説明

圧電デバイスおよびこれを備える圧電スイッチ

【課題】 外力により圧電素子内部に生じる引張り応力を緩和することにより、圧電素子表面に亀裂が発生するのを防止し、さらに反りが生じ難い圧電デバイスおよびこれを用いた圧電スイッチを提供する。
【解決手段】 厚み方向を分極方向とする板状の圧電体および前記圧電体の両主面に設けられた一対の電極を有する板状の圧電素子と、前記圧電素子の両主面に固着され、弾性を有する一対の導電性部材と、を備え、外力を加えられたとき、前記圧電体が歪むことにより発電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に弾性を有する導電性部材が固着された圧電デバイスおよびこれを備える圧電スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧電素子を励振し、自由振動させて発電を行なう発電機(たとえば、特許文献1参照)や、このような発電機を用いて構成されたスイッチング回路(たとえば、特許文献2参照)が存在する。上記の発電機は、金属板に分極処理した薄板状の圧電体を接合したものを屈曲させることで、圧電体を伸縮させ、圧電横効果により電圧を発生させる。そのため、板状の圧電素子のどちらか一面が金属板により拘束される必要がある。具体的な構成としては、両面に電極が設けられた板状の圧電素子を金属板の片面に固着したユニモルフ型や、同様の圧電素子を金属板の両面に固着したバイモルフ型の発電機が利用されている。圧電素子と金属板との接合は、通常加熱した状態で熱硬化性樹脂により行なわれる。そのため、金属板の材料としては、熱膨張率が低く圧電素子と同程度のものがしばしば用いられる。
【0003】
一方、上記の発電機と同様の構成で逆圧電効果を利用した圧電アクチュエータが知られている。このような圧電アクチュエータには、圧電体より熱膨張係数の大きい基板上に圧電体を形成し、圧電体内部の引張り応力を緩和したものがある(たとえば、特許文献3参照)。この圧電アクチュエータは、上記の構成をとることにより、圧電体薄膜の機械的強度を保持し、引っ張り応力による亀裂や膜破壊を防止している。
【特許文献1】特開2003−7491号公報
【特許文献2】特開平7−49388号公報
【特許文献3】特開2004−146640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような圧電素子は、圧電素子が伸びた状態では内部に発生する引張り応力により圧電素子の表面に亀裂が入り易い。外力の衝撃や外力により圧電素子を金属板とともに屈曲させると、屈曲した金属板の曲率中心側に圧電素子があるときは圧電素子には圧縮応力が生じ、屈曲した金属板の曲率中心とは逆側に圧電素子があるときは圧電素子には引張り応力が生じる。特に、発電機はコントロールできない外力を受けるため、引張り強度を超えた応力を受け易い。また、このような圧電素子の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されると、発電に寄与する素子表面の面積が極端に小さくなり十分な電力が得られなくなる。
【0005】
一方、上記の特許文献3の圧電アクチュエータは、熱膨張係数の大きい金属板上に圧電体を形成しており、引張り応力に対する耐久性は向上する。しかしながら、一枚の金属板に一枚の板状の圧電体を加熱して接合しているため、室温に冷却されたときには金属板の縮みが圧電体のものより大きく、圧電アクチュエータに反りが発生しやすい。
【0006】
本発明は、外力により圧電素子内部に生じる引張り応力を緩和することにより、圧電素子表面に亀裂が発生するのを防止し、さらに反りが生じ難い圧電デバイスおよびこれを用いた圧電スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係る圧電デバイスは、厚み方向を分極方向とする板状の圧電体および前記圧電体の両主面に設けられた一対の電極を有する板状の圧電素子と、前記圧電素子の両主面に固着され、弾性を有する一対の導電性部材と、を備え、外力を加えられたとき、前記圧電体が歪むことにより発電することを特徴としている。
【0008】
このように、本発明の圧電デバイスは、圧電素子の両主面に弾性を有する一対の導電性部材が固着されている。これにより、圧電素子が外力の衝撃や外力により極端に歪むことがないため、応力により圧電素子の表面に亀裂が入るのを防止することができる。また、圧電素子の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、特性を劣化させることなく十分な電力を得ることができる。また、二枚の導電性部材で一枚の板状の圧電体を挟む構成であるため、圧電素子の反りを防止することができる。
【0009】
