説明

地盤改良体の径の推定方法

【課題】複雑な装置等を必要とせず簡易かつ低コストであって、施工対象地盤が如何なる条件を有していても短時間で効率的に精度良く、地盤改良体の径を推定しうる方法を提供する。
【解決手段】高圧噴射撹拌工法によって、酸化カルシウムを主成分とするセメント系固化材を含むスラリーを地中に噴射し、水平方向の断面が略円形である円柱状の地盤改良体を形成する地盤改良工事において、地盤改良体の径を推定する方法であって、地盤改良体の酸化カルシウム含有率が大きいほど地盤改良体の径が小さいという関係を利用して、地盤改良体の酸化カルシウム含有率を測定することによって地盤改良体の径を推定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧噴射撹拌工法を用いた地盤改良工事によって造成される円柱状の地盤改良体の径の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤中に、セメント系固化材を含むスラリーを注入することによって、軟弱地盤を固結させて、せん断強さを増大させ、地盤を改良する工法には、主に高圧噴射撹拌工法と機械撹拌工法がある。
高圧噴射撹拌工法は、ロッドを用いて地盤を所定の深度まで削孔した後、該ロッドを回転させながら引き上げつつ、ロッドの下端に装着されている噴射ノズルから、セメント系固化材を含むスラリーを水平方向に超高圧で噴射することによって、既存の地盤を切削しつつ、スラリーと、地盤を形成する軟弱土を撹拌混合し、セメント系固化材を含む円柱状の地盤改良体を形成する工法である。
一方、機械撹拌工法は、下端に撹拌翼を装着したロッドを用いて、地盤を所定の深度まで削孔した後、該ロッドを回転させながら引き上げつつ、撹拌翼の近傍のスラリー吐出口から、セメント系固化材を含むスラリーを低圧で吐出して、固化対象土とスラリーを撹拌翼の回転で機械的に混合撹拌することによって、撹拌翼の径と略同一の径を有する円柱状の地盤改良体を形成する工法である。
【0003】
高圧噴射撹拌工法による施工に際し、地盤改良体について所望の強度を確保することに加えて、地盤改良体の径を精度良く推定することは、重要である。すなわち、地盤改良体の相互のラップ(隣接する地盤改良体間の改良領域の重複)が必要な場合に、地盤改良体の径を実際よりも過大に推定した場合には、隣接する円柱状の地盤改良体相互間の距離を過大に定めてしまい、地盤改良体相互間の中央付近に、地盤改良されない領域を残すことになりかねない。一方、地盤改良体の径を実際よりも過小に推定した場合には、隣接する円柱状の地盤改良体相互間の距離を過小に定めてしまい、地盤改良体相互間に重複した改良領域(ラップ部分)を広く形成し、コストの増大及び作業効率の低下を招くことになる。一方、地盤改良体の径の大きさは、高圧噴射撹拌工法に用いる装置の種類によって一つの定数として定まるものではなく、地盤の土質の条件、特に地盤の切削の容易性によって変化する。そのため、高圧噴射撹拌工法においては、地盤改良体の径を精度良く推定することが要請されるのである。
【0004】
従来、地盤改良体の径を推定する方法として、地盤改良体の周縁付近と推定される領域内の複数の地点において、地盤改良体の存在する深度区間の深さまでボーリングを行ない、地盤改良体の外縁に当たるボーリングコアの固結状況から、地盤改良体の外縁を定め、地盤改良体の径を推定する方法が知られている。
しかし、この方法には、(a)地盤改良体の外縁に当たるボーリングコアを複数本得るまでに、多数回のボーリングを行なわなければならないことがあり、この場合、多大の労力及び作業時間を要すること、(b)地表から深い地点における地盤改良体の径を確認する場合、硬質な地盤改良体から軟弱な未改良地盤の方へのボーリング孔の孔曲がりが発生しやすいなど、ボーリング孔を正確に鉛直方向に形成させることが困難なことがあり、地盤改良体の径の測定の精度が低下しがちである、などの欠点がある。
【0005】
そのため、地盤改良体の径の推定方法として、他の方法が提案されている。
一例として、地中に埋設されている円柱状地中固結体の直径の計測方法において、前記固結体の中心点から所定距離を離れた場所から傾斜して掘削孔を穿孔し、掘削抵抗の変化によって、前記固結体の周縁部の位置を求めることを特徴とする地中固結体の直径計測方法が提案されている(特許文献1)。
