数2とする。また、ルーパトルク外乱を推定した値と、ミル速度外乱を推定した値とで構成されるベクトルを状態変数3とする。さらに、状態変数2と状態変数3との和で表されるベクトル、つまりルーパトルク偏差を推定した値とルーパトルク外乱を推定した値の和と、ミル速度偏差を推定した値とミル速度外乱を推定した値の和とで構成されるベクトルを、状態変数4とする。なお、状態変数1については、ルーパ角度偏差を推定した値及び圧延材張力偏差を推定した値の代わりに、ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値及び圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値を用いてもよい。
【0023】
さらに、外乱オブザーバ20によって得られたルーパトルク偏差を推定した値とルーパトルク外乱を推定した値の和及びミル速度偏差を推定した値とミル速度外乱を推定した値の和が、状態変数4として計算され、この状態変数4と外乱オブザーバ20によって推定された状態変数1とが、スライディングモード制御器22に送られる。そして、スライディングモード制御器22では、評価指標に基づいて、あらかじめ全ての係数が決定されている連立一次方程式に、上記で送られた状態変数1および状態変数4が代入され、その成立状態が評価される。ここで、上記連立方程式は、ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ルーパトルク偏差にルーパトルク外乱を加えた値との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式から構成される。
【0024】
そして、この連立一次方程式の成立状態を評価した結果に基づいて、この式が成立するように状態を推移させるための制御指令となるルーパトルク制御指令およびミル速度制御指令が導出される。このうち、ルーパトルク制御指令からは、外乱をあらかじめ打ち消すようにルーパトルク外乱を推定した値が差し引かれ、この結果が、ルーパトルク指令値としてルーパ装置18へ入力されるようになっている。また、ミル速度制御指令からは、外乱をあらかじめ打ち消すようにミル速度外乱を推定した値が差し引かれ、この結果が、ミル速度指令値としてミル駆動モータ24へ入力されるようになっている。
【0025】
以下において、外乱オブザーバ20およびスライディングモード制御器22の詳細設計について、詳細に説明する。
【0026】
先ず、外乱オブザーバ20およびスライディングモード制御器22の設計のために必要な線形モデルの設計手法を示す。各スタンド2,4間におけるルーパ系の非線形数学モデルは、次式(1)、(2)のように与えられる。
【0027】
【数1】

【0028】
ここで、θはルーパ角度、K1T は圧延材張力によるトルク、K2 は板の質量によるトルク、K3 はルーパの自重によるトルクであり、Jはルーパの慣性モーメント、Dはルーパ回転軸の粘性摩擦係数、Tは圧延材張力、τはルーパトルク、τref はルーパトルク指令値、TACR はルーパトルク時定数、Kdot はルーパ角速度からルーパトルクへの影響係数である。
【0029】
また、張力系の数学モデルは、次式(3)、(4)のように表される。
【0030】
【数2】

【0031】
ここにおいて、Eは圧延材のヤング率、lはスタンド間距離の半分の値、Lはスタンド間板長、f1 は上流スタンドの先進率、b2 は下流スタンドの後進率、VR 、VR2は、それぞれ上流、下流スタンドのミル速度、VRrefはミル速度指令値、TV はミル速度時定数である。
【0032】
これらを線形化すると、以下の形の状態方程式(5)が得られる。
【0033】
【数3】

【0034】
上記(5)式において、
【0035】
【数4】

【0036】
次に、外乱オブザーバ20の設計法について説明する。外乱オブザーバの状態変数としては、ルーパ角度偏差を推定した値(ルーパ角度偏差推定値)、ルーパ角速度偏差を推定した値(ルーパ角速度偏差推定値)、ルーパトルク外乱を推定した値(ルーパトルク外乱推定値)、圧延材張力偏差を推定した値(圧延材張力偏差推定値)、ミル速度偏差を推定した値(ミル速度偏差推定値)、ミル速度外乱を推定した値(ミル速度外乱推定値)等の6変数が必要となるが、簡単化のため、図2に示されるように、前者の3変数を推定するトルク外乱オブザーバ、後者の3変数を推定するミル速度外乱オブザーバに分けて設計する。先ず、トルク外乱オブザーバは、次式(6)で表される。
【0037】
【数5】

