説明

圧電素子

【課題】 十分な変位量を持ち、発熱及びエネルギーロスの低減が可能な、ユニモルフ型またはバイモルフ型圧電素子を提供する。
【解決手段】 ユニモルフ型またはバイモルフ型圧電素子において、電気機械エネルギー変換素子の環状の面積をS、該電気機械エネルギー変換素子の外周を起点として内周に向かって延在する電極の環状の面積をaとするとき、0.81≦a/S<1であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料のもつ逆圧電効果を利用した圧電素子に関し、特にユニモルフ型またはバイモルフ型圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタルカメラなどの携帯型電子機器の普及は著しく、特に携帯電話の多機能化や高性能化は顕著である。カメラ付き携帯電話に関しても、写真や動画の記録画素数は年々増加し、オートフォーカスやズーム機能を有する機種も存在している。カメラにオートフォーカスやズーム機能を持たせるためには、光軸に沿って光学レンズを移動させる機構が必要であり、従来から電磁式のモータを用いた方法が知られている。
【0003】
一方で、これらの機器の可搬性を向上するために、小型化の傾向が近年一層顕著になってきている。これに伴い、用いられる部品の小型化、低背化への要求も厳しくなっている。
【0004】
オートフォーカスやズーム機能を有するカメラに関しても、小型化、低背化の要求に対応する必要があり、従来の電磁式のモータから、圧電素子に代表される電気機械エネルギー変換素子によるレンズ移動の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、円環状金属板の両側に円環状圧電素子を同心的に配し、金属板の円形孔に光学レンズを接着し、円環状圧電素子の駆動力により光学レンズを振動させる構造が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特公平05−40286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている方法では、圧電素子を薄くすることはできるが、円環状圧電素子に形成する電極の面積が広いため、圧電素子の静電容量が大きくなり、駆動中に多量の電流が流れ、発熱及びエネルギーロスを生じるという問題がある。
【0007】
この状況にあって、本発明の課題は、十分な変位量を持ち、発熱及びエネルギーロスの低減が可能な、ユニモルフ型またはバイモルフ型圧電素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、中心部に開口を有する金属板の片側または両側の面に、環状の電気機械エネルギー変換素子を接着してなる接合板の外周を固定し、電圧を印加することによって、前記接合板の自由端すなわち内周に、屈曲変位を発生させるように構成したユニモルフ型またはバイモルフ型圧電素子において、前記電圧を印加するための電極の形状は、前記電気機械エネルギー変換素子の前記外周を起点とし前記内周に向かって延在する環状であり、前記電気機械エネルギー変換素子の環状の面積をS、前記電極の環状の面積をaとするとき、0.81≦a/S<1となる圧電素子である。
【0009】
また、本発明は、前記電気機械エネルギー変換素子の電極形状は、円環状とする圧電素子である。
【0010】
前記金属板は、前記電気機械エネルギー変換素子の外周よりも大きな外周を有し、前記金属板の外周にて固定を行うように構成するとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、電気機械エネルギー変換素子の電極面積aを、素子面積Sに対して0.81≦a/S<1の範囲で形成するため、圧電素子の静電容量を低減させ、発熱および消費電力を抑えることができる。
【0012】
本発明においては、電気機械エネルギー変換素子の電極面積aを、素子面積Sに対して0.81≦a/S<1の範囲で形成するため、素子全面に電極を形成した場合の屈曲変位量を維持することができる。
【0013】
また、電気機械エネルギー変換素子の電極形状を円環状にすることで、前記電気機械エネルギー変換素子または前記金属板に被振動体を配置した場合に、配置された被振動体に対して、圧電素子の高さ方向に均一に、屈曲変位を伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
