説明

地下水の浄化装置および浄化方法

【課題】地下水の浄化装置では、掘削した井戸中に浄化材を投入する際に、浄化材下部にポンプを配置し、浄化材に地下水を接触させていたが、メンテナンスが容易でなく、また地下水中にポンプが常時浸漬されているので耐久性にも問題があった。
【解決手段】化学物質で汚染された土壌を浄化する浄化装置であって、浄化材を収容した筒状容器と、前記筒状容器を懸垂するワイヤと、前記ワイヤを上下運動させる振動手段を有する浄化装置およびこれを用いた浄化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質に汚染された地下水を浄化し、地下水の浄化を通じて汚染された土壌も浄化するための浄化装置および浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ハロゲン化合物等の溶解性の高い溶媒は、半導体を初めとする電子デバイスの製造工程で、多用される物質である。しかし、そのような物質を使用したために工場の敷地内や元工場のあった場所がこれらの物質で汚染されることがある。このような汚染はその土地の土壌を汚染するだけでなく、地下水をも汚染することになり、環境汚染の問題となる。したがって、汚染された土壌や地下水は浄化を行う必要がある。
【0003】
汚染された土壌や地下水を浄化する方法としては、いくつかの方法が提案されている。例示すると、バイオレメディエーション法、揚水曝気法、石灰法、鉄粉法、土壌掘削置換法などが挙げられる。バイオレメディエーション法は、土壌中の微生物によって汚染物質を分解する方法である。費用的には安いが、浄化の時間は長い時間が必要となる。
【0004】
土壌掘削置換法は、汚染された土壌をそっくり入れ替えるものなので、時間的には短期間で可能であるが、汚染が広がった地域の土壌をそっくり掘り返して、浄化されていない土壌と入れ替えるので、コストは高い。
【0005】
石灰法や鉄粉法は、汚染土壌を掘り返して入れ替えるものではないが、化学物質を利用して、微生物に頼るより、より積極的に浄化を進める方法である。これらの方法は、鉄粉が、トリクロロメタンといった塩化物を塩素ガスと炭酸ガスに分解する触媒的な作用を発揮することを利用する。より具体的には、汚染された土壌に井戸を掘り、そこに流れる地下水に、細かく粉砕した鉄粉等を接触させ、地下水中の汚染物質を分解することで、地下水自体と付近の土壌も浄化するものである。
【0006】
特許文献1には、この発明の一例が開示されている。図7を参照して、概略を説明すると、汚染土壌のある土地90に井戸91を遮水層92まで掘る。井戸91の内壁面93は、砂岩などの水を通過させる物質で構成しておく。そして、井戸中の滞水層94の地下水95にステンレス鋼粉と鉄粉の混合した浄化材を充填した筒状容器100をワイヤ102を介して沈める。
【0007】
筒状容器100の下部にはポンプ101が配設されていて、ポンプ101が地下水を筒状容器100内に送水することで、浄化材と地下水95を接触させる。浄化された地下水は、井戸の内壁面93を通過して周囲の土壌に広がり、井戸内にはまた汚染された地下水が入ってくる。汚染された土地の複数個所にこのような井戸を設置することで、土壌も地下水も浄化するものである。なお、ポンプ101の電源等(図示せず)は井戸の外の地上に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−50818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記発明は、地下水を効果的に浄化材に接触させるという点で効果がある。しかし、井戸91の内径が10cm程度であるため、筒状容器100の下部に配設するポンプ101も、小型の物しか取り付けられない。したがって、井戸91の遮水層92から上の滞水層94の深さが深い場合は、一部の深さの地点でだけしか、浄化を実施できないという課題があった。
【0010】
また、狭い井戸91内にポンプ101まで沈降させるので、ポンプ101のメンテナンスが容易でなく、また常時地下水中に沈降しているので、ポンプ101の耐久性に課題があった。
【0011】
また、小型のポンプ101しか沈められないため、上部の筒状容器100内の全ての浄化材に地下水を接触させにくいという課題もあった。小型のポンプ101では流速がそれほど上がらないからである。同時に、ポンプ101の作る水流が確実に筒状容器100内に向いているか否かを確認しにくいという課題もある。例えば、ポンプ101の作る水流が筒状容器100の一方の側面だけに向いている場合もあるからである。
【0012】
