説明

地盤改良装置及び地盤改良工法

【課題】地盤改良用の井戸管について井戸管の吐出口ごとに地盤改良流体の吐出制御を行って効果的で且つ効率的な汚染地盤の浄化処理を実現する。
【解決手段】吐出管19には地盤改良流体の吐出口24が形成されており、吐出口24の上流側と下流側にパッカー装置22を備える。パッカー装置22は地盤内供給管21の外部通路26を閉塞したり開放したりして吐出口24からの地盤改良流体の吐出を制御できる。この場合でも地盤内供給管21の内部通路25を介して、下流側の吐出管19へ地盤改良流体を送ることができ、上記と同様に吐出口24からの吐出制御を行える。よって井戸管の長手方向で吐出口24ごとに独立した吐出制御が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地盤汚染の浄化処理に使用する地盤改良装置及び地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
企業の社会的責任(CSR)として環境保全が要請される今日、とりわけ工場跡地における土壌汚染や地下水汚染などの地盤汚染への対策が注目されている。過去に工場から地盤に流出した有害物質、例えば洗浄剤として多用されてきたトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの揮発性有機化合物は土壌に残存し、土壌を通じて地下水系へ浸透し、現在では跡地の再利用を阻害する深刻なリスク要因となっている。
【0003】
揮発性有機化合物により汚染された土壌や地下水の浄化方法の一つにエアスパージング法が知られている。エアスパージング法は地盤に敷設した井戸管を通じて地盤改良流体としての空気を吐出し、それを土壌や地下水に存在する揮発性有機化合物と接触させることによって気化させ、これを吸引して回収した後、無害化処理を施すという浄化処理を行うものである。
【0004】
このようなエアスパージング法では井戸管を敷設する技術上の制約から、地盤に鉛直方向に建て込んで構築する縦井戸が利用されてきた(特許文献1)。しかしながらそのような技術上の制約は地盤面から掘削ロッドを斜めに貫入し、直線掘削及び曲線掘削によって任意方向への掘削制御が可能な誘導ボーリング技術の活用によって解消され、平面的な積層構造を持つ地盤の面方向へ広がる汚染領域に沿って横方向に敷設した水平井戸による浄化処理法が開発されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8−173947号公報
【特許文献2】特開2002−239524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水平井戸による浄化処理は、面方向への広がりを持つ汚染領域を技術的にも経済的も効果的に浄化できることに優れた特徴がある。つまり従来の縦井戸の場合と比べて汚染領域に敷設する井戸管の本数を大幅に削減可能であるためコストメリットがあり、また技術的にも水平井戸は地盤内で水平方向への広がりがある汚染領域の浄化に本来的に適合するものであるということができる。しかしながらこれらの多くの利点を有する従来の水平井戸の浄化処理にも地盤改良流体としての空気の「吐出制御」については次のような課題がある。
【0006】
すなわち水平井戸には空気を汚染領域に吐出するための吐出口がその長手方向に沿って設けられるのが一般的である。ところが地上から地盤内へ圧送する空気の流れ方向の上流側ではより多くの空気が汚染領域に吐出されるのに対し、下流側に行くにしたがって圧損等の影響により空気の吐出量が相対的に低下することがあり、水平井戸の長手方向で均等な圧力制御が困難である。そうすると浄化処理にムラが出来てしまう。
【0007】
しかしだからといって空気の吐出圧力を単純に高めることは得策と言えない。つまり高圧で吐出される空気によって地盤に割裂が発生し、汚染領域への空気の拡散経路がその割裂付近に固定化されてしまい、結果的には浄化処理にムラが出来てしまうからである。
【0008】
また汚染分布の状況によっては水平井戸の長手方向で汚染濃度が異なる場合がある。この場合には汚染濃度が低いところや浄化不要なところも含めて一様に空気を吐出するよりも、むしろ汚染濃度の高低に応じて吐出にメリハリを付ける方が効果的であり且つ効率的な浄化処理を実現できる。
【0009】