【0038】
ルーパトルク指令値から実績値までの時定数は、無視できる程度に小さいと考え、ルーパトルク偏差を推定した値(ルーパトルク偏差推定値)を省略し、代わりに、a'22 を導入している。このとき、ルーパトルク偏差推定値自身は、(2)式とルーパ角速度偏差推定値から求められることとする。また、ミル速度外乱オブザーバは、次式(7)で表される。
【0039】
【数6】

【0040】
次に、スライディングモード制御器22の設計方法について説明する。まず、状態変数の各要素の関係を表す一次連立方程式(超平面)の設計を行う。ここでは、一例として、重み関数Qを用いて、以下の評価関数を最小とするような超平面の設計方法を用いる。
【0041】
【数7】

【0042】
先ず、状態方程式をx=[x1T2TTのように分解し、それに応じて、各行列を、以下のように分割する。
【0043】
【数8】

【0044】
このとき、(8)式の評価関数は、以下のように変形される。
【0045】
【数9】

【0046】
一方、x1 に関する状態方程式は、以下のように表すことができる。
【0047】
【数10】

【0048】
ここで、(10)〜(12)式は、最適制御問題の形をしているため、リカッチ方程式の正定対称唯一解Pを用いて、
【0049】
【数11】

【0050】
と与えられる。以上より、(11)、(13)式をまとめると、
【0051】
【数12】

【0052】
を得る。このときのSが、超平面の傾きであり、σ=0が満たされれば、(8)式の評価関数を最小とすることが出来ることが分かる。
【0053】
そして、本設計手法を(5)式の状態方程式に適用し、すべての変数を外乱オブザーバによって推定した値とすると、(14)式におけるx1 およびx2 は、以下のように表される。
【0054】
【数13】

【0055】
ここで、(14)、(15)式における状態変数x1 が、前述した状態変数1に、x2 が、前述した状態変数2に対応する。
【0056】
また、Qが対角行列であれば、以下のような形の超平面が設計される。
【0057】
【数14】

【0058】
つまり、本対象では、σ1 をルーパトルクで、σ2 をミル速度で調整することとなる。
【0059】
以上で設計された、最適な超平面上に状態を拘束するための制御指令の決定方法について述べる。本発明における制御器は、超平面の外から状態を超平面に乗せる働きをする項(unl)と、超平面に乗った後に状態を超平面上で拘束させる項(ueq)とから構成される。つまり、制御指令uSMC は、
【0060】
【数15】

【0061】
と表される。先ず、unlの基本形は、
【0062】
【数16】

となるように、
【0063】
【数17】

【0064】
と表される。ここで、ki の符号は、制御指令の状態変数への影響、つまり状態方程式におけるBの符号によって決まる。(5)式において、b41、b52は、共に正であることから、
【0065】
【数18】

の符号が一致するため、ki >0としてよい。また、(18)式をそのままの形で制御指令として用いた場合、制御指令の符号が切り替わることによるチャタリングを生じる可能性が高い。そこで、符号の切り替え部分をなだらかにするため、シグモイド関数を導入して、unlを、次のように変更する。
【0066】
【数19】

【0067】
(19)式のパラメータαi は、シグモイド関数の原点付近での傾きに対応し、これが大きいほど、チャタリングが生じ難い反面、超平面に収束するまでの時間が長くなり、逆に、これが小さいほど、チャタリングが生じ易い反面、超平面上に速やかに収束することとなる。
【0068】
次に、拘束項ueqを考える。これは、超平面上で
【0069】
【数20】

が満たされるように与えられる項である。先ず、(5)式および(14)式より、以下の関係が成り立つ。
【0070】
【数21】

【0071】
【数22】

として、これをuについて解くと、
【0072】
【数23】

【0073】
となる。よって、ueqは、以下のように表される。
【0074】
【数24】

【0075】
スライディングモード制御器22の出力である制御指令Uは、(17)式のuSMC に、ルーパトルクおよびミル速度の平衡点を加えた値
【0076】
【数25】

