説明

圧縮機

【課題】偏心回転式ピストン機構を備えた圧縮機において、ピストンと偏心部との間の摺動損失を増加させることなく、回転軸の軸方向の振動による異音の発生を抑制する。
【解決手段】偏心部(1a,1b)の端面に、各ヘッダ(31,35)の端面と偏心部(1a,1b)の端面との間の油溜まり部(5a,5b)を拡大する凹部(2a,2b)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心回転式ピストン機構を備えた圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、偏心回転式ピストン機構を備えた圧縮機が知られている。この偏心回転式ピストン機構は、該偏心回転式ピストン機構を駆動する回転軸の偏心部に摺動自在に外嵌するピストンと、上記偏心部及びピストンを収容する中空部が形成された環状のシリンダと、該環状のシリンダの中空開口端を軸方向から閉塞する端面が形成されたヘッダ部とを備えている。そして、これらの圧縮機の中には、特許文献1に示すように、上記ヘッダ部の端面と上記偏心部の端面との間に油溜まり部が形成されているものがある。
【0003】
具体的に、従来の偏心回転式ピストン機構部(50)は、図8に示すように、上側から下側に向かって、フロントヘッド(51)、シリンダ(52)、リアヘッド(53)の順で積層され、これらの部材(51,52,53)が、上下方向へ延びる複数のボルト(図示なし)で締結されてなる。これらの部材(51,52,53)を上下に貫通するのが回転軸(54)であり、この回転軸(54)には、シリンダ(52)に回転自在に収容されたピストン(55)が取り付けられている。そして、このピストン(55)とフロントヘッド(51)の間、及びピストン(55)とリアヘッド(53)の間に油溜まり部(56)が形成されている。
【0004】
ここで、上記偏心回転式ピストン機構(50)の駆動中に、上記回転軸(54)が軸方向へ微小に振動することがあり、この振動が上記圧縮機の異音の原因となることがある。この油溜まり部(56)には、貯留された潤滑油が緩衝材となって上記回転軸(54)の振動が緩和され、上記圧縮機の異音を抑制する機能がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−70895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の圧縮機の場合、上記偏心部の外周縁部を切り欠いている。これにより、上記油溜まり部の容積を拡大することができるものの、上記偏心部の外周面と上記ピストンの内周面との間の摺接する部分の長さ(以下、軸受長さという。)が減少する。この軸受長さの減少により、油膜形成に必要な軸受長さが短くなり偏心部とピストンとの間の摺動部の焼付きや摩耗に対する信頼性が悪化してしまうという問題がある。
【0007】
したがって、軸受長さを長くするためにはシリンダ高さを高くする必要がある。しかしながら、シリンダ室の容積を変えずにシリンダ高さを高くしようとすると、ピストン外径を大きくして、シリンダ室の径方向幅(ピストンの外周面とシリンダの内周面との間の距離)を小さくしなければならない。こうすると、ピストンの大きさが大きくなることによる材料増が招くコストアップと、シリンダとピストンの高さ方向隙間が増えるので冷媒圧縮中での漏れによる効率の悪化を招く要因にもなる。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、偏心回転式ピストン機構を備えた圧縮機において、ピストンと偏心部との間の軸受部分の信頼性を悪化させることなく、回転軸の軸方向の振動による異音の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、駆動機構(20)と該駆動機構(20)から延びる回転軸(23)で駆動される圧縮機構(30)とを備え、上記回転軸(23)には、該回転軸(23)の回転中心から偏心した偏心部(1a,1b,1)が形成され、上記圧縮機構(30)は、上記偏心部(1a,1b,1)に摺動自在に外嵌するピストン(40a,40b)と、上記偏心部(1a,1b,1)及び上記ピストン(40a,40b)を収容する中空部が形成された環状のシリンダ(32a,32b)と、該環状のシリンダ(32a,32b)の中空開口端を軸方向から閉塞する端面が形成されたヘッダ部(31,35)とを有する圧縮機を前提としている。
【0010】
