地盤の耐液状化構造
【課題】従来よりも工費・工期とも低減することができる地盤の耐液状化構造を開示する。
【解決手段】深層混合処理工法によって地盤中に造成される中空筒状の地盤改良体を複数本、間隔を空けて配列し、前記地盤改良体の枠内の地盤および隣合う前記地盤改良体で挟まれた地盤を改良してなる。地盤改良体を平面n行m列(n・mとも2以上の整数)に配列するか、平面千鳥状に配列してなる。さらに、地盤改良体は断面多角形の角筒状であるか、断面円形の円筒状である。
【解決手段】深層混合処理工法によって地盤中に造成される中空筒状の地盤改良体を複数本、間隔を空けて配列し、前記地盤改良体の枠内の地盤および隣合う前記地盤改良体で挟まれた地盤を改良してなる。地盤改良体を平面n行m列(n・mとも2以上の整数)に配列するか、平面千鳥状に配列してなる。さらに、地盤改良体は断面多角形の角筒状であるか、断面円形の円筒状である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、深層混合処理工法を用いた地盤の液状化防止技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
砂質地盤など軟弱地盤の液状化対策として、古くから深層混合処理工法が採用されている。この深層混合処理工法は、セメントなどの固化材を土中にて原地盤土と撹拌混合し、これを固化させることによって土中に地盤改良体を造成するものである。そして、地盤改良体の形状や配置によって、内部を複数の升に仕切った平面格子型の耐液状化構造(特許文献1、2)や、中空円筒状の地盤改良体を複数本、隣接する地盤改良体と密接あるいは一部を重畳させながら列設した全面改良型の耐液状化構造が知られている(特許文献3)。これら従来の耐液状化構造によれば、地盤改良体ごとにその枠内で原地盤土のせん断変形が抑制され過剰間隙水圧の上昇も抑えられるから、地盤改良体を造成したほぼ全範囲で液状化を防止することができる。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−5114号公報
【特許文献2】特開平2−132220号公報
【特許文献3】特開2000−319864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1・2の耐液状化構造は、実質的に中空角筒状の地盤改良体を複数本、隣接する改良体と隔壁を重畳させながら列設して格子状に構成されるもので、円筒状の地盤改良体を複数本列設する特許文献3の耐液状化構造と同様、地盤に多数の地盤改良体を造成するものであるから、多くの固化材と施工数を要し、従って工費が嵩み、工期も長期化するという課題がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、従来よりも工費・工期とも低減することができ、かつ広範囲にわたる地盤の耐液状化構造を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために本発明では、深層混合処理工法によって地盤中に造成される中空筒状の地盤改良体を複数本、間隔を空けて配列し、前記地盤改良体の枠内の地盤および隣合う前記地盤改良体で挟まれた地盤を改良するという手段を用いた。この手段によれば、地盤改良体ごとにその枠内で従来と同様の液状化防止効果が得られると共に、地盤改良体間の地盤(隣合う地盤改良体で挟まれた地盤)についても、後述する実施例から明らかなように、無改良地盤と比べて充分な液状化防止効果が得られる。また、地盤改良体を離間して設置するため、造成本数が少なくて済む。
【0007】
上記手段は、ある一方向に地盤改良体を列設することを含むが、地盤を全面的に改良するには、地盤改良体を平面上、縦横に複数本並設することが好ましい。この手段においては、さらに、地盤改良体を等間隔でn行m列(n・mとも2以上の整数)に配列する平面マトリクス状の配列構造と、地盤改良体の中心線が行方向に一致する一方、列方向では次行の地盤改良体の間隔の中心と一致するような平面千鳥状の配列構造とを選択することができる。前者の配列構造では、地盤改良体の中心線を行方向および列方向ともに一致させることができ、後者の配列構造では、各行の地盤改良体の間隔を等間隔としながら、次行の地盤改良体で前行の地盤改良体の間の地盤を補完的に改良するような作用が得られる。なお、本発明でいう行と列は、概念上、平面の広がりにおける縦と横のならびを意味するが、地盤に対しては何をもって縦というか横というかが定まらないため、具体的な方角を特定するものではない。
【0008】