また、圧電デバイスは、前記一対の導電性部材の弾性率が、前記圧電素子の弾性率より大きいことが好適である。これにより、圧電素子が導電性部材の動きに追随し易くすることができる。
【0010】
また、圧電デバイスは、前記圧電素子が、両主面を固着された前記一対の導電性部材により両主面に平行な方向に圧縮されて保持されていることが好適である。これにより、あらかじめ圧縮応力を圧電素子に与えて、外力により生じる引張り応力を緩和することができる。その結果、引張り応力により圧電素子の表面に亀裂が入るのを防止することができる。
【0011】
また、圧電デバイスは、前記一対の導電性部材の熱膨張率が、前記圧電素子の熱膨張率より大きいことが好適である。これにより、圧電素子との接着工程後に冷却された導電性部材が収縮し、両主面に平行な方向に圧電素子を圧縮して保持することができる。
【0012】
また、圧電デバイスは、前記圧電素子の一方の電極に固着される導電性部材の材質および形状は、他方の電極に固着される導電性部材の材質および形状と同一であることが好適である。これにより、圧電デバイスは、圧電素子を基準として対称的な構造をとることになるため、均等に圧縮応力が働き反りの発生をさらに防ぐことができる。また、圧電素子および導電性部材を自由振動させたとき、品質係数Qが大きくなり、エネルギーの変換効率を向上させることができる。
【0013】
また、圧電デバイスは、前記圧電素子は、矩形の板状であり、前記一対の導電性部材は、前記圧電素子より長手方向の一方に長い矩形の板状であって、前記圧電素子から長手方向の一方に突出し、前記導電性部材の、前記圧電素子から長手方向の一方に突出する一対の端部を支持し固定する固定部をさらに備え、前記固定部は、前記導電性部材の、前記圧電素子から長手方向の一方に突出する一対の端部の間に、絶縁体が設けられていることが好適である。
【0014】
これにより、一対の導電性部材の固定端の間に圧電素子が設けられている場合よりエネルギー損失を少なくすることができる。また、固定部において導電性部材をそのまま取り出し電極として、用いることができる。
【0015】
また、圧電デバイスは、前記圧電素子は、前記圧電体が前記一対の電極より長手方向の一方に長い矩形の板状であり、前記導電性部材の、前記圧電体に固着されている一対の端部を支持し固定する固定部をさらに備えることが好適である。
【0016】
これにより、一対の導電性部材の固定端の間に圧電素子が設けられている場合よりエネルギー損失を少なくすることができる。電極を設けない部分については、圧電体は分極処理がなされない。さらに、圧電体に導電性部材を直接固着した場合には接触が悪いため、逆圧電効果による損失は生じない。また、固定部において導電性部材をそのまま取り出し電極として、用いることができる。また、電極を印刷する面積を調整するだけで、簡易に作製することができ、手間やコストを削減できる。
【0017】
また、本発明に係る圧電デバイスは、弾性を有し、板状に形成された中央の導電性部材と、前記中央の導電性部材の一方の主面に固着され、厚み方向を分極方向とし、板状に形成された第1の圧電体および前記第1の圧電体の両主面に設けられた一対の電極を有し、板状に形成された第1の圧電素子と、前記中央の導電性部材の他方の主面に固着され、厚み方向を分極方向とし、板状に形成された第2の圧電体および前記第2の圧電体の両主面に設けられた一対の電極を有し、板状に形成された第2の圧電素子と、前記第1の圧電素子の、前記中央の導電性部材側とは逆側の主面に固着され、弾性を有する第1の導電性部材と、前記第2の圧電素子の、前記中央の導電性部材側とは逆側の主面に固着され、弾性を有する第2の導電性部材と、を備え、外力を加えられたとき、前記第1の圧電体および前記第2の圧電体が歪むことにより発電することを特徴としている。
【0018】
このように、本発明の圧電デバイスは、第1の圧電素子および第2の圧電素子のそれぞれの外側に弾性を有する導電性部材が設けられている。これにより、圧電素子が外力の衝撃や外力により極端に歪むことがないため、応力により圧電素子の表面に亀裂が入るのを防止することができる。また、圧電素子の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、特性を劣化させることなく十分な電力を得ることができる。また、導電性部材で板状の圧電体を挟む構成であるため、圧電素子の反りを防止することができる。また、圧電素子を2枚用いているため、薄くても大きい電圧を得ることができる。
【0019】
また、本発明の圧電スイッチは、上記の圧電デバイスと、前記圧電デバイスの前記圧電素子および前記導電性部材に外力を伝達し屈曲させる外力伝達部と、外力を伝達され振動する前記圧電素子により発生した電圧を前記一対の導電性部材から取り出し、電気信号に変換する信号発生回路と、を備えることを特徴としている。
