説明

地下水の排水方法

【課題】 施工の能率の低下要因とならない排水方法の提供。
【解決手段】 排水方法は、地盤10中に地中壁12を対向するように構築し、地下水位を低下しつつ地中壁12間の内部側を掘削する際に採用される。地中壁12は、地中に掘削溝14を掘削形成し、鉄筋籠を掘削溝14内に建て込んだ後に、コンクリートを打設して形成される。このとき、地中壁12中に排水手段16が内蔵され、この内蔵された排水手段16により地下水位が低下される。内蔵される排水手段16は、集水部18と、排水管20と、吸引ポンプとを備えている。集水部18は、地中壁12の下端内面側にあって、地中壁12の延設方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられている。排水管20は、地中壁12の鉛直方向に垂設されていて、下端側が集水部18と連通し、上端側は、地上部まで延設されていて、この上端側に図示省略の吸引ポンプが連通接続される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、地下水の排水方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】地下水位以深の地盤中に構造物を構築する場合、土留め用の地中壁を構築し、地下水位を低下させつつ地中壁の内部掘削を行い、根切り面まで掘削した開削状態で、構造物を構築する工法が知られている。
【0003】この場合、地下水位を低下させる工法は、種々提案されているが、このうち、滞水地盤に集水用鋼管を打ち込み、内部に排水ポンプを設置して、揚水を行うことにより、地下水位を低下させるディープウエル工法が、簡便な方法なので比較的多く採用されている。
【0004】しかしながら、このような従来のディープウエル工法には、以下に説明する技術的な課題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】すなわち、ディープウエル工法では、集水用鋼管の配置位置は、設計上、構築する構造物の柱部材や梁部材と干渉しないように、掘削内部あるいは掘削外部に配慮して設定されている。
【0006】ところが、掘削内部に設置した場合には、掘削の進行に伴って、掘削面が深くなると、集水用鋼管が掘削面から上方に徐々に露出して、立ち上がった状態になり、このような状態になると、重機の運行作業などに障害を及ぼし、作業能率が悪化する一因になっていた。
【0007】また、外部設置の場合には、設置用地の確保が必要になる。
【0008】本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、作業能率の低下要因とならなず、かつ、安価な地下水の排水方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、地盤中に地中壁を構築し、地下水位を低下しつつ前記地中壁の内部側を掘削する際に、前記地中壁中に排水手段を内蔵させ、この内臓排水手段を介して前記地下水位を低下させるようにした。このように構成した地下水の排水方法によれば、地中壁中に地下水位を低下させるための排水手段を内蔵させているので、従来のディープウエル工法の集水用鋼管のように、掘削作業時の重機の運行に影響を及ぼすことがない。前記排水手段は、前記地中壁の下端側に設けられ、地下水を集水する集水部と、一端が前記集水部に連通し、前記地中壁の内部に垂設されて他端側が地上に延設される排水管と、前記排水管の下端に設置される排水ポンプ、または、前記排水管の他端側に接続される吸引ポンプとを有し、前記集水部と排水管とを前記地中壁構築用の鉄筋籠に係止することができる。この構成によれば、地中壁構築用の鉄筋籠に集水部と排水管とを係止して建て込むので、地中壁の構築と同時に、排水手段をその内部に内臓させることができ、排水手段の形成を効率よく行うことができる。前記集水部は、前記地中壁の外面側に一端開口が配置されるケーシングと、前記ケーシングの底面に沿った通路を隔成するように内部に設置される透水プレートと、前記透水プレート上に載置されて、前記ケーシング内に収納される透水性のフィルター層と、前記フィルター層の前面側を覆うように設けられ、前記地中壁の掘削壁面に当接する温水溶解性の遮水シートとで構成することができる。このように構成した集水部によれば、温水溶解性の遮水シートは、所定温度の温水に接触するまでは、遮水性を有しているので、打設コンクリートや泥水がフィルター層に侵入することを防止することができる。前記温水溶解性の遮水シートは、溶解温度の選択が可能な合成樹脂シートから構成され、前記溶解温度を前記打設コンクリートの水和反応時の上昇温度に対応させて設定することができる。この構成によれば、打設コンクリートの硬化が始まり、セメントの水和反応により泥水の温度が上昇すると、この温度上昇により、打設コンクリートの水和反応時の温度に設定した温水溶解性の遮水シートを自動的に溶解させることができる。この場合、打設コンクリートの水和反応により温度が上昇する段階においては、打設コンクリートの硬化が開始されていて、その流動性が殆どなくなっているので、遮水シートを溶解させても、コンクリートが回り込んでフィルター層に侵入することはない。