他の例として、回転軸の先端近傍に設けた高圧液体を噴出するノズルよりも下方に、半径方向に伸縮する機構を含む改良径検知翼を備えている掘削孔計測装置が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−213663号公報
【特許文献2】特開平8−3977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の特許文献1の方法は、(a)土中に大きな礫等の障害物が存在する場合に、固結体(円柱状の地盤改良体)の中心点を通るように掘削孔を正確に穿孔することは、困難である、(b)土質の異なる複数の層からなる地盤(互層地盤)に適用する場合、掘削抵抗の変化が、土質の変化によるものか、それとも地盤改良によるものかの判断が困難なことがある、(c)隣接して連続的に形成された複数の固結体に対しては、適用することができない、(d)固結体の周囲の地表面上に民家等がある場合、掘削孔を穿孔するための場所を確保することができない、などの問題がある。
前記の特許文献2の方法は、(a)改良径検知翼の機構が複雑であり、装置のコストが増大する、(b)改良径検知翼の伸縮が、大きな礫等の異物によって妨げられ、計測が不能または不正確になるおそれがある、(c)地盤の土質がヘドロや超軟弱土である場合には、地盤改良体の周囲の未改良地盤と、地盤改良体との強度差が小さく、改良径の推定が困難になる、などの問題がある。
そこで、本発明は、複雑な装置等を必要とせず簡易かつ低コストであって、施工対象地盤が如何なる条件を有していても短時間で効率的に精度良く、地盤改良体の径を推定しうる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、地盤改良材であるセメント系固化材に酸化カルシウムが含まれていることから、地盤改良材を地中に噴射して形成される円柱状の地盤改良体に含まれる酸化カルシウムの含有率を測定するとともに、この測定値が大きいほど地盤改良体の径が小さいという関係を利用すれば、地盤改良体の径を推定することができると考えた。そして、この着想に基づいて得た地盤改良体の径の推定値が、地盤改良体の径の実際の値と一致するかを実験で調べたところ、この推定値が実際の径とほぼ同じであり、高い精度を有することを見出した。かかる着想及び実証を通じて、本発明は完成されたものである。
【0008】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供するものである。
[1] 高圧噴射撹拌工法によって、酸化カルシウムを主成分とするセメント系固化材を含むスラリーを地中に噴射し、水平方向の断面が略円形である円柱状の地盤改良体を形成する地盤改良工事において、上記地盤改良体の径を推定する方法であって、上記地盤改良体の酸化カルシウム含有率が大きいほど、上記地盤改良体の径が小さいという関係を利用して、上記地盤改良体の酸化カルシウム含有率の測定値に基づいて、上記地盤改良体の径を推定することを特徴とする地盤改良体の径の推定方法。
[2] 上記地盤改良体の改良前の土の一部を採取し、該採取した土と上記セメント系固化材を、少なくとも3つの異なる配合割合で混合して、少なくとも3種の検量線作成用試料を調製する試料調製工程と、上記少なくとも3種の検量線作成用試料の各々について、酸化カルシウム含有率を測定する試料測定工程と、上記試料測定工程で得られた酸化カルシウム含有率と、上記少なくとも3種の検量線作成用試料の各々について算出した地盤改良体の径の理論値との関係曲線である検量線を作成する検量線作成工程と、上記地盤改良体の土の一部を採取し、該採取した土の酸化カルシウム含有率を測定する改良土測定工程と、上記改良土測定工程で得られた酸化カルシウム含有率を、上記検量線に適用して、上記地盤改良体の径の推定値を得る推定値決定工程を含む前記[1]の地盤改良体の径の推定方法。
[3] 上記地盤改良体の改良前の土の一部を採取し、該採取した土の酸化カルシウム含有率を測定する原土測定工程と、上記地盤改良体の土の一部を採取し、該採取した土の酸化カルシウム含有率を測定する改良土測定工程と、上記原土測定工程で得られた酸化カルシウム含有率と、上記改良土測定工程で得られた酸化カルシウム含有率と、上記セメント系固化材の既知の酸化カルシウム含有率とに基づいて、上記地盤改良体の径の推定値を得る推定値決定工程を含む前記[1]の地盤改良体の径の推定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の地盤改良体の径の推定方法によれば、複雑な装置等を必要とせず簡易かつ低コストであって、施工対象地盤が如何なる条件を有していても短時間で効率的に精度良く、地盤改良体の径を推定することができる。
