説明

地盤掘削機械

【課題】大径の掘削井内を均一に攪拌混合する地盤用掘削機械を実現する。
【解決手段】掘削機械先端に設けられた複数個の攪拌用羽根6を遊星歯車機構による多軸回転機構5を介して主軸2と逆方向に回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の基礎等に使用するソイルセメント柱状体を地中に構築するために地盤を掘削する地盤掘削機械に関する。
【背景技術】
【0002】
既製杭を使用することで十分な支持力を期待できない軟弱地盤等においては、地盤を掘削し、掘削土砂とセメントミルクとを攪拌して硬化させたソイルセメント柱状体を地中に構築するようにすることが一般的である。
地盤を掘削するには通常オーガマシン(アースオーガともいう)などの掘削機械を用いる。しかし掘削径の大きいとき、何回も位置を移動して掘削を行うのは工事コストが増大するので、1台のモータで複数本のオーガを駆動し、1回の段取りで大径の掘削を行うことがいろいろ試みられている。その際、複数本の掘削軸が同一方向に回転すると、掘削はともかく、掘削土砂とセメントミルクとの攪拌混合が不均一となるので、複数本の掘削軸を互いに逆方向に回転する工夫も必要である。
【0003】
特許文献1には、単一軸ではあるが、掘削ヘッドの近傍に設けた逆回り攪拌装置により、先端部とその上部とで攪拌羽根を逆回転する機構が記載されている。これを図面により簡単に説明する。図6において2は掘削機械の主軸、3はその先端の掘削用羽根、6は攪拌用羽根、7は逆回り攪拌装置、71はその外周に取り付けられた逆回り攪拌羽根である。詳細は省略するが、逆回り攪拌装置7の内部には遊星歯車を使用した逆回り機構が内蔵されており、逆回り攪拌羽根71は、主軸に取り付けられた攪拌用羽根6とは逆回転する。これにより掘削土砂とセメントミルクとが均質に混合される。特許文献1には掘削機械の1台のモータ部から直線上に並んだ3本のオーガ軸に動力を分岐し、互いにラップする3基の円筒状に地盤を掘削する例も記載されている。
【0004】
地中壁を構築する場合のように、隣接する2本の柱状体を互いにラップして掘削するには、それぞれの掘削刃が干渉して損傷することを防止するため、オーガ軸の回転を同調させることが必要である。特許文献2には、それぞれ独自のモータによって駆動される2本のオーガ軸の回転を同調させる機構が記載されている。図面によりこれを簡単に説明する。
【0005】
図7は特許文献2に記載の同調ユニット8の断面図で、2A、2Bは各オーガ軸、81は傘歯車、82はその従動軸、83は連結スリーブである。すなわち、それぞれのオーガ軸2A、2Bに取り付けられた傘歯車とかみ合う傘歯車81、81の従動軸82、82の端部にスプラインが切られており、これらを連結スリーブ83で連結することによりオーガ軸2A、2Bの回転を同調させるのである。
【0006】
特許文献3には、地盤内に建て込んだ筒状のケーシング体の内部に吊り下げたバケツ状の可動底部形成体の底部に、それぞれが駆動モータを備えた掘削体を取り付けたものが記載されている。
さらに特許文献4には、水平方向の掘削ではあるが、自転しながら公転する破砕ビットを備えた地中掘削機が記載されている。図8はその公転機構を示す説明図で、9は遊星歯車機構、91は回転体、92はリングギア、93はピニオンギアである。リングギア92を何らかの手段で固定し、回転体91を回転させると、回転体91回転軸を支持された複数のピニオンギア93が自転しながら公転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−195923号公報
【特許文献2】特開2002−256587号公報
【特許文献3】特開2003−342946号公報
【特許文献4】特開2002−138795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように複数軸を同調させながら逆回転させる機構はさまざまであるが、特許文献1に記載の逆回り攪拌装置は1本の軸に関する逆回転機構であり、地層の上下方向の均一化が目的で、同一高さ平面における複数軸の攪拌の均一化に直接役立つものではない。
特許文献2に記載の同調ユニットは、地中壁のような多連円柱には有効な技術であるが、単円大径のソイルセメント柱状体の場合にはあまり効果は認められない。
【0009】
特許文献3に記載のものは構成は簡単であるが軸の数と同じだけの多数のモータを必要とし、コストの点で好ましくない。