前記溶解温度を前記打設コンクリートの水和反応時の上昇温度以上に設定し、前記排水管を介して、前記溶解温度に過熱した温水を前記ケーシング内に供給することができる。この構成の場合には、溶解温度が打設コンクリートの水和反応時の上昇温度以上に設定されているので、時期や気候によって若干変動する打設コンクリートの水和反応時の上昇温度に応じて溶解させる場合よりも、溶解の確実性を増すことができる。前記排水手段は、前記排水管の下端側に内臓設置される排水ポンプ、または、前記排水管の他端側に接続される吸引ポンプのいずれかから選択することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面を参照にして詳細に説明する。図1から図3は、本発明にかかる地下水の排水方法の一実施例を示している。
【0011】同図に示した排水方法は、地盤10中に地中壁12を対向するように構築し、地下水位を低下しつつ地中壁12の内部側を掘削する際に採用される。地中壁12は、例えば、地中連続壁工法で構築される止水性のものであって、地中に掘削溝14を掘削形成し、鉄筋籠を掘削溝14内に建て込んだ後に、コンクリートを打設して形成される。
【0012】このとき、本実施例の排水方法では、地中壁12中に排水手段16が内蔵され、この内蔵された排水手段16により地下水位が低下される。内蔵される排水手段16は、集水部18と、排水管20と、図示省略の吸引ポンプとを備え、地中壁12の延設方向に沿って、所定の間隔を隔てて複数配置されている。
【0013】集水部18は、地中壁12の下端内面側にあって、地中壁12の延設方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられている。なお、本実施例では、集水部18は、一対の地中壁12の対向する内面側にだけ設けているが、各地中壁12の外面側にも配置することができる。
【0014】集水部18の詳細を図2,3に示している。同図に示した集水部18は、ケーシング18aと、透水性のフィルター層18bと、温水溶解性の遮水シート18cとを有している。
【0015】ケーシング18aは、掘削溝14の掘削壁面側に一端開口が配置される偏平な鋼鈑で形成した角箱形状のものであって、底面の上方に通路空間18dを隔成する透水プレート18eが、所定の間隔を隔てて固設されている。
【0016】この透水プレート18eは、例えば、多数の孔やスリットを穿設した板材や金網などが用いられる。フィルター層18bは、透水プレート18e上に載置するようにして、ケーシング18a内に収納されていて、例えば、比較的径の太いコイル状合成樹脂繊維をランダムに絡ませたものであって、コスモジオマット(東洋紡績株式会社製、商品名)を用いることができる。
【0017】温水分解性の遮水シート18cは、所定温度の温水に接触することにより、溶解されるものであって、例えば、溶解温度の選択が可能な合成樹脂シート、ソルブロン(株式会社ニチビ製、商品名)を用いることができる。
【0018】本実施例の場合には、遮水シート18cの溶解温度は、掘削溝14内に打設するコンクリートの水和反応時の上昇温度に対応して溶解するもの、例えば、溶解温度が20℃程度のものが用いられている。
【0019】また、この遮水シート18cは、ケーシング18a内に収納されているフィルター層18bの外表面を覆うようにして、ケーシング18aに係止される。なお、この場合、遮水シート18cは、ケーシング18a内に収納されているフィルター層18bの外周を包むように設けることもできる。
【0020】排水管20は、中空円筒状の鋼管などで構成され、地中壁12の鉛直方向に垂設されていて、下部側がケーシング18aの背面に沿ってその下端に到達するように配置されている。
【0021】排水管20は、ケーシング18aの背面に沿った下部側が集水部18の通路空間18dと複数個所で連通し、上端側は、地上部まで延設されていて、この上端側に図示省略の吸引ポンプが連通接続される。
【0022】なお、排水管20からの地下水の排出手段は、この吸引ポンプに限ることはなく、例えば、排水管20の下端に排水ポンプを内蔵させることもできる。
【0023】上記構成の集水部18および排水管20は、地中壁12を構築する際に、掘削溝14内に建て込まれる鉄筋籠の所定個所に係止されて、鉄筋籠と共に掘削溝14内に建て込まれ、その後掘削溝14内にコンクリートを打設することにより地中壁12が構築される。
【0024】そして、本実施例の場合には、打設したコンクリート中のセメントの水和反応により、泥水が所定の温度まで上昇すると、集水部18の温水分解性の遮水シート18cが打設コンクリートの硬化の初期に溶解し、フィルター層18bが露出する。
【0025】フィルター層18bが露出すると、排水管20に接続されている吸引ポンプ、または、排水ポンプを駆動すると、フィルター層18bを介して、地盤中の地下水が吸引されて、排水管20から外部に排出される。
【0026】このような排水を継続すると、地下水位が徐々に低下し、地中壁12の内部掘削が、開削状態で行える。
