説明

圧電素子及び圧電アクチュエータ

【課題】良好な加工精度を簡略な加工で得られる構成で小型化を実現した圧電素子及び圧電アクチュエータを提供する。
【解決手段】圧電素子を次のように構成する。貫通孔3Hを有する略円筒形状を呈する棒状弾性体3Eと、棒状弾性体3Eの長軸方向に沿って、棒状弾性体3Eの長軸方向における両端面に達しない範囲で、棒状弾性体3Eの側周面に形成された長孔形状のスリットs1と、側周面のうちスリットs1が形成された部位以外の部位に設けられた圧電部材と、長軸方向についてはスリットs1の両端部位に達しない範囲で、且つ、棒状弾性体3Eの周方向についてはスリットs1を跨いだ態様で、側周面の圧電部材上に設けられた電極部材7-1,7-2と、を圧電素子に具備させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、及び該圧電素子を用いた圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、円筒型圧電素子の小型化が望まれている。円筒型圧電素子の小型化には、製造上の困難さが伴う。特許文献1には、小型の円筒型圧電素子を製造する方法が開示されている。すなわち、特許文献1に開示されている製造方法によれば、まず、円筒形状を呈する圧電素子であって、径方向に凸で軸方向を長手方向とする凸部が外周面に設けられた形態の圧電素子を押出成形する。続いて、前記凸部を含む外周面に駆動電極を形成し、内周面には基準電極を形成する。そして、それら電極を利用して当該圧電素子に分極処理を施した後、前記凸部を機械加工で除去する。これら一連の工程により、複数個に分割された駆動電極を備える円筒型圧電素子を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−212519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧電素子を小型化していく場合(例えば外径100μm〜1mm程度まで小型化する場合)、その性能を維持する為に構成部品に求められる精度は高くなる。換言すれば、性能を維持したまま小型化を実現するには、構成部品の加工難易度が高くなってしまう。
【0005】
特許文献1に開示されている製造方法によれば、上述した外周面の凸部を除去する工程において高精度な機械加工を要する。この機械加工の精度が良好でない場合には、例えば当該円筒型圧電素子の割れや駆動電極の短絡等の様々な不具合が生じる虞がある。具体的には、例えば前記凸部の除去が不完全であれば、駆動電極に電圧を印加しても十分な変位を得られないことがある。また、前記凸部の除去加工が深すぎて溝を形成してしまった場合には、駆動電極に電圧を印加した際の変形で、当該円筒型圧電素子に割れが発生する虞がある。つまり、特許文献1に開示されている技術を利用して、良好な加工精度を維持しつつ、圧電素子の小型化を実現することは困難である。
【0006】
本発明は、前記の事情に鑑みて為されたものであり、良好な加工精度を簡略な加工で得られる構成で小型化を実現した圧電素子及び圧電アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の第1の態様による圧電素子は、
略円筒形状を呈する棒状弾性体と、
前記棒状弾性体の長軸方向に沿って、前記棒状弾性体の長軸方向における両端面に達しない範囲で、前記棒状弾性体の側周面に形成された長孔形状のスリットと、
前記側周面のうち前記スリットが形成された部位以外の部位に設けられた圧電部材と、
前記長軸方向については前記スリットの両端部位に達しない範囲で、且つ、前記棒状弾性体の周方向については前記スリットを跨いだ態様で、前記側周面の前記圧電部材上に設けられた電極部材と、
を具備することを特徴とする。
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明の第2の態様による圧電アクチュエータは、
略円筒形状を呈する棒状弾性体と、
前記棒状弾性体の長軸方向に沿って、前記棒状弾性体の長軸方向における両端面に達しない範囲で、前記棒状弾性体の側周面に形成された長孔形状のスリットと、
前記側周面のうち前記スリットが形成された部位以外の部位に設けられた圧電部材と、
前記長軸方向については前記スリットの両端部位に達しない範囲で、且つ、前記棒状弾性体の周方向については前記スリットを跨いだ態様で、前記側周面の前記圧電部材上に設けられた電極部材と、
前記電極部材に所定の交番信号を印加する駆動回路と、
を具備し、
前記スリットは、当該棒状弾性体を周方向に4等分する位置に1つずつ形成され、
前記電極部材は、前記スリットによって、互いに独立した4つの電極部材に分割されており、
前記駆動回路は、互いに対向する電極部材間に所定の交番信号を印加する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な加工精度を簡略な加工で得られる構成で小型化を実現した圧電素子及び圧電アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る圧電素子の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す圧電素子を構成する弾性体を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す弾性体に圧電部材を設けたものを示す斜視図である。