さらに地盤には様々な微生物が存在しており、有害な汚染物質を資化物とする微生物の働きを利用する浄化処理が知られている。この場合、汚染物質の分解処理に有用な微生物の増殖を促進したり分解をより活発化させる目的で、液状の微生物の栄養剤を地盤に吐出することが行われている(栄養剤吐出法)。こうした微生物による浄化処理はそれ自体が単独で、場合によっては前述のエアスパージング法など他の浄化処理法との組合せにより高い効果を発揮できるものの、何れの場合でも液状の栄養剤を効果的に吐出しなければ、現実的な施工コストでの浄化処理を行うことは不可能である。また栄養剤注入法の場合、過剰に栄養剤を吐出してしまうと富栄養化となり却って地盤環境を悪化させてしまうおそれも出てくる。こうした観点からも技術による適切な吐出制御の具体化が求められている。
【0010】
以上のようにエアスパージング法や栄養剤注入法には「吐出制御」という課題が未解決のままであるが、こうした課題はそれらの汚染地盤の浄化処理法に固有の課題ではない。軟弱地盤対策、液状化対策、水銀、鉛、カドミウム、クロム等の無機系物質による地盤汚染対策のように、地盤改良流体としての固化剤を汚染地盤に吐出して固結処理する固結処理法等にも同様に当てはまる共通課題であると言えよう。
【0011】
以上のような従来技術の課題を背景になされたのが本発明である。その目的は地盤改良用の井戸管について空気、栄養剤その他の地盤改良流体の吐出制御を実現することにある。またその吐出制御を出来るだけ簡易な装置構成で実現することにある。
【0012】
さらに吐出制御によって効果的で且つ効率的な汚染地盤の浄化処理方法を実現することにある。そしてその浄化処理方法を水平井戸で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成する本発明は以下のように構成される。
【0014】
本発明は、地盤に対する地盤改良流体の吐出口を長手方向に沿って複数有する井戸構造として設ける地盤改良装置について、管内が内部通路となり、管外が吐出口に通じる外部通路となって地盤改良流体を送るとともにその流れを内部通路と外部通路に分岐する連通部を有する供給管と、連通部と吐出口との間における該供給管の外周面に取付けられ、収縮状態で外部通路を開放して連通部から吐出口に地盤改良流体を供給し、膨張状態で外部通路を閉塞して連通部から吐出口への地盤改良流体の供給を停止するパッカー装置とを備えることを特徴とする地盤改良装置を提供する。
【0015】
この地盤改良装置では、パッカー装置が連通部と吐出口との間における該供給管の外周面に取付けられる。そして収縮状態で外部通路を開放して連通部から吐出口に地盤改良流体を供給し、膨張状態で外部通路を閉塞して連通部から吐出口への地盤改良流体の供給を停止する。したがって吐出口の開放・閉鎖によって吐出口からの地盤改良流体の吐出を制御することができる。また、地盤改良流体の流れにとって障壁となるパッカー装置の膨張ないし収縮の程度を制御することで、幅のある吐出量の制御を行うことができる。そして、パッカー装置により吐出口を閉鎖して連通部から外部通路へ分岐する流れを遮断しても、地盤改良流体は供給管の内部通路を通じてさらに下流側へ送ることができる。よって井戸構造の長手方向における吐出口の位置に拘わらず注入制御が可能である。なお、本発明における地盤改良流体の「流体」には、浄化処理方法に応じて例えば微生物の栄養剤や地盤を固結する固化剤などの「液体」やエアスパージング法における空気のような「気体」が含まれる。
【0016】
前記地盤改良装置は、パッカー装置が吐出口を挟んで両側に取付けた2つのパッカーと、パッカーどうしを連通接続する連通細管とを備えるものとして構成できる。吐出口を挟む2つのパッカーが連通細管で連通されているため、パッカーごとに個別に作動流体の供給系統を用意する必要がなく部材点数を低減でき、装置構成を簡素化することができる。なお、以上及び以下の本発明で、パッカー装置を膨張又は縮小させる作動流体の「流体」は浄化処理工法に応じて気体でも液体でも良い。
【0017】
前記地盤改良装置は、複数のパッカー装置を備えており、パッカー装置ごとに膨張又は縮小させる作動流体を供給する供給細管を備えるものとして構成できる。これによれば、パッカー装置ごとの供給細管を通じて送られてくる作動流体によって、パッカー装置ごとに膨張又は収縮を制御することができる。したがって井戸構造の長手方向で吐出口ごとに吐出制御を行うことができる。
【0018】
