説明

圧電トランス

【課題】 トランス入力部での励振とトランス出力部での電圧変換との双方が効率良く行われる圧電トランスを提供すること。
【解決手段】 この圧電トランスの場合、トランス入力部11及びトランス出力部12における圧電セラミックス層における圧電セラミックス材料を異なる化学組成のものを用いており、トランス入力部11には印加電圧に対して励振力が大きい(圧電d定数の大きな)圧電セラミック材料A[化学組成Pb(Mn−Sb)0.02Zr0.49Ti0.493 のもの]を用い、トランス出力部12には圧電セラミック円板の広がり方向(径方向)の機械的振動エネルギーを高効率に電圧に変換可能な(圧電g定数の大きな)圧電セラミック材料B[化学組成Pb(Mn−Sb)0.06Zr0.47Ti0.473 のもの]を用いているため、トランス入力部11での励振とトランス出力部12での電圧変換との双方が効率良く行われる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主として圧電セラミック板の広がり振動モードを利用した圧電トランスに関し、詳しくはトランス入力部での励振とトランス出力部での電圧変換との双方の効率化を計った圧電トランスに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、携帯テレビやノート型パソコン等の各種携帯電子機器の普及に伴い、これらの機器には直流電圧を供給するために商用交流電圧を電源として直流電圧を出力するAC(交流)アダプタが用いられている。このACアダプタに用いられている電子部品のうち、巻き線型の電磁式トランスは体積が大きく、且つその変換効率に大きく影響を及ぼすものとなっている。
【0003】最近、ACアダプタに対する高効率化,小型低背化,電磁ノイズの低減や低消費電力化等の様々な要求が高まり、こうした要求に応えるべく、既存の電磁式トランスに代わり機械振動エネルギーを変換媒体とする圧電トランスの利用が盛んに検討されている。
【0004】このような圧電トランスの場合、その効率はトランス出力部の出力インピーダンス及び負荷のマッチングが重要となっている。ACアダプタの出力部に接続される各種携帯電子機器の入力インピーダンスλは概ね数Ωから数十Ω程度であり、圧電トランスの出力インピーダンスRは角周波数ω(=2πf)及び出力側制動容量Cd2の関係で示されるR=1/ωCd2なる関係式で得られる。ここでは、例えばR=60Ω、駆動周波数f=120KHzのときにCd2=160nFとなる場合を例示できる。
【0005】ところで、実用的な寸法のACアダプタ用圧電トランスにおいて、こうした大きな制動容量Cd2を確保するためには、積層セラミックコンデンサと類似した構造の出力側に対向内部電極を設けた積層構造が必要となっている。この対向内部電極を採用した圧電トランスの一例として、圧電セラミック板の広がり方向の振動を利用して内部電極及び圧電セラミックス板の積層方向を圧電セラミックス板の厚み方向とした構造のものが挙げられる。
【0006】このような圧電トランスの場合、トランス入力部において電気的エネルギーを圧電セラミック板の機械的振動エネルギーに変換し、トランス出力部において圧電セラミック板の機械的振動エネルギーを電気的エネルギーに変換する機能を有する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上述した圧電トランスの場合、トランス入力部やトランス出力部に用いられる圧電セラミック層の圧電セラミック材料には一般に機械的品質係数(Qm)の大きなものが共通して用いられているが、更に、トランス入力部で大きな振動振幅を得るためには印加電圧当たりの変位量の大きさを表わす圧電d定数が大きい圧電セラミック材料を用いる必要があり、トランス出力部では振動エネルギーを電圧に変換する大きさを表わす圧電g定数が大きい圧電セラミック材料を用いる必要がある。
【0008】これらの圧電d定数並びに圧電g定数は圧電セラミックス材料の他の定数である電気機械結合係数k,ヤング率Y,及び比誘電率εの間でそれぞれd=k(ε/Y)1/2 =k(Y)-1/2・(ε)1/2 、g=d/ε=k(Y)-1/2・(ε)-1/2なる関係として表わすことができる。
【0009】これらの関係式を比較すると、圧電d定数は比誘電率εの平方根に比例し、圧電g定数は比誘電率εの平方根に反比例しているため、同じ圧電セラミックス材料では圧電d定数と圧電g定数とを同時に大きくすることが困難であることが判る。
