説明

地下水汚染浄化方法

【課題】帯水層内に残留しやすい汚染物質を流動化させ、かつ拡散を抑制しながら揚水する。
【解決手段】帯水層下部に広がっている汚染物質の滞留部に地盤の透水性に適合する多数の注水点を設け、面的な浸透注入を行うことにより、汚染物質を持ち上げ、揚水井へ流動させる。汚染物質の性質に応じて、注入する物質を真水から比重・粘性のある溶液に代えて注入することで、汚染物質の動きを容易にする。真水以外の溶液を注入した場合は、浄化後、真水を注入して、希釈・入れ替えを行うことにより、帯水層を健全な状態に復元する。注入により持ち上げられた汚染物質が不用意に帯水層や不飽和層に拡散することがないように、帯水層上部に真水の面的な浸透注入によるバリヤゾーンを設け、汚染物資を揚水井へ流動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯水層内に残留しやすい汚染物質を流動化させ、かつ拡散を抑制しながら揚水することにより、地下水汚染の浄化を図る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、帯水層内に残留しやすい汚染物質としては、例えば、塗料、印刷インキ、接着剤、洗浄剤、ガソリン、シンナーなどに含まれるトルエン、キシレン、酢酸エチルなどの揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、以下、VOCと称する)や、例えば、重金属、硝酸性窒素および亜硝酸性窒素などがある。
従来、地下水汚染の浄化方法として、揚水により汚染地下水を地表に汲み上げ、浄化し下水放流することが行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
さらに、揚水を促進する方法として、真水の注水を行い、汚染地下水の希釈および入れ替えも行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−323338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、揚水による地下水の移動が起きにくいデッドゾーンや土粒子に付着した汚染物質が残留しやすい状況にあった。特に、揚水水頭線より下にある不透水層に近い場所は、揚水の影響を受けにくく汚染物質が残ってしまうという問題があった。
【0005】
また、注水を行っても、注水井近傍は汚染物質の移動が生じても、揚水・注水の遷移付近では地下水が滞留し、汚染物質の移動が鈍くなる可能性がある。
また、VOCのように比重の大きな汚染物質の場合は、汚染物質より水が軽いために水だけが上方へ流れてしまい、注入した水のみが揚水井に移動し、汚染物質は元のままになる可能性もあった。
【0006】
本発明は斯かる従来の問題点を解決するために為されたもので、その目的は、帯水層内に残留しやすい汚染物質を流動化させ、かつ拡散を抑制しながら揚水することにより、地下水汚染の浄化を図る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、帯水層下部に広がっている汚染物質の滞留部に地盤の透水性に適合する多数の注水点を設け、面的な浸透注入を行うことにより、汚染物質を持ち上げ、揚水井へ流動させることを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1記載の地下水汚染浄化方法において、汚染物質の性質に応じて、注入する物質を真水から比重・粘性のある溶液に代えて注入することで、汚染物質の動きを容易にすることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の地下水汚染浄化方法において、前記比重・粘性のある溶液は、自然界に存在する非汚染物質であり比重が大きく水に溶けやすい塩化カルシウム溶液であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3の何れか記載の地下水汚染浄化方法において、注入により持ち上げられた汚染物質が不用意に帯水層や不飽和層に拡散することがないように、帯水層上部に真水の面的な浸透注入によるバリヤゾーンを設け、汚染物資を揚水井へ流動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、帯水層中に滞留しやすい汚染物質を流動化させ、揚水井からの揚水排出を容易にさせ、地下水汚染の浄化を促進することが可能となる。
本発明により、注水点を帯水層の性質にあわせ、汚染物質を揚水井に誘導するように設けることにより、地下水汚染の浄化を促進することが可能となる。
【0011】
本発明により、比重の大きいVOCのような汚染物質に対しては、浄化後に真水で希釈排出可能な非汚染溶液を用いることにより、地下水汚染の浄化を促進することが可能となる。
本発明により、帯水層中に、流動化した汚染物質が拡散しないように真水によるバリヤを設けることにより、不用意な汚染の拡散を防止するとともに、揚水井への流動を促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態に係る地下水汚染浄化方法を示す図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る地下水汚染浄化方法を示す図である。