【図4】図4は、分極処理時の図1に示す圧電素子を示す斜視図である。
【図5】図5は、図4に示すA−A´線における断面矢視図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る圧電素子の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示す圧電素子が具備する弾性体を示す斜視図である。図3は、図2に示す弾性体に圧電部材を設けたものを示す斜視図である。図4は、分極処理時の本発明の一実施形態に係る圧電素子を示す斜視図である。図5は、図4に示すA−A線における断面矢視図を示す図である。
図1乃至図5に示すように、本一実施形態に係る圧電素子1は、略円筒形状の棒状弾性体3と、圧電部材9と、電極部材7−1,7−2,7−3,7−4と、を具備する。ここで、図1に示すように棒状弾性体3の長軸方向にZ軸を設定し、図5に示すように棒状弾性体3の長軸方向に垂直な面内で互いに直交する方向にX軸とY軸とを設定する。
【0012】
前記棒状弾性体3は、図2に示すように長軸方向(Z軸方向)における両端面の中心部位を貫通するように形成された貫通孔3Hを有する略円筒形状の弾性体であり、例えばステンレス鋼(SUS材)やチタン等から成る円筒殻状の弾性体である。この棒状弾性体3の側周面には、複数のスリットs1,s2,s3,s4が長軸方向(Z軸方向)に沿って、当該棒状弾性体3の両端近傍部位を除いた部位に長孔形状に形成されている。換言すれば、これらスリットs1,s2,s3,s4は、当該棒状弾性体3の長軸方向については両端面に達しない範囲で、前記長軸方向に沿って形成されている。
【0013】
前記スリットs1,s2,s3,s4は、図5に示すように、棒状弾性体3を周方向に4等分する位置に形成されている。換言すれば、これらスリットs1,s2,s3,s4は、当該棒状弾性体3の側周面のうち互いに対向する部位において対を成すように設けられた二対のスリット(スリットs1とスリットs3とから成る対、及び、スリットs2とスリットs4とから成る対)である。これら二対のスリットは、各対におけるスリットの対向方向同士(対向するスリット同士を最短で結ぶ直線同士)が略90度を成す。
【0014】
なお、各スリットs1,s2,s3,s4の具体的な形成方法としては、例えばレーザー加工やエッチング等の微細加工を挙げることができる。各スリットs1,s2,s3,s4は、これらの微細加工によって、当該棒状弾性体3の中心軸に対して揃えて形成される。
【0015】
上述したように棒状弾性体3に各スリットs1,s2,s3,s4を形成した後(図2参照)、棒状弾性体の一方端面3Eをマスキングした状態で、例えばPVD法(スパッタ、レーザーアブレーションなど)、CVD法、化学溶液法(CSD法)、水熱合成法、エアロゾルデポジション法(AD法)等の成膜技法を用いて、棒状弾性体3表面に圧電部材(例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等)を堆積する。これにより、棒状弾性体3のうち、一方端面3E及びスリットs1,s2,s3,s4を除く表面に、圧電部材が堆積される。
【0016】
ここで、図5に示すように棒状弾性体3の側周面のうち電極部材7−1と重なる部分に堆積された圧電部材には圧電部材9−1と符号を付し、電極部材7−2と重なる部分に堆積された圧電部材には圧電部材9−2と符号を付し、電極部材7−3と重なる部分に堆積された圧電部材には圧電部材9−3と符号を付し、電極部材7−4と重なる部分に堆積された圧電部材には圧電部材9−4と符号を付す。なお、各電極部材7−1,7−2,7−3,7−4は、圧電部材9上の“所定の領域(詳細は後述する)”に形成される電極である。
【0017】
上述したように、圧電部材9−1,9−2,9−3,9−4は、棒状弾性体3の側周面のうち前記二対のスリットs1,s2,s3,s4が設けられた部位以外の部位に設けられた、互いに対向する二対の圧電部材である。これら圧電部材9−1,9−2,9−3,9−4は、それぞれ当該棒状弾性体3の径方向に分極されて活性領域となる。
【0018】
前記電極部材7−1,7−2,7−3,7−4は、当該棒状弾性体3の側周面に設けられた圧電部材9上の“所定の領域”に形成されている。詳細には、電極部材7−1,7−2,7−3,7−4は、当該棒状弾性体3の長軸方向(Z軸方向)についてはスリットs1,s2,s3,s4の両端面に達しない範囲(スリットの長さを越えない領域)で、且つ、当該棒状弾性体3の周方向についてはスリットs1,s2,s3,s4を跨いで当該棒状弾性体3の全周に亘って設けられている。
【0019】
具体的な電極部材7−1,7−2,7−3,7−4の形成方法としては、例えば金、白金等でスパッタや蒸着を行なう方法や、ニッケル、金、銀等の電極材料をメッキで形成する方法を挙げることができる。