また、各地盤改良体の造成形状も、内部が中空の筒状であればよく、具体的な外形等は特に限定されないが、断面正方形の角筒状や断面円形の円筒状のものであれば、従来公知の深層混合処理工法によって容易に造成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中空筒状の地盤改良体を間隔を空けて離間的に設置するようにしたので、各地盤改良体の枠内の地盤はもちろん、改良体で囲まれた地盤についても液状化を防止でき、しかも、地盤改良体の造成本数が少なくて済むため、従来よりも低コストで、且つ、短期に施工することができる。また、地盤改良体を等間隔でn行m列に配列した場合、地盤の改良面積を広くすることができ、地盤改良体の中心線を行方向・列方向とも一致させることができて、格子型の耐液状化構造とほぼ同等の液状化防止効果を得ることができる。他方、地盤改良体を千鳥状に配列すれば、行間を詰めて地盤改良体を設置することができるため、液状化防止効果をより高めることができる。さらに、地盤改良体は断面多角形の角筒状や断面円形の円筒状であるため、従来公知の深層混合処理工法によって地盤改良体を容易に造成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、深層混合処理工法によって砂質地盤等の軟弱地盤に中空筒状の地盤改良体を複数本、間隔を空けて造成することで実施される。ここで深層混合処理工法は、固化材の態様やその供給方法、原地盤土との撹拌混合方法等によって幾つかに細分類されるが、本発明の場合、上下面を開放した中空筒状の地盤改良体を土中に造成可能なものであれば、何れの工法をも採用することができる。また、地盤改良体の固化強度や造成深度も従来の工法に倣って決定すればよい。さらに、地盤改良体の具体的形状は、断面ドーナツ状あるいは断面中空の正方形の筒状体が代表的であるが、この他、断面が中空の三角形や六角形等の多角形であってもよい。ただし、多角形とするときは、各周壁の強度が均一となる正多角形とすることが好ましい。
【実施例1】
【0011】
(本構造の基本的条件)
図1、2に示す実施例1は、下層5mが密な砂、その上層10mが中密な砂であり、各層は比体積を均一とし、さらに土被り圧に応じて過圧密比を鉛直方向に分布させたモデル地盤に、長さ11mの地盤改良体P1…P1を4本、等間隔に配列して耐液状化構造を構成したものである。
【0012】
(地盤改良体P1の具体的条件)
地盤改良体P1は、この実施例1の場合、一辺10m四方の中空角筒状であり、壁厚wは1mである。即ち、内部には一辺8m四方の枠が形成される。また、地盤改良体P1は、モデル地盤の土要素を水〜土2相系弾性体で瞬時に置換することにより再現している。
【0013】
(計算条件)
そして、地盤改良体P1…P1の間隔dを2m・3m・4m・5m(以下、この順に「caseA・B・C・D」という。)としたときの地震中および地震後の挙動について、弾塑性モデルの一種であるSYSカムクレイモデルを用いた有限要素法により3次元動的/静的水〜土連成有限変形計算を調べた。計算に用いた有限要素メッシュは、図1の2−2’を中心線とする対称性を仮定して、同図の破線Bで囲んだ部分をモデル化し、図3に示すようなメッシュおよび境界条件を用いた。また、工学的基盤面にあたる地盤下端には、底面粘性境界(Vs=300m/sec)を設定し、地盤両側の同じ高さにある全節点に等変位条件を課した(周期境界)。さらに、地震動は、モデル地盤底面の全節点のx軸方向に八戸波を入力し、計算は上記地震動を与えた後、地盤の圧密が終了するまで実施した。
【0014】
(計算結果)
図4および図5は、caseBについて、図3に示す計測点E1〜E6の深さ5.5mおよび8.5mにおける要素の過剰間隙水圧の経時的変化を示したものであり、無改良地盤の計算結果をも重畳して比較したものである。この結果から、E1〜E6の何れの計測点も、無改良地盤と比べると、過剰間隙水圧の上昇が抑制され、且つ、消散も早いことが分かる。具体的には、過剰間隙水圧がE1で75%、E2〜E4で60%程度、E5・6で85〜90%程度に抑えられていた。
【0015】
caseA〜Dについて、図6は図1における1−1’断面、図7は図1における2−2’断面の圧密終了時の地表面沈下量を示し、図8は図1における点a・bの経時的沈下量を示す。図6、図7の結果から、A〜Dの何れのケースも地盤改良体P1の枠内と枠外で沈下量に若干の違いがあるものの、無改良地盤の場合より沈下量が抑えられていることが分かる。具体的には、caseDの点b以外は、沈下量が無改良地盤の1/2以下に抑制されていた。また、各ケースの沈下量を比較すると、概ねcaseA<caseB<caseC<caseDとなっており、地盤改良体P1の間隔が狭いほど沈下量の抑制効果が大きいことが分かる。さらに、図8の結果からは、A〜Dの何れのケースも無改良地盤より圧密の収束時間が短いことがわかる。
