説明

地盤充填材及びその製造方法

【課題】 塩分を含む水に接するような対象地盤において、コンクリート再生砂を地盤充填材として用いる際に、六価クロムの地盤への溶出抑制を効果的に実現する。
【解決手段】 コンクリート廃材を破砕したコンクリート塊から再生砂を製造し、該再生砂に高炉スラグ破砕材を混合する割合を、使用される箇所の周囲地盤の水環境と前記再生砂の保管状態を判別した結果をもとに決定し、適正な質量混合割合で前記再生砂と高炉スラグ破砕材とを混合して地盤充填材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤充填材及びその製造方法に係り、コンクリート廃材のリサイクル材料として製造された再生砂に対して高炉スラグ微粉末を混合することにより、海水などの影響を受ける環境下において構築された地盤構造物の裏面空隙部の裏込め材あるいは埋戻し材などの地盤充填材として適正に使用できるように、再生砂中の微量成分の溶出を抑制できるようにした地盤充填材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート廃材(コンクリートがら)のリサイクル材料として、コンクリート塊(以下、本明細書では、既存鉄筋コンクリート建物などを解体した際に発生したコンクリート廃材のうち、リサイクル材料を製造するために、鉄筋や埋設金物等を除去し、所定の塊径に破砕されたコンクリート廃材を「コンクリート塊」と呼ぶ。)の大半は破砕・選別され、再生クラッシャラン(再生砕石)として路盤材等の地盤充填材料に再利用されてきている。この再生砕石は適正な基準に合致したリサイクル建設材料であるため、微量成分の溶出に関する評価基準は一般のバージン材の砕石と同様となると考えられるが、コンクリート塊は長期的にも分解しないものとして、安定型の産業廃棄物に分類されることもあり、再生砕石は環境安全性を確認せずに使われているのが現状である。
【0003】
しかし、最近になって、再生コンクリート砂(以下、再生砂と呼ぶ。)の利用については、利用条件または含有成分によっては、六価クロムが土壌環境基準を超える濃度で溶出される恐れのあることが報告されている。このことを踏まえ、通達として、透水性を有し、浸透した水が土壌又は公共用水域へ拡散するおそれのある箇所に、再生砂を埋め戻し材や裏込め材などの地盤充填材料として国土交通省の発注する建設工事で使用する場合には、「土壌汚染に係る環境評価基準について(平成3.8.23. 環境庁告示第46号)」(以下、環告46号法と略記する。)により、その溶出値が環境基準に適合することを事前に確認することが義務付けられるに至った(非特許文献1)。その確認頻度として、一購入先当たり1検体の試験を行うことが求められている。
【0004】
ところで、コンクリート廃材のリサイクルのための中間処理工場に搬入されるコンクリート塊は、破砕前のコンクリート構造物を構築した際の使用材料や配合(調合)により全く異なる。そのため、事前に一購入先当たり1検体の試験を行っても、実際に現場で用いる段階では、別のコンクリート塊から製造した再生砂に変わっている可能性は高い。また、環告46号法で試験した際には環境基準を満たす場合でも、保管条件によって実際に使用するまでに品質が変化したり、実際の使用条件では評価試験の場合と全く異なる挙動を示したりする可能性も高い。したがって、安全側を考慮して、環告46号法試験では、たとえば六価クロム等は溶出するという認識を持ち、実際の使用条件で問題ないようにすることが必要である。
【0005】
出願人は、すでにこの点に関し、再生砕石や再生砂に含まれる六価クロムの溶出抑制対策に関して各種の処理方法により、六価クロムの溶出抑制を行ったコンクリート再生材料を提案している(特許文献1)。特許文献1では、その一例として、細粒分ないし微粒分からなるコンクリート再生材料において、前記細粒分ないし微粒分のうち所定粒径以下の構成分に対して高炉セメントB種を所定割合で加水混合して固化させて所定粒径の造粒体とし、前記細粒分ないし微粒分に含有する六価クロム(以下、Cr(VI))の溶出抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−268431号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】国官技第181号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1では、再生砕石や再生砂自体に対する六価クロム(以下、Cr(VI))の抑制処理手法が開示されているが、再生砂等が実際に使われる環境条件を想定して、その対策を示したものではない。たとえば、海水や塩分を含む地下水が作用する場所でCr(VI)の溶出が著しいため、そのような場所での再生砂の利用については、特に溶出抑制のための対策が必要と考えられる。
