説明

圧造球体の成形方法及び玉軸受用鋼球の製造方法

【課題】圧造球体に残存したバリを除去する成形方法において、騒音の低減、スラッジレス化等を図ることである。
【解決手段】
圧造された球体15のバリを除去する成形方法において、従来の粗研削による方法に替えて、旋盤の主軸11に設けた冶具13、14等で球体15を把持しその外周面に球面旋削を施す方法を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧造された球体に残存するバリの除去等を行う成形方法及びその成形方法を利用した玉軸受用鋼球の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
玉軸受用鋼球の従来の製造方法は、鋼線材、棒材等の素材を所定長さに切断し、切断された素材を圧造によって球体に加工したのち、圧造時に生じた鍔状のバリ(余肉)を除去する成形を施し、その後、熱処理、研磨処理等を順次実施することにより行われていた。
【0003】
バリを除去する従来の成形方法は、回転盤と固定盤の対向面に多条の環状溝が形成されたフラッシングマシンを用い、圧造によって加工された球体を加圧しつつ環状溝を転動させ、繰り返し通すことによりバリを取り除く粗研削加工、いわゆるフラッシングによるものであった(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
前記のフラッシングにより、バリが除去されるほか、素材長さ方向の両端部の成形痕(いわゆる極)も解消され、球形状成形が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−13959号公報(「従来技術」、図13)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】株式会社天辻鋼球製作所ホームページ www.aksball.co.jp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の鋼球製造方法は、フラッシング時に球体の加圧転動に伴う大きな騒音が発生するとともに、削り取られた微細な金属粉が水溶性クーラントに混入することによって多量のスラッジが発生し、作業環境を悪化させる問題があった。さらに、スラッジの処理性の悪さ、異なる球体サイズへの変更時の段取り性の悪さ、設備の巨大化、設備保全の悪さ等の問題があり、全体として加工コストが高く、リードタイムの短縮化が困難である等の解決すべき課題があった。
【0008】
そこで、この発明は、圧造によって加工された球体一般について、フラッシングによる場合の前記の問題を解決し、併せて玉軸受用鋼球の製造方法の改善を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、この発明においては、球体の圧造時に生じたバリの除去等を行う成形方法において、従来の粗研削加工によるフラッシングに替えて、旋削加工による方法を採用してバリ除去等の成形を行うこととしたものである。
【0010】
具体的には、工作機主軸と心押し台、又は対向する二つの工作機主軸にそれぞれ同心状態に取り付けられた一対の冶具を用いて加工対象となる球体の中心Oにおける直角座標軸X、Y、ZのX軸上を対向状に挟持し、前記X軸を回転中心としてY軸を含む面に球面旋削を施したのち、前記球体をZ軸の周りに90度回転させる第一工程を実施し、その後前記Y軸上を前記と同様の一対の冶具を用いて挟持し、前記X軸を含む未加工面に球面旋削を施す第二工程を実施するものである。
【0011】
なお、前記第一工程における球体をZ軸の周りに90度回転させる操作は、第二工程に含めることができる。
【0012】
その他の具体的な成形方法として、工作機の主軸取り付けられたチャックを用いて前記球体の中心Oにおける直角座標軸X、Y、ZのX軸が前記主軸と同軸状態、かつ、前記Y軸よりも主軸側に片寄った位置において該球体を片持ち式に把持し、前記X軸を回転中心としてこれとY軸を含む面に球面旋削を施したのち、前記球体をZ軸の周りに180度回転させる第一工程を実施し、その後工作機の主軸に取り付けられたチャックを用いて前記Y軸上を把持し、前記X軸を含む未加工面に球面旋削を施す第二工程を実施するものである。
【0013】
なお、この場合も球体をZ軸の周りに180度回転させる操作を第二工程に含めることができる。
【0014】
前記のいずれの成形方法による場合も、圧造された球体に残存するバリや極が第一工程及び第二工程の旋削加工によって除去され、同時に球体の全周にわたり球形状成形が施される。
【0015】
また、前記の課題を解決するための玉軸受用鋼球の製造方法は、鋼線材、棒材等の素材を所定長さに切断する切断工程、切断された素材を圧造により球体に加工する圧造工程、圧造された球体のバリの除去等を行う成形工程、熱処理行程及び研磨工程を含む玉軸受用鋼球の製造方法において、前記成形工程を前述した旋削加工による成形方法により行うこととしたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の圧造球体の成形方法及びその方法を利用した玉軸受用鋼球の製造方法によると以下の効果を奏することができる。