【0016】
図9〜図11はそれぞれ、無改良地盤とcaseBにおける1−1’断面および2−2’断面について、圧密終了時のせん断ひずみ分布を示したものである。この結果からは、無改良地盤では下層でせん断ひずみが大きく、沈下が下部で生じているのに対し、caseBでは地盤改良体P1の枠内および間隔dの上層でせん断ひずみが大きくなっていることが分かる。総合すれば、地盤改良体の枠内はもちろん、隣合う地盤改良体で挟まれた地盤についても充分な沈下抑制効果が確認された。
【実施例2】
【0017】
(本構造の基本的条件および地盤改良体P2の具体的条件)
図12および図13に示す実施例2は、実施例1と同じ条件のモデル地盤に同じ長さ(11m)、同じ壁厚(1m)の地盤改良体P2…P2を複数本配列したものであるが、地盤改良体P2の形状が実施例1とは異なり、この実施例2の場合、外径(外周の直径)10m、内径(内周の直径)8mの中空円筒状である。
【0018】
(計算条件)
そして、4本の地盤改良体P2…P2を間隔dが1m・2m・3m・4mとなるように2行2列のマトリクス状に配列したcase1〜4(図12)について、破線部分を図14の有限要素メッシュにモデル化し、実施例1と同じ計算条件に基づいて有限変形計算を調べた。また、この実施例2では、5本の地盤改良体P2…P2を間隔dが2mの3本の行と2本の行に分け、3本の行の間隔dの中心と2本の行の地盤改良体P2の中心が一致し、且つ、2つの行が共通の円接線上に位置するように千鳥状に配列したcase5(図13)についても調べた。
【0019】
(計算結果)
図15・16は、case1について、図14に示す計測点E1〜E5の深さ5.5mおよび8.5mにおける要素の過剰間隙水圧の経時的変化を示したものであり、同時に無改良地盤の計算結果をも重畳して比較したものである。この結果から、この結果から、E1〜3およびE5の計測点については、無改良地盤と比べるて、過剰間隙水圧の上昇が抑制されていることが分かる。具体的には、過剰間隙水圧がE1〜E3で50〜75%程度、E5で90%程度に抑えられていた。また、これらの計測点は、無改良地盤と比べて過剰間隙水圧が早く消散することが確認された。なお、case1のE4では、無改良地盤と同程度の過剰間隙水圧が発生しているが、無改良地盤と比べてその消散が早い。
【0020】
図17〜19は、case1〜4について、図12における1−1’断面、2−2’断面およびA−A断面の圧密終了時の地表面沈下量を示したものである。また、case5については、図19に図13におけるA−A断面およびB−B断面の沈下量を示している。さらに図20は、図12・13に示した点P・Qにおける沈下の経時的変化を示している。そして、図17〜19の結果から、1〜5の何れのケースも無改良地盤に比べて沈下量が抑制されており、地盤改良体P2の内部では沈下量が約1/3となっていることが分かる。また、地盤改良体P2の間では、各点の最大沈下量がcase5(2cm)<case1(5cm)<case2(6.5cm)<case3(9cm)<case4(11cm)となっており、地盤改良体P2の間隔が狭いほど沈下量が低下傾向を示すことが分かる。さらに、図20の結果から、地盤改良体P2を間隔を空けて配列した地盤は無改良地盤に比べて圧密終了までの時間が早いことが確認される。
【0021】
この他、case2・4・5について圧密終了時のせん断ひずみ分布を求めたところ、図21に示すように、地盤改良体P2の近傍では上層でせん断ひずみが大きくなり、地盤改良体P2から遠ざかるにつれ下層でのせん断ひずみが大きくなることを確認した。総合すれば、この実施例2においても、地盤改良体の枠内はもちろん、隣合う地盤改良体で挟まれた地盤についても充分な沈下抑制効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の実施例1・2によれば、改良地盤の上部でせん断ひずみが大きくなることが確認されたが、他の表層改良工法との併用によって、より高い液状化防止効果を得ることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明構造の実施例1を示す平面図
【図2】図1の1−1’断面図
【図3】実施例1の有限要素メッシュ図
【図4】実施例1(caseB)の過剰間隙水圧の経時的変化を示すグラフ(初期要素中心深さ5.5m)
【図5】実施例1(caseB)の過剰間隙水圧の経時的変化を示すグラフ(初期要素中心深さ8.5m)