特許文献4に記載の遊星歯車機構は、リングギアを地山などに押しつけて固定できるトンネル掘削などの場合には有効であるが、適当なリングギアの固定手段がなく、また遊星歯車機構を掘削先端に設けなければならない点からも、軟弱地盤で縦方向の柱状体を掘削するような場合には応用できない。
【0010】
本発明は、このような問題点を解消し、複数軸で攪拌用羽根を回転させ、掘削、攪拌、混合を効率よく低コストで行うことのできる地盤掘削機械を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の本発明は、地盤を柱状に掘削し、掘削土砂とセメントミルクとを攪拌して形成したソイルセメントを硬化させてソイルセメント柱状体を構築する際に使用する地盤掘削機械であって、地上のモータにより駆動され、掘削用羽根の回転により掘削を行う主回転軸の先端部に、主回転軸とは異なる回転が可能な1個または複数個の攪拌用羽根を設けたことを特徴とする地盤掘削機械である。
【0012】
請求項2に記載の本発明は、前記の攪拌用羽根が、前記主回転軸により駆動される多軸回転機構を介して回転するようになっている請求項1に記載の地盤掘削機械である。
請求項3に記載の本発明は、前記の多軸回転機構が、主回転軸を把持、解放自在な把持手段と、主回転軸に取り付けられた太陽ギアと、これにかみ合う遊星ギアと、これら把持手段、太陽ギア、遊星ギアを収容する主回転軸に対して回転自在なケーシングとから構成され、前記遊星ギアの回転軸の先端側には攪拌用羽根が接続され、前記ケーシングの外周には掘削用羽根が取り付けられている請求項2に記載の地盤掘削機械である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数軸で攪拌用羽根を主軸とは逆方向に回転させ、掘削、攪拌、混合を効率よく低コストで行うことのできる地盤掘削機械が実現し、1回の段取りで大きな径の掘削井内を均一に攪拌混合できるので、軟弱地盤等における基礎工事が効率化されるという、すぐれた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例の地盤用掘削機械全体を示す正面図である。
【図2】実施例の地盤用掘削機械の要部である多軸回転機構を示す縦方向断面図である。
【図3】実施例の多軸回転機構における歯車部分の水平方向断面図である。
【図4】実施例における掘削状況を示す説明図である。
【図5】実施例における攪拌状況を示す説明図である。
【図6】従来の技術の一例を示す掘削羽根付近の正面図である。
【図7】従来の技術の他の例における掘削羽根付近の一部断面正面図である。
【図8】従来の技術のさらに他の例における掘削軸の回転機構を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例を図面により説明する。図1は実施例の地盤掘削機械全体を示す正面図、Pは掘削井で、1は地上部分に設けられるモータ、2は主軸(主回転軸)、3は主軸2の先端および中間部に設けられた掘削用羽根、4は掘削土砂とセメントミルクとを攪拌混合したソイルセメント、5は主軸2の先端部に設けられた多軸回転機構、6は多軸回転機構5の底部に設けられた攪拌用羽根で、多軸回転機構5および攪拌用羽根6以外の構成は従来のオーガマシンと同様である。
【0016】
図2は実施例の地盤掘削機械の要部である多軸回転機構5の縦方向断面図で、51は主軸2に対する上下の軸受、52は把持機構、53は抜け止め部材、54は主軸2に取り付けられた太陽ギア、55はこれにかみ合う遊星ギア、56は下部(先端)に攪拌用羽根6が接続された遊星ギアの回転軸である。多軸回転機構5のケーシングの外面には水平方向、斜め下方向など所望の方向に掘削用羽根3が溶接等で固定されている。抜け止め部材53は主軸2に取り付けた円板等で、多軸回転機構5のケーシング側にこれを係止する部材が設けられる。図2では太陽ギア54を上下2段にした例を示したが、減速比如何により、遊星ギア55同士が干渉しなければ同一平面でもよい。
【0017】
把持機構52は油圧方式、機械方式など任意であるが、多軸回転機構5が主軸2を把持したり解放したりする機構である。油圧方式であれば例えば油圧シリンダ装置を用いて主軸2を把持(クランプ)する。把持状態では多軸回転機構5は主軸2と一体となって回転し、解放状態ではフリーとなる。機械方式の例としては公知のラチェット機構などが挙げられる。ラチェットの向きにより、正回転では同調し、逆回転ではフリーとすることができる。モータの正逆変換は容易であるから、この方式は有効である。