また、ポンプ101の水流が遅いと、筒状容器100の上方に配置された浄化材まで地下水が届かないおそれもある。浄化材は、大きさが数百ミクロンから数ミリ程度の小粉末であるので、水流にとっては、大きな抵抗となりえるからである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題に鑑みて想到されたものであり、浄化材をより効率的に地下水に接触させ、また、メンテナンスの容易性、装置の耐久性を向上させた浄化装置とそれを用いた浄化方法を提供するものである。
【0014】
具体的に本発明の浄化装置は、
化学物質で汚染された土壌を浄化する浄化装置であって、
浄化材を収容した筒状容器と、
前記筒状容器を懸垂するワイヤと、
前記ワイヤを上下運動させる振動手段を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の浄化方法は、
井戸を掘る工程と、地上に設けた振動手段により、浄化材を収納した筒状容器を前記井戸中の設定位置までワイヤで降下させる工程と、前記振動手段により前記井戸中の地下水中で前記ワイヤを介して前記筒状容器と前記浄化材を上下に振動させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の浄化装置若しくは浄化方法は、浄化材を地下水中で上下に振幅運動させることで地下水と浄化材を接触させ、浄化を行う。したがって、浄化材以外の駆動部分は、全て地上の井戸の外に配置することができ、メンテナンスが容易になる。
【0017】
また、電気的な駆動部分が地下水中に浸漬していないので、故障が起こりにくく、耐久性に優れる。また、地下水中で浄化材を自由落下させることで、浄化作業中に浄化材を攪拌することができ、効果的に地下水と浄化材を接触させることができる。
【0018】
また、浄化材を地下水中で上下に振動させるため、筒状容器を通過する流路に偏りが生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の浄化装置の構成を示す図。
【図2】本発明の振動手段の一例を示す図。
【図3】本発明の筒状容器の構成を示す図。
【図4】筒状容器の変形例を例示する図。
【図5】本発明の制御装置の処理フローを例示するフロー図。
【図6】本発明の処理フローの変形を例示するフロー図。
【図7】従来の地下水の浄化装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の浄化装置を図を参照して説明する。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を例示するのであり、下記説明に限定されるものではない。したがって、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、変更されてもよい。
【0021】
図1は本発明の浄化装置が利用される場合の全体構成を示す図である。本発明の浄化装置1は、浄化材を充填される筒状容器2と、筒状容器2に充填される浄化材と、筒状容器2を上下に振動させる振動手段3を有する。
【0022】
本発明の浄化方法は、浄化する土地90にまず井戸91を掘る。井戸91の大きさは特に限定されないが、井戸91の底は遮水層92に到達するのが好ましく、数十m程度の井戸を掘ることを考慮すると、直径数十mm以上の穴でないと、掘削パイプの強度が持たない。また、井戸91の内壁面93は透水性の補強材で形成するのがよい。井戸91の崩落を防止し、なおかつ、地下水の流動を妨げないようにするためである。
【0023】
次に、井戸91の入口に振動手段3を設置する。本発明では、浄化材を充填した筒状容器2以外の駆動部分や制御部分は全て地上にある。それらの装置は数日から数週間に渡って、設置されるので、風雨にさらされないように、振動手段3を囲うように小屋を設置してもよい。
【0024】
浄化材を充填された筒状容器2は、ワイヤ4を介して振動手段3に連結され、井戸91中に懸垂される。筒状容器2は井戸91中の地下水95に浸漬された状態で、上下に振動される。上下に振動する筒状容器2中の浄化材が地下水に接触することで汚染された地下水の浄化が行われる。
【0025】
次に図2を参照して、振動手段3について詳説する。本発明の振動手段3は、筒状容器2を吊り下げるワイヤ4と、ワイヤ4が巻きつけられた巻きつけ軸10と、巻きつけ軸10が回転軸として固定された大径ギア11と、大径ギア11に係合した小径ギア12と小径ギア12の回転中心に駆動軸を固定された可変速モータ13(以後単に「モータ」ともいう)と、モータ13に電力を与える電源14と、モータ13の回転速度を制御する制御装置20とを含む。
【0026】
