説明

圧電トランスの固定方法

【課題】 圧電インバーターの圧電トランスを回路基板から所定の高さに、効率よく固定し、圧電トランスの実装不良の発生を防止するとともに、アンテナ電極を用いて出力電圧を検出し開放出力電圧を制御する圧電インバーターに対して開放出力電圧規格を十分に満足できる圧電トランスの固定方法を提供する。
【解決手段】 回路基板2に圧電トランス1の固定用部材4a、4bとしてシリコーン樹脂を塗布し、圧電トランス1を回路基板2から所定の高さに保持した状態でシリコーン樹脂樹を乾燥固着させ、前記圧電トランス1を前記回路基板2から所定の高さに固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電インバーターの部品実装に関し、特に圧電トランスを駆動するための回路部品を搭載した回路基板に圧電トランスを固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電材料を応用した圧電トランスは、電磁トランスと比較して、高い効率および昇圧比が得られること、低背化に適していることから、液晶ディスプレイのバックライト用インバーターに広く用いられている。
【0003】
圧電インバーターは、圧電トランスと、駆動回路部品と、回路基板により構成されている。駆動回路部品としては、制御IC、FET、トランジスタ、ダイオード、抵抗、コンデンサ、入出力コネクタ、チョークコイルなどがある。これらの部品は、回路基板に表面実装が可能である。
【0004】
圧電インバーターの部品実装方法としては、始めに圧電トランス以外の表面実装部品をリフロー炉で半田付けし、次に圧電トランスを手作業により回路基板に固定し半田付けしている。
【0005】
圧電トランスは、圧電セラミックの機械振動により電圧を変換しているので、回路基板や駆動回路部品に接触して機械振動を妨げることのないように実装しなければならない。特に、単板構造の圧電トランスについては、矩形状の圧電トランスの略半分の表面と裏面に電極が設けられ、リード線が半田付けされている。機械振動を妨げることなく回路基板に実装するためには、回路基板に対して水平になるように、圧電トランスの両端を保持するなどして回路基板に半田付けしなければならない。
【0006】
そこで、従来の圧電トランスの回路基板への実装方法としては、特許文献1に開示されている方法がある。始めに回路基板の圧電トランスの実装位置にシリコーン樹脂を塗布し乾燥固着し、スペーサーを形成する。次に、圧電トランスの固定用樹脂を回路基板に塗布し、圧電トランスをスペーサーに載置し乾燥固着する。そして、圧電トランスに半田付けされたリード線を回路基板の所定の電極と半田付けしていた。
【0007】
図5は、従来の方法による回路基板に圧電トランスを固定した状態を示す説明図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は側面図である。1は圧電トランス、52は回路基板、58a、58b、58cはスペーサー、59a、59bは固定用部材である。
【0008】
従来の回路基板への圧電トランスの固定方法について、手順に従って説明する。回路基板52にスペーサー用樹脂としてシリコーン樹脂を塗布し乾燥固着させ、スペーサー58a、58b、58cを形成する。それから、固定用部材59a、59bとしてシリコーン樹脂を塗布するとともに、スペーサー58a、58b、58cに圧電トランス1を載置して、シリコーン樹脂を乾燥固着し、回路基板52に圧電トランス1を固定していた。
【0009】
【特許文献1】特開平11−354854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている従来の回路基板への圧電トランスの固定方法では、図5においてスペーサー58a、58b、58cによって、圧電トランス1の回路基板52からの高さを確保していたが、スペーサー用樹脂を乾燥固着させると、スペーサーの高さは0.3〜0.4mm程度となっていた。また、単板構造の圧電トランスの電極に半田付けされたリード線は、φ0.5mmであるために、圧電トランスが回路基板と水平とはならずに固定されていた。
【0011】
また、回路基板に固定用部材としてシリコーン樹脂を塗布後に圧電トランスを載置する工程では、回路基板に示された圧電トランスの実装位置とスペーサーの位置を見て作業者が圧電トランスを載置していた。ところが、圧電トランスを固定するためのストッパー等が無いために圧電トランスの位置ずれが発生し、最悪の場合には圧電トランスのリード線を回路基板に半田付けできずに実装不良になることがあった。
【0012】