前記地盤改良装置は、地盤改良流体の供給方向下流側のパッカー装置の供給細管を、上流側のパッカー装置を取付けた供給管の内部通路に挿通するとともに、連通部から該供給管の外部通路へと導出して該下流側のパッカー装置に接続するものとして構成できる。これによれば、上流側のパッカー装置が膨張して上流側の外部通路が閉塞されても、下流側のパッカー装置の供給細管を、供給管の内部通路を通して接続できる。したがって上流側のパッカーの作動状態に拘わらず、下流側のパッカーを個別に作動させることができる。
【0019】
前記地盤改良装置は、供給管とパッカー装置の外側に前記吐出口を貫通形成した外管を備えるものとして構成できる。これによれば、供給管とパッカー装置を外管によって保護することができる。また供給管とパッカー装置を外管が覆って一体として取り扱うことができるので、円滑に井戸構造としての地盤改良装置を地盤に構築したり撤去することができる。
【0020】
前記地盤改良装置は、吐出口に地盤改良流体が透過する多孔性の吐出口部材を設けるものとして構成できる。例えばエアスパージング法を行う場合、空気が多孔性の吐出口部材を通過することで気泡が微細化し、より広範囲に空気を拡散注入することができるようになって浄化処理を効果的且つ効率的に行うことができる。
【0021】
前記地盤改良装置は、吐出口部材の両端部に細孔を閉塞して地盤改良流体の透過を規制する目詰め部を設けるものとして構成できる。これによれば膨張するパッカー装置で吐出口部材の端部側を押圧して吐出口を閉塞する場合であっても、地盤改良流体が吐出口部材の端部側から外部に漏出することを規制できる。
【0022】
前記地盤改良装置は、吐出口部材の多孔率が吐出口ごとに異なるものとして構成できる。これによれば多孔率の異なる吐出口部材によって吐出口ごとに地盤改良流体の注入量を変えることができる。よって汚染領域における汚染濃度の分布状況に応じた注入制御を実現することができる。
【0023】
また本発明は、地盤に対する地盤改良流体の吐出口を長手方向に沿って複数有する井戸構造により実施する地盤改良工法について、前記吐出口を有する外管の管内に、収縮及び膨張により吐出口へ通じる地盤改良流体の通路を開閉するパッカー装置を吐出口ごとに設けるとともに、各パッカー装置に収縮又は膨張のための作動流体を供給する供給細管を接続し、供給細管ごとに作動流体の供給又は供給停止を行うことで地盤改良流体の注入又は注入停止を吐出口ごとに独立制御することを特徴とする地盤改良工法を提供する。
【0024】
本発明の地盤改良工法によれば、外管の吐出口ごとに設けられた各パッカー装置が、それぞれ接続された供給細管を通じる作動流体によって個別に膨張又は収縮する。したがって井戸構造の長手方向で吐出口ごとに独立した吐出制御を行うことができる。また地盤改良流体の流れにとって障壁となる各パッカー装置の膨張の程度を個別に制御することで、吐出口ごとの吐出量に幅のある制御を行うことができる。
【0025】
以上の各本発明における「井戸構造」は従来技術のように縦井戸として構成することも可能だが、水平井戸として構成することで、面方向への広がりを持つ汚染領域を技術的にも経済的も効果的に浄化処理できる。
【0026】
以上のような本発明の地盤改良装置、地盤改良工法は、より具体的にはエアスパージング法、栄養剤吐出法に適用することができる。また「吐出制御」の実現はそれらに固有の課題ではないことから、「浄化処理」として軟弱地盤対策、液状化対策、水銀、鉛、カドミウム、クロム等の無機系物質による地盤汚染対策のように、対象領域を地盤改良流体としての固化剤の注入により固結処理する固結処理法等を行う場合にも同様に適用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の地盤改良装置、地盤改良工法によれば、地盤改良流体の吐出制御を行えるので、例えば井戸構造の長手方向にわたる均質的な吐出による浄化処理や汚染濃度の高い箇所への局所的な浄化処理など、地盤汚染の状況に応じた浄化処理を実施することができる。よって浄化処理を技術的にも経済的にも効果的且つ効率的に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態の例について図面を参照しつつ説明する。
【0029】
第1実施形態〔図1〜図5〕