筒状容器2を吊り下げるワイヤ4は、張力に強く、耐腐食性を有するものが好ましい。筒状容器2は数日から数週間、汚染された地下水中に浸漬されながら上下運動を繰り返すからである。
【0027】
ワイヤ4を巻き上げる巻きつけ軸10は、両端を回転可能に支持された状態で、軸の中央部付近でワイヤ4を巻き上げ若しくは繰り出しの回動運動を繰り返す。したがって、十分な曲げ応力を有することと、耐摩耗性を有することが必要である。ワイヤ4が同じ位置で巻きついたり、解かれたりするため、巻きつけ軸10は磨耗しやすくなるからである。なお、巻きつけ軸10は、ワイヤ4を固定するために、中央部付近に直径方向に貫通孔若しくは、巻きつけ軸10側面から垂直方向に突設された突起が形成されていてもよい。
【0028】
なお、ワイヤ4の繰り出し部分には、繰り出した(若しくは巻き上げた)ワイヤ長を知るためにモニタローラ15とカウンタ16が設置されていれば望ましい。ワイヤ4は巻きつけ軸10に巻き取られていくと巻き付き半径が変わるため、巻きつけ軸10の回転数だけでは繰り出したワイヤ4の長さが正確に計測できないからである。
【0029】
巻きつけ軸10が回転軸として固定された大径ギア11および大径ギア11に係合する小径ギア12は、巻き上げトルクの確保と減速のためのギアである。したがって、それぞれのギア数の比(ギア比)は、使用されるモータ13等の条件で適宜決められて良い。
【0030】
小径ギア12の回転中心に駆動軸13aを固定されたモータ13は、十分なトルクと回転方向および回転速度を制御できるステッピングモータが好適に利用できる。本発明の浄化装置1では、浄化材が充填された筒状容器2を上下に振幅運動させるが、その振幅、振幅中心深さ、振幅速度を変更させることが出来るようにするのが、特徴の1つであるからである。
【0031】
可変速モータ13への電源14と可変速モータ13を制御する制御装置20も特に限定されるものではない。電源14は、自発電電源であってもよい。制御装置20は、MPU(Micro Processer Unit)とメモリを利用したものが好適に用いられる。本発明の浄化装置1では、筒状容器2の上下運動をさせるのに、いくつかのパラメータの組み合わせができるようにするからである。また、制御装置20は、モータ13からのトルク情報Stと、ワイヤの繰り出し部に設定されたモニタローラの回転数情報Scを得る事ができる。
【0032】
モニタローラ15は、ワイヤ4を挟むように挟持した3つのローラからなり、ワイヤ4の繰り出し方向と直角方向に移動可能に支持されている。ワイヤ4は巻きつけ軸10の中央付近に所定の幅で巻きつけられるので、繰り出し(若しくは巻き上げ)でワイヤ4の繰り出し位置は移動するからである。カウンタ16は、モニタローラ15のうちの少なくとも1つのローラの回転をカウントし、制御装置20に通知する。モニタローラ15からの回転数情報Scは、繰り出した(若しくは巻き上げた)ワイヤ4の長さを知ることができ、また、制御装置20自身が内部に有するタイマによって繰り出し(若しくは巻き上げ)速度を知ることが出来る。
【0033】
なお、図2に示すように、ワイヤ4の位置ずれやワイヤ4とモニタロータ15との接触劣化などの不都合に対応するために、接触式のモニタロータ15、カウンタ16に代えて、赤外線受発光または磁力検知を用いた公知の非接触式の検出ユニット15a、16aを使用してもよい。例えば、符号16aを赤外線受発光装置とした場合は、符号15aを反射鏡等とする。また、符号16aを磁力検知装置とした場合は、符号15aは磁石とする。
【0034】
検出ユニットにおいて符号15aは巻きつけ軸10に延設されたフランジ10bに固定され、巻きつけ軸10が回転する毎に検出ユニット16aが回転を検知し、回転情報Scとして制御装置20に通知する。したがって、モニタロータ15とカウンタ16か、検出ユニット15a、16aのいずれかを装備していることが望ましい。
【0035】
次にこれらを用いた振動手段3の構成を説明する。掘削した井戸91の穴を囲むようにフレーム30を設置し、ボルト等35で固定する。フレーム30には、井戸91の穴を跨ぐ位置に支持支柱31a、31bが形成され、支持支柱31a、31bには、ベアリング32a、32bが固定されている。ベアリング32a、32bには、巻きつけ軸10のシャフト10aが貫挿され、回転可能に支持されている。巻きつけ軸10の一端は支持支柱31a、31bから井戸91の外側に延設されており、端部に大径ギア11が固定されている。大径ギア11には小径ギア12が係合されている。小径ギア12の回転軸は、可変速モータ13の駆動軸13aに固定されており、可変速モータ13はフレーム30に固定されている。可変速モータ13には電源14からの電源ライン14a、14bおよび、制御装置20からの制御線21が結接されている。振動手段3の動作については、後述する。