【0020】
これら電極部材7−1,7−2,7−3,7−4は、図4に示す分極処理の際に、圧電部材9と棒状弾性体3との間に高電圧Vを印加する際に用いる。すなわち、各電極部材7−1,7−2,7−3,7−4と、棒状弾性体3が露出している一方端面3Eとの間に高電圧Vを印加することにより、圧電部材9のうち各電極部材と重なる部分を径方向に分極し、圧電部材9−1,9−2,9−3,9−4を活性領域とする。このように、分極処理の際には、棒状弾性体3の一方端面3Eを共通電極(分極用電極の一方電極)として活用する。
【0021】
以下、本一実施形態に係る圧電素子を圧電アクチュエータとして利用する際の駆動方法について説明する。
前記電極部材7−1,7−2,7−3,7−4を利用して各圧電部材9−1,9−2,9−3,9−4に所定の電荷を与えることで、圧電部材9を振動させて、圧電素子を上述のX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に変位させる。
【0022】
例えば、図5に示すように、第1の電圧源V1を電極部材7−2と電極部材7−4とに接続し、それら電極間に交番電圧V1=Vcosθを印加し、第2の電圧源V2を電極部材7−1と電極部材7−3とに接続し、それら電極間に交番電圧V2=Vsinθを印加する。このように駆動回路を構成することで、隣接する電極部材同士の交番信号の位相差は順次略90度となる。このように駆動することで、圧電素子には屈曲動作が励起され、首振り回転運動が生じる。
【0023】
なお、各電極部材7−1,7−2,7−3,7−4に印加する交番信号の位相の進み/遅れによって回転方向を切り替えることができる。また、各電極部材7−1,7−2,7−3,7−4に同相の交番信号を印加すると、圧電素子は、Z軸方向に伸び縮みすることは明らかである。
以上説明したように、本一実施形態によれば、良好な加工精度を簡略な加工で得られる構成で小型化を実現した圧電素子及び圧電アクチュエータを提供することができる。
【0024】
以上、一実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で変形/応用が可能なことは勿論である。
さらに、上述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0025】
1…圧電素子、s1,s2,s3,s4…スリット、 V…高電圧、 V1…第1の電圧源、 V2…第2の電圧源、 3…棒状弾性体、 3H…貫通孔、 3E…一方端面、 7−1,7−2,7−3,7−4…電極部材、9…圧電部材、 9−1,9−2,9−3,9−4…電極部材と重なる圧電部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形状を呈する棒状弾性体と、
前記棒状弾性体の長軸方向に沿って、前記棒状弾性体の長軸方向における両端面に達しない範囲で、前記棒状弾性体の側周面に形成された長孔形状のスリットと、
前記側周面のうち前記スリットが形成された部位以外の部位に設けられた圧電部材と、
前記長軸方向については前記スリットの両端部位に達しない範囲で、且つ、前記棒状弾性体の周方向については前記スリットを跨いだ態様で、前記側周面の前記圧電部材上に設けられた電極部材と、
を具備することを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記スリットは、当該棒状弾性体を周方向に4等分する位置に1つずつ形成され、
前記電極部材は、前記スリットによって、互いに独立した4つの電極部材に分割されている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
略円筒形状を呈する棒状弾性体と、
前記棒状弾性体の長軸方向に沿って、前記棒状弾性体の長軸方向における両端面に達しない範囲で、前記棒状弾性体の側周面に形成された長孔形状のスリットと、
前記側周面のうち前記スリットが形成された部位以外の部位に設けられた圧電部材と、
前記長軸方向については前記スリットの両端部位に達しない範囲で、且つ、前記棒状弾性体の周方向については前記スリットを跨いだ態様で、前記側周面の前記圧電部材上に設けられた電極部材と、
前記電極部材に所定の交番信号を印加する駆動回路と、
を具備し、
前記スリットは、当該棒状弾性体を周方向に4等分する位置に1つずつ形成され、
前記電極部材は、前記スリットによって、互いに独立した4つの電極部材に分割されており、
前記駆動回路は、互いに対向する電極部材間に所定の交番信号を印加する、
ことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記駆動回路は、隣接する電極部材同士の交番信号の位相差が略90度となるように、互いに対向する電極部材間に所定の交番信号を印加する
ことを特徴とする請求項3に記載の圧電アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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