【0010】従って、既存の圧電トランスの場合、トランス入力部やトランス出力部に用いられる圧電セラミック層の圧電セラミック材料が同じであるため、トランス入力部での励振とトランス出力部での電圧変換との双方を一層効率良く行わせることができないという問題がある。
【0011】本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、トランス入力部での励振とトランス出力部での電圧変換との双方が効率良く行われる圧電トランスを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ交互に積層した積層体から成る圧電セラミック板の広がり振動モードを利用すると共に、該圧電セラミック板が厚み方向で分割されたトランス入力部とトランス出力部とを有する圧電トランスにおいて、トランス入力部とトランス出力部とにおける圧電セラミック層はそれぞれ異なる化学組成の圧電セラミック材料から成る圧電トランスが得られる。
【0013】又、本発明によれば、上記圧電トランスにおいて、トランス入力部における圧電セラミック材料は印加電圧に対して励振力が大きい化学組成であり、トランス出力部における圧電セラミック材料は圧電セラミック板の広がり方向の機械的振動エネルギーを高効率に電圧に変換可能な化学組成である圧電トランスが得られる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下に幾つかの実施例を挙げ、本発明の圧電トランスについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】[実施例1]図1は、本発明の実施例1に係る圧電トランスの基本構成を示した斜視図である。この圧電トランスは、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ交互に積層した積層体から成る圧電セラミック円板の広がり振動モードを利用すると共に、この圧電セラミック円板が厚み方向で分割されたトランス入力部11とトランス出力部12とを有するもので、トランス入力部11とトランス出力部12とにおける圧電セラミック層にそれぞれ異なる化学組成の圧電セラミック材料が用いられている。
【0016】具体的に言えば、圧電トランス全体の圧電セラミック円板は、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ積層した5層の積層体から成るもので、その寸法は直径が20mmで厚さが2.5mmとなっている。
【0017】このうち、トランス入力部11は、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ積層した1層の積層体構造による圧電セラミック円板から成るもので、一方向で対向する側面の所定箇所にそれぞれ側面へ露出した内部電極に接続された入力信号印可用の側面外部電極11a,11bが配設(但し、図1中で側面外部電極11bは正面側に示される側面外部電極11aの対向位置の背面側に位置されるために表記されない)されている。このトランス入力部11における圧電セラミック層の圧電セラミック材料Aには、印加電圧に対して励振力が大きい(即ち、圧電d定数の大きな)化学組成Pb(Mn−Sb)0.02Zr0.49Ti0.493 のセラミックス仮焼粉末を用いている。
【0018】トランス出力部12は、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ積層した4層の積層体構造による圧電セラミック円板から成るもので、他方向(トランス入力部11の一方向で対向する側面に設けられた側面外部電極11a,11bとはほぼ同一平面上で垂直な方向となっている)で対向する側面の所定箇所にそれぞれ一層毎に交互に側面へ露出した内部電極に接続された出力取り出し用の側面外部電極12a,12bが配設されている。このトランス出力部12における圧電セラミック層の圧電セラミック材料Bには、圧電セラミック円板の広がり方向(径方向)の機械的振動エネルギーを高効率に電圧に変換可能な(即ち、圧電g定数の大きな)化学組成Pb(Mn−Sb)0.06Zr0.47Ti0.473 のセラミックス仮焼粉末を用いている。
【0019】これらのトランス入力部11及びトランス出力部12における分極は、何れも150℃のシリコンオイル中で1kV/mmの電界強度条件下で行った。但し、トランス出力部12は厚み方向に一層毎に互いに厚み方向に逆向きに分極される。尚、トランス入力部11及びトランス出力部12の何れに関しても、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ積層して積層体を得る場合、圧電セラミック層としてセラミックスグリーンシートを用い、このセラミックスグリーンシートへ内部電極を印刷して積層する方法を採用して作製している。