【0036】
なお、振動手段3は、浄化材を充填した筒状容器2を掘削した井戸91内で上下に振動させることができれば、上記の構成に制限されるものではないのは言うまでもない。
【0037】
次に図3を参照して、筒状容器2の詳細を説明する。筒状容器2は、高さ方向の軸49に沿って断面形状がほぼ同じとなる形状を有する。したがって、軸49に垂直な断面は完全な円に限定されることなく、多角形や楕円であってもよい。外面40は、ステンレスなどの耐腐食性の高い材質で形成されており、断面中央付近に上部から下部に至る貫通路41が形成されている。上方から下方に向かって、若しくは下方から上方に向かって地下水を流す流路を確保するためである。
【0038】
そして、外面40の内壁面40aから筒状容器2の軸49方向に空間が確保され、軸49に近い側の境界には仕切り42が形成されている。すなわち、筒状容器2の外面40の内壁面40a側には外郭容器部43が形成されている。仕切り42は、通水性を有するのが望ましい。筒状容器2の中央付近を流れる地下水が外郭容器部43によく流れるためである。また、外郭容器部43内に、筒状容器2の軸49に垂直方向にも仕切り43aが設けられていても良い。外郭容器部43内を複数の区画に分けるためである。
【0039】
特に、筒状容器2の上下の端面40b、40cは、全面が通水性の仕切り43b、43cで形成されているのが好ましい。外郭容器部43から浄化材がこぼれ落ち、筒状容器2から脱落するのを防止するためである。なお、図3で仕切り43cは網目状になっていないが、網目状の仕切りであってもよい。
【0040】
筒状容器2の上部の外面40には、ワイヤ4を連結するための連結環44が形成されている。連結環44は、外面40の周囲に複数個設けられていてもよく、それぞれの連結環44にワイヤを連結させ、それをまとめてワイヤ4として筒状容器2を懸垂する。
【0041】
また、筒状容器2の上端部の直径をまたぐように牽引環45が形成されていてもよい。万一、ワイヤ4が切断し、筒状容器2が井戸91の底に落下した場合に、上から牽引鉤で引き上げることができるためである。
【0042】
図4には、筒状容器2の変形例の平面図を示す。図4(a)では、円形でない貫通路41aを有する筒状容器2aを示す。貫通路41aは、地下水の流路であるので、筒状容器2aの上下方向にほぼ平行に形成されていればよく、断面形状は円形でなくてもよい。図では、断面が正方形の場合を示したが、他の多角形や楕円形状であってもよい。
【0043】
図4(b)には、貫通路41中にノーズコーン46を配した例を示す。ノーズコーン46は貫通路41中を流れる地下水を外郭容器部43に流す役割をする。例えば、下方から上方に向かって地下水が流れる場合(60)、筒状容器2の下部に充填された浄化材58には地下水60は勢いよく当たるが、流れ抵抗によって地下水60は中央の貫通路41に戻される(61)。そこで、筒状容器2の貫通路41のほぼ中央部にノーズコーン46を配置して再度外郭容器部43に流そう(62)というものである。なお、符号58は、浄化材を充填した不織布の袋である。
【0044】
また、図4(c)を参照して、浄化材を充填する容器部は筒状容器2の中央付近に形成されていてもよく、この場合は外郭容器部43に加えて中心容器部47が形成される。そして貫通路41cは、外郭容器部43と中心容器部47の間に形成される。
【0045】
また、図4(d)を参照して、筒状容器2の下端部には、先細形状の蓋部50を、上端部には、フラップ51が配置されていてもよい。この場合は、蓋部50を開けて、蓋部50方向から浄化材を充填する。先細形状の蓋部50は、筒状容器2を降下させる際の水抵抗を低減し、貫通路41を流れる地下水の流速を高める役目を行う。一方、上端部のフラップ51は、筒状容器2の外面40と蝶番(図示せず)によって連結されている。そのため、筒状容器2が降下する際には、外面40に沿うように位置し、流れ抵抗にならない。また、筒状容器2が引きあげられる際には、所定角度まで開いて、筒状容器2内に多くの地下水が流れ込むように働く。
【0046】
浄化材は、大きさが数百ミクロンから数ミリの大きさに形成されたもので、鉄、ステンレス、シリコンスラッジが好適に用いられる。これらの浄化材は、そのまま筒状容器2に充填してよい。また、布若しくは不織布の小袋単位に詰められていてもよい。取扱や交換が便利であるからである。なお、浄化材が小袋単位に詰められている場合は、外面40に地下水が漏れ出る孔が形成されていてもよい。粒状の浄化材が筒状容器2から脱離するおそれが少ないからである。
【0047】