そして、この圧縮機おいて、上記ヘッダ部(31,35)の端面と上記偏心部(1a,1b,1)の端面との間には、上記圧縮機構(30)の内部を流れる潤滑油が溜まる油溜まり部(5a,5b,5)が形成される一方、上記偏心部(1a,1b,1)の端面には、上記油溜まり部(5a,5b,5)を拡大する凹部(2a,2b,2)が形成されていることを特徴としている。
【0011】
第1の発明では、上記油溜まり部(5a,5b,5)に溜まった潤滑油が緩衝材となって、上記回転軸(23)における軸方向の振動による異音が緩和される。そして、上記偏心部(1a,1b,1)の端面に凹部(2a,2b,2)を形成することで、上記偏心部の外周面と上記ピストンの内周面との間の軸受長さを変えずに、上記油溜まり部(5a,5b,5)の容積を拡大させることができるようになる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、上記圧縮機構(30)には、上記ヘッダ部(31,35)を軸方向に貫通して上記回転軸(23)を摺動自在に支持する滑り軸受部(4a,4b,4)が形成され、上記回転軸(23)と上記滑り軸受部(4a,4b,4)との間の軸受隙間部(6a,6b)には、上記圧縮機構(30)の潤滑油が流通する一方、上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)は、上記軸受隙間部(6a,6b)に開口する位置に設けられていることを特徴としている。
【0013】
第2の発明では、上記滑り軸受部(4a,4b,4)の軸受隙間部(6a,6b)を流れる潤滑油が、積極的に上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)へ導かれる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記圧縮機構(30)には、上記ヘッダ部(31,35)を軸方向に貫通して上記回転軸(23)を摺動自在に支持する滑り軸受部(4a,4b,4)が形成され、上記回転軸(23)と上記滑り軸受部(4a,4b,4)との間の軸受隙間部(6a,6b)には、上記圧縮機構(30)の潤滑油が流通する一方、上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)は、上記軸受隙間部(6a,6b)の外側に位置し、上記偏心部(1a,1b,1)の端面には、上記凹部(2a,2b,2)と上記軸受隙間部(6a,6b)とを連通する連通溝(8a,8b)が形成されていることを特徴としている。
【0015】
第3の発明では、上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)が、上記滑り軸受部(4a,4b,4)における軸受隙間部(6a,6b)の外側に配置されている。この場合には、この凹部(2a,2b,2)と軸受隙間部(6a,6b)との間に形成された連通溝(8a,8b)を通じて、上記軸受隙間部(6a,6b)の潤滑油を積極的に凹部(2a,2b,2)へ導くことができるようになる。
【0016】
第4の発明は、第1から第3の何れか1つの発明において、上記圧縮機構(30)と上記駆動機構(20)とを収容するケーシング(11)を備え、上記回転軸(23)の中心部には、上記ケーシング(11)の底部に貯留する潤滑油が流通する油流通路(3)が形成され、上記偏心部(1a,1b,1)の内部には、該偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)と上記油流通路(3)とを連通する連通路(9a,9b)が形成されていることを特徴としている。
【0017】
第4の発明では、上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)と上記回転軸(23)の油流通路(3)とを連通する連通路(9a,9b)を通じて、上記油流通路(3)の潤滑油を直接的に凹部(2a,2b,2)へ導くことができるようになる。この油流通路(3)の潤滑油は、上記軸受隙間部(6a,6b)の潤滑油とは違い、上記回転軸(23)と滑り軸受部(4a,4b,4)との摺動部分を流れていない。このため、上記油流通路(3)の潤滑油の温度は、上記軸受隙間部(6a,6b)の潤滑油の温度よりも低い。これにより、比較的に粘度の高い潤滑油を上記凹部(2a,2b,2)へ導くことができるようになる。
【0018】
第5の発明は、第1から第4の何れか1つの発明において、上記ヘッダ部(31,35)の端面には、上記油溜まり部(5a,5b,5)を拡大する凹部(50a,50b)が形成されていることを特徴としている。