地盤改良装置の構成〔図1〜図3〕; 第1実施形態は、本発明の地盤改良装置及び地盤改良工法を、微生物の資化物となる液状の栄養剤を地盤に吐出する栄養剤吐出法に適用する一例である。本実施形態の地盤改良装置1は、図1で全体構成を示すように地上側供給装置Aと地盤内浄化処理装置Bとを備えている。
【0030】
地上側供給装置Aは「地盤改良流体」としての栄養剤の供給装置A1と、後述するパッカーの「作動流体」としての空気の供給装置A2との2つの供給系統を備える。前者には栄養剤を貯める貯留槽2、ポンプ3、流量計4、流圧計5、バルブ6及びこれらに通じる地上側供給管7が含まれる。後者には空気を圧送するコンプレッサー8、整圧器9、バルブ10、流圧計11及びこれらに通じる地上側供給細管12a,12b,12cが含まれる。各地上側供給細管12a,12b,12cは、それぞれ個別に流圧計11による圧力管理とバルブ10による空気の供給、供給停止、供給量の調整を図外の制御装置で制御したり管理することができる。なお本実施形態では地上側供給細管12a,12b,12cが3本の例を説明するがその本数は前述の地盤内浄化処理装置Bの構成に応じて変更される。
【0031】
地盤内浄化処理装置Bは、地上側の導入部13と栄養剤を地盤に吐出する吐出部14とを有する「水平井戸」として構成されている。導入部13は地上側の導入管15と、その先端に連結される延長管16とを備えている。これらの導入管15と延長管16は例えば撓み可能な管を利用することができる。
【0032】
導入管15は円筒状であり、その基端のフランジ15aには連結プレート17がボルト・ナットBnで固定される。連結プレート17の中心には地上側供給管7の先端側が挿通されており、これにより導入管15の中に栄養剤が送り込まれる。この地上側供給管7の外側には、導入用細管17aが円周上に配置した任意の取付孔17bに挿通させて取付けられる。なお不使用の取付孔17bには図外の封止具が取付けられる。導入用細管17aの両端にはコネクタc1が設けてあり、各コネクタc1は、上流側が地上側供給細管12a,12b,12cのコネクタc2と接続される。下流側は例えばゴムチューブでなる地盤内供給細管18a,18b,18cのコネクタc3と連結される。
【0033】
延長管16の内部には導入管15と同様に、例えばゴムチューブでなる地盤内供給細管18a,18b,18cが設けられており、その上流側のコネクタc3は導入管15の管内の地盤内供給細管18a,18b,18cの下流側のコネクタc3と連結される。なおこの延長管16と内部の地盤内供給細管18a,18b,18cは、地盤内浄化処理装置Bの地盤での敷設長に応じて同じ物を連結して任意の長さに延長できる。
【0034】
以上の導入部13の先端には吐出部14が連結される。本実施形態の吐出部14は図3で示す吐出管19を1単位として、それを3単位(吐出管19A,19B,19C)連結したものである。その連結本数は地盤に水平井戸として構築する吐出部14の敷設長に応じて決定される。それぞれの吐出管19(19A,19B,19C)の内部構造は同じであり、図3で示すようにスペーサ20で保持した地盤内供給管21と、地盤内供給管21に取付けたパッカー装置22を備えている。各吐出管19は3本の短管23を相互に連結して構成される。なお短管23の連結本数は地盤内供給管21の長さによって決定される。各短管23にはスリット状の吐出口24が全周に形成されており(図1参照)、ここを通じて地盤に地盤改良流体としての栄養剤が注入される。
【0035】
地盤内供給管21は、前述のスペーサ20によって吐出管19の軸心に沿って保持され、且つスペーサ20が吐出管19に固定されることで軸方向で位置ずれすることなく固定される。したがって導入管15と延長管16の中を通ってきた栄養剤は、地盤内供給管21の管内と管外へと流れる。すなわち地盤内供給管21はその管内が栄養剤を送る内部通路25となっており、管外は栄養剤を送る外部通路26となっている。また、地盤内供給管21の長さは吐出管19よりも短く、吐出管19の管内で固定されている。このため吐出管19どうしを連結すると、地盤内供給管21の対向端部間には「連通部」としての隙間dが形成される(図5参照)。したがって上流側の吐出管19の内部通路25と外部通路26とを流れてくる栄養剤は、隙間dで一旦合流してから下流側の吐出管19においてもその内部通路25と外部通路26へと流れていくことになる。
【0036】