【0027】このように構成した地下水の排水方法によれば、地中壁12中に地下水位を低下させるための排水手段16を内蔵させているので、従来のディープウエル工法の集水用鋼管のように、掘削面から突出して、掘削作業時の重機の運行に影響を及ぼすことがなく、施工能率の低下の一因となっていた要因を排除することができる。
【0028】また、本実施例の場合には、地中壁12の構築用の鉄筋籠に集水部18と排水管20とを係止して、掘削溝14内に建て込むので、コンクリートを打設して地中壁12を構築すると同時に、排水手段16をその内部に内臓させることができ、排水手段16の形成を効率よく行うことができる。
【0029】さらに、本実施例の集水部18によれば、温水溶解性の遮水シート18cは、所定温度の温水に接触するまでは、遮水性を有しているので、打設コンクリートや泥水がフィルター層に侵入することを防止することができる。
【0030】また、本実施例の遮水シート18cは、溶解温度の選択が可能な合成樹脂シートから構成され、溶解温度を前記打設コンクリートの水和反応時の上昇温度に対応させて設定しているので、打設コンクリートの硬化が始まり、セメントの水和反応により泥水の温度が上昇すると、この温度上昇により、打設コンクリートの水和反応時の温度に設定した温水溶解性の遮水シート18cを自動的に溶解させることができる。
【0031】この場合、打設コンクリートの水和反応により温度が上昇する段階においては、打設コンクリートの硬化が開始されていて、その流動性が殆どなくなっているので、遮水シート18cを溶解させても、コンクリートが回り込んでフィルター層bに侵入することはない。
【0032】なお、温水溶解性の遮水シート18cの溶解温度は、打設コンクリートの水和反応時の上昇温度以上にも設定することができ、このような溶解温度に設定した場合には、打設コンクリートの硬化初期に、排水管20を介して、溶解温度に過熱した温水をケーシング18a内に送りこみ、この温水の供給により遮水シート18cを溶解させることもできる。
【0033】この構成の場合には、溶解温度が打設コンクリートの水和反応時の上昇温度以上に設定されているので、時期や気候によって若干変動する打設コンクリートの水和反応時の上昇温度に応じて溶解させる場合よりも、溶解の確実性を増すことができる。
【0034】
【発明の効果】以上、実施例で詳細に説明したように、本発明にかかる地下水の排水方法によれば、作業能率の低下を招くことなく、また、用地の制約を受けることなく、安価に、かつ、円滑に地下水位を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる地下水の排水方法の一実施例を示す施工状態の断面説明図である。
【図2】図1の要部斜視図である。
【図3】図2の断面図である。
【符号の説明】
10 地盤
12 地中壁
14 掘削溝
16 排水手段
18 集水部
18a ケーシング
18b フィルター層
18c 遮水シート
18d 通路空間
18e 透水プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 地盤中に地中壁を構築し、地下水位を低下しつつ前記地中壁の内部側を掘削する際に、前記地中壁中に排水手段を内蔵させ、この内臓排水手段を介して前記地下水位を低下させることを特徴とする地下水の排水方法。
【請求項2】 前記排水手段は、前記地中壁の下端側に設けられ、地下水を集水する集水部と、一端が前記集水部に連通し、前記地中壁の内部に垂設されて他端側が地上に延設される排水管と、前記排水管の下端に設置される排水ポンプ、または、前記排水管の他端側に接続される吸引ポンプとを有し、前記集水部と排水管とを前記地中壁構築用の鉄筋籠に係止することを特徴とする請求項1記載の地下水の排水方法。
【請求項3】 前記集水部は、前記地中壁の外面側に一端開口が配置されるケーシングと、前記ケーシングの底面に沿った通路を隔成するように内部に設置される透水プレートと、前記透水プレート上に載置されて、前記ケーシング内に収納される透水性のフィルター層と、前記フィルター層の前面側を覆うように設けられ、前記地中壁の掘削壁面に当接する温水溶解性の遮水シートとを有することを特徴とする請求項2記載の地下水の排水方法。
【請求項4】 前記温水溶解性の遮水シートは、溶解温度の選択が可能な合成樹脂シートから構成され、前記溶解温度を前記打設コンクリートの水和反応時の上昇温度に対応させて設定することを特徴とする請求項3記載の地下水の排水方法。
【請求項5】 前記溶解温度を前記打設コンクリートの水和反応時の上昇温度以上に設定し、前記排水管を介して、前記溶解温度に過熱した温水を前記ケーシング内に供給することを特徴とする請求項3記載の地下水の排水方法。

【図3】
image rotate


【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開2001−20291(P2001−20291A)
【公開日】平成13年1月23日(2001.1.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−197351
【出願日】平成11年7月12日(1999.7.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)