【0019】
第5の発明では、上記ヘッダ部(31,35)の端面に凹部(50a,50b)を形成することにより、上記油溜まり部(5a,5b,5)の容積をさらに拡大させることができるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記偏心部(1a,1b,1)の端面に凹部(2a,2b,2)を形成することにより、上記偏心部(1a,1b,1)の外周面と上記ピストン(40a,40b)の内周面との間の軸受長さを変えずに、上記油溜まり部(5a,5b,5)の容積を拡大することができる。これにより、上記回転軸(23)の振動による異音の発生を緩和することができる。又、上述した軸受長さが変化しないので、シリンダ(32a,32b)とピストン(40a,40b)の高さ方向隙間が変化しないので冷媒圧縮中での漏れによる効率の悪化を招くこともない。
【0021】
また、上記第2の発明によれば、上記滑り軸受部(4a,4b,4)の軸受隙間部(6a,6b)を流れる潤滑油を、積極的に上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)へ導くことができ、上記油溜まり部(5a,5b,5)における潤滑油の不足が抑制される。これにより、上記回転軸(23)の振動による異音の発生を確実に緩和することができる。
【0022】
また、上記第3の発明によれば、上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)が軸受隙間部(6a,6b)の外側に位置している場合でも、上記連通溝(8a,8b)を通じて、上記軸受隙間部(6a,6b)の潤滑油を積極的に凹部(2a,2b,2)へ導くことができる。これにより、上記油溜まり部(5a,5b,5)における潤滑油の不足が抑制され、上記回転軸(23)の振動による異音の発生をより一層緩和することができる。
【0023】
また、上記第4の発明によれば、上記連通路(9a,9b)を通じて、上記油流通路(3)の潤滑油を直接的に凹部(2a,2b,2)へ導くことができる。上述したように、上記油流通路(3)の潤滑油は、上記軸受隙間部(6a,6b)の潤滑油に比べて粘度が高いので、この潤滑油の緩衝材としての効果が高まる。これにより、上記回転軸(23)の振動による異音の発生を緩和することができる。
【0024】
また、上記第5の発明によれば、上記ヘッダ部(31,35)の端面に凹部(50a,50b)を形成することにより、上記油溜まり部(5a,5b,5)の容積をさらに拡大させることができる。これにより、上記油溜まり部(5a,5b,5)の潤滑油の量が増え、この潤滑油の緩衝材としての効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る圧縮機のシリンダ部分の横断面図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る油溜まり部付近の概略図である。
【図4】図4は、変形例1の圧縮機に係る油溜まり部付近の概略図である。
【図5】図5は、変形例2の圧縮機に係る油溜まり部付近の概略図である。
【図6】図6は、変形例3の圧縮機の縦断面図である。
【図7】図7は、その他の実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
【図8】図8は、従来の圧縮機の偏心回転式ピストン機構部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。まず、本発明の実施形態に係る圧縮機(10)について説明した後で、この圧縮機(10)における回転軸(23)の上下振動による異音を緩和する緩衝部について説明する。
【0027】
《圧縮機の全体構造》
図1は、本実施形態に係る圧縮機(10)の縦断面図である。この圧縮機(10)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続されるものであり、ケーシング(11)と電動機(20)と偏心回転式ピストン機構部(圧縮機構)(30)とを備えている。
【0028】
〈ケーシング〉