さらに、スペーサーの形成のために、スペーサー用樹脂の乾燥には、常温で30分かかり、次に圧電トランスの固定にも同様にシリコーン樹脂を乾燥固着させるため、さらに30分かかり非常に効率が悪かった。
【0013】
ところで、圧電インバーターへの要求特性として、無負荷状態で圧電インバーターに入力電圧が印加された場合は、発熱により故障することなく回路を遮断し、出力電圧を0としなければならない。この条件を満足するように駆動回路は設計されている。
【0014】
この要求特性に対する規格として、開放出力電圧がある。これは、無負荷状態で圧電インバーターに入力電圧が印加されたときの出力電圧が遮断されるまでの最大電圧のことである。
【0015】
出力電圧を遮断するための制御回路は、出力電圧を抵抗で分圧して、検出抵抗に加わる電圧がある電圧以上になると出力電圧を遮断する。検出抵抗には高価な高耐圧抵抗が6個程度必要となる。しかし、小型化およびコストダウンの要求が高まり、検出抵抗を用いない制御回路が検討されてきている。
【0016】
検出抵抗を用いずに開放出力電圧を制御する方法は、出力電圧端子の近傍にアンテナ電極を設けて、漏れ電圧を測定し出力電圧を遮断する方法である。検出抵抗を用いないのでコストダウンができ、駆動回路基板の面積も削減でき、安価で小型の圧電インバーターを提供することができる。
【0017】
ところが、従来の回路基板への圧電トランスの固定方法による圧電インバーターに、漏れ電圧を測定し出力電圧を遮断し開放出力電圧を制御する方法を適用すると、開放出力電圧の規格を満足できないという問題があった。これは、圧電トランスが、回路基板から高さ0.3〜0.4mmと低いために、漏れ電圧の測定値が正確ではなく、開放出力電圧が制御できていないためであった。
【0018】
したがって、本発明は、圧電インバーターの製造において、回路基板から圧電トランスを所定の高さに、効率よく固定し、圧電トランスの実装不良の発生を防止するとともに、アンテナ電極を用いて出力電圧を検出し開放出力電圧を制御する圧電インバーターに対して開放出力電圧規格を十分に満足できる圧電トランスの固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記課題の解決のため、回路基板に圧電トランスを固定する方法を検討した結果なされたものである。
【0020】
即ち、圧電トランスを駆動するための回路部品を搭載した回路基板に、複数のピンを有する治具を介して前記圧電トランスを固定する方法において、前記回路基板に設けられた複数の貫通孔を、段差を設けた前記複数のピンに挿着し、前記回路基板に固定用樹脂を塗布した後、前記圧電トランスを前記複数のピンに載置し、前記回路基板から所定の高さに保持して前記固定用樹脂を乾燥固着させて前記圧電トランスを前記回路基板に固定することを特徴とする圧電トランスの固定方法である。
【0021】
前記圧電トランスの前記回路基板からの高さが0.9mm以上であることを特徴とする上記の圧電トランスの固定方法である。
【発明の効果】
【0022】
前記のように、本発明による回路基板への圧電トランスの固定方法によれば、単板構造の圧電トランスを回路基板から平行に所定の高さに効率よく固定できるので、圧電トランスが回路基板や駆動回路部品に接触したり、圧電トランスの位置ずれによる実装不良の発生を防止し、圧電インバーターの製造に有益である。
【0023】
また、圧電トランスを回路基板から所定の高さに固定したことにより、圧電インバーターの開放出力電圧を制御する回路に、アンテナ電極を用いて出力電圧を測定し制御する方式を用いても、十分に開放出力電圧規格を満足できるので、安価で小型な圧電インバーターの製造に有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明による回路基板への圧電トランスの固定方法の実施の形態について、具体的な例を挙げて説明する。
【0025】
図1は、本発明による回路基板に圧電トランスを固定した状態を示す説明図である。図1(a)は平面図、図1(b)は側面図を示している。圧電トランス1は、回路基板2に固定用部材4a、4bによって、所定の高さに固定されている。回路基板2の3箇所の貫通孔3a、3b、3cは、圧電トランスを所定の高さに保持し固定するための固定用治具のピンを挿入するための貫通孔である。
【0026】
図2は、本発明の圧電トランスの固定治具を示す説明図である。図2(a)は押さえ治具の平面図、図2(b)は押さえ治具の側面図である。図2(c)は固定用治具の平面図、図2(d)は固定用治具の側面図である。
【0027】