まず、ユニモルフ型またはバイモルフ型圧電素子の構造および作製方法について説明する。図1は、バイモルフ型圧電素子の一例を図1(a)の斜視図と図1(b)の縦断面図で示している。この圧電素子は、中心部に開ロを有する円環状の金属板1に、同じく円環状の電気機械エネルギー変換素子2および2'を接着し、金属板1の外周に、同じく円環状の固定具3を接着した、円環状バイモルフ型圧電素子である。電気機械エネルギー変換素子2および2'の表面には、外周方向から内周部に向かって、同一形状の外部電極a1,a2およびa3,a4が形成されている。ここで、圧電素子は、片側にのみ電気機械エネルギー変換素子を有するユニモルフ構造としてもよい。また、ここでは、電気機械エネルギー変換素子2,2'の形状を円環状としたが、外形は矩形状などの形状としても構わない。さらに、電気機械エネルギー変換素子2,2'は複数個に分割されていても構わない。
【0016】
金属板1の材質は特に限定しないが、ばね性の良好な材質、たとえば、銅合金、ニッケル合金、ステンレスなどを用いることができる。
【0017】
電気機械エネルギー変換素子2,2'の材質は、ジルコン酸チタン酸鉛[Pb(Zr・Ti)O3]を主成分とする圧電セラミクスであることが好適であるが、他に、ビスマス層状セラミクス、ニオブ酸カリウムあるいはニオブ酸ナトリウムを主成分とするセラミクスなどの非鉛材料、ニオブ酸リチウムなどの単結晶材料などでもよい。
【0018】
ジルコン酸チタン酸鉛[Pb(Zr・Ti )O3]を主成分とする圧電セラミクスによる電気機械エネルギー変換素子2および2'の作製については、一般的な圧電セラミクスの製法により、焼結体を製造し、機械加工などにより所定の形状とした後、銀などを用いて外部電極aを形成後、厚さ方向に分極処理を施す。その後、金属板1に分極の向きを揃え接着し、外周に固定具3を接着することで、圧電素子を作製する。
【0019】
電気機械エネルギー変換素子2,2'は、上記の方法以外にも、ゾル・ゲル法やスパッタ法などを用いて金属板1に圧電セラミック膜を形成することで、圧電素子を作製することも可能である。
【0020】
上記外部電極a1,a2,a3,a4の形状は、電気機械エネルギー変換素子2,2'の外周部から内周部に向かって延在する環状であり、その電極面積aとするとき、上記電気機械エネルギー変換素子2,2'の面積Sに対して、a/Sが81%(発明品1)a/Sが100%(従来品1)の2種類と、比較のためにa/Sが55%(比較品1)に形成した計3種類を作製した。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態における圧電素子を示す縦断面である。ここで、電気機械エネルギー変換素子の有効長Lは、電気機械エネルギー変換素子の外径と内径の差を2で割った値であり、駆動有効長Xは、電気機械エネルギー変換素子の有効長Lのうち、電極が形成されている部分の長さである。表1は、作製した圧電素子について、電気機械エネルギー変換素子の有効長Lに対する駆動有効長Xの比を表す、駆動有効長比X/L、および、電気機械エネルギー変換素子の面積Sに対する外部電極a1の面積aの比を表す、電極面積比a/S、をまとめたものである。
【0022】
【表1】

【0023】
ここで、静電容量と消費電力の関係について説明する。電気機械エネルギー変換素子である圧電セラミクスは、誘電体であるため、キャパシタの性質を有する。圧電セラミクスに非共振周波数の正弦波の電圧を印加した場合には、印加電圧に対して位相が90°進んだ電流が流れる。その実効値電流Irms(A)は、印加電圧の実効値Vrms(V)、駆動周波数fd(Hz)、静電容量C(F)を用いて、次式(1)で表される。
【0024】
rms=Vrms・2πfd・C ・・・・・・・・(1)
【0025】
式(1)より、キャパシタに流れる電流値は、静電容量に比例することは明らかである。さらに、消費エネルギーP(W)は、実効値電流Irmsと実効値電圧Vrmsの積で表されるため、静電容量が増加すると消費エネルギーも増加する。
【0026】
また、キャパシタは、アクチュエータの駆動波形として一般的な矩形波電圧を印加した場合には、キャパシタの充放電に対応して大きな電流が流れる。この電流量は、キャパシタに蓄えられる電荷量に依存する。キャパシタが蓄えられる電荷量Q(C)は、静電容量C(F)と印加電圧V(V)を用いて、次式(2)で表される。
【0027】
Q=CV ・・・・・・・・・・・・・・・(2)
【0028】
式(2)より、キャパシタに蓄えられる電荷量は、静電容量に比例することがわかる。従って、矩形波を印加した場合に電気回路に流れる電流量は、キャパシタの静電容量に比例する。また、消費エネルギーは、電流と電圧の積で表されるため、静電容量が増加すると消費エネルギーも増加する。