上記ケーシング(11)は、両端を閉塞した縦長円筒状の密閉容器で構成されており、円筒状の胴部(12)と該胴部(12)の上端側を閉塞する上部鏡板(13)と該胴部(12)の下端側を閉塞する下部鏡板(14)とを備えている。上記胴部(12)には、該胴部(12)の下側部分を貫通して第1及び第2のインレットチューブ(15a,15b)が取り付けられている。又、上部鏡板(13)の上側部分を貫通して吐出管(16)が取り付けられている。このケーシング(11)に、上記電動機(20)及び上記偏心回転式ピストン機構部(30)が収容されている。又、下部鏡板(14)の底部には、油溜め部(17)が形成されている。この油溜め部(17)には、上記圧縮機構(30)の摺動部分を潤滑する潤滑油が貯留される。
【0029】
〈電動機〉
上記電動機(20)は、共に円筒状に形成されたステータ(21)及びロータ(22)を備えている。上記ステータ(21)は、上記ケーシング(11)の胴部(12)に固定されている。このステータ(21)の中空部に上記ロータ(22)が配置されている。このロータ(22)の中空部には、該ロータ(22)を貫通するように回転軸(23)が固定されており、ロータ(22)と回転軸(23)が一体で回転するようになっている。
【0030】
〈回転軸〉
この回転軸(23)は、上下に延びる主軸部(24)を有している。この主軸部(24)の下端寄りに上側偏心部(1a)及び下側偏心部(1b)が一体に形成されている。下側偏心部(1b)の上側に上側偏心部(1a)が位置している。これらの偏心部(1a,1b)は、何れも主軸部(24)よりも大径に形成されている。上記上側偏心部(1a)及び下側偏心部(1b)の軸心は主軸部(24)の軸心に対して所定距離だけ偏心しており、上側偏心部(1a)及び下側偏心部(1b)の偏心方向は互いに180度ずれている。又、これらの偏心部(1a,1b)における両端面の外周縁は、全周に亘ってテーパ加工が施されている。
【0031】
上記上側偏心部(1a)の上端面及び上記下側偏心部(1b)の下端面には、それぞれ軸直角断面視で円弧状の凹部(2a,2b)が形成されている。
【0032】
又、上記回転軸(23)の内部には、給油路(油連通路)(3)が形成されている。この給油路(3)の流入端は上記回転軸(23)の下端部に形成された遠心ポンプ(25)に連通している。又、上記給油路(3)は複数の流出端を有している。そして、これらの流出端が上記回転軸(23)の外周面に開口する給油孔を構成する。本実施形態では、上側から下側へ向かって第1から第5の給油孔(7a,7b,7c,7d,7e)が形成されている。
【0033】
上記回転軸(23)の回転に伴って上記遠心ポンプ(25)が作動し、上記ケーシング(11)における油溜め部(17)の潤滑油が給油路(3)へ汲み上げられた後で、第1から第5の給油孔(7a,7b,7c,7d,7e)から流出する。この潤滑油は、上記偏心回転式ピストン機構部(30)の摺動部分へ流れて該摺動部分を潤滑にも利用される。
【0034】
〈偏心回転式ピストン機構部〉
上記偏心回転式ピストン機構部(30)は、図1に示すように、上側から下側に向かって、フロントヘッド(31)、上側シリンダ(32a)、ミドルプレート(33)、下側シリンダ(32b)、及びリアヘッド(35)の順で積層され、これらの部材(31,32a,33,32b,35)が、上下方向へ延びる複数のボルトで締結されてなる。そして、上記回転軸(23)が、これらの部材(31,32a,33,32b,35)を上下に貫通している。
【0035】
−フロントヘッド−
上記フロントヘッド(31)の中心部分には、該フロントヘッド(31)を厚さ方向へ貫通する貫通孔部が形成されている。この貫通孔部の内周面が上記回転軸(23)の主軸部(24)を回転支持する上部軸受部(滑り軸受部)(4a)を構成する。そして、この上部軸受部(4a)の内周面と上記主軸部(24)の外周面との間に上部軸受隙間部(6a)が形成されている。上記回転軸(23)の給油路(3)を通じて上部軸受隙間部(6a)へ潤滑油が供給される。
【0036】
ここで、上記フロントヘッド(31)の下端面開口縁が全周に亘って切り欠かれている。この切欠きによって、上部軸受隙間部(6a)の下端部が拡大している。この拡大部分が上部軸受隙間部(6a)の拡大部(18a)である。
【0037】
又、上記フロントヘッド(31)の中心部分よりも外側に厚さ方向に貫通する上側吐出ポート(46)が形成されている(図2を参照)。この上側吐出ポート(46)は、上記上側シリンダ(32a)の内部に形成される圧縮室(45a)に間欠的に連通する。
【0038】