図2(c)、図2(d)より固定用治具5aは、固定用ピン6a、6b、6cと保持用ピン7a、7b、7cを有している。それぞれのピンは、図1に示した回路基板2に設けられた貫通孔3a、3b、3cの位置に合わせて設けられている。
【0028】
図2(a)、図2(b)より押さえ治具5bは、固定用溝8a、8b、8cを有し、それぞれ、固定用ピン6a、6b、6cに対応する位置に設けられている。ここで、押さえ治具5bの圧電トランスと接触する面には、柔軟性を有するウレタンスポンジ等によるシート5cが貼り付けてあることが望ましい。圧電トランスの表面を保護するとともに、圧電トランスの電極に半田付けされたリード線による厚みのばらつきを吸収するためである。
【0029】
また、押さえ治具5bで圧電トランスを固定すると、固定用部材の塗布量のばらつきによる、圧電トランスの回路基板からの高さのばらつきが吸収され、圧電トランスの回路基板からの高さのばらつきを小さくすることができる。
【0030】
図3は、圧電トランスを固定治具により回路基板に保持している状態を示す説明図である。図3(a)は、固定用治具に回路基板を載せ、圧電トランスを保持した状態の平面図、図3(b)は、固定用治具に回路基板を載せ、圧電トランスを保持用ピンに載せ、押さえ治具で保持した状態の側面図である。
【0031】
以下に、本発明による回路基板への圧電トランスの固定方法につき、図3を用いて手順に沿って説明する。図3(a)より、回路基板2の貫通孔3aを固定用ピン6a、保持用ピン7aに、貫通孔3bを、固定用ピン6b、保持用ピン7bに、貫通孔3cを、固定用ピン6c、保持用ピン7cに通して、固定用治具5aに回路基板2を載せる。
【0032】
次に、回路基板2に固定用部材4a、4bとしてシリコーン樹脂をディスペンサ等を用いて塗布する。そして、圧電トランス1を、保持用ピン7a、7b、7cに載置する。ここで固定用ピン6a、6b、6cは、圧電トランス1を突き当てることによりストッパーとなり、位置ずれを防ぐ役割も果たしている。
【0033】
そして、図3(b)より押さえ治具5bの固定用溝8a、8b、8cを固定用ピン6a、6b、6cとあわせて圧電トランス1の上に載置し、固定用部材4a、4bとして塗布されたシリコーン樹脂を乾燥固着させる。
【0034】
そして、押さえ治具5bを外し、回路基板2を固定用治具5aから外し、圧電トランス1の回路基板2への固定は完了する。そして、リード線(図示せず)を回路基板の所定の電極に半田付けして圧電トランスの実装は完了する。
【0035】
図3では、長さの異なるピン2本を用いて、圧電トランスを支持、固定する治具としたが、例えば1本のピンに段差を設けて、圧電トランスを保持し固定する構造としても良い。
【実施例】
【0036】
次に、具体的な実施例を挙げ、本発明による回路基板への圧電トランスの固定方法について、さらに詳しく説明する。
【0037】
図2(c)、図2(d)に示す固定用治具5aの保持用ピン7a、7b、7cの基板設置面からの高さは、基板厚み0.8mmと圧電トランスの回路基板からの高さを0.9mmとして、1.7mmとした。ここで、圧電トランスの回路基板からの高さは、圧電トランスに接続されるリード線はφ0.5mmであり、半田付けし樹脂で固定されているため、半田付けに0.1mm、樹脂に0.3mmを加算し0.9mmの高さとした。
【0038】
固定用治具5aの固定用ピン6a、6b、6cの基板設置面からの高さは、上記の保持用ピンの長さ1.7mmに、圧電トランスの厚み2mmと、上面に半田付けされたリード線の高さ0.9mmと、押さえ治具の固定用溝の深さを1mmとして合計5.6mmとした。そして、保持用ピン、固定用ピンともに外径はφ1.0mmとした。
【0039】
図1(a)に示す回路基板2の貫通孔3a、3b、3cはφ3.0とした。回路基板2の貫通孔3aには、図2(c)、図2(d)の固定用治具5aに示す固定用ピン6aと保持用ピン7aを通し、貫通孔3bに、同様に固定用ピン6bと保持用ピン7bを通し、貫通孔3cに、同様に固定用ピン6cと保持用ピン7cを通して、固定用治具5aに回路基板2を載置した。
【0040】
そして、図3(a)に示すように、回路基板2に固定用部材4a、4bとしてシリコーン樹脂をディスペンサにて塗布し、すぐに圧電トランスを保持用ピン7a、7b、7cに載置する。次に、図3(b)に示すように、押さえ治具5bの固定用溝8a、8b、8cをそれぞれ固定用ピン6a、6b、6cに合わせて圧電トランス1の上から載置して、シリコーン樹脂を常温にて30分間、乾燥固着した。
【0041】