となる。
【0077】
ところで、通常、状態変数を超平面に拘束させつつ最終状態に推移させるためには、目標状態において、状態変数xおよび制御指令uSMC が共に0となる必要がある。しかしながら、ルーパ角度、圧延張力等は、その偏差を目標値からのずれ(偏差)として与えれば、目標状態で0となるが、ルーパトルク、ミル速度、ルーパトルク指令値及びミル速度指令値等は、目標状態における値を計算出来たとしても、モデル化誤差の影響等で、その偏差が0とはならない。これによって、圧延材張力およびルーパ角度についての定常偏差が、生じることとなる。
【0078】
そこで、本発明では、外乱オブザーバ20によって推定された各外乱推定値を用いて、定常偏差を解消する。先ず、トルク外乱オブザーバを用いて推定されたルーパトルク外乱推定値、およびミル速度外乱オブザーバを用いて推定されたミル速度外乱推定値は、それぞれτc およびVRcの計算値(τc 、VRc)と、真値(τcR、VRcR )とのずれ
【0079】
【数26】

【0080】
とみなすことが出来る。よって、σの計算式を、
【0081】
【数27】

【0082】
に変更し、実機での制御入力U’を、スライディングモード制御器22での出力Uに対して
【0083】
【数28】

【0084】
とすれば、角度および張力の定常偏差を解消することが出来る。ここで、(25)式における状態変数x4 が、前述での状態変数4に対応する。
【0085】
また、本発明に従うルーパ張力制御方法を備えた圧延機の別の一例として、請求項3に示した圧延機のルーパ張力制御方法を用いたものについて説明する。
【0086】
すなわち、制御対象をできる限り厳密に捉えて制御を行う場合は、前記(5)式で示した5変数の全てを用いて、制御器の設計を行う必要があるが、ルーパトルク指令値からルーパトルクまでの遅れが少ない(時定数が無視できる程度に小さい)場合や、ミル速度指令値からミル速度までの遅れが少ない場合には、これらの変数を省略し、制御器の設計をより簡略化することが出来るのである。例えば、ルーパトルクを省略する場合は、以下のような4変数の方程式に簡略化出来る。
【0087】
【数29】

【0088】
そして、前記(14)式で示した超平面の設計手法を、(27)式の状態方程式に適用して、以下のような形の超平面を設計する。
【0089】
【数30】

【0090】
以上の簡略化によって得られる制御系の構成例を、図3に示す。かかる図3に示される制御装置30の場合は、図1にて示した制御装置1の場合と違い、外乱オブザーバ20からスライディングモード制御器22への入力の中で、ルーパトルクを推定した値と、ルーパトルク外乱を推定した値との和が、省略されている。図3におけるスライディングモード制御器22では、外乱オブザーバ20から与えられる各推定値を用いて、(28)式の成立状態が評価され、その結果に基づいて、(28)式が成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度指令が、導出されるようになっている。
【0091】
因みに、図4には、本発明の請求項3に示した4変数の場合のシミュレーションによる結果のグラフが図示され、また図5には、従来の外乱オブザーバのみを用いた線形制御手法をシミュレーションした結果のグラフが示されている。そして、図5から明らかなように、従来の線形制御手法では、ルーパの立ち上がり時において、ルーパ角度、張力ともに、振動が見られることが分かる。これに対して、図4に示される結果においては、ルーパ角度、張力ともに、なめらかな挙動を実現できており、本発明による制御方法が、ルーパ立ち上げ時の非線形な部分においても、ロバストな制御が実現できていることを確認することが出来るのである。
【0092】
更にまた、本発明に従うルーパ張力制御方法を備えた圧延機の更に別の一例として、請求項4に示したルーパ張力制御方法を用いたものについて、説明する。
【0093】
先ず、(27)式においてミル速度指令値からミル速度までの時間遅れを無視出来ると仮定すると、以下のような3変数の方程式に簡略化できる。
【0094】
【数31】