すなわち、地盤改良体の内部の任意の地点から、少量の改良土を試料として採取し、この試料の酸化カルシウム含有率を測定するなどの簡易な作業を行なうだけで、地盤改良体の径を精度良く推定することができる。特に、従来、地盤改良体の外縁に当たるボーリングコアを得る際に、ボーリング孔の孔曲がりが発生して、地盤改良体の径の測定の精度が低下しがちであったのに対し、本発明では、地盤改良体の外縁でボーリングを行なう必要がないため、孔曲がりによる測定精度の低下の問題が生じず、常に高い精度で推定値を得ることができる。
また、本発明は、ラップ部分を有するように隣接して連続的に形成された複数の地盤改良体を対象とする場合や、地中に大きな礫等の障害物が存在する場合や、土質の異なる複数の層や超軟弱土からなる地盤を対象とする場合や、地盤改良体の周囲に民家等がある場合などにおいても、何ら支障なく実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の地盤改良体の径の推定方法の対象物は、高圧噴射撹拌工法によって、酸化カルシウムを主成分とするセメント系固化材を含むスラリーを地中に噴射して形成される、水平方向の断面が略円形である円柱状の地盤改良体である。
改良前の地盤としては、例えば、軟弱粘性土、緩い砂質土等が挙げられる。
高圧噴射撹拌工法の種類としては、(a)超高圧の固化材スラリーを噴射する一相流方式の工法、(b)前記(a)の工法よりも大きな径の地盤改良体を造成する目的で、超高圧の固化材スラリー噴流の周りに空気を沿わせた二相流方式の工法、(c)超高圧水の周りに空気を沿わせて切削拡径し、固化材スラリーを填充して地盤改良体を造成する三相流方式、がある。
本発明は、これら(a)〜(c)のいずれの工法に対しても適用することができる。中でも、前記(a)の一相流方式の高圧噴射撹拌工法は、ある程度の土被りがあれば、セメント系固化材を含むスライムが地表に排出されず、本発明の原理を好適に適用することができること、及び、地盤改良体の径(以下、「造成径」ともいう。)が比較的小さく、径の確認が困難とされていることから、本発明を適用する工法として特に好ましいものである。
【0011】
本発明の地盤改良体の径の推定方法の原理は、次のとおりである。
高圧噴射撹拌工法によって、酸化カルシウムを主成分とするセメント系固化材を含むスラリーを土中に噴射すると、該スラリーと既存の固化対象土(原土)が均一に混合された、水平方向の断面が略円形である円柱状の地盤改良体が形成される。この地盤改良体の中には、原土に由来する酸化カルシウム、及び土中に噴射したスラリー中のセメント系固化材に由来する酸化カルシウムが含まれている。
この地盤改良体の内部から採取した少量の土(改良土の試料)に過剰の塩酸(HCl)を加えて、酸性のスラリーを得た後、この酸性のスラリーに水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を加えて、中和滴定を行なうと、中和に要した水酸化ナトリウムの量から、改良土の試料中の酸化カルシウム(CaO)の量が特定される。
これらの操作における化学反応式(a)〜(b)、及び、改良土の試料中の酸化カルシウム量の計算式(c)を、下記に示す。
(a) CaO(改良土の試料)+2HCl → CaCl2+ H2
(b) HCl(残余) + NaOH → NaCl + H2
(c)[改良土の試料中のCaO量]=[HClの総量]−[NaOHの使用量]
【0012】
前記の計算式(c)で示される酸化カルシウム(CaO)量に基づいて、円柱状の地盤改良体の体積(L×πD2/4;式中、Lは、地盤改良体の軸線方向の長さを示し、Dは、地盤改良体の未知の径を示す。)中の酸化カルシウムの総量を想定した場合、この酸化カルシウムの総量から、原土に含まれていた既存の酸化カルシウム量を差し引いた量は、噴射したスラリー中のセメント系固化材に由来する酸化カルシウムの総量に等しい。
一般に、噴射したスラリーの総量が一定であれば、改良土の酸化カルシウム含有率が大きくなるほど、地盤改良体の造成径が小さくなるという関係が成立する。この関係を図1に概念的に示す。
本発明は、この関係を利用して、地盤改良体の造成径(D)を推定するものである。