【0017】
1)成形工程において発生する球体の旋削加工による騒音は、従来のフラッシングによるものに比べ大幅に低減する。また旋削加工によって発生する切粉は、従来のフラッシングによって発生する粉末よりは大きいのでスラッジ化することがなく、騒音の低減とあいまって作業環境が改善される。
2)旋削加工によって発生する切粉は、球体素材と同じ成分であるため、回収して再利用することができ、加工コストの削減に資することができる。
3)異なるサイズの加工を行う場合は、原則として工具の交換は不要であり、キャッチング冶具及び工作機のプログラムの交換のみで対応することができる。
4)汎用のNC旋盤で実施可能であり、設備の省スペース化、保全性の改善を図ることができる。
5)従来のフラッシングによる成形方法はバッチ処理であったのに対し、この発明の成形方法によると、圧造球体の約半周を旋削加工する工程と、残りの部分を旋削加工する工程の二工程の連続処理となるので、1個当たりの加工時間を大幅に改善することができる。
6)旋削加工は研削加工に比べ除去効率が高いため、総リードタイムの短縮、加工コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態のブロック図
【図2】(a)〜(d) 第一実施形態の工程説明図
【図3】(a)〜(d) 第二実施形態の工程説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に基づきこの発明の実施形態を玉軸受用鋼球の製造方法について説明する。図1のブロック図に示したように、玉軸受用鋼球の製造工程は、鋼線、棒材等の素材を所定長さに切断する切断工程1、切断された素材を圧造により球体に加工する圧造工程2、圧造された球体にバリ除去等の加工を施す成形工程3、熱処理行程4、精研磨・ラッピング等の研磨工程5、洗浄工程6等からなる点で、基本的には従来の工程と同様である。
【0020】
この発明は、前記の成形工程3を旋削加工による成形方法により行うところに特徴がある。その成形方法は、図2に示した成形方法(第一実施形態)と、図3に示した成形方法(第二実施形態)がある。以下、順に説明する。
【0021】
[第一実施形態]
第一実施形態の成形方法は、図2(a)、(b)に示した第一工程、同(c)、(d)に示した第二工程を順に実施するものである。第一工程は、図2(a)に示したように、NC旋盤等の工作機の主軸11と心押し台12にそれぞれ同心状態に冶具13、14が取り付けられる。各冶具13、14は、圧造された球体15の中心Oで直交する直角座標のX軸上の対向位置にあって、対向した推力を付与することにより球体15を両側から挟持する。図において、球体15に施した梨地部分は未加工部分を示している。
【0022】
球体15のX軸は、主軸11、心押し台12の中心線と一致し、各冶具13、14は、X軸の周りにおいて、角度θ(図示の場合90度)の中心角の範囲に押し当てられる。
【0023】
前記の状態で主軸11を回転させ、外径旋削工具(バイト)により符号18で示した加工部位に球面旋削加工を施す。これにより図2(b)に示したように、X軸方向の両端部の未加工部分を残し、中間部分が加工済みとなった球体15が得られる。前記の球体15を適宜の手段によってZ軸の周りに90度回転させる(図2(b)の矢印A参照)。
【0024】
第二工程においては、前記のように90度回転した球体15をY軸上で冶具13、14によって挟持する(図2(c)参照)。各冶具13、14が球体15に押し当てられる範囲は、前記と同様に角度θ(90度)の中心角をもった加工済みの部分である。
【0025】
前記の状態で主軸11をX軸上で回転させ、外径旋削工具(バイト)で符号18示した加工部位に球面旋削加工を施す。これにより、バリの除去及び球形状成形が行われる(図2(d)参照)。
【0026】
前記の説明では、一方の冶具14を心押し台12に取り付けるようにしているが、対向2スピンドル旋盤を用い、対向する両方の主軸に冶具13、14を取り付けた構成を採ることもできる。
【0027】
冶具13、14の中心角θを球体15の把持の安定を損なわない範囲で90度以下に設定される場合がある。この場合は加工部位18が広くなるので、第一工程と第二工程の加工部位18がオーバラップすることがある。
なお、球体15を90度回転させる操作を第二工程に含ませることができる。
【0028】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態の旋削加工方法を図3に基づいて説明する。この実施形態の場合は、工作機の主軸11にチャック21が取り付けられる。チャック21は半径方向に移動可能に設けられた親爪22を有し、その親爪22の内径側端部に子爪23が取り付けられる。子爪23には、中心方向に突き出したスパイク24が設けられる。
【0029】