パッカー装置22は上流側パッカー27と下流側パッカー28とを備えている。それらは何れも地盤内供給管21の外周を包囲する筒状のゴム状弾性体が使用されている。各パッカー27,28の両端部は、円環状の固定バンド29で締め付けて固定され、円環状のシール部30により地盤内供給管21の外周に対して液密に密着して固着されている。そして上流側パッカー27にはシール部30を通じて外部に接続細管31が延在している。その先端のコネクタc4は、前述の導入部13の中に通したの3本の地盤内供給細管18a,18b,18cのうちの、例えば地盤内供給細管18aのコネクタc3と連結される。また上流側パッカー27と下流側パッカー28とは連通細管32によって相互に連通接続されている。したがって接続細管31により送られてくる「作動流体」としての空気は、上流側パッカー27、連通細管32、下流側パッカー28の順に流れていく。これにより上流側パッカー27と下流側パッカー28について個別に空気の供給系統を設ける必要がなく、1本の供給系統で2つのパッカー27,28を略同時に作動させることができる。
【0037】
以上のようなパッカー装置22は、図1で示す最上流の吐出管19A、中間の吐出管19B、最下流の吐出管19Cそれぞれに設けられる。各パッカー装置22への空気の供給系統は次のとおりである(図5参照)。
前述のように最上流の吐出管19Aのパッカー装置22は、例えば延長管16の中にある地盤内供給細管18aと直接連結される。
吐出管19Bのパッカー装置22は、延長管16の中にある地盤内供給細管18bと連結されるが、吐出管19Aが介在するため直接連結できない。そこで吐出管19Aの管内の地盤内供給管21には、延長管16の管内にあるものと同じ地盤内供給細管18bが延長用として挿通される。そしてこの地盤内供給細管18bの上流側のコネクタc3が延長管16の地盤内供給細管18bのコネクタc3と接続され、また下流側のコネクタc3が吐出管19Aと吐出管19Bとの隙間dを通って吐出管19Bのパッカー装置22の接続細管31のコネクタc4と接続される。これにより吐出管19Bのパッカー装置22への空気の供給系統が形成される。
最下流の吐出管19Cのパッカー装置22は、延長管16の管内の地盤内供給細管18cと連結されるが、吐出管19Aと吐出管Bとが介在していて直接連結できない。そこで中間の吐出管19Bの場合と同様にして、吐出管19Aと吐出管19Bの地盤内供給管21の管内に、延長用の地盤内供給細管18cが各々挿通されるとともに、その上流側のコネクタc3が延長管16の地盤内供給細管18bのコネクタc3と接続され、下流側のコネクタc3が吐出管19Bと吐出管19Cとの隙間dを通って吐出管19Cのパッカー装置22のコネクタc4と接続される。これにより吐出管19Cのパッカー装置22への空気の供給系統が形成される。
【0038】
地盤改良装置1の構築手順〔図4〕; 次に地盤改良装置1、特に地盤内浄化処理装置B(導入部13、吐出部14)を図1のように構築する手順の一例を説明する。
【0039】
ボーリングマシン33と掘削ロッド34を使って地盤を削孔する(図4(a))。ボーリングマシン33で掘削ロッド34を連続回転させつつ片押し推進させると、掘削ロッド34の先端部の土圧受け面34aの回転角が固定されず特定方向からの土圧を受けずに直線掘削する。連続回転を停止して土圧受け面34aが特定方向からの土圧を受けるようにすると、土圧受け面34aの傾斜方向の延長上に掘進方向が変わって曲線掘削する。削孔35はこれらの組合せで形成される。なお掘削ロッド34の掘進位置は内蔵するゾンデ34b(図4(b))が発信する信号を地上のロケータで受信して把握できる。次に掘削ロッド34のアウタロッド34cを残してインナロッド34dだけを地上側へ引き戻して回収する(図4(b))。そして空洞となったアウタロッド34cの内部に地上側から注入部14と導入部13を挿入する(図4(c))。最後にアウタロッド34cを引き戻して回収するとともに(図4(d))、地上側で地盤改良流体用供給装置A1と作動流体用供給装置A2とを導入部13に対して連結する。これにより図1で示す全体構造の地盤改良装置1が構成される。
【0040】
地盤改良装置1による吐出制御及び地盤改良工法〔図5〕; 以上のようにして構築された地盤改良装置1による吐出制御と地盤改良工法は次のようにして行われる。
【0041】