なお、前記の(b)の化学反応式における中和滴定の方法の一例としては、KODAN207法(日本道路公団規格:セメントおよび石灰安定処理混合物のセメントおよび石灰量試験方法,JHS 207−1992)中の「滴定法によるセメント安定処理混合物のセメント量試験方法」において、3Nの塩酸に代えて、6Nの塩酸を用いる方法が挙げられる。なお、6Nの塩酸を使用する理由は、3Nの塩酸では、使用量及び溶解時間の増大によって作業効率が低下するからである。
【0013】
本発明の地盤改良体の径の推定方法の実施形態としては、(A)検量線を用いる方法、及び(B)計算式を用いる方法、が挙げられる。以下、これらの実施形態の各々について、詳しく説明する。
(A)検量線を用いる方法
検量線を用いる方法は、(a)地盤改良体の改良前の土(原土)の一部を採取し、該採取した原土とセメント系固化材を、少なくとも3つの異なる配合割合で混合して、少なくとも3種の検量線作成用試料を調製する試料調製工程と、(b)得られた検量線作成用試料の各々について、酸化カルシウム含有率を測定する試料測定工程と、(c)試料測定工程で得られた酸化カルシウム含有率と、前記の検量線作成用試料の各々について算出した地盤改良体の径の理論値との関係曲線である検量線を作成する検量線作成工程と、(d)地盤改良体の土の一部(改良土の試料)を採取し、該採取した改良土の試料の酸化カルシウム含有率を測定する改良土測定工程と、(e)改良土測定工程で得られた酸化カルシウム含有率を、前記工程(c)で作成済みの検量線に適用して、地盤改良体の径の推定値を得る推定値決定工程を含むものである。
【0014】
[工程(a);試料調製工程]
本工程は、原土の一部を採取し、該採取した原土とセメント系固化材を、少なくとも3つの異なる配合割合で混合して、少なくとも3種の検量線作成用試料を調製する工程である。
原土は、改良対象土の内部にてボーリングにより採取する。採取した原土は、湿潤密度及び含水比を測定した後、四分法等で縮分、混合し、代表試料とする。この代表試料を110℃で恒量になるまで乾燥した後、乳鉢等を用いて、105μm篩全通程度にまで粉砕し、再度、四分法等で縮分し、試験用試料とする。
地盤改良体の径として少なくとも3つの径を想定する。想定する径の数は、好ましくは3〜8、より好ましくは4〜5である。該値が2未満では、正確な検量線を作成することが困難である。該値が8を超えると、検量線の作成の労力が多大となる。
想定する少なくとも3つの径の各々について、想定する径に相当する所定の配合割合で、試験用試料とセメント系固化材を混合し、少なくとも3種の検量線作成用試料を調製する。
【0015】
[工程(b);試料測定工程]
本工程は、工程(a)で得られた少なくとも3種の検量線作成用試料の各々について、酸化カルシウム含有率を測定する工程である。
酸化カルシウム含有率の測定方法の一例は、次のとおりである。
まず、300ミリリットルのビーカーに、検量線作成用試料5〜15gを収容する。次いで、100ミリリットルの水を加えて、ガラス棒で撹拌し、スラリーとする。このスラリーに、6Nの塩酸を過剰量(10〜30ミリリットル)加えて、撹拌する。なお、塩酸の使用量は、次式を満たすように定めればよい。
[塩酸の使用量(mL)] ≧ [試料中のセメント系固化材の質量(g)]×10
10分間経過後、ビーカーをマグネプトスターラー台に載せ、ビーカー内のスラリーを撹拌しながら、2Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下していき、スラリーのpHが7.0になった時点における水酸化ナトリウム水溶液の使用量を測定する。測定後、次式に基づいて、試料中の酸化カルシウム含有率(質量%)を算出する。
[試料中のCaO量]=[塩酸の使用量]−[水酸化ナトリウムの使用量]
【0016】
[工程(c);検量線作成工程]
本工程は、工程(b)で得られた酸化カルシウム含有率と、工程(a)で調製した検量線作成用試料の各々について算出した地盤改良体の径の理論値との関係曲線である検量線を作成する工程である。
検量線は、酸化カルシウム含有率を横軸とし、地盤改良体の径の理論値を縦軸として作成される。
地盤改良体の径の理論値は、次の式(1)によって算出される。
なお、施工に用いる高圧噴射撹拌装置の種類によっては、円柱状の地盤改良体の内部にその軸線を中心とする棒状の未改良部が形成されることがある。この場合、未改良部の径の大きさ(例えば、0.3m)に応じて、次の式(2)によって、地盤改良体の径の理論値(D)を補正する。
【0017】
【数1】