【0009】
出願人は、海水や塩分を含む地下水が作用する場所での地盤充填材としての再生砂の利用について、以下のような実験室での確認実験を行って、その現状を把握した。図5は、海水を想定して溶媒をNaCl水溶液とした場合と、真水を想定した蒸留水の場合の溶出量を比較したグラフである。このときCr(VI)溶出を確認する実験は、建設省技調発第49号の「タンクリーチング試験」に概ね準拠して行った。図中の記号「N」は、再生砂を製造直後に用いたことを示す。同図に示したように、溶媒を蒸留水とNaCl水溶液とした場合の間ではCr(VI)の溶出量には顕著な差が見られ、溶媒をNaCl水溶液とした場合の方が、タンクリーチング期間1日の時点で土壌環境基準値(0.05mg/l(検液1l))を超え、タンクリーチング期間が経過する(計測データ:〜91日)につれて、溶出量は大きくなった。この傾向は、Cr(VI)を吸着するアルミネート相のセメント水和物が変質することで、Cr(VI)を放出していると推察される。この溶媒をNaCl水溶液とした溶出実験は、塩分を含む地下水が作用する場所として、海水塩分を模した濃度3.5%のNaCl水溶液でタンクリーチング試験を行った結果であり、塩分を含む地下水が作用する場所での再生砂の利用では、特にCr(VI)溶出の抑制対策が必要であると考えられるに至った。
【0010】
ところで、六価クロム(Cr(VI))は還元作用を受けると無害な三価クロム(Cr(III))になり、その化合物は難溶性となるため、有害物質の周囲地盤への溶出のおそれが回避できる。このCr(VI)の溶出抑制には、硫化鉄などの還元剤が使われる場合が多い。一方、鉄鉱石を製錬する際に副産物として産出される高炉スラグ微粉末(あるいは微粉砕する前の高炉スラグ砂)には、還元能力があることが知られている。そこで、高炉スラグを用いた溶出抑制方法について、特に、海水や塩分を含む地下水が作用する場所での再生砂の利用に関しての検討を行い、その有効性についての一定の知見を得た。
【0011】
本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点に対して、再生砂と高炉スラグ微粉末、あるいは再生砂と高炉スラグ砂を所定の混合条件で混合することが有効であるとの知見に基づき、海水や塩分を含む地下水が作用する場所での再生砂を利用することができるようにした地盤充填材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は地盤充填材の製造方法であって、コンクリート廃材を破砕したコンクリート塊から再生砂を製造し、該再生砂に高炉スラグ破砕材を混合する割合を、使用される箇所の周囲地盤の水環境と前記再生砂の保管状態を判別した結果をもとに決定し、その混合割合で前記再生砂と高炉スラグ破砕材とを混合して製造したことを特徴とする。
【0013】
このとき、前記高炉スラグ破砕材は、高炉スラグ微粉末あるいは高炉スラグ砂で、その使用品種で質量混合割合を異ならせることが好ましい。
【0014】
また、前記水環境は、周囲地盤の地下水状態を真水と塩分を含む水とで判別して、その混合割合を異ならせることが好ましい。
【0015】
同様に、前記保管状態は、製造直後、乾燥状態保管、乾湿状態保管とで判別して、その混合割合を異ならせることが好ましい。
【0016】