【図6】実施例1(図1の1−1’断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図7】実施例1(図1の2−2’断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図8】実施例1(図1の点a・b)および無改良地盤の沈下量の経時的変化を示すグラフ
【図9】無改良地盤のせん断ひずみ分布図
【図10】実施例1(図1の1−1’断面)のせん断ひずみ分布図
【図11】実施例1(図1の2−2’断面)のせん断ひずみ分布図
【図12】本発明構造の実施例2を示す平面図(2行2列構造)
【図13】本発明構造の実施例2を示す平面図(千鳥構造)
【図14】実施例2の有限要素メッシュ図
【図15】実施例2(case1)の過剰間隙水圧の経時的変化を示すグラフ(初期要素中心深さ5.5m)
【図16】実施例2(case1)の過剰間隙水圧の経時的変化を示すグラフ(初期要素中心深さ8.5m)
【図17】実施例2(図1の1−1’断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図18】実施例2(図1の2−2’断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図19】実施例2(図12・13のA−A断面および図13のB−B断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図20】実施例1(図12・13の点P・Q)および無改良地盤の沈下量の経時的変化を示すグラフ
【図21】実施例2(図12の1−1’断面)のせん断ひずみ分布図
【符号の説明】
【0024】
P1・P2 地盤改良体
【技術分野】
【0001】
この発明は、深層混合処理工法を用いた地盤の液状化防止技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
砂質地盤など軟弱地盤の液状化対策として、古くから深層混合処理工法が採用されている。この深層混合処理工法は、セメントなどの固化材を土中にて原地盤土と撹拌混合し、これを固化させることによって土中に地盤改良体を造成するものである。そして、地盤改良体の形状や配置によって、内部を複数の升に仕切った平面格子型の耐液状化構造(特許文献1、2)や、中空円筒状の地盤改良体を複数本、隣接する地盤改良体と密接あるいは一部を重畳させながら列設した全面改良型の耐液状化構造が知られている(特許文献3)。これら従来の耐液状化構造によれば、地盤改良体ごとにその枠内で原地盤土のせん断変形が抑制され過剰間隙水圧の上昇も抑えられるから、地盤改良体を造成したほぼ全範囲で液状化を防止することができる。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−5114号公報
【特許文献2】特開平2−132220号公報
【特許文献3】特開2000−319864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1・2の耐液状化構造は、実質的に中空角筒状の地盤改良体を複数本、隣接する改良体と隔壁を重畳させながら列設して格子状に構成されるもので、円筒状の地盤改良体を複数本列設する特許文献3の耐液状化構造と同様、地盤に多数の地盤改良体を造成するものであるから、多くの固化材と施工数を要し、従って工費が嵩み、工期も長期化するという課題がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、従来よりも工費・工期とも低減することができ、かつ広範囲にわたる地盤の耐液状化構造を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために本発明では、深層混合処理工法によって地盤中に造成される中空筒状の地盤改良体を複数本、間隔を空けて配列し、前記地盤改良体の枠内の地盤および隣合う前記地盤改良体で挟まれた地盤を改良するという手段を用いた。この手段によれば、地盤改良体ごとにその枠内で従来と同様の液状化防止効果が得られると共に、地盤改良体間の地盤(隣合う地盤改良体で挟まれた地盤)についても、後述する実施例から明らかなように、無改良地盤と比べて充分な液状化防止効果が得られる。また、地盤改良体を離間して設置するため、造成本数が少なくて済む。
【0007】
上記手段は、ある一方向に地盤改良体を列設することを含むが、地盤を全面的に改良するには、地盤改良体を平面上、縦横に複数本並設することが好ましい。この手段においては、さらに、地盤改良体を等間隔でn行m列(n・mとも2以上の整数)に配列する平面マトリクス状の配列構造と、地盤改良体の中心線が行方向に一致する一方、列方向では次行の地盤改良体の間隔の中心と一致するような平面千鳥状の配列構造とを選択することができる。前者の配列構造では、地盤改良体の中心線を行方向および列方向ともに一致させることができ、後者の配列構造では、各行の地盤改良体の間隔を等間隔としながら、次行の地盤改良体で前行の地盤改良体の間の地盤を補完的に改良するような作用が得られる。なお、本発明でいう行と列は、概念上、平面の広がりにおける縦と横のならびを意味するが、地盤に対しては何をもって縦というか横というかが定まらないため、具体的な方角を特定するものではない。