図5(a)は全ての吐出口24を開放して地盤に栄養剤を吐出する動作状態を示している。この場合、地上にある地盤改良流体用供給装置A1から送られてくる栄養剤は、地上側供給管7、導入管15、延長管16を通って吐出管19Aの内部通路25と外部通路26とに流れ込み、外部通路26に流れた栄養剤は吐出口24から地盤へと吐出される。これと同様に吐出管19B,19Cでも外部通路26を流れる栄養剤が吐出口24から地盤へと吐出される。こうして吐出部14の全長に亘って汚染地盤に対して各吐出口24から栄養剤を吐出し、地盤改良を行うことができる。
【0042】
図5(b)は吐出管19Aだけ吐出停止する際の動作状態を示している。例えば吐出管19Aの周辺の浄化処理が相当進んだため栄養剤の吐出を止める場合などである。このためには、作動流体用供給装置A2から地上側供給細管12aを通じて地盤内供給細管18aだけに空気を送って吐出管19Aの上流側パッカー27と下流側パッカー28を膨張させる。こうして吐出管19Aの外部通路26が閉塞されて、吐出口24から汚染地盤への栄養剤の吐出が遮断される。ただし地盤内供給管21の内部通路25は開放されているので、栄養剤はそこを通って吐出管19Bへ、そして吐出管19Cに到達し、それらの各吐出口24から汚染地盤へと吐出されることとなる。
【0043】
図5(c)は図5(b)の吐出制御からさらに吐出管19Cについても栄養剤の吐出を停止する場合の動作状態である。このためには、作動流体用供給装置A2から地盤内供給細管18cにも空気を送って吐出管19Cの上流側パッカー27と下流側パッカー28を膨張させる。こうして吐出管19Cの外部通路26が閉塞されて、吐出口24からの栄養剤の注入が遮断される。なお吐出管19Cの先端は蓋36によって閉塞されているので、そこから地盤に栄養剤が吐出されることはない。こうして吐出管19Bの吐出口24だけからの吐出制御を行うことができる。
【0044】
本実施形態の作用・効果; 本実施形態の地盤改良装置1、地盤改良工法によれば以下のような作用・効果を実現できる。
【0045】
前述のように吐出管19ごとにパッカー装置22を膨張・縮小させることができる。このため各吐出管19ごとに栄養剤の吐出又は吐出停止を独立制御することができる。したがって例えば汚染濃度の高い箇所への局所的な浄化処理など、地盤汚染の状況に応じた浄化処理を実施することができることから、浄化処理を技術的にも経済的にも効果的且つ効率的に行うことが可能である。
【0046】
各吐出管19の内部には地盤内供給管21によって空気の内部通路25と外部通路26が形成される。このため上流側のパッカー装置22により外部通路26を閉塞しても、内部通路25を通じて下流側へ栄養剤を送ることができる。したがってどのパッカー装置22を膨張させても、何ら制約無く他の吐出口24から栄養剤を注入することができる。
【0047】
各パッカー装置22では上流側パッカー27と下流側パッカー28が連通細管32を介して連通している。このため上流側パッカー27についてだけ空気の供給系統を設ければよく、下流側パッカー28については不要である。したがって空気の供給系統を簡素化することができる。
【0048】
下流側にある吐出管19B,19Cのパッカー装置22の接続細管31に接続する延長用の地盤内供給細管18b,18cは、上流側の吐出管19A,19Bの地盤内供給管21の管外(外部通路26)ではなく管内(内部通路25)を通している。このため上流側のパッカー装置22を作動させてパッカー27,28を膨張させても、延長用の地盤内供給細管18b,18cが潰れてしまうようなことはない。つまり地盤内供給管21は栄養剤の通路として機能するだけでなく、下流側のパッカー装置22の地盤内供給細管18b,18cの挿通路としても兼用することができる。
【0049】
各吐出管19については同一の標準化した短管23を連結して構成している。このため吐出部14の長手方向で隣り合う吐出口24どうしの間隔が同じである。したがって吐出部14の長手方向に沿って偏り無く栄養剤の吐出を行うことができる。
【0050】
ボーリングマシン33と掘削ロッド34によって方向制御可能な誘導掘削が行えるため、図示の形態だけでなく多様な井戸を構築することができる。また地盤を開削しないので地表に稼働中の工場などの障害物があっても井戸を構築することができる。
【0051】
なお、第1実施形態では地盤改良流体として栄養剤を利用する栄養剤吐出法を例示したが、これをエアスパージング法に変更することも可能である。そのためには地上側供給装置Aの地盤改良流体用の供給装置A1の構成として貯留槽2、ポンプ3に代えてコンプレッサーと整圧器を用いればよい。また第1実施形態では「作動流体」として気体である空気を利用したが、例えば水などの液体を利用する場合には作動流体用供給装置A2の構成としてコンプレッサー8、整圧器9に代えて液体の貯留槽とポンプを用いればよい。