【0020】
これにより、外力の衝撃や外力により、圧電素子が極端に歪むことがなく、圧電素子の表面に亀裂が入り圧電スイッチが破壊されるのを防止することができる。また、圧電素子の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、スイッチとしての十分な電気信号を得ることができる。また、二枚の導電性部材で一枚の板状の圧電体を挟む構成であるため、圧電素子の反りを防止し、製造しやすく壊れ難い圧電スイッチを実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る圧電デバイスによれば、外力の衝撃や外力により、極端に歪むことがないため、圧電素子が応力により圧電素子の表面に亀裂が入るのを防止することができる。また、圧電素子の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、特性を劣化させることなく十分な電力を得ることができる。また、二枚の導電性部材で一枚の板状の圧電体を挟む構成であるため、圧電素子の反りを防止することができる。
【0022】
また、本発明に係る圧電デバイスによれば、その両主面に固着された導電性部材から圧電素子に圧縮応力を与えることができる。すなわち、圧電素子を導電性部材により両主面に平行な方向に圧縮して保持させることができる。また、圧電素子が導電性部材の動きに追随し易くすることができる。
【0023】
また、本発明に係る圧電デバイスによれば、あらかじめ圧縮応力を圧電素子に与えて、外力により圧電素子内部に生じる引張り応力を緩和することができる。その結果、圧電素子内部に発生する引張り応力により圧電素子の表面に亀裂が入るのを防止することができる。
【0024】
また、本発明に係る圧電デバイスによれば、圧電素子との接着工程後に冷却された導電性部材が収縮し、両主面に平行な方向に圧電素子を圧縮して保持することができる。
【0025】
また、本発明に係る圧電デバイスによれば、圧電デバイスは、圧電素子を基準として対称的な構造をとることになるため、均等に圧縮応力が働き反りの発生をさらに防ぐことができる。また、圧電素子および導電性部材を自由振動させたとき、品質係数Qが大きくなり、エネルギーの変換効率を向上させることができる。
【0026】
また、本発明に係る圧電デバイスによれば、一対の導電性部材の固定端の間に圧電素子が設けられている場合よりエネルギー損失を少なくすることができる。また、固定部において導電性部材をそのまま取り出し電極として、用いることができる。
【0027】
また、本発明に係る圧電デバイスによれば、一対の導電性部材の固定端の間に圧電素子が設けられている場合よりエネルギー損失を少なくすることができる。電極を設けない部分については、圧電体は分極処理がなされない。さらに、圧電体に導電性部材を直接固着した場合には接触が悪いため、逆圧電効果による損失は生じない。また、固定部において導電性部材をそのまま取り出し電極として、用いることができる。また、電極を印刷する面積を調整するだけで、簡易に作製することができ、手間やコストを削減することができる。
【0028】
また、本発明に係る圧電デバイスによれば、圧電素子が外力の衝撃や外力により極端に歪むことがないため、応力により圧電素子の表面に亀裂が入るのを防止することができる。また、圧電素子の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、特性を劣化させることなく十分な電力を得ることができる。また、導電性部材で板状の圧電体を挟む構成であるため、圧電素子の反りを防止することができる。また、圧電素子を2枚用いているため、薄くても大きい電圧を得ることができる。
【0029】
また、本発明に係る圧電スイッチによれば、外力の衝撃や外力により、圧電素子が極端に歪むことがないため、圧電素子の表面に亀裂が入り圧電スイッチが破壊されるのを防止することができる。また、圧電素子の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、スイッチとしての十分な電気信号を得ることができる。また、二枚の導電性部材で一枚の板状の圧電体を挟む構成であるため、圧電素子の反りを防止し、製造しやすく壊れ難い圧電スイッチを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0031】
(実施形態1)
図1は、圧電デバイス1の断面図である。図1に示すように、圧電デバイス1は、圧電体2および電極3を含む圧電素子4、金属板6ならびに固定部10により構成されている。圧電体2の材料は、たとえばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系の圧電セラミックスである。PZT以外の材料であっても、圧電体であれば特に一定の材料に限られない。圧電体2は、矩形の板状であり、図1に示す矢印Pの方向に分極している。ただし、圧電体2の形状は矩形の板状に限られるものではない。