【0008】
また、各地盤改良体の造成形状も、内部が中空の筒状であればよく、具体的な外形等は特に限定されないが、断面正方形の角筒状や断面円形の円筒状のものであれば、従来公知の深層混合処理工法によって容易に造成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中空筒状の地盤改良体を間隔を空けて離間的に設置するようにしたので、各地盤改良体の枠内の地盤はもちろん、改良体で囲まれた地盤についても液状化を防止でき、しかも、地盤改良体の造成本数が少なくて済むため、従来よりも低コストで、且つ、短期に施工することができる。また、地盤改良体を等間隔でn行m列に配列した場合、地盤の改良面積を広くすることができ、地盤改良体の中心線を行方向・列方向とも一致させることができて、格子型の耐液状化構造とほぼ同等の液状化防止効果を得ることができる。他方、地盤改良体を千鳥状に配列すれば、行間を詰めて地盤改良体を設置することができるため、液状化防止効果をより高めることができる。さらに、地盤改良体は断面多角形の角筒状や断面円形の円筒状であるため、従来公知の深層混合処理工法によって地盤改良体を容易に造成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、深層混合処理工法によって砂質地盤等の軟弱地盤に中空筒状の地盤改良体を複数本、間隔を空けて造成することで実施される。ここで深層混合処理工法は、固化材の態様やその供給方法、原地盤土との撹拌混合方法等によって幾つかに細分類されるが、本発明の場合、上下面を開放した中空筒状の地盤改良体を土中に造成可能なものであれば、何れの工法をも採用することができる。また、地盤改良体の固化強度や造成深度も従来の工法に倣って決定すればよい。さらに、地盤改良体の具体的形状は、断面ドーナツ状あるいは断面中空の正方形の筒状体が代表的であるが、この他、断面が中空の三角形や六角形等の多角形であってもよい。ただし、多角形とするときは、各周壁の強度が均一となる正多角形とすることが好ましい。
【実施例1】
【0011】
(本構造の基本的条件)
図1、2に示す実施例1は、下層5mが密な砂、その上層10mが中密な砂であり、各層は比体積を均一とし、さらに土被り圧に応じて過圧密比を鉛直方向に分布させたモデル地盤に、長さ11mの地盤改良体P1…P1を4本、等間隔に配列して耐液状化構造を構成したものである。
【0012】
(地盤改良体P1の具体的条件)
地盤改良体P1は、この実施例1の場合、一辺10m四方の中空角筒状であり、壁厚wは1mである。即ち、内部には一辺8m四方の枠が形成される。また、地盤改良体P1は、モデル地盤の土要素を水〜土2相系弾性体で瞬時に置換することにより再現している。
【0013】
(計算条件)
そして、地盤改良体P1…P1の間隔dを2m・3m・4m・5m(以下、この順に「caseA・B・C・D」という。)としたときの地震中および地震後の挙動について、弾塑性モデルの一種であるSYSカムクレイモデルを用いた有限要素法により3次元動的/静的水〜土連成有限変形計算を調べた。計算に用いた有限要素メッシュは、図1の2−2’を中心線とする対称性を仮定して、同図の破線Bで囲んだ部分をモデル化し、図3に示すようなメッシュおよび境界条件を用いた。また、工学的基盤面にあたる地盤下端には、底面粘性境界(Vs=300m/sec)を設定し、地盤両側の同じ高さにある全節点に等変位条件を課した(周期境界)。さらに、地震動は、モデル地盤底面の全節点のx軸方向に八戸波を入力し、計算は上記地震動を与えた後、地盤の圧密が終了するまで実施した。
【0014】
(計算結果)
図4および図5は、caseBについて、図3に示す計測点E1〜E6の深さ5.5mおよび8.5mにおける要素の過剰間隙水圧の経時的変化を示したものであり、無改良地盤の計算結果をも重畳して比較したものである。この結果から、E1〜E6の何れの計測点も、無改良地盤と比べると、過剰間隙水圧の上昇が抑制され、且つ、消散も早いことが分かる。具体的には、過剰間隙水圧がE1で75%、E2〜E4で60%程度、E5・6で85〜90%程度に抑えられていた。
【0015】