固定用部材4a、4bの乾燥固着後、押さえ治具5bを外すと、回路基板2に圧電トランス1は固定されている。そこで、固定用治具5aから圧電トランス1が固定された回路基板2を外し、圧電トランス1のリード線(図示せず)を回路基板2の所定の電極に半田付け(図示せず)し、圧電インバーターを作製した。尚、作製した圧電インバーターはアンテナ電極を用いて出力電圧を測定し開放出力電圧を制御する回路構成である。
【0042】
比較のために同じ仕様の圧電インバーターにつき、従来の圧電トランスの固定方法で回路基板に固定して作製した。まず、図5に示すような回路基板52にスペーサー用樹脂をディスペンサにて塗布し、常温にて30分間固着乾燥させ、スペーサー58a、58b、58cを形成した。
【0043】
次に、固定用部材59a、59bとしてシリコーン樹脂を塗布し、圧電トランス1を、スペーサー58a、58b、58cに載置し、常温にてシリコーン樹脂を30分間、乾燥固着した。そして、圧電トランス1のリード線(図示せず)を回路基板2の所定の電極に半田付け(図示せず)し、圧電インバーターを作製した。
【0044】
図4は、圧電インバーターの開放出力電圧の度数分布グラフである。図4(a)は本発明による圧電トランスの回路基板への固定方法による圧電インバーターの開放出力電圧の度数分布グラフで、図4(b)は従来の圧電トランスの回路基板への固定方法による圧電インバーターの開放出力電圧の度数分布グラフであり、それぞれ50個の測定データである。この圧電インバーターの開放出力電圧の規格は1700Vrms以上であった。
【0045】
従来の実装方法による、圧電インバーターでは、開放出力電圧の平均値は1749Vrmsであり、1700V未満は6個であった。σは75であった。
【0046】
本発明による圧電トランスの実装方法の圧電インバーターでは、開放出力電圧の平均値は1797Vrmsであり、1700V未満は無かった。σは56であった。
【0047】
本発明による圧電トランスの実装方法により、開放出力電圧の測定値は平均で約50Vrms高くなり、ばらつきも小さくなり、開放出力電圧の不良品も無くなった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による回路基板に圧電トランスを固定した状態を示す説明図。図1(a)は平面図。図1(b)は側面図。
【図2】本発明の圧電トランスの固定治具を示す説明図。図2(a)は、押さえ治具の平面図。図2(b)は、押さえ治具の側面図。図2(c)は、固定用治具の平面図。図2(d)は、固定用治具の側面図。
【図3】圧電トランスを固定治具により回路基板に保持している状態を示す説明図。図3(a)は、固定用治具に回路基板を載せ、圧電トランスを保持した状態の平面図。図3(b)は、固定用治具に回路基板を載せ、圧電トランスを保持用ピンに載せ、押さえ治具で保持した状態の側面図。
【図4】圧電インバーターの開放出力電圧の度数分布グラフ。図4(a)は、本発明による圧電トランスの回路基板への固定方法による圧電インバーターの開放出力電圧の度数分布グラフ。図4(b)は、従来の圧電トランスの回路基板への固定方法よる圧電インバーターの開放出力電圧の度数分布グラフ。
【図5】従来の方法による回路基板に圧電トランスを固定した状態を示す説明図。図5(a)は平面図。図5(b)は側面図。
【符号の説明】
【0049】
1 圧電トランス
2、52 回路基板
3a、3b、3c 貫通孔
4a、4b、59a、59b 固定用部材
5a 固定用治具
5b 押さえ治具
5c シート
6a、6b、6c 固定用ピン
7a、7b、7c 保持用ピン
8a、8b、8c 固定用溝
58a、58b、58c スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電トランスを駆動するための回路部品を搭載した回路基板に、複数のピンを有する治具を介して前記圧電トランスを固定する方法において、前記回路基板に設けられた複数の貫通孔を、段差を設けた前記複数のピンに挿着し、前記回路基板に固定用樹脂を塗布した後、前記圧電トランスを前記複数のピンに載置し、前記回路基板から所定の高さに保持して前記固定用樹脂を乾燥固着させて前記圧電トランスを前記回路基板に固定することを特徴とする圧電トランスの固定方法。
【請求項2】
前記圧電トランスの前記回路基板からの高さが0.9mm以上であることを特徴とする請求項1記載の圧電トランスの固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−235770(P2008−235770A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76534(P2007−76534)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)