又、上記フロントヘッド(31)の上面には、上記上側吐出ポート(46)を覆う第1マフラカバー(37a)と、該第1マフラカバー(37a)を覆う第2マフラカバー(37b)とが設けられている。上記第1マフラカバー(37a)には、第1マフラカバー(37a)の第1マフラ空間(38a)と第2マフラカバー(37b)の第2マフラ空間(38b)とを連通する連通孔(図示なし)が設けられている。又、上記第2マフラカバー(37b)には、上記第2マフラ空間(38b)とケーシング(11)の内部空間を連通する連通孔(図示なし)が設けられている。
【0039】
又、上記第2マフラ空間(38b)には、上記リアヘッド(35)の内部に形成された下部吐出室(26)から軸方向へ延びる冷媒貫通路(図示無し)が開口している。この冷媒通路は、上記偏心回転式ピストン機構部(30)を貫通するように形成されている。
【0040】
−リアヘッド−
上記リアヘッド(35)の中心部分には、該リアヘッド(35)を厚さ方向へ貫通する貫通孔部が形成されている。この貫通孔部の内周面が上記回転軸(23)の主軸部(24)を回転支持する下部軸受部(4b)を構成する。そして、この下部軸受部(滑り軸受部)(4b)の内周面と上記主軸部(24)の外周面との間に下部軸受隙間部(6b)が形成されている。上記回転軸(23)の給油路(3)を通じて下部軸受隙間部(6b)へ潤滑油が供給される。
【0041】
ここで、上記リアヘッド(35)の上端面開口部の外縁部が全周に亘って切り欠かれている。この切欠きによって、下部軸受隙間部(6b)における下端部が拡大している。この拡大部分が下部軸受隙間部(6b)の拡大部(18b)である。
【0042】
又、上記リアヘッド(35)の内部には、上記下部軸受部(4b)の外側に下部吐出室(26)が形成されている。又、上記リアヘッド(35)には、上記下部吐出室(26)から延びて該リアヘッド(35)の上端面に開口する下側吐出ポート(図示無し)が形成されている。この下側吐出ポートを介して上記下部吐出室(26)と上記下側シリンダ(32b)の内部に形成された圧縮室(図示無し)とが連通する。
【0043】
−ミドルプレート−
上記ミドルプレート(33)の中心部分には、該フロントヘッド(31)を厚さ方向へ貫通する貫通孔部が形成されている。この貫通部の内側に上記回転軸(23)の主軸部(24)が位置する。
【0044】
−上側シリンダ及び下側シリンダ−
上側シリンダ及び下側シリンダ(32a,32b)は、ほぼ同じ構成であるため、上側シリンダ(32a)について説明し、下側シリンダ(32b)の説明は部分的に省略する。
【0045】
上記上側シリンダ(32a)の中心部分には、該上側シリンダ(32a)を厚さ方向へ貫通する略円形状の貫通孔部が形成されている。この上側シリンダ(32a)の上端開口面がフロントヘッド(31)の下端面で閉塞され、上側シリンダ(32a)の下端開口面がミドルプレート(33)の上端面で閉塞されることで、上側シリンダ(32a)の貫通孔部が上側シリンダ室(39a)となる。この上側シリンダ室(39a)には、上記回転軸(23)の上側偏心部(1a)に摺動自在に外嵌する上側ピストン(40a)が収容されている。
【0046】
尚、上記下側シリンダ(32b)の場合には、下側シリンダ(32b)の上端開口面がミドルプレート(33)の下端面で閉塞され、下側シリンダ(32b)の下端開口面がリアヘッド(35)の上端面で閉塞される。そして、下側シリンダ(32b)のシリンダ室(39b)には、上記回転軸(23)の下側偏心部(1b)に摺動自在に外嵌する下側ピストン(40b)が収容されている。
【0047】
上記上側シリンダ(32a)には、図2に示すように、平面視で一部が上側シリンダ室(39a)に開口するブッシュ溝(42)が形成されている。このブッシュ溝(42)は円形状の溝であり、このブッシュ溝(42)には、後述する上側ピストン(40a)のブレード(41)が位置している。
【0048】
ブッシュ溝(42)には、平面視で半月状に形成された一対のブッシュ(43)が上記低段側ブレード(41)を挟むような状態で内嵌されている。尚、このブッシュ(43)の円弧面は、上記ブッシュ溝(42)の内周面に対して摺接可能であり、上記ブッシュ(43)のフラット面は上記ブレード(41)の側面に対して摺接可能である。
【0049】
又、上記上側シリンダ(32a)には、該上側シリンダ(32a)における内周面と外周面との間を径方向へ貫通する吸入貫通路(44)が形成されている。この吸入貫通路(44)に、上記第1インレットチューブ(15a)の端部が挿入固定されている。
【0050】
尚、上記下側シリンダ(32b)の場合には、該下側シリンダ(32b)の吸入貫通路に、上記第2インレットチューブ(15b)の端部が挿入固定されている。