caseA〜Dについて、図6は図1における1−1’断面、図7は図1における2−2’断面の圧密終了時の地表面沈下量を示し、図8は図1における点a・bの経時的沈下量を示す。図6、図7の結果から、A〜Dの何れのケースも地盤改良体P1の枠内と枠外で沈下量に若干の違いがあるものの、無改良地盤の場合より沈下量が抑えられていることが分かる。具体的には、caseDの点b以外は、沈下量が無改良地盤の1/2以下に抑制されていた。また、各ケースの沈下量を比較すると、概ねcaseA<caseB<caseC<caseDとなっており、地盤改良体P1の間隔が狭いほど沈下量の抑制効果が大きいことが分かる。さらに、図8の結果からは、A〜Dの何れのケースも無改良地盤より圧密の収束時間が短いことがわかる。
【0016】
図9〜図11はそれぞれ、無改良地盤とcaseBにおける1−1’断面および2−2’断面について、圧密終了時のせん断ひずみ分布を示したものである。この結果からは、無改良地盤では下層でせん断ひずみが大きく、沈下が下部で生じているのに対し、caseBでは地盤改良体P1の枠内および間隔dの上層でせん断ひずみが大きくなっていることが分かる。総合すれば、地盤改良体の枠内はもちろん、隣合う地盤改良体で挟まれた地盤についても充分な沈下抑制効果が確認された。
【実施例2】
【0017】
(本構造の基本的条件および地盤改良体P2の具体的条件)
図12および図13に示す実施例2は、実施例1と同じ条件のモデル地盤に同じ長さ(11m)、同じ壁厚(1m)の地盤改良体P2…P2を複数本配列したものであるが、地盤改良体P2の形状が実施例1とは異なり、この実施例2の場合、外径(外周の直径)10m、内径(内周の直径)8mの中空円筒状である。
【0018】
(計算条件)
そして、4本の地盤改良体P2…P2を間隔dが1m・2m・3m・4mとなるように2行2列のマトリクス状に配列したcase1〜4(図12)について、破線部分を図14の有限要素メッシュにモデル化し、実施例1と同じ計算条件に基づいて有限変形計算を調べた。また、この実施例2では、5本の地盤改良体P2…P2を間隔dが2mの3本の行と2本の行に分け、3本の行の間隔dの中心と2本の行の地盤改良体P2の中心が一致し、且つ、2つの行が共通の円接線上に位置するように千鳥状に配列したcase5(図13)についても調べた。
【0019】
(計算結果)
図15・16は、case1について、図14に示す計測点E1〜E5の深さ5.5mおよび8.5mにおける要素の過剰間隙水圧の経時的変化を示したものであり、同時に無改良地盤の計算結果をも重畳して比較したものである。この結果から、この結果から、E1〜3およびE5の計測点については、無改良地盤と比べるて、過剰間隙水圧の上昇が抑制されていることが分かる。具体的には、過剰間隙水圧がE1〜E3で50〜75%程度、E5で90%程度に抑えられていた。また、これらの計測点は、無改良地盤と比べて過剰間隙水圧が早く消散することが確認された。なお、case1のE4では、無改良地盤と同程度の過剰間隙水圧が発生しているが、無改良地盤と比べてその消散が早い。
【0020】
図17〜19は、case1〜4について、図12における1−1’断面、2−2’断面およびA−A断面の圧密終了時の地表面沈下量を示したものである。また、case5については、図19に図13におけるA−A断面およびB−B断面の沈下量を示している。さらに図20は、図12・13に示した点P・Qにおける沈下の経時的変化を示している。そして、図17〜19の結果から、1〜5の何れのケースも無改良地盤に比べて沈下量が抑制されており、地盤改良体P2の内部では沈下量が約1/3となっていることが分かる。また、地盤改良体P2の間では、各点の最大沈下量がcase5(2cm)<case1(5cm)<case2(6.5cm)<case3(9cm)<case4(11cm)となっており、地盤改良体P2の間隔が狭いほど沈下量が低下傾向を示すことが分かる。さらに、図20の結果から、地盤改良体P2を間隔を空けて配列した地盤は無改良地盤に比べて圧密終了までの時間が早いことが確認される。
【0021】
この他、case2・4・5について圧密終了時のせん断ひずみ分布を求めたところ、図21に示すように、地盤改良体P2の近傍では上層でせん断ひずみが大きくなり、地盤改良体P2から遠ざかるにつれ下層でのせん断ひずみが大きくなることを確認した。総合すれば、この実施例2においても、地盤改良体の枠内はもちろん、隣合う地盤改良体で挟まれた地盤についても充分な沈下抑制効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の実施例1・2によれば、改良地盤の上部でせん断ひずみが大きくなることが確認されたが、他の表層改良工法との併用によって、より高い液状化防止効果を得ることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明構造の実施例1を示す平面図