【図3】本発明の第三実施形態に係る地下水汚染浄化方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る地下水汚染浄化方法を示す。
本実施形態では、図1(1)に示すように、不透水層に近い場所において、帯水層に形成された汚染物質の滞留部10にから離れた地下水の流れの下流側の地点に揚水井1を設ける。揚水井1内に揚水ポンプ3を配置する。
また、図1(1)に示すように、注水水頭線より下方で、不透水層に近い場所において、帯水層に形成された汚染物質の滞留部10に、帯水層の透水性に適合した間隔で各注水口7が同じ高さで面一となるように多数の第一の注入管5を設ける。
【0014】
次に、図1(2)に示すように、各第一の注入管5から真水を注入し、揚水井1の揚水ポンプ3を駆動する。
この際、各第一の注入管5は、注入量と注入圧を調整することにより、浸透注入を図るように操作される。
そして、汚染物質は各第一の注入管5の各注水口7から注入される真水によって下から持ち上げられて流動化し、揚水ポンプ3による排出を促進する。
【0015】
以上のように、汚染域全体に面的に注水を実施することにより、通常の揚水では動き難い汚染物質を揚水の流動域まで移動させることで、揚水井1から汚染物質を排出することが可能となる。
なお、本実施形態において、帯水層は、上層部の第一帯水層と深部の第二帯水層を総称する用語として定義する。以下の実施形態においても同様である。
【0016】
図2は、本発明の第二実施形態に係る地下水汚染浄化方法を示す。
第一実施形態に係る地下水汚染浄化方法では、多数の第一の注入管5をそれぞれの注水口7が同じ高さで面一となるように配置したが、本実施形態では、汚染物質の滞留部10の厚さに応じ、多数の第一の注入管5のそれぞれの注水口7より地上側にそれぞれの注水口7aが同じ高さで面一になるように第二の注入管5aを設け、下部から順番に注水することにより汚染物質の流動化を促進するようにした。
本実施形態では、第一の注入管5と第二の注入管5aとを用いて2層の注入とした場合について説明したが、汚染物質の滞留部10の厚さに応じて3段、4段とすることも可能である。
【0017】
また、第一実施形態および第二実施形態では、真水を注入する場合について説明したが、汚染物質の性質に応じて、注入する物質を真水から比重・粘性のある溶液(例えば、自然界に存在する非汚染物質であり比重が大きく水に溶けやすい塩化カルシウム溶液)に代えて注入することで、汚染物質の動きを容易にすることもできる。
さらに、地下水中の汚染物質を揚水井から排出した後、浄化に使用した人工溶液を真水により希釈・入れ替えすることにより、本来の帯水層に復元することができる。
従って、浄化に使用する人工溶液は、真水に容易に希釈される非汚染物質とする。
【0018】
図3は、本発明の第三実施形態に係る地下水汚染浄化方法を示す。
本実施形態に係る地下水汚染浄化方法では、注入により持ち上げられた汚染物質が不用意に帯水層や不飽和層に拡散することがないように、帯水層上部に真水を注入する多数の第三の注入管5bを第一の注入管5と同様にそれぞれの注水口7bが同じ高さで面一になるように設ける。
多数の第三の注入管5bによる、真水の面的な浸透注入によるバリヤゾーン15を設け、不用意な汚染の拡散を防止するとともに、揚水井1への流動を図ることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 揚水井
3 揚水ポンプ
5 第一の注入管
5a 第二の注入管
5b 第三の注入管
7,7a,7b 注水口
10 汚染物質の滞留部
15 バリヤゾーン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯水層下部に広がっている汚染物質の滞留部に地盤の透水性に適合する多数の注水点を設け、面的な浸透注入を行うことにより、汚染物質を持ち上げ、揚水井へ流動させることを特徴とする地下水汚染浄化方法。
【請求項2】
請求項1記載の地下水汚染浄化方法において、
汚染物質の性質に応じて、注入する物質を真水から比重・粘性のある溶液に代えて注入することで、汚染物質の動きを容易にすることを特徴とする地下水汚染浄化方法。
【請求項3】
請求項2記載の地下水汚染浄化方法において、
前記比重・粘性のある溶液は、自然界に存在する非汚染物質であり比重が大きく水に溶けやすい塩化カルシウム溶液であることを特徴とする地下水汚染浄化方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか記載の地下水汚染浄化方法において、
注入により持ち上げられた汚染物質が不用意に帯水層や不飽和層に拡散することがないように、帯水層上部に真水の面的な浸透注入によるバリヤゾーンを設け、汚染物資を揚水井へ流動させることを特徴とする地下水汚染浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−115722(P2012−115722A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265207(P2010−265207)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000230788)日本基礎技術株式会社 (15)
【Fターム(参考)】