【数2】

【0018】
[工程(d);改良土測定工程]
本工程は、地盤改良体の土の一部(改良土の試料)を採取し、該採取した改良土の試料の酸化カルシウム含有率を測定する工程である。
改良土の試料は、地盤改良体の内部にてボーリングにより採取する。本発明では、従来と異なり、地盤改良体の外縁でボーリングする必要がなく、地盤改良体の内部の任意の地点で試料を採取すればよい。
採取した改良土の試料について酸化カルシウム含有率を測定する方法は、上述の工程(b)(試料測定工程)における塩酸及び水酸化ナトリウムを用いた中和滴定による測定方法と同様である。
[工程(e);推定値決定工程]
本工程は、工程(d)(改良土測定工程)で得られた酸化カルシウム含有率を、工程(c)で作成済みの検量線に適用して、地盤改良体の径の推定値を得る工程である。
具体的には、改良土の酸化カルシウム含有率を、検量線の横軸の目盛りで特定した後、この目盛りに対応する検量線(曲線)上の点を特定し、この点の縦軸の目盛りを読み取って、地盤改良体の径の推定値とする。
【0019】
(B)計算式を用いる方法
計算式を用いる方法は、(a)地盤改良体の改良前の土(原土)の一部を採取し、該採取した原土の酸化カルシウム含有率を測定する原土測定工程と、(b)地盤改良体の土(改良土)の一部を採取し、該採取した改良土の酸化カルシウム含有率を測定する改良土測定工程と、(c)工程(a)で得られた原土の酸化カルシウム含有率と、工程(b)で得られた改良土の酸化カルシウム含有率と、セメント系固化材の既知の酸化カルシウム含有率とに基づいて、地盤改良体の径の推定値を得る推定値決定工程を含むものである。
[工程(a);原土測定工程]
本工程は、原土の一部を採取し、該採取した原土の酸化カルシウム含有率を測定する工程である。
原土の酸化カルシウム含有率の測定方法は、上述の「(A)検量線を用いる方法」中の工程(b)(試料測定工程)における塩酸及び水酸化ナトリウムを用いた中和滴定による測定方法と同様である。
[工程(b);改良土測定工程]
本工程は、改良土の一部を採取し、該採取した改良土の酸化カルシウム含有率を測定する工程である。
改良土の酸化カルシウム含有率の測定方法は、上述の「(A)検量線を用いる方法」中の工程(b)(試料測定工程)における塩酸及び水酸化ナトリウムを用いた中和滴定による測定方法と同様である。
【0020】
[工程(c);推定値決定工程]
本工程は、工程(a)で得られた原土の酸化カルシウム含有率と、工程(b)で得られた改良土の酸化カルシウム含有率と、セメント系固化材の既知の酸化カルシウム含有率とに基づいて、地盤改良体の径の推定値を得る工程である。
セメント系固化材の酸化カルシウム含有率が不明な場合、上述の「(A)検量線を用いる方法」中の工程(b)(試料測定工程)における塩酸及び水酸化ナトリウムを用いた中和滴定による測定方法と同様にして、セメント系固化材の酸化カルシウム含有率を測定し、この測定値を本工程における既知の値として用いる。
本工程において、地盤改良体の径の推定値は、次のように算出することができる。
まず、地盤改良体の酸化カルシウム含有量は、原土の酸化カルシウム含有量と、セメント系固化材を含むスラリーの酸化カルシウム含有量の和に等しく、次の式で表される。
[地盤改良体の酸化カルシウム含有量:M’CaO]=[原土の酸化カルシウム含有量:MsCaO]+[スラリーの酸化カルシウム含有量:MmCaO
【0021】
この式において、地盤改良体の酸化カルシウム含有含有量(M’CaO)、原土の酸化カルシウム含有量(MsCaO)、及び、スラリーの酸化カルシウム含有量(MmCaO)は、各々、次の式(3)〜(5)で表される。
【数3】