【0052】
第2実施形態〔図6,図7〕; 第2実施形態は第1実施形態の一部を変更した変形例である。すなわち各吐出口24に「多孔性の吐出口部材」としての円筒形状のポーラスストーン37を取付けたものである。そしてこのポーラスストーン37を効果的に利用するために、各吐出管19の短管23には大きな窓孔23aを形成している。また、本実施形態ではエアスパージング法により浄化処理を行う。したがって地上側供給装置Aの地盤改良流体用の供給装置A1は、貯留槽2、ポンプ3に代えてコンプレッサーと整圧器が用いられる。残余の構成及び作用・効果は第1実施形態と同一である。
【0053】
ポーラスストーン37は多孔質のセラミック材であり地盤に吐出する空気を微細化することができる部材である。したがってエアスパージング法を行う場合、空気が多孔性のポーラスストーン37を通過することでより広範囲に微細化した空気を拡散吐出することができ、浄化処理を効果的且つ効率的に行うことができる。
【0054】
ただしパッカー装置22を膨張させてポーラスストーン37を内側から押圧した場合、上流側パッカー27と下流側パッカー28をポーラスストーン37の両端部の端面形状に追従させることは困難である。このためポーラスストーン37の両端部には細孔を閉塞する目詰め部(図示略)を形成している。したがって上流側パッカー27と下流側パッカー28を膨張させてもポーラスストーン37の両端部から外部に空気が漏出することを防ぐことができる。
【0055】
またポーラスストーン37を各吐出口24に取付ける本実施形態では、多孔率が異なるポーラスストーン37を利用することができる。ここで多孔率とは物質中の細孔のみの全容積と、細孔を含めた全容積との比を百分率で示すものである。例えば上流側の吐出口24に取付けるポーラスストーン37よりも下流側の吐出口24に取付けるポーラスストーン37の多孔率を高くすることで、特に圧損の影響により吐出量が低下し易い下流側での吐出量の低下を抑えたり、逆に下流側の吐出口24に取付けるポーラスストーン37よりも上流側の吐出口24に取付けるポーラスストーン37の多孔率を低くすることで、上流側の吐出量を意図的に低く設定したりすることができる。また地盤の汚染濃度の分布状況に応じて個別に吐出量を設定することもできる。
【0056】
第3実施形態〔図8〕; 第3実施形態もまた第1実施形態の一部を変更した変形例である。すなわち第1実施形態では隣り合う地盤内供給管21どうしの間に「連通部」としての隙間dを設ける例を説明したが、この実施形態では隣り合う地盤内供給管21どうしを連結する連結管38を設けたものである。残余の構成及び作用・効果は第1実施形態と同一である。
【0057】
連結管38にも「連通部」としての窓孔38aを設けてある。したがってこの窓孔38aで栄養剤の流れを分岐させて地盤内供給管21の内部通路25と外部通路26とに栄養剤を供給することができる。また地盤内供給細管18a,18b,18cごとのパッカー装置22の接続細管31への連結もこの窓孔38aを通じて行うことができる。
【0058】
第1実施形態では地盤内供給管21が一連に連続していないため、それらを固定する吐出管19が必要である。しかしながら本実施形態では隣り合う地盤内供給管21が連結管38によって一連に繋がる構造となる。したがって例えば吐出管19A,19B,19Cを使わないで、一連に繋がる地盤内供給管21と連結管38を削孔35に直接敷設することも可能である(もちろん使っても良い)。この場合、パッカー装置22の上流側パッカー27と下流側パッカー28とを膨張させると、地盤内供給管21の外周と削孔35の孔壁との間に形成される「外部通路」のうち、膨張した上流側パッカー27と下流側パッカー28との間の部分が閉塞される。削孔35における連結管38の外側部分が「吐出口」となって地盤に対して栄養剤を吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1実施形態の地盤改良装置の全体構造を示す説明図。
【図2】図1の地盤改良装置の地盤への導入部の説明図で、分図(a)は導入管の内部構造断面図、分図(b)は延長管の内部構造断面図。
【図3】図1の吐出管の内部構造を示す断面図。