第一工程においては、図3(a)に示したように、前記のチャック21を用いて球体15の中心Oにおける直角座標軸X、Y,ZのX軸が前記主軸11と同軸状態、かつ、前記Y軸よりも主軸11側に片寄った位置(主軸11側から見てY軸より手前の位置)において該球体15を片持ち式に把持する。
【0030】
このような位置を半径方向の力で片持ちすることは不安定になりがちであるが、子爪23のスパイク24を喰い込ませて把持することにより、安定よく把持することができる。
【0031】
前記の状態で主軸11を回転させ、外径旋削工具(バイト)により符号18で示す加工部位に球面旋削加工を施す。この場合の加工部位18は、Y軸を含む半球強の範囲となる。この加工により、図3(b)に示したように、半球体強の部分が加工され、残りの部分が未加工のまま残された球体15が得られる。前記の球体15を適宜の手段によってZ軸の周りに180度回転させる(図3(b)の矢印B参照)。
【0032】
第二工程においては、前記のように180度回転させた球体15を別のチャック21aを用いて把持する(図3(c)参照)。このときの把持位置は、加工済み部分の範囲内にあるY軸上に設定され、スパイク24がなくても子爪23だけで安定よく把持することができるので、第一工程の場合とは異なったチャック構造のチャック21aを用いる。
【0033】
前記の状態で主軸11をX軸上で回転させ、外径旋削工具(バイト)により符号18で示した加工部位に球面旋削加工を施す。この場合の加工範囲は、X軸を含む半球弱の未加工部分である。これにより、球体15の全体のバリの除去及び球形状が成形される(図3(d)参照)。
【0034】
前記の第一工程において行った球体15の180度の回転操作を後の第二工程に含ませてもよい。
【0035】
前記の第一工程においてスパイク24を喰い込ませて球体15を把持した場合、スパイク24の痕跡が球体15に残ることがあるが、その痕跡は、第二工程の旋削加工によって削り取られるので、支障を来すことはない。
【符号の説明】
【0036】
11 主軸
12 心押し台
13、14 冶具
15 球体
18 加工部位
21、21a チャック
22 親爪
23 子爪
24 スパイク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧造された球体のバリの除去を旋削加工によって行うことを特徴とする圧造球体の成形方法。
【請求項2】
前記のバリの除去と同時に球形状成形を行う請求項1に記載の圧造球体の成形方法。
【請求項3】
前記旋削加工は、工作機主軸と心押し台、又は対向する二つの工作機主軸にそれぞれ同心状態に取り付けられた一対の冶具を用いて前記球体の中心Oにおける直角座標軸X、Y、ZのX軸上を対向状に挟持し、前記X軸を回転中心としてY軸を含む面に球面旋削を施したのち、前記球体をZ軸の周りに90度回転させる第一工程を実施し、その後前記Y軸上を前記と同様の一対の冶具を用いて挟持し、前記X軸を含む未加工面に球面旋削を施す第二工程を実施する請求項1又は2に記載の圧造球体の成形方法。
【請求項4】
前記各冶具は、前記球体の中心角が90度以下の範囲をそれぞれ挟持する請求項3に記載の圧造球体の成形方法。
【請求項5】
前記第一工程と第二工程を実施する工作機が同一であるか又は別であるかのいずれかであることを特徴とする請求項3又は4に記載の圧造球体の成形方法。
【請求項6】
前記旋削加工は、工作機の主軸取り付けられたチャックを用いて前記球体の中心Oにおける直角座標軸X、Y、ZのX軸が前記主軸と同軸状態、かつ、前記Y軸よりも主軸側に片寄った位置において該球体を片持ち式に把持し、前記X軸を回転中心としてこれとY軸を含む面に球面旋削を施したのち、前記球体をZ軸の周りに180度回転させる第一工程を実施したのち、工作機の主軸に取り付けられたチャックを用いて前記Y軸上を把持し、前記X軸を含む未加工面に球面旋削を施す第二工程を実施する圧造球体の成形方法。
【請求項7】
前記第一工程における旋削加工部位が球体の半球強の範囲であり、第二工程における旋削加工部位が残余の範囲である請求項6に記載の圧造球体の成形方法。
【請求項8】
前記第一工程を実行する場合のチャックは、親爪とその親爪に設けられた子爪を有し、該子爪に前記球体を把持するスパイクが設けられた請求項6又は7に記載の圧造球体の成形方法。
【請求項9】
前記のスパイクによって把持したことにより球体に生じた痕跡を第二工程の旋削加工時に旋削除去する請求項8に記載の圧造球体の成形方法。
【請求項10】
前記第一工程と第二工程を実施する工作機及びチャックが別である請求項6から9のいずれかに記載の圧造球体の成形方法。
【請求項11】
鋼線材、棒材等の素材を所定長さに切断する切断工程、切断された素材を圧造により球体に加工する圧造工程、圧造された球体のバリの除去等を行う成形工程、熱処理行程及び研磨工程を含む玉軸受用鋼球の製造方法において、前記成形工程が、請求項1から10のいずれかに記載の圧造球体の成形方法により行われる玉軸受用鋼球の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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