【0018】
図3は歯車部分の水平方向断面図である。前記の把持状態では多軸回転機構5は主軸2と一体となって回転するから、これら歯車は回転しないが、解放状態においては太陽ギア54に対して遊星ギア55はその周囲を公転するから、実際には、太陽ギア54の回転によって各遊星ギア55が同じ位置のまま自転する。つまり、図2において掘削用羽根3は周囲のソイルセメントの抵抗により回転せず、攪拌用羽根6のみが回転することになる。
【0019】
図4は把持機構52が主軸を把持しているときの状況を示す説明図で、(a)は羽根部分、(b)は掘削井Pの内部を模式的に示した説明図である。すなわち、把持機構52が主軸を把持しているとき、多軸回転機構5は主軸2と一体となって回転するから、外側の掘削用羽根3によって所定の掘削が行われる。攪拌用羽根6は自転せず、同じ向きのままで掘削に加勢する。
【0020】
把持機構52が主軸2を解放すると、主軸2を回転させても多軸回転機構5は周囲の抵抗によって回転しないので、攪拌用羽根6はそれぞれの位置で自転する。この状況を図5に示す。図4と同様、(a)は羽根部分、(b)は掘削井Pの内部を模式的に示した説明図である。円周方向のみでなく半径方向にも攪拌が行われるため、掘削井内全体のソイルセメントの均一な攪拌が実現する。
【0021】
攪拌用羽根6を大型化して、掘削用に兼用させることも可能である。また、解放時に攪拌用羽根6の位置が変わらないためソイルセメントの練混条件が一様になる可能性もあるが、把持→解放→把持とモードを頻繁に切り替えることで対処すれば解消できる。
太陽ギア54と遊星ギア55との歯車比は、攪拌に必要なトルク、回転数に応じて決定すればよい。太陽ギア54の歯車径が大きいほど、攪拌用羽根6の回転数は高くなるが、逆に小さければ回転数は低いが高トルクが実現できる。また、遊星歯車をチェーンやベルトを用いた無段変速機に置き換えることで、トルクや回転数の変更や自動制御が可能となる。
【0022】
なお、攪拌用羽根6の回転軸が3本の場合を示したが、主軸と逆方向に回転する攪拌用羽根6は少なくとも1個必要であり、個数は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、複数軸で攪拌用羽根を主軸とは逆方向に回転させ、掘削、攪拌、混合を効率よく低コストで行うことのできる地盤掘削機械が実現し、1回の段取りで大きな径の掘削井内を均一に攪拌混合できるので、軟弱地盤等における基礎工事が効率化されるので、産業上格段の効果を奏する。
【符号の説明】
【0024】
1 モータ
2 主軸(主回転軸)
3 掘削用羽根
4 ソイルセメント
5 多軸回転機構
6 攪拌用羽根
7 逆回り攪拌装置
8 同調ユニット
9 遊星歯車機構
51 軸受
52 把持機構
53 抜け止め部材
54 太陽ギア
55 遊星ギア
56 攪拌軸
71 逆回り攪拌羽根
81 傘歯車
82 従動軸
83 連結スリーブ
91 回転体
92 リングギア
93 ピニオンギア
P 掘削井

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を柱状に掘削し、掘削土砂とセメントミルクとを攪拌して形成したソイルセメントを硬化させてソイルセメント柱状体を構築する際に使用する地盤掘削機械であって、地上のモータにより駆動され、掘削用羽根の回転により掘削を行う主回転軸の先端部に、主回転軸とは異なる回転が可能な1個または複数個の攪拌用羽根を設けたことを特徴とする地盤掘削機械。
【請求項2】
前記の攪拌用羽根が、前記主回転軸により駆動される多軸回転機構を介して回転するようになっている請求項1に記載の地盤掘削機械。
【請求項3】
前記の多軸回転機構が、主回転軸を把持、解放自在な把持手段と、主回転軸に取り付けられた太陽ギアと、これにかみ合う遊星ギアと、これら把持手段、太陽ギア、遊星ギアを収容する主回転軸に対して回転自在なケーシングとから構成され、前記遊星ギアの回転軸の先端側には攪拌用羽根が接続され、前記ケーシングの外周には掘削用羽根が取り付けられている請求項2に記載の地盤掘削機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−172373(P2012−172373A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34724(P2011−34724)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)