その結果得られた地盤充填材は、前記再生砂に対して前記高炉スラグ微粉末が内割20%以上の質量混合割合で混合され、周囲地盤の水環境が塩分を含む水である箇所に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明の地盤充填材の製造方法によれば、コンクリート廃材から得られたコンクリート塊をもとに製造された再生砂を地盤充填材として用いた場合に、高炉スラグ微粉末あるいは高炉スラグ砂の還元作用を用いて、六価クロム(Cr(VI))の地盤への溶出抑制を効果的に果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】タンクリーチング試験における溶媒NaCl水溶液、高炉スラグ微粉末混合時のCr(VI)溶出量の経時変化グラフ。
【図2】タンクリーチング試験における溶媒NaCl水溶液、高炉スラグ微粉末混合時のORPの経時変化グラフ。
【図3】タンクリーチング試験における溶媒NaCl水溶液、高炉スラグ砂混合時のCr(VI)溶出量の経時変化グラフ。
【図4】タンクリーチング試験における溶媒NaCl水溶液、高炉スラグ砂混合時のORPの経時変化グラフ。
【図5】タンクリーチング試験における溶媒NaCl水溶液、再生砂のみのCr(VI)溶出量の経時変化グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の地盤充填材及びその製造方法の実施するための形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0020】
[高炉スラグ微粉末を混合した地盤充填材]
本実施例の地盤充填材は、高炉スラグ微粉末の還元能力に着目し、高炉スラグ微粉末を再生砂に混合した材料で、その用途として土構造物の裏込め材料、埋戻し材料、路盤材料などの地盤内を満たすために使用される材料として広く適用される。この地盤充填材では、高炉スラグ微粉末が混合された再生砂中に含有するCr(VI)を、高炉スラグ微粉末の還元作用により、Cr(III)へ還元し、地盤内に充填された再生砂からのCr(VI)の周囲土壌(周囲地盤)への溶出抑制を図っている。本実施例では高炉スラグ微粉末として、JIS規格適合品で、粉末度(比表面積)が5000cm2/g以下の微粉末を用いた。供給材の粉末度が高い方が還元作用も高いため、取り扱いやすさとの兼ね合いで高い粉末度材料を使用することが好ましい。
【0021】
以下、高炉スラグ微粉末を混合する再生砂の状況に応じたCr(VI)溶出量と土壌環境基準値との関係を確認した試験について説明する。本実施例の試験では、上述の海水(塩分を含む水)の影響を確認した試験と同様に、濃度3.5%のNaCl水溶液を用いたタンクリーチング試験を行った。タンクリーチング試験は対象試料を溶媒中に水浸し、水中に溶出する六価クロムの濃度を測定するものである。対象試料の再生砂としては、
(1)製造直後再生砂(記号:N)
(2)製造後自然乾燥再生砂(製造後56日経過)(記号:D56)
(3)製造後乾湿繰り返し再生砂(製造後56日経過)(記号:DW56)
を用い、高炉スラグ微粉末の混合割合は、予備試験で得た適正質量混合割合(内割)20%とした。Cr(VI)溶出量測定は水浸1,7,28,56,91日後とし、そのときの溶媒(NaCl水溶液)を採水し、六価クロムの濃度測定を行った。濃度測定は環境庁告示46号に示されたJIS規格試験の規則65.2に定める方法とした。
【0022】
測定結果として、高炉スラグ微粉末を混合した各種再生砂のNaCl水溶液に対するタンクリーチング期間とCr(VI)溶出量との関係を図1に示した。また、タンクリーチング期間とORP(酸化還元電位)との関係を図2に示した。還元力の指標となるORP値を比較した結果、再生砂がN,D56の場合はマイナス範囲での値を示したが、DW56の場合はマイナス値を示さなかった。Cr(VI)溶出量を比較すると、NとD56からのCr(VI)は検出限界以下と考えられ、この結果から高炉スラグ微粉末はさらにCr(VI)が多い場合でも還元する能力を残していると考えられる。
【0023】
以上の試験および予備試験結果から、通常の地下水の場合は、再生砂が製造直後あるいは乾燥状態、乾湿状態で保管されていた場合には、高炉スラグ微粉末を質量混合割合(内割)5%以上混合すれば、再生砂からのCr(VI)溶出を土壌環境基準値以下に抑制できると判断した。また、塩分を含む地下水や海水に曝される環境の場合は、再生砂が製造直後あるいは乾燥状態で保管されていた場合には、高炉スラグ微粉末を質量混合割合(内割)15%以上混合することが好ましく、一般的な保管環境として想定される、乾湿状態で保管されていた場合まで考慮すると、高炉スラグ微粉末を質量混合割合(内割)20%以上混合することが好ましい(表1参照)。