【0032】
電極3の材料は、銀、パラジウム、銅等の導体である。電極3は、圧電体2の両主面に薄く焼き付けられており、圧電体2および電極3により板状の圧電素子4が形成されている。主面とは、板状体の面のうち厚み方向に対向する最も広い面をいう。なお、電極を圧電体の両主面に薄く形成する方法は、印刷焼付けの他、溶射またはスパッタリング等であってもよい。電極は薄く形成されるため、圧電素子全体の弾性率または熱膨張率について、与える影響は無視することができるほど小さい。すなわち、圧電素子の弾性率または熱膨張率は、圧電体の弾性率または熱膨張率とほぼ同一である。
【0033】
圧電素子4の両主面には、導電性部材としての一対の金属板6が固着されている。これにより、外力の衝撃や外力に起因して圧電素子4を金属板6とともに屈曲させても、極端に歪むことがなく、応力により圧電素子4の表面に亀裂が入るのを防止することができる。また、圧電素子4の表面に亀裂が入り、電極3が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、特性を劣化させることなく十分な電力を得ることができる。また、二枚の金属板6で一枚の板状の圧電体2を挟む構成であるため、圧電素子4に反りが発生し難くすることができる
金属板6の材料は、圧電素子4より弾性率および熱膨張率の大きい金属、すなわちSUS、リン青銅、チタン、ステンレス、銅等のバネ材であることが好ましい。金属板6は加熱した状態で圧電素子4に接着され室温に冷却されて用いられる。冷却により、金属板6は収縮し圧電素子4を両主面に平行な方向に圧縮して保持する。そのため、両主面に固着された金属板6から圧電素子4に圧縮応力を与えることができる。すなわち、圧電素子4を金属板6により両主面に平行な方向に圧縮することができる。その結果、圧電素子4を振動させたときに生じる引張り応力を緩和させることができる。また、圧電素子4を金属板6の動きに追随させ易くすることができる。
【0034】
なお、金属板6の材料は、これ以外にも導電性セラミックスを導電性樹脂に混入したものや、カーボン繊維の入った樹脂等の導電性のある弾性体であってもよい。一対の金属板6は、両方とも同一の材料により同一形状に形成されていることが好ましい。これにより、圧電デバイス1は、圧電素子4を基準に対称的な構造をとることになるため、均等に圧縮応力が働き反りの発生をさらに防ぐことができる。また、圧電素子4および金属板6を自由振動させたとき、品質係数Qが大きくなり、エネルギーの変換効率を向上させることができる。
【0035】
圧電素子4と金属板6との固着は、熱硬化性樹脂等の接着剤により行なわれている。図1の断面図において示されているように、一対の金属板6で圧電素子4を挟むように積層されて板状体が形成されている。圧電デバイス1が常温で使用されるものである場合には、圧電素子4が常温において主面に平行な方向に圧縮応力を受けるように、金属板6が圧電素子4に固着されている。これにより、あらかじめ圧縮応力を圧電素子4に与えて、外力により圧電素子内部に生じる引張り応力を緩和することができる。その結果、圧電素子4の内部に発生する引張り応力により圧電素子4の表面に亀裂が入るのを防止することができる。
【0036】
結局、圧電デバイス1の使用時に圧電素子4が主面に平行な方向に圧縮応力を受けていれば、引張り応力を緩和する効果を発揮できる。したがって、常温より低い温度で使用する場合には、常温で硬化する接着剤を用いて、常温で圧電素子4に金属板6を固着した圧電デバイス1であってもよい。また、接着剤は導電性のものであってもよい。
【0037】
この板状体は、固定部10によりその一端が固定されており、圧電デバイス1は片持ち梁の構成をとっている。固定部10は、上記板状体の一端を、その両主面側から物理的に締め付けることで固定している。また、固定方法として、接着剤を用いてもよい。
【0038】
圧電デバイス1の作製方法の一例を以下に示す。ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系の圧電体2を一般的な圧電セラミックスの作製方法により作製する。この圧電体2の両主面に電極をスクリーン印刷して焼付けることにより、板状の圧電素子4を得る。図2(a)に示すように、圧電素子4の両主面に一対の金属板6を、エポキシ樹脂を介して接着し、圧電素子4および金属板6を圧着しながら加熱する。エポキシ樹脂が硬化するのに十分な程度に加熱したら、室温まで冷却する。このとき、金属板6の方が圧電素子4よりも熱膨張率が大きいため、図2(b)に示すように冷却された金属板6の収縮により、図中のAおよびBの方向に圧電素子4は圧縮応力を受ける。したがって、室温においては外力を受けない限り、圧電素子4は常に圧縮応力を受けている状態にある。次に圧電素子4を分極処理する。分極処理は、たとえばキュリー温度以上の油の中で行なう。最後に圧電素子4および金属板6により構成される板状体の一端を固定部10に固定することにより、圧電デバイス1が作製される。