【図2】図1の1−1’断面図
【図3】実施例1の有限要素メッシュ図
【図4】実施例1(caseB)の過剰間隙水圧の経時的変化を示すグラフ(初期要素中心深さ5.5m)
【図5】実施例1(caseB)の過剰間隙水圧の経時的変化を示すグラフ(初期要素中心深さ8.5m)
【図6】実施例1(図1の1−1’断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図7】実施例1(図1の2−2’断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図8】実施例1(図1の点a・b)および無改良地盤の沈下量の経時的変化を示すグラフ
【図9】無改良地盤のせん断ひずみ分布図
【図10】実施例1(図1の1−1’断面)のせん断ひずみ分布図
【図11】実施例1(図1の2−2’断面)のせん断ひずみ分布図
【図12】本発明構造の実施例2を示す平面図(2行2列構造)
【図13】本発明構造の実施例2を示す平面図(千鳥構造)
【図14】実施例2の有限要素メッシュ図
【図15】実施例2(case1)の過剰間隙水圧の経時的変化を示すグラフ(初期要素中心深さ5.5m)
【図16】実施例2(case1)の過剰間隙水圧の経時的変化を示すグラフ(初期要素中心深さ8.5m)
【図17】実施例2(図1の1−1’断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図18】実施例2(図1の2−2’断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図19】実施例2(図12・13のA−A断面および図13のB−B断面)および無改良地盤の地表面沈下量を示すグラフ
【図20】実施例1(図12・13の点P・Q)および無改良地盤の沈下量の経時的変化を示すグラフ
【図21】実施例2(図12の1−1’断面)のせん断ひずみ分布図
【符号の説明】
【0024】
P1・P2 地盤改良体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
深層混合処理工法によって地盤中に造成される中空筒状の地盤改良体を複数本、間隔を空けて配列し、前記地盤改良体の枠内の地盤および隣合う前記地盤改良体で挟まれた地盤を改良してなることを特徴とした地盤の耐液状化構造。
【請求項2】
地盤改良体を平面n行m列(n・mとも2以上の整数)に配列してなる請求項1記載の地盤の耐液状化構造。
【請求項3】
地盤改良体を平面千鳥状に配列してなる請求項1記載の地盤の耐液状化構造。
【請求項4】
地盤改良体は断面多角形の角筒状である請求項1、2または3項記載の地盤の耐液状化構造。
【請求項5】
地盤改良体は断面円形の円筒状である請求項1、2または3記載の地盤の耐液状化構造。
【請求項1】
深層混合処理工法によって地盤中に造成される中空筒状の地盤改良体を複数本、間隔を空けて配列し、前記地盤改良体の枠内の地盤および隣合う前記地盤改良体で挟まれた地盤を改良してなることを特徴とした地盤の耐液状化構造。
【請求項2】
地盤改良体を平面n行m列(n・mとも2以上の整数)に配列してなる請求項1記載の地盤の耐液状化構造。
【請求項3】
地盤改良体を平面千鳥状に配列してなる請求項1記載の地盤の耐液状化構造。
【請求項4】
地盤改良体は断面多角形の角筒状である請求項1、2または3項記載の地盤の耐液状化構造。
【請求項5】
地盤改良体は断面円形の円筒状である請求項1、2または3記載の地盤の耐液状化構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−24757(P2010−24757A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189352(P2008−189352)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人地盤工学会、第43回地盤工学研究発表会平成20年度発表講演集(2分冊の2)、平成20年6月12日
【出願人】(000156204)株式会社淺沼組 (26)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人地盤工学会、第43回地盤工学研究発表会平成20年度発表講演集(2分冊の2)、平成20年6月12日
【出願人】(000156204)株式会社淺沼組 (26)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]