【0022】
前記の式(3)〜(5)から、次の式(6)が導かれる。式(6)によって、地盤改良体の径の推定値(D)を得ることができる。
【数4】

【実施例】
【0023】
[1.高圧噴射撹拌工法の噴射方式]
噴射方式として、一相流方式の高圧噴射撹拌工法を用いた。
浅層部の施工仕様として、噴射圧力20MPaの工法(以下、「J−20工法」ともいう。)及び噴射圧力40MPaの工法(以下、「J−40工法」ともいう。)を採用し、深層部の施工仕様として、噴射圧力40MPaの工法(J−40工法)を採用した。これらの施工仕様の詳細を表1に示す。
【表1】

【0024】
[2.原土及びセメント系固化材の性状]
浅層部の改良領域として、深度が1.5〜4.5mの領域を対象とした。深層部の改良領域として、深度が16.0〜21.0mの領域を対象とした。浅層部及び深層部の各々の原土の性状を表2に示す。
浅層部及び深層部の各々について、表2に示す性状の固化材A、Bを用いた。
【表2】

【0025】
[3.検量線を用いる方法]
(1)浅層部の検量線作成のための滴定分析
表3に示す量の乾燥原土及びセメント系固化材を混合して、試料「A−1」〜「A−4」を調製した。表3中の「固化材の換算添加量」は、地盤改良体1m3中の固化材の質量(kg)を示す。
【表3】

【0026】
試料「A−1」〜「A−4」に対して、6Nの塩酸を過剰量(10.0ミリリットル)加えて、酸性のスラリーを得た後、この酸性のスラリーに2Nの水酸化ナトリウムを徐々に添加して中和滴定し、中和に要した水酸化ナトリウム量を測定した。測定結果を表4に示す。
塩酸及び水酸化ナトリウムの使用量に基づいて、試料(乾燥状態)中の酸化カルシウム含有率(質量%)を算出した。算出方法は、次の式(7)による。算出値を表4に示す。
【数5】

【0027】
また、地盤改良体の径の理論値(想定造成径)を、上述の式(1)によって算出した。算出値を表4に示す。
さらに、表4に示すCaO含有率及び想定造成径に基づいて、図2に示す浅層部の検量線のグラフを作成した。
【表4】

【0028】
(2)深層部の検量線作成のための滴定分析
表5に示す量の乾燥原土及びセメント系固化材を混合して、試料「B−1」〜「B−5」を調製した。表5中の「固化材の換算添加量」は、地盤改良体1m3中の固化材の質量(kg)を示す。
【表5】

【0029】
試料「B−1」〜「B−5」に対して、6Nの塩酸を過剰量(表6参照)加えて、酸性のスラリーを得た後、この酸性のスラリーに2Nの水酸化ナトリウムを徐々に添加して中和滴定し、中和に要した水酸化ナトリウム量を測定した。測定結果を表6に示す。
塩酸及び水酸化ナトリウムの使用量に基づいて、試料(乾燥状態)中の酸化カルシウム含有率(質量%)を算出した。算出方法は、上述の式(7)による。算出値を表6に示す。
また、地盤改良体の径の理論値(想定造成径)を、上述の式(1)によって算出した。算出値を表6に示す。
さらに、表6に示すCaO含有率及び想定造成径に基づいて、図3に示す深層部の検量線のグラフを作成した。
【表6】