【0039】
次に圧電デバイス1の動作を説明する。圧電デバイスは、以下に説明するように外力が与えられると圧電素子が歪み発電する。
【0040】
まず、図3に示すように、圧電デバイス1の片持ち梁の自由端にC向きの外力を加える。これにより、圧電素子4および金属板6を有する板状体は屈曲する。このとき、圧電体2も金属板6および電極3とともに屈曲する。そして、図4に示すように外力から解放された片持ち梁は、反対側に振れその後自由振動する。圧電体2は金属板6の屈曲に追従して屈曲の振動をする。自由端が一方に振れたときには分極方向と逆方向の電圧が生じ、他方に振れたときには分極方向と同方向の電圧が生じる。
【0041】
図3に示すC向きの外力が加えられると、圧電デバイスの下側(曲率中心側)の電極に対し、圧電デバイスの上側(外周側)が伸長する方向に変位するため、上側の電極の電位は、下側の電極よりも低くなる。すなわち、分極方向とは逆方向の電界が生じる。図4に示す状態では、圧電デバイスの下側(外周側)の電極に対して、圧電デバイスの上側(曲率中心側)が収縮する方向に変位するため、上側の電極の電位は、下側の電極より高くなる。すなわち、分極方向と同方向の電界が生じる。
【0042】
なお、圧電デバイス1は、従来の発電用圧電デバイスに比べて、圧電体2が金属板6により保護されているため、亀裂は生じ難いが、図5に示すような亀裂20が生じる場合もありうる。従来の発電用圧電デバイスでは、亀裂が生じるとそこから先の電極と取り出し電極との導通がとれず、亀裂から先の発電が無駄になってしまう。しかし、圧電デバイス1は、金属板6が亀裂20より先の電極に接しているため、万一亀裂が発生した場合でも、効率を低下させずに機能させることができる。
【0043】
(実施形態2)
上記の圧電デバイス1の片持ち梁の固定端は、圧電素子4を一対の金属板6で挟んだ構造となっているが、図6に示す圧電デバイス31のように、固定端の部分のみを、圧電素子4の代わりに絶縁体32を金属板6に間に挿入した構造としてもよい。固定端に圧電素子4が固定されていても、圧電素子4は変形しないため発電には寄与しない。むしろ、自由端の振動により発生した電気エネルギーを固定端において消費しうる。上記のような構成により、一対の金属板6の固定端の間に圧電素子4が設けられている場合よりエネルギー損失を少なくすることができる。また、固定部10において金属板6をそのまま取り出し電極として、用いることができる。
【0044】
また、固定端の部分のみを、圧電素子4から電極3が除かれた構造としてもよい。すなわち、固定端の部分を、圧電体2が直接に金属板6に挟まれた構造としてもよい。電極3を設けない部分については、圧電体2は分極処理がなされない。さらに、圧電体2に金属板6を直接固着した場合には、接触が悪いため、逆圧電効果による損失は生じない。このため、発電に寄与しない金属板6の一対の端部の間に圧電素子4が設けられている場合よりエネルギー損失を少なくすることができる。
【0045】
この場合には、電極3を印刷する工程で、固定端となる領域にはあらかじめ電極を印刷しない。これにより、電極を印刷する面積を調整するだけで、簡易に作製することができ、手間やコストを削減することができる。
【0046】
(実施形態3)
上記の圧電デバイス1は、単板の圧電素子4を有する構造となっているが、図7に示すように、3枚の金属板の間に2枚の圧電素子を挟んだ構造としてもよい。圧電デバイス41は、中央の導電性部材としての金属板42、第1の圧電素子としての圧電素子46、第2の圧電素子としての圧電素子50、第1の導電性部材としての金属板51および第2の弾性導電性部材としての金属板52を備えている。
【0047】
金属板42は、矩形の板状に形成されている。圧電素子46は、第1の圧電体としてQ1方向に分極され、矩形の板状に形成された圧電体43およびその両主面に設けられた一対の電極44および45を有している。また、圧電素子46は、板状に形成され、金属板42の一方の主面に固着されている。圧電素子50は、第2の圧電体としてQ2方向に分極された圧電体47ならびにその両主面に設けられた一対の電極48および49を有している。また、圧電素子50は、板状に形成され、金属板42の圧電素子46とは逆側の主面に固着されている。金属板51は、圧電素子46の、金属板42とは逆側の主面に固着されている。金属板52は、圧電素子50の、金属板42とは逆側の主面に固着されている。