【0051】
−上側ピストン及び下側ピストン−
上側ピストン(40a)及び下側ピストン(40b)は、同じ構成であるため、上側ピストン(40a)について説明し、下側ピストン(40b)の説明は省略する。
【0052】
上記上側ピストン(40a)は、図2に示すように、該上側ピストン(40a)の厚さ方向へ貫通する貫通孔部が形成されている。この貫通孔部に上記回転軸(23)の上側偏心部(1a)が摺動自在に内嵌している。
【0053】
上記上側ピストン(40a)は、該上側ピストン(40a)の外周面から径方向外方へ突出するブレード(41)を備えている。上述したように、このブレード(41)が、上記一対のブレード(43)の間に進退自在に挟み込まれている。尚、上側ピストン(40a)の外周面は、ブレード(43)の周縁を除いて円筒面で形成されている。
【0054】
そして、このブレード(41)により、上記上側シリンダ室(39a)が圧縮室(45a)及び吸入室(45b)に区画される。この圧縮室(45a)には、上述したように上記フロントヘッド(31)の上側吐出ポート(46)が間欠的に連通する。一方、上記吸入室(45b)には、上記吸入貫通路(44)が間欠的に連通する。
【0055】
尚、上記上側ピストン(40a)の運動は、この上側ピストン(40a)における円筒面の一部とシリンダ(32)における内周面(35)の一部とが、常に実質的に圧接した状態(厳密にはミクロンオーダーの微小な隙間があるが、その微小な隙間での冷媒の漏れが問題にならない状態)で行われている。
【0056】
〈圧縮機の緩衝部〉
図1に示すように、上記偏心回転式ピストン機構部(30)には、上記フロントヘッド(31)の下端面と上記上側偏心部(1a)の上端面との間に上側油溜まり部(5a)が形成されている。又、上記リアヘッド(35)の上端面と上記下側偏心部(1b)の下端面との間に下側油溜まり部(5b)が形成されている。この各油溜まり部(5a,5b)が圧縮機(10)の緩衝部を構成する。この油溜まり部(5a,5b)に溜まった潤滑油により、上記回転軸(23)の上下振動による異音が緩和される。
【0057】
ここで、上述したように、上記各偏心部(1a,1b)には凹部(2a,2b)が形成されている。各凹部(2a,2b)は各油溜まり部(5a)に開口している。これにより、各油溜まり部(5a)の容積が拡大している。
【0058】
図3のA線は、上記回転軸(23)の主軸部(24)の外周縁の輪郭を示している。又、図3のB線は、各軸受隙間部(6a,6b)における拡大部(18a,18b)の外周縁の輪郭を示している。
【0059】
図3に示すように、各凹部(2a,2b)は、上記各軸受隙間部(6a,6b)の拡大部(18a,18b)の一部に開口する位置に設けられている。これにより、各軸受隙間部(6a,6b)を流通する潤滑油が各凹部(2a,2b)へ流入しやすくなっている。
【0060】
−運転動作−
上記圧縮機(10)では、上記電動機(20)の回転軸(23)が回転すると、該回転軸(23)の各偏心部(1a,1b)に取り付けられたピストン(40a,40b)がシリンダ室(39a,39b)内を偏心回転する。これにより、各ピストン(40a,40b)と各シリンダ室(39a,39b)の圧縮室と吸入室の容積が周期的に変動し、吸入室で冷媒の吸入動作、圧縮室で圧縮動作及び吐出動作が連続的に行われる。
【0061】
上記各インレットチューブ(15a,15b)から上記各シリンダ室(39a,39b)の吸入室へ吸入された冷媒は、各シリンダ室(39a,39b)の圧縮室で圧縮された後、各吐出ポートから吐出される。上記上側吐出ポート(46)から吐出された冷媒は、上記第1マフラ空間(38a)へ流入する。一方、上記下側吐出ポート(46)から吐出された冷媒は、上記下部吐出室(26)と上記偏心回転式ピストン機構部(30)の冷媒貫通路を通過した後、上記第2マフラ空間(38b)へ流入する。
【0062】
上記第1マフラ空間(38a)の冷媒は、第1マフラカバー(37a)の連通孔を通じて上記第2マフラ空間(38b)の冷媒と合流した後で、第2マフラカバー(37b)の連通孔を通じて上記ケーシング(11)の内部空間へ流入する。そして、この冷媒は、上記ケーシング(11)の吐出管(16)を通じて該ケーシング(11)の外側へ流出する。
【0063】
又、上記回転軸(23)では、上述したように、上記遠心ポンプ(25)で汲み上げられた潤滑油が給油孔(7a,7b,7c,7d,7e)から流出する。ここで、上記第2給油孔(7b)から流出した潤滑油は、上部軸受部(4a)における上部軸受隙間部(6a)の拡大部(18a)を通過した後、上側油溜まり部(5a)と上側偏心部(1a)の凹部(2a)とに流入する。