【0020】表1は、これらのトランス入力部11及びトランス出力部12の圧電セラミック層における圧電セラミックス材料A,Bの物理特性を示したものである。
【0021】
【表1】


【0022】表1からは、圧電セラミック材料A,Bは、何れも非誘電率(ε33/ε0 ),電気機械結合係数(kr ),及びヤング率(×1010N/m2 )に関しては大きな相違が無いが、これらの物理特性の顕著な相違点として、トランス入力部11に用いた圧電セラミック材料Aの圧電d31定数(×10-12 m/V)は、その絶対値140がトランス出力部12の圧電セラミック材料Bの圧電d31定数の絶対値90よりも大きくなっており、反対にトランス出力部12に用いた圧電セラミック材料Bの圧電g31定数(×10-3Vm/N)は、その絶対値14がトランス入力部11に用いた圧電セラミック材料Aの圧電g31定数の絶対値10よりも大きくなっていることが判る。
【0023】このようにして作製された広がり振動モードを利用した圧電トランスの場合、トランス入力部11に圧電d定数の大きな圧電セラミック材料Aを用い、トランス出力部12に圧電g定数の大きな圧電セラミック材料Bを用いているため、トランス入力部11での励振とトランス出力部12での電圧変換との双方が効率良く行われるようになる。
【0024】[実施例2]図2は、本発明の実施例2に係る圧電トランスの基本構成を示した斜視図である。この圧電トランスの場合、先の実施例1に係る圧電トランスの全体が圧電セラミック円板となっていたのに対し、その全体が圧電セラミック矩形板として構成される点が相違している。
【0025】即ち、この圧電トランスの場合、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ交互に積層した積層体から成る圧電セラミック矩形板の広がり振動モードを利用すると共に、この圧電セラミック矩形板が厚み方向で分割されたトランス入力部21とトランス出力部22とを有するもので、ここでのトランス入力部21とトランス出力部22とにおける圧電セラミック層にもそれぞれ異なる化学組成の圧電セラミック材料が用いられている。
【0026】具体的に言えば、圧電トランス全体の圧電セラミック矩形板は、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ積層した5層の積層体から成るもので、その寸法は一辺20mmの正方形表面を有して厚さが2.5mmとなっている。
【0027】このうち、トランス入力部21は、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ積層した1層の積層体構造による圧電セラミック矩形板から成るもので、一方向で対向する側面の所定箇所にそれぞれ側面へ露出した内部電極に接続された入力信号印可用の側面外部電極21a,21bが配設(但し、この図2中でも側面外部電極21bは正面側に示される側面外部電極21aの対向位置の背面側に位置されるために表記されない)されている。このトランス入力部21における圧電セラミック層の圧電セラミック材料Aには、印加電圧に対して励振力が大きい(即ち、圧電d定数の大きな)化学組成Pb(Mn−Sb)0.02Zr0.49Ti0.493 のセラミックス仮焼粉末を用いている。
【0028】トランス出力部22は、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ積層した4層の積層体構造による圧電セラミック矩形板から成るもので、他方向(ここでもトランス入力部21の一方向で対向する側面に設けられた側面外部電極21a,21bとはほぼ同一平面上で垂直な方向となっている)で対向する側面の所定箇所にそれぞれ一層毎に交互に側面へ露出した内部電極に接続された出力取り出し用の側面外部電極22a,22bが配設されている。このトランス出力部22における圧電セラミック層の圧電セラミック材料Bには、圧電セラミック矩形板の広がり方向の機械的振動エネルギーを高効率に電圧に変換可能な(即ち、圧電g定数の大きな)化学組成Pb(Mn−Sb)0.06Zr0.47Ti0.473 のセラミックス仮焼粉末を用いている。