【0095】
そして、前記(14)式で示した超平面の設計手法を、(29)式の状態方程式に適用して、以下のような形の超平面を設計する。
【0096】
【数32】

【0097】
3変数の場合は、σ2 =0を達成することと、張力の偏差を0にすることが、同等の意味を持つため、PID制御等のスライディングモード制御以外の制御手法を用いて、σ2 =0を実現することが出来る。また、σ1 =0の方程式に張力系の変数がなく、σ2 =0に角度系の変数がないため、角度制御と張力制御が完全に独立した形となっていることが分かる。
【0098】
以上の簡略化によって得られる制御系の構成例を、図6に示す。かかる図6におけるスライディングモード制御器22への入力は、ルーパ角度偏差を推定した値およびルーパ角速度偏差を推定した値の2変数のみとなり、圧延材張力を推定した値は、張力制御器26に入力されるようになっている。このとき、スライディングモード制御器22によって、前記(30)式におけるσ1 =0が成立するように制御が行われ、張力制御器26によって、σ2 =0が成立するように制御が行われることとなる。
【符号の説明】
【0099】
2 圧延スタンド
4 圧延スタンド
6 ワークロール
8 バックアップロール
10 ワークロール
12 バックアップロール
14 圧延材
18 ルーパ装置
20 外乱オブザーバ
22 スライディングモード制御器
24 ミル駆動モータ
26 張力制御器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、該スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御方法であって、
ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ルーパトルク偏差と、ミル速度偏差と、ルーパトルク外乱と、ミル速度外乱との関係を表す連立一次方程式の全ての係数を評価指標に基づいて決定しておき、
該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ルーパトルク偏差及び該ミル速度偏差を測定または推定し、
さらに該ルーパトルク外乱及び該ミル速度外乱を推定し、前記連立方程式が成立するように状態を推移させるためのルーパトルク指令値及びミル速度指令値を求めて、該ルーパトルク指令値及び該ミル速度指令値を用いて制御する
ことを特徴とする圧延機のルーパ張力制御方法。
【請求項2】
前記ルーパトルク指令値及びミル速度指令値が、
ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ルーパトルク偏差にルーパトルク外乱を加えた値との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式を設定し、
該二つの一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておき、スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ルーパトルク偏差、該ミル速度偏差、該ルーパトルク外乱及び該ミル速度外乱を推定して、
該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値と、該圧延材張力偏差を推定した値または該圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値と、該ルーパトルク偏差を推定した値と、該ミル速度偏差を推定した値と、該ルーパトルク外乱を推定した値と、該ミル速度外乱を推定した値とを、前記二つの一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該二つの一次方程式が同時に成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度制御指令を求め、
さらにこれらの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値が、前記ルーパトルク指令値とされる一方、該ミル速度制御指令から前記ミル速度外乱を推定した値を差し引いた値が、前記ミル速度指令値とされて、
求められることを特徴とする請求項1に記載の圧延機のルーパ張力制御方法。
【請求項3】
前記ルーパトルク指令値及びミル速度指令値が、
ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式を設定し、
該二つの一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておき、スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ミル速度偏差、該ミル速度外乱及びルーパトルク外乱を推定して、
該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値と、該圧延材張力偏差を推定した値または該圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値と、該ミル速度偏差を推定した値と、該ミル速度外乱を推定した値とを、前記二つの一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該二つの一次方程式が同時に成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度制御指令を求め、
さらにこれらの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値が、前記ルーパトルク指令値とされる一方、該ミル速度制御指令から前記ミル速度外乱を推定した値を差し引いた値が、前記ミル速度指令値とされて、
求められることを特徴とする請求項1に記載の圧延機のルーパ張力制御方法。
【請求項4】
複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、該スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御方法であって、
ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差との関係を表す一次方程式を設定し、該一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておき、
スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、圧延材張力偏差、及びルーパトルク外乱を推定して、