次に本発明の地下水浄化装置1の運転について説明する。すでに説明したように、浄化しようとする土壌には、遮水層92に至るまでの井戸91が掘削してある。そして井戸91の穴上にフレーム30を配置し、ギア(11、12)およびモータ13が配置されている。筒状容器2には、小袋単位で浄化材が詰められて、筒状容器2内に区画に分けられた外郭容器部43に配置されている。また、予め井戸91の底までの深さと井戸の穴口から地下水面までの深さは測定されているものとする。
【0048】
図2の振動手段の構成図および図5のフローを参照して、本発明の浄化装置1の運転について説明する。筒状容器2が井戸の中に入れられ、制御装置20がスタートすると、運転が開始される(S100)。運転が開始されると、筒状容器2は、設定された深さ(D0)まで降下される(S102)。次に、設定された振幅A0および振幅速度V0で振幅運動が行われる(S104)。
【0049】
この時、制御装置20は、筒状容器2の実際の運動(振幅A0および振幅速度V0)を、カウンタ16からのワイヤ4の繰り出し長さ等の情報Scおよび制御装置20が内部に有するタイマによって知る。また、実際の運動を設定値通りに行わせるために、モータ13に駆動軸の回転量、回転方向、回転速度といったコマンドCmで指示する。
【0050】
この運動は設定された運転時間が経過するまで継続される。ステップS106では経過時間(t)と予め設定された時間(Tset)の大小が比較され、設定時間内であれば(S106のN分岐)、再び振動させる(S104に戻る)。そして設定された運転時間が終了すると(S106のY分岐)、筒状容器2を巻き上げて(S108)停止する(S110)。もちろん、運転停止スイッチが押されるなどの割り込み処理が行われたときには、運転を中止するようにしてもよい。
【0051】
また、制御装置20は、モータ13からトルクに関する情報Stを受け取るので、このトルクを見る事でワイヤ4の切断が把握できる。モータ13にかかる負荷が突然なくなるからである。その際は、制御装置20のモニタ画面や、スピーカーでワイヤ4の切断を通知してもよい。
【0052】
またこの時、落下速度Vdと引き上げ速度Vuを変化させてもよい。特に筒状容器2を降下させる時は、水中での落下速度以上の速度でワイヤ4を繰り出すのが好ましい。水中での自由落下速度以上の速度でワイヤ4を繰り出すと、筒状容器2は水中で自由落下する。なお、ここで水中での自由落下とは、筒状容器2が水の抵抗を受けて井戸の中を落下する速度をいう。すると、筒状容器2内の浄化材は無重力状態となり、浄化材同士の間に隙間ができやすくなり、地下水とより接触しやすくなるからである。また、振動運動の度毎に、浄化材を攪拌し、位置を変える事ができる。これによって、よりフレッシュな面を地下水に接触させやすくする。
【0053】
以上のように本発明では、浄化材を充填した筒状容器2を井戸91中で上下に振動運動させるので、水流の通路が偏ることがないので、浄化材は必ず地下水と接触し、確実な浄化活動が保証される。
【0054】
基本的に本発明の浄化装置1は、上記のような運転を基本とするが、さらに振幅の中心点と、振動幅、および振動速度を運転時間毎に変化させてもよい。図6にはこのような運転のフローを例示する。運転がスタートすると(S200)、筒状容器2は所定深さ(D0)まで井戸中を下ろされる(S202)。所定深さD0まで到達したら、最初の振幅A0および振動速度V0で振動を開始する(S204)。次に所定時間経過したら(S206のY分岐)、次の深度(D1)まで筒状容器を下ろし(S208)、次に設定された振幅A1および振動速度V1で振動を開始させる(S210)。この時、最初の振幅A0および振動速度V0と2度目の振幅A1および振動速度V1は同じでなくてよい。
【0055】
図6に示すように、上記の処理フローは所定深さに設置し、所定の振幅と所定の振動速度で振動させるという工程を2つ示している。最初の工程(P1)と次の工程(P2)は、この2つに限定されることなく、自由な回数だけ選択してもよく、またそれぞれの深度、振幅、振動速度といったパラメータも、工程毎に選択して構わない。すなわち、振幅、振動速度といったパラメータは、振動中心となる設定深さ毎に変化させてもよい。
【0056】
本発明は、筒状容器の井戸中での深度を井戸外から変化させることができるので、このような運転のバリエーションが可能になる。したがって、水圧の少ない地下水面から浅い領域では、細かくまた素早く振動させ、井戸の底に近く水圧の高い領域では比較的ゆっくりと大きな振幅で振動させるといった運転が可能となる。
【0057】