【0029】これらのトランス入力部21及びトランス出力部22における分極に関しても、何れも150℃のシリコンオイル中で1kV/mmの電界強度条件下で行った。但し、ここでのトランス出力部22も厚み方向に一層毎に互いに厚み方向に逆向きに分極される。尚、トランス入力部21及びトランス出力部22の何れに関しても、圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ積層して積層体を得る場合、圧電セラミック層としてセラミックスグリーンシートを用い、このセラミックスグリーンシートへ内部電極を印刷して積層する方法を採用して作製している。
【0030】このようにして作製された広がり振動モードを利用した圧電トランスの場合も、トランス入力部21に圧電d定数の大きな圧電セラミック材料Aを用い、トランス出力部22に圧電g定数の大きな圧電セラミック材料Bを用いているため、トランス入力部11での励振とトランス出力部12での電圧変換との双方が効率良く行われるようになる。
【0031】そこで、試作された実施例1及び実施例2に係る圧電トランス、並びに実施例2と同じ構造としてトランス入力部及びトランス出力部における圧電セラミック層の何れに関しても圧電セラミック材料Aを用いて試作した比較例に係る圧電トランスに対し、何れも出力側に負荷抵抗60Ωを接続して振動子特性及び70V入力時の諸特性(パワー特性)を測定したところ、表2に示すような結果になった。
【0032】
【表2】


【0033】尚、表2中では共振周波数fr(KHz),出力側制動容量Cd2(nF),入力側制動容量Cd1(nF),出力側機械的品質係数Qm2 ,負荷マッチング状態でのインピーダンス1/ωCd2(Ω),入力側容量比γ1,及び出力側容量比γ2が微少振動時の振動子定数を示し、出力電力Pout (W),変成比,温度上昇(℃),及び効率(%)が負荷を接続した状態での振動子定数とパワー特性とを示している。因みに、出力側機械的品質係数Qm2 は損失係数の逆数となる。
【0034】表2からは、実施例1及び実施例2に係る圧電トランスの場合、何れも比較例に係る圧電トランスと比べて伝送パワーが大きく、発熱が約20℃も低くなっており、しかも効率が約15%大きくなっていることが判る。
【0035】
【発明の効果】以上に述べた通り、本発明の圧電トランスによれば、トランス入力部及びトランス出力部における圧電セラミックス層における圧電セラミックス材料を異なる化学組成のものを用いるものとし、トランス入力部には圧電d定数の大きな圧電セラミック材料を用い、トランス出力部に圧電g定数の大きな圧電セラミック材料を用いているため、トランス入力部での励振とトランス出力部での電圧変換との双方が効率良く行われ、結果として従来に無く高効率で大出力の特性が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1に係る圧電トランスの基本構成を示した斜視図である。
【図2】本発明の実施例2に係る圧電トランスの基本構成を示した斜視図である。
【符号の説明】
11,21 トランス入力部
12,22 トランス出力部
11a,11b,12a,12b,21a,21b,22a,22b 側面外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電セラミック層と内部電極とを厚み方向へ交互に積層した積層体から成る圧電セラミック板の広がり振動モードを利用すると共に、該圧電セラミック板が厚み方向で分割されたトランス入力部とトランス出力部とを有する圧電トランスにおいて、前記トランス入力部と前記トランス出力部とにおける前記圧電セラミック層はそれぞれ異なる化学組成の圧電セラミック材料から成ることを特徴とする圧電トランス。
【請求項2】 請求項1記載の圧電トランスにおいて、前記トランス入力部における前記圧電セラミック材料は印加電圧に対して励振力が大きい化学組成であり、前記トランス出力部における前記圧電セラミック材料は前記圧電セラミック板の広がり方向の機械的振動エネルギーを高効率に電圧に変換可能な化学組成であることを特徴とする圧電トランス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−124517(P2000−124517A)
【公開日】平成12年4月28日(2000.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−298546
【出願日】平成10年10月20日(1998.10.20)
【出願人】(000134257)株式会社トーキン (1,832)