【0030】
(3)実施例1
J−20の工法を用いて、浅層部の地盤改良体を造成した後、この地盤改良体の内部からボーリングによって改良土の試料(質量:20.000g)を採取した。この試料に、6Nの塩酸を20.0ミリリットル加えて混合し、酸性のスラリーを得た後、このスラリーに対して、pHが7.0になるまで2Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。中和に要した水酸化ナトリウムの使用量から、試料中の酸化カルシウム含有率(質量%)を算出した。この算出値を図1に示す浅層部用の検量線に適用して、地盤改良体の径の推定値(推定径)を得た。
一方、地表面から3.5mの深さまで掘削して、地盤改良体の径の実測値(実測径)を得た。
(4)実施例2〜7
地盤改良体の浅層・深層の別、工法、及び造成地点を変えて、実施例1と同様に実験した。なお、深層部の実測径は、パイロット孔の削孔及びサウンディングによる測定方法で得た。
以上の結果を表7に示す。表7から、推定径と実測径の差は1〜4cmであり、検量線を用いた造成径の推定方法は、極めて高い精度を有することがわかる。
【0031】
【表7】

【0032】
[4.計算式を用いる方法]
(1)原土及びセメント系固化材の酸化カルシウム含有率の測定
表8に示すように、原土(浅層、深層)及びセメント系固化材(固化材A、固化材B)の各々の試料に対して、6Nの塩酸を過剰量加えて、酸性のスラリーを得た後、この酸性のスラリーに2Nの水酸化ナトリウムを徐々に添加して中和滴定し、中和に要した水酸化ナトリウム量を測定した。測定結果を表8に示す。
塩酸及び水酸化ナトリウムの使用量に基づいて、試料(乾燥状態)中の酸化カルシウム含有率(質量%)を算出した。算出方法は、上述の式(7)による。算出値を表8に示す。
【0033】
【表8】

【0034】
(2)実施例8〜14
実施例1〜7で得られた改良土の酸化カルシウム含有率と、表8に示す原土の酸化カルシウム含有率と、表8に示す固化材の酸化カルシウム含有率とを、上述の式(6)に加入することによって、計算式による地盤改良体の推定径を算出した。算出値を表9に示す。表9から、推定径と実測径の差は1〜6cmであり、計算式を用いた造成径の推定方法は、非常に高い精度を有することがわかる。
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】地盤改良体の酸化カルシウム含有率と、地盤改良体の想定造成径の関係を概念的に示すグラフである。
【図2】地盤改良体の酸化カルシウム含有率と、地盤改良体の浅層部の想定造成径の関係を示すグラフである。
【図3】地盤改良体の酸化カルシウム含有率と、地盤改良体の深層部の想定造成径の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧噴射撹拌工法によって、酸化カルシウムを主成分とするセメント系固化材を含むスラリーを地中に噴射し、水平方向の断面が略円形である円柱状の地盤改良体を形成する地盤改良工事において、上記地盤改良体の径を推定する方法であって、
上記地盤改良体の酸化カルシウム含有率が大きいほど、上記地盤改良体の径が小さいという関係を利用して、上記地盤改良体の酸化カルシウム含有率の測定値に基づいて、上記地盤改良体の径を推定することを特徴とする地盤改良体の径の推定方法。
【請求項2】
上記地盤改良体の改良前の土の一部を採取し、該採取した土と上記セメント系固化材を、少なくとも3つの異なる配合割合で混合して、少なくとも3種の検量線作成用試料を調製する試料調製工程と、
上記少なくとも3種の検量線作成用試料の各々について、酸化カルシウム含有率を測定する試料測定工程と、
上記試料測定工程で得られた酸化カルシウム含有率と、上記少なくとも3種の検量線作成用試料の各々について算出した地盤改良体の径の理論値との関係曲線である検量線を作成する検量線作成工程と、
上記地盤改良体の土の一部を採取し、該採取した土の酸化カルシウム含有率を測定する改良土測定工程と、
上記改良土測定工程で得られた酸化カルシウム含有率を、上記検量線に適用して、上記地盤改良体の径の推定値を得る推定値決定工程を含む請求項1に記載の地盤改良体の径の推定方法。
【請求項3】
上記地盤改良体の改良前の土の一部を採取し、該採取した土の酸化カルシウム含有率を測定する原土測定工程と、
上記地盤改良体の土の一部を採取し、該採取した土の酸化カルシウム含有率を測定する改良土測定工程と、
上記原土測定工程で得られた酸化カルシウム含有率と、上記改良土測定工程で得られた酸化カルシウム含有率と、上記セメント系固化材の既知の酸化カルシウム含有率とに基づいて、上記地盤改良体の径の推定値を得る推定値決定工程を含む請求項1に記載の地盤改良体の径の推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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