【実施例2】
【0024】
[高炉スラグ砂を混合した地盤充填材]
本実施例の地盤充填材では、上述の高炉スラグ微粉末と同様に、その粒径差のみで区分されている高炉スラグ砂の還元能力に着目し、高炉スラグ砂と再生砂とを混合することにより、再生砂中に含有するCr(VI)を高炉スラグ砂の還元作用により、Cr(III)へ還元して再生砂からのCr(VI)の周囲土壌(周囲地盤)への溶出抑制を図っている。
【0025】
微粉砕前の水砕スラグ(高炉スラグ砂)にも高炉スラグ微粉末同様に還元作用が期待できる。そこで、再生砂への混合割合を内割20%とし、高炉スラグ微粉末の場合と同様の溶出実験を行った。タンクリーチング期間とCr(VI)溶出量の関係を図3に、タンクリーチング期間とORP値の関係を図4に示した。
【0026】
高炉スラグ砂を混合した場合でも、高炉スラグ微粉末を混合した場合と同様に、Cr(VI)の溶出を抑制する傾向が得られた。ただし、高炉スラグ砂の還元能力は高炉スラグ微粉末より小さいため、その効果は、高炉スラグ微粉末よりも小さく、N,D56の場合は土壌環境基準値を下回ったが、DW56の場合では土壌環境基準値を上回り、この点、追加試験により混合割合を30%以上とすることで溶出量を基準値以下とすることが確認された。ORP値も全体に高い傾向を示している。
【0027】
本実施例では、以上の試験および予備試験結果から、通常の地下水の場合は、再生砂が製造直後あるいは乾燥状態、乾湿状態で保管されていた場合には、高炉スラグ砂を質量混合割合(内割)10%以上混合することで、再生砂からのCr(VI)溶出を土壌環境基準値以下に抑制できると判断した。また、塩分を含む地下水や海水に曝される環境の場合は、再生砂が製造直後あるいは乾燥状態で保管されていた場合には、高炉スラグ砂を質量混合割合(内割)20%以上混合することが好ましく、乾湿状態で保管されていた場合には、高炉スラグ微粉末を質量混合割合(内割)30%以上混合することが好ましい(表1参照)。
【0028】
上述した試験および予備試験結果から、再生砂からのCr(VI)溶出の抑制に有効な、高炉スラグ微粉末あるいは高炉スラグ砂の混合割合をまとめたのが以下の表1である。

同表から明らかなように、再生砂はその保管状態を良好にするだけで、溶出抑制に有効な、高炉スラグ微粉末あるいは高炉スラグ砂の混合量を抑えることができる。また、高炉スラグ砂より高炉スラグ微粉末の方が、さらにその粉末度も高い方がその抑制効果が期待できる。このため、地盤充填材の使用箇所の状態(水の影響等)を考慮するとともに、再生砂の保管状態、混合材料の選定を行うことが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート廃材を破砕したコンクリート塊から再生砂を製造し、該再生砂に高炉スラグ破砕材を混合する割合を、使用される箇所の周囲地盤の水環境と前記再生砂の保管状態を判別した結果をもとに決定し、その混合割合で前記再生砂と高炉スラグ破砕材とを混合して製造したことを特徴とする地盤充填材の製造方法。
【請求項2】
前記高炉スラグ破砕材は、高炉スラグ微粉末あるいは高炉スラグ砂で、その使用品種で混合割合を異ならせたことを特徴とする請求項1に記載の地盤充填材の製造方法。
【請求項3】
前記水環境は、周囲地盤の地下水状態を真水と塩分を含む水とで判別して、その混合割合を異ならせたことを特徴とする請求項1に記載の地盤充填材の製造方法。
【請求項4】
前記保管状態は、製造直後、乾燥状態保管、乾湿状態保管とで判別して、その混合割合を異ならせたことを特徴とする請求項1に記載の地盤充填材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載された地盤充填材の製造方法で製造され、前記再生砂に対して前記高炉スラグ微粉末が内割20%以上の質量混合割合で混合され、周囲地盤の水環境が塩分を含む水である箇所に用いられることを特徴とする地盤充填材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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