【図4】図1の導入部及び吐出部の地盤への敷設工程を示す説明図。
【図5】図1の吐出部の動作説明図。
【図6】第2実施形態の吐出管の内部構造断面図。
【図7】図6の吐出管の短管の構造説明図。
【図8】第3実施形態の吐出部の説明図。
【符号の説明】
【0060】
A 地上側供給装置
A1 地盤改良流体用供給装置
A2 作動流体用供給装置
B 地盤内浄化処理装置
1 地盤改良装置
2 貯留槽
3 ポンプ
4 流量計
5 流圧計
6 バルブ
7 地上側供給管
8 コンプレッサー
9 整圧器
10 バルブ
11 流圧計
12a,12b,12c 地上側供給細管
13 導入部
14 吐出部
15 導入管
15a フランジ
16 延長管
17 連結プレート
17a 導入用細管
17b 取付孔
18a,18b,18c 地盤内供給細管(供給細管)
19(19A,19B,19C) 吐出管(外管)
20 スペーサ
21 地盤内供給管(供給管)
22 パッカー装置
23 短管
23a 窓孔
24 吐出口
25 内部通路
26 外部通路(通路)
27 上流側パッカー(パッカー)
28 下流側パッカー(パッカー)
29 固定バンド
30 シール部
31 接続細管(供給細管)
32 連通細管
33 ボーリングマシン
34 掘削ロッド
34a 土圧受け面
34b ゾンデ
34c アウタロッド
34d インナロッド
35 削孔
36 蓋
37 ポーラスストーン(多孔性の吐出口部材)
38 連結管
38a 窓孔(連通部)
Bn ボルト・ナット
c1,c2,c3,c4 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に対する地盤改良流体の吐出口を長手方向に沿って複数有する井戸構造として設ける地盤改良装置において、
管内が内部通路となり、管外が吐出口に通じる外部通路となって地盤改良流体を送るとともにその流れを内部通路と外部通路に分岐する連通部を有する供給管と、
連通部と吐出口との間における該供給管の外周面に取付けられ、収縮状態で外部通路を開放して連通部から吐出口に地盤改良流体を供給し、膨張状態で外部通路を閉塞して連通部から吐出口への地盤改良流体の供給を停止するパッカー装置とを備えることを特徴とする地盤改良装置。
【請求項2】
パッカー装置が吐出口を挟んで両側に取付けた2つのパッカーと、パッカーどうしを連通接続する連通細管とを備える請求項1記載の地盤改良装置。
【請求項3】
複数のパッカー装置を備えており、パッカー装置ごとに膨張又は縮小させる作動流体を供給する供給細管を備える請求項1又は請求項2記載の地盤改良装置。
【請求項4】
地盤改良流体の供給方向下流側のパッカー装置の供給細管を、上流側のパッカー装置を取付けた供給管の内部通路に挿通するとともに、連通部から該供給管の外部通路へと導出して該下流側のパッカー装置に接続する請求項3記載の地盤改良装置。
【請求項5】
供給管とパッカー装置の外側に前記吐出口を貫通形成した外管を備える請求項1〜請求項4何れか1項記載の地盤改良装置。
【請求項6】
前記吐出口に地盤改良流体が透過する多孔性の吐出口部材を設ける請求項1〜請求項5何れか1項記載の地盤改良装置。
【請求項7】
吐出口部材の両端部に細孔を閉塞して地盤改良流体の透過を規制する目詰め部を設ける請求項6記載の地盤改良装置。
【請求項8】
吐出口部材の多孔率が吐出口ごとに異なる請求項6又は請求項7記載の地盤改良装置。
【請求項9】
地盤に対する地盤改良流体の吐出口を長手方向に沿って複数有する井戸構造により実施する地盤改良工法において、
前記吐出口を有する外管の管内に、収縮及び膨張により吐出口へ通じる地盤改良流体の通路を開閉するパッカー装置を吐出口ごとに設けるとともに、各パッカー装置に収縮又は膨張のための作動流体を供給する供給細管を接続し、供給細管ごとに作動流体の供給又は供給停止を行うことで地盤改良流体の注入又は注入停止を吐出口ごとに独立制御することを特徴とする地盤改良工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−29931(P2008−29931A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204459(P2006−204459)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(506136195)株式会社キャプティ (6)
【Fターム(参考)】