【0064】
又、上記第5給油孔(7e)から流出した潤滑油は、下部軸受部(4b)における下部軸受隙間部(6b)の拡大部(18b)を通過した後、下側油溜まり部(5b)と下側偏心部(1b)の凹部(2b)とに流入する。このようにして、各油溜まり部(5a,5b)へ潤滑油が供給される。
【0065】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、上記偏心部(1a,1b)の端面に凹部(2a,2b)を形成することにより、上記偏心部の外周面と上記ピストンの内周面との間の軸受長さを変えずに、上記油溜まり部(5a,5b)の容積を拡大することができる。これにより、上記回転軸(23)の振動による異音の発生を緩和することができる。又、上述した軸受長さが変化しないので、シリンダとピストンの高さ方向隙間が変化しないので冷媒圧縮中での漏れによる効率の悪化を招くこともない。
【0066】
又、本実施形態によれば、上記軸受部(4a,4b)の軸受隙間部(6a,6b)を流れる潤滑油が、積極的に上記偏心部(1a,1b)の凹部(2a,2b)へ導くことができ、上記油溜まり部(5a,5b)における潤滑油の不足が抑制される。これにより、上記回転軸(23)の振動による異音の発生を確実に緩和することができる。
【0067】
−実施形態の変形例1−
図4に示す上記実施形態の変形例1は、上記実施形態とは違い、各偏心部(1a,1b)の端面に連通溝(8a,8b)が形成されている。この連通溝(8a,8b)は、各偏心部(1a,1b)の凹部(2a,2b)と上記軸受隙間部(6a,6b)の拡大部(18a,18b)とを連通している。これにより、上記凹部(2a,2b)が上記軸受隙間部(6a,6b)の外側に配置された場合でも、上記連通溝(8a,8b)を通じて、上記軸受隙間部(6a,6b)の潤滑油を積極的に凹部(2a,2b)へ導くことができる。
【0068】
これにより、上記油溜まり部(5a,5b)における潤滑油の不足が抑制され、上記回転軸(23)の振動による異音の発生をより一層緩和することができる。
【0069】
−実施形態の変形例2−
図5に示す上記実施形態の変形例2は、上記実施形態とは違い、各偏心部(1a,1b)の内部に連通路(9a,9b)が形成されている。この連通路(9a,9b)は、各偏心部(1a,1b)の凹部(2a,2b)と上記回転軸(23)の給油路(3)とを連通している。これにより、上記凹部(2a,2b)が上記軸受隙間部(6a,6b)の外側に配置された場合でも、上記連通路(9a,9b)を通じて、上記給油路(3)の潤滑油を直接的に凹部(2a,2b)へ導くことができる。
【0070】
ここで、上記給油路(3)の潤滑油は、上記軸受隙間部(6a,6b)の潤滑油とは違い、上記ピストン(40a,40b)と滑り軸受部(4a,4b)との摺動部分を流れていない。このため、上記油流通路(3)の潤滑油の温度は、上記軸受隙間部(6a,6b)の潤滑油の温度よりも低い。これにより、比較的に粘度の高い潤滑油を上記凹部(2a,2b)へ導くことで、潤滑油の緩衝材としての効果を高めることができる。この結果、上記回転軸(23)の振動による異音の発生を確実に緩和することができる。
【0071】
−実施形態の変形例3−
図6に示す上記実施形態の変形例3は、上記実施形態とは違い、上記フロントヘッド(31)の下端面及び上記リアヘッド(35)の上端面に、上記油溜まり部(5a,5b)を拡大する凹部(50a,50b)が形成されている。これにより、上記油溜まり部(5a,5b)の容積をさらに拡大させることができ、上記油溜まり部(5a,5b)の潤滑油の量が増え、この潤滑油の緩衝材としての効果を高めることができる。
【0072】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0073】
本実施形態では、上記偏心回転式ピストン機構部(30)が上下に2つのシリンダ(32a,32b)を有していたが、これに限定される必要はなく、図7に示すように、シリンダ(32)が1つのみでもよい。この場合であっても、偏心部(1)の両端面に凹部(2)を形成することにより、油溜まり部(5)の容積を拡大することができる。
【0074】
又、本実施形態では、両方の偏心部(1a,1b)に凹部(2a,2b)が形成されていたが、これに限定される必要はなく、両方の偏心部(1a,1b)の片側のみに凹部(2a,2b)を形成してもよい。