【0029】
以上のことより、誘電体である圧電セラミクスに電圧を印加したときの電流量および消費エネルギーは、圧電セラミクスの静電容量が増加すると大きくなるといえる。言い換えれば、圧電素子の静電容量を低減すれば、圧電素子に電圧を印加した場合の電流量および消費エネルギーを減少することができる。
【0030】
次に、作製した圧電素子について、静電容量および変位量を測定した結果を説明する。測定における電圧印加は、いずれの場合についても金属板1をグラウンドにし、電気機械エネルギー変換素子2,2’の外部電極a1およびa4 に同一の電圧を印加した。変位量の測定は、正弦波を印加して、1kHz から100kHzまでの周波数について行った。表2は、作製した圧電素子について、電極を全面に形成した場合との静電容量の比をまとめたものである。
【0031】
【表2】

【0032】
表2に示した結果から、圧電素子の静電容量は、電極面積比a/Sに対応して、減少していることがわかる。
【0033】
図3は、作製した圧電素子について、測定した変位量を測定した周波数に対してプロットした結果である。共振点での変位量は、電極面積の減少に応じて減少しているが、その他の周波数範囲での変位量は、表1および表2における発明品1と従来品1では、ほぼ等しく、比較品1は、従来品1のおよそ7割程度の値を示した。
【0034】
表2および図3に示した結果から、電極面積が素子面積に対して外周方向から80〜100%未満の範囲では、屈曲変位量を維持しながら、圧電素子の静電容量を最大16%低減することができた。
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、中心部に開口を有する金属板の片側または両側の面に、環状の電気機械エネルギー変換素子を接着してなる接合板の外周を固定し、電圧を印加することによって、前記接合板の自由端すなわち内周に、屈曲変位を発生させるように構成したユニモルフ型またはバイモルフ型圧電素子において、前記電圧を印加するための電極の形状は、前記電気機械エネルギー変換素子の前記外周を起点とし前記内周に向かって延在する環状であり、前記電気機械エネルギー変換素子の環状の面積をS、前記電極の環状の面積をaとするとき、0.81≦a/S<1にすることによって、屈曲変位量を維持しながら、発熱および消費電力に関する因子である静電容量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のバイモルフ型圧電素子の一例を示す説明図。図1(a)は圧電素子の斜視図、図1(b)は、図1(a)のAA縦断面図。
【図2】本発明の実施の形態における圧電素子を示す縦断面図。
【図3】本発明の実施の形態における圧電素子の内周近傍の屈曲変位量を示すグラフ。
【符号の説明】
【0037】
1 金属板
2,2’ 電気機械エネルギー変換素子
3 固定具
a1,a2,a3,a4 外部電極
L 電気機械エネルギー変換素子の有効長
X 駆動有効長
a 外部電極の面積
S 電気機械エネルギー変換素子の面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に開口を有する金属板の片側または両側の面に、環状の電気機械エネルギー変換素子を接着してなる接合板の外周を固定し、電圧を印加することによって、前記接合板の自由端すなわち内周に、屈曲変位を発生させるように構成したユニモルフ型またはバイモルフ型圧電素子において、前記電圧を印加するための電極の形状は、前記電気機械エネルギー変換素子の前記外周を起点とし前記内周に向かって延在する環状であり、前記電気機械エネルギー変換素子の環状の面積をS、前記電極の環状の面積をaとするとき、0.81≦a/S<1であることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記電気機械エネルギー変換素子の電極形状は、円環状であることを特徴とする、請求項1に記載の圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−318932(P2007−318932A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146711(P2006−146711)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)