本発明の浄化装置では、筒状容器の上げ下げを制御する振動手段が全て井戸の外の地上にあるため、振動手段に故障が生じた場合でも、筒状容器を引き上げる必要なく、修理や対応が可能である。また、万一、ワイヤが切れた場合でも、可変速モータのトルクをモニタすることで、その旨を作業者に通知することができる。また、筒状容器の上部に牽引環が設けられている場合は、牽引鉤を井戸中に下げることで、容易に筒状容器を回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の浄化装置及び方法は土壌及び地下水の浄化に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 浄化装置
2 筒状容器
3 振動手段
4 ワイヤ
10 巻きつけ軸
10a シャフト
10b フランジ
11 大径ギア
12 小径ギア
13 可変速モータ
14 電源
15 モニタローラ
16 カウンタ
15a、16a 検出ユニット
20 制御装置
30 フレーム
31a、31b 支持支柱
32a、32b ベアリング
40 外面
40a 内壁面
41 貫通路
42 仕切り
43 外郭容器部
43a 外郭容器部内仕切り
43b 上端部仕切り
43c 下端部仕切り
44 連結環
45 牽引環
46 ノーズコーン
49 軸
58 浄化材の袋
60 地下水
90 浄化する土地
91 井戸
92 遮水層
93 井戸内壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質で汚染された土壌を浄化する浄化装置であって、
浄化材を収容した筒状容器と、
前記筒状容器を懸垂するワイヤと、
前記ワイヤを上下運動させる振動手段を有する浄化装置。
【請求項2】
前記筒状容器は、前記浄化材の収容されない上下に貫通する貫通路を有する請求項1に記載された地下水の浄化装置。
【請求項3】
前記筒状容器は、平面視中心位置に浄化材を収容した中心容器部と、中心容器部を包囲する浄化材を収容した環状の外郭容器部と、前記中心容器部と前記外郭容器部の間に形成される貫通路からなる請求項2記載の浄化装置。
【請求項4】
前記筒状容器は、浄化材を収容した環状の外郭容器部と、前記外郭容器部の中心に位置する貫通路からなる請求項2記載の浄化装置。
【請求項5】
前記振動手段は水平軸中心に回転可能に設けた巻きつけ軸と、前記巻きつけ軸を往復回動させる可変速モータを有する請求項1記載の地下水の浄化装置。
【請求項6】
浄化材としてSiを主成分とするシリコンスラッジを収容してなる請求項1乃至6のいずれかの請求項に記載された地下水の浄化装置。
【請求項7】
前記筒状容器に浄化材を収脱可能な開口部を設け、この開口部に着脱可能な蓋部を有してなる請求項1乃至6のいずれかに記載された地下水の浄化装置。
【請求項8】
蓋部の形状を先細形状とした請求項7に記載の地下水の浄化装置。
【請求項9】
前記筒状容器の上部には、牽引環が形成されている請求項1乃至8のいずれか1の請求項に記載された浄化装置。
【請求項10】
前記振動手段は、前記可変速モータと、前記ワイヤに接触して回転するモニタローラの回転情報を読み取るカウンタと接続されている請求項5乃至9のいずれかの請求項に記載された浄化装置。
【請求項11】
前記振動手段は、前記筒状容器を降下させる際には、前記地下水中での自由落下速度より早い速度で前記ワイヤを繰り出すことを特徴とする請求項10に記載された浄化装置。
【請求項12】
井戸を掘る工程と、
地上に設けた振動手段により浄化材を収納した筒状容器を前記井戸中の設定位置までワイヤで降下させる工程と、
前記振動手段により前記井戸中の地下水中で前記ワイヤを介して前記筒状容器と前記浄化材を上下に振動させる工程を有する地下水の浄化方法。
【請求項13】
前記振動の中心点が固定されていることを特徴とする請求項12に記載された浄化方法。
【請求項14】
前記振動させる工程では、前記浄化材を降下させる際には、前記地下水中での自由落下速度で降下させる請求項12または13に記載された浄化方法。
【請求項15】
前記振動の中心を変化させる工程を有することを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1の請求項に記載された浄化方法。
【請求項16】
前記振動の中心を変化させる工程毎に前記上下の振動の振幅および振動速度を変化させる請求項15に記載された浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−61431(P2012−61431A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208373(P2010−208373)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】