該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値とを、前記一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該一次方程式が成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令を求め、
さらにこの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値を前記ルーパトルク指令値とすることによるルーパ角度制御方法に、前記圧延材張力偏差を推定した値を0にするためのミル速度制御指令を求め、該ミル速度制御指令を前記ミル速度指令値とすることによる張力制御方法を加えた
ことを特徴とする圧延機のルーパ張力制御方法。
【請求項5】
複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、該スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御装置であって、
ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ルーパトルク偏差にルーパトルク外乱を加えた値との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式を設定し、該二つの一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておく手段と、
スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ルーパトルク偏差、該ミル速度偏差、該ルーパトルク外乱及び該ミル速度外乱を推定する手段と、
該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値と、該圧延材張力偏差を推定した値または該圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値と、該ルーパトルク偏差を推定した値と、該ミル速度偏差を推定した値と、該ルーパトルク外乱を推定した値と、該ミル速度外乱を推定した値とを、前記二つの一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該二つの一次方程式が同時に成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度制御指令とを求める手段と、
さらにこれらの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値を前記ルーパトルク指令値とし、該ミル速度制御指令から前記ミル速度外乱を推定した値を差し引いた値を前記ミル速度指令値とする手段と
から構成されることを特徴とする圧延機のルーパ張力制御装置。
【請求項6】
複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、該スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御装置であって、
ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差と、圧延材張力偏差との関係を表す第一の一次方程式、及びルーパ角度偏差と、圧延材張力偏差と、ミル速度偏差にミル速度外乱を加えた値との関係を表す第二の一次方程式の二つの一次方程式を設定し、該二つの一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておく手段と、
スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、該圧延材張力偏差、該ミル速度偏差、該ミル速度外乱及びルーパトルク外乱を推定する手段と、
該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値と、該圧延材張力偏差を推定した値または該圧延材張力測定値から圧延材張力の目標値を差し引いた値と、該ミル速度偏差を推定した値と、該ミル速度外乱を推定した値とを、前記二つの一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該二つの一次方程式が同時に成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令とミル速度制御指令とを求める手段と、
さらにこれらの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値を前記ルーパトルク指令値とし、該ミル速度制御指令から前記ミル速度外乱を推定した値を差し引いた値を前記ミル速度指令値とする手段と
から構成されることを特徴とする圧延機のルーパ張力制御装置。
【請求項7】
複数のスタンドを有すると共に、少なくとも一つのスタンド間にルーパを有する圧延機において、該スタンド間のルーパ角度及び圧延材張力をルーパトルク及び上流スタンドのミル速度によって制御する圧延機の制御装置であって、
ルーパ角度偏差と、ルーパ角速度偏差との関係を表す一次方程式を設定し、該一次方程式における全ての係数を評価指標に基づいて決定しておく手段と、
スタンド間のルーパ角度と圧延材張力とを測定して得られたルーパ角度測定値と圧延材張力測定値と、実機への制御入力となるルーパトルク指令値及びミル速度指令値とから、該ルーパ角度偏差、該ルーパ角速度偏差、圧延材張力偏差、及びルーパトルク外乱を推定する手段と、
該ルーパ角度偏差を推定した値または該ルーパ角度測定値からルーパ角度の目標値を差し引いた値と、該ルーパ角速度偏差を推定した値とを、前記一次方程式に代入して成立状態を評価した結果に基づいて、該一次方程式が成立するように状態を推移させるためのルーパトルク制御指令を求める手段と、
さらにこの制御指令から外乱をあらかじめ打ち消すように、該ルーパトルク制御指令から前記ルーパトルク外乱を推定した値を差し引いた値を前記ルーパトルク指令値とする手段と、前記圧延材張力偏差を推定した値を0にするためのミル速度制御指令を求め、該ミル速度制御指令を前記ミル速度指令値とする手段と
から構成されることを特徴とする圧延機のルーパ張力制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−20313(P2012−20313A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159965(P2010−159965)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】