【0075】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明は、偏心回転式ピストン機構を備えた圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0077】
1a,1b 偏心部
2a,2b 凹部
3 給油路(油連通路)
4a,4b 軸受部(滑り軸受部)
5a,5b 油溜まり部
6a,6b 軸受隙間部
10 圧縮機
20 電動機(駆動機構)
23 回転軸
30 偏心回転式ピストン機構(圧縮機構)
31 フロントヘッド
35 リアヘッド
32a,32b シリンダ
40a,40b ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機構(20)と該駆動機構(20)から延びる回転軸(23)で駆動される圧縮機構(30)とを備え、
上記回転軸(23)には、該回転軸(23)の回転中心から偏心した偏心部(1a,1b,1)が形成され、
上記圧縮機構(30)は、上記偏心部(1a,1b,1)に摺動自在に外嵌するピストン(40a,40b)と、上記偏心部(1a,1b,1)及び上記ピストン(40a,40b)を収容する中空部が形成された環状のシリンダ(32a,32b)と、該環状のシリンダ(32a,32b)の中空開口端を軸方向から閉塞する端面が形成されたヘッダ部(31,35)とを有する圧縮機であって、
上記ヘッダ部(31,35)の端面と上記偏心部(1a,1b,1)の端面との間には、上記圧縮機構(30)の内部を流れる潤滑油が溜まる油溜まり部(5a,5b,5)が形成される一方、
上記偏心部(1a,1b,1)の端面には、上記油溜まり部(5a,5b,5)を拡大する凹部(2a,2b,2)が形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記圧縮機構(30)には、上記ヘッダ部(31,35)を軸方向に貫通して上記回転軸(23)を摺動自在に支持する滑り軸受部(4a,4b,4)が形成され、
上記回転軸(23)と上記滑り軸受部(4a,4b,4)との間の軸受隙間部(6a,6b)には、上記圧縮機構(30)の潤滑油が流通する一方、
上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)は、上記軸受隙間部(6a,6b)に開口する位置に設けられていることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記圧縮機構(30)には、上記ヘッダ部(31,35)を軸方向に貫通して上記回転軸(23)を摺動自在に支持する滑り軸受部(4a,4b,4)が形成され、
上記回転軸(23)と上記滑り軸受部(4a,4b,4)との間の軸受隙間部(6a,6b)には、上記圧縮機構(30)の潤滑油が流通する一方、
上記偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)は、上記軸受隙間部(6a,6b)の外側に位置し、
上記偏心部(1a,1b,1)の端面には、上記凹部(2a,2b,2)と上記軸受隙間部(6a,6b)とを連通する連通溝(8a,8b)が形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1つにおいて、
上記圧縮機構(30)と上記駆動機構(20)とを収容するケーシング(11)を備え、
上記回転軸(23)の中心部には、上記ケーシング(11)の底部に貯留する潤滑油が流通する油流通路(3)が形成され、
上記偏心部(1a,1b,1)の内部には、該偏心部(1a,1b,1)の凹部(2a,2b,2)と上記油流通路(3)とを連通する連通路(9a,9b)が形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1つにおいて、
上記ヘッダ部(31,35)の端面には、上記油溜まり部(5a,5b,5)を拡大する凹部(50a,50b)が形成されていることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72362(P2013−72362A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212131(P2011−212131)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】