【0048】
このように、圧電デバイス41は、圧電素子46および圧電素子50のそれぞれの外側に金属板51および52が設けられている。これにより、圧電素子46および50が外力の衝撃や外力により極端に歪むことがないため、応力により圧電素子46および50の表面に亀裂が入るのを防止することができる。また、圧電素子46および50の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、特性を劣化させることなく十分な電力を得ることができる。また、金属板42、51および52のそれぞれの間に板状の圧電素子46および50を挟む構成であるため、圧電素子46、50の反りを防止することができる。また、圧電素子を2枚用いているため、薄くても大きい電圧を得ることができる。
【0049】
金属板42、51および52の材料には、たとえば実施形態1の金属板6と同じ材料を用いることができる。ただし、金属板42、51および52の材料は特にこれに限定されない。また、圧電素子46および50の材料には、たとえば実施形態1の圧電素子4と同じ材料を用いることができる。ただし、圧電素子46および50の材料は特にこれに限定されない。
【0050】
圧電デバイス41の作製方法は圧電デバイス1の作製方法と同様である。ただし、圧電素子に金属板を、エポキシ樹脂を介して接着する工程においては、3枚の金属板の間に2枚の圧電素子を挟んで圧着しながら加熱する。また、圧電体43の分極方向Q1と圧電体47の分極方向Q2とが同一方向になるように分極処理する。
【0051】
圧電デバイス41の動作は圧電デバイス1の動作と同様である。外力を与えられた圧電素子46および50は屈曲し、自由振動する。自由端が、外力が与えられた向きに振れたときには分極方向と逆方向の電圧が生じ、他方に振れたときには分極方向と同方向の電圧が生じる。たとえば、外力をQ1とは逆向きに与えたとき、Q1とは逆向きに自由端が振れたときは、圧電素子46および50は全体として収縮し、圧電素子46および50は両方とも分極方向とは逆向きの電圧を発生させる。また、Q1の方向と同一方向に自由端が振れたときは、圧電素子46および50は全体として伸長し、圧電素子46および50は両方とも分極方向Q1およびQ2と同じ向きの電圧を発生させる。
【0052】
(実施形態4)
また、上記の圧電デバイス41は、圧電体43の分極方向Q1と圧電体47の分極方向Q2が同一であるが、図8に示すように、圧電体63の分極方向R1と、圧電体67の分極方向R2とが逆向きであってもよい。圧電デバイス61は、圧電デバイス41とほぼ同様の構造をしている。圧電デバイス61の金属板62、圧電素子66、圧電体63、電極64および65、圧電素子70、圧電体67、電極68および69、金属板71ならびに金属板72は、それぞれ圧電デバイス41の金属板42、圧電素子46、圧電体43、電極44および45、圧電素子50、圧電体47、電極48および49、金属板51ならびに金属板52に相当する。ただし、圧電体63の分極方向R1と、圧電体67の分極方向R2とが逆向きになるように分極処理されている。
【0053】
圧電デバイス61の動作を説明する。外力を与えられた圧電素子66および70は屈曲し、自由振動する。たとえば、自由端がR2と同じ方向に振れたときには、中央の金属板62を基準として、圧電体63は長手方向(固定端から自由端への方向)に伸長し、圧電体67は長手方向に収縮する。このようにして、電極65と電極64との間には、R1と同一向きに電圧が生じ、電極69と電極68との間には、R2とは逆向きに電圧が生じる。また、自由端がR1と同じ方向に振れたときには、中央の金属板62を基準として、圧電体63は長手方向に収縮し、圧電体67は長手方向に伸長する。このようにして、電極65と電極64との間には、R1と逆向きに電圧が生じ、電極69と電極68との間には、R2と同一向きに電圧が生じる。圧電デバイス61の動作には、圧電デバイス41と異なる点もあるが、圧電デバイス61からは圧電デバイス41からと同様の効果を得ることができる。
【0054】
(実施形態5)
実施形態1〜実施形態4で説明した圧電デバイス1,31,41,61を圧電スイッチに用いた実施形態を以下に説明する。
【0055】
図9に示すように、圧電スイッチ81は、圧電デバイス82と、リード線83および84と、信号発生回路85とを備えている。圧電スイッチ81はまた、圧電デバイス82を駆動するためのスイッチ87と、スイッチ復帰用バネ88と、ケース89とを備えている。圧電デバイス82としては、上記の圧電デバイス1または実施形態2で説明した圧電デバイスが用いられる。圧電スイッチ81は、圧電デバイス82の自由端にスイッチ87によって力を加えることによって圧電デバイス82の片持ち梁を屈曲させることができるようになっている。
【0056】
スイッチ87は断面略L字型の形状の部材と、その一端を揺動自在に保持する保持部材とによって構成されている。通常の状態(スイッチ87を動作させない状態)においては、図7に示すように、スイッチ87の屈折部(折れ曲がっている角の部分)がケース89の外側に突出するように、スイッチ87の一端はスイッチ復帰用バネ88に接して付勢されている。このスイッチ復帰用バネ88は、スイッチ87の屈折部をケース89の内部に押し込むように人が外力を加えたとき、スイッチ87から外力を受けて屈曲し、スイッチ87を押し込む力が解除されたときにはスイッチ87を元の状態(通常の状態)に戻す。このように、スイッチ87とスイッチ復帰用バネ88は一体でプッシュオン/プッシュオフ型の手動スイッチを構成している。スイッチ87は、圧電デバイス82の自由端に接して圧電デバイス82を屈曲させる突起を有している。信号発生回路85は、圧電デバイス82により発生し、リード線83および84により一対の導電性部材から取り出された電圧を、電気信号に変換する回路である。
【0057】
上記のような構成をとることにより、外力の衝撃や外力に起因して圧電デバイス82を屈曲させても、極端に歪むことがないため、圧電素子の表面に亀裂が入り圧電スイッチ81が破壊されるのを防止することができる。また、圧電素子の表面に亀裂が入り、素子表面の電極が分断されても、発電に寄与する素子面積を確保し、スイッチとして十分な電気信号を得ることができる。また、圧電デバイス82は、二枚の導電性部材で一枚の板状の圧電体を挟む構成であるため、圧電素子の反りを防止し、製造しやすく壊れ難い圧電スイッチ81を実現することができる。
【0058】
次に圧電スイッチ81の動作を説明する。通常の状態では、スイッチ87はスイッチ復帰用バネ88によって押し上げられた状態となっている。このときに突起は、圧電デバイス82の自由端の上方に位置している。
【0059】
スイッチ87の屈折部をケース89の内側へ押し込むと、スイッチ87の突起が圧電デバイス82の自由端に接して圧電デバイス82を下向きに屈曲させる。スイッチ87はスイッチ復帰用バネ88がケース89の底板に接するまで押し込むことができる。スイッチ87を最後まで押し込む途中で圧電デバイス82の自由端はスイッチ87の突起から離れ、これにより圧電デバイス82は自由振動を開始し、その後にこの自由振動は減衰して静止する。
【0060】
スイッチ87を最後まで押し込んだ後にスイッチ87を押している力を取り除くと、スイッチ復帰用バネ88によってスイッチ87は元の状態に戻るように押し上げられる。その際に、スイッチ87の突起は再び圧電デバイス82に接して圧電デバイス82を上向きに屈曲させ、続いて圧電デバイス82の自由端が突起から離れて圧電デバイス82は再び自由振動を開始する。その後に圧電デバイス82の自由振動は減衰して、通常の状態に戻る。
【0061】
このようにして、圧電デバイス82を屈曲振動させることによって、圧電体には圧電効果(主に横効果(d31モード))によって電圧が発生する。スイッチ87を1回押して元の状態に復帰させた場合には、圧電デバイス82は自由振動を2回起こすために、圧電デバイス82からは、2つの交流波形が時間を空けて出力される。これらの交流波形の間の時間は、スイッチ87を押し込んだ状態で保持する時間に依存して変化する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る圧電デバイスの第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)加熱された圧電素子および導電性部材を示す断面図である。(b)冷却された圧電素子および導電性部材を示す断面図である。
【図3】本発明に係る圧電デバイスの第1の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る圧電デバイスの第1の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る圧電デバイスの第1の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明に係る圧電デバイスの第2の実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明に係る圧電デバイスの第3の実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明に係る圧電デバイスの第4の実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明に係る圧電スイッチを示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 圧電デバイス
2 圧電体
3 電極
4 圧電素子
6 金属板(導電性部材)
10 固定部
31 圧電デバイス
32 絶縁体
41、61 圧電デバイス
42、62 金属板(中央の導電性部材)
43、63 圧電体(第1の圧電体)
44、45、64、65 電極
46、66 圧電素子(第1の圧電素子)
47、67 圧電体(第2の圧電体)
48、49、68、69 電極
50、70 圧電素子(第2の圧電素子)
51、71 金属板(第1の導電性部材)
52、72 金属板(第2の導電性部材)
81 圧電スイッチ
82 圧電デバイス
83、84 リード線
85 信号発生回路
87 スイッチ(外力伝達部)
88 スイッチ復帰用バネ
89 ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向を分極方向とする板状の圧電体および前記圧電体の両主面に設けられた一対の電極を有する板状の圧電素子と、
前記圧電素子の両主面に固着され、弾性を有する一対の導電性部材と、を備え、
外力を加えられたとき、前記圧電体が歪むことにより発電することを特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
前記一対の導電性部材の弾性率は、前記圧電素子の弾性率より大きいことを特徴とする請求項1記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記圧電素子は、両主面を固着された前記一対の導電性部材により両主面に平行な方向に圧縮されて保持されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記一対の導電性部材の熱膨張率は、前記圧電素子の熱膨張率より大きいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記圧電素子の一方の電極に固着される導電性部材の材質および形状は、他方の電極に固着される導電性部材の材質および形状と同一であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記圧電素子は、矩形の板状であり、
前記一対の導電性部材は、前記圧電素子より長手方向の一方に長い矩形の板状であって、前記圧電素子から長手方向の一方に突出し、
前記導電性部材の、前記圧電素子から長手方向の一方に突出する一対の端部を支持し固定する固定部をさらに備え、
前記固定部は、前記導電性部材の、前記圧電素子から長手方向の一方に突出する一対の端部の間に、絶縁体が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項7】
前記圧電素子は、前記圧電体が前記一対の電極より長手方向の一方に長い矩形の板状であり、
前記導電性部材の、前記圧電体に固着されている一対の端部を支持し固定する固定部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項8】
弾性を有し、板状に形成された中央の導電性部材と、
前記中央の導電性部材の一方の主面に固着され、厚み方向を分極方向とし、板状に形成された第1の圧電体および前記第1の圧電体の両主面に設けられた一対の電極を有し、板状に形成された第1の圧電素子と、
前記中央の導電性部材の他方の主面に固着され、厚み方向を分極方向とし、板状に形成された第2の圧電体および前記第2の圧電体の両主面に設けられた一対の電極を有し、板状に形成された第2の圧電素子と、
前記第1の圧電素子の、前記中央の導電性部材側とは逆側の主面に固着され、弾性を有する第1の導電性部材と、
前記第2の圧電素子の、前記中央の導電性部材側とは逆側の主面に固着され、弾性を有する第2の導電性部材と、
を備え、
外力を加えられたとき、前記第1の圧電体および前記第2の圧電体が歪むことにより発電することを特徴とする圧電デバイス。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれかに記載の圧電デバイスと、
前記圧電デバイスの前記圧電素子および前記導電性部材に外力を伝達し屈曲させる外力伝達部と、
外力を伝達され振動する前記圧電素子により発生した電圧を前記一対の導電性部材から取り出し、電気信号に変換する信号発生回路と、を備えることを特徴とする圧電スイッチ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−67643(P2006−